首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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第20話 血死戦

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──盗賊団アジト──

───夜九時半───

 

 

盗賊団がアジトの洞窟の奥に立て篭り、シャルティア達を待ち伏せる作戦をとっていた。全員が武器やクロスボウを手に取り、防護用の簡易な柵を盾代わりに設置している。

 

「本当なのか?アンデッド複数と騎士が、アジトに侵入したと言うのは?」

 

「本当だ!しかもかなり強いらしい。アジトの入口を見張っていた奴らを一瞬で殺したそうだ!」

 

「だが、あの方にかかれば、侵入者もおしまいだろうさ。なんてったって、あのガゼフ・ストロノーフと互角に渡り合った剣士だからな。」

 

「用心棒として雇ったかいがあったぜ。」

 

「念の為、侵入者をいつでも攻撃できるようにしておけよ。」

 

「おう!」

 

 

一方、シャルティアとたっち・みーは、盗賊団アジトの洞窟内最奥を目指して歩いていた。

 

シャルティアの部下である、<吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)>が2名も付き従っている。

白蝋じみた血の気の完全に引ききった肌にルビーのごとく輝く真紅の瞳を持ち、やけに赤い唇からは鋭い犬歯が僅かに姿を見せている、非常に美しい成人女性の外見をしている。

 

「ふふふっ!人間共は、洞窟の奥で待ち構える気でありんす。如何なさいますか?たっち・みー様。」

 

「シャルティアは盗賊団の殲滅を。私は、囚われている人達の救出を優先させてもらうよ。」

 

「畏まりましたでありんす。」

 

「それと、部下を1名、アジトの入口に置いておけ。見張り役兼、逃走しようとした盗賊団の人間を始末するためにな。」

 

「了解でありんす。おい、お前。聞いていたでありんしょう?お前は入口で待機でありんす。」

 

「はっ!」

 

部下の1人が入口へと引き返そうとしたとき、たっち・みーが声をかける。

 

「あ!それと、外から人間が来たときは報告しろ。盗賊団以外の人間は、なるべく殺したくない。」

 

「はっ!」

 

「では、行くぞシャルティア。誰一人、盗賊団を逃がす訳にはいかない。」

 

「はい!でありんす。」

 

「ところでシャルティア。その<鮮血の貯蔵庫(ブラッドプール)>は、ブラッドドリンカーの職業の能力か?」

 

たっち・みーが、シャルティアの頭上に浮いている、血の水球を指さす。

 

「はい、でありんす。殺した人間の血を貯め、MPの代用やその他様々な物にも代用可能でありんす。」

 

「そういえば、勝さんも似たような技を使ってた事があるような…」

 

「勝様の種族スキル、首無しの血(デュラハン・ブラッド)でありんすね。模擬戦で勝様と戦った時に、見た事があるでありんす。」

 

「模擬戦?そんなの、いつの間にやってたんだ?」

 

「ナザリックが異世界に転移する1週間程前でありんす。思い出作りに…と言って、アインズ様と御一緒に、私と模擬戦を行っていたでありんす。でも、何故思い出作りなのでありんすかね?」

 

「思い出作り…か。勝さんと戦ったのは、その時が初めてだったのかい?」

 

「そうでありんす。」

 

「なら、シャルティアと戦っておきたかったんじゃないか?君との戦闘も、時間が経てばいい思い出になるからね。」

 

「そうかもしれませんが、勝様はとても悔しがっていたでありんす。私に勝てなかったからだと思いますが…」

 

「勝さんは、シャルティアに勝てなかったのか?」

 

「アインズ様が、『10対0で勝さんの負け、と言ってもいいくらい相性が悪い』と評価を出していたでありんす。」

 

「ええ!?そんなに!?」

 

「勝様の首無しの血(デュラハン・ブラッド)は、鮮血の貯蔵庫(ブラッドプール)で吸い上げて無効化できるでありんすからね。MPがモリモリ回復するようなものでありんす。勝様の、頼みの召喚魔法も、私のスポイトランスで、召喚したモンスターから体力を吸い取れるので、体力が減らないでありんすから、勝様の決め手がなくなるのでありんす。」

 

「となると、正面からの殴り合いしかない訳か。スポイトランスを所持している分、シャルティアが圧倒的に有利と。」

 

「はい、でありんす。ただ、私と勝様が共闘した場合は、最強コンビになる!と、アインズ様が仰っていたでありんす。」

 

「あ、そうか。勝さんの血で、シャルティアが常にMPが回復状態、体力も召喚モンスターを狩れば回復できる状況になるのか。確かに、厄介だな。」

 

「そういえば、勝様が気になる事を仰っていたでありんす。」

 

「気になる事?」

 

