首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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第23話 授与式で並んだペット達

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──カルネ村・朝六時頃──

 

 

リュウノとペロロンは、ブラック達が作った朝食を食べていた。向かい側には、モモンとウルベルが座り、ウルベルはコーヒーを啜っている。

 

「んー!やっぱり嫁達の作る料理は最高だぜ!」

 

「久しぶりに和食を食べた気がするッス!やっぱり、故郷の味が1番ッスね!」

 

「ありがとうございます。ご主人様、ペロロン様。」

 

食材は、リュウノのポイポイカプセルから取り出した『和食材セット』から選んだ物を使用している。

 

「ホント、リュウノさんってアイテム豊富ですよね。」

「何処ぞのネコ型ロボットみたいですねw」

 

モモンが感心し、ウルベルが比喩的な例えを言う。

 

「毎日ログインしてたし、結構いろんな所へ出歩いていたからな。無駄にアイテムが溜まってて、バンバン使っていかないと、所持品枠が空かなくて困るんだよ。」

 

パンドラズ・アクターから、宝物庫の整理をお願いされているので、使えるアイテムはさっさと消費したいのだ。

 

「ズズー…あ〜味噌汁が上手い!ブラック、おかわり!」

 

「はい、ご主人様。」

 

「あ!俺もいいッスか?ブラックちゃん。」

 

「畏まりました。」

 

空っぽになった器に、ブラックが新しく盛っていく。

ウルベルがコーヒーが入ったカップを持ちながら質問を続ける。

 

「ナザリックが存在するヘルヘイム以外の世界にも出歩いていたんですよね?」

 

「まぁね。サービス終了日の半年前ぐらいから、プレイヤーの数が激減して、普通に出歩いても襲われなくなってたよ。昔の、盛んに行われてたPK(プレイヤー・キル)が嘘みたいだったよ。ま、私は元からPKの被害には、あんまりあってないけどね。」

 

サービス終了のお知らせを聞いて、去っていくプレイヤーが増えていくなか、残り続けるプレイヤー達もいた。リュウノこと勝は、他のプレイヤーとの交流を積極的に行なっていたプレイヤーだったため、あまりPKの対象にはならなかった。首なし騎士デュラハンであり、頭が無いアバターなのに、他のプレイヤー達に『顔パス』が利くという、なんとも不思議な対応をとられていた。

 

「出会ったプレイヤーと挨拶して、チャットで会話してたら、ふらっと来た他のプレイヤー達も交じって世間話や過去イベントの思い出話とかしてたぜ。ほのぼのしてたよ、ホント。」

 

たくさんのプレイヤーが居た時代では、集団によるPK(プレイヤー・キル)が盛んだったが、さすがに人数が減ると活動力も弱まり、プレイヤー1人でキル活動なんぞ馬鹿らしくなって、やってられないのだ。

最終的には、ユグドラシルに残っている親しいプレイヤーと会話するためにログインしているプレイヤーばかりになってしまっていた様な気さえする。

 

「私みたいな物好きぐらいだよ。ユグドラシルが終わりに近づく中、穏やかに冒険活動していたのは。ま、私はドラゴンの契約目的でドラゴン狩りに奔走していただけなんだけどね!」

 

ドラゴンもとい、通常モンスターと契約するためには、規定の数の同じモンスターを狩る必要があるのだ。ただし、八竜といったワールドエネミークラスのモンスターは、特定の条件を達成しないと召喚契約が実行できないのだ。

 

「ドラゴンとの契約のために他の世界に行くって、どんだけドラゴン好きなんですかwドラゴン好きにも程がありますよw」

 

「そう言うウルベルさんだって、魔法好きじゃん!」

 

「私は魔術師(マジックキャスター)ですから、いいんですよ。魔法の習得は、多いに越したことありませんし。」

 

「…そう言えば、ウルベルさんが、自分より習得魔法の数が多いモモンさんに嫉妬してるって、ギルメンの誰かが言ってたような気がするんだけど、ホントなの?」

 

「え!?本当なんですか、ウルベルさん?」

 

ウルベルにとっては、『魔法の習得数の多さ=強さ』という独自の概念があり、自分より魔法の習得数が多いモモンに嫉妬しているのだ。

 

「はい。嫉妬してますよ。羨ましく思うほど。」

 

ウルベルがニッコリ笑って言う。

その表情と対応の仕方に、モモンが少し引き気味になる。

ウルベルがコーヒーを啜る。

 

「火力重視の魔法職でなければ、もっと習得できてたんですよ。」

 

「私は火力というか、攻撃力が高い方が良い気がするけどな。私の場合、相手がドラゴン以外だと、火力があんまり期待できないからな。むしろ、竜王達の方が火力高い可能性すらあるし。」

