「どうです?たっちさん、ウルベルトさん、ペロロンチーノさん、いつもの装備に戻った感じは?」
「ギルド長のモモンガさんに感謝ですね。私達の装備を保管して置いてくれてたとは。」
「オレのゲイ・ボウ、売却されてなくて良かったぁ!てっきり全装備処分されてるかと。」
「またこの鎧を着る日が来るとは、思わなかったですよ。ありがとうございます、モモンガさん。」
「いえいえ!お気になさらずに。皆さんがいつ戻って来てもいいように、保管して置いて正解でした。」
引退前に身につけていた装備を3人が着ていた。
モモンガさんが嬉しそうにしている。
勝もパチパチと手を叩いて拍手している。
昔のナザリックの雰囲気に戻った気がしたからだ。
「はぁん…ペロロンチーノ様のゲイ・ボウを身に付けた姿が素晴らし過ぎて、とろけてしまいそうでありんす。」
「ウルベルト様のそのお姿!このデミウルゴスも、歓喜極まりそうです!」
「やはり、たっち・みー様はワールドチャンピオンのお姿が1番素晴らしく思います。」
シャルティア、デミウルゴス、セバスが自分の創造主達をべた褒めする。
「やっぱ、この姿の俺が1番かっこいいかな?なんちゃってw」
「やはり、私はこの姿でないと。魔術師や悪魔は見た目も重要ですからねぇ。」
「やはり、いつもの装備が1番しっくりきますね。」
ウルベルトさんが何やらフフフ…と不敵な笑いをしながら『かっこいい?』決めポーズをキメる。
ペロロンチーノさんは調子に乗って弓を構えている。
たっちさんは武器を軽くブンブンと振って試し振りしている。
「そう言えば、ヘロヘロさんは?」
「ヘロヘロさんは、同じスライム種のソリュシャンと秘密の特訓をしているそうですよ。」
「え?何ソノ気になる特訓。まさかいやらしい事でも!?」
「違いますよw『弱体化』の影響でスライム種としての『戦い方を忘れてしまった』から、ソリュシャンから学んでいるんですよ。ただ、上手く出来ずに失敗するのを他の人やNPC達に見られるのが恥ずかしいから、他の場所でやるそうです。」
「なんだ。そう言う事か。」
「特訓次第ではヘロヘロさんも、ソリュシャンみたいな人型になれるかもしれませんよ?」
「ほう…それは気になりますねぇ。ところでモモンガさん。我々を闘技場に呼んだのは何故ですか?何人かの守護者達やNPCまで呼んでるみたいですが?」
現在、闘技場には、
モモンガ、ペロロンチーノ、ウルベルト、たっち、勝の5人のプレイヤーと、
シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴスの5人の階層守護者と、
セバス、ユリ、ナーベラル、シズ、エントマ、ブラック、ブルー、レッドの8人のNPCが集まっている。
「何故って…私達も『戦い方を忘れてしまった』から、特訓して、『思い出す』んですよ。」
「「「【え?】」」」
ユグドラシルの世界では、コンソールに表示されるスキルや魔法をタッチする事で、ゲーム内の自分のアバターがその技のモーションを自動で行ってくれていた。
しかし、転移後の世界ではコンソールは出ない。
魔法職であるモモンガとウルベルトは、魔法さえ唱えれば『勝手に魔法が発動』してくれる。
それは既に実証済みなので問題ない。
が、戦士職はどうだろうか?
