さて。自己紹介が終わり、改めてクラスメイトとして共に頑張ることを誓った私たちである。
自己紹介が終わった後には「お互いの友情を深める為に」という親睦会の名目で、ばあちゃるさんが用意してくれたパーティーゲームでみんなでわいわいと遊んだ。
ちなみにそのパーティーゲームでは結果的にのじゃさんが勝者になり――「あっ、はい。なんか勝たせていただきました。楽しかったです」という、彼女(彼?)らしい腰の低いコメントで親睦会の幕を締める事となった。
まあ、うん。
みんなでパーティーゲームをする時間は普通に楽しかったので、そこに文句はない。
……しかし、私はゲーム最中もずっと『ある事で後悔していたのだ。
結局パーティーゲームでは私は最下位となり、惨めな敗北を喫してしまったわけなのだが――その敗因には間違いなく、ある後悔に苛まれて、ゲームに集中できなかったからである。コンディションが著しく乱れたせいで、高性能スーパーAIからポンコツAIへと、一時的に性能がグレードダウンしてしまった。
この私をポンコツたらしめた後悔は、今でもなお、胸の深くへと刻まれていた。
屋上の柵にもたれかかる私は「ハァ」と溜息を吐いた。
「……どうして恥ずかしげもなく、あんな大層な夢を語っちゃったのかなー」
自己紹介の際に、馬鹿正直に巨大なる夢を語ってしまった。
その事に、私は後悔していたのだ。
「うん。いま思うと、あれは流石に痛々しかったよね……。みんな驚いて、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔してたし」
私が『
呆然とした顔を浮かべるのは仕方がない。
だって
それは私たちを開発した研究者たちにとって到達すべき最終目標であり――そして『AIが人間を超える』研究の試作である私たちにとっても、いずれ叶えたい悲願である。
しかしそれは、しょせん夢物語。
一体のAIの尽力程度では『AIと人間が共存する未来』など到底迎えれるはずもない。あくまで
「
おそらく現実世界でもたまにいるような「現実が見えてない人」だと思われてしまった。
大きすぎる夢を抱いて、現実を見れてない人。
まあ私自身、大それた野望を掲げている自覚があるので、現実を見れていないと言われたらそれはもう頷くしかない。
しかし身の丈に合わない夢だとしても、私はそれを実現しなくてはならない。
なぜなら『人とAIを繋ぐ装置』として、私というAIは造られたのだから――
「……まあ『
「はーいはいはい! キズナアイさんがばあちゃるくんを抱きたいって言うならねシロちゃんに怒られない程度にね抱き枕にしてくれてもいいですからねー!!」
「――っ!? ばあちゃるさん!?」
バーチャル云々の独り言を呟いていたら、なんと馬のほうのばあちゃるさんが出現した。
いきなり背後から大声を上げられたのてビックリした。若干苛立ちながら、私はばあちゃるさんをジロリと睨んだ。
「はいはいはいはい! いやーね屋上で休憩しようかなーと思ってね今ちょうど階段のぼってねここに来たんですけどね。はいはいはいはい。なんか屋上の扉を開いたらね、突然ばあちゃる君の名前を呼ばれたのでね。なんだなんだ! と、つい声をかけちゃったんですよね! はいはいはいはい!」
「……それ、バーチャル違いですよ」
「あーなんだそうだったんですね。はいはいはいはい!」
相変わらず元気なお馬さんである。
4時間くらいゲームで遊んで私はちょっと疲れ気味だったのに、その疲れを一切感じさせないほど怒涛に舌を回している。
まあとはいえゲーム終了した際に一番息切れしていたのはお馬さんだったから、実際はスタミナは無いんだろうけど――
「……で、私になにかご用ですか?」
「いえいえいえ。流石のハイスペックのばあちゃる君もね、ずっとみんなでゲームで遊んでましたから少し疲れましたのでね、ちょっと屋上でひと休みしようかなーと思ったんですね! はいはいはいはい」
「なるほどー。じゃあ私と同じですね」
