首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

36 / 58
第1話 王都─その1〔散歩〕

·

·

·

次の日の朝、勝は拠点であるアリーナ中央にブラック達と竜王達を集合させていた。

 

【よし!みんな集まったな。】

「はい!ご主人様。それで、今日は何を?」

【今日は天気も良いし、みんなで王都を散歩しないか?】

「さ、散歩ですか!」

 

散歩と聞いた途端、ブラック達の目がキラキラと光り出す。余程嬉しいのだろう。

 

【そ!散歩だ。最近いろいろあって、のんびりできなかったからな。今日は冒険者活動もやめにして、みんなで王都を散策しようじゃないか。】

 

最高位であるアダマンタイト級冒険者になった以上、冒険者活動は自由なタイミングで受注できる状況になった。

本来なら、上のランクを目指す為に依頼を積極的に受け、チームの実力や信頼を上げようと、普通の冒険者達はするだろう。

あるいは、生活の為の資金を稼ぐ為に依頼を受けるかだ。

 

しかし、『竜の宝』は違う。資金は豊富にあるし、わざわざ依頼を受けなくても金を稼ぐ手段は幾つもあるからだ。

冒険者組合から名指しの依頼や緊急の依頼でも来ない限り、依頼を無理に受ける必要はない。せいぜい暇を持て余した時に、退屈しのぎで受けるぐらいでも構わないのだ。

 

第一、冒険者活動を毎日やる必要はない。たまに休暇を作ってもバチは当たらないだろう。

 

「主人よ、我々も同行して良いのですかな?」

【良いぞ。ただ、お前達の姿はどうする?竜人形態で行くべきか、人間形態でいくべきか…どちらが良いだろうか?】

 

竜人形態の場合、ブラック達と同じように、手足は甲冑を着けているような形状をした鱗であり、頭に角、腰から尻尾が生えた姿になる。

 

人間形態は言うまでもなく、鱗、角、尻尾が無くなり、まさに人間という姿になる。

 

勝としては竜人形態の方が好きだ。ドラゴンの雰囲気もとい、動物らしい雰囲気がでるからだ。反面、王都の人間達からは少しばかり警戒される可能性はある。

逆に人間形態だと、ドラゴンらしさも動物らしさもない代わりに、人間達の警戒心は薄くなる可能性が高まる。

 

「主人の好きな方で、我々は構いませぬが?」

 

それが1番困る返答だ。できれば竜王達の意見を聞きたかったのだが──仕方ない。

 

【なら自由で。】

 

丸投げした。だが、あえて両方の姿をした者達が交じっている状態で歩くのもアリかもしれない。

 

「ご主人様、1つ質問が!」

【何だ?ブラック。】

「く、首輪はつけますか?」

【首輪?……あー、首輪かー…。】

 

首輪というワードに一瞬疑問がわくが、ブラック達の設定を思い出し納得する。

ブラック達の設定の1つに、『主人から首輪を着けてもらって散歩させてもらうのが夢』という、ペットらしい設定を書いたのだ。当然、ブラック達が自我を持ち、自力で動く事など想定していなかった時に考えた設定だ。

 

ドラゴン形態なら違和感がない為問題ない。凶暴な動物に首輪をつけて、どこそこ勝手に行かないようにしているように見えるからだ。

しかし、竜人形態で首輪をつけて歩かせた場合、どの様にみえるだろうか。

答えは1つしかない。奴隷だ。奴隷に首輪をつけて、連れまわしているように見えるだろう。

だが、それは少々まずい。

 

ここ王国では、かつては国民の奴隷売買が一般的に行われていた。しかし、第三王女であるラナーの働きで表向きは廃れた事が、王国戦士長からの情報でわかっている。

そんな国で、人型の生き物に首輪をつけていれば、間違いなく奴隷と思われるだろう。

 

【首輪をつけて散歩したいのか?】

「はい!だ、駄目でしょうか?」

【うーむ…スマンが首輪は無しだ。】

「何故でしょうか?」

 

ブラックの問いに対し、素直に理由を述べ説明する。

 

「奴隷に見える…ですか?私達は奴隷ではなく、ご主人様のペットですよ?」

 

