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──午後七時半頃──
砂金が敷き詰められた試合場中央に、勝達は集まっていた。
「なるほど。ご主人様の『人間』である姿が、そのお姿なのですね。」
「ああ…。すまない…騙すつもりはなかったんだ。ただ、ユグドラシルではデュラハンの姿でしか活動できなかったんだ。」
ブラック達には、全てを話す事にした。
現実世界の自分の事、
ブラックのモデルの事、
デュラハンの姿で活動してた事、
他、質問された事全てを。
勿論最初は、誤魔化そうとした。
『玉手箱のせいで人間の姿になった。』
これだけなら、誤魔化す事もできただろう。
ただ、後からいろいろ質問され、必死に誤魔化そうとしている事をあっさり見破られた。
当然だ。
忍者であるブラック相手に、『顔がある状態』で嘘をつけば、即バレる。
特に、ブラックと瓜二つの姿である事を尋ねられたら、上手い誤魔化し方が思い浮かばなかった。
人間の自分と同じ姿でブラックを創造した。
それしか言いようが無かった。
その後は、自分の事を話続けた。
ブラック達がどの程度のところまで理解してくれたかはわからない。
だが、嘘をつくよりは、本当の自分を受け入れて欲しい、という思いが強かったのだ。
「幻滅したか?私が、本当は人間だった事に…」
人間を見下す傾向があったブラックに尋ねる。
仕えていた主人が人間だった。
これだけでもショックに違いない。
きっと、私の事が嫌いなったかもしれない…
「いえ。どうでもいいですね、そんなこと。」
「え?」
「ご主人様が人間だった。それがなんだと言うのですか?」
「いや…ブラックは、人間を見下す傾向があったから、人間になった私を嫌がるんじゃないかなって、思っていたんだが…」
「では、嫌いになった方が良いのですが?」
「え!?いや、そんなことはない!できるなら、嫌いにならないでいて欲しい!」
「なら、どうしてほしいのですか?」
「どうしてって─」
「どうしてほしいのですか?」
「えっと…このまま私を…好きでいて…ほしい。」
「はい。大好きです。ご主人様。」
「──────。」
あまりにもストレートな告白に、ポカンっとなってしまう。
「ご主人様も私の事、好きですよね?」
「も、もちろん。」
「大好きですよね?」
「えっ!?す、好きだぞ。さっきから、そう─」
「世界で1番大好きですよね?」
「世界で1番大好きです!」
ブラックが勝ち誇ったような表情でコッチを見ている。
「えっと…ホントにいいのか?」
「はい。ご主人様が私を…いえ、私達を愛して下さるだけで、私達は嬉しいのです。例え、ご主人様が『どの様なお姿』になろうとも、ご主人様が私達のご主人様であり、私達はご主人様が大好きですから。」
「……そっか。そうだよな。私は、お前達を『そういう存在』として、創造したんだもんな。」
ブラック、ブルー、レッドの三人の共通設定である、
『勝の事が大好きであり、絶対の忠誠を誓っている。』
この設定がある限り、この三人は絶対私を『嫌いにならない』。
自分が人間だからとか、そうじゃないとか、そんな
『くだらない小さな悩み』
をいつまでもする必要などなかったのだ。
「
念の為、竜王達にも聞いてみる。
彼等の答えは予想がついてるが、それでも、彼等の口から聞いてみたかった。
「はい。私達も同じです。我が主人が、人間であろうがなかろうが、どうでもいい事です。」
やっぱりか。そうだもんな。だって…
「私の存在なくして、お前達は存在できないものな。」
「はい。貴方様が存在して生きて下さるだけで、我々は良いのです。」
「そうか。なら、改めて!今は人間の姿だが、この姿の私を受け入れてくれたお前達に!感謝の言葉を言おう。ありがとう。」
「我らに感謝の言葉など!勿体無きお言葉!」
「いや!折角喋れるようになったんだ!この嬉しい気持ちを伝えないなんて、それこそ勿体ない!だからさらに言おう!先程ブラックにも言ったが、私はな!皆も大好きだぞ!」
素直な気持ちを伝えた。
私の事を、こんなにも思ってくれる『可愛い奴ら』を嫌いになる事などできない。
「おお!我が主人よ!そんなにも我らの事を…」
このままだと、一生泣き続けるんじゃないかと思ったので、話題を変える。
「さて!みんな。これからの事を考えないか?」
「そうですね。まずご主人様、人間の身体になって、不都合はありますか?」
「有りまくりだな。アンデッドの時は不要だった、食事や睡眠が必要になる。疲労感も感じるから、たまに休憩や休養をはさまないといけなくなるな。後、毒や即死の耐性なども無くなってるだろうな…。あれ?私…人間になって得した事って、喋れるようになっただけじゃね?」
こう言うと、アンデッドの肉体の方が良かったと、いう風にしか聞こえない。
「確かに…そうかもしれませんね。」
「強いて言うなら…あれだな。」
「何でしょうか?」
「人間になって…頭ができた事で、ブラック達の手料理が食べれるな!後できるのは…キスぐらいか?」
「キス!?」
竜王達やブラック達が静まり返る。
あれ?私、変な事言ったかな?
