首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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第24話 十三英雄の生き残り

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──時刻11時過ぎ──

 

 

「お前達、私は()()急用ができたので、エ・ランテルに行く。お前達はまた留守番だ。」

 

授与式終了後、リュウノとブラック達は、城壁の正門前広場から少し離れた場所で落ち合っていた。

 

「主人よ!待つのだ!主人は昨日、襲撃されたばかりだ!護衛をつけるべきでは!?」

「そうです!ご主人様はスレイン法国に狙われたばかり!1人で行動するのは危険です!」

「それに、他の勢力からも襲われる可能性もあります!我らを護衛に!」

 

カルネ村での一件があったばかりなため、流石の竜王達も、主人であるリュウノの単独行動は危ないと思ったのだろう。自分達に護衛させて欲しいと訴えかけてくる。

 

「うーん…私も失態を晒したばかりだしなぁ…どんな危険がいつ来るかも分からない状況だし…うーむ…。」

 

リュウノ自身も、一部の国組織に狙われている身である事を理解している。ましてや、モモンやウルベルなどの、優秀な魔術師(マジックキャスター)が近くにいた状況で死にかけたのだ。いくら自分が強いといっても、完全無欠という訳ではない。それを大いに思い知ったばかりなのだ。

 

「よし。護衛につく事を許す!」

 

竜王達の顔に活気がやどる。

 

「だが!全員は無理だ。」

 

「どうしてです!?主人。」

 

「今の私が、首無し騎士デュラハンと同一人物だとバレるのはまずい。護衛につく面子を限定させてもらうぞ。」

 

そう言うとリュウノは、護衛につかせるメンバーを選んでいく。

 

「バハムート、ナーガ、ヤマタノオロチ、リヴァイアサン、白竜、青龍・黄龍は護衛候補な!悪いが、残りのお前らは留守番だ。」

 

省かれたのは、ファフニール、ティアマト、神竜、ウロボロスである。

 

「何故です!ご主人様!?私達も護衛に──」

 

「無理だ。ファフニールはエ・ランテルで住民達に一度姿を見られてる。ティアマトは王都の連中にデカい方もバッチリ見られてるしな。」

 

「確かに…エ・ランテルで王国戦士長を乗せたので、住民達には見られてしまっていますな。ティアマトは、大きさに関係なく姿が一緒だから即バレるじゃろ。諦めろティアマト。」

「そ、そんな…しょんぼり(´・ω・`)」

 

ティアマトがガックリと地面に突っ伏す。

 

「ウロボロスと神竜はスレイン法国の兵士に見られてるからな。連れていく訳にはいかん。すまないな。」

 

「とんでもございません、ご主人様。ご主人様は何も悪くございません。私もご主人様の護衛に付きたかったのですが、ご命令であるなら仕方ありませんね…。」

「そうだな。諦めるか…。」

 

ウロボロスと神竜も納得してくれたようだ。

 

「では、護衛候補の内2名を護衛につかせる。さて、誰を私の護衛にしようかな〜?」

 

リュウノがニタニタ笑いながら、竜王達の様子を伺う。

 

「主人よ、我を護衛に!」

「私を!」

「我等を!」

 

当然の如く、竜王達がせがんで来る。

 

「ハイハイ。皆やりたがると思ったよ。なら、ジャンケンで勝ち残った2名が護衛な。」

 

リュウノの言葉を聞いて、竜王達が闘志をやどらせる。

 

「本当か、主人よ!なら、負ける訳にはいかんな!」

「絶対勝つわ!」

「我等が主人の護衛につくのだ!」

 

竜王達が輪っかを作り、ジャンケンの構えをとる。

 

「「「最初はグー!ジャンケンポン!」」」

 

結果はあいこ。

 

「チッ!お前達、チョキを出せ!私はグーをだすからな。」

「そんな口車には乗らないわよ!」

「遅出しもズルもナシじゃぞ!」

 

竜王達が『あいこでしょ!あいこでしょ!』と、言いながらジャンケンを続ける。

 

「お前らー早く決めろよ〜。」

 

リュウノが、竜王達の決着を待っていると、パンドラが話しかけてくる。

 

「リュウノ様、コチラのアダァマァンタァァイトのプレェェートをお受け取り下さぁい!」

 

「ん。ありがと、パンドラ。お前もお疲れ様。」

 

「私まで労って下さるとは!んー!ありがたき幸せぇぇ!」

 

「バカ!まだ近くに人間が居るんだそ!デュラハンの姿で叫ぶんじゃねぇ!」

 

周囲を見渡す。一般人を除けは、遠くで『蒼の薔薇』達がガゼフ・ストロノーフと会話している光景が見えた。

 

