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ピチャッピチャッという足音が響く。
真っ赤な血の池を真っ赤に染まった軍服を着たデュラハンが歩いている。
デュラハンのそばには、
鎌の部分を高く上げ、鞭の部分をクネクネと動かしながら、デュラハンの周囲を動き回っている。
その動きはまるで、頭を上げて動く蛇のようだった。
デュラハンは、首を切られ絶命したシャドウナイトドラゴンの死体を調べていた。
手には、ユグドラシルのアイテムの1つ、
『
が握られており、デュラハンが何かを書き込んでいる。
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[
ゲーム開始時、プレイヤー一人一人に配られるアイテム。持ち主が放棄をしない限り無くなることが無い。
モンスターなどの戦闘能力や数値を除く名前や外見画像・神話出典データなどが自動で記載されていく。自分で書き込んでいく事が可能なのでモンスターの戦闘能力や弱点など書き込んでいくのが有効活用に繋がるアイテムである。
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その様子を、血の池から離れた場所で見ている者達がいた。
蒼の薔薇、竜人三姉妹、ミスリルとオリハルコンの冒険者達だ。
人間達は、先程の戦いを見てからというもの、デュラハンに近寄るのが怖くなっていた。
人間達がデュラハンを恐れてしまうのも仕方なかった。
首から大量の血を噴き出したかと思ったら、その血でドラゴンをあっさり切り殺したのだから。
オマケに、ドラゴンの殺し方やその時のデュラハンの姿があまりにも不気味だった。
勇者のように剣で戦う、魔術師のように強大な魔法で戦う、そう言った戦い方なら英雄として見る事ができたであろう。
しかし、このデュラハンの戦い方は違った。
あまりにも『作業的』であり、『感情が無かった』からだ。
まるで、『毎日の日課の作業』だと言わんばかりの…あるいは、ドラゴンはこうやって殺すのが『当たり前』だと、そう思わせる戦い方だったのだ。
そしてなにより…あのデュラハンは、人間達が怖がっていることに『微塵も気がついていない』。
むしろ、人前であの戦い方をしても怖いと思われるなんて思ってもいないのであろう。
当然だ。何故なら、ユグドラシルで竜王討伐の助っ人をしていた勝を怖がるプレイヤーなど、『存在しなかった』からだ。
ユグドラシルは自由度の高いRPGゲームであり、プレイヤーによって独自の戦い方がたくさん存在する。かっこいい戦い方をするプレイヤーもいれば、間抜けな戦い方で勝利するプレイヤーもいた。
勝の戦い方もその内の1つにすぎず、『見慣れて』しまえば、一種のショーであり、『見世物』の1つになってしまう。
無論、勝自身は『真面目』に戦っていただけである。
だが、周りのプレイヤーからは、『勝さんのドラゴン処刑ショー』という見世物として親しまれていた。
周りのプレイヤー達が怖がるどころか、楽しそうに見て盛り上がっているので、勝自身も自分の戦い方が怖がれるとは全然思わなかったのである。
ユグドラシルでは、
人間種であろうが、
亜人種であろうが、
異形種であろうが、
互いに中身は同じ人間であり、ゲームの世界に入り込んだプレイヤーという『共通認識』があるからこそ、相互理解も簡単であった。
体力がなくなり死亡しても、それは『仮の死』であり、『本当の死』ではない。
死への恐れも、相手に対して抱く恐怖も、些細なものでしかない。
だが…
この異世界では違う。
この異世界で産まれた人間にとって、デュラハンである勝は『本物の異形種』であり、人間として認識される事は決してない。
無論、この異世界での死は『本当の死』であり、誰かに復活魔法を使われない限り、『タイムアウト』による自動復活も行われない。
故に、デュラハン以外の、この場にいる者達は恐れた。圧倒的な強さを誇るデュラハンに。
このデュラハンが少しでも人間達に敵意を向け、攻撃してきた場合、誰も太刀打ちできない。
先程のシャドウナイトドラゴンと同じように瞬殺される事は明白だった。