「はい。確か、『【Lv100じゃなければ、竜王合体でシャルティアに勝てた。】』と、仰っていたでありんす。どういう意味でありんしょうか?Lvが下がっていれば勝てたという意味に聞こえるのでありんすが…。」

 

「竜王合体!?そんな技やスキルが存在するのか!?めちゃくちゃ気になる。よし!今度、勝さんに見せてもらって──む?」

 

三人が奥に向かって進んでいると、1人の男が待ち構えていた。

外見は、ほっそりとした体躯だが、肉体が鋼鉄のように引き締まり、筋肉トレーニングではなく戦の中で鍛え上げた身体をしている。

髪は適当に切っているため、ボサボサに四方に伸びている。

鋭い瞳は茶色。顎には無精髭がカビのように生えている。

 

服装は鎖着チェインシャツと、ベルトに武器の刀と、陶器のポーション瓶が入った皮のポーチを下げている。

アクセサリーに、防御魔法の込められたネックレスと指輪を装備している。

 

「誰だ?」

 

たっち・みーが、相手に問う。

 

「俺の名は、ブレイン・アングラウス。用心棒をしている者だ。」

 

「剣士…か?もしや、武技が使えるのかな?」

 

「俺の名前を知らないのか?あの最強の戦士とまで呼ばれた、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと互角に渡り合った人物として、有名な筈なんだがなぁ…。」

 

「ほう。それは良い事を聞いた。シャルティア。」

 

「はい。」

 

「この男は捕獲する。武技とやらを扱えた戦士長と互角なら、こちらも武技が使えるのだろう。念願の武技使い、アインズさんが調査したいと言っていたからな。」

 

「了解でありんす。という訳で、人間。大人しく捕まるでありんす。」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

──カルネ村──

──深夜0時頃──

 

 

「私が、首なし騎士デュラハンだ。」

 

リュウノが言い放つ。

口からは血が垂れており、時折刺された胸からも血が吹き出している。

剣を杖代わりにして、身体を支えている。

 

「心臓を失っても、こうやって活動しているのが、何よりの証拠だろ?」

 

さも当然、と言った感じで語り続けるリュウノに、謎の冒険者集団は警戒を強める。

 

「なるほど。貴方がデュラハンだったとは。人間のフリをしていたのですね。まんまと騙されました。」

 

「それはコッチのセリフ。まさか、私を狙っていたとは思わなかった。おかげで、後ろから刺されてこのザマだ。死にかけの1歩手前だよ。一応、奇襲作戦は成功した様だし、喜べば?スレイン法国の皆さん?」

 

「何!?スレイン法国だと!?」

 

リュウノが言った、スレイン法国という言葉に、モモンは驚き、謎の冒険者集団は表情がかわる。

 

「何故、我々がスレイン法国だと?」

 

「ちょっと考えればわかる。私が王都に着いたのが今日の朝、転移を使用してカルネ村に着いたのが数時間前、時間的に辻褄が合わないんだよ。私が今日、カルネ村に行く事は誰にも伝えてないんだぜ?」

 

例え、王都の冒険者が追ってくるにしても、行き先が分からないのでは追ってこれないはず。

エ・ランテルの冒険者でも同じだ。エ・ランテルからカルネ村までは、徒歩だと1日かかる。彼らが馬などを連れている形跡もないため、たった数時間で追ってくるのは不可能なのだ。

 

「なのに、アンタらは私を探してカルネ村まで来た。という事は、首無し騎士デュラハンがカルネ村に居ると思いこんでたって事じゃん?王国以外で、カルネ村とデュラハンの共通点を知っているのは、スレイン法国ぐらいだからな。」

 

「なるほど。バレたのなら仕方ありません。ここで貴方を確実に殺しておきましょう。全員、戦闘態勢!」

 

スレイン法国の冒険者集団のリーダーらしき男が命じる。仲間達が武器を構える。

 

「第三、第四、第十一は後方支援。第十二はカイレ様の遺体を確保。第二、第六、第八、第九、第十はデュラハンへ。」

 

「隊長、あっちのカッパーの冒険者はどうします?」

 

「あちらは、私が殺します。みんなは、デュラハンと思われる女の始末を優先に。」

 

「了解。」

 

隊長と呼ばれた男がモモンの前に移動し、他の仲間達五名がリュウノを半円状に囲みだす。

他三名は後方から魔術か何かで支援する態勢をとる。

そして、覆面を付けた男がカイレと言う名の老婆の遺体に近づいていく。

 

「リュウノさん!逃げて!」

 

モモンが必死に叫ぶが、リュウノが首を振る。

 