 

相手がドラゴンなら、スキル<竜殺し(ドラゴンキラー)>で火力が跳ね上がり、超絶有利になる。逆にドラゴン以外だと平均的な火力しか出せないので、レベル相応の相手だと倒すのに時間がかかるのだ。

 

「我々魔術師(マジックキャスター)にとって、魔法の数は強さなんですよ、リュウノさん。確かに、火力も大事ではありますが、それは戦士職の理屈です。たっちさんのような、力と技術でゴリ押しは通用しないんですよ。そうですよね、モモンさん。」

 

「まあ、『魔法が多い』という事は、こちらの使える『手札も多くなる』という感じになりますからね。手札が少ないと、敵に対策され、なにもできなくなりますから。」

 

魔法職の二人に論破される。

生粋の戦士職のたっち・みーなら何か反論したかもしれないが、リュウノはあまり強く反論するつもりはない。

 

「そういうもんなのか、魔法職ってのは。私は、魔法も戦士も中途半端だから、あんまり強く言える立場じゃないからなー…。魔法は第五位階までの闇系魔法と召喚したモンスターを強化する魔法ぐらいしか使えないし。狙撃職を習得しているおかげで、遠距離にも対応はできるけど、ここぞという火力はだせないし。自慢できるのは、ワールドアイテムで強化された召喚魔法と防御力くらいか。」

 

自分の職業構成を改めて確認するが、

 

闇騎士《ダークナイト》

竜騎兵《ドラグナー》

 

の騎士職二つ。

 

将軍《ジェネラル》

 

の指揮職一つ。

 

銃士《ガンナー》

狙撃手《スナイパー》

 

の狙撃職二つ。 

 

竜使い《ドラゴンテイマー》

魔獣使い《ビーストテイマー》

 

の調教職二つ。

 

召喚士《サモナー》

 

の魔法職一つ。

 

という中途半端な構成であり、イマイチどれもこれもが火力不足感があるのだ。一応、シャルティア以外の階層守護者には勝てるものの、強力な一撃技といえば、対ドラゴン用の<竜切り(ドラゴン・スラッシュ)>ぐらいである。

 

「召喚に頼らないなら、騎士職らしく盾もって敵に殴られながら、ヘイトを集めるのがお似合いかもしれないなー、今の私は。ぶくぶく茶釜さんには劣るけど。」

 

「ねーちゃんのヘイトコントロールはヤバイレベルなんで、真似しない方がいいッスよ!」

 

「そうですよ!だいたい、昨晩は敵のヘイトを集め過ぎて、大ピンチだったでしょ!」

 

モモンの発言で、話題が昨晩の戦闘の話に変わる。

 

「敵の装備は立派な物ばかりでしたが、使用者達が中途半端に弱かったおかげで、なんとかなった、という感じでしたね。敵が完全な100Lvプレイヤーの集団だったら詰んでましたよ、私達。オマケに、敵側はワールドアイテムまで所持していましたし。というか、私は最初、リュウノさんが死んだと思ってましたからね。」

 

ウルベルの言う通り、敵が弱かったからこその勝利であったし、自分自身の油断から始まった窮地でもあった。

 

「うっ…ご、ごめんなさい…。」

 

夜の戦いを思い出す。

不意打ちを食らってからの瀕死状態、さらに、数人に囲まれてからの集中攻撃、よくもまあ生き残れたものだと、自分でも思う。

仲間達の援護がなかったら、自分は確実に死んでいたであろう事は明白だ。

 

「リュウノさんが死んだという前提で作戦を考えてたら、リュウノさんが立ち上がり始めたせいで…私の時間停止魔法からの高火力範囲魔法で一掃作戦が実行できなくなってしまったんですよ?」

 

「死んでて欲しかったみたいに言うんじゃねぇ!しかもそれ、私の死体も巻き込むよねぇ!?」

 

「大丈夫ですよ。モモンさんなら、バラバラの死体からでも完全復活してくれますから。むしろ、リュウノさんが死んでようが生きてようが、実行するべきでしたかね?」

 

「ふざけんな!ウルベルさんの高火力魔法なんて、体力フルでも喰らいたくないよ!」

 

「私も、仲間の死体なんて見たくないですよ、ウルベルさん。仲間が仲間を殺す光景なんて、もっと見たくないです。」

 

流石のモモンも、ウルベルの発言を見過ごせなかったのか、口を出し始める。

 

「冗談ですよ、二人とも。時間停止魔法といった、移動を阻害する魔法は、100Lvプレイヤーなら対策してるのが当たり前ですからね。時間停止中は、コチラも攻撃できませんので、自力で逃げられないリュウノさんが取り囲まれて、魔法の効果が切れた瞬間に袋叩きにあうのがオチです。」