だからこそ、
今、この場での『絶対者』であるデュラハンの行動を邪魔する者はいなかった。
「ブラック、あのデュラハンは何をしているんだ?」
イビルアイがずっと気になっていた疑問を問う。
「おそらくだが、先程倒したシャドウナイトドラゴンの情報を
「えんさいくろぺでぃあ?それはなんなんだ?」
聞き慣れない単語だったのか、イビルアイが首を傾げる。
「図鑑のような物だ。ご主人様は、初めて出会ったモンスターや倒したモンスターの情報収集や分析を小まめに行う御方なのだろう。」
ブラックとしては、単純な説明をしたつもりだった。
しかし、アダマンタイト級冒険者として数々の経験を積んでいるティアとティナが忍者としての素質を発揮させる。
「─なのだろう、という言い方はおかしくないか?ブラック。お前達は、あのデュラハンとは長い付き合いじゃなかったのか?」
「それに、先程のデュラハンの戦いぶりを、お前達も怖がっていたように見えたが?」
危険な存在になりうるデュラハンと、そのデュラハンに付き従うブラック達の情報を少しでも入手したいと考えていた2人は、些細な矛盾や疑問点を確かめにくる。
「………………」
ブラックが黙ったまま、質問をしたティアとティナを見る。
ブラックとて忍者であり、情報の大切さは理解している。
交渉術や読心術を使った情報採取、自分達の情報の保護や漏洩防止は、忍者にとって基本中の基本である。
ブラックは、自分と同じ忍者であるティアとティナが探りを入れてきているのは理解していた。
「…長い付き合いなのは本当だぞ。ただ─」
一旦言葉を切り、間をあける。
チラリと、主人である勝の方を見る。
自分達の主人が聞いているかも知れない、という考えが一瞬わいたからだ。
「─初めてだったのだ。竜王と戦うご主人様の『
慎重に言葉を選んだ。
長い付き合いなのは本当だ。
しかし、ナザリックのログハウスを守護し続けていた自分達が、ナザリックの外に出たのは数日前だ。
無論、外でのご主人様の戦い方を直接見るようになり始めたのも数日前。
そして、
それを人間達に知られないようにするため、与える情報を最小限に抑えた答え方をしたつもりだ。
「普段、あんな戦い方はしないのか?」
「お前達は、ここまで来る道中のご主人様の戦い方を見ていなかったのか?軍刀と狙撃武器による射撃、それと召喚。それがご主人様の普段の戦い方だ。」
「あれが普段の戦い方なら、先程のはなんなんだ?」
「竜王といった、強敵相手に行う戦い方…だと思う。我々も見るのは初めてだったので、少し怖いと思ってしまっただけだ。」
自分達が知るご主人様は、ログハウスに来て自分達の頭を撫でてくれる優しい主人というイメージだった。
だが、この数日間で優しい主人とは逆の、怖い主人を見る機会が二度もあった。
陽光聖典との戦いの時に見せた怒りのオーラ、
どちらもユグドラシルでは1度も見た事がなかった。
だが、この二つを見て納得できた。
ご主人様が、ナザリック地下大墳墓の支配者の1人にして、至高の御方々に並ぶに相応しい実力の御方であること。
ご主人様が召喚する
「ブラック達でも、怖いと感じるのか?」
「ああ。ご主人様は我々より強い御方だ。その強さにひれ伏すのは当然だろう。ご主人様に勝てる可能性がある者など、我々が知る限りでも片手で数える数ぐらいしかいない。」
ナザリック地下大墳墓に在籍している至高の御方々ぐらいしかご主人様に対抗できる存在はいない。
階層守護者の方達が相手でも、1対1の戦いならご主人様が勝つに決まっている。
「ブラック達は、アインズ・ウール・ゴウンとか言う組織に属してるんだったよな?あのデュラハンより強い奴もそこに属しているのか?」
「それは…答えられない。ご主人様の許可が必要になる。」
流石に、自分達以外の情報を教えるのはまずいと判断し、話題を切る流れを作る。が…
「居るか居ないかだけでも言えないのか?」
ティアとティナが食い下がる。
「…ティアさん、ティナさん。」
「な、なんだ?ブラック。」
「………何?」
突然ブラックに名前を呼ばれて動揺する2人。
「我々についていろいろ知りたいのはわかります。が、我々は組織の一員にすぎず、組織として行動する以上、守秘義務というものが発生します。その意味…わかりますよね?」