「例えば、ペロロンチーノさんの弓で説明しましょう。ペロロンチーノさん、手始めにあそこの的を弓で撃ってもらってもいいですか?」
「あの藁人形を撃てばいいんですね。ホイッ!」
的替わりの藁人形の頭にペロロンチーノが放った矢がアッサリ当たる。
バキョッ!と、矢が当たった瞬間、藁人形の頭が弾け飛んだ。
「うおっ!?威力高過ぎでしょ!?まさか弾け飛ぶなんて…」
「お見事です、ペロロンチーノ様!流石、ペロロンチーノ様のゲイ・ボウ!あれなら人間の頭も木っ端微塵でありんすねぇ。」
NPC達が拍手する。
ただ的を撃っただけで、このべた褒めである。
「あー…えーと、ゴホン!見事な狙撃だ、ペロロンチーノさん。それでペロロンチーノさんに質問したいんだが…」
「何でしょうか、モモンガさん? 」
「ペロロンチーノさんは弓道とか習っていましたか?『リアルの世界』の方で。」
「弓道?いや、弓を持った事すら無いけど?」
「それにしては、『完璧なフォーム』と『見事な狙撃』でしたが?」
「え?……あれ?なんでオレ、弓の射法を自然にできたんだ?」
ペロロンチーノが不思議に思う。
「おそらくですが…『弱体化』の影響で、私達は『今までの戦い方』を忘れてしまった。だが、『身体は覚えてる』という状態なのでしょう。」
モモンガの仮説にプレイヤー達が納得する。
藁人形に剣で試し斬りをしていた、たっちが振り向く。
「身体が覚えている…か。確かに、剣を振る際の動きが、ユグドラシルのときのアバターがやっていた基本モーションと同じ動きに近いですね。慣れれば、多少のアレンジも可能みたいです。」
「勝さんはどうですか?銃の扱い方や狙撃のフォームなどに問題はありますか?」
モモンガが勝に問いかける。
勝は軽機関銃とライフルを取り出すと、ライフルをブラックに預け、軽機関銃を藁人形に向けた。
ダララララララララララッ!!
10発程乱射する。片手撃ちで狙いも雑だったにも関わらず、全弾が藁人形に命中する。
藁人形がぐちゃぐちゃになって崩れる。
【うわぁ…全弾当たっちゃったよ。手ブレで数発はハズレると思ったのに。手ぶれ補正や自動照準機能でも付いてるのか、と疑いたくなるよ。リアルの世界じゃ、銃を持った事すらないのに。】
「…と、ご主人様はおっしゃってます。」
「やはりですか…。ちなみにブラック、君は銃を扱えるかね?」
「弓なら扱えますが、銃は自信がありません…」
「試しに撃ってもらってもいいかな?」
「かしこまりました。では、スコープで藁人形の頭に狙いをつけて…エイッ!」
ダァンッ!
藁人形の右肩に命中。
もう一度言う。右肩に命中。
【……ブラック?頭を狙ったんだよね?】
「右肩に命中したな。」
「……銃は初心者ですので…」
【スコープで狙いまでつけたのに?】
「弓なら的確に狙撃できるんですぅ!本当ですぅ!」
「慣れない武器での狙撃だったんだ。上手くいかない事もあるさ。気にするな、ブラック。」
【試しに弓で撃ってみて、ブラック。】
「では、弓で狙撃してみます。…エイッ!」
放った矢が藁人形の頭に当たり、藁人形の頭が吹っ飛ぶ。
「どうですか!言った通り、当たりましたよ!」
【銃より威力が上がってるってスゲーなw】
「勝さんが弓を使ったらどうなりますかね?」
【む…私が弓でか…自信ないなー。】
「ご主人様の弓さばき、気になります。」
勝がブラックの弓を借りて構える。
【こんな感じで…あ。】
バインッ!と、情けない音を出して、矢が目の前で落ちる。
「ブフッw勝さんw下手くそ過ぎるでしょw」
「ご主人様…ドンマイです。」
ギルドメンバーにクスクス笑われる。
NPC達からの視線がツラい…。
【…弓は初心者だから…銃なら当たるんだよ。銃なら…】
「ご主人様が私と同じ言い訳してます。」
「慣れない武器での狙撃ですからw仕方ないwですよwぷっくくくw」
【モモンガさん、笑いすぎですよー!もー!くそぅ。見てろよー…】
「ご主人様?何をなさるつもりで?」
勝が再び弓を構える。
【スキル発動!『必中』&『ピンポイント』!】
バシュッ!