てっきり皆、喜ぶかと思って──
「主人よ!」
突然、男性竜王達が大声をだしながら、勝の周囲に集まり出す。
突然の事に、勝が驚く。
ムキムキボディのイケメン達に囲まれた勝は、あまりにも小さく見え、一瞬、幼女の拉致現場のような雰囲気にさえ見える。
「な、何?皆。なんか、鼻息が荒いけど…」
「主人よ!我に…我に!」
「いや、我にだ!」
「我にお願いする!」
7名の男性竜王達が、何かを求めてくる。
「わ!?わ!?何なんだよ!?」
「主人の…主人の!」
「私の…なんだ?」
「主人の初めてをくれ!」
男性竜王達の放った言葉に、勝は首を傾げる。
「……は?初めて?何、初めてって?」
訳が分からず困惑していると、男性竜王達が私を抱え出す。
「ちょっ!?」
「そうか…主人は男性として生きていたから、わからぬのだな。だが!安心して欲しい。我らが優しく教えますので!」
「だから!何をだよ!というか降ろしてくれないか?この抱え方は、恥ずかしいんだが!?」
ファフニールが勝をお姫様抱っこしながら、男性竜王達と一緒に歩き出す。
彼等が向かっている先は、王族用の寝室がある方だ。
すると、ブラック達を含めた女性竜王達八名が行く手を塞ぐ。
なんか皆、顔が凄い怖い。
「ちょっとアンタら…ナニしようとしてるの?」
「べ、別に!我が主人を寝室にお連れして、休ませようかと…」
「あら、そう。なら、それは私達がやるから、ご主人様を離しなさい。」
「いや!我らが連れていく!」
男性と女性で睨み合っている。
あれ?これってまさかの奪い合い?
私をめぐっての?
どうしてこうなった?
いや、その前に!
初めてについて詳しく教えてくれー!
「こら!お前達!ナニをしようとしてるのかわからんが、争いはするなよ!」
「大丈夫です、ご主人様。ご主人様の貞操は、私達が護りますから!」
ティアマトが言った言葉、『貞操』というワードを聞いて、ファフニール達の目論見を察する。
「貞操!?…ま、まさか!ファフニール達は、私を寝室に連れ込んで、性行為でもするつもりだったのか!?」
「誤解です!我が主人よ!」
「なら何なんだよ!」
「交尾です!」
「同じだよ!!」
「やらせないわ!ご主人様の貞操は、私達が奪う!」
「さっきと言ってる事逆じゃねーか!」
『初めて』の意味をようやく理解する。
そして思い知った。
流石、強欲なドラゴン達だ!
この世に1つしかない『主人の初めて』を皆で奪いにくるとは!
