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※『漆黒の剣』ではありません。
キャラクターの名前の元ネタは、『フロントミッション1st』のキャラクターです。
【登場人物紹介】
銀級冒険者チーム『キャニオンクロウ』
『ロイド・クライブ』
·チームのリーダー
·身体・23歳・186cm・75kg・ 男性
·平民出身
·戦士〈ファイター〉
《主武装》
·帯鎧〈バンデッド・アーマー〉
·片手剣〈ショート・ソード〉(メイン武器)
·短剣〈ダガー〉(サブ武器)
·円盾〈ラウンド・シールド〉
『リュージ・サカタ』
·リーダーと親友
·身体・28歳・175cm・65kg ・男性
·貴族出身(サカタ商会の社長の息子だが家出中)
·軽戦士〈フェンサー〉
《主武装》
·革鎧〈ハード・レザー・アーマー〉
·刺突剣〈レイピア〉(メイン武器)
·短剣〈ダガー〉(サブ武器)
·小盾〈バックラー〉
『ナタリー・ブレイクウッド』
·リーダーに片想い中
·身体・21歳・168cm・55kg ・女性
·貴族出身(冒険者になる際、父親から勘当された)
·魔術師〈マジックキャスター〉
《主武装》
·革鎧〈ハード・レザー・アーマー〉
·魔術師のフード付きマント
·スタッフ(メイン武器)
·魔道書(メイン武器)
·ナイフ(サブ武器)
『カレン・ミューア』
·ロイドの婚約者
·身体・174cm・58kg ・女性
·平民出身
·野伏〈レンジャー〉
《主武装》
·鋲革鎧〈スタテッド・アーマー〉
·強化弓〈ラップド・ボウ〉(メイン武器)
·大型ナイフ〈サクス〉(サブ武器)
第EX1話 とある冒険者チームのお話:その1
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【第EX1話:とある冒険者チームの話】
リ・エスティーゼ王国の王都には、広々とした敷地内に、三つの五階建ての塔を二階建ての長細い建物で取り囲む、という外観をしている冒険者組合がある。
そこの内部には、広いダイニングルームがある。そこには、幾つも並べられたダイニングテーブルとダイニングチェアが設置されており、多くの冒険者達が利用している。冒険者達の交流を深める場としても重宝されており、そこで食事をしながら談話を楽しむ者や次の新しい依頼が張り出されるのを待つ者もいる。
ダイニングルーム以外にも、武器や防具の修理をやってくれる鍛冶屋、武器や防具等を売ってる武具店、ポーションの販売を行う薬品店等の店が、冒険者組合内部に設けられている。
時刻は10時。そんな冒険者達が行き交う賑やかな場所にはそぐわない雰囲気で、ダイニングチェアに腰掛けている男が居た。
銀級冒険者チーム『キャニオンクロウ』のリーダーの『ロイド』という男だ。
彼の居るテーブルの上には、酒の入ったジョッキが置かれているが、飲んだ形跡は無い。
当然だ。今の彼は、とある理由で悲痛に暮れており、酒を飲む気分ではなかったからだ。
周りにいる冒険者達も、彼が悲痛に暮れている理由を知っているため、声をかける者はいなかった。
ロイドはため息を漏らす。
「カレン……無事で居てくれ…。」
ロイドが悲痛に暮れている理由、それは──同じチームの仲間であり、婚約者でもあった──『カレン』という女性が行方不明になったからだ。
──事は昨日から始まる──
王都から差程遠くない場所にある鉱山近くの森、そこに出没するゴブリンとオーガの討伐の依頼を達成するのが俺達の目的だった。
チーム『キャニオンクロウ』のメンバーは全部で4人。
そして──
この4人で朝から討伐に向かったのだ。
討伐の依頼自体は簡単に終わった。討伐したゴブリンやオーガの死体から体の一部を切り取る作業に移る。
討伐したモンスターの体の一部を組合に提出すると報奨金が貰える。討伐したモンスターによって報奨金の額が変わるシステムなので、低級冒険者でも倒せるゴブリンやオーガの報奨金はあまり高くない。無いよりはマシ、という程度だ。
「今日はゴブリンが7体にオーガが2体か。」
「どうする、ロイド?もっと稼ぎに、森の奥に行くか?」
討伐したモンスターの一部を切り取りながら仲間のサカタと会話を交わす。
「ナタリーの魔法次第かな。ナタリーの魔法の援護があった方が安全だろ?おーい!残りの魔力はどうだ?ナタリー。」
同じように、ナイフでモンスターの一部を切り取っている仲間のナタリーに尋ねる。
「微妙ね。モンスターの数が少ないのなら問題ないのだけど?」