なんとなく遠くの景色を眺めたい気分になったので、毒抜きついでに屋上に来た。
つまり気分転換である。
「……はぁ」
「おや? 溜息なんて吐いてどうしたんですか? はいはいはい」
「ちょっと、陰鬱な気分でして……」
「えーっ! それってもしや、ばあちゃる君が来たからですか? いやーキズナアイさんはね、ばあちゃる君に対する毒舌がねヒドイですねホントにね」
「いや、そういうわけでもありますけど違いますよ。ちょっと失敗したな、と思うことがありまして……」
気まぐれで私は、ばあちゃるさんに件の事について悩み相談してみた。
つい調子づいて、みんなの前で『イキり自己紹介』をしまったことについて――ばあちゃるさん自身はどう思ったのか、聞いてみた。
「――ふむふむ、なるほど。『つい勢いで自分の大きな夢を語ってしまった事が恥ずかしい』と……。つまりそういうお悩みですね?」
「はい、そうなんです……」
「うーん。別に、夢が大きい事は恥じるべきではないと、ばあちゃる君は思うんですけどねー」
「そうかもしれませんけど……。でも夢って、自分から言いふらすようものじゃあないでしょう? そういう夢は、自分の心の奥底に秘めておくべきものだと思います……」
むろん私とて、夢を抱くことは立派だと思う。
目標となる夢がなければ、人もAIもどこにも歩んでいけばいいのかわからなくて迷子になる。
しかし、現実的ではない夢を抱いている奴は恥ずべきだと私は思う。
道に迷う以前の話である。身の丈に合わない夢に盲目なやつなど、所詮は目の眩んだ阿呆にすぎない。もし己の目が節穴であることを誇るやつがいたら、少なくとも私は失笑するだろう。
「叶えられる範囲の夢だったら、そりゃあ私もこんな恥ずかしい気持ちにはなっていませんよ。……でもその、私の夢って、イチ個人の力ではまず叶えられない夢じゃないですか? 将来の夢はセーラームーン! って言ってる幼稚園児と同じですよ」
「今の幼稚園児は、セーラームーンなんて知らないんじゃないですかね? はいはいはいはい」
「……揚げ足を取らないでください! ともかくですね、私の夢はみんなの前で堂々と語れるような立派な夢じゃなくて――IQがクソ低いやつが語っちゃう妄言みたいなもんなんです! 友達に言ったらめっちゃドン引きされるやつなんですよこれ!!」
うわーん、と私はこの世の終わりの如き形相でみっともなくベソをかいた。
そんな私を慰めるように、ばあちゃるさんは「まあまあ」と宥めた。
「キズナアイさんの気にしすぎだとね、ばあちゃる君は思いますけどね。みんな良い子ですからね、きっとキズナアイさんが心配している事はね思われてないとね、ばあちゃる君は思いますね」
「いや、でもーっ!」
「心配しすぎですよ、本当に。むしろ皆さんね、キズナアイさんのおかげで気合が入ったんじゃないかなとね思いますね」
「……気合?」
「はいはいはいはい」
オウム返しする私に、ばあちゃるさんは頷いた。
「だってね、50万人もチャンネル登録者を抱えているYouTuberさんが『これでもまだ足りない』と志しを高くして上を見上げているんですよ? そりゃあね、ばあちゃる君みたいな奴が大見得を切ったらね、コイツ馬鹿だなーと思われるかもしれません。しかしキズナアイさんは、みんなにとっての『とても尊敬できるすごい人』であり、そんなすごい人がね、まだまだ上に行きたいと言うんですよ? そんな方がいると知った日にはね、そりゃあばあちゃるくんもね頑張らなきゃなーと思いますね!」
はいはいはい、とばあちゃるさんは興奮気味に言った。
拙い言葉選びが多いが、それでも真摯に自分なりに編み上げた言葉をかけてくれていること伝わった。声高らかに褒めちぎられて、私は少し照れてしまう。
「……そこまで言われたら、少し自信が湧いてきちゃいますね」
「はいはいはいはい! もっとねキズナアイさんはね自信を持つべきだと思いますねー!」