「ご主人とは、我らが!」
「ご主人様とは、私達が!」
両軍が同時に言う。
「
「
「もう隠す気ねーな!?お前ら!」
ドラゴン達が自分の事を好きでいてくれるのは嬉しいが、流石に男女が激突するのは避けたい。
「仕方ない。少々荒っぽいが!」
勝は、アイテム空間から手のひらサイズの赤い石のようなアイテムを取り出すと、
「ファフニール!」
「なんでしょう?ご主じ──」
「許せ!」
ファフニールの顔に、思いっきり赤い石を叩きつけた。
その瞬間、割れた赤い石から、まるで水風船が割れたかのように砂金がドサッーと溢れ出した。
「ゴハッ!?」
ファフニールが砂金の波に飲まれ、同時に勝が素早く脱出する。
突然の事に、周りの竜王達が驚き、動きを止める。
スタッと、着地した勝が、身体に付いた砂金を払いながら言う。
「そう言えば、まだお前達に説明してなかったな。『貯金箱』の事。」
勝が再び赤い石を取り出し、竜王達に見えるように持つ。
「コレ、なんだと思う?」
竜王達が首を傾げる。
どうやら知らないようだ。
「コレは、『賢者の石』だ。名前ぐらいは、聞いた事あるだろう?」
「確か、黄金が湧き出る石だと、聞いた事があります。」
「そうだ。しかし、ユグドラシルでは少し違う。この石はな、金貨や宝石を吸い込んで貯める事ができるんだ。ただ、吸い込まれた物を取り出すには、石を破壊しないと取り出せない仕様なんだがな。」
そう言うと、アイテム空間からジャラジャラと赤い石が大量に出てくる。
「主人よ!ま、まさか、その石全てに!?」
「当然!他のギルドメンバーと違って、私はユグドラシルに毎日ログインして、
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ゲーム内の通貨(金貨)はアイテムの購入や鑑定、ギルド拠点の維持管理費、自動POPしないモンスターの召喚用、一部魔法を発動するための媒介、アイテムを製作するための費用、死んだNPCの復活費用など様々な用途がある。
ユグドラシルの世界設定として、
世界を探索して欲しいという製作サイド(運営)の願いがある為、モンスターがばんばんお金をドロップする設定になっている。これは製作系の職が充実しており、
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「来る日も来る日も冒険に行ってはモンスターを狩り、ダンジョンに潜る!そしてアイテムや金貨がたまり、宝物殿に預け、出撃してはまたアイテムが貯まる!そして預ける!貯まる!預けるの繰り返し!最後には、宝物殿の守護者である『パンドラズ・アクター』から、『勝様の宝物庫がいっぱいです!アイテムを整理するか、減らして下さい!』とメッセージウィンドウで言われる始末!」
さらに、ジャラジャラと賢者の石が出てくる。
「預け場所に困った私は、『賢者の石』や『サンタさんのプレゼント袋』、『盗賊の財布』といった『収納アイテム』に目を付け、ひたすら詰め込んだ!例えば宝石!アクアマリン、アメジスト、エメラルド、オニキス、オパール、ガーネット、琥珀、サファイア、ダイヤモンド、トパーズ、ターコイズ、トルマリン、翡翠、ペリドット、ムーンストーン、瑪瑙、ラピスラズリ、ルビー、後その他いろいろぉ!」
勝が息を切らしながら喋る。
賢者の石やサンタさんの袋、盗賊の財布などの収納アイテムがドサドサと、勝のアイテム空間から出てくる。
「ゼー…ゼー…他にも、金(ゴールド)、銀(シルヴァー)、銅(カッパー)、鉄(アイアン)、鋼(スティール)、白金 (プラチニウム)、青銅(ブロンズ)といった貴金属!さらにさらに!超々希少金属である七色鉱と呼ばれた、アポイタカラ、ヒヒイロカネに続き、他のギルドに占領されていた土地にこっそり侵入して、その土地にあるセレスティアル・ウラニウムまで集めた!」
勝が、設置型のセントリーガンを幾つか出すと、セントリーガンの後ろから伸びているチューブを、サンタさんのプレゼント袋や盗賊の財布に突っ込んでいく。
それと同時に、大量に出した賢者の石を、ギュム!ギュム!と、1つの塊のように圧縮させる。
「ご主人様…?何をなさって…」
「ゼー…ハー…ゼー…ハー…つまり!何が言いたいかと言うと、そろそろ所持品を大解放しないと、アイテムが持てなくて困るのさ!だから!今!ここで!お前達に!くれてやる!」
「「「え?」」」
「人を勝手に
セントリーガンが、サンタさんの袋や盗賊の財布から宝石や金貨を吸い上げ、それを弾丸のように撃ち始める。
それと同時に、スキルで圧縮された賢者の石を、竜王達の居る方角に、勝が投げた。
圧縮されていた賢者の石に、セントリーガンの弾丸が命中し─
中身が一斉に弾けた。
竜王達に、宝石や金貨が雪崩のように押し寄せる。
「ギィヤァァァァァァァ!?」
宝石、金貨、砂金、その他貴金属が大量に降り注ぎ、竜王達が生き埋めになる。
「ザマァァwwアーハッハッハッww」
勝が、財宝に埋もれた竜王達を見ながら笑う。
流石がブラックの産みの親、というべきだろうか。
強欲で知られる
居ます!今、ココに誕生しました!