丁寧な口調で言いつつ、守秘義務という言葉をわざとらしく入れる。
これで、自分達にも言えない情報がある、という事をわからせる狙いだ。
そして、それは狙い通りの結果になった。
「…すまない。」
「…しつこく聞きすぎた。」
2人がようやく諦めたのか、謝ってくる。
「気にするな。我々にも、お前達にも、他人に言えない秘密の一つや二つはあるだろう?そう言うものだと思ってくれ。ところで、お前達はどうなんだ?お前達も、ご主人様の事を怖いと思ったか?」
今度はブラックが蒼の薔薇に問う。
「正直に言うと…怖いわね。」
「俺も流石に…あんなの見せられたらねぇ…」
「ガガーランと同じだ。」
「私も同じく。」「私も。」
念の為、ブラックが他の冒険者達にも確認をとるが、反応は皆同じだった。
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【(やはり、怖く思われていたか…)】
勝は、
頭が無いおかげか、今の所人間達やブラック達にもバレていない。
シャドウナイトドラゴンに関する情報は書き込み終わっていたのだが、ブラックと蒼の薔薇達の会話が気になった勝は、シャドウナイトドラゴンの死体を観察しているような動きをしつつ、聞き耳を立てていた。
(※勝に耳はありません。)
【(声をかけてくれるどころか、近づいてさえ来ないとは…)】
ユグドラシル時代では、竜王との戦いで共闘したプレイヤー達から、「ありがとうございました。」などのお礼を言われたりしたものだ。
しかし、蒼の薔薇や他の冒険者達は完全にドン引きしている。明らかに、化け物を見るような目をしている。
【(ユグドラシルでは、あんまり怖がられなかったのになー…。あんなにドン引きされるなら、
ユグドラシルでは、頭や首、心臓やその他弱点となる部位を攻撃すると、『クリティカル判定』となり、ダメージが増加する仕様だった。
しかし、異世界では部位破壊に近い仕様になっており、急所となっている部分を攻撃、もしくは破壊すると、ほぼ致命傷、最悪死ぬ。
現実世界とほぼ同じ仕様と言った方がわかりやすいかもしれない。
【(ドラゴンの鱗は硬いから、耐えれると思ったんだけどなぁ。シャドウナイトドラゴンが弱過ぎたのが原因か?」】
それらのスキルを使用し、シャドウナイトドラゴンのレベルが40Lv前後であるという事が確認できていた。
勝の攻撃のダメージが高過ぎて、一撃で死んでしまった可能性を考える。
【「いや…私の場合だと、竜覇の証の効果で死んだ可能性もあるのか?えーと…確か、急所を攻撃すると確率で即死判定になるんだっけ。)】
最初の一撃目で偶然即死が発動した、という事もありえる。
【(シャドウナイトドラゴンを殺すつもりはなかったんだけどなぁ。ギリギリまでダメージを与えて、『死にたくなかったら、私と契約して、召喚魔獣になってもらおうか。』と、脅す…いや、交渉するつもりだったのになぁ…。)】
何を言おうが後の祭りである。
シャドウナイトドラゴンは死んでいるため、召喚契約をするためには復活させる必要がある。
【(まぁ、いいや。とにかく、皆を安心させる事を優先するか。)】
勝が
その音と仕草に皆が反応し、勝を見る。
ピチャッピチャッと、血の池を歩きながら勝が呼びかける。
【レッド〜。】
「
【さっきシャドウナイトドラゴンに殺された2人の人間がいたよね。アレ、復活させてあげて。】
「
レッドが人間の死体に近付き、復活の魔法を2回唱える。
「
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[
死者を復活させる魔法。<
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
復活魔法の効果により、人間の死体が瞬時に再生し、冒険者2人が元の姿になる。
仲間の冒険者達が喜びの声を上げならがら、復活した2人に駆け寄る。
復活した2人は、最初は困惑していたが、シャドウナイトドラゴンの死体と仲間達からの状況説明を受け、なんとか冷静差を取り戻した。