「(逃げれるならすでに逃げてたさ!立ってるだけがやっとなんだよ!コッチは心臓を破壊されて、首なしの血(デュラハン・ブラッド)で血液動かして無理矢理生命活動を維持してんだぞ!下手に動くと、血の操作が上手くできなくなるから、逃げる余裕すらないんだぞ!)」

 

そもそも心臓は、血を動かし、全身に血を流すためのポンプのような機能をもつ臓器である。

本来、普通の人間は、心臓が停止すると血流が止まり、全身に血が巡らなくなり死亡する。

 

が、リュウノは首なしの血(デュラハン・ブラッド)を発動させ、自力で血を生み出し、血を動かしているのだ。

無論、かなりの集中力を必要とするため、治療もしていない状態での戦闘行為はかなり辛い。

少しでも力加減を誤ると、傷口から体の外に血が吹き出したり、口から漏れ出たりして、血が上手く流れず、意識が落ちそうになるのだ。

せいぜい、立ったまま体外に漏れ出た血を操りつつ、防衛するのがやっとな状態である。

 

「(我ながら迂闊だった…。チャイナ服がワールドアイテムである事は知っていた。あのチャイナ服に編み込まれたドラゴンの刺繍は、良く覚えてたから、一発目で見抜いたのに…。案内をするフリして、隙を見てモモン達に知らせるつもりが、いきなり刺してくるとは思わなかった。)」

 

リュウノは、自分の胸に空いた傷口を見る。

 

「(というか、私の自慢の防御力を貫通する槍とか、絶対神器(ゴッズ)級だろ!私の黒軍服は、聖遺物(レリック)級を若干強化した防具だし、武器は伝説(レジェンド)級どまり…。コイツらの装備が全て神器(ゴッズ)級だとしたら、かなりツラい戦いになるじゃねーか!)」

 

相手がプレイヤーなら、尚更勝ち目がない。

しかし、勝算がない訳でもない。

 

「(邪剣で学生服の女は切り殺せた。老婆は、私の血の鞭鎌(ブラッド・ウィップサイス)で暗殺できた。もしや、1番強いのは隊長で、後は雑魚なのか?いやしかし、そう思い込むのはまずいか?老婆にワールドアイテムを装備させてたから、老婆が後方支援タイプでたまたま弱かった可能性もある。邪剣が実は強いランクの武器だった可能性も…とにかく、常に最悪の状況を考えて動くべきか…。)」

 

リュウノは改めて、自分の正面に立っている5人の敵を確認する。

 

レイピアを持った小柄な男。

大剣を持った青年の男。

両手斧を持った髭を生やした大男。

片手に大盾、片手に殴り盾を持った屈強なガタイの男。

腕に鎖を巻き、片足に短剣を装備した男。

 

リュウノが邪剣を構える。

 

「(鎖の男以外は近距離タイプ、さあ、どう来る?)」

 

リュウノが様子を見ていると─

 

「何の騒ぎですか!?」

「姐さん!英雄様が怪我してますぜ!?」

 

ゴブリン達を連れたエンリが現れる。

リュウノが慌てて叫ぶ。

 

「エンリさん!来ちゃダメだ!コイツら、スレイン法国の連中だ!」

 

「ウソ…まさか、スレイン法国!?」

「何だって!?姐さん!下がって!」

 

「チッ!余計な奴らが来ましたか…だが、まずはデュラハンの始末が先です。」

 

スレイン法国の隊長が合図を出す。

 

「攻撃開始!」

 

合図が出るなり、5人が一斉にリュウノに走り出す。隊長も、モモンに向かって走る。

 

「カッパーの冒険者!悪いが死んでもらう!」

「カッパーだからと、舐めてもらっては困る!」

 

モモンのバスターソードと隊長の槍が、ぶつかり合い、激しい攻防を始める。

 

「なるほど!確かにカッパーのランクではない身体能力と強さです。しかし、戦士としての技量がなってないですね!」

 

隊長がモモンの一瞬の隙をつき、槍がモモンの胸に突き刺さる。

 

「ぐっ!?この!」

 

突き刺さった槍をものともせず、モモンがバスターソードを振る。

 

「─っ!?武技・回避!」

 

隊長が驚きながらも、バックステップで攻撃を躱す。

 

「馬鹿な!貴方も刺されて平気なのですか!?」

 

「悪いが私には、刺突武器に耐性があるんでね!」

 

「まさか、貴方もアンデッドか!?」

 

「答える義理はない!手早く片付けさせてもらう!」

 

 

一方リュウノは、必死に防衛に徹していた。

 

レイピア、大剣、両手斧の三人が、先に攻撃するため接近してくる。

 

「スパイクシールド!」

 

リュウノが、棘付きの赤い盾を血溜まりから三つ、瞬時に出現させ、凝血させる。

 