「フー…フー…フハハ!久しぶりに笑った…アンデッドの状態だと、ここまで楽しい気持ちにはならないからなー。チョー新鮮だわw。その財宝はお前達にくれてやるから、後片付けお願いな!私は汗かいたから着替えてくる。」
竜王達を大人しくさせた勝は、試合場から出ると王族用の部屋に移動する。
シャワーを浴び、着替える軍服をどれにするか考える。
その間、生き埋めになっていた竜王達と、巻き込まれたブラック達が這い出て、試合場を整地し始める。
「さ、流石が我らの主人…財が桁外れじゃ!」
「宝石って、弾丸になると痛いのね…」
「金貨や財宝に恐れを抱く日が来ようとは…」
竜王達がめちゃくちゃになった試合場の整地をしていると、ブラックが何かに気付く。
「皆様!外から人間の気配です!」
竜王達の動きが止まる。
全員が目で合図を送り、臨戦態勢をとる。
どんな敵が来てもいいように身構えるが─
「勝殿ー!例の書文ができたので、持ってきたぞー!」
「あの声は…王国戦士長か。」
「勝殿ー?居ないのかー?せめて、ブラック殿だけでも着て欲しいのだがー?」
「コッチだ、王国戦士長!私達は
ちなみに、王国の王城からなら、
何故なら、屋根がないからね!
ガゼフが通路を通り、試合場前の鉄柵扉まで来る。
「おおおっ!?す、凄いな!これは!」
ガゼフが、
「全て、ご主人様の財だ!凄いだろう?」
「勝殿の!?それは本当なのか!?」
試合場の鉄柵扉を挟んで、ガゼフとブラックが話す。
「それが例の書文か?」
「ああ。国王陛下の直筆の書文だ。勝殿に渡して貰えないか?」
「了解した。ご主人様に渡しておく。」
「ところでブラック殿。後ろの御仁達は誰なのだ?」
「ん?あー、この方達は竜王様達だ。人の姿になっている。」
「な!?ファフニール殿やウロボロス殿達か!?」
「やあ!王国戦士長。我の背中の乗り心地はどうだったかな?」
「陽光聖典との戦いの時に、
「戦士長。あの時はどうも。」
ガゼフが竜王達と挨拶を交わす。
「驚いた…皆、人の姿になれたのだな。」
「昼間は王都の民を驚かせてすまなかった。我が主人が、我々が人の姿になれる事を知らなかったのだ。」
「なるほど、そうであったか。しかし、昼間の1件は既に解決しているので御安心を。勝殿が私の説教を素直に受け入れてくれていたせいか、周りの人達も、そこまで勝殿の事を怖がらずに済んでたようだったしな。」
ガゼフと竜王達が談笑していると、王族用の部屋へと通じている扉がガチャリと開き、『何も知らない』勝が戻ってくる。
「ジャーン!ブラックに合わせて、黒い軍服にしてみた!どう?似合ってい──」
勝とガゼフの目が合う。
ガゼフは、一旦ブラックを見て、再び勝に目を向ける。
「えっと…ブラック殿?あの…ブラック殿にそっくりな女性は…」
ガゼフが困惑している。
「ブラック。」
「え?あ!ハイ!」
ニコッとした笑顔で、勝がブラックに指示を出す。
「王国戦士長を捕まえて。」
その瞬間、鉄柵扉越しにいたはずのブラックが、一瞬でガゼフの背後に移動し、ガゼフを後ろから捕まえる。
竜王達が鉄柵扉を開け、そこにスタスタと歩きながら、勝が笑顔で近づいてくる。
「み〜〜た〜〜な〜〜?」
「ブラック殿!?これは!?待ってくれ!私は何も見てない!見なかった事にしてく─あああああ─!」
────────────────────
─とある馬車内にて─
「それでセバス?これからの予定は?」
「はい、たっち・みー様。予定通りいけば、3日で王都に着く予定になっております。予定通りいけば、ですが。」
「ソリュシャンの報告通りなら、今、我々の馬車を運転している男が盗賊団の仲間で、我々の馬車を仲間達と襲撃するかもしれない、との事らしいが?」