 

「冗談で殺される私の身にもなって欲しいよ!」

 

「まぁまぁまぁ、私も少し言いすぎました。すみませんでした、二人とも。どうも、悪魔という種族のせいか、そういう言い回しをしちゃうんですよ。許して下さい。」

 

口では謝っているが、どうみても反省している雰囲気がない。悪魔という種族がそういう性格なのかもしれないが、仲間にまでそういう接し方をされると、気分が悪くなる。

 

「種族ゆえの特性か…。まぁ、仕方ないか…。」

 

スッキリしない表情でリュウノが言う。

 

「おや?許してくれるんですか?リュウノさん。」

 

「うん。私も、アンデッドから人間になって、色々身体や精神の変化を実感してるからねー。むしろ、人間になるまで、その変化に気付いていなかった気さえする。ウルベルさんが、あくまでも種族特性によるものだと言うのなら、仕方ないものとして、私は許すよ。」

 

「一応聞きますが、1番実感したものは?」

 

「勿論、この頭だよ。」

 

リュウノが頭を指さす。

 

「そうッス!前から聞きたかったんですが、頭が無い感覚ってどんな感じなんッスか?」

 

「んー…何も感じないね。」

 

「何も?何も感じない…ッスか?」

 

「うん。例えるなら…ほら、懐中電灯とかを目に向けられると、眩しくて目を細めるでしょ。ああいう感覚が無いから、眩しい!とか全然思わないんだよね。」

 

「なるほど。感じる感覚がないから、まず気にすらならないんですね。」

 

「そうそう!眠気も頭痛もしないし、呼吸すら必要ないから、頭が無いという事になんも違和感を感じないんだよ。むしろ、人間の身体に不満を漏らしたくなるね。人間になって得した事は、会話ができる事と食事ができるようになった事ぐらいで、デメリットの方が増えてるし。モモンはどうなの?」

 

「私も同じですね。骨だけという身体に違和感は感じません。疲労はしないし、食事と睡眠は不要。ハッキリ言えば、とても楽ですね。」

 

「だよな!アンデッドの肉体って、マジ良いよな!あー、私も早く元のデュラハンに戻りてぇ〜。昨日の戦闘の疲れが残ってて、疲労感が半端ないんだよねー。」

 

「デュラハンに戻りたいってセリフ、普通なら異常な発言ですけどね。フフッ。」

 

不死者(アンデッド)に戻りたいという、普通ではありえない言葉を言うリュウノを見て、ウルベルが笑みを浮かべる。

 

狂った発言は、悪魔を楽しませてしまうのだろうか?

 

「そうかな?んー、いや、確かに変か。でも、戻りたいものは戻りたいんだよ〜。あー、早く夜にならないかなー。」

 

「まだ朝の六時過ぎですよw」

 

「おっと、もうそんな時間ですか。そろそろ村人達が起きる時間ですよ。」

 

「よし。ブラック達は王都に戻って授与式に備えて待機だ。後から私も見に行くから、先に王都に帰った竜王達にも伝えておいてね。」

 

「畏まりました。では、私達は先に帰りますね。」

 

レッドが転移門(ゲート)を開き、ブラック達が入っていく。

ブラック達を見送ったリュウノは、食器を片付け、外に出ようとする。

 

「リュウノさん、どちらへ?」

 

「ちょっとエンリちゃん達の所へ行ってくる。昨晩は、彼女達にも助けられたからね。御礼を行ってくるよ。」

 

 

 

 

 

 

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──朝七時頃──

 

 

「あれ?モモンさん、リュウノさんはどうしたんです?」

 

漆黒の剣のリーダーのペテルが、リュウノの姿が見当たらない事を尋ねる。

 

「彼女なら朝早くに出発しましたよ。ヒポグリフに乗って行ったので、急ぎの用でもあったのでしょう。」

 

リュウノは首なし馬(コシュタ・バワー)で王都にとっくに帰っている。ルクルットがガッカリした表情をする。

 

「残念だなぁ〜。リュウノちゃんとは、もっとお喋りしたかったんだけどなぁ…。」

 

「ルクルットは相変わらずだなぁ、はははw」

 

「まったくなのであ〜る。」

 

漆黒の剣のメンバーのニニャとダインが、ルクルットの肩を叩いて励ます。

 

「では、私達もエ・ランテルに出発しましょう。」

 

「はい。エ・ランテルまで再び護衛をお願いしますね、モモンさん。」

 

「わかっていますよ。」

 

身支度を終えたンフィーレアと漆黒の剣とモモンチームが村を出発する。すると、防護柵の門の所でエンリとゴブリン達が見送りに来ていた。

 