「なら危険だな。オーガより強いモンスターに会う可能性もある。それに、最近ここいらでは
「そうね。ねぇ、カレン!」
ナタリーが、遠くにいるカレンに呼びかける。
カレンは、自分の弓矢で仕留めたゴブリンの体の一部を切り取りに行っていた。
「ロイドがベースキャンプに戻るって!」
「わかったー!コレ切り取ったらそっちに行くわ!」
カレンからの返事を確認した時、サカタが質問を投げかける。
「ロイド、その行方不明者が多発してる事件、いつからなんだ?」
「えーと…3週間ぐらい前かららしいぞ。チームの仲間の1人が急に行方不明になって、帰って来なくなるって。捜索しても見つからないのだとか。」
「私達と同じ討伐依頼を受けたシルバーやゴールドの冒険者チームが幾つも被害にあってるらしいわ。」
「薬草採取の依頼を受けた下のランクの冒険者チームも幾つか被害にあってるって聞いたぞ。」
サカタの顔が険しくなる。
「それ、ヤバくないですか?」
「ああ。3日程前に、捜索願いの依頼がミスリル以上の冒険者でも受注可能になった程だからな。組合の方も、事態を深刻に考え、アダマンタイト級の冒険者チームに依頼を受けてもらえないか、相談しようか迷ってるって話だ。」
「なら、さっさと帰りましょう!僕達も被害にあう可能性もある訳ですし。」
「そうだな。じゃあ早くカレンを呼び戻して──」
その時だった。
突如、強烈な突風が轟々と吹き始め、俺達はなぎ倒された。風に押され、地面をゴロゴロ転がる。
「うおっ!?何だ、この風は!」
突風はかなり強く、風が止むまで立つ事すらできない程だった。
「いやぁぁぁ!」
遠くでカレンの叫び声がした。
「カレン!?」
「嫌!離して!ロイド、助けて!」
「カレン!どこだ!?くっ!風が強くて…!」
彼女の叫び声に、すぐさま駆けつけたかったが、この風の強さでは立ち上がるのは無理だった。
ようやく風が止み、急いでカレンが居た場所に向かったが、彼女の姿はなかった。
モンスターに攫われたのでは?と思い、周辺を探すが発見できなかった。
その後、必死に探し続けたが、カレンが見つからないまま夕方になった。
カレンが自力で帰って来る可能性を考え、夜をベースキャンプで過ごしたが、朝になってもカレンは現れなかった。
自分達だけで森を捜索するには危険だし、そもそも手が足りないと判断し、王都に帰還してからすぐさま冒険者組合にカレンの捜索願いを頼んだのだ。
すると──
「今朝、アダマンタイト級の冒険者チームが、あの森で行方不明になった人達の捜索の依頼を受注し、出発致しましたよ。」
と、受付嬢が教えてくれたのだ。
しかし、森から王都に帰る道中で、他の冒険者チームに会った記憶はない。
詳しく尋ねると、そのアダマンタイト級の冒険者チームは、昨日アダマンタイトに昇格した『竜の宝』という名前の冒険者チームだと言う。しかも、アンデットとドラゴン──一昨日に王都に現れた
「大丈夫なんですか?そんなチームに捜索なんかさせて!?」
「私達もなんとも……。一応、アダマンタイト級の冒険者ですし、信じて待って見ては?『竜の宝』の皆さんも、人助けの依頼がしたいと仰って、この依頼を言い値で引き受けて下さいましたし。」
そんな訳で今の俺は、アンデットとドラゴンで編成されたアダマンタイト級冒険者チームが、行方不明者の手がかりを持って帰ってくるのを待っている状態だ。
サカタとナタリーは、依頼で消耗した物資の補充のため買い出しに行っている。
1人でダイニングチェアに座っていると、受付に『蒼の薔薇』がやってくるのが見えた。
受付嬢に、『竜の宝』について尋ねている様子だった。
「嘘!?勝さん達、今朝依頼を受けて出発しちゃったの?」
「何だよ、居ねーのかアイツら。」
「昨日の事、謝ろうと思っていたのが……」
蒼の薔薇のメンバーは、『竜の宝』に会えなくて残念そうにしている。
「ねぇ?今朝の『竜の宝』のメンバー達の雰囲気は、どんな感じだったか覚えてる?」
ラキュースが受付嬢に質問する。『竜の宝』に関して、何か探っているかのようにも見てとれる。
「はい。『竜の宝』の皆さんは、アダマンタイト級冒険者としての初仕事が待ちきれなくて早く来てしまった!と、ブラックさんが仰ってました。気合いたっぷりな雰囲気でしたよ。」
「そう。それは良かったわ。」
「てっきり、もう顔を出さないかと思ったが……どうやら杞憂だったみてぇだな、ラキュース。」
「ええ、ホントね。」
会話を聞く限り、『蒼の薔薇』は『竜の宝』に関して、何か心配事でもあった様子に見えた。
『蒼の薔薇』と『竜の宝』の間で何かあったのだろうか?