「ひとまず、ブラック達と留守番組は拠点に移動しとけ。パンドラも拠点に一旦帰ってから、ナザリックに帰還していいぞ。」

 

「「「ハッ!」」」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「で、何なのイビルアイ?勝さんに違和感を感じるって言ってたけど…」

 

「ああ。あのデュラハンから、アンデッドの気配を感じなかった。昨日のアイツは、凄まじい程の負のエネルギーを放っていたのに、今日のアイツからは、微塵も感じなかった。まるで、()()()()()()()()()感じに思えたんだ。」

 

「そ、そうか?いつもの勝殿だったと思うが…」

 

蒼の薔薇とガゼフがヒソヒソと話していた。

イビルアイ曰く、デュラハンの雰囲気がおかしかったという。

 

「それに、観客達の中に居た、あの仮面の魔術師(マジックキャスター)も怪しかった。アイツから、負のエネルギーがバリバリ漏れ出てたからな。」

 

「今、その仮面の奴がデュラハン達と一緒に居るぞ。奴らの知り合いなのだろうか?」

 

さり気ない仕草で、デュラハン達の様子を観察しているティアが言う。

 

「つまり、何が言いてぇんだ?」

 

ガガーランが首を傾げながら尋ねる。

 

「今日の授与式に参加していたデュラハンは偽物で、観客達に紛れていた仮面の人が本物…という事?」

 

ラキュースの考察にイビルアイが頷く。

 

「可能性はある。しかし、問題が1つある。それは──」

「頭か?」

 

イビルアイの言葉を先読みして答えたガガーランの推察にイビルアイとティア、ティナが頷く。

 

「あのデュラハンには頭が無い。頭が無いデュラハンがどうやって人間に化けてるのかが説明つかない。幻術を使ったり、帽子や仮面もやりようによっては誤魔化せるだろうが…1番の疑問は声だ。」

「あのデュラハンは声が出せない。でも、あの仮面の奴は普通に喋っていた。しかも──」

「ブラックの声に似ていた。影技分身の術を使っていたとしても、負のエネルギーが謎だ。」

 

ますます分からないという表情をする『蒼の薔薇』のメンバー達。それとはうって変わり、冷や汗をかいている人物がいた。

 

「ううむ…」

 

「王国戦士長様?顔色がすぐれませんが、具合でも悪いのですか?」

 

難しい表情をしていたガゼフに、ラキュースが問いかける。

 

「えっ!?いや、なんでもないぞ!なんでも…」

 

明らかに動揺しているガゼフを『蒼の薔薇』のメンバーが怪しむ。

 

「おい!ガゼフ・ストロノーフさんよぉ…なんか俺達に隠し事してないか?」

「怪しいな、王国戦士長。」

「いや、その、だな…」

 

ジリジリと『蒼の薔薇』の皆に詰め寄られたガゼフは、深い溜息の後、ついに呟いた。

 

「見てしまったのだ…」

 

『蒼の薔薇』のメンバー達が見つめる。

 

「昨日の夜、勝殿が…ブラック殿にそっくりの人間の女性に変身していたところを…」

 

言ってしまった。

 

「すまん…勝殿に、誰にも話さないでくれと、言われていたのだ。」

 

「そうだったのか!それなら、仮面の奴の正体は──」

 

「「「人間の勝さん!!」」」

 

『蒼の薔薇』のメンバーの表情が明るくなる。

 

「こうしちゃ居られねぇ!早く、あの仮面野郎に会いに行くぞ!」

「待て!ブラック達とデュラハンが動き出した!拠点の方に行くみたいだぞ。」

 

デュラハンとブラック達、数名の竜王達が拠点の方に歩いていく。残った仮面女と数名の竜王がなにやらしていたようだが、しばらくすると、仮面女と竜王達も別れ、仮面女だけになる。

 

「よし!絶好のチャンスだ!行くぞ、おめぇら!」

 

『蒼の薔薇』が移動しようとした、その時だった。

 

「相変わらず楽しそうな事をしておるのぉ~お主ら。わしも交ぜてはもらえんかのぉ?」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「さて、適当にブラついてから、拠点に戻るか。アイツらと一緒に戻ると、仲間だと思われるだろうし。」

 

リュウノはそう言いながら、拠点とは逆方向に歩き出す。広場から、人通りの激しい道へと抜け、人混みに紛れながら歩く。

 

「ふんふんふーん( ˊᗜˋ) ~♪」

 

鼻歌を歌いながら、歩く。チラッと後ろを確認すると、『蒼の薔薇』の盗賊忍者が1人、あとを追ってきている事がわかった。ティアかティナのどちらかだろう。

 