「エンリさん、昨日は色々ありがとうございました。」

 

モモンが礼を言うと、エンリがとんでもないですと言わんばかりの表情とお辞儀をする。

 

「いえ!私は特になにも!皆さんやリュウノさんにも色々助けて貰いましたから。」

 

「そうですか。」

 

「そう言えばモモンさん。森の賢王を連れ出して大丈夫なんスか?生態系とか崩れたりしないッスか?」

 

「あ、それなら大丈夫ですよ、ペロロンさん。リュウノさんが、森の賢王の代わりになるモンスターを召喚して、森に待機させてるそうです。これで、生態系が維持できるから安心して、と仰ってました。」

 

朝、エンリとゴブリン達に御礼を言いに行ったリュウノは、ゴブリンのリーダーのジュゲムから、死んだゴブリン達の話を聞かされたのだ。

デュラハンを狙ってやってきたスレイン法国の奴らに殺されたのだから、『自分のせいで迷惑をかけてすまない』と、リュウノはゴブリン達に謝罪した。

村の安全のために、森の賢王の代役を召喚し、カルネ村を守護させる事を、エンリとジュゲム達に約束したのだ。

 

代役として召喚したモンスターは、森林竜(フォレスト・ドラゴン)であり、森の賢王より若干強いレベルである。

 

「そっか、なら大丈夫ッスね!」

 

「じゃあね、エンリ。」

 

ンフィーレアがエンリに手を振る。

 

「ンフィー、またいつでも村に来てね。」

 

「うん!」

 

モモン達が門を潜り、エ・ランテルに向けて歩き出した。

 

 

 

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──午前10時・王都──

 

王城の城壁正門前の広場に特設ステージが作られ、そのステージの前には大勢の観客が集まっていた。王国で3つ目になるアダマンタイト級冒険者チームのプレート授与式が行われるからだ。

 

その観客達の中に、リュウノは居る。黒い軍服の上から魔導師のローブを羽織り、軍帽とガスマスクを被った姿で人混みに紛れていた。

人間時の姿を王国戦士長に見られているため、バレないようにした変装だ。

リュウノが周りに視線を向ける。周囲にいる人々が、「なんだ!?コイツ!?」と、言わんばかりの視線を飛ばしている。

だが、リュウノは気にしてない。そういった視線で見られるのは、デュラハンの姿の時にたっぷり経験済みだからだ。

リュウノは再びステージに視線を戻す。

 

ステージに上がる為の階段がステージ中央とステージ横に設置されてある。ステージ中央の階段前にはレッドカーペットが敷かれており、観客達を左右に割っている。

 

ステージ上の両脇のスペースには、丸テーブルと椅子が幾つも並べられており、上座には王族を始め、王城にいた貴族、その他関係者達が席に着いている。下座には、王国が誇る二つのアダマンタイト級冒険者チームの『蒼の薔薇』と『朱の雫』、他にオリハルコン級の冒険者チームが幾つか座っている。

 

アダマンタイト級冒険者チームの『朱の雫』のリーダーは、アズスという名前であり、『青の薔薇』のリーダーであるラキュースの叔父にあたる人物らしい。

 

もう既に、司会進行役のレエブン侯が、授与式の開会の挨拶を始めている。

 

「──では、国王陛下の挨拶の前に、今回の受賞者を紹介致しましょう。冒険者チーム『竜の宝』の皆さんです。どうぞ!こちらへ!」

 

レエブン侯の合図とともに、首無し騎士デュラハンを先頭に、竜人三名がレッドカーペットを歩いてくる。首無し騎士デュラハンが、『どうもどうも』と言わんばかりに、片手を軽く上げて手を振っている。

 

貴族や観客達から、とくに感情のこもっていない拍手が送られる。真面目に拍手をしているのは、国王と王国戦士長、蒼の薔薇ぐらいである。

 

観客達の顔には、困惑や戸惑いなど、不安そうな表情が多く見られる。当然だと思う。昨日現れたばかりの異形種達を、ほとんど何も知らない国民達が心の底から祝う事など出来るわけがないのだ。

 

しかし、全ての人間が、悪いイメージを持っている訳でもなさそうだ。

 

「おい、アレ、後ろの竜人って娘達可愛くね?」

「めちゃくちゃ美人だよな。」

「ああ。アレが人間だったら最高だったのに。」

 

ブラック達の容姿に見惚れ、その美しさについて語り合っている男衆がチラホラいるのだ。

 

(ブラック達の容姿は確かに美しい。そう!私が言うのもなんだが、美しいのだ!特にブラックが可愛いだろ?な!人間の男達よ!)

