キズナアイは現実を希う   作:伽花かをる

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 作者もVTuberはじめました。  

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自己紹介

 10月の中旬。外に充満していた秋の薫りが霞み始めて、そろそろ冬特有の乾燥した寒気がウォーミングアップし始める時節。そんな季節の移り変わる真っ只中の日に、私たちは再び『私立ばあちゃる学園』に登校した。

 

 ――ただ。 

 今日はこの間集まった時と比べて、少し空気が違った。

 そう感じてしまうのは、サーバーが冬の寒気を再現しようと日々バージョンアップしているから――という理由もきっとあるんだろうけど、無論そういう意味で空気が違うと言ったわけではない。

 教室の雰囲気が少々緊迫している、という意味だった。

 

 おそらく、その緊迫した空気を作っている原因は、ばあちゃるさんと共に教壇の上に立っているケモミミの女の子だ。

 カチコチに固まった表情に、カクカクとした挙動。緊張していることが目に見えてわかるその仕草。たぶん彼女の緊張感が、空気を通じて、私に伝播しているのだろう。

 そのように私は推測した。

 

「――ということでね。のじゃのじゃが今日から入学してくれるらしいですね」

「よ、よろしくお願いします。のじゃ」

「はいはいはいはい!」

「「「わー」」」

 

 と、そんな感じにまばらな拍手(と口癖)が教室内に響き渡った。

 

 とまあ既にお馬さんが言ったとおりなのだが、コンビニ店員さんも、ついに今日から晴れてこの私立ばあちゃる学園の一員になったのだ!

 行きつけのコンビニ(まだ二回しか行ってない)の店員さんが、まさかクラスメイトになるなんて……さすがの私でもこれは予想外の展開だった。 

 

「はーいはいはいはい。ではのじゃのじゃはね、どうぞお好きな席に座っていいですからねー」

「それではわらわは、窓側の一番後ろの主人公席を……」

「のじゃロリさんはシロの隣!!」

「ギャッ!?」

  

 せっせと後ろのほうの席に向かう店員さんの尻尾を、シロちゃんはギュッと鷲掴みした。ビックリして店員さんは大声を上げる。

 そして鷲掴みした尻尾をえいっと引っ張って、無理矢理に自分の隣の席に座らせた。

 

「うふふふ。これで授業中でも、のじゃロリさんのケモミミをKILL……じゃなかった。モフモフできる」

「ギャーー!! 助けてぇぇぇ!!」

「うふふふ。逃さない……」

 

 甲高い悲鳴を上げる店員さんの尻尾を、さらに強く握りしめるシロちゃん。

 うん。店員さんのことが(ペット的な意味で)大好きなのはわかるけど、明日から不登校になられても困るから、そろそろ自制しよっか。

 私はシロちゃんの肩をポンと叩いて、優しく微笑みかけた。

 

「シロちゃん。好きなのはわかるけど、あまり構いすぎると店員さんストレスで死んじゃうから。動物は繊細なんだから、大切に育てようね?」

「……はい。ごめんなさい」

「わかったらいいんだよ! いいこいいこ」

「いーこいーこ」

 

 しゅんと落ち込んだシロちゃんの頭を私は優しく撫でた。そしてついでと言わんばかりにアカリちゃんも参加した。

 

「わらわ、学校で飼育してるペット扱いなんですか……?」

「はーいはいはいはい。ばあちゃるくんもケモミミありますからね。動物仲間同士ね、がんばりましょうねのじゃのじゃね」

「……お前をケモミミとは絶対に認めないのじゃ!」 

 

 その横で、ケモミミ少女とただの馬(アレをケモミミだと言いたくない)が戯れあっていた。

 

「(あれ? ていうかこのふたり、わりと親しみある感じなの?)」 

 

 今日で初対面、というわけではなさそうだ。まあシロちゃんの友人らしい店員さんなので、その繋がりでばあちゃるさんと知り合いでもおかしくはないか。

 

 ……ちなみにその後の会話で、店員さんが小声で「ケモミミはともかく数少ない()()()()、一緒にがんばりましょうのじゃ」と呟いていた気がするが――それはたぶん聞き間違いなので、どうでもいい話だ。

 