「(追跡か?やはり怪しまれたのだろうか?)」

 

試しに、お店を見るフリをしながら立ち止まると、盗賊忍者の足も止まる。再び歩き出しては止まるを繰り返すと、盗賊忍者も同じように止まる。自分の後をついてきている事は明らかだった。

 

「よし。なら、何処まで私について来れるか、ちょっとからかうか。」

 

リュウノは、人気の少ない路地に入る。そのまま歩きながら、盗賊忍者が同じように路地に入ってきたのを確かめると、路地の曲がり角を曲がってすぐに、大きくジャンプして二階建ての建物の屋上に飛び乗った。そのまま屋上を走り出し、建物から建物へ飛び移りながら、先程までいた広場の方向に向かう。

 

すると、リュウノの突然の行動に慌てたのか、盗賊忍者が屋上に上がってきたのが見えた。そのまま、必死にリュウノの後を追いかけてくる。

 

「くそ!あの仮面女、なんて身体能力だ!」

 

ティアは驚きを隠せない。生粋の戦士やブラックのような忍者なら、あの足の速さも納得できる。しかし、魔術師(マジックキャスター)の姿をした者が、魔法も使わずにあのスピードで走るのは不可解だ。

 

そう考えながらひたすら追いかけるが、まったく追いつけないでいた。

逆に、リュウノは涼しい顔で、逃げ回る。

 

「(どうせ私の事をつけ回すつもりなのなら、コチラから出向いてやるか!)」

 

広場まで戻ってくると、老婆と話している『蒼の薔薇』のラキュースとガガーラン、ガゼフの3人がいた。イビルアイやもう1人の盗賊忍者が見当たらない。もしかしたら、追跡組に交じっていたのかもしれないが、そんなのはもう関係ない。

広場に飛び降りると、ラキュース達の1番近くのベンチに座る。

 

ラキュース達がコチラを見ているのがわかる。自分が走ってきた建物の屋上を見ると、盗賊忍者二人とイビルアイが立っていた。やはり、3人で追跡していたようだ。

 

「(さあ、どうする?『蒼の薔薇』よ!)」

 

リュウノは待つ。『蒼の薔薇』達が接触してくるのを。しかし、近づいて来たのは『蒼の薔薇』ではなく、ガゼフに()()()()()()()を渡していた老婆だった。

 

老婆が、リュウノが座っているベンチのすぐ隣に座る。それを見た『蒼の薔薇』のメンバー達が集合し、リュウノのすぐ近くまでやって来たときだった。

 

「なあ?お主。」

 

隣に座った老婆が、こちらを見ながら話しかけてきた。リュウノが、老婆の方を向く。

 

老婆の外見は、髪は白一色。

年齢に似合わず顔には悪戯っ子のような活発さが感じられる。腰から立派な剣を下げている。

冒険者なのだろうか?

 

「お主が()()()()()か?」

 

初対面の相手が言うセリフではない。だが、コチラの正体を知っているのは確かである。

 

「お前は誰だ?『蒼の薔薇』の仲間か?」

 

「元仲間じゃ。わしの名はリグリット。リグリット・ベルスー・カウラウという名前じゃよ。」

 

「アンタもアンデッドなのか?それとも、死霊使い(ネクロマンサー)なのか?」

 

アンデッドについて理解しているのなら、この二つのどちらかだろう。と、リュウノは予想する。

 

「ふむ?(わしの名前を聞いても無反応か…)」

 

リュウノが質問を続けたのが不思議だったのか、リグリットがキョトンとした顔をする。が、すぐにニヤついた顔に戻る。

 

「…どちらかと言えば、後者じゃな。お主から溢れ出る負のエネルギーに興味が湧いての。」

 

カカカと笑いながら言う。老婆の言った言葉に、リュウノは驚きを隠せなかった。

 

「(嘘!?人間になってるのに、負のエネルギーは溜まったままなのかよ!)」

 

モモンは何も言って来なかったのに──という考えが出た瞬間、それをすぐに否定する。

リュウノが元デュラハンだと言う情報を既に知っているモモンからすれば、リュウノが負のエネルギーを纏っている事になんら疑問を持つ訳がないのだ。

 

「負のエネルギーか…こいつは盲点だった。」

 

「お主が何者なのか、教えてはもらえんかのぉ?あ奴らも、気になっておるようじゃぞ?」

 

リグリットが『蒼の薔薇』を指さす。

 

「おい、蒼薔薇(あおばら)!コッチに来い。王国戦士長もだ!」

 