 

自分と瓜二つの姿のブラックが1番人気だろう、そう予想するリュウノだったが──

 

「金髪の2人が好みだわー、胸もデカいし!」

「あの黒髪の竜人って子供か?後ろの2人がデカい身長だから、余計小さく見えるぜ!」

「あの子も胸がデカければなぁ〜…。」

 

どうやら、ブルーとレッドの方が人気のようだ。

 

(ちくしょう!身長も胸も小さくて悪かったな!)

 

ブラックが余り人気ではなかった事に、リュウノは残念な気持ちになる。

 

チーム『竜の宝』が、ステージに上がり、観客達に向かって正面を向き、横1列に並ぶ。

 

「えー…ご覧のとおり、チーム『竜の宝』は人間ではない種族のみで構成されたチームでございます。国民の皆様方の中には、彼等が人間でない事に、不安や戸惑いを感じていらっしゃる方もいらっしゃるでしょう。」

 

レエブン侯が、観客達の反応を見て、アドリブで言葉をかえて話していく。少しでも、国民を安心させる雰囲気を作るためだ。

 

「ですが、ご安心下さい。彼等は我々人間に対し、友好的な行動を幾つもとってくれています。国王陛下が、彼等を冒険者として活動する事を許可なさったのも、その善意ある行動をお認めになったからなのです。」

 

チーム『竜の宝』が、レエブン侯の話に合わせ、国王陛下の方にお辞儀する。国王陛下も、笑顔で軽いお辞儀を返す。

 

「では、彼等が冒険者となった経緯を、我らが国王陛下が、挨拶と同時に説明したいとの事なので、国王陛下の挨拶へと、移らせて頂きます。国王陛下、どうぞ前へ。」

 

国王陛下こと、ランポッサ三世が、王国戦士長ガゼフを伴い、首無し騎士デュラハンの隣に立つ。

すると、チーム『竜の宝』が全員、国王陛下に向かってかしづく。

 

その行動に、正面に立っているランポッサ三世を含め、会場にいる人間達全員が驚く。

 

「(よし!効果バツグンだ!)いいぞ!そのまま私の()()()()に動けよ、お前達!」

 

何故チーム『竜の宝』が、国王陛下にかしづいたのかと言うと、観客席から見張っているリュウノが、伝言(メッセージ)で指示しているからだ。会場の雰囲気や動きに合わせ、適切な行動やセリフを指示し、ブラック達をサポートしている。

ガスマスクを装着したのも、伝言(メッセージ)を近くにいる人達に聞かれないようにする為と、口の動きを悟られないようにするためだ。

観客達に紛れたのは、会場での会話をしっかり聞くためだ。遠くから見張っていては、ステージ上での会話が聞き取りにくくなるからと判断したのだ。

 

「(国王陛下にかしづく事で、異形種である我々が、人間の国王陛下に敬意を持っている事が皆に伝わったはず!礼儀正しい姿勢を見せれば、王都の人達も安心してくれだろうからな!)」

 

人間とは違う存在であり、恐ろしいイメージを持たれやすいアンデッドの在り方を根底から変えるのがリュウノの狙いである。

 

生者を憎み、殺戮を楽しむ。それが一般的なアンデッドの特徴であり、人間がアンデッドを恐れる最も大きな原因となっている。ならば、その前提を塗り替えてやれば、人間達も受け入れてくれるだろう。と、リュウノは思っている。

 

ドラゴンも同じだ。普通の人間では太刀打ちすらできない存在であるドラゴン、それが人間に敬意を示すだけでも、イメージチェンジになるだろう。

 

「デュラハンの勝殿、そして…竜人のブラック殿、ブルー殿、レッド殿だったか?そうかしづかなくても良い。貴殿らは、我が国の民を守り、私が最も信頼する王国戦士長の命を救った恩人でもあるのだからな。」

 

国王陛下に言葉に反応し、デュラハン達が立ち上がる。

 

「ありがとうございます、国王陛下。陛下の慈悲深いお心に感謝致します。そして、私達を受け入れて下さった事に、ご主人様を含め私達一同嬉しく思っております。」

 

ブラックがチームを代表して発言し、敬意を示す。

 

「そうか。そう思ってもらえて、私も嬉しい。では、貴殿らのこれまでの経緯を国民達に語り聞かせよう。」

 

そこからは、国王陛下と王国戦士長がデュラハン達の話を長々と喋った。

 

カルネ村の事、陽光聖典との戦いの事、王都を訪れた時の事、冒険者組合での竜王召喚での説教などを語り、次に鉱山での話になる。

何故か、蒼の薔薇も語りに交じりだし、鉱山探索中に起きた事をリアルに語り出す。

 

蒼の薔薇と冒険者活動したという報告が安心材料になったのか、観客達から笑みがこぼれ出す。

 

