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◇昼・3時頃
城塞都市エ・ランテルから馬車で2〜3時間はかかる距離にある洞窟──元盗賊団のアジトだった洞窟から数km離れた森の中を、鎧を着た者達が歩いていた。
森と言えば、鳥や獣、モンスター達の鳴き声で溢れるのが普通だ。しかし─今の森には
では──それは何故か?理由は簡単だ。
最強の生物──ドラゴンが居るからだ。しかも
動物達には、人間には分からない独自の気配察知能力がある。人間より鋭い気配察知能力によって動物達は即座に理解する。『自分達より圧倒的に強い存在』が来たと。ならば、動物達が次に取る行動は限られる。
1つ目は──息を殺し隠れる事だ。自分の住処でもいい。木の上や岩の隙間、地面の穴──とにかく自分の体が隠れられる場所に身を隠す。そうやって強敵が過ぎ去るのを待つのだ。そうやって相手を刺激せず、自分に興味を持たれないようにする事で、少しでも生存率を高めようとする。
2つ目は──逃走だ。隠れる術がない動物──特に体が大きい動物はどうしても目立ってしまう。ならば、相手の視界に入らない距離──あるいは気配察知に引っ掛からない距離まで逃げるしかない。それもまた、生存率を高める1つの方法だと、動物達は学習している。
『弱肉強食』の世界で生きる彼等にとって、弱者が取る行動とはそういうものであると学んで生きてきたからだ。
──そして
『圧倒的強さ』を誇るドラゴン達にも、『弱肉強食』は存在する。力の強いドラゴンは、己より弱いドラゴンと戦い、脅したり殺したりして宝や縄張りを奪う。それが普通だ。
──だが…
今この場にいる12体の竜王達は違う。彼等は知っている。『絶対的な強者』の存在を。自分達では絶対に勝てない相手であり、実際に
──しかし
彼等は逃げない。『絶対的な強者』であるそれは、同時に『絶対に護りとおさないといけない宝』でもあるからだ。その宝を
故に──竜王達は周りに知らせる。
『ここが我等の縄張りだ。』
『我等の主人に近づくな。』
『近づいた奴は焼き殺す。』
その
故に──敵の接近を感知するのに役立つ。
生物最強種であるドラゴンの殺気から逃げない者の正体は、次のどれかになるからだ。
ⓐ気配察知能力が劣った、ゴブリンや人間といった下等生物
ⓑドラゴン見たさに、好奇心で近付いて来た愚か者
ⓒドラゴンに対抗できる強者
そのどれかになる。特に、最後に該当する人物は危険だ。この世界の生物の平均レベルは30Lv以下が一般的だ。アダマンタイト級の冒険者チームでようやく30Lv前後という『弱者だらけの世界』なのだ。80〜90Lvの強さを持つ竜王達の殺気から逃げない人物となれば、それは…
──それだけの強さを持った人物
になるという事だ。となれば、竜王達は決死の覚悟で主人を護る盾となり、敵を討ち滅ぼす矛になるだろう。
──しかし
そんな覚悟を決めている竜王達をよそに、肝心の竜王達の主人であるリュウノはというと──
「はぁ〜…またアインズに怒られるぅ〜…絶対怒られるぅ〜…はぁ〜…死にたい…。」
生きる事に辛さを感じていた。頭を──上半身をガックリと下ろし、ゾンビのようなヨタヨタ具合で歩いている。
「そ、そこまで落ち込む事ないじゃないですか、リュウノさん。」
たっちが励ますが、リュウノは依然として落ち込んでいる。
「だってさぁ〜…自分の正体をバラしたんだぜ?『自分、アンデッドです!』って、皆のまえで告白したも同然だよ!冒険者組合の人達…絶対警戒してるだろうなぁ…」
ただでさえ、ヴァンパイア騒動が起きている状況で、『がらんどう』状態の姿を晒したのだ。しかも、冒険者組合長の目の前でだ。少なくとも、人間とは思われなかっただろう。