リュウノは『蒼の薔薇』とガゼフを呼びつける。リュウノの周りに皆が集まる。

 

「まずは…だ。王国戦士長、お前…コイツら(蒼の薔薇)に、昨日の私の姿をバラしただろ?」

 

「すまぬ、()殿()…」

 

ガゼフが仮面女を『勝』と呼んだ瞬間、『蒼の薔薇』達の表情が変わる。

 

「困るんだよ、王国戦士長。私のこの、仮初の人間の姿は1日しかもたない。今日の夜には、私はまたデュラハンの姿に戻るんだぞ?」

 

「そうなの!?ずっとそのままでは居られないの?私、貴方とは直接対話したいと、ずっと思っていたのだけれど…」

 

ラキュースが悲しそうな顔をしながら言う。

 

「私としても、『蒼の薔薇』の皆さんとお喋りしたいという気持ちはあるが、今は無理だと言っておこう。スレイン法国が、私を始末しようと暗殺部隊を動かしていてな。昨日、カルネ村で奇襲されたばかりなんだ。」

 

「それは本当か!?勝殿!」

 

「ああ。昨日の夜、王国戦士長から書文を受け取った後、転移の魔法を使って、カルネ村に義援金を届けに行ったんだ。まさか、スレイン法国の暗殺部隊が待ち伏せているとは思わなくてな。かなりの深手を負ったよ。まぁ、村人に被害がなかったのは、不幸中の幸いだったがな。」

 

「そうか、それは安心した。あの村の者達には、世話になったからな。」

 

「とにかく、スレイン法国に狙われている現状では、素顔を晒す訳にはいかんのだ。授与式で偽物のデュラハンを用意したのも、逃走した暗殺部隊の連中に、顔を見られてしまっていたからだ。ここまで用心しているんだ。素顔を見せろ…なんて言わないで欲しい。」

 

素顔を晒せない理由を告げる。

『蒼の薔薇』もガゼフもリグリットも、難しい表情を浮かべている。リュウノの顔を見たいという気持ちはあるが、理由が理由なだけに、素顔を見たいと言えなくなったのだろう。

 

「ところで…リグリット…と、言ったか?死霊使いだと言っていたが、1つ聞きたい事がある。」

 

「何じゃ?」

 

「生者を憎まないアンデッド…あるいは、人間と共に歩もうとするアンデッドである私は、異常なのだろうか?」

 

死霊使いの視点から見て、デュラハンという存在である自分の行動はどう思われるのか気になったからゆえの質問だった。

 

「また難しい質問じゃな。だが少なくとも、おまえさんだけという訳ではないぞ?」

 

老婆の視線がイビルアイに向く。

 

「(あ、そう言えば、イビルアイもアンデッドか。)」

 

目の前に、人間と冒険者をやっている大先輩(アンデッド)がいた事を思い出す。

 

「イビルアイさんもアンデッドでしたね。忘れてました。」

 

「アッサリ見破っといて忘れるな!まったく…」

 

「あ。よくよく考えると私、イビルアイさんの真似をしていましたね。」

 

「真似だと?」

 

「ほら。」と、言いながら、リュウノが今の服装を見せつける。

魔術師(マジックキャスター)風の格好に、マスク(仮面)で顔を隠す姿は、イビルアイとほぼ同じだった。

 

「カカカ!確かに、インベルンのお嬢ちゃんと同じじゃな。」

「たはーwこれは気づかなかったぜ!確かにイビルアイと同じだな。」

「ホントにお揃いね。まるで姉妹みたい。」

「どっちが姉かな?」

「身長ならイビルアイが妹だな。」

 

イビルアイの仲間達がからかい始める。

 

「あーもー!お前!私と同じ格好を今すぐやめろ!」

 

イビルアイが恥ずかしくなったのか、リュウノのマスクを剥ぎ取ろうとしてくる。

しかし、リュウノが余裕で躱す。

 

「わー、イビルアイお姉ちゃんがイジメルぅ〜。助けて〜。」

 

「なっ!?お姉ちゃんだと!?お前まで私をからかう気か!」

 

「カカカカカカ!面白い奴じゃのぉ〜!」

 

逃げ回るリュウノと、仮面を剥がそうと必死になって追い回すイビルアイを見て、周りの皆が笑いだす。

 

「そう言えば、リグリットが王都に来たのは王国戦士長に指輪を渡すためだったの?」

 

ラキュースが、王都に来訪した理由をリグリットに問う。

 

「久方ぶりにツアーに会いに行こうと思っておってな。ここに寄ったのは、ただのついでじゃよ。ま、のんびり行くつもりじゃ。」

 

