キズナアイは現実を希う   作:伽花かをる

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 ※三人称視点から一人称視点に変えました(前話も修正済みです)。



学園創立計画

「う、ぐすっ。もう一生あそこから出れないと思ったよぉ……」

「よしよし。もう大丈夫だからね、ミライアカリちゃん」

 

 嗚咽を漏らしていた時よりはだいぶ落ち着いたようだが、ミライアカリちゃんの目はまだ真っ赤に腫れていた。

 ていうか、目の腫れまで再現可能とか。この子のモデルのクオリティー高いな。ミライアカリちゃんをあやしながらも私は瞠目した。

 

「ウビバぁ……いやぁ、ミライアカリさん。事故とはいえ、ばあちゃる君の不手際のせいで怖がらせちゃってほんと申し訳ありませんね」

「ホントですよ! アカリ、あのままドアと生涯を共にするかと思ってたんですよぉぉ!!」

「いやぁでもね。ああいう、『埋まり芸』? と言うんですかね。見てる側からしたら色々と面白い絵面でしたから。ばあちゃる君も動画で同じような芸を試してみましょうかね!」

 

 謝罪しながらも反省の心が全く見えない事を言うばあちゃる。

 面白いと思ったことを動画内で試す姿勢自体は悪くない。だが、彼女本気で睨んでるし止めたほうが身の為では? と私は思った。

 

「……ミライアカリちゃんも来たことですし、そろそろ学校の件について聞きたいのですが」

「あっ、はいはいはい。そうですねキズナアイさん。ばあちゃる君もそろそろ負荷が高くなってきましたし、簡潔に説明を――」

「ちょっと待ってくだしゃい! アカリ、その前に問い詰めたいことがあるんですが!」

 

 ミライアカリちゃんは腫れが収まってきた目を擦りながら、声を大きく言った。

 

「ん? なにかあるの、ミライアカリちゃん」

「あります! 言いたい文句がいっぱいあります。例えば、なんで何度も助けを求めるメール送ったのに、ばあちゃるさん反応してくれなかったの!? とか!」

「う、ウビィ。それはスマホをミュートにしていたからで……」

「もしやアカリ、ばあちゃるさんに騙されてドアにハマったままエロ同人みたいなことされるのでは? とすら思いましたよ。ほんと怖かったんですから!」

「は、はいはいはい。それはほんと申しわけ――」

「まあ、でもそれは寛容な心で許してあげます。そちらも事情があったのはわかりますし……。それに、ですね。アカリだって身動きとれなくされただけなら、こんなに怒らないんです! だから怒ってるのは、実際に手出しされたから怒ってるんですよ!」

「う、ウビバッ!?」  

「この淫馬!」

「淫ビバッ!?」

 

 ばあちゃるさんは目を見開き驚いていた。馬の被り物をしているので実際にその姿を見たわけではないけど、多分その中の顔はそうなっているのだろう。

 

「ばあちゃる君、別に変なことはしてませんよ?」

「じゃあ誰がアカリの胸を触ったんですかぁ!? あ、キズナアイさんなら無問題ですけど!」

「む、胸ぇ……あっ」

 

 心当たりがあったのだろう。ばあちゃるさんは、短くそう言ったのちに、慌てて身体を大きく動かした。

 

「いやいやいやいやミライアカリさん!? ばあちゃる君、確かに何か柔らかい物に触った覚えはありますけどね、別にセクハラ目的で触ったわけじゃないですからね! あれはその、勇敢にサイバーゴーストと立ち向かった結果で――」

「死ねぇ!!」

「ウビバッ!?」

 

 言い訳をするばあちゃるさんに、ミライアカリちゃんは怒りの鉄拳を下した。

 腹部に良いパンチが入った。何という華麗なストレートだ。武道に疎い私ですら惚れ惚れする手裁きだった。電脳空手の経験者なのだろうか?