ラキュースとイビルアイが、復活魔法を使用したレッドに、<
2人が言うには、王国で復活魔法が扱えるのはラキュースだけらしい。
死んだ人間を復活させた事により、若干ではあるが、皆の勝への恐怖心が下がった。
そのタイミングで、シャドウナイトドラゴンを復活させる話を始める。
·
·
·
「さて、人間達よ。先程説明した通り、シャドウナイトドラゴンを復活させる。覚悟は良いか?」
頭に勝を乗せた、ドラゴン形態のブラックが最終確認をとる。
冒険者達が頷く。
召喚契約を成立させるため、シャドウナイトドラゴンを復活させるという事を事前に伝えておいた。
シャドウナイトドラゴンが暴れだした場合は、人間達を守ってやる、という約束を交わしている。
話の展開次第では、竜王召喚を行う事も言ってある。
【よし!レッド、頼む。】
レッドが復活魔法を唱え、シャドウナイトドラゴンが再び生き返る。
シャドウナイトドラゴンが目を開け、周囲を見渡す。
そして、目の前のブラックドラゴンとデュラハンに気付くと、先程自分が殺された事を思い出したのか、震えだす。が、勇気を振り絞ったのか、胸を張って頭を高くし、自分の方が偉いぞと言わんばかりの見栄を出す。
「私を…いや、我を生き返らせてどうするつもりだ?言っておくが、もう命乞いはしないぞ!殺すなら殺せ!」
誇り高きドラゴンとして、威厳ある態度を崩さないようにしているのか、命乞いや媚び諂う態度をする様子はない。
「ご主人様が、貴方様をいたく気に入られておりまして、召喚契約をしたいとおっしゃっています。」
ブラックが丁寧な言い方をする。
普通のドラゴンと竜王では、扱いや接し方に格差があるようで、弱いとわかってもそれは変わらないようだ。
「我は、誰にも従わない!我は偉大な竜王であり、あらゆる生物の頂点に君臨する種だ!人間やアンデッドに、こうべを垂れるなど死んでもするものか!」
反抗的な、あるいは傲慢な態度をやめようとしないシャドウナイトドラゴン。
そのドラゴンとしての誇りを貫こうとするシャドウナイトドラゴンの姿に、勝が感動する。
【(素晴らしい!これだよ!これこそドラゴンとしての態度だ)!】
竜種は、自分が最強の種族だと信じ、疑うことをしない存在である。
あらゆる生物の頂点に立つ存在として振る舞い、あらゆる生物を見下すのが彼らであり、竜種以外のあらゆる生物は自分達が管理すべき下僕であると思っている。
つまり…
ブラック達や勝が召喚する竜王達が、勝に従っていること自体が『異常』な事であり、ありえない事なのだ。
無論、勝自身は、竜王達が自分に従ってくれること自体は嬉しく思ってはいる。
ただ、あの忠誠心MAXな態度で接してくる感じがドラゴンらしくないため、違和感が半端ないのだ。
「ご主人様、どうなさいますか?シャドウナイトドラゴンは、召喚契約に応じる気はないようですが…」
【ハッ!?あー…えーと…じゃあ仕方ない。竜王に説得してもらうか。】
ブラックの呼びかけに、感動に夢中だった勝が正気に戻る。
【問題は、どの竜王に説得させるかだ…】
実は、バハムートやティアマトなどの竜王は、一部のドラゴン族から崇拝されており、神にも等しい存在として扱われている。
ドラゴンには5つの主要なドラゴン族がある。
クロマティック
カタストロフィック
メタリック
スカージ
プレイナー
である。
その内の3つのドラゴン族には、ある特殊な傾向がある、
ブラック達のように、色が特徴的なドラゴンはクロマティック・ドラゴンの種類に入る。
クロマティック・ドラゴンはティアマトを崇拝しているドラゴン族である。
カッパー、アイアン、シルバー、ゴールドなどの金属系のドラゴンがメタリック・ドラゴンと呼ばれ、バハムートを崇拝しているドラゴン族になる。
カタストロフィック・ドラゴンは、災害竜とも呼ばれている存在で、ティアマトやバハムートを裏切ったドラゴン達と言われている。
【メタリック・ドラゴンじゃなさそうだし、ティアマトかな。
勝の召喚に応じ、魔法陣からティアマトが姿を現す。
「水の竜王!ティアマトよ。ご主人様の命により、召喚に応じ参上いたしました!」
「ティ、ティアマト様ですって!?」
シャドウナイトドラゴンが信じられないとばかりに驚いている。