「ツアーか!アイツは!今!何を!して!いるんだ?くそ!逃げるな!」

 

ツアーという名前を聞いて、いまだリュウノのマスクを剥がそうと追い回すイビルアイが尋ねる。

 

「(ツアーって、私が初めて王都に来た時に、イビルアイが私に知ってるかどうか質問してきた時に言っていた名前だな。どんな奴だろうか?)」

 

リュウノが逃げ回りながら、ツアーという人物について考えていたときだった。

 

「あ奴か?たぶんじゃが──」

 

次のリグリットの言葉に、リュウノは硬直した。

 

「──今もユグドラシルについて調べておるのではないかの?」

 

「(なっ!?今、ユグドラシルって──)」

 

「取ったぁぁぁぁ!」

 

リュウノが硬直した瞬間、イビルアイがマスクを剥ぎ取った。周りにいた皆が、イビルアイの言葉に反応し、リュウノの素顔を見ようとする。イビルアイが嬉しそうに飛び跳ねて自慢する。

 

「見ろ!アイツからマスクを剥ぎ取ったぞ!」

「おお!ホントにブラックと同じじゃねーか!」

「本当ね!瓜二つだわ!」

 

『蒼の薔薇』のメンバーがリュウノの素顔を見ているにも関わらず、リュウノがリグリットを見つめたまま固まっている。

 

「ユグドラシル…ユグドラシル…だと…」

 

「…勝殿?どうしたのだ?」

 

先程までとは雰囲気が違うリュウノを見て、ガゼフが心配して声をかけるが、リュウノは反応しない。

 

「お、おい。どうしたんだ?首なし。」

「勝さん?大丈夫?」

 

『蒼の薔薇』のメンバーも、棒立ちのリュウノを心配する。イビルアイがオロオロし始める。

 

「す、すまん!仮面を剥ぎ取られたのが、そんなにショックだったのか?なら、これは返すから──」

 

「ツアーとは誰だ!答えろ!!」

 

周りにいた人間達がビックリして、リュウノの方を向く。それほど大きな声でリュウノが叫んでいた。

 

「答えろ!!リグリット!何故ソイツはユグドラシルを知っている!?」

 

睨みつけるかのような表情で、リュウノがリグリットを見みながら尋ねる。

リグリットも、リュウノの反応を見て、信じられないという表情をしている。

 

「お主、まさか!」

 

リグリットが立ち上がる。

 

「お主もユグドラシルから来た者か!?」

 

リグリットの言葉を聞いて、リュウノはハッと我にかえる。周囲を見て、イビルアイからマスクを奪いとり装着すると、『蒼の薔薇』のメンバーから離れ出す。

 

「(ナザリックの皆に知らせないと!)」

 

「待つんじゃ!お主!ユグドラシルについて知っておるのなら話を──」

 

「スキル・<竜脚>!!」

 

衝撃波を放ちながら、リュウノがその場から一瞬で離脱した。放物線を描くような軌道で、拠点の方角に飛び上がり、凄まじい速度で消えていった。

周囲にいた人々が、「なんだ?なんだ?」と騒いでいる。

 

「リグリット!あのデュラハンは──」

 

「ああ。恐らくじゃが…ユグドラシルから来た者かもしれんな。」

 

「でもアイツは、100年以上昔から存在したという情報があるぞ。しかも、過去の記憶が無いとか…」

 

「ふむ?益々興味深いのぉ〜。なら、お主らが知っている情報をわしにくれんか?あ奴は、何者なんじゃ?」

 

イビルアイ達が、知りうる限りのデュラハンの情報を伝える。

 

死の騎士(デス・ナイト)を召喚したじゃと!?あの伝説のアンデッドをか!?」

 

「ああ。何体も召喚して、使役していたぞ。それに、500年以上前の竜王も召喚できるぞ。」

 

「なんと!?しかし、昔は人間だったという情報が確かなら、あ奴はアンデッド化してからかなりの時間を過ごしておる事になるの。」

 

「ますます謎が増えたわね。」

 

『蒼の薔薇』とリグリットがしばらく考えこむ。

 

「すまぬがお主ら、わしはこの事をツアーに伝えに行く。あのデュラハンはお主に任せてもよいか?」

 

「でも、どうすれば…」

 

「とにかく仲良くするんじゃ!敵に回すのだけはなんとしても避けろ!ユグドラシルから来た者達は、信じられない程強い存在になるからの。」

 

「わかったわ!頑張ってみる。」

 

リグリットが『蒼の薔薇』と別れ、歩き出す。

 

「…ツアーよ、百年の揺り返しが、また起きようとしているかもしれんぞ」

 

 

 


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