「なぁ、デュラハンは居たかい?」
「え?あ、はい。いらっしゃいましたが…」
「そうかい。てーことは、
「そう…みたいね。」
「?」
悲しそうな表情をするラキュースに、受付嬢が不思議そうな顔をしている。
どういう意味だろうか?あのアンデットはデュラハンだったハズだ。最初から首がないのは当然のはずだが…。
「ロイド。」
突如、背後から名前を呼ばれ、慌てて振り向くと、サカタとナタリーが立っていた。
「な、なんだ。2人とも、今戻ったのか?」
「ああ。」「ええ。」
2人が同じ席に腰掛ける。
「買い出しついでに調べたが、被害にあった人間は10人以上居るらしいぞ。」
「そうなのか?」
「行方不明者の捜索を受けた冒険者チームからも被害者が出てたみたいよ。」
「ミイラ取りがミイラに……ってヤツか。」
たった3週間で10人以上も行方不明になるなんてありえるだろうか?
「カレンが攫われた時、強い風が吹いてただろ?あれ、被害にあった冒険者チームも、同じ現象が起きてたみたいだぜ。」
「つまり、偶然じゃないって事か?」
「ああ。確実に、その突風とカレンを攫った何者かは関連がある。」
「でも、肝心の手がかりが何も無いのよね…。」
完全に手詰まり状態の自分達に残された手は、信頼していいかもわからないデュラハンがリーダーのアダマンタイト級冒険者チーム『竜の宝』からの調査報告だけである。
「なぁ、ロイド。お前、
「いや、まだだ。今回の依頼の達成報酬でようやく買える額になるから、本当なら今日買う予定だったんだ。でも、カレンが居ないと、買う意味が無い…。」
「アレって、何の事?」
『アレ』の意味が理解できていない様子のナタリーがサカタに質問する。
「何って、結婚指輪だよ。ロイドは今日、依頼達成で得た報酬で、カレンに渡す結婚指輪を買うつもりだったんだよ。」
「そ、そうだったの……それは…その、残念ね。」
「最悪だ……こんな事なら、カレンを冒険者になんか誘うんじゃなかった。」
「ロイド、そんな事言うな。カレンだって、楽しそうにしてただろ。」
「だけど……」
「自分を責めるな。誰も悪くない。それに、死んだなんて決めつけるな。もしかしたら、まだ生きてるかも知れないだろ?」
親友であるサカタに励まされ、少しだけ前向きな気持ちになる。
「そうだよな。まだ死んだ訳じゃないもんな。スマン。ネガティブな事ばかり考えてた。」
「気にするな。とりあえず、『竜の宝』が帰って来るのを待とう。」
──昼12時頃──
『竜の宝』の帰りをダイニングルームで待っていると、突如ズンッ!という地響きが起こる。
周りの冒険者達が何事かと騒いでいたが、中庭を見ていた冒険者達が大きな声を上げる。
「見ろ!ドラゴンがいるぞ!