「シールドアタック!」

 

出現した棘付き盾が、三人に向かって突撃していく。

 

「うお!?」

「ぬぅ!?」

 

大剣と両手斧の二人が、突然現れた盾を避けれず、持っていた武器で防ぐ。が、耐えられずに突き飛ばされる。

すると─

 

「援護します!リュウノ様!」

「斧野郎は任せるっす!」

 

魔法で姿を消していたのだろう。突き飛ばした二人に、いきなり姿を現したルプとナーベが向かっていく。

 

「武技・流水加速!」

 

レイピアの男が、棘付き盾を横に躱し、信じられない速度で、リュウノにレイピアを突き刺そうと迫る。

 

「ッ!?パリー!」

 

リュウノが咄嗟にスキルを使用し、邪剣を振り上げ、レイピアを弾く。レイピアの男が大きくよろめく。

そのまま斬り伏せようとした瞬間、リュウノの両手に鎖が巻き付き、グイッと引っ張られる。

突然引っ張られたせいで、一瞬だけ集中力が切れる。

 

「ぐっ!?ガハッ─ッ!?」

 

リュウノが、口から血を漏らしながら、必死に踏ん張る。

 

「今だ、セドラン!ヤツを殴り殺せ!」

 

鎖を持って、リュウノを縛り付けている男が叫ぶ。

殴り盾を振りかぶった、セドランと呼ばれた男が、雄叫びを上げながら近づいて来る。

 

「うぉぉぉォォおおおお!」

「守りを─いや、その前に!」

 

リュウノは、レイピアの男の方を向く。

 

「(確実に1人殺す!)」

 

「武技・──」

 

盾男が武技を発動させながら、目の前に迫る。

 

血の投槍(ブラッド・ジャベリン)!!」

 

レイピアの男に、リュウノが血溜まりから槍の形状をした赤色の血の塊を放つ。

 

「──盾強打!!」

 

レイピアの男に血の投槍(ブラッド・ジャベリン)が突き刺さるのと、リュウノの頭部を盾男が武技で殴るのが、ほぼ同時だった。

スイカをバットで殴ったような、重い音が鳴る。

 

「─ガッ──ハッ─」

 

殴られた瞬間、意識が真っ白になるような感覚に襲われる。

リュウノの頭からプシュッと血が出血する。殴られた衝撃で体が仰け反る。しかし、両手を鎖で縛られ、引っ張られていたせいか、後ろに倒れず、ガクリと膝をつく。邪剣が、リュウノの手から落ちる。

 

「(ああ──くそ──今のは効いた─頭が痛い───)」

 

瀕死の状態で戦っていたリュウノにとって、今の頭部への攻撃は、トドメを刺されたレベルの衝撃だった。

盾男の装備もそこそこ高いランクの物だったのだろう。

 

「チッ!俺の自慢の盾にヒビが!この女、どんだけ石頭なんだ!?」

 

殴り盾の殴った部分が破損していた。

低ランクの武器だったならば、リュウノにダメージすら与える事もできずに、粉々に砕け散っていただろう。

 

「こいつめ!」

 

盾男が、リュウノに蹴りを入れる。

リュウノが小さなうめき声を出しながら力なく倒れる。

ルプとナーベが振り向く。

 

「リュウノの様!?」

「よくも至高の御方を!」

 

二人がリュウノを助けに行こうとするが─

 

「行かせるか!」

「俺の相手が先だァ!」

 

大剣と両手斧の男二人が邪魔をする。

離れた位置からモモンが、倒れたリュウノに呼びかける。

 

「リュウノさん!しっかり!今、助けに─」

 

「戦闘中に仲間の心配ですか?余裕があるんですね!」

 

隊長が、行かせないとばかりに立ちはだかる。

 

「─ぐぅぅ!邪魔をするなぁぁぁ!!」

「デュラハンの元へは行かせません!」

 

「あ──ぐ─ゴフッゴホッ─」

「手こずらせやがって。だが、もう終わりだ!」

 

口から血を吐きながらも、必死に生命活動を維持しようと足掻いているリュウノに、盾男が近づいて、最後のトドメを刺そうとする。

それを見たエンリが、ゴブリンに指示を出す。

 

「ジュゲムさん!リュウノさんを!」

「了解です!姐さん!皆、いくぞぉ!」

 

ジュゲムと呼ばれたゴブリンを筆頭に、ゴブリン達が武器を構えながら、盾男に走りより、殴りかかる。盾男が、盾を使って応戦する。

 

「くそ!邪魔するな!ゴブリンが!」

「英雄様に手出しはさせねぇ!」

「この、うぜぇんだよ!」

「ぐあぁ!?」

「野郎!よくも仲間を!」

 