「何か、上手い言い訳を考えないとなぁ…」
アンデッドではない事を証明してヴァンパイアとは無関係である事をわかってもらう事が最低条件だ。そこからどうやって友好的な関係にもっていくか…
「それとも全て正直に話して、信頼してもらうべきかな?」
「それは…がらんどう状態を解除して素顔を見せるって事ですか?」
「アンデッドではないと証明するには、それが1番手っ取り早いと思うんだ。」
スキルや魔法による効果で肉体が消えていた、という言い訳なら、案外信じてもらえるのではないか?と、リュウノは考える。
「スキルとか魔法の効果だって言えば、納得してもらえるような気がするんだけどな。この世界には、『タレント』という特殊な能力を持った人達が存在するらしいし、私のがらんどうもタレントの能力だって言えば、案外大丈夫なんじゃ?と、思うんだけど?」
『タレント』という能力は、カルネ村に居た冒険者チーム『漆黒の剣』から聞いた情報だ。
『漆黒の剣』のメンバーの1人であるニニャは、『魔法適性』という魔法の習熟が早まるタレントを持っており、通常なら8年かかるところを4年でマスターできるらしい。
薬師のンフィーレアも『どんなマジックアイテムでも使える』というタレント能力者だと言う事で有名らしい。
エ・ランテルだけで、既に2名のタレント能力者が存在しており、両者ともエ・ランテルでは有名人だった。
──ならば
私のがらんどうもタレント能力だと言えば、冒険者組合の連中を納得させられる可能性もなくはないのだ。
「既に、冒険者組合の連中には、私が首無し騎士デュラハンかもしれないって疑われてるだろうし。あんな目立つ事をしでかした私が言っていい事じゃないけど、もうスレイン法国の奴らの目を気にして隠れる必要性が無いと思うんだ。」
噂はすぐに広がる。自分が、中身ががらんどうの鎧を着たアンデッドだと言う情報が、口コミで広がるのを阻止するのは不可能である。むろん、エ・ランテルの住民を皆殺しにすれば、他国に噂が広がるのは阻止できるかもしれないが…。
「いっその事、王都の『首無し騎士デュラハン』と、エ・ランテルの『首無し騎士デュラハン』は別物という雰囲気を出せば、スレイン法国の目を欺ける事もできるんじゃね?」
「えっ!?どういう意味ですか?」
訳が分からないという感じのたっちに、リュウノがわかりやすく説明する。
「王都で活躍しているアダマンタイト級冒険者チーム『竜の宝』の首無し騎士デュラハンは、頭がない本物のデュラハン──」
「──エ・ランテルに現れた『黒騎士』の首無し騎士デュラハンは、タレント能力でデュラハンになりすました人間のデュラハン──って事にするんだよ。」
「つまり、軍服を着たアンデッドのデュラハンと、黒い竜騎士の鎧を着た人間のデュラハンの『二役』を作る。という事ですか?」
正確に言うなら、『勝』と『リュウノ』という二役を演じる訳なのだが。
「そうそう!そうすれば、カルネ村で陽光聖典を撃退したのは本物のデュラハンで、スレイン法国の暗殺部隊と戦闘したのは、デュラハンになりすました人間だったという事にできると思うんだ。」
陽光聖典と戦った時はドラゴン化したブラック達を連れていたが、暗殺部隊の時にはドラゴンを連れていなかったので、別物のデュラハンをでっち上げる事は可能ではある。
モモンが暗殺部隊の隊長に言った『ドラゴンに乗って王都に帰った』発言も、『黒騎士デュラハン』を護るために、王都で活躍している『首無し騎士デュラハン』の情報で撹乱しようとした、と言い訳可能なのだ。
「それは──少し強引すぎませんか?それに、リュウノさんとブラックは同じ顔ですよね?そこはどうやって誤魔化すんですか?」
「そこは、私とブラックの顔が似てるという事を利用して、私とブラックが家族や姉妹という事にするんだよ!」