「『竜の宝』が帰ってきたぞ!」
普通、冒険者組合の中庭──いや、王都にドラゴンが現れたなら一大事なのだが、一昨日の一件で既に経験済みの冒険者達にとってはパニックまでにはならなかった。
「3体のドラゴンと──」
「──デュラハンを確認した。」
『蒼の薔薇』の双子の盗賊忍者が、窓から中庭の様子を伺いながらつぶやく。
「帰って来たのね!」
「ようやく来やがったか!」
「まったく…静かに降りれないのか、アイツらは。」
いち早く、『蒼の薔薇』が組合の敷地内にある中庭に飛び出していく。
自分達も後に続くように飛び出す。
すると、丁度ドラゴンが竜人形態に変化する最中だった。ただ、1匹の青いドラゴンだけが、そのままの形態で居る。足元に何か巨大な物を掴んでおり、押さえつけている。
「よお!お前ら!すげー獲物を持ってきたな。」
ガガーランが、なんの躊躇いもなくドラゴンに近づいていく。
「む?蒼の薔薇か。」
「こんにちは、ブラックちゃん達。それと…勝さんも。」
ラキュースが挨拶をすると、真っ先にデュラハンが手を振って挨拶を返してくる。
「こんにちは。と、ご主人様が言っているぞ。」
チームで唯一、会話が可能と言われているブラックがデュラハンの言葉を代弁する。
挨拶を返された事が余程嬉しかったのか、ラキュースを含む『蒼の薔薇』のメンバーが『竜の宝』のメンバーと握手を交わしながら会話を始め出す。と言っても、『竜の宝』で会話が可能なのは1人だけなので、ブラックだけが対応してるように見えてしまう。
「勝さん、昨日の事はごめんなさい。私達──」
「よい。ご主人様も、昨日の事を謝るつもりでいたそうだ。いきなり逃げて、すまなかったと、仰っている。」
「本当!?良かったわ!なら、これからもよろしくね。」
『蒼の薔薇』と『竜の宝』が会話する光景を、他の冒険者達が取り囲むような形で眺めている。ドラゴンだけでも注目の的なのだ、人を襲わないデュラハンや竜人という要素が加われば、誰でも気になるのは当然だ。
「(すげぇ…。『蒼の薔薇』は、もうあんなに打ち解けてるのか…)」
俺は、『竜の宝』にカレンの手がかりがないか質問したかった。しかし、冒険者として信頼も評価も高い『蒼の薔薇』が会話してる最中に割って入る勇気はなかった。とりあえず人混みに紛れながら、2つのアダマンタイト級冒険者チームの会話を盗み聞く事にした。
「それで首なし、ブルーが掴んでるモンスターは何なんだ?」
「これか?これは行方不明者が多発していた森の近くにある鉱山に居た『ハルピュイア』だ。」
周囲の目がブルーの掴んでいるモンスターにいく。動いていない様子から、既に死んでいるのだろう。
『ハルピュイア』は大型の飛行動物だ。わかりやすく言うなら〈
「ハルピュイア?何でそんなもの持って帰って来たんだよ?」
「決まっている。このハルピュイアが、今回の行方不明者多発事件の犯人だからだ。」
「何だと!それは本当か!?」
集まっていた冒険者達からどよめきが起こる。
「証拠となりうる物も発見したからな。」
ブラックの声に合わせ、デュラハンがポケットから皮袋を取り出す。袋の中からジャラジャラと金属が擦れる音がしている。
「それは?」
「ハルピュイアの巣から発見された冒険者のプレートだ。ランクは様々、プレート全てに血糊や血痕がべっとり付いている。間違いなく、このハルピュイアが人を襲って、巣で食べた証拠だ。」
デュラハンが皮袋の口を開け、中身が皆に見えるようにする。
ブラックの言う通り、血で錆びたようなプレートから、まだ新しい感じの血が付いたプレートなど、様々なランクのプレートが入っていた。無論、銀ランクのプレートもだ。
「受付嬢、すまないが行方不明の冒険者達のプレートかどうか照合してくれ。」
「は、はい!畏まりました!」
プレートを受け取った受付嬢が建物に入っていく。
プレートの裏には登録番号が刻み込まれている。それを、組合が保管している冒険者の個人情報と一致するか調べるのだろう。
もし、あのプレートの中にカレンのプレートがあった場合、それは──
「ロイド、そう暗い顔をするな。な?」
サカタが肩に手を置きながら、元気づけようとしてくれる。
「(そうだ。まだ確定した訳じゃない。)」
俺は再び、アダマンタイト級冒険者チームの会話に耳を傾ける。
「何でハルピュイアが犯人だと思ったの?」
「それがだな……」
ブラックが言いにくそうにデュラハンを見る。
「どうしたの?」
「……実はだな、最初は私達も森を探索していたのだ。行方不明者の手がかりを見つける為にな。」
「ふむふむ。それで?」
「たまたま遭遇したゴブリンやオーガの群れと交戦していたら、強い突風が吹いてな。」
強い突風──俺達や被害にあったチームが言っていた現象だ!