ゴブリン達が、盾男に殴り飛ばされながらも、果敢に挑み続ける。

 

その時、大剣と両手斧の男二人の背中に、弓矢が突き刺さり、二人が倒れる。

 

「ルプちゃん、ナーベちゃん!リュウノさんを助けるっス!」

 

「「はっ!」」

 

家の物陰から狙撃していたペロロンが、次の矢を装填しながら叫ぶ。

ルプとナーベが走りだすが─

 

「リュウノ様!今助けに──」

「転移の魔法を──」

 

「させぬ!石壁(ウォール・オブ・ストーン)!!」

転移阻止(テレポーテーション・ブロック)!!」

聖なる光線(ホーリー・レイ)!!」

 

魔術師の老人が、リュウノと盾男と鎖男の三人を、みんなから分断するように、魔法の石壁を作り出す。

魔女帽子の女がナーベの転移を妨害する。

天使のような女が、神聖属性の魔法攻撃をペロロンに向かって撃つ。

 

「危ねぇっス!」

「チッ!虫ごときが、小癪な真似を!」

「コイツら、なんでリュウノ様ばかり狙うっすか!?」

 

スレイン法国の、デュラハンへの異様な殺意に、ルプが不思議に思う。

 

「デュラハンだけでも殺さねば、我々の国が危ないのだ!」

破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の召喚は、絶対にさせない!」

「国の未来のためには、あのデュラハンには死んでもらわねば困るのです!」

 

後方支援組三人が、さらに魔法を唱えようとした時─

 

「それ以上はさせませんよ!」

 

魔術師の老人の前に、ルプ達と同じように突然現れたウルベルが、老人に向かって魔法を放つ。

 

「地獄の炎よ、敵を焼き尽くせ!獄炎(ヘルフレイム)!!」

「ぬぅぐぁぁ──」

 

老人が黒い炎に包まれ、一瞬で灰になる。

 

「地獄の炎!?まさか、悪魔!?なら!天使の歌(エンジェル・ソング)!!」

 

天使のような女が、突然現れたウルベルに向かって、歌を歌い出す。

 

「聖歌ですか…耳障りですねぇ…。少し、黙れ!」

 

ウルベルの指が、何かを摘むような形を作って、横に移動させる。

すると、天使のような女の口が、チャックのように閉まる。

 

「ムグッ!?ん──ンンン!?」

「そのまま、我が力に溺れるがいい。溺死(ドラウンド)!!」

 

ウルベルが魔法を唱えると、天使の女の肺に水が溜まり、女が呼吸できなくなる。

 

「ンンッ!?──ンゴゴ!──ンゴ!」

 

女が必死に目を見開きながら、鼻から水を出そうともがく。

その時の女の顔は、もはや天使のような面影はなくなっていた。

 

「いい顔です♪その天使のような顔が壊れる瞬間を見たかったんですよ!」

 

苦しんでいる女をよそに、ウルベルがとても満足そうな顔をする。

 

「苦しいですか?なら、今、楽にしてあげましょう。破裂(エクスプロード)!!」

 

苦しんでいた女の頭がはじけ飛ぶ。

それを見た、魔女帽子の女の顔が恐怖に歪む。

 

「さて…次は、貴方の番ですね?」

「ひぃ!?」

 

ウルベルがゆっくりと、魔女帽子の女の方を向く。

その顔は、邪悪な笑みに溢れていた。

 

「あ、貴方、何者なの!?」

 

「そうですねぇ…強いて言うなら──」

 

ウルベルが喋りながら魔女帽子の女に近づいて、女の顔を手で掴む。

女が、絶望の顔になる。

 

「私は悪魔ですよ。そう、この世界で最強の、ね。フフフッ。」

 

「こ、殺さないで、下さい…降伏しますから…」

 

顔を掴まれた状態で、涙を流しながら魔女帽子の女が命乞いを始め出した。

 

「ンンン〜?仕方ありませんねぇ。まあ、貴方には色々聞きたい事もあるので、生かしておきますか。」

 

「あ、ありがとうございま──」

 

「大丈夫ですよ。後でたっぷり拷問して、死んだ方がマシだった、という気持ちにしてあげますから!」

 

笑顔で残酷な事を言うウルベルに、女は底知れぬ恐怖と凶悪さを感じ、殺されてた方が良かったと、後悔する。

 

 

「セドラン!何してる!?早くトドメを刺せ!」

 

鎖男が、リュウノの両手を縛った状態で叫ぶ。

 

「お前がやれ、ボーマルシェ!俺はゴブリンを片付ける。」

 

盾男がゴブリン達を殴り飛ばしながら、鎖男に言い返す。

鎖男がリュウノを引っ張り、石壁の近くまで移動する。

 