「はい。約2、3時間後に襲撃ポイントに到達します。そこで私達の馬車を停め、待ち伏せていた盗賊団の仲間達が襲撃、物品あるいは人間を攫う予定のようです。」
「盗賊団が襲撃して来た際は、私が相手をするでありんす。たっち・みー様とヘロヘロ様は、そのまま座ったままで大丈夫でありんす。」
「うん。ありがとう、シャルティア。でも、ちょっと怖いですね。この異世界に来て、『初めての戦闘』になるかもしれない訳ですし。」
「私とセバスは戦士職ですし、戦闘メイドのソリュシャンに、階層守護者のシャルティアまで居るんです。大半の敵は大丈夫だと思いますよ。ヘロヘロさん。」
「たっちさんは…その…平気なんですか?人を殺す事に、恐怖は無いんですか?」
「……平気ではありません。慣れているだけです。警官という職業は、荒事が付き物ですから。」
「そうですよね…。私は怖いです。人間を殺す事に、なにも罪悪感を抱かなかったらどうしようって。」
「ヘロヘロさん。気持ちはわかりますが、何の罪もない人間を殺す訳ではないんです。これから会う相手は悪党です。他人を平気で殺し、相手の人生を平気で奪う。そんな奴らを相手にするんです。何も躊躇う必要なんてありませんよ。」
「そうですよね…悪い奴ら、なんですよね…」
「御安心をヘロヘロ様。私、このソリュシャンが、ヘロヘロ様をお守りいたしますわ!」
「私もいるでありんす!至高の御方の1人であるヘロヘロ様には、人間達を指一本触れさせないでありんす!」
「みんな…」
「ヘロヘロ様。今の貴方様は『メイド』の姿でごさいます。無理に戦う必要はごさいません。戦闘は、私やソリュシャン、シャルティア様におまかせすれば大丈夫かと。」
「うん…ありがとう。みんな…」
「大丈夫ですよ、ヘロヘロさん。何とかなりますって。」
───────────────────
「なるほど。財宝を鑑定中に、うっかり『呪われた箱』を開けてしまい、人間の姿になってしまったと…」
「そう言う事なんだ。まさか、安全を確かめるとか言ってた自分自身が呪われて、しかも人間の姿になってしまうとは…情けないにも程がある。」
王国戦士長には、財宝の鑑定中にトラブルが起きて人間になった。という感じで説明した。
「しかし、元は人間だったという事は、既に勝殿達から聞いてはいたが、まさか勝殿が女性だったとは…世の中、分からない事だらけだな。」
「ガゼフさん。できれば、私が人間になっている事は、誰にも話さないでくれないか?」
「それは構わんが…明日の授与式はどうするのだ?」
「明日の授与式には参加します。呪いをどうにかして解除して、元の姿に戻りますから。」
「人間の姿のままでは駄目なのか?」
「駄目だな。私は首無し騎士デュラハンです。人間の姿は、あくまで一時的なもの。また直ぐに、デュラハンの姿に戻っちゃうのに、人間の姿で授与式にでたら、いろいろ誤解が発生して、ややこしくなりますから。」
「そうか…それは少し残念だ。勝殿とは、こうして今後も直接会話したいと思っていたのでな。蒼の薔薇の皆も、勝殿と直接会話したいと、言っていたぞ。」
「そうですか。なら、たまに人間に戻るのも、アリかもしれませんね。ところで戦士長。」
「何かな?勝殿。」
「いろいろ説明するために拠点内に連れ込んだが、時間は大丈夫か?」
「む!確かに。では、私はこれで。」
「いろいろ感謝しているぞ、王国戦士長。貴方には、世話になりっぱなしだな。」
「何を言う!勝殿。貴殿は私の命の恩人だ。異形種だろうと人間だろうと、そこは変わらない。」
「そうか。では、また。明日の授与式で。」
「ああ。また明日会おう。」
王国戦士長が立ち去る。
それを見届けたブラックが、勝に質問する。
「ご主人様、明日の授与式はどうするのですか?」
「『代役』を使う。アインズに連絡して、パンドラズ・アクターをコッチに来させよう。ブラック、お願い。」