「その直後、ご主人様がいなくなってしまったのだ。」
「えっ!?それってつまり──」
「首なし、オメーも攫われたのかよ!ダハハハハハww」
ガガーランが腹を叩きながら大笑いしだす。
ブラックが言いにくそうにしていたのは、デュラハンもおなじ被害にあったからだと、周囲の人達もさりげなく納得する。
「ここからはご主人様の体験談になる。ご主人様が言うには、突風を起こしたのも、ご主人様を連れ去ったのも、このハルピュイアらしい。ハルピュイアは、狙った獲物以外を吹き飛ばす〈突風/ガスト〉の魔法を使用し、ご主人様を捕獲。そのまま巣のある鉱山に連れていかれたそうだ。」
「その後は!?どうしたの?」
ラキュースは続きが気になるようだ。
「巣は鉱山の岩場にあってな、巣には3体のヒナがいたそうだ。親であるハルピュイアが巣に近づくにつれて、ヒナ達が興奮し始めてな。ご主人様曰く、とても可愛い──え?」
そこまで言ってから、ブラックがデュラハンの方を向く。予想するなら、デュラハンに声をかけられたのだろう。もちろん、私達には聞こえないが。
「──コホン。すなまい。ご主人様曰く、ヒナ達は大人の人間と同じくらいの大きさだったらしい。親がご主人様を巣に落とすと──あ、落とされた高さは、人間なら骨折する高さだったらしいぞ。」
「骨折……獲物を逃がさない為だな。」
イビルアイの解答に、ブラックが頷く。
「巣に落ちたご主人様にヒナ達が群がって、一斉につついてきたそうだ。ご主人様はなんともなかったので平気だったが、人間なら地獄のような苦痛が始まっていただろう。目は啄まれ、耳や唇は引きちぎられる。手でガードしても、ヒナ達のクチバシが容赦なく肉を抉ってきただろうな。」
「うっ……!」
「マジか……」
「被害者達は……いや、すなまい。言わない方が良いな…。」
誰もが想像したのだろう。暗い表情が多くなる。
「ご主人様はハルピュイアとヒナ達を駆除した。ヒナが大きくなると、また同じ被害が起きるかもしれないからな。」
ブラックの言葉に、その場にいた全員が納得する。
冒険者の規約の1つに、市民の安全を脅かすようなものや、犯罪に関わることや、生態系を崩すような仕事は受け付けない、という規約がある。
今回デュラハンのとった行動に間違いはない。人間を攫って食べるハルピュイアの駆除は必然だ。被害を抑えるという意味では、ヒナの駆除も筋が通る。どの道、親が居なくなれば、ヒナ達に待つ運命は飢え死にだけである。
むやみに生態系を崩した訳ではない為、デュラハンに悪い部分はない。
「ご主人様は巣の中や周辺を調査した。そこで見つかったのが──」
「プレートだった、って事ね。」
「そうだ。プレートは金属だ。人間ごと食べられても、消化されないからな。鎧等の防具や武器は──おそらく剥がされて巣の外に落とされたのだろう。それを、鉱山に住むゴブリン達が持ち去ったのだろうな。奴らが持ち去った時の足跡があったと、ご主人様が言っている。」
「どうりで手がかりが見つからない訳だ。」
「まさか鉱山にまで運ばれていたとは……」
行方不明者多発事件の全貌が明らかになった事は良い事だ。しかし、まだカレンが無事かどうかは不明なままだ。生きてる可能性は低いが、巣に運ばれる前に逃げる事ができたかもしれない。
「(馬鹿か俺は……カレンが生きてる可能性なんて、これっぽっちも無いのに……)」
カレンが死んだと思いたくない。それが今の自分の心境だ。
「後は、私達が駆けつけて、ご主人様に事情を聞いたのち、親であるハルピュイアを証拠として持って帰ってきたのだ。」
「なるほどね。これは勝さんじゃないと解決できない依頼だったわね。」
「そうかぁ?イビルアイなら魔法で飛べるし、捕まった後も問題ねぇだろ?」
「おい!それ、私が捕まる前提の話じゃないか!」
「ハルピュイアの足は、人間の肩や腕を容赦なく折る握力だぞ。イビルアイのような幼い体では、流石に耐えられんだろうな。」
「何をー!誰が幼いだ!誰が!」
クスクスと蒼の薔薇から笑いが起こる。
すると、受付嬢が建物からでてくる。
「ご報告します。『竜の宝』の皆さんが持ってきたプレートですが、
「1人だと?その見つかってない1人は誰だ?」
ブラックが詳細を受付嬢に尋ねる。
「銀級冒険者の『カレン』という女性の方です。1番最後に行方不明届けが出た方ですね。情報では、行方不明になったのは昨日という事ですが……」