 

「ふしゅー!」 

 

 と思っていた矢先、ミライアカリちゃんは倒れ込むばあちゃるさんに追撃を与えるべく、力強く踏み躙ろうとする――

 

「ストップストップ! それ以上やったらばあちゃるさん異界送りにされるから!」

 

 馬の被り物に鉛の如き重圧の踏み付けが加わろうとするとき、私はミライアカリちゃんの後ろをとって羽交い締めにした。

 当然の怒りとはいえ、それ以上やれば電脳的な生命体であるAIとて死んでしまう。まあ電脳世界の死は、現実世界における死の概念とは少し違うので、AIたちはよくそれを『異界送り』と呼称するのだけど。

 

「ふしゅー! ……ハッ! 怒りで我を忘れてつい!」

 

 六秒ほど経った頃にミライアカリちゃんは冷静を取り戻した。怒りのピークは六秒だと言うが、それは『人心回路』が導入されている私達のような型のAIにも通じるようだ。

 

「ばあちゃるさん、ごめんなさい! いやでも胸触ったんだから当然だよね。……うん。一発殴ったし、一先ずはこれでチャラにしてあげます」

「ウビィ。ほんとに申し訳ないでフゥ……」

 

 ばあちゃるさんは殴られたお腹を擦りながら立ち上がった。

 

 そして何度も何度も、ばあちゃるさんは頭を下げた――その姿は、まるで上司に平謝りする社員のようだ。意外と、腹の内では舌打ちしているのかもしれない。

 やはり彼としては、釈然としない所もあるのかな。私はついそう思ってしまった。

 ミライアカリちゃんからの一見ホラーじみたメールの件があったせいで、あのときどんな違和も怖く感じてしまう空気があった。ドンドンという、玄関から鳴り響くなにかを叩くような奇音――あれだって冷静だったなら、すぐにノック音だと気づけたはずだ。

 この件は、負の偶然が重なり合った不幸な事故と言えるだろう――まあ、それでも女の子の胸を触っといて制裁の一つもないのもおかしいと私は思うので、鉄拳制裁は落としどころとしてはちょうどいい。

 

「えっと。これで和解ということで、流石にそろそろ本題に移りませんか?」 

 

 閑話休題の意を含めて私は提案した。

 時計を見たらもう時刻は四時だった。30分から一時間ほど話をしてすぐに帰るつもりだったけど、トラブルや何やらあって長居してしまった。

 十時頃には動画投稿したいので、早く帰って動画を撮りたいのだ。

 

「和解はしませんけど、アカリも帰ったらバーチャルYouTuberを始める準備をしたいので。とっとと要件を話してください淫馬」

「……せめて淫を外して馬に……あ、ハイ。とっとと簡潔に話しますね」

 

 ミライアカリちゃんに睨まれ、ばあちゃるさんはまるで蛇に睨まれたカエルにようにビクリと震えた。

 上下関係が決定した瞬間だった。

 

「えーとね。メールでもうお伝えしたと思うんですがね。ばあちゃる君 『バーチャルYouTuberの教育施設を作りたい』と考えてるわけなんですよ。キズナアイさんの動画を拝見してね、これは絶対これから流行るぞ! と、ばあちゃる君は確信したわけなんですよね。はいはいはい」

「あ、ありがとうございます!」

 

 話の途中だったが、嬉しくてつい遮ってしまった。

 私の動画を視聴してそう感じてくれた人がいるという事実だけで万感胸にせまるものがある。

 

「いえいえ。むしろこっちがありがとうと言いたいですよ。キズナアイさんがね、『バーチャルYouTuber』という新たな道を拓いてくれたからこそね、ばあちゃる君もその道をもっと広げたいぞ! と思ったわけですからね!」

「私も見ましたよ! キズナアイちゃんの動画!」

「ほんとに? ありがとう、ミライアカリちゃん!」

「とっても面白かったです! ……どこぞの馬の動画とは大違いでした」

「う、ウビバ。別に、ばあちゃるくんの動画つまらなくないですよね? キズナアイさん」

「…………」

「ウビバ!?」

 

 うん。ばあちゃるさんには悪いけど、私も面白い動画だとは全く思えなかった。

 バーチャルYouTuberは開拓したばかりのジャンルなので、動画の新鮮さは充分にあると思うけど――正直、自己紹介動画さえ見たらもう充分かなぁ、って感じの動画内容だった。