「ここなら、弓矢も飛んで来ねぇはず!」

 

鎖男が、片足の短剣を引き抜き、リュウノを跨ぐ。

 

「顔を串刺しにして、終わらせてやる!」

 

短剣を構え、鎖男が振りかぶる。

 

「(頭が痛い─体もきつい──もう──眠くて仕方がない──)」

 

体は、もはや限界をむかえていた。

 

「(ああ──私は、ここで終わるのか。すまない─皆──)」

 

朦朧とした意識の中で、リュウノは死を覚悟する。

 

 

 

その時だった。

 

 

「ご主人様。聞こえますか?」

 

 

伝言(メッセージ)が来た。

 

 

「(──ブラック──?)」

 

 

朦朧としていた意識が、一瞬で覚める。

 

「深夜に申し訳ありません。ご主人様が心配で─」

 

「(そうだ。何あっさり死のうとしてるんだ私は!ブラック達と約束したじゃないか!竜王達とも、死なないって約束をしていたのに!私はまだ──)」

 

「死ねぇぇぇ!」

 

短剣が振り下ろされる。

 

「─ご主人様?もしや、もう寝てしまって──」

 

「(──死ぬ訳にはいかない!)」

 

リュウノが縛られたままの両手で、短剣を防ぐ。

手のひらに短剣が食い込むのも気にせず、力の限り押し返す。

 

「死んでたまるかぁぁぁぁ!」

「お前!?まだ動けたのか!?」

 

必死に抵抗する。もはや雀の涙程度の力しか残っていないはずだが、気力を振り絞って耐える。

 

「ご主人様!?どうなされたのですか!?」

 

ブラックの心配する声がする。

 

「ぬぅぅあああああっ!」

 

叫ぶ。ひたすら叫びながら、押し返す。

短剣が顔スレスレの所を上下する。

鎖男も、リュウノに短剣を刺そうと、上から体重をかけ、必死に押し続ける。

 

「セドラン!手を貸せ!後少しなんだ!」

「わかってる!今、いく!」

 

盾男がゴブリンを引き剥がしながら、リュウノに向かって移動し始める。が──

 

「リュウノ殿!助太刀するでごさる!」

 

『森の賢王』が現れ、盾男に突進する。

そのまま、爪や尻尾、体当たりなど、怒涛の攻撃を繰り出す。

 

「今度は魔獣かよ!?次から次へと、邪魔ばかりしやがって!」

 

盾男が『森の賢王』の攻撃を盾で防ぐ。

 

「セドラン!早く来てくれ!」

「今は無理だ!そっちに行こうとしたら、背後から殺られる!」

「いいから早く!」

 

鎖男が必死に叫ぶ。

盾男は、『森の賢王』に気をとられ、鎖男を見る余裕がない。

 

「頼むから、早く!このままだと─」

「この魔獣を倒すのが先だ!」

「このままだと、俺が殺されてしまう!」

 

鎖男が必死に叫ぶのは理由があった。

何故なら─

 

首なしの(デュラハン)──(ブラッド)!」

 

リュウノの両手の傷口からでた血が、鋭い針のような形になって、少しずつ伸び始めていたからだ。

上から体重をかけて押し続けている鎖男は、押すのをやめないと、避ける事ができない状況なのだ。

 

「セドラン、頼む!早く!」

「だから待てって!」

「お願いだ!死にたくないんだよ!」

 

血の(ブラッド)──」

 

「俺もだ!だからもう少し待て!」

「セドラ──」

 

「──(ニードル)!!」

 

ブシュッという音とともに、鎖男の顔に針が刺さる。鎖男がバタリッと倒れる。

 

「ハァ……ハァ……ざまぁ見やがれ…ハァ…ゴフッゴホッ!」

 

リュウノが咳き込みながら呟く。

リュウノの両手には短剣が刺さったままである。

鎖が巻きついた状態では、自分で外すことができないのだ。

 

「ボーマルシェ?ボーマルシェ!?」

 

盾男が、ようやく仲間の異変に気付く。

 

「くそぉ!デュラハンめ!よくも!」

 

盾男が、リュウノに向かって走ろうとするが──

 

「そこまでよ!」

「動くなっす!」

 

壁を飛び越えて来たルプとナーベに武器を突きつけられ、動きを止める。

 

「くっ…!」

「盾を捨てなさい、ゴキブリ。」

「武器を捨てないと、叩き潰すっす。」

 

盾男が、両手の盾を捨て、手をあげる。

すると、魔法の効果が切れたのか、石壁が崩壊し、消えていく。

 

隊長とモモンが、戦況を確認する。

 

「そんな!仲間達が…!」

「フッ…残念だったな!お前の仲間は全滅したようだな!形勢逆転、というやつだな。」

 