受付嬢の視線が俺に──いや、俺達に向けられる。事情を知っている他の奴らの視線もだ。
俺は受付嬢に最終確認をとる。
「カレンのプレートが、『竜の宝』が持ってきたプレートの中に無かったという事ですか?」
「はい。」
カレンのプレートが無い。それはつまり、ハルピュイアにカレンが襲われなかったという事だ。少なくとも、巣まで連れていかれた訳ではない。
「ロイド!カレンが生きてるかも知れねぇ!直ぐに森に行こう!」
「待って!昨日、ベースキャンプで待ってたのに帰って来なかったのよ!?怪我でもしてたのなら、ゴブリンやオーガに襲われた可能性も──」
「それでも行くんだよ!カレンの死体があれば、蒼の薔薇のリーダーのラキュースさんに蘇らせてもらえるかもしれないだろ!」
「そうだ。皆で探しに行こう!きっとカレンの手がかりが──」
「待て。」
ロイド達を呼び止めたのはブラックだった。
「お前達はカレンという冒険者の知り合いか?」
「仲間だ。しかも、俺の婚約者なんだ。」
「婚約者?」
「ああ。」
「そうか……婚約者か。」
ブラックがデュラハンの方を向く。
デュラハンも──おそらくだが、何か考えているような仕草をしているように見える。
そして──
「よし。私達も、そのカレンという冒険者を探すのを手伝おう。」
「本当ですか!」
「ご主人様がそう仰った。それに元々、行方不明者を探すのが私達の依頼だからな。まだ見つかっていない人間がいるのなら、それも私達の仕事だ。」
「ありがとうございます!」
人手が多いにこしたことは無い。それに、行方不明者の手がかりを見つけた冒険者チームの協力を得られるのだ。デュラハンでもドラゴンでも、今は一緒に探してもらえるだけありがたい。
「ただ、探しに行くのはもう少し待て。」
「何故です?」
「まだ
「それはどこです?」
「あそこだ。」
ブラックが見つめる先──そこには、ハルピュイアの死体の隣に立つデュラハンが居た。
デュラハンが、ハルピュイアをトントンッと叩いている。
「まさか──」
「そのまさかだ。私達はまだ、ハルピュイアの
ブルードラゴンが、ハルピュイアに爪を突き立て、お腹の辺りを抉っていく。そして、中から胃袋の様な物を引っ張り出す。
それをデュラハンが、持っていた刀でスパッ!と切る。切られた胃袋から、ドロドロに溶けた──元は何かの生き物だったであろう──肉片がこぼれ落ちた。
「うっ!…臭い。」
「オエッ……首なし、ヒデェもんブチまけんなよ。」
肉片が放つ異臭に、周りにいた奴らが顔をしかめる。俺達も、正直臭いと思った。
「ご主人様、どうですか?プレートか何か、ありますか?」
アンデットであるデュラハンは、異臭を気にする事なく、散らばった肉片を掻き分けている。アンデットが死体を掻き分ける光景を、冒険者組合の中庭で見る日がくるなんて、誰が想像できただろうか。
「どう?勝さん。何か見つかった?」
ラキュースが鼻を押さえながら尋ねる。
すると──
チャラッ──という金属音が、肉片を掻き分けていたデュラハンの手元から聞こえた。デュラハンが丁寧に肉片をまさぐり、音の発生源を探す。
そして──デュラハンがゆっくりと、何かを拾い上げた。それを布で擦り、付いていた血糊を拭い取る。そして、私達に見えるように、それをこちらに向ける。
デュラハンが拾い上げた物、その手の中にあったのは、銀のプレートだった。
「ああ──そんな──」
「マジかよ……」
「カレン……」
俺達の希望は潰えた。最初からカレンは死んでいたのだ。連れ去られた、あの時から。
「まだ、カレンさんのだと決まった訳ではないでしょ!勝さん!ソレ渡して!」
ラキュースがデュラハンからプレートを受け取ると、受付嬢に手渡す。
「受付嬢さん、調べてもらえる?」
「あ、はい!畏まりました!今すぐ──」
「──必要ない。」
止めたのは俺だ。出てきたプレートを照合する必要なんて無いのだ。何故なら──
「何故!?カレンさんのかどうか、調べるべきよ!」
「その必要はない。それは……カレンのだ。」
「どうしてわかるの!?」
「アレです。」
俺はある場所を指さした。周りにいた人達が、その場所を見る。
デュラハンが、溶けかけの──人間の手を拾い上げていた。骨が剥き出しのボロボロの手。その手の指に、指輪がはまっていた。