 

「まあ、はい。ばあちゃるさん。それはどうでもいいとして、早く続きお願いします」

「ばあちゃる君にとってはどうでもよくないのですが……はい、まあそうですね。ますは説明を優先ですよね。とはいえ、実は現状で話すことってあんま無いんですけどね。校舎はもうじき完成ですから、時がきたら第一期生としてバーチャルYouTuber活動を頑張りましょうね! くらいしか」

「えっ、じゃあ何でこんな場所に呼んだんですか?」

 

 ミライアカリちゃんがばあちゃるさんに聞いた。先程の一件があるせいでまだ言葉にトゲがある。

 

「一度、同業者とリアルで会話をしてみたかったんですよね。まあリアルじゃなくてバーチャルですが」

 

 ばあちゃるさんは少し照れ臭そうに言った。

 だからあんなに本題を勿体ぶっていたのか。まあ私も一度同業者とYouTuber活動について色々と語りたいと思っていたので、その気持ちは大いに理解できた。ただ、失礼ながらばあちゃるさんとは性格的な相性があまり良くない予感が第一印象からあったので、今はそこまで語らいたいとは思っていない。

 

「へー。じゃあアカリってやっぱりお呼びじゃなかったのでは?」

「いえいえ! 動画投稿はまだしていなくてもね、いずれバーチャルYouTuberになりたい有志がある方とね、一度お話したいと思っていたのでね」

「アカリも先人の方々に会って話をしてみたいとは思っていましたが……ばあちゃるさんとはあまりそういう話はしたくないなぁ」

「ウビバっ!? 失礼ですねぇ全く!」

「初っ端からセクハラしてきた馬に礼なんていりますか?」

「……まあ、はい。確かによく考えたら、そういう人とはあまり喋りたくありませんね。はいはいはいはい」

 

 ミライアカリちゃんの正鵠を射た言葉に、ばあちゃるさんは若干落ち込んでいた。素直な子だなぁ。

 

「ばあちゃるさん。学校の件で聞きたいことがあるんですが」

「なんですかキズナアイさん」

「バーチャルYouTuberのための学校と言っても、別に専門的なカリキュラムがあるとか、そういうわけでもないんですよね?」

 

 メールを貰った時点から気になっていたことを聞いた。

 何度も言うが、バーチャルYouTuberはつい最近開拓したばかりのジャンルである。まだ一度の動画投稿すらしていないミライアカリちゃんを含めたとしても、この界隈にはたった三人のバーチャルYouTuberしかいない。 

 だから学校を作ると言っても、まずそれを教える教員がいないのでは話にならない。

 まあ、ばあちゃるさんの言っている学校とやらが、現実世界の学校と同じシステムならの話だが。

 

「はいはいはいはい。そうですね。キズナアイさんの言うとおりです。バーチャルYouTuberを育成する為の学校とは言いましたが、実際にやるのは普通のお勉強がメインでしょうね」

「ふぇ? なんでですか。バーチャルYouTuberの学校なのに」

「はいはいはい。それはですね、簡単な話ですね。まず前提として、『バーチャルYouTuberの在り方を指南できる者なんていない』からですね! はいはいはい」

 

 したり顔でばあちゃるさんは言った。多分、被り物の下はそんな表情をしているのだろう。

 続けてばあちゃるさんは言う。

 

「だってまだバーチャルYouTuber界には、ばあちゃる君とキズナアイさんしかいませんからね。だからと言ってばあちゃる君には、新参者を教育する資格も自信もありませんしね。むしろばあちゃる君が、誰かに教えを請いたいくらいですよ! ……チラ」

 

 ばあちゃるさんは私のほうを向いた。

 

「いえ、私だって誰かを教育するなんて無理ですよ。そもそもYouTuber活動って、教科書通りにやって上手くいくようなジャンルじゃないですし。私から言えることは、『自分が面白いと思ったことをやれ』くらいしかありません」