モモンが勝ち誇る。

 

8人が死亡、2人が生け捕り。

残るは──

 

「後は、お前だけだな!さあ、どうする?」

 

「そうですね。なら──」

 

追い詰められたはずの隊長は、まだ笑みを浮かべている。

 

「──人質を取ります。」

 

「何?」

 

意味が分からない、と首を傾げるモモン。

その時──

 

「お前ら、動くな!」

 

突如、声が響く。

全員が、声のした方を見る。

 

「少しでも、妙な真似をしたら、この女を殺す!」

 

覆面男が、リュウノの首元に刃物を突き付けていた。

後ろから羽交い締めにして、逃げられないようにしている。

 

「あぐっ──ゴフッゴホッゴホッ!」

 

リュウノが苦しそうな声を出す。

強く締められたせいで、血流が悪くなる。口から、血が漏れる。

両手を鎖で縛られ、おまけに短剣が突き刺さった状態のリュウノには、もうほとんど抵抗する体力も気力もない。

 

「アイツ、いつの間に!」

「しまった!もう一人、かくれていたっスか!?」

 

モモンとペロロンが、突然現れた覆面男に驚愕する。

 

「俺達の仲間を、解放してもらおうか?」

 

覆面男が言う。

 

「こちらにも人質がいる事を忘れてませんか?」

 

ウルベルが、魔女帽子の女を鷲掴みにした状態で言い返す。

 

「こっちの人質は、『死にかけ』だぞ?お前達に、交渉をする時間の猶予があるとでも?死にかけの女が、後どれだけ生きていられるかを考えろよ。言っておくが、この女が死んでも、俺達は困らない。元々、殺す予定だったんだしな!」

 

「チッ…モモンさん。どうしますか?」

 

ウルベルがモモンに確認をとる。

 

「うぐぐ…」

 

モモンは悩んでいる。

 

「さあ?どうします?モモンという名の人。あの女性とは親しい間柄なのでしょう?あのままだと、本当に死にますよ?」

 

隊長がモモンを急かす。

 

「…仕方ない。ウルベルさん、ルプ、ナーベ!その二人を解放しろ。」

 

ウルベルが女から手を離し、ルプとナーベが武器を下ろす。

 

「二人とも、こっちへ!」

 

隊長が、仲間を呼ぶ。

盾男と魔女帽子の女が隊長の元へ走る。

 

「さあ!人質は解放したぞ!リュウノさんを解放してもらおうか?」

 

モモンが隊長に向かって言う。

 

「残念ですが、まだです。『第十二席次』!人質と一緒にこっちへ!」

 

「了解。さあ、立て女!移動するぞ!」

 

覆面男が立ち上がろうとするが、リュウノが全く動かない。

 

「おい!女!聞いてるのか?言う事を聞かないと、痛い目に……まさか!」

 

覆面男がリュウノの顔を見る。

リュウノがピクリとも動かなくなっていた。

揺さぶっても、咳すらしない。

 

「まさか…もう死んだのか…そんな!まだ仲間と合流していないのに!」

 

覆面男が焦る。

本来ならば、仲間達と合流してから殺す予定だったのだ。しかし、この状況では、孤立した自分が助からない。

 

「お前…リュウノさんを…死なせたな!」

 

モモンの声が、怒りに満ちている。

 

「た、隊長!助けてくれ!」

 

覆面男が隊長に助けを求める。

隊長は、しばらく何か考えていたが─

 

「…目的は達成しました。『第十一席次』、転移の魔法を。」

「…了解しました。魔法上昇(オーバーマジック)!」

「なっ!?待ってくれ、みんな!」

上位(グレーター・)転移(テレポーテーション)!」

 

隊長、盾男、魔女帽子の女が、覆面男を置き去りにして転移する。

 

「そ、そんな!」

 

覆面男が絶望する。

 

「…仲間思いかと思ったが、最低な隊長だったようだな。まあ、我々に勝てないと判断した上での行為としては、最適ではあるがな。」

 

モモンが冷たく呟く。

 

「ルプ、ナーベ。そいつを捕まえろ!」

 

「「はっ!」」

 

覆面男が取り押さえられる。

 

モモン達が、リュウノの側に歩み寄る。

 

「リュウノさん…助けられなくてすみません…」

 

「仕方ありませんよ…モモンさん。むしろ、あの瀕死の状況で、ここまで頑張ったリュウノさんを褒めるべきかと。」

 

「そうっス。俺たちも、最強装備じゃない状況で戦ってた訳ですし。今回の相手の装備が高ランクばっかりだったという、悪い状況でもあったんっスから。」

 

皆がモモンを慰めていると、エンリと『森の賢王』、ゴブリン達も駆けつけてくる。

 