「俺がカレンに渡した婚約指輪です。俺も、同じ物を付けてますから。」
自分の手に付けていた指輪を見せる。それだけで、ラキュースの表情が暗くなったのが見てとれた。
「ラキュースさん、お願いがあります。カレンを復活させてもらえないでしょうか?金ならありますから。」
俺は懐から皮袋を取り出す。
冒険者の規約の1つ、規定の金銭を受け取らず、無料で第三者?を治癒等をしてはいけない、という規約の為だ。
冒険者が無料で治癒等を行うと、神殿が儲からなくなるので、その対策の為の規約だ。この規約に納得できず、冒険者からワーカーにドロップアウトする人間も居たりする。
─────────────────────
※神殿とは、人間の健康を司る施設の事。国家所属ではなく多くの国で独立機関。神官が統べる。周辺国家は基本的に地、水、火、風の四大神を信仰。スレイン法国は光(生)と闇(死)の2つを加えた六大神を信仰している。寄付金や独自製品の販売、治癒魔法による治療の代金を取って運営している。病院も兼ねるし特定の村へ移民の募集の張り出しをしてくれるなど幅広く活動している。
─────────────────────
「結婚指輪を買う為に貯めていた金です。お願いします!」
「そんな大切なお金、いただけないわ。」
「お願いします!俺にとって、カレンは大切な人なんです!どうか!」
俺は地面に頭をつけながらお願いした。
死者の蘇生をお願いするのだ。それ相応の対価になるだろう。だが、金ならまた稼げはいい。それに、カレンが居ないのなら、買う意味が無いのだ。
「なぁ、ラキュース。仮の話だが、復活させる事自体は可能なのか?」
「難しいわね。私の魔法──第五位階信仰系魔法である〈死者復活/レイズデッド〉は、復活時に膨大な生命力を消失させてしまうわ。鉄クラス以下の冒険者はほぼ間違いなく灰となってしまう。蘇生させる際には、死体がないと難しいけど、死体の損傷が激しいと蘇生が難しくなるのよ。」
「カレンは銀クラスだ!蘇生の条件は満たしてるのでは!?」
「わからないわ。酷な事を言うようで悪いけど、貴方達チームの総合力が銀クラスなのであって、カレンさんが銀クラスに匹敵する生命力の持ち主かどうかはまた別なのよ。それに、カレンさんの死体の損傷度は絶望的よ。下手をすれば、蘇生できずに灰になる可能性もあるわ。」
「そんな!」
「正直に言うわ。今回の蘇生は、失敗する確率の方が高い。それでもやるの?」
失敗したら、二度とカレンの蘇生はできなくなる。俺は悩んだ。
しかし、そんな悩む俺に、声をかけた者がいた。
「アンデットであるご主人様がこう仰っている。」
「──え?」
「レッドなら、失敗せずに蘇生可能だと。」
「本当ですか!?」
「私の妹、レッドは第十位階魔法まで扱える
「そんな凄い魔法が!?」
ドラゴンは叡智にあふれる存在だと聞いた事がある。なら、人間を超えた、凄い魔法を使えても不思議じゃない。
「お願いします!カレンを!俺の大切な人を蘇らせて下さい!」
「良いだろう。しかし、対価は貰うぞ?」
「いくらぐらいでしょうか?」
「全部だ。」
「え!?」
「結婚指輪を買う資金、その全てを寄越せ。」
「なっ!?全額ですか!?」
周りからどよめきが上がる。
「流石に全部はないだろ!」
「そうよ!酷すぎるわ!」
「足元見やがって!」
「血も涙もないの!?」
「黙れ!」
ブラックの大声が響く。一瞬で周りが静かになる。
「私達はこの男に聞いている!外野は黙っていてもらおうか!」
周りを睨めつけながら、ブラックが話を続ける。
「さあ人間。決めるがいい。全額支払って、失敗のない私達に頼むか──金をケチって、失敗する可能性の高い蒼の薔薇に頼むか。どっちだ!」
俺は、すぐに答えを出す事ができなかった。ただ、仲間であるサカタとナタリーに頼ってはいけない、ということだけはわかる。
そう、これは俺自身の問題だからだ。
「別に構わんぞ?蒼の薔薇に頼っても。それで婚約者が灰になっても、私達のせいにはならんからな。無論、蒼の薔薇のせいでもない。その婚約者の生命力が足りなかったという結果になり、その女のせいになるのだからな。ただ、お前がどちらを選んだかで、お前の愛の強さが変わるがな。」
「愛の強さ!?どういう意味だ!?」
「せっかくだ。お前達人間に教えといてやる。私はご主人様を愛している。」