「そうすれば、この2人のデュラハンは知り合いで、互いに情報交換をしていたという事にできる。スレイン法国の情報を知っていた事も、『私が首無し騎士デュラハンだ!』と名乗ったのも、これで誤魔化せると思わない?」
我ながら悪くない案だと思ったのだが──
「1つ問題がありますね、その設定。」
というたっちさんの言葉で返される。
「どこが問題なんです?」
「リュウノさんは人間、ブラックは竜人です。家族や姉妹という設定だと、種族の違いをどう説明するんです?」
「んー…例えば──私がブラックの母親で、ブラックが私の娘っていう設定はどう?一応私、ブラックの生みの親みたいなもんだし。」
ブラックを創造したのは自分だ。であるなら、母親もとい父親のような存在に近いと言えるだろう。
「それだと、リュウノさんはドラゴンと結婚した事になりますよ?」
「まぁ、そうなるね。設定上は─だけど。となると──」
リュウノはそう言いながら、付き従って歩いている男性竜王達の方を見る。
「夫役は誰になるんだろうな〜」
ニンマリした表情でリュウノが言う。
途端に男性竜王達がずずずいっと近寄ってくる。
「主人よ、我が適任では?」
「いや我だ!」
「我こそふさわしいでしょう!」
「主人よ、我をお選びを!」
「我の方がよいですぞ?」
「青龍より我の方が!」
「黄龍より我の方が!」
もはや分かりきっていた反応だが、リュウノはクスクスと笑って正面を向く。
「夫役には困らずに済みそうだぜ、たっちさん。」
「そ、そのようですね。」
その光景を見たたっちは、苦笑いするしかなかった。
◇エ・ランテル冒険者組合1階
「プヒー…それで…何故今回はここで会議を行うのかね、プルトン?」
「はい。理由はあれです、都市長殿。」
組合長であるプルトン・アインザックは、1階のとある場所を指さす。都市長と呼ばれた男──パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアは、組合長が指さした箇所を見る。
「ふむ…あれは?」
「アイアン級の冒険者と
組合長の説明を聞いたパナソレイは、もう一度破壊痕を注意深く観察する。床にできた大量の小さな穴はともかくとして、1番目につくのが壁の傷だ。明らかに、砲弾でも叩きつけたようなヒビが入っている。
──喧嘩で武器か魔法が使用された?──パナソレイが真っ先に思い浮かんだ答えがそれだった。
「いつもでしたら…4階にある会議室を使うのですが…現在、4階に上がるための階段通路の壁にも
「うむ…確かに。1階の壁にヒビが入ってる状況で上の階で話し合い等はできんな。」
納得した、そう言う表情をしながらパナソレイは組合長の方に向き直す。
都市長──パナソレイ
肥満型ブルドックと称されるほど肥えた体つきをした男。
腹部にはたっぷりと脂肪がつき、顎の下にもこれでもかと言わんばかりに肉がついている。
頭髪は光を反射するほど薄く、残った髪も白くなっている。
服装は平民ではとても着れないような仕立てのいいベルベットのジャケットを着用し、指輪も衣服も財産が豊かであることを表している。
「それで、あれが…ただの喧嘩でできた破壊痕かね?」
「恐れながら──床の傷は武器によるものですが、壁の傷は──」
組合長が一呼吸置いて口を開く。
「──アダマンタイト級冒険者が殴ってできた傷です。」
パナソレイは一瞬、『ありえない』と考えたが、それをすぐに逆にする。アダマンタイト級の冒険者なら、あれくらいやってもおかしくない、そう考えたからだ。
アダマンタイト級の冒険者は、冒険者組合にとっては『切り札』的存在であり、まさに英雄と呼ばれるにふさわしい実力をもった者達の事をさす。組合によっては、『是非、私達の組合で働いて欲しい!』と頭を下げてお願いしたく成程の存在にもなるのだ。