ペット、というのもどうかと思うが、ブラック達は納得がいかないという雰囲気である。

そもそもブラック達に首輪をつける気などなかった。あくまで設定上のものであり、本当に首輪をつける日が来るとは思ってもいなかった。

それだけではない。自分とそっくりなブラックに首輪をつけるという行為自体が恥ずかしいのだ。

だが、首輪をつけてみたいという気持ちもない訳ではない。

 

【なら、試しに着けてみようか?】

 

実際に首輪を装着させて確認するぐらいなら良いだろう。そう!あくまで確認の為に!外に出なければ良いだけの話だ。

 

「は、はい!お願いします!」

 

ブラック達の顔が一気に明るくなる。

 

所持品からテイマー職御用達(ごようたし)のペット用の首輪を取り出す。現実世界ならどこにでも売ってある、何の変哲もない犬用タイプの首輪だ。首輪の色はブラック達と同じ色に合わせている。

 

【ブラック、首の赤い布を外してくれ。】

「はい!」

 

ブラックが、マフラーのように首に巻いていた赤い布を外す。

 

【じゃ、じゃあ、つけるぞ?】

「は、はい!ああ…ついにこの時が…♡」

 

何でそんな嬉しそうな顔をしているんだ!?まるで結婚式で指輪をハメる時のような雰囲気じゃないか!

しかも、ブルーとレッドは羨ましそうに見つめているし!ティアマトは悔しそうな顔してるし!他の奴らは自分達もつけてもらえるかもみたいな期待の顔してるし!

 

ブラックの首に首輪をはめる。首輪には、装着された者が自分では外せないようにするための小さな南京錠が付いている。ソレに鍵をかけてロックする。これでブラックは、首輪を壊さない限り首輪を外せない状態となった。

 

「あ〜…♡ご主人様の愛の証が、ついに私の首に……♡」

 

やばい。ブラックの顔が破顔している。そんな顔はやめてくれブラック。お前は私と瓜二つの顔なんだぞ?お前がそんな顔ができるという事は、私もそんな顔ができるという事になるんだぞ?

 

「ご主人様!妹達にも首輪を!」

私も下さい(ガッガウガーガウ)!」

私も私も(ガッガウガッガウ)!」

【わ、わかったわかった!装着させてやるから!】

 

同じように、ブルーとレッドにも首輪を装着させる。

予想通り、2人が嬉しそうな笑顔になる。

 

「ご主人様!リードもお願い致します!」

【リ、リードもか!?ちょ、ちょっと待ってくれ。うーと……】

 

テイマー職である以上、勿論リードも持っている。しかし、ユグドラシルの仕様上の都合で、所持しているリードは鎖タイプのリードだけだ。

ユグドラシルでは、連れて歩くペットのレベルに応じたリードが必要となるのだ。

例えば、レベルの低い犬や猫、(オオカミ)等のモンスターであれば、レベルの低いリードでも安心して連れて歩く事ができる。

しかし、ペットのレベルがリードのレベルより高いと、リードが破壊されて(千切れて)逃げてしまうのだ。

となれば、テイマー職の誰もがレベルの高いリードを購入するだろう。

では、レベルの高いリードとは何か?無論、硬い鉱石によって作られた鎖タイプだ。頑丈な鎖のリードなら、ドラゴンタイプのペットでも安心して連れ回せる。

 

ジャラッ──という重々しい音がする鎖を取り出す。

 

【これで良いか?】

 

ブラック達の好みに合うかどうかを確認するつもりだったのだが──間髪入れず、ブラック達が目の前に来て『おすわり』のポーズになる。そして、早く首輪を着けてと言わんばかりに顔を紅潮させながら、首の部分を無防備にさらけ出して待っている。

 

つまり、リードに文句はありません、早くつけて下さい。という事だ。

 

【よ、良し。つけるぞ!】

 

鎖のリードの先端に付いているラッチロックフックを首輪に近づける。ブラックの顔がますます紅潮する。

 

──良いのか私!?このままブラック達にコレを着けたら、一線を越えてしまうぞ!?ペロロンチーノさんのエロゲじゃあるまいし!ましてや自分そっくりの相手に首輪をつけるなんて!しかし、元は自分が設定した事、つまり自分でまいた種だ。ならば、創造主としての責任を負わなければ!──

 

ブラック達の首輪にリードが繋がれる。ジャラリッという音とともに、3つの鎖がブラック達と勝の間にダランと垂れる。

 