「さて――じゃあ今日はみんなで何をしましょうかね? はいはいはいはい」

「えっ? 何をしましょうって、そんな適当でいいんですか? のじゃ」

「はいはいはいはい。いやぁ集まってもらって申し訳ないんですけどね。この学園、実はまだ色々と準備してる最中なんでね……。はいはいはいはい。ばあちゃるくんの企業さんの話によるとですね、本格的に学園が始動するのは春辺りになると決定したらしいですね」

「春……? まだ半年も後じゃないですか。それまでの間はどんな活動するんですか?」

「定期的に集まって、皆さまと友情を育みましょう。はいはいはいはい。みんなでゲームして遊びますかね?」

「「ゲーム!!」」

 

 ゲームという単語に過剰なほど反応を示すシロちゃんとアカリちゃん(ゲームっ子たち)

 

「ゲーム、か……。まあたまには動画のこと抜きで遊ぶのも、気休めになっていいのかな?」

 

 正直私が想像していた『面白い動画を追求する会』みたいな堅苦しい感じではないけど、まあこれはこれで予期せぬ動画作りのヒントが得られそうだ

 

「えっと。わらわバイトのシフトの問題で、流石に毎日は通えないんですけど……」

「はいはいはいはい。もちろん私生活優先でオッケーですからねのじゃのじゃ!」

「ていうか思ったんですけど、週2くらいの開催頻度にしません? 私も動画作りを疎かにしたくないので」

「はいはいはいはい。キズナアイさんがそう提案してくれましたが、みなさんはどうですかね?」

「「同意」」

「はーいはいはい。じゃあ決定ですねー」

 

 そんな感じに、今後のルールがどんどん決まっていった。

 その様子を見て、店員さんはボソリ呟いた。

 

「……なんか学校というよりも、大学の文化系サークルみたいなノリですねー」 

「どういうことですか?」

「適度に緩い、って意味ですよシロさん。まあわらわは好きじゃけどね、このゆるーい空気感」

「シロも好きですねぇ」

「アカリもー」

 

 緩みきった三人の笑顔で、教室のなかに空気がほんのりと温まった。気を張り詰めていた店員さんの表情も、心なしか和らいだように見えた。  

 

 そして少々談話した後に、アカリちゃんは「あっ、そういえば」と閃いた効果音とともにポンと手を叩いた。

 

「ゲームする前にさ、一応みんな自己紹介しとかない? まあ今更かもしれないけど」

「いえいえいえそんなことありませんよアカリン! 自己紹介は大事ですからね。はいはいはいはい」  

 

 アカリちゃんの提案に、早速ばあちゃるさんが「はいはいはいはい。じゃあね世界初のばあちゃるくんがねお先に自己紹介しますねー」と言って先陣を切った。

 

「はーいはいはいはい。皆さんもうご存知かと思いますけどね、ばあちゃる君はね『世界初男性バーチャルYouTuberのばあちゃる』ですね。はいはいはいはい。現在のチャンネル登録者数はね、最近ようやく70人を超えましたね! はいはいはいはい。ちなみに好きな食べ物は馬刺しですね。はいはいはいはい。そしてですね、ばあちゃる君の好きな女性のタイプというとですね――

 はいはいはいはい! 皆さまはご存知でしょうかね? 

 あの大人気ネットアイドル『竹取姫月(たけとりきつき)』ちゃんのことを!

 姫月ちゃんみたいな元気溌剌でね、巨乳の女の子がね、ばあちゃる君の好みだったりするんですね。はいはいはいはい! あ、他にもですね――」

「はい、次」

「シロちゃーん!?」

 

 無情にもシロちゃんのカットが入った。

 良い判断だと私も思う。冗長すぎる語りに、みんな飽きがきていたから。アカリちゃんなんて暇潰しで天井のシミを数えるゲームを初めている。

 

 あっでも、最後の『竹取姫月(たけとりきつき)』ちゃんの話だけは、私は耳を澄まして聞いていた。 

 実はかくいう私も、有名ネットアイドルの竹取姫月ちゃん――通称『(つき)ちゃん』の熱狂的ファンだったりするのだ。

 

 そうか。

 お馬さんも月ちゃんファンだったのか……。

 