今度は見事に藁人形の頭に当たる。
藁人形の頭にプスッと矢が刺さる。
【どうだァァ!当てたぞぉぉ!】
勝がガッツポーズをキメる。
「お!流石勝さん。2回目で当て…」
「流石です!ご主人様!スキルで上手く当てましたね。」
「え?スキル使ってたんですか?」
【ちょっwなんでバラしたしw】
「勝さーん!ズルはダメですよー!」
なんだかんだで楽しく会話しながら、モモンガが他のギルドメンバー達にも、いろいろな事をさせる。
そして、得た結果や情報から、ある推察を話す。
「えー…まず、みんなにいろいろ実験のような事をさせて、すまなかったと謝ろう。それで、私なりの仮説を発表してもいいかな?」
「どうぞ、モモンガさん。話して下さい。」
モモンガの仮説はこうだ。
①『リアルの世界』で経験した事がない事でも、『ゲームの世界』で経験していれば、転移後の世界でもできる。
例→ペロロンチーノが『リアルの世界』では弓を持った事すらないのに、『ゲーム世界では名手』
②熟練度のようなシステムが存在し、全ての武器を最初から上手に扱える訳では無い。
例→銃の扱いが上手い勝でも、弓の扱いは下手。
③ユグドラシルでは役職や職業によって装備できなかった装備が転移後の世界では装備できる。
例→魔法職のモモンガでも、戦士用の鎧や武器が装備できる。
④弓矢や銃弾が撃ち放題なのはユグドラシルの時と同じだが、撃った弓矢や銃弾はそのまま残る。
例→空薬莢が消えない。当たった相手に弓矢や弾丸が残ったままなど。
「こんなところですかね。まだいろいろ不明な部分も多い状態なのは変わりませんが。」
モモンガがざっくりとした意見をまとめる。
『リアル』と『転移後の世界』、
『ユグドラシル』と『転移後の世界』、
この2つの違いの差を見つけるのも、今の我々の今後課題となった事は間違いない。
「ひとまず各人グループ毎に自由に特訓を続けましょう。」
という事で、各グループ毎にわかれて相談したり、技をぶつけあったりする作業が始まった。
グループは3つ、
モモンガ、ウルベルト、マーレ、デミウルゴス、ナーベラル、レッドの魔法職系グループ。
たっち、シャルティア、コキュートス、セバス、ユリ、ブルーの近距離&戦士職系グループ。
ペロロンチーノ、勝、アウラ、シズ、エントマ、ブラックの遠距離&支援系グループ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここで、プレイヤー『勝』のレベルとステータスの設定を紹介しよう。
[レベル]
種族レベル
デュラハン 15Lv
職業レベル
闇騎士《ダークナイト》 15Lv
竜騎兵《ドラグナー》 15Lv
将軍《ジェネラル》 5Lv
銃士《ガンナー》 10Lv
狙撃手《スナイパー》 5Lv
竜使い《ドラゴンテイマー》 15Lv
魔獣使い《ビーストテイマー》 5Lv
召喚士《サモナー》 15Lv
種族Lv15
職業Lv85
合計Lv100
属性 中立 カルマ値 0
[ステータス]
HP 90
MP 50
物理攻撃 80
物理防御 80
素早さ 60
魔法攻撃 30
魔法防御 80
総合耐性 75
特殊耐性 85
※ステータスは最大値を100とした場合の数値です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こんな感じになっている。
補足として、
竜騎兵《ドラグナー》
竜騎士《ドラグーン》
竜騎士《ドラゴンライダー》
との違いを説明しよう。
竜騎士は、ドラゴンに乗って戦う『騎士』の事。
竜騎兵は、ドラゴンに乗って戦う『兵士』の事。
竜騎士は近距離重視の近接戦闘向け、
竜騎兵は遠距離重視の射撃戦闘向け、
の職業となっている。覚えられるスキルにも違いがあったりする。
まとめると、勝は意外と前衛も後衛もやれるプレイヤーではあるが、本人のプレイスタイルは遠距離重視である。
わかりやすく例えるなら、
シャルティアとアウラを混ぜ合わせたステータスで射撃メインといった感じ。
それに加え、
竜使い《ドラゴンテイマー》
魔獣使い《ビーストテイマー》
召喚士《サモナー》
の職業により、様々なモンスターを召喚&使役できる。
まず、召喚士《サモナー》の召喚魔法に関してだが、
勝は、第1位階~第10位階までの内、
ドラゴン系全階位
アンデッド系全階位
ビースト系第1位階~第7位階
まで習得している。
ビースト系が第7位階で止まっているのは、
魔獣使い《ビーストテイマー》がLv5というのが原因だ。
まず、勝の種族がアンデッドなので、
召喚魔法(スキルも含む)で召喚したアンデッドは全て使役可能である。
次に、
竜騎兵《ドラグナー》Lv15と、
竜使い《ドラゴンテイマー》Lv15
の職業を修めているので、ドラゴン系も全て使役可能。
しかし、ビースト系に関しては
魔獣使い《ビーストテイマー》がLv5なので、
第7位階までの召喚モンスターは使役できても、それ以上の階位のモンスターは使役できない。