まずい、ますます本格的に奴隷っぽくなってきた。

 

【ど、どうだ、お前達?奴隷っぽく見えて嫌じゃないか?嫌ならすぐ外して──】

「全然大丈夫です、ご主人様!さあ、このまま散歩に行きましょう!人間達に、ご主人様の飼い主としての凄さを見せてあげましょう!」

 

首輪とリードを装着されて興奮状態になっているのか、そのままの姿で外に行こうとするブラック達。当然、リードを握っている勝がグイグイと引っ張られる。

 

【ま、待て、お前達!外には行かないとさっき言ったよな!?】

「ご主人様と散歩!ご主人様と散歩!ご主人様と散歩ォォォォ!」

「「散歩ォォォォ!(グゥロォォォォ!)」」

【止まれぇ、お前達!止まってくれぇぇ!】

 

ブラック達は、早く散歩に行きたくて仕方ない犬の様な状態であり、勝の言葉を無視して闘技場の外へと通じる鉄格子に四つん這いの姿で向かっていく。

 

ズルズルと引きずられる勝。いくらレベル100の勝でも、ドラゴン三体が同じ方向に向かって歩こうとする力にはかなわない。

 

【そ、そうだ!竜王達!ブラック達を止め──】

 

竜王達に助けを求めようと視線を走らせる。

しかし、その視線の先にあった光景を見て、勝は固まる。

 

「「「主人よ!我々にも首輪を!」」」

「「「ご主人様!私達もご主人様に繋がれたいです♡」」」

 

竜王達全員が──竜人形態と人間形態の両方の姿をした竜王達が交じりながら──四つん這いの姿になりながら、後から付いて来ていたのだ。

 

ブラック達も含め、女性竜王達の格好はレオタードの様なエッチな格好であり、四つん這い姿はいろいろとエロ過ぎてやばい。特に、2m越えという女性にあるまじき体格のため尻が目立つ。人間形態なら、なおさらやばい。

続く男性竜王達の絵ヅラもやばい。2m越えのマッチョのイケメン達が、四つん這い姿で歩きまわるのだ。異様な光景であるのは間違いない。

 

そんな竜王達が、四つん這いになりながら勝に首輪をお願いしながらついてくる状態だ。

 

【駄目だぁぁ!コイツらもその気満々だぁぁ!】

 

このままでは、大勢の人間達の前で醜態を晒す事になる!なんとしても阻止せねば!

 

【止まれぇぇぇぇぇ!!】

 

ブラック達を外に行かせないように、リードを腕に絡めながら必死に引っ張るが、アリーナ内の床には砂金や金貨が敷き詰められているため滑って踏ん張れない。どんどん引きずられていく。

 

逆にドラゴンであるブラック達は、財宝等の歩きにくい場所を歩く事に慣れているのか、ガンガン進んでいく。

 

【やめろぉぉ!私の冒険者としての威厳がなくなるぅぅ!変な趣味の持ち主と思われるぅぅ!】

 

必死の抵抗も虚しく、ガチャリと鉄格子が開く。地面が歩きやすい、硬くなったレンガ床になった瞬間、ブラック達のスピードが上がり、凄まじい速さで駆け出し始めた。

 

【ちょっ!?マジで待って!お願いだから待って!?】

「ご心配はありません!さあ、ご主人様!まずは冒険者組合に行き、蒼の薔薇や他の冒険者達に見せてあげましょう!ご主人様の飼い主としての勇姿を!」

【やめでぇぇぇ!ホントにやめでぇぇぇ!】

 

引っ張るどころか速すぎるせいで体が浮き、宙に浮いた状態で引っ張られる。オマケに、先程リードを腕に絡めていたせいか、ブラック達3人のリードが絡まって腕から外れなくなるという事態になる。こうなったらもはやどうしようもない。

 

引っ張られた状態で、勝の体が闘技場の通路から外にでる。当然、そこからは王城の敷地となる。

 

ロ・レンテ城には、20の円筒形の巨大な塔が防衛網を形成した城壁によって囲まれた、外周1400メートルの広い土地がある。

その広い土地を、ブラック達は城下町目掛けて駆けて行く。

為す術なく引っ張られる、情けない勝の後を、同じく四つん這いの竜王達が追従してくる。無論その顔は、主人との散歩を楽しむ犬の様な顔であった。

 