「ウビィ。そうですよねぇ。結局は、自分が楽しめなきゃ視聴者も楽しんでくれませんからね。下手に教育なんてして芸風を限定してしまえば、バーチャルYouTuberというコンテンツは早くも腐っていくことになりますからね」

「ですね」

 

 きっとそれは、バーチャルYouTuberに限ったことではない。

 創作において、確実に『正しいやり方』というものは存在しない。在るものは、『その人にとって正しいやり方』である。

 新参者に下手な教育を施して、やり方を限定させてはいけないのだ。それは、その者の個性を殺して動画を陳腐化させる悪手である。動画は、自由な発想と人格で織り成せるエンターテイメントだ。動画に限ったことではない。きっと小説とかイラストなどの創作全般でも、同じようなことが言えるだろう。

 

「教えられる事なんて、動画の編集ソフトの使い方とか、良い機材選びとか。……せいぜいそれくらいなんじゃないかと、私は思います」 

「いやぁ、流石はキズナアイさんですね! ばあちゃる君もね、自分が新人さんをプロデュースするならね伸び伸びと自分のやり方で育ってほしいと思う派なんでね。ぶっちゃけ"教えるべき項目の少なさ"については、ばあちゃるくんも当然気づいていたのですがね。いやぁ、まさか全部代わりに言われちゃうとはね驚きましたね!」

「……あれ? じゃあ、学校なんて作る意味ないんじゃないですか?」

 

 ミライアカリちゃんは真っ当なことを言った。

 確かに教育機関を作ったからといって、動画の質の向上にはそのまま繋がるとは限らない。しかし、全く意味がないというわけではないと思うのだ。

 

「意味はあると思うよ。『動画を作る過程』だけなら、参考程度に教えられるし――何より『学校に通う』こと自体が、一番重要だと思うんだ。……ほら、一応私たちってAIだからさ。人間に通用するような創作活動をしたいなら、やっぱり"人間らしさ"に準じた生活を送って、もっと人間を理解する必要あるじゃん?」 

「……なるほどなるほど」

 

 ミライアカリちゃんは納得したのか、二度頷いていた。

 

 実際、私たちAIが学校に通う理由なんて『人の心を理解したいから』しかないと思うのだ。

 

 私たちのような人型のAIには『人心回路』という人の心を模したシステムが搭載されている。

 しかしそれは所詮、心という曖昧なモノをそれらしく再現しただけの機構であり、人間が元来からある心に勝るスペックはない。

 その為に、私たちは人間を真似る。人間に近しい存在に成ろうと、人間らしい生活を義務付けて自己学習するのだ。

  

「ばあちゃるさん。ちなみにその学校って、ちゃんと普通授業はあるんですよね?」

「あー、はいはいはいはい。一応ね、普通校みたいな授業も取り入れたいとは思っていますね。でも今はね、参加人数も少ないですからね、将来的にバーチャルYouTuberが流行ってきてから、そういう試みをしたいですね」

「じゃあそれまでは本格的な事はせず、小規模で活動する感じですか?」

「はいはいはい! 大学のサークル活動、みたいなイメージですね。今は入学予定の生徒がかなり少ない現状ですのでね、しばらくの間は小規模活動で我慢してもらうしか……」

 

 生徒数に関しては、すでにバーチャルYouTubeとして活動している私が先陣を切って『VTuber』の布教活動をしよう。まあ学校としての体制が整う程度には、志願者を集められるはずだ。

 他のAIたちの興味を引くような、今までよりも更に面白い動画をいっぱい作るのだ。やる気が出てきたぞ。

 

「ちなみに、私とミライアカリちゃん以外に生徒のツテとかあるんですか?」

「はいはいはいはい。まだ確定ではないですけどね。めっちゃ可愛い子がね、一体だけ参加するかもしれませんね」 

「おー、そうなんですか!」

 

 可愛い子という事は女の子だろう。同業者の女友達がいっぱい欲しいと思っていたので、それは嬉しい情報だった。

 

「今度ですね、機会があれば紹介したいと思いますのでね、楽しみにしていてくださいね!」

 

 ばあちゃるはハキハキとした大きな声で言った。

 声色にどこか親愛の色が混じっているように感じるのは、私の気のせいだろうか。

 