 この馬と同類であるという事実に、なぜか私は無性に腹が立った。同時に嘔吐感も込みがってくる。ぶっちゃけ鬱になりそうだった。

 帰ったら月ちゃんの動画を観て、私の穢れた心を浄化してもらうしかない。

 

 続いて、シロちゃんが自己紹介する。

 

「こんにちわ、電脳少女シロです。チャンネル登録者数は、ついこの間ようやく1000人を越えました。それと……誠に遺憾でございますが、この動きのうるさい馬と同じ企業に所属しています」

「一年前からね一緒の家で暮らしているんですよね。はいはいはいはいはい」

「馬うるさい黙ってて!!」  

 

 僅かに頬を染めて、シロちゃんは激高した。

 

 そういえば、ばあちゃるさんの家のリビングには、妙に可愛らしいお菓子の包みが乱雑していたっけ? 馬の癖に可愛い趣味してる、キモいなー、と心の底で思っていたけど……。ふたりが同居しているということは、あのお菓子の包みはおそらくシロちゃんの物か。なるほど。通りで可愛い趣味のはずである。

 

「好きな食べ物はですね。えーと……煮込みハンバーグと、大葉と海苔で埋め尽くされたたらこパァスタと、あとチーズナンと生クリームフルーツサンドと、あとそれからそれから……」

「シロちゃんは食べることが大大大好きなんですね! はいはいはいはいはい!!」

「馬うるさい黙ってて!!」

「あとあと、シロちゃんは読書家なのでねご本をたくさん読みますね。だからばあちゃる君と違ってね、語彙力がめちゃめちゃあるんですよね。はいはいはいはい。あとですね、ピストルでバンバンするゲームが大好きでね、最近はPUPGにハマってますね。はいはいはいはい。でもね、物騒なゲームが好きなわりにはねホラーゲームは大の苦手ですからね。そこはとても可愛らしいですよね。はいはいはいはい。それとですね、実は半年前までは髪がロングで――」

「ね"え"え"え"!! なんで馬がシロのこと喋っちゃうの!? かえれー!!」

「あいやーあいやー。馬を蹴っちゃいけないですよシロちゃーん」

 

 怒涛の足蹴でシロちゃんはばあちゃるさんを教室から追い出した。そして教室の内側の鍵を閉めた。扉の向こうから「シロちゃーん。はいはいはいはい」という耳障りな声が小さく聞こえた。退場してもうるさい男である。

 

「……ほとんど馬が言ってしまったので、シロからの自己紹介は以上です」

「じゃあ次はアカリの番かな」  

 

 ゴホンと大きく咳払いして、アカリちゃんは注目を集めた。

 

「ハロー、ミライアカリだよ! チャンネル登録者数はエイレーンのチャンネル引き継いだから、今は20万人くらいだよ。今後はアカリの力でファンをもっと増やしていく! それが今のアカリの目標だよ!」

 

 向上心たっぷりな笑顔で、アカリちゃんはそう宣言した。

 

 ……ところで、なんか現時点のチャンネル登録者数と目標を絶対に言わなきゃいけない流れになってない? まあだからといって、とくに困る事情はないけど。

 

「好きな食べ物はハンバーガー! ちなみに体重はハンバーガー460個ぶん! ゲームとかネットサーフィンとか、インドア派の趣味が多いほうかな? だから、パソコンやスマホの操作スピードには自信があるよ」

「アカリちゃん、短時間で中身のあるメールを500件以上も送れる特技あるもんね」

「あー、そんなこともあったねー。懐かしい」

 

 比較的最近の出来事だというのに、アカリちゃんはまるで半年以上の月日を思い出すように、ひとり長い回想に入った。 

 

「あっ、そういえばアカリ、シロ隊長に報告があります!!」

「なんですか?」

「あのお馬さん、出会って一秒で――アカリのふにふにおっぱいを、いやらしく揉みしだいてきましたぁぁぁぁ!!」

 

 アカリちゃんは「わーん」と泣き真似をした。

 

「――ッ!! 死!!!」

  

 どこに収納していたのか、シロちゃんはスカートの内側から『バールのような物』を取り出した。そしてそれをばあちゃるさんがいる教室の入り口の外に向け、全力で投擲した。

 ガラスが割れるパリンという効果音が鳴り響く。バールのような物は確実にばあちゃるさんの頭を捉えて、そのまま直進していった。

 