「主人との散歩だ!みな、我等の主人が立派にドラゴンを躾ているという証を見せつけてやるのだ!」

「「「応ッ!!」」」

「皆、私達がご主人様にちゃんと調教されているという証を人間達に知らしめるのよ!」

「「「はい!!」」」

【見られるぅぅぅ!街の人達に見られてしまうぅぅぅ!】

 

デュラハンが竜人達に首輪を着けて散歩させている、という状況は、絶対良からぬ噂を生むに違いない!少なくとも、飼い主である自分の評価が──恥ずかしい意味で──悪い方向に行く事は間違いない。

 

 

「心配いりません、我が主人よ!我等(われら)竜王、主人の顔に泥を塗るような真似はいたしません!」

()()()に泥を塗る顔なんてねぇよ!】

「大舟に乗ったつもりで──いや、ドラゴンに乗ったつもりでいて下さい!ご主人様♡」

【今まさに泥舟になりそうだよ!?】

 

それならドラゴン形態になってくれよ!という、勝の悲痛な叫びを理解できる者は居ないだろう。

これはあくまでペットとの散歩なんだ!と、周りに主張する勝の言い訳を理解できる者も居ないだろう。

 

ただ1つ、幸運だと言える事はと言えば──

恥ずかしさのあまり、勝が羞恥に悶えている事を理解できる者も居ないだろうという事だ。

 

頭の無いデュラハンの表情を理解できる者など居る訳がないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

リ・エスティーゼ王国、王都。その最も奥に位置し、城壁によってかなりの土地を包囲しているロ・レンテ城。

 

その城に勤務する大勢の王国兵士の大半は、一代貴族位を得た者たちがほとんどである。剣の腕が重視されるため、コネでなることができない。

 

しかし、そんな王国兵士の中に、とある奇妙な人物が存在する。

 

その人物の名は『クライム』

 

少年と青年の境にある男。眉は太く吊り上がった三白眼、金髪は短く切り揃えられ、顔には鋼の様な強い意志が感じ取れる。肌は日に焼けている

主人から与えられた純白の全身鎧を装備している。

年齢に似合わず声はしわがれている。

 

一代貴族位を得ているわけではない彼は平民である。だが、戦士としての技量はその辺の王国兵士よりは高い。わかりやすい言い方をするならば、戦闘能力は金級冒険者に匹敵する程度の実力である。

 

平民である彼が何故、王国兵士に──しかも城内の勤務に就く事ができたのか。それにはちゃんとした理由がある。

 

それは──主人に拾われ、気に入られたからだ。

 

 

 

昼時の王城のとある一室の扉の前にクライムが立つ。昼食を終えた彼がここに向かったのは、主人に呼ばれた為だ。緊張したおもむきで、扉のドアノブに手をかける。本来なら、ノックするのが礼儀だ。しかし、部屋の主から『しなくてもいい。』と何度も言われた為ノックはしない。扉を開ける前の部屋の中からは、微かに声が聞こえてくる。誰かが談話している状況である事が感じられる。

 

「失礼します。ラナー様。」

 

扉を開けると、中から楽しげな女性二人の会話が聞こえてくる。

会話を邪魔する形になったとクライムは思ったが、話している女性は気にせず会話をつづける。

それを聞いているのは部屋の主だ。部屋の主は、中に入ったクライムに一度顔を向け、ニコリと笑うと、再び会話に耳を傾ける。

 

「──でね、驚く私達の前でブラックちゃんがこう言ったのよ。『私達はご主人様のペットだ!』って。自信満々に、嬉しそうに主張するの!」

「本当なの!?ラキュース。」

「本当よ、ラナー。ブラックちゃんが言うには、『凶暴な動物に首輪を着けて散歩する様なものだから、間違っても奴隷っぽい等と言うなよ?』ってまで言ってたわ。そう言われると、反論できなくてww」

「まぁ!でも、ドラゴンに首輪を着けていると主張されたら、確かに何も言えないかもしれないわ。」

「そうなのよ!で、そのまま王都を散策するってブラックちゃんが言うから、私達気になって勝さん達に同行したの。もう街じゅうで注目の的よww」

 