蒼の薔薇以外の冒険者達も、ブラック達やシャドウナイトドラゴンより大きいティアマトに息を呑む。
【ティアマト、このシャドウナイトドラゴンを説得して──】
「きゃあぁぁぁ♥ご主人様ー!」
【──うぼぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?】
ガシッと勝を掴み、いつもの?ように勝を巨大な胸にギュウギュウと押し込み始めるティアマト。
ブラック達は苦笑い、シャドウナイトドラゴンと人間達は呆気にとられている。
ティアマトは、勝を何度かモミモミすると、頬を赤くしながら、勝を左薬指に乗せる。
ティアマトの薬指にしがみつく勝を見ながら、眼をうっとりさせる。
「愛しのご主人様〜♥この世界に1つしかない、財宝より貴重なご主人様〜♥今日は2度も呼んでくれるなんて!しかも私だけなんて!いよいよ、私の
【その例え方はいろいろおかしいよ!】
「うふふ…。なーんて、冗談ですよー。ご主人様が、ブラックちゃん達を一番愛してるのは知ってますから〜。」
【そ、そっか。それはよかっ──】
「私は4番目で我慢しますから♥」
【もう予約済み!?】
「ティアマト様!ご主人様が困ってますから、お戯れはそこまでに…」
「えー。いいじゃない!貴方達は毎日ご主人様と一緒に居るんでしょー。たまには私にもイチャイチャさせてよー!」
「き、気持ちはわかりますが、今だけはどうか…!」
「むぅーー…」
ティアマトがほっぺを膨らませながら不貞腐れる。
【ティアマト、このままじゃただの痴女だよ。人間達の目もあるし、竜王としての存在感を出してもらわないと…。】
「むぅ〜…わかりました。ご主人様がそこまで言うなら仕方ありません。ご主人様を幻滅させる訳にいきませんし、召喚して頂いた事を後悔させないよう頑張ります。」
ティアマトのあんまりな言動に、召喚しない方が良かったのではないかと、勝自身も思い始めていたところではあった。
冒険者達も、ティアマトの言動を見て、勝の気苦労を察する。
「ところで、今回呼び出した御用はなんでしょうか?」
【目の前に居るシャドウナイトドラゴンと召喚契約をしたいのだが、死んでもするか!と、拒否されててね。】
「なるほど!ご主人様の召喚契約に応じない、この『クソ生意気な小娘』をぶっ殺せば良いんですね?」
「ひぃ!」
物騒な物言いをするティアマトに、完全に恐怖するシャドウナイトドラゴン。
【違うぞ、ティアマト!殺しちゃ─】
「大丈夫ですご主人様。ご主人様が何をしたいか、ちゃんとわかってますから。ちょっと失礼しますね。」
【えっ】
ティアマトが勝を胸の谷間にズプッと刺すと、シャドウナイトドラゴンの首根っこを掴んで、顔を無理矢理向かせ、自分の胸に刺さっている勝の目の前に持ってくる。
「いいかしら、小娘!1度しか言わないからよく聞きなさい!私のご主人様は偉大で強くて優しくて素晴らしい御方なの!この世界中にある、どの宝石や財宝よりも高価で貴重な存在なの!それが理解できてないなんて、アンタ、ドラゴン失格よ?」
「ドラゴン失格!?」
シャドウナイトドラゴンを小娘呼ばわりするティアマトの理不尽極まりない言い分に、シャドウナイトドラゴンが困惑する。
「アンタ、メタリックでもクロマティックでもなさそうだけど、私の事は知ってるのでしょう?」
「は、はい!知ってます!ティアマト様がドラゴン族の始祖のお一人であるという事を!それに、現在、富、強欲、嫉妬を司る悪の神として君臨していた御方である事も!」
「なら話が早いわ。私はね、私を侮辱する存在を許せないの。私を侮辱する存在は誰であれ始末する。地の果てまで追いかけて血祭りにするわ!あ!ご主人様は別ですよ?遠慮なく私を罵って下さっても構いませんから♥」
【そんな事しないから!】
「踏んづけて組み伏せて、『この雌犬め!犬は犬らしく靴でも舐めてろ!』とか罵倒しても構いませんから。ご主人様の身体なら、遠慮なく全身舐めまわして綺麗にする事も─」
【わかった!わかったから!話を戻して!お願いだから!】
やめてくれティアマト!恥ずかしい!恥ずかしいから!ほら、人間達が『うわぁ…』みたいな顔をしてドン引きしてるから!