「──という訳で、彼等のドラゴン討伐、冒険者救助などの功績を讃え、アダマンタイトのプレートを授与する事を宣言する。」

 

観客達から、拍手が送られる。最初の拍手に比べると、少しだけ活気があるように感じられた。

 

「では、プレートの授与に移ります。『竜の宝』の皆さんは、国王陛下の前に並んで下さい。」

 

並んだデュラハン達に、国王陛下が1人1人に「おめでとう」と、声をかけてプレートを渡していく。

 

プレートを渡し終わったのを確認したレエブン侯が、式の進行を始める。

 

「では、受賞者代表の挨拶に移らせて頂きます。えー…チーム代表者は、ブラックさんでよろしかったでしょうか?」

 

「はい。私がチームを代表して挨拶をさせて頂きます。」

 

ブラックが、観客側に一歩進みでる。

 

「今回、このような形でアダマンタイトのプレートを授与して頂き、とても嬉しく思っております。ご主人様も妹達も、人間の皆様とは会話ができないため、いろいろ迷惑をかける事もあるかと思いますが──」

 

ブラックが挨拶を続ける。

この挨拶の内容は、リュウノが予め考えた大まかな文章をブラックに暗記させたものだ。忍者職をもったブラックが、一瞬で文章を暗記したのは驚きだったが。

 

「(さて…ここまでは順調。しかし、次がどうなるか…アイツらは、『我々にお任せを!』と、言っていたけど、何をやるつもりなんだか…)」

 

本来なら、チーム挨拶で終わりなのだが、竜王達から懇願され、彼等の紹介もここでする事になったのだ。リュウノ個人は反対だったのだが、竜王達が必死にお願いしてくるので、渋々了承したのだ。

 

「──という事で、私達、チーム『竜の宝』の挨拶を終わらせて頂くところではありますが、実は…まだご紹介したい方々が居ます。国王陛下、よろしいでしょうか?」

 

「ふむ?紹介したい者達とは?」

 

「昨日、ご主人様が王都の上空で召喚した、竜王(ドラゴン・ロード)様達です。」

 

竜王(ドラゴン・ロード)という言葉に、会場が一気にざわつき始める。

 

「昨日の巨大なドラゴン達か!?」

「あれか!?俺も見たぞ!」

「私もよ!突然現れたからビックリしたわ!」

「まさか、またココに現れるのか!?」

 

会場の観客達から不安そうな声が上がり始める。

 

「皆さん、落ち着いて下さい。昨日のような事にはなりませんので!ご主人様も、昨日の事は反省していますから!」

 

観客達を落ち着かせる為、ブラックが説明を続ける。

 

「昨日の夜、竜王様達が私達と同じような人型に変身できる事がわかったのです。」

 

「マジかよ!?アレも人型に変身できるのかよ!?」

「信じられないわ!」

「あのドラゴン達が人型になるなんて想像つかねぇぞ…。」

 

観客達は、竜王(ドラゴン・ロード)達が人型に変身できるという事に驚きを隠せないでいる。

すると、観客達の最前列にいたリュウノが喋り出す。

 

「まぁまぁ、皆さん、一旦落ち着きましょう。もしかしたら、本当に変身できるかもしれないでしょ?それに、昨日一度ドラゴン達を見てるんですから、巨大なままだったとしても、そこまで怖くはないでしょ?」

 

そのまま、ブラック達の方を向く。

 

「ブラックさん…でしたっけ?竜王(ドラゴン・ロード)達は、襲って来ないのでしょう?」

 

「はい。ご主人様が、『人間を襲うな』と、命令していますので、大丈夫ですよ。」

 

「なら、いろいろ文句を言うのは、人型に変身したという竜王(ドラゴン・ロード)達の姿を見てからでも良いのではないですか?皆さん。もしかしたら、案外美人だったりイケメンだったりするかもしれませんし。」

 

「そ、そうだな。見てからでも遅くはないか。」

「そ、そうね。それがいいかもね。」

 

観客達は、リュウノの意見に納得したようだ。

 

「では、皆さん。よろしいですか?それでは!竜王(ドラゴン・ロード)の皆様、どうぞコチラに!」

 

ブラックの合図を、待っていましたと言わんばかりの速さで、羽の生えた人影が11体、建物の影から飛び出してくる。その人影達は、授与式会場の上空を、1列に並んでぐるりと一周すると、レッドカーペットの上に、綺麗に並んで同時に着地する。

観客達から「おおっ!?」と歓声が上がる。

着地した姿勢から、竜王達がゆっくり立ち上がる。全員が胸を張り、自信たっぷりの顔で立っている。

 

男性竜王7名、女性竜王4名が授与式会場に現れた事で、観客達から様々な感想が出る。

 