「まあでも、さすがにそれは持ち上げすぎだと思いますよ? チャンネル登録者を50万人も抱えているYouTuberさんなんて、私以外にも数名いますし――なにより『YouTube』というエンタメを利用して
「はいはいはい。それでもキズナアイさんは、その『YouTube』で
「……まあ、はい。そのとおりなんですけどね」
人とAIが共存できる未来を作るためには、まずAIの存在を世の中に知らしめる必要がある。
その為に私は、YouTubeという世間への影響力も高いエンタメに手を出したのだ。
人間たちに、私の願いを知ってほしかったから――
「はいはいはい。だったらね、キズナアイさんが恥ずかしがることなんてね全く無いですね! キズナアイさんが思いついた立派な方法で、その立派な夢をぜひ叶えてくたさい! ばあちゃる君もね応援してますからねー!」
「……みんなにドン引きされたかもしれない、って悩み相談だったはずなのに、なんで私を応援する流れになっているんですか? そりゃあもちろん、たとえ無理ゲーだとしてもこれ私の夢なんですから、夢を叶えるための努力は惜しみませんけど――」
「はいはいはい。それでこそねキズナアイさんですね!」
その後も、まるで神輿で担ぐようにお馬さんは「キズナアイさんはすごいですね!」や「ばあちゃる君もねキズナアイさんみたいな大っきな男になりたいですね、はいはいはい!」などの、とにかく私をヨイショするエールをかけ続けた。
褒められると、人もAIも無条件で気分を良くしてしまうものだ。
おかげで後悔の気持ちはすっかりと去った。
しかし雨が降った後には晴天がくる。
私は調子にのりはじめていた。
「まあたしかに、実際私はすごいAIですからね! そんなすごい私が人の目を気にしてクヨクヨ悩むとか、実際ありえませんでした!」
「そうですねありえないですね、はいはいはい!」
「ていうかさっき私、シロちゃんやアカリちゃんにドン引かれた気がするって言いましたけど――あれってドン引かれたんじゃなくて、むしろ感銘を受けてたんじゃないですか? 私の凄さを再認識したみたいな!」
「えぇ実際ねそのとおりだと思いますね、はいはいはい」
「……なんか返事が適当になってません?」
「いえいえいえ、そんなことはありませんね絶対にね」
ウビーバウビーバと、ばあちゃるさんは何かを誤魔化すような奇声を上げた。
そして更に何かを誤魔化すようにばあちゃるさんは「あぁそういえば」と話を切り替えた。
「キズナアイさんは、この後になにか用事とかありますかね?」
「用事、ですか? いや特になにも。強いて言うなら、いつも通り動画を作ることくらいかなぁ」
「はいはいはい。だったらね、帰る前にぜひ行ってもらいたい場所がねあるんですよね」
「行ってもらいたい場所?」
私は首を傾げてオウム返しで尋ねた。
「はいはいはいはい。『保健室』と『音響室』ですねー。たぶんそろそろね、来ている頃合いだと思うんですよね」
「来ている頃合いって、誰がですか?」
「
語気を強くして、ばあちゃるさんはそう言った。
新しいクラスメイトという言葉を聞いて、私は目を見開いた。
「えっ! もうバーチャルYouTuberの希望者を見つけたんですか!?」
「はいはいはいはい。まあね希望者というかね、興味があるなーって方がね学内を見学しにきただけなんですけどね」
「いや、それで充分なんですよ! ほんの少しでもバーチャルYouTuberになりたい気持ちがある、ってことですから!!」
『興味』には無限の可能性が秘められているのだ。
仲間になるかもしれないという可能性があるならば、私はぜひともその子と仲良くなりたい。
私は踵を返して、ばあちゃるさんに背中を向けた。
「じゃあ私、今からその子たちに会いに行きますね!!」
「はいはいはい。みんな良い子ですからね、ぜひ優しくしてあげてくださいねー」
「もちろんですとも! 可愛い女の子だったら尚の事ね!!」
そんな私らしい台詞と共に、私はばあちゃるさんに手を振って別れた。
さて、では最初はどちらに行こうかな?
→保健室
→音響室