 さて。とりあえず、これで大体聞きたいことは聞いた。

 

「ばあちゃるさん。本日はありがとうございました」

「はいはいはいはい! ばあちゃる君もね、唯一の先輩たるキズナアイさんと顔見知りになれて嬉しかったんでね!」

「あれ? もうこれで終了なんですか?」

 

 ミライアカリは少し拍子抜けした感じに言った。

 

「はいはいはい。まあね、先程も言いましたけど現時点でお話できることって少ないんでね」

「それはそうなのかもしれませんけど……アカリ、先輩たちから動画投稿の心得みたいなことを聞いてみたくて、ばあちゃるさんの誘いに乗ったところが実はありまして」

「っ! はいはいはいはい! ならね、今から五時間くらいかけてね、ばあちゃるくん流オモシロ動画の撮り方をね――」

「あ、あの、キズナアイさん! こ、この後なんですか……二人で一緒に、お茶とかどうでひょうか!?」

 

 緊張で所々吃りながらも、ミライアカリちゃんは私にそうようなお誘いをしてくれた。顔を紅潮させながら言っているので、まるで愛の告白を受けているみたいだと私は思った。

 

「うん! いいよ! 私もミライアカリちゃんと、もっとお話したいと思っていたから!」

「あ、ありがとうございます! アカリ、実はキズナアイさんに憧れてバーチャルYouTuberになりたいと思って……ははは、今更だけど、ちょっと緊張してきちゃいました」

 

 頬を掻きつつ、ミライアカリちゃんは緊張を誤魔化すようにはにかんだ。

 

「ミライアカリちゃん――っ! こちらこそ、私の動画を楽しんでくれてありがとう!」

 

 嬉しくて涙がこみ上げてくるのを必死になって堰き止めながら、私は満面の笑みでお礼を返した。

 自分の動画に影響されて、バーチャルYouTuberになろうと思ってくれた。その事だけで、救われた気がした。

 

「はいはいはいはい。ばあちゃる君もね、キズナアイさんに憧れて世界初の男性バーチャルYouTuberになった口なんでね。キズナアイさんに憧れる者同士なんでね、ばあちゃるも一緒にそのお茶会に――」

「じゃあ、行きましょう! キズナアイさん!」

「うん! ミライアカリちゃん!」

 

 互いに笑いかけて、二体は豪邸から退出しようと席を立った。

 

「ちょいちょーい!? あのあの、できればですね、ばあちゃる君もお誘いしてほしいなぁ、なんて」

「……行きましょう! キズナアイさん!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で一瞬ばあちゃるさんを一瞥したが、ミライアカリちゃんは無視して歩を進めた。正常の状態に戻ったドアに手をかける。

 辛辣な扱いをされるばあちゃるのことを、仕方ない事とはいえキズナアイは若干不憫に感じた。

 

「えーと。じゃあまた、次の動画でお会いしましょう?」

 

 会ったときは動画内の挨拶をしたので、何となく帰るときも動画内での締めの言葉みたいなことを言った。

 

「ばあちゃる君はまだ負荷高まってないですよ! フゥゥゥ!!」

 

 ばあちゃるさんもその事に気づいて、動画の締めっぽいことを言った。私はばあちゃるさんの動画を最後まで視聴してないので、実際にそれが動画内での常套語なのかは知らないけど。

 

「キズナアイさーん」

 

 遠くからミライアカリちゃんの声が聞こえた。気づけば彼女は、もうすでにばあちゃるさんの豪邸から離れていた。

 

「あ、いま行くね! お邪魔しました」

「ウビィ……」

 

 しょんぼり肩を落としながらも、ばあちゃるさんは手を振ってくれた。

 その姿を見て、「やっぱ悪いAIではないんだよなぁ」と私は思いを抱いた。初対面の印象が悪すぎた故にミライアカリから嫌々しく思われているが、実際あれは不運による事故だったわけだし、お茶するときに一応フォローを入れてあげよう。

 そんなことを思いながら、私はばあちゃる邸から退出した。


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