(※ただし、召喚するだけなら第10位階までのビースト系の召喚魔法を習得することはできた。が、ユグドラシルでは、使役できないモンスターは、ただ敵に突っ込むだけの経験値になるだけだったので、勝は習得しなかった。代わりに、使役するモンスターを強化させたりするスキルや魔法を習得している。)
そして、勝の切り札ともいえる召喚魔法が、
超位魔法の1つ、
『
である。
この召喚魔法は、ユグドラシルに存在したワールドエネミーの『八竜』と呼ばれる8種類のドラゴンと、定期的に行われていた、数あるイベントのレイドボスで出現するドラゴンを召喚できる魔法である。
むろん、召喚できるようにするための条件がいくつかあり、それを達成しないと召喚はできない。
勝は、ドラゴンを召喚できるようにするために、ドラゴン系のイベントには全力を注いだ。
現状、勝が召喚できるのは、
①イベントのレイドボスドラゴンは全て召喚可能。
②『八竜』は、8種類の内5種類が召喚できる。
ただし、超位魔法は魔力を必要としないかわりに、1日4回までしか発動できないため、勝が1日に召喚できるのは4匹までである。
しかも、召喚した竜王は、バトルが終了すると消滅する仕様だった。
超位魔法は、詠唱中はその場から移動できず、防御力まで低下するので、かなり隙が大きい。おまけに詠唱も長い。詠唱後のクールタイムも長いので、超位魔法を連発することもできない。
ただし、発動できれば戦況をひっくり返せるほど、勝にとって有利になる事ができる。
(※全ての超位魔法が有利になるとは限らない。)
召喚された竜王はかなり強く、カンストレベルのプレイヤー6人のパーティーですら、竜王を倒すのに時間がかかるほど。
しかし、勝1人では竜王を足しても、カンストレベルのプレイヤー6人パーティーには負ける。
だか、勝側もパーティーを組んでいたら?
それがアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーだったら?
言わなくてもわかる。敵の絶望する顔が予想できる。
竜王を相手にしながら、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーと戦うなど自殺行為にも等しいのだ。
今、勝達がいる転移後の世界に何人のプレイヤーが転移して来ているかは不明だが、
少なくとも、一体一の戦いならまず勝は負けない。
敵側がワールドアイテムを所持していない限りはだが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
みんなと射撃の特訓を行った後、
勝は、アウラとエントマと一緒にテイマー系職業と召喚魔法についての特訓を始める。
アウラは魔獣使いの職業を持ち、エントマは蟲使いの職業を持つ。
アウラは既にナザリック内で魔獣を飼い慣らしているため、問題はない。
エントマは符術師の職業を使って、符の中に蟲達を入れて持ち運んでいるらしい。
試しに1符使い、蟲を召喚させてみたが、問題無く使役できた。しかも、再び符に収納できるという。
勝の番が来る。
召喚魔法は魔力を消費するわけだが、勝の魔力はそこまで高くない。
全ての階位魔法を試す余裕はない。
ひとまず、ビースト召喚魔法の第7位階を召喚してみる。
【
勝の目の前の地面に召喚の魔法陣が現れる。
その魔法陣から魔獣スピアニードルが出現する。
高さ2mの白いアンゴラウサギに似た魔獣。Lv.67で戦闘態勢に入ると毛が鋭く尖る。普段はモフモフしている。
勝が手を伸ばす。スピアニードルの頭を撫でる。
スピアニードルが嬉しそうに甘えてくる。そのまま体の方も撫でてみる。
【うぉぉぉぉぉ〜!なんてモフモフの毛だ!すげー癒される!】
感動のあまり、体ごと抱きつき、身体全体でモフモフを味わう。
「ご主人様がスピアニードルのモフモフ具合に感動してますね。」
「勝様!私にも触らせて下さい!」
アウラが触りたそうにお願いしてくる。
【良いよ。】
「ご主人様が触って良い。と、おっしゃってます。」
「本当ですか!ありがとうございます!…うわぁ〜…このモフモフ具合、たまりませんねぇ〜。」
勝とアウラがモフモフしているのを見て、ペロロンチーノとブラックがやってくる。
「勝さん、オレも触りたいです!」
「ご主人様、私も触りたいです。」
【テイマー職持ってない人でも触れるのかな?】
「アウラ様、テイマー職を持ってない私達でも触れるでしょうか?」
「どうなの?アウラちゃん?」
「んー…どうでしょうか?私の魔獣ならしっかり躾てるので大丈夫だと思いますが…召喚した魔獣までは…」
【…良し!ブラック、まずお前から触って見よう。ブラックなら、スピアニードルが凶暴化しても、鱗で耐えれるだろ?】
「私から触って試して見よう。と、ご主人様がおっしゃってます。安全性を考慮して、だそうです。」
「なるほど。ブラックちゃんが大丈夫なら、オレでも触れると。」
【よーし…スピアニードル、暴れたらダメだからなー。】
勝がスピアニードルの頭を撫でながら、スピアニードルに言い聞かせる。
思いが届けばいいが……
ブラックがスピアニードルにゆっくり手を伸ばす。
今!