現に、エ・ランテルにはアダマンタイト級の冒険者が居ない。王国─帝国─法国という三つの国の中間に位置する都市であるにもかかわらず、エ・ランテルの冒険者組合には最高でミスリルまでの冒険者しか存在しないのだ。
「それは本当かね?」
パナソレイがそう尋ねながら、自分とおなじように座っている者達に目をやる。
1階の中央には、一辺に三人ずつ座れそうな机が設置されていた。上座の中央には都市長のパナソレイ、両隣に組合長のプルトンと魔術師組合長の『テオ・ラケシル』が座っている。
パナソレイから見て、机の右側サイドにはミスリル冒険者3チームのリーダー達が座っている。机の左側には、エ・ランテルで最も有名な薬師のリィジー・バレアレと、高位な神官として有名な『ギグナル・エルシャイ』が座っている。
「詳しく説明してもらっても構わんかね?」
組合長から事情を聞いたパナソレイは、手元にあるヴァンパイアに関する報告書を一通り読むと、ため息をもらす。
「敵か味方かも不明か…。厄介ではあるが、一応ヴァンパイア退治に協力してくれる姿勢は見せてくれていたのだろう?」
「はい、都市長。アダマンタイト級の冒険者が協力してくれるのはありがたいですが──」
「味方と判断するのは、ちょっと早いんじゃねーか?」
プルトンの言葉を遮って発言したのは、ミスリル冒険者チーム『クラルグラ』のリーダー──イグヴァルジだ。
「何故かね?イグヴァルジ。」
「アンデッドだぞ!組合長も目の前で見ただろ!アイツのヤバさを!あれがヴァンパイアの仲間じゃないって言いきれるのか?俺達を騙そうとしてるかもしれないだろ!」
イグヴァルジの意見は最もである。生者を憎むアンデッドが必ずしも人間に協力的とは限らない。だが──
「わからんぞ、お主。ワシは以前、王国戦士長が連れていた首無し騎士デュラハンから、神の血のポーションをサンプルで貰ったからの。それに、あやつは村まで救ったらしいからの。王国戦士長が嘘をつくとは思えん。」
リィジーがイグヴァルジの意見を否定するような発言をする。イグヴァルジは不服そうな顔をする。
「それにだ、組合長!冒険者組合の建物内で武器を使用するような奴だぞ!普通なら摘発されるべき案件だろ!アダマンタイトだからって、あれは許される行為じゃない!」
「確かに摘発されるべき案件だが…話に聞くと、あのアンデッドは最初は喧嘩を回避しようとしたらしいぞ。流石に2度目はキレていたが…。王国戦士長が連れていたデュラハンも、竜人が痴漢を殴り飛ばす中、喧嘩には参加しなかったという話だ。」
「でも──」
「とりあえずだ!」
イグヴァルジがまだ何か言おうとしたが、都市長が言葉を遮って話し出す。
「その黒騎士達については、彼等がヴァンパイアの調査を終えて帰って来てから話し合うべきだろう。今はヴァンパイアに対して、我々ができる対策を考えようではないかね?」
「これで良し!っと。」
「リュウノさん、これは…洋館ですか?」
「そうだ。ヴァンパイアのアジトという設定のね。さしづめ『吸血鬼の館』ってやつさ!」
リュウノが森の中に設置したのは、拠点作成用のアイテムから取り出した『古い洋館』だ。三階建てのやや大きめの建物であり、ところどころにヒビ割れや破損箇所があるなど、かなりの年月が経った感じになっている。
「後はこれを設置すれば終わりだよ。」
「それは?」
リュウノの手に握られていたのは、丸い石に大量の御札を貼ったようなアイテムだった。
「結界石だよ。これを洋館の最上階に設置すれば、洋館の周囲100㍍に結界が貼られるんだ。この結界は、外からだと洋館が見えないようにできるんだ。この結界のせいでこの洋館が今まで発見されなかった、という事にするのさ。」
「なるほど…。」