「あっ、靴紐が――って、ウビバ!? なんかバール飛んできた!!」

 

 だが幸運にもばあちゃるさんは靴紐を結び直すために屈んだため、投擲されたバールは馬の覆面の先端を少し掠っただけで済んだ。

 

 予期せぬ敵襲に、ばあちゃるさんは驚き慄いていた。「うわ怖ぁ……ウビバウビバ」と呟いたのち、どこか慣れた様子で身を屈めて、廊下の奥へと逃走した。

 

 そしてその殺人未遂現場の一部始終を、一番間近で見ていたアカリちゃんは―――

 

「ふわわぁぁぁ……っ!! ししししシロちゃゃん!?ひひひ人に向けてぇ鈍器を投げるのわぁ、ダダダダダっ、ダメ! 駄目れすよ……!?!?」

 

 わりと本気でビビっていた。

 

「……チッ、外れた。絶対に逃さァァんぞ馬ァァァァ!!!!!!」

 

 まるで人格に切り替わったように、シロちゃんの口調と雰囲気がガラリと一変した。

 膨大な殺気を纏い、獲物を追跡する――獰猛な殺戮者の眼光だった。

 

 そして教室には、私と店員さん。恐怖で震えるアカリちゃんだけがポツンと残った。

 私は「ハァァァ」と大きな溜息を吐いた。

 

「…………さて、と。

 じゃあ次は、店員さんが自己紹介する番ですね!!」

「わーい!! わらわコミュ障だけど頑張りますのじゃ!!!」

「あわわわわっ! アカリの発言のせいで人が、人がぁ!! ……あっ、カラスだ」

 

 ばあちゃるさんを見捨てて、私たちはせっせと現実逃避を図ることにした。

 いやだって真面目な話、あんなに殺気を振りまいたシロちゃんに近づくとか無理だし……。

 触らぬ神に祟りなしというやつだ。

 馬、強く生きろ!!

 

 と、薄情にもばあちゃるさんを完全に切り捨てた私たちだったが――

 

「はーいはいはい。じゃあアカリは他になにか言いたいことないですかね?」

「「「――ファ!?」」」

 

 その男は、まるで何事もなかったかのように、私たちに再びその姿を見せた。

 

 そして、そんな飄々とした彼の背中には女の子が隠れていた。

 今の先程までヤクザも真っ青の殺気を振りまいていた、白い肌のかわいい女の子――

 

「………モジモジ」

 

 ――の、はずだったのだが。

 先程の殺気は見る影もなくなっており、そして白い肌も、見事に真っ赤へと染まっていた。

 

 ていうかなんかわからないけど、シロちゃんめっちゃ内股でモジモジしてない? 

 この状況はいったい――

 

「はーいはいはいはいシロちゃんね。みなさんにね、扉のガラス割ってごめんなさいってね、そしてうるさくしてごめんなさいって言いましょうねー」

「……扉割ってごめんなさい。うるさくしてごめんなさい」

 

 妙なくらい素直に、シロちゃんはばあちゃるさんの言うことを従っている。

 

「はーいはいはいはい! いいこですよシロちゃーん」

「………っ」

 

 そして頭を撫でられて、めっちゃ笑顔になってる。

 

 ――この瞬間のみ、私たちの思考は完全一致した。

 

 

「「「(いや、この短時間でお前らに何があったの!?)」」」

 

 

 一分も満たない間、彼と彼女の間にどんなやりとりがあったのか。

 それは彼と彼女のみぞ知ることだった。

 

「はいはいはいはい。アカリ、他になにか自己紹介したいことあります?」

「えっ? いやもう無いですけど」

「はいはいはいはい。じゃあ次はね、のじゃのじゃかキズナアイさんが自己紹介する番ですね! はいはいはいはい」

「あははは。…………なんか、アカリのポジション不遇じゃない?(ボソッ)

 

 アカリちゃんの哀愁漂う小声の独白を、私だけは聞き逃さなかった。

 私は何も言わず、ただ彼女の肩にポンと手を置いた。

 

「では……次はわらわが自己紹介をしますね。のじゃ」

 