まず、男達からは、

 

「おいおいおい…あの4人、美人すぎるだろ!」

「見ろ!昨日見た、巨大な人型の奴と同じ女が立ってるぞ!」

「胸デカすぎだろ…!魔乳かよ…。」

「くそぅ〜…揉んでみてぇ〜。」

「人間だったら、躊躇いなく口説きに行ってたぜ…」

「太ももがエロ過ぎだろ…」

「何言ってんだ!ケツが1番やばいだろ!あんなエロいケツ、初めて見たぜ!」

「やべぇ…犯してぇ…1発やりてぇ…。」

 

などなど、スケベな意見ばかりである。

 

女達からは、

 

「やば!顔がめちゃくちゃ好みなんだけど!」

「ウチの旦那よりカッコイイわ!」

「あの筋肉凄すぎ!惚れちゃいそう!」

「あんなイケメンに抱かれたいわ…。」

 

と、まるで魅了(チャーム)でも食らったかのような反応ばかりである。

ちなみに、竜王達の主人であるリュウノはと言うと─

 

「(やべぇ…ちょっとカッコイイと思ってしまった!だが、観客として見るなら大丈夫なんだが、()()()()()()()としては、ちょっぴり恥ずかしいよ!)」

 

と、複雑な気持ちでいた。

 

「竜王の皆様、ご主人様の前までお願いします。」

 

ブラックの呼びかけに反応し、竜王達がステージに上がり、横1列に並ぶ。

 

「では、手短に竜王様達のご紹介をさせて頂きます。まずは──」

 

ブラックが、順番に竜王達を紹介していく。紹介時に、竜王達がポージングをとり、その度に観客達から歓声が上がる。

 

ちなみに、シャドウナイトドラゴンは闘技場(コロッセウム)でお留守番である。

 

「(さて、竜王達の紹介もそろそろ終わるし、特に問題もなさそうだな。やれやれ…これで一段落かな。)」

 

「──以上で、竜王様達のご紹介を終わらせて頂きます。」

 

観客達から、そこそこ好感が上がったような拍手が送られうる。

 

「(良かった〜、特に何事もなく終われそうで──)」

 

「──ありがとうございました。では、次は──」

 

レエブン侯が、次に移るセリフを言い出し始めた事に、リュウノが安心した、その時だった。

 

「ちょっとお待ちを。」

 

次の式目に移ろうとしていたレエブン侯の言葉を、ティアマトが遮ったのだ。

 

「えっ!?あ、ハイ!どうかしましたか?」

「(なんだ?なんだ?)」

 

突然の事に、レエブン侯がたじろぐ。

リュウノも困惑する。

 

「少し、お話したい事があります。よろしいでしょうか?」

 

「え…ええ、構いませんが…」

 

ティアマトは、一歩進み出ると、観客達に向かって喋り出す。

 

「私達竜王は、ご主人様に忠誠を誓う、忠実な下僕です。これは、昨日の騒動でも言っています。ですが、人間の皆様方の中には、このように思われてる方々もいらっしゃるのではありませんか?私達のご主人様こと、首無し騎士デュラハンが、私達竜王を本当に制御できるのかどうか…気になっている方々がいらっしゃると思います。」

 

ティアマトの質問に、観客達がざわざわとしだす。

 

「確かに、アンデッドのデュラハンにドラゴンが従うって、信じられないよな…」

「でも、あのデュラハンが召喚したドラゴンなんだから、従うのは当然なんじゃないか?」

「そもそも、あのデュラハンがドラゴンを召喚できるのが謎だしなぁ…」

「それを言うなら、あのドラゴン達が、喋れないデュラハンとどうやって意思疎通をしているかも大きな謎だぞ!」

 

観客達に紛れているリュウノには、観客達がヒソヒソと話している言葉がよく聞こえる。

 

「(ぐっ…!説明しづらい謎が幾つかあるな。今後のために、適当な理由を考えておく必要があるか…)」

 

そんな事を考えながら、リュウノはステージに立つ竜王達を見る。

 

「なので、私達がどれだけご主人様に忠誠を誓っているか、実際に見せようと思います!」

 

ティアマトがそう言うと、ブラック達が竜王達の列に加わる。

 

「(はぁ!?アイツら、何するつもりだよ!?)」

 

リュウノは、竜王達がこれから何をするのかまったく予想できないでいた。

 

「では、ご主人様!例のアレをお願いします!」

 

「(例のアレ!?アレってなんだ?)」

 

困惑しているリュウノを後目に、パンドラが化けたデュラハンが、1列に並んでいる竜王達の前に立つ。

ステージ上に並んだ竜王達とブラック達の後ろ姿が観客達に見える形になる。

 