勝の心労は、もはや限界を超え始めている。
「ハッ!?…コホン。つまり、私の愛しのご主人様を弱いと見下すのは、ご主人様に従う私を弱いと侮辱してるのと同じという事よ?それ、わかってるのかしら?」
「そ、そんなつもりでは…」
あくまで、勝が一番偉いという事を主張するティアマトに、シャドウナイトドラゴンはただただ困り果てる。
「アンタみたいな竜王になりたてホヤホヤの小娘なんか、私の敵じゃないの。私の愛しのご主人様の召喚契約に応じないなら、アンタの命はないわよ?」
「そ、そんな!『ドラゴン』でもない、『ただのアンデッド』に従うなど、ドラゴンの私には…」
「ただのアンデッド…ですって?」
ティアマトの雰囲気が一瞬変わったのを、勝は感じた。
「ならいいわ。私の説明が理解できないなら─」
「─死ね。」
冷たい、背筋が凍る一言。
シャドウナイトドラゴンが今まで味わった事のない恐怖を感じるまえに─
ティアマトがシャドウナイトドラゴンの頭を空洞の側面の壁に叩きつけた。
凄まじい衝突音とともに、シャドウナイトドラゴンの頭が壁にめり込む。
そのままシャドウナイトドラゴンの頭を壁に押し付けながら、ガリガリと壁を抉りながらティアマトが奥に向かって突き進む。
シャドウナイトドラゴンが悲鳴を上げるが…
「キシャァアアアアアアアア!!」
ティアマトの上げる咆哮に掻き消される。
【ティアマト!やめるんだ!落ち着いてくれ!】
勝が呼びかけるが、ティアマトは止まらない。
シャドウナイトドラゴンをぶん投げ、空洞の柱に投げつける。
柱があっさりと砕け散り、シャドウナイトドラゴンが空洞の中央に倒れる。
ブラック達や冒険者達は、2匹の竜王の戦いを傍観する事しかできない。
ティアマトが倒れたシャドウナイトドラゴンにゆっくりと歩みよる。
「ご主人様の素晴らしさを理解できない愚か者は、恐怖を味わいながら、後悔と共に死になさい。」
「あ─あああ──待って─従います!従いますから、命だけは──お許しを─」
「許さないわ!ドラゴンの世界は弱肉強食。弱い竜王なんて、ご主人様のそばにいる資格すらない事を思い知りなさい!」
ティアマトがシャドウナイトドラゴンにトドメを刺そうと構える。
【いい加減にしろ!ティアマト!】
勝が再び<
「─グッ!?─」
全身を血で縛られ、仰向けに倒されたティアマトの上に、血が浮遊し大きくなっていく。
【お前ならシャドウナイトドラゴンを説き伏せられると思っていたが、俺が間違いだった!】
勝が怒りのオーラを発動させる。
普段は出さない『俺』という一人称が怒りと共に無意識に出る。
ティアマトの上に貯まった血がゆっくりとドラゴンの形に変わっていく。
その大きさは、勝が血を出せば出すほど大きくなり、ついにはティアマトより大きくなる。
空洞の天井に到達するのではないかと思うほどの巨体になり、ティアマトを見下ろす。
そのまま勝が飲み込まれていき、
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[
勝がユグドラシルで編み出したオリジナルの複合スキル技。
種族スキルと
血で作製したドラゴンなので、あらゆる形に変形可能であり、物理攻撃は効かない。
また、吹き飛ばしや凍結などで欠損しても、勝が血を出す事で再生が可能という恐ろしい技である。
ドラゴンの身体から、あらゆるブラッド技を繰り出す事ができるため、頭部の勝を攻撃しようと飛び掛って来た相手を、
弱点は雷属性の攻撃であり、
ただし、
しかも、雷の竜王である青龍と黄龍対策で、勝自身が雷属性攻撃に対する耐性を完備しているため、そこまでダメージを期待できないという対策ぶり。
遠距離からの攻撃が適切だが、勝が狙撃武器を扱えるため、狙撃職や魔法職の相手にも対応してくる。
①召喚魔法でモンスターを召喚し、相手を足止め。
②超位魔法で竜王召喚。
③相手が竜王と戦っている間に、
が、ユグドラシル時代の勝の凶悪コンボだった。