「じゃあ、私は結界石を洋館内に設置してくる。ついでにヴァンパイアの召喚やってくるぜ。」
リュウノはそう言うと、洋館内に入っていった。
残されたたっちは、竜王達と何か話そうかと考え、竜王達の方を見る。男性竜王達は夫役を誰にするかでまだ言い合いを続けている。その時、竜王ファフニールのいった言葉に、たっちが反応する。
「我はユグドラシルで主人と『竜王合体』した事があるぞ!お前達は無いだろう!だから夫役は我が適任だと思──」
「竜王合体だって!?ファフニール!それについて教えてくれ!」
変身ヒーローや特撮ヒーローが大好きなたっち・みーは、合体という言葉を聞くと興奮してしまうのだ。
「竜王合体か?我が主人のスキルの1つだ。召喚可能な竜王と合体して、合体した竜王の特性と技が使えるようになる。後、見た目も変化するぞ。」
「どんな風に変わるんだ?」
「例えば、バハムートなら赤い鱗の竜人になり火の特性と技が使えるようになる。神竜なら、白と金が入り交じった鱗の竜人になるな。しかも、神竜と同じ翼にもなる。後は神聖の特性と技が使える、といった感じだな。」
「そうなのか!?竜人にもなれるなんて!でも、なんでリュウノさんはそのスキルを自慢しなかったんだろ?」
変身系のスキルを手に入れたなら、皆に見せびらかしても良かった気がするのに。と、考えたたっちに、ファフニールが補足する。
「竜王合体はLv100になると無意味のスキルになるのだ。竜王合体をするなら、プレイヤーのLvは85Lvあたりが適正だからな。元々人間向けのスキルゆえ、異形種には扱いづらいスキルではある。まぁ、今の主人なら、人間化の影響で種族Lvがなくなり適正Lvになっておるから、竜王合体するには1番なんだが…。」
「Lv100になると無意味になる?そう言えば、シャルティアが言ってたんだが、『Lv100じゃなければ竜王合体でシャルティアに勝てた』と、勝さん…いや、リュウノさんが言ってたらしいが、どう言う意味なんだ?」
「ああ、それはだな、竜王合体した際に種族Lvと職業Lvを合体した竜王から得るからだ。しかし、Lv100になると、竜王合体の恩恵が得られなくなるのだ。」
Lv100になった時点で竜王合体は死にスキルになる。
ユグドラシル時代、勝が竜王合体のスキルを手に入れて試しに行ったのがファフニールと契約した時だったのだ。しかし、他の竜王と契約した時にはLvが100になってしまったため、竜王合体をしても変化がなかったのだ。
「得られる種族Lvと職業Lvには、どんなものがあるんだ?」
「我の場合だと、最大で竜人Lv15が得られる。我は竜王合体のお試し版みたいな位置づけだから得られる恩恵は少ないがな。他の竜王の場合だと、竜人Lv5から様々な職業Lvが得られるぞ。」
「へー。他の竜王だとどうなるんだ?」
「
「なるほど!それがリュウノさんがシャルティアに勝つ為の手段だったのか!」
「
「神竜と真逆なのか!」
「
「やっぱり自然系が中心なんだな。」
「
「リュウノさんが薬剤師…想像つかないな…。他はどうなるんだ?」
◇バハムート
竜人Lv5、
◇ヤマタノオロチ
竜人Lv5、
◇青龍&黄龍
竜人Lv5、
◇ティアマト
竜人Lv5、
◇白竜
竜人Lv5、
「──という感じだな。」
「聞き慣れない職業がいくつかあるが、戦術が広がるのはリュウノさんにとっても良い事ではあるな。ところで、シャドウナイトが竜王合体した場合どうなるんだ?」
「わかりません。私はユグドラシルという世界で生まれた訳ではありませんから。リュウノ様からある程度ユグドラシルに関する知識は得ていますが、ユグドラシルのシステムもイマイチ理解できていません。ただ、影を中心とした技が多いので、アサシンか忍者のような職業になるかと。」