「えっと…ご主人様。」
「ん?何?ブラック。」
「今のご主人様なら、ご自分で連絡できるのでは?」
「あ!そうか!そうだよな!なら…えっと…
初めて
そもそも、現実世界では電話すら使った事がない。
メールでやり取りして連絡をもらっていた自分には、電話に近い
「えっと…も!もしもし!ア、ア、アインズさんですか!?」
「うん?ブラックか?どうかしたのか?落ち着きがないようだが?」
繋がった!どうしよう!?本当に繋がった!
「べべべ、別に!大した事じゃねーよ!気にすんな!」
「ちょっ!?本当に大丈夫か?なんか、いつもと様子が変だぞ!?」
「うるせぇ!コッチは初めての
「はぁ!?」
「ああ!もう!気付けよバカ!私はブラックじゃないんだよ!」
「え?それはどういう──」
「私は竜之勝だ!理由あって、人間の状態で話てるんだよ!」
「はぁ!?」
「うるせぇなぁ!!とにかく、ナザリックに連絡して、パンドラズ・アクターをコッチによこせ!事情はその後話すから!」
「え!?でも本当に、勝さんなんです──」
「早くしろ!
「はい!わかりました!」
しばらく、深呼吸をして、呼吸を落ち着かせる。
「やった…遂にやった!私は悟と会話したんだ!(๑•̀ •́)و✧ヨッシャァァァァァァ!!」
ガッツポーズしながら叫ぶ。
人生初の体験に、興奮せずにはいられなかった。
───────────────────
「お待たせしました!お久しぶりです!勝様!」
「おお!パンドラズ・アクター!久しぶり!ナザリックが異世界に転移してから、初めてじゃないか?こうして面と向かって話の。」
パンドラズ・アクターと勝が敬礼する。
両者とも軍服なので、とても違和感がない。
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パンドラズ・アクターとは、
ナザリック地下大墳墓、宝物殿の領域守護者であり、財政面の責任者でもある。
外見は、
顔はピンク色の卵のようにツルリと輝いており、毛は一本も生えていない。
顔にはペンで丸く塗りつぶしたような黒い穴が3つあるだけ。
衣服は、
アインズ・ウール・ゴウンのギルドサインの入った帽子を被り、欧州アーコロジー戦争で話題になったネオナチ親衛隊の制服に酷似した軍服を着用している。
性格は、
「アクター(舞台役者)だからオーバーアクションを取るべき」
製作当時のアインズ(モモンガ)が格好いいと思って「そうあれ」と設定したため、一々仰々しいオーバーなアクションとポーズを取る。
頭脳は設定上ナザリックトップクラスであり、保有する能力(後述)も非常に応用力が高く、場合によっては守護者全員分の働きができるほど優秀である。
マジックアイテムフェチであり、宝物殿に1人でいても可笑しくないように、マジックアイテムに関することだけでご飯が食べれるという設定を持っている。
強さは、
ドッペルゲンガーの能力で、「他者をコピーし、その能力の80%の力で使用できる」。
パンドラズ・アクターはその能力で、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー全員の外装をコピーしている。
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「アインズ様から聞いた情報どおり、人間のお姿になっているのですね。」
「ああ。コイツのせいでな。」
玉手箱を見せる。
「おお!?またしても珍しいアイテムをお見つけになったのですね!ふむふむ…確かに。これはユグドラシルにはなかった代物かと。」
「マジで!?異世界産のアイテムかよ。」
「あ!そうでした。勝様に、言わねばならない事がありました!」
「ん?何?」