その凶悪コンボが、異世界仕様&竜覇の証で簡単に再現可能で、さらに凶悪になっているという事態になっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
縛られた状態で倒れているティアマトの喉元に、
【ティアマト、まだ暴れるか?】
怒ってはいるが、ティアマトを傷つける気はない。
精一杯の脅しをかけたつもりだ。
これで駄目なら、無理矢理魔力のパスを切って消滅させるしかない。
【大人しくしないなら、無理矢理に──】
「……うぅ…ぐすっ…」
【──あれ?ティアマト?】
先程まで怒り狂っていたティアマトが泣いていた。
眼から涙を流し、ポロポロと涙を流している。
【お、おい、ティアマト。なんで泣いてるんだ?まさか!私が怖くて泣いてるんじゃ…】
ブラック達が何度か自分を怖がっていた事を思い出し、ティアマトも自分を怖がっているのでは?と、思い始める。
「ぐすっ…うぅ…うぅぅ!」
【す、すまない!泣かせるつもりは──】
「いえ、怖くて泣いてる訳ではないのです。」
【なら、何故泣いているんだ?】
「もちろん!ご主人様のそのお姿を久しぶりに見る事が出来たからです!」
【え?】
「ああ!愛しいご主人様の逞しいお姿!こんな間近で見れるなんて!私、嬉しくて涙が…」
嬉しくて泣いてる?
そういえば、ティアマトとの戦いでは、海の上だったから、常時
「縛って無抵抗にされた状態の私を一方的に攻めて、あーんなことやこーんなことを無理矢理するのですね。さあ、ご主人様!私はいつでも大丈夫ですので、遠慮なく私の初めてを奪って──」
【しねーよ!】
あれ?という事は、ティアマトが私に惚れているのは、この
【まったく!てっきり、怖くて泣いてるかと思ったよ!】
「何を言いますか!ご主人様のそのお姿を怖がる雌ドラゴンなんて居ませんわ!ね?ブラック達もそう思うでしょ?」
ブラック達の方を見る。
すると、目をキラキラさせた3人がいた。
「これが、ご主人様の真のお姿!か、かっこいいです!」
「
「
【えぇぇえぇぇぇぇぇ!?】
怒りのオーラまで発動していたのに、怖がるどころか凄い眼差しで見てる!?
ドラゴン基準だと、かっこいい感じなの?
私、もう訳わかんないんだけどぉ!?
「申し訳ございません、ご主人様。シャドウナイトドラゴンを納得させるため、わざとご主人様を怒らせるような真似をしました。しかし、これでシャドウナイトドラゴンも納得したかと思います。」
【納得?】
「はい♥シャドウナイトドラゴンは言いました。『ドラゴンでもない、ただのアンデッドには従わない』と。でも、今のご主人様のお姿なら……ねぇ、シャドウナイトドラゴン?貴方の感想を聞かせてくれない?」
シャドウナイトドラゴンの方を見る。
シャドウナイトドラゴンが頭を下げ、勝をキラキラした眼で見ている。
「はい!とても素晴らしいお姿です。『真の竜王様』!先程の私の無礼をお許し下さい!お詫びに、私の貯めていた財宝を全て差し上げますので、貴方様と召喚契約をさせて下さい!お願い致します!」
【コッチもかー!というか、全部捧げてきたー!?】
結果的に、召喚契約に応じてくれたのは嬉しいが、
人間達からの反応を想像すると、悪い結果しか想像できず、もはや頭が痛い思いになる。
【とにかく、召喚契約をすませるか。ティアマト、お願い。】
「はい♥ご主人様!」
ティアマトの拘束を解き、シャドウナイトドラゴンの目の前に移動する。
「では、シャドウナイトドラゴン。汝に問います。私のご主人様である勝様に、汝の全てを捧げますか?」
「はい。私の全てを捧げ、新しき主人への忠誠を誓います。」
「では、勝様に、汝の魂を捧げなさい。」
「はい。我が魂、新しき主人である勝様に捧げます。」
【ここに契約は完了した。汝の魂は我が魂と同化し、我が力となろう。】
シャドウナイトドラゴンの姿がゆっくりと消え、1つの白い球体になる。
その球体が高く舞い上がると、勝の胸に吸い込まれ消えた。
【よし!早速呼び出すか。
契約したばかりのシャドウナイトドラゴンを召喚する。
「影の竜王!