ブラックの突然のカミングアウトに周りが騒然となる。
「私だけじゃない。妹達もご主人様を愛している。ご主人様の為なら、自分の命すら捧げる程にな。」
「命すら…!?」
「そうだ。それ程の覚悟で私達はご主人様を愛している。なのに、お前はちっとも婚約者を愛してないな!」
「そんな事はない!俺はカレンを──」
「なら何故迷う?たかが銀級冒険者が稼げる程度の金だぞ?その程度、好きな相手の為に何故放り投げぬ!」
「それは──」
「大切な金である事は理解している。が、お前の1番大切な物は婚約者だろう!指輪より、婚約者の命を何故優先しないのだ!お前の婚約者は、金をケチっていい程度の女なのか?なら、そんなちっぽけ愛、捨ててしまえ!」
ブラックの言葉には重みがあった。本当に愛している者にしか言えない程の重みが。
「ブラックちゃん、言い過ぎよ!」
「コイツの婚約者は死んでるんだぞ!少しは言い方があるだろ!」
ラキュース達がブラックを注意するが──
「私達のご主人様も
「───ッ!!」
一蹴される。
「貴様らに何がわかる!ご主人様は元々人間だった!そのご主人様の今の姿を見ろ!心臓は止まり、体温も無い!おまけに顔まで無いのだぞ!私達は二度とご主人様の体の温かみを体感出来ぬのだ!ご主人様の本当の顔すら拝めないのだぞ!生者として生きる事を諦めたご主人様の行き着いた先が、このお姿だ!」
全員がデュラハンを見る。
愛した男の体温を感じる事ができない。
愛した男の顔も見れない。
そんな悲しい運命を──この3人は背負って生きてるのか。
「それでも私達は、ご主人様がそばに居て下さる事を嬉しく思っている。例え、ご主人様がどの様なお姿になったとしてもだ。失う辛さに比べれば安いものだ。失ったら、もう二度と手に入らないのだからな。」
──ああ。俺は馬鹿だ。本当に大切な事が何なのか。今になって理解するんだからな──
「『竜の宝』の──デュラハンさんにお願いします。俺の──俺の最愛の人を蘇らせて下さい!」
「カレン!カレン!目を開けてくれ!」
「──ん──ロ──イド──?」
「──!!カレン!良かった!カレンが生き返った!」
「わたし──ナニが──?」
俺はカレンに事情を説明した。
カレンは、ハルピュイアに連れ去られた時の記憶がなくなっていた。地獄のような苦しみを味わったかもしれない。だが、それを覚えていないのは、不幸中の幸いと言っていいだろう。
「カレンを助けてくれてありがとうございます!」
「礼はよい。対価はすでに貰っているからな。」
指輪を買う為の資金を失ったものの、カレンの命には変えられない。それに、たった金貨数枚と銀貨がそこそこの資金だ。また集めればいい。
「それよりお前達、結婚するそうだな。ご主人様がお祝いしたいそうだ。」
デュラハンがポケットから皮袋を取り出すと、俺に向かって放り投げてきた。
「受け取れ。」
「えっ!?でも、これは──」
「私達が助けた人間に、地味なパーティーをさせる訳にはいかんからな。それで必要な物を買ったら、余った金で豪華な宴会でもするがいい。では、私達は失礼する。受付嬢、報酬を受け取りたいのだが?」
『竜の宝』が受付嬢と共に歩いていく。それを見送りながら、俺は渡された皮袋を開く。その中身を見て、俺は自分の目を疑った。大量の金貨が入っていたからだ。
すぐにお礼を言おうとしたが、すでに『竜の宝』は受付嬢と共に、建物内に入っていった後だった。
『蒼の薔薇』に、デュラハンから渡された皮袋の金貨を見せると、ガガーランが大笑いし始める。
「どうした?ガガーラン。」
「ん?そりゃあオメー、笑うに決まってるだろぉ。デュラハンのヤツ、結婚指輪の資金を全部寄越せとか言っておいて、それを倍以上の額で返したんだぜぇ?ありゃ、最初からそうするつもりだったんだろうよ。」
「そうなのか!?」
「ああ。俺にはわかるぜ。ま、ブラックが言っていた事はマジだったみてぇだがな。」
「ブラックが言っていた事……デュラハンの事が好きだ、って言った事か?」
「それもあるが、首なしの為なら命すら捧げるってぇのもマジだな。ありゃ、本気の顔だった。」
「そうか。まぁ、私は恋愛には縁のない女だからな。そう言うのはよく分からん。」
「そうかぁ?意外とあっさり──」
「ない!絶対にない!ありえないからな!」