リュウノを含め、観客達も王族も貴族も冒険者達がざわつきながら様子を見守っていると、デュラハンが片手を上げる。その動作に、会場が一気に静まり返える。全員が息を呑んで見ていると──

 

デュラハンが、カッ!と両足を合わせ、敬礼のポーズをとる。すると、ブラックが大きな声で「敬礼!」と叫ぶ。それに合わせて竜王達も、「ハイ!」と返事をしながら一斉に敬礼のポーズをとる。

 

リュウノは、竜王達の行動を見て、現代にある『集団行動』を思いだす。リーダーが指示を出し、隊列を組んだ仲間達が、リーダーの指示した行動をとる。確か、そんな競技のようなものだったなー…と、記憶を思い返していたのも束の間、次の彼等の行動を見て唖然とした。なぜなら──

 

デュラハンが片手を前に出した瞬間、ブラックが──

 

「おすわりのポーズ!」

 

と叫び、ブラック達と竜王達が『おすわり』のポーズをしたからだ。

 

男性の竜王が『おすわり』のポーズをすると、違和感が半端ないのだが、それが気にならなくなる程の別のものがそこにあった。

 

女性の竜王とブラック達の、露出したお尻だった。ただでさえ際どい格好の彼女達が、『おすわり』のポーズをすれば、ケツに『アレ』が食い込み、超エロい感じになってしまうのだ。

 

当然、観客の男性から、「おおぉぉぉぉぉぉ!?」と、歓喜の声が上がる。

 

いつもは正面に立って『おすわり』のポーズを見るリュウノにとって、『おすわり』のポーズをしたブラック達を後ろから眺めるのは初めてだった。しかも、今の自分は人間であり、アンデッドではない。なので──

 

「(ぶはっwwアイツら何してんだ!というか、やっぱりめちゃくちゃエロいな、そのポーズ!ヤバすぎでしょww)」

 

と、興奮と動揺の混じった気持ちになり、落ち着く事ができなくなっていた。

だが、リュウノはすぐに思いだす。

 

「(待てよ!?『おすわり』をしたって事は、次は…まさか!?)」

 

リュウノが予想した次の展開が、ステージ上ですぐに実行された。

 

「服従のポーズ!」

 

ブラック達と竜王達が、『服従』のポーズをとった。ただでさえエロい尻が、突き出す形になり、さらにエロくなる。観客達からは、ややローアングルな感じに見える分、さらにやばい。

 

「やべぇよ!エロ過ぎだろ、あれ!」

「いやらしくケツ出しやがって…誘ってんのか?アレは!」

「ちくしょうぉぉ…犯してぇ〜!」

「揉んだらぜってぇ気持ちいいぜ、あれ!」

 

人間の男達が、興奮しまくりである。

 

展開が予想できていたリュウノにいたっては、手で目を覆い、もはや直視できない程恥ずかしい気持ちになっていた。あのポーズを、ブラック達以外にもやる奴らが居るとは思っていなかった分、竜王達が『服従』のポーズをしながら立ち並ぶ光景は強烈だったのだ。

 

「(お前ら!もう充分だから!そこまでにしとけ!)」

 

パンドラを含め、ドラゴン達に伝言(メッセージ)を飛ばし、止めさせる。

 

「「「ハッ!」」」

 

と、いきよいよく返事をしたドラゴン達が、ポーズを止めて観客達の方を見る。

 

「以上が、私達の私達による、ご主人様への忠誠の証です。ご納得頂けましたでしょうか?」

 

観客達(特に男性)から、活気のある拍手が送られる。

 

「と、とても素晴らしい演技でしたね!では、次の式目に移らせて頂きます。」

 

レエブン侯が授与式を進行させていく。最終的に、その後はスムーズに進み、授与式は終了した。

最後に、再び大きな拍手を観客達がしている。

 

「(授与式で1番目立ってたのが、尻って!恥ずかしいにも程があるぞ!はぁ〜…。)」

 

リュウノがため息をついていると、誰かから伝言(メッセージ)が届く。

 

「リュウノさん、今大丈夫ですか?」

 

「お?モモンさん?何?」

 

「たっちさんがエ・ランテルで困った事態に巻き込まれたらしいんですよ。少し様子を見に行って貰えませんか?」

 

「え?たっちさんが?」

 

変だな…たっちさんはヘロヘロさん達と馬車で王都に向かって来ているハズでは?

 

「わかった。転移門(ゲート)でエ・ランテルに向かってみる。」

 

「よろしくお願いします。たっちさんは、冒険者組合に居るそうです。」

 

「了解〜。」

 

伝言(メッセージ)を切ってから、リュウノは思う。

 

「行ったり来たり、私だけ忙しいスケジュールばっかりだよ!まったく!」

 


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