「殿!リュウノ殿は死んでしまったでごさるか!?」

「そんな…リュウノさん…」

「英雄様が…死んじゃうなんて…」

 

皆、悲しい顔をする。

すると─

 

「ご主人様!ご主人様はどこです!?」

「主人よ!助けに来たぞ!」

「勝様はご無事ですか!?」

 

ブラック達と竜王達、パンドラが駆けつけて来た。

 

「ブラック!すまない…リュウノさんが…」

 

「ご主人様!?ご主人様!しっかりして下さい!ご主人様!」

「主人よ!なんて酷い傷だ!レッドよ、早く回復魔法を!」

 

レッドが、リュウノに回復魔法をかける。

 

「レッド…リュウノさんは死んでるんだぞ…回復魔法なんかかけても──」

 

 

「ハァー!死ぬかと思った!」

 

リュウノが何事も無かったかのように起き上がる。

 

「「「工工工エエエエェェェェ(゚Д゚)ェェェェエエエエ工工工!!??」」」

 

駆けつけて来たブラック達以外の全員が驚く。

 

「いや〜wマジ死ぬ1歩前だったわ。ありがとう、レッド。それと、心配かけて皆ゴメンな!」

 

「リュウノさん…死んでなかったのですか!?」

 

「勝手に殺すな!まあ、『死んだフリ』をしていたのは事実だけど、体が動かせないぐらいギリギリの状態だったし、あんまり変わんねーか。」

 

「なんて無茶苦茶な女だ!あの状況で死んだフリとか、常識外れにも程がある!」

 

覆面男が、信じられないとばかりに文句を言う。

 

「黙れ覆面男!てめぇがキツく羽交い締めにするから、マジキツかったんだぞ!まあ、お前が派手に『私が死んだ』って騒いでくれたおかげで、スレイン法国の隊長を欺けたから、チャラにしてやるがな!」

 

「まさか!その為に、死んだフリを!?」

 

「あのままだと、『私を人質にした状態のまま逃げる』つもりだって思ったんだよ。だから、人質としての役目が果たせない状況を作ったのさ。」

 

「なるほど。でも、何故ブラック達は、リュウノさんが生きてるってわかったんだ!?」

 

「えっと…竜王様達がいらっしゃるなら、ご主人様がまだ死んでない、という事になるので…」

 

「あー…なるほどね。確かにそうか。」

 

「とにかく!私は疲れた!超眠い!後の事は、モモンさん達に任せるから!私は休む!」

 

「あの、リュウノ様?1つ、聞いてもよろしいですか?」

 

「何?ナーベ。」

 

「大変、言い難いのですが…」

 

「?」

 

「ポーションを飲む余裕くらいは、あった気がするのですが?」

 

「あ。そっか。私、今人間だからポーション飲めるのか!全然気づかなかったわ。ワハハハw」

 

「リュウノさん…何やってるっスか。も〜。」

 

「ゴメンゴメンwでも、スレイン法国には困ったな〜。王都で冒険者活動し始めたら、私が生きてる事がバレるしなー…。」

 

「主人よ、我々がスレイン法国を壊滅させてきましょうか?」

 

「モモンさん〜、どうする?」

 

「おまかせしますよ。竜王達なら、ワールドアイテムの影響を受けない設定だったと思いますし。」

 

「ん〜…なら、滅ぼしてこい!…と、言いたいが、奇襲がまだあるかもしれないから、今夜はカルネ村の警護を頼む!とにかく眠い。私が安眠できる環境をお願いするぞ、竜王達!!」

 

「「「はっ!」」」

 

「パンドラ!お前は闘技場(コロッセウム)に帰れ!私の代理で、留守番しとけ!」

 

「(ロ_ロ)ゞカシコマリマシタッ!!」

 

「ブラックゥゥ!ブルーゥゥ!レッドォォ!せっかくだし、お前達も一緒に寝るぞぉ〜!私の身の安全を守ってくれー!」

 

「はっ!」「「ガウ!」」

 

「という事で、後はよろしくな!」

 

「はいはい、分かりましたよ、リュウノさん。エンリさん、お騒がせしてすみませんでした。」

 

「いいえ!こちらも村を助けて頂いた身ですから!」

 

「ありがとうございます。それと、今夜の事はご内密にして下さい。村の人達を不安にさせたくないので。」

 

「はい。分かりました。では、皆さん。おやすみなさい。」

 

「はい。ゆっくり休んで下さい。」

 

エンリ達とリュウノ達が去る。

 

「よし。まずはナザリックに連絡するか。覆面男には、いろいろ聞きたい事が山ほどあるからな。覚悟しておけよ?」

 

 

 

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