「大変、申し上げにくいのですが!勝様の宝物庫がいっぱいです!中身を減らしていただかないと、私が勝様の宝物庫の整理ができません!」
「わかった、わかった!今度やるから!今ようやく、所持品枠が空いた所だから!」
「早めにお願いします。勝様の宝物庫には、私ですら把握していないアイテムが山ほどありますからね!早く鑑定したくてウズウズするんですよ!」
「ハイハイ。で?本当に、私に変身できるのか確かめたいんだが?」
「(ロ_ロ)ゞカシコマリマシタッ!!では、少々失礼して…」
パンドラズ・アクターの身体がグニョグニョと変形し、首無し騎士デュラハンの姿になる。
「おお!凄い!私の姿になった!」
「お褒め与り光栄です!」
「よし!パンドラズ・アクターよ!お前に重大な任務を与える!」
「はっ!」
「明日、アダマンタイトプレートの授与式が行われる。その授与式に、私の代わりに出席して欲しい。理由はもう、言わなくてもわかるよな?」
「ハイ!わかっておりま──」
「パンドラズ・アクター!私の姿の時に喋ったりするな!了解や賛成の時は、Goodポーズだ!間違いや否定は、腕をクロスして×ポーズだ!わかったか!」
「ハイ!わかって──」
「だから喋るなって!」
なんだか不安になって来た。
本当に大丈夫か!?
大勢の人間達の前で、変な事しでかさないか、超不安なんだが!
「はぁー…とにかく、私の演技指導は、ブラック達や竜王達に任せてある。私はカルネ村に行き、義援金の配達と、モモンチームに直接会ってくる。ブラック達を連れていくと、カルネ村の人達にバレちゃうからな。ブラック達も留守番だ。すまないがパンドラズ・アクターをよろしく頼む。」
「はい。ご主人様。お気を付けて!」
「ああ。コシュタバワーで転移後、
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─カルネ村から数十キロ離れた森─
森の中を、ある部隊が進軍していた。
12人程度で構成される部隊。隊員全員が英雄級の実力を持ち、非常に強力な装備で身を固めている、スレイン法国最強の部隊。
その名を『漆黒聖典』。
彼等は、陽光聖典を撃退したというアンデッドを探しに、カルネ村を目指していた。
隊長の『第一席次』
武装の割にみすぼらしい槍を持つ男性。
『第二席次』
レイピアを持った男性。
『第三席次』
魔術師のような格好の男性の老人。
『第四席次』
天使のような雰囲気を感じさせる格好をした女性。
『第六席次』
大剣を持った男性。
『第七席次』
学生服のような女性。
『第八席次』
両手に盾を装備したガタイの良い男性。
『第九席次』
足に短剣、腕に鎖を巻いた男性。
『第十席次』
斧を持った戦士の格好の男性。
『第十一席次』
デカい魔女帽子を被った、露出過多な女性。
『第十二席次』
覆面を被った、全身アーマータイツの男。
そして、彼らに護られながら一緒に行動している、
『カイレ』
チャイナ服をきた老婆。
「本当に確かなんですか?『第七席次』。貴方の占いの結果は?」
「確かよ。首無し騎士デュラハンは必ず現れる。そう、占いの結果がでてる。」
「数日経過したのに、まだ同じ村に居るって事は、その村が住処なんじゃねーのか?」
「それは分かりません。ですが、もしデュラハンが現れた場合は…わかっていますね?カイレ様。」
「ああ。わかっておるぞ。デュラハンがドラゴンを召喚する前に操れば良いのじゃろ?」
「ええ。デュラハンが
「村人はどうすんだ?巻き込んでOKなら、派手に暴れるが?」
「アインズ・ウール・ゴウンなる味方、あるいは組織がいるらしいので、目立つ行為は避けましょう。深夜に村に侵入し、デュラハンを探します。それで良いですか?」
「もし、村人に見つかったら?」
「場合によっては、尋問する。奴らの仲間なら、拷問してでも居場所を吐かせるさ。」