「なら、リュウノさんが帰って来たら、竜王合体を試して確認するのも──」
「おーい。おまたせ〜。」
会話の途中でリュウノが洋館から出てきた。すかさずたっちがリュウノに竜王合体の話をする。
「そっか!今の私なら、竜王合体が可能なのか!まだ試してなかったし、いい機会だ!ファフニール、竜王合体やるぞ!」
「畏まりました、我が主人。」
リュウノがファフニールの胸に手をあてる。
「一体どうなるんだ?(ワクワク)」
たっちがウキウキしながらリュウノの変身を見守る。
「スキル発動!竜王合体!」
リュウノがスキルを発動させた瞬間、ファフニールが光の球体に変化し、リュウノの体に吸い込まれる。その瞬間、ピカッと眩しい光が一瞬リュウノの体から発せられたが、特にリュウノの体が変化した様子はない。
「あれ?もう終わりですか?」
「テレビのヒーローみたいに、長々と変身セリフ言いながら変身する訳ないじゃん。変身が終わるまで待ってくれる敵とか普通居ないから。そんな事してたら敵に狙われて終わるっつーの。」
「た、確かにそうですけど!それは変身のお決まり展開ですから、ヒーロー好きの夢を壊さないで下さい!」
「とりあえず鎧脱ぐわ。鎧着てたら、変身の変化がわからないし。」
そう言ってリュウノが鎧を全部外す。鎧が一瞬で消え、リュウノの体があらわになる。
「おお!?凄い!本当に竜人になってますよ、リュウノさん!」
変化したリュウノの姿は、頭に角、背中に羽、お尻の上に尻尾が生えていた。鱗が灰色で、ボディの衣服が黒のタンクトップに黒のスパッツという以外、ほとんどブラックと同じ姿だった。
もし、リュウノの格好がブラックと同じ黒の鱗でレオタード姿でツインテールなら、アインズですら見分けがつかなくなるのでは?と、思う程だ。
「これが竜人か…。不思議な気分だ…。」
リュウノが変化した自分の姿をまじまじと見る。人間から竜人という種族に変化した自分の姿に、戸惑いが隠せないでいると──
「美しい…」
どこからか聞こえた声にリュウノが目をやると、男性竜王達が兜の鼻の部分から血を流していた。
「どうしたお前ら!?」
「いや、主人のあまりに美しい姿に鼻血が!」
どうやら竜人化したリュウノの姿に興奮して男性竜王達が鼻血を出していたらしい。リュウノの今の姿は、同族の竜王からしてみれば、最高に美しい雌ドラゴンの理想形態なのだろう。
「エロい目で見るんじゃねーよ、お前らww」
「「「す"み"ま"せ"ん"!」」」
男性竜王達が騎士兜の鱗の変身を解き、必死に鼻血を拭う。
「リュウノ様、私とも竜王合体していただけませんか?私はユグドラシル生まれではないので、竜王合体でどのような能力が得られるかわかりませんので。」
「確かに、シャドウナイトとはこっちの世界で契約したもんな。お前と竜王合体して得られる能力を確認するか。」
リュウノがシャドウナイトの胸に手をあて、スキルを発動して変身する。すると、シャドウナイトと入れ替わるようにファフニールが現れる。
「ンハァ〜♡…主人との竜王合体は最高だった…」
そう呟きながら余韻に浸っているファフニールを無視してリュウノが自分の姿を確認する。
「おお!肌が褐色になった!」
鱗の色が焦げ茶になり、肌が褐色に変化した姿のリュウノが立っていた。
「どうです?シャドウナイトの能力の具合は?」
「んー?私の見立てだと、竜人Lv5、
リュウノがたっちに尋ねる。すると、その姿を見たたっちがある事を思いつく。
「リュウノさん、良いアイデアが浮かびましたよ!」
「良いアイデアって?」
「その姿なら、ブラックの双子のお姉さんという設定ができるのでは?ブルーとレッドが双子ですし、悪くないアイデアだと思うんですけど!」
たっちのその言葉に、リュウノはニヤリと笑う。
「たっちさん、そのアイデア、採用!」