会話の内容──特に、名前から察するに、最近アダマンタイト級冒険者になったという『竜の宝』に関する話だろうと予想しながら、クライムは部屋の主であるラナー王女の隣の席に座る。

 

クライムの様な平民出身の者が、王女であるラナーと同じ机の席に座る事は本来ありえない。そもそも、王女の部屋に、男性であるクライムが入る事すらありえない事なのだが。

しかし、この王女は違う。クライムをいたく気に入っているのか、クライムに対しては優しいのだ。

 

この特別扱いが、王城内でのクライムの立場をあやふやにしている。

 

1:クライムが平民であるという事で下に見る者達がいる。

2:ラナー王女のお気に入りという事で上に見る者達がいる。

3:クライムをラナー王女から引き剥がそうと嫌がらせをしてくる者達がいる。

 

──である。

 

1つ目は身分の違いによるもの。貴族ではないクライムが自分達と同じ空間にいる事が許せないと考える貴族達は多い。ラナー王女が近くにいない時、クライムと廊下をすれ違ってもお辞儀を返さないどころか、汚い物を見たくないという意味で顔をそらす者までいたりする。

 

2つ目はラナー王女を恐れての行動によるもの。クライムはラナー王女のお気に入りである。そんなクライムに対して丁寧な対応をしてくる者達も居るのだ。もし誰かがクライムに対して粗暴な事をした場合、そしてそれが

ラナー王女の耳に入った場合、ラナー王女の機嫌を損ねる結果になるかもしれないからだ。そんな危険を冒したくはないという保身に走る行動である。

 

3つ目は、クライムに嫌がらせをする事でわざと怒らせるのが狙いの者達だ。クライムが何か揉め事を起こした場合、ラナー王女の身辺警護を任せる事に適していないという事で、クライムをラナー王女から遠ざける事が可能なのだ。なお、クライムに対する嫌がらせは地味なものばかりであり、相手側も強くでられない事はクライムも自覚している。わかりやすく言うなら、それ以上の事は相手側も怖くてできない、という事だ。

 

そんなクライムの立場を知ってか知らずか、ラナー王女はクライムを特別扱いしてくるのだ。ラナー王女の隣に座るという行為も、ラナー本人から幾度もお願いされた事が理由だ。

 

「それでラキュース、その後どうなったの?」

 

続きが気になるのか、かなり上機嫌な──ウキウキした雰囲気でラナーが尋ねる。

 

「その後も凄いのよ!えっとね──」

 

その後のラキュースの話はかなり奇天烈ものばかりであった。

 

『竜の宝』を『蒼の薔薇』がよく利用する、行きつけの鍛冶屋に案内したら、希少金属であるミスリルやオリハルコン、アダマンタイトのインゴットをデュラハンが取り出して、店長に物価を尋ねていたという。

 

無論、希少金属はかなり高額であり、インゴットにするという行為自体がもったいないと言われる程だ。しかし、デュラハンは希少金属のインゴットを大量に取り出していたという。

 

店長が何気なく、どこで希少金属を手に入れたのか『竜の宝』に尋ねていたが、『メタリックドラゴンの鱗から希少金属を剥いだ。』と、あっさり返答されたという。

 

次に、『竜の宝』を魔術師組合に案内した、とラキュースは言う。そこで、王都の魔術師組合で販売されている魔法のスクロールが第一位階までしかないと知った『竜の宝』は驚いていたという。

 

そこからがさらに奇天烈であり──

デュラハンがスクロールの販売員に第三位階や第七位階のスクロールを見せつけ、泡を吹かせる程驚かせていたというのだ。

 

即座に魔術師組合の組合長がやってきて対応を交代、高位のスクロールをどの様に手に入れたのか、羊皮紙の皮はどんな素材なのか等の質問を『竜の宝』に投げかけた。

すると──『竜の皮と金貨さえあれば、魔法のスクロールをレッドが作製できる。』『竜の皮なら、第一位階から第十位階までの魔法のスクロールの作製が可能。』等と、丁寧に説明したらしい。

しかも、組合のロビーで実際にスクロールを作製するところを見せたという。出来上がったスクロールは第九位階の物であり、組合長はショックで気絶、ラキュースの仲間の魔術師(マジックキャスター)は驚きのあまり固まっていたそうだ。

 