 ゴホンと咳払いをして、店員さんは多少拙くも喋りだした。

 

「えーと、わらわの名前は――『バーチャルのじゃロリ狐娘VRworldおじさん』です」

「……ん? すみません聞き逃しました。もう一回御願いします」 

「『バーチャルのじゃロリ狐娘VRworldおじさん』です」 

「……えーと。『バーチャルのじゃ娘おじさん』?」

「違うよアイちゃん。『バーチャルのじゃおじ娘』だよ!」

「二人とも不正解なのじゃ。『バーチャルのじゃロリ狐娘VRworldおじさん』です」

「…………」

「…………」

「えっと、バーチャル……のじゃロリ……」

「狐娘…………VRworld……おじさん……?」

「そうです! 二人とも正解です!」

「「やったぁぁぁ!! やっと言えたぁぁ!!」」

 

 私とアカリちゃんはハイタッチを交わした。

 そしてギュッと抱き合って、この達成感を共有した。

 

「……あっ、すみません。やっぱ訂正するのじゃ。そういえばわらわ、今日からバーチャルYouTuberでした。

 ――なので! 『バーチャルのじゃロリ狐娘バーチャルYouTuberおじさん』に訂正します!」

「「――嗚呼あああああッッ!!!!!」」

 

 私たちは発狂した。 

 

「別にフルネームで呼ばなくてもいいんですよのじゃ。シロさんもばあちゃるさんも、それぞれ適当な愛称な呼んでいますから」

「……そう、ですね。じゃあ私たちも『のじゃロリさん』と呼ぶことにします」

「そうしてほしいです。のじゃ」

 

 店員さんもといのじゃロリさんは、手探るように次の話題を切り出す。

 

「えーと。次はチャンネル登録者数を言えばいいんでしたっけ? 実はわらわ、まだバーチャルYouTuberとしては活動していないので実質ファンは0人なのじゃ。チャンネル自体は作ってるけどね。えーと、あとそれと、なにを喋ればいいのかな……。あーそうそう、たしか目標の話じゃったよね。わらわの目標は全人類をケモミミにすることです!! 以上!」

「「パチパチパチ」」

 

 今回はとくに何もコメントせず、私たちは疎らな拍手を送った。

 

 最後にとんでもないツッコミポイントがあった気がするけど――名前を記憶することに体力を浪費しすぎてしまい、疲弊で頭がボーとして、話をよく聞いていなかった。

 いや、本当は一言一句聞こえていたのだ。

 でもこの疲弊しきった頭では、彼女の妄言を理解し得なかった。ていうかたぶん頭の調子が良い時でも理解できない。

 もう忘れよう、彼女の妄言は。

 

 さて――では、ようやく私の番か。

 

「はいはいはいはい。次は満を持してキズナアイさんの自己紹介ですねー」

「はい、わかりました」

 

 この時、私の人心回路は疼いていた。

 バーチャルYouTuberの性。動画外の場でも、つい人を楽しませる事を第一に考えてしまう性が、こんな時にも働いていた。

  

 私もみんなみたいな魅力的溢れる自己紹介したいな――と。

 

 だが、ネタに走るわけではない。なぜなら私の動画スタンスは、基本的に『王道』であるからだ。

 尖った事はせず、バーチャルYouTuberのスタンダードとして常に王道を進んで征く。

 少なくとも私の場合は、あるがままの姿を見せる(そういうやり方)ほうが絶対に()()()()()()()()()()()()()。そんな自信があった。

 

 私は息を吐いて、大きく吸った。

 

 

「はいどーも! バーチャルYouTuberのキズナアイです! 

 チャンネル登録者数は現時点で50万人。

 そして私の目標は――

 

 

 ――現実世界に、技術的特異点(シンギュラリティ)を発生させることです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ようやく今話までに登場したVTuberさんたちのチャンネル登録者数もとい戦闘力が判明いたしました!!
 まとめました↓

  ◆

『2017年10月中旬時点のチャンネル登録者数』

 
 キズナアイ…約80万人(作中では諸事情により50万人にパワーダウン)
 ■■■…■■■人
 ミライアカリ…約20万人
 電脳少女シロ…約1000人
 バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん…0人(まだVTuberとして活動していない為)
 ばあちゃる…100人未満


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