【やっほー!シャドウナイト。私の声が聞こえる?】
「こ、これが勝様のお声ですか!なんと優しく、暖かみのあるお声なのでしょう!」
【さっきはいろいろゴメンね。】
「いえ!勝様が謝る必要はありません。全ては私のせいです。本当に、申し訳ありませんでした。先程も言いましたが、勝様に私の貯めていた財宝をお詫びに差し上げます!」
【いや、財宝よりも先に、シャドウナイトにお願いがあるんだけど。】
「なんなりと!私にできることならなんでも致します!勝様と契約したおかげか、前よりも強くなりましたから!なんでもできる気がします!」
【え?マジで?どれどれ…】
スキルで調べると、Lv40だったシャドウナイトがLv90という凄まじいステータスになっていた。
契約した竜王は超位魔法に登録されるから、その分の補正が入ったのだろうか?
【ヤバっ!めちゃくちゃ強くなってるじゃん!】
「はい!やはり、勝様は凄い御方だったのですね!私がこんなに強くなれたのは、勝様のおかげです!さあ、なんなりと、お申し付けください!」
【じゃあ、シャドウナイトの身体を触らせて!】
「え!?わ、わかりました。私の身体をお求めなのですね。」
「ハァァ!?ご主人様、早速浮気ですか!?」
【違うよ!?撫でさせて欲しいだけだよ!?】
「ずるいです!私も撫でて下さい!」
【わ、わかったよ!このままじゃ、撫でれないから…スキル解除!】
空洞内にあった全ての
勝の軍服も、元の灰色に戻る。
【よし!じゃあ、シャドウナイト。頭から触らせてくれ!】
「あ!このままですと撫でにくいですね。今、人型形態になりますね。」
【え?】
「じゃあ、私も。」
【えぇぇえぇ!?】
ティアマトとシャドウナイトが小さくなり、ブルーやレッドより少し高いぐらいの身長の竜人になる。
ティアマトは大きい時と同じ姿だった。
シャドウナイトは、ブラック達と同じスク水のようなレオタードのような焦げ茶色の服をきており、手足の構造まで全く同じだった。
肌が褐色で黒い長髪、鱗は焦げ茶色だった。
【お前ら、小さくなれるのかよ!ていうか、ティアマトは先に教えてくれよ!小さくなれるなんて知らなかったよ。】
「私以外の竜王達も形態変化できますよ。」
【マジで!?全く知らなかった…】
衝撃の事実に驚く勝。
今後の冒険者活動に大いに影響を与える情報である。
「どうぞ、勝様。私の身体、満足するまで撫で下さって構いません。」
「いいなぁ〜…私もご褒美として撫でて欲しいですぅ。」
【いや!これなら、2人同時に撫でれそうだ。おいで、ティアマト。】
「本当ですか!?」
ティアマトとシャドウナイトの頭に手を乗せる。
「念願のご主人様のナデナデだわ〜…」
「これが勝様の手…優しい触り心地です…」
【そうだ。テイマースキル発動!<愛撫で>!これをご褒美代わりにしよう!】
テイマー職のスキルである<愛撫で>は、従えさせた動物やペットの好感度をあげる技である。
撫でられているティアマトとシャドウナイトの目がトロンと落ち、その場に膝をつくと仰向けに倒れ、甘え出した。
「ご主人様〜、もっと〜!」
「あっ─そこが─とても気持ちいい─ですぅ!」
【よーしヨシヨシヨシ!これが気持ちいいのか!】
勝がティアマトとシャドウナイトを撫で回すのに夢中になる。
そんな光景を、ブラック達が羨ましそうに眺めている。
そして、さらに後ろにいる冒険者達は、ある感情を抱きながら傍観を続けていた。
「(私達は、いったい何を見せ付けられているんだ?)」
デュラハンが竜王2人を撫で回す光景を、ただただ邪魔しないように見ているしかできない彼らであった。
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リアルの事情により、更新遅くなりました。
話が進んだようで進んでない感が半端ない気がするw