オマケに──魔術師組合のカウンター横には警備員としてウッドゴーレムが立っているのだが、これは組合の高位の魔術師達が1年以上の歳月をかけて召喚した人造物(コンストラクト)である。

しかし、デュラハンが魔導書のような物を取り出したかと思うと、そこからあっさりウッドゴーレムやアイアンゴーレムを召喚してみせたという。

魔術師組合が騒然となったのは言うまでもない結果だったという。

 

「強さでも魔法でも規格外、オマケに物資も豊富……ホント、『竜の宝』の皆様には驚かされますわ!」

「ええ、ホントね。今日の午前中だけで驚きの連続よ!」

 

クライムは二人の会話を静かに見守る。もちろん、会話の内容に驚き、何度か表情を変えてしまってはいたが。

 

「それでラキュース、その後何かあった?」

「いいえ。私は用事があったから、途中で──ね?」

 

用事──つまり、ここへ来る予定だったから、という意味だとクライムは予想する。

 

「ガガーランが道案内の続きを引き受けてくれたけど……大丈夫かしら?『俺に任せとけ!』って、かなり自信満々な感じだったけど……」

 

クライムは苦笑いをする。あのガガーランがまともな道案内などする筈ない、という意味で。きっと良からぬ事を『竜の宝』に教え込む気がしてならない。

 

「まぁ──それはさておき……ラキュース、『例の件』の話なんだけどね──」

 

ラナーが放った『例の件』というワードに対し、先程まで笑顔だったラキュースの表情が真剣なものになる。

 

「──もし、あのデュラハン様が『あの姿』になっているのを見かけたら、是非私の元に連れてきてもらえるかしら?」

 

ラナーが言う、『あの姿』という意味に、クライムは小首を傾げる。デュラハンと聞いて想像するのは、『竜の宝』のデュラハンである。

 

──デュラハンが変身でもするのだろうか?──

 

「頑張ってみるけど…1人の方が良いの?」

「できれば。あのデュラハン様とは、面と向かって話し合いたいの。」

「危険ではないでしょうか、ラナー様?」

 

ここで初めて会話に交ざる。身辺警護をしている身としては、王女であるラナーにアンデッド(デュラハン)を近づけるのは、危険だと判断したからだ。

 

「心配してくれてありがとう、クライム。でも大丈夫よ。ラキュース達も一緒に来てもらう予定だから。だから安心して?」

「しかし!まずラナー様の部屋に入る許可がくだるかどうか……」

 

アンデッド(デュラハン)が王女の部屋に入る、という事態を王や貴族達が許すとは思えない。あまりにも危険な行為だからだ。

 

「大丈夫よ、クライム。問題ないわ。」

「ですが──いえ、わかりました。」

 

部屋の主であるラナーが『問題ない』と言い切る以上、これ以上何か言うのは不敬だと判断したクライムは口を閉ざす。

 

「──という訳で、引き続き『竜の宝』の様子見をお願いするわ、ラキュース。」

「ええ、わかったわ。」

 

ラキュースが立ち上がり、退室の準備を始める。

 

「それとクライム、貴方に言伝をお願いしたいの!」

「何でしょうか?ラナー様。」

「王国戦士長に伝えてもらいたい事があるの!」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

ラキュースとクライムが立ち去った部屋で、ラナーは椅子に座り、紅茶をすする。

 

「羨ましいですわ、デュラハン様。私も、一度でいいからやってみたいものですわ。」

 

部屋に置かれた自分の全身を映せる程の大きさの鏡を見つめながら、誰かに聞かせる訳でもなく、ラナーは呟く。

 

「自分を愛してくれている者に首輪を着けて連れ回す……なんて素敵な愛し方なのかしら。これ以上の──素晴らしい愛情表現が他にあるかしら?」

 

そう呟くラナーの顔が──今まで美しかった、『黄金』と呼ばれる程の美貌を保っていた表情がみるみる変貌し、不敵な笑みを浮かべ始める。

 

「きっと──」

 

まるで──初めて理解者を得たような──自分と同じ考え(性癖)を持った仲間を得たような──そんな雰囲気で、ラナーの顔が破顔していく。

 

「──きっと、デュラハン様とは、素晴らしいお話ができるような気がするわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 




ラナーに目をつけられた勝。
しかも同類と判断される!
はたして、勝の運命はいかに!?
そしてクライム君の運命もいかに!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。