ブラックの!
手が!
スピアニードルの!
頭に!
頭にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
乗ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
撫でているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
ブラックの手が、スピアニードルの頭を撫でている!
勝が喜びのままにガッツポーズしている。
ブラックの手が、スピアニードルの身体を触る。
「すごい…これがモフモフの感触ですか!とても気持ちいいで……」
ブラックの手がスピアニードルの身体を撫でているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「ご主人様、感動の声がうるさいです。撫で撫でに集中できません。」
【あ、聞こえてた?ごめんね。】
「勝さん、ずっと叫んでたんですかwww」
ペロロンチーノが笑いながらスピアニードルの身体を撫でる。
「オレも大丈夫みたいスっね。てか、超気持ちいい!」
ペロロンチーノが撫で始めると、他のギルドメンバーやNPC達も休憩がてら、触りにくる。
しばらく、スピアニードルがみんなにモフモフされまくった。(笑)
【よーし。次はアンデッド召喚するぞー!】
「ご主人様が、次はアンデッドを召喚するそうです。」
「私もスキルでアンデッドを召喚できますが、召喚魔法だとどうなるかは気になってるところです。」
召喚準備に入る勝を見ながら、モモンガは考える。
先程のスピアニードルは、勝さんが『消えろ』と命じると、幽霊のように消滅した。
召喚したモンスターは勝さんの意思で自由なタイミング で消せるようだ。
しかし、逆に考えると、消さない限り居続けるという事になるのだろうか?
スキルで召喚できるアンデッドの数には制限があった。1日に召喚できる個数は召喚するアンデッドの種類で違う。
モモンガがスキルで召喚できる1日のアンデッドの数は、
上位が4体、中位が12体、下位が20体である。
しかも、一定時間経つと勝手に消滅する。
しかし、勝さんの召喚は、スキルではなく魔法である。魔力がある限り、召喚し放題ということになるが…
魔獣の召喚は1体だけだった、
もしかして、召喚できるモンスターは1回の召喚で1体だけが基本なのか?
消費する魔力量を増やせば、1回の召喚で複数体の召喚が可能なのか?
そんな事を考えていると、勝がアンデッドを召喚する。
【
魔法陣から現れたのは、Lv30前後の中位アンデッドの1種。
赤い目が煌煌と輝く漆黒の一角獣に跨った黒い鎧の騎士達だった。
着用している全身鎧は生きているかのように脈打っており、かぎ爪のようなガントレットを着用している。
それが20体も召喚されている。
「(うそぉ!?私のスキルより多いじゃん!?)か、勝さん。この騎兵達は、召喚魔法1回分の魔力で召喚したんですか?」
尋ねると、勝がGoodポーズで返す。
ちょっと負けた気がしたモモンガである。
が、勝が何やらブラックに語りかけている。
ブラックがコクコクと相槌をうつ。すると、
「レッドー!ちょっとこっち来てー。」
と、呼ばれたレッドが勝達の方へ走って行く。
勝とレッドが何やら話している。
勝は無言、レッドはガウガウと竜人語?を話していてわからない。
唯一わかるのは、2人の会話を聞いているブラックの言葉だけだが、
「なるほどー。」「そうだったんですねー。」
と、いってるだけである。
しばらくして2人の話が終わる。
すると、ブラックがモモンガとウルベルトに話しかけ始めた。
「モモンガ様、ウルベルト様、
「
「私も同じくらい出せますが…それがどうかしましたか?」
「私は魔法についてはあまり理解力がないのでわからないのですが、レッドの説明によれば、魔術師の力量の高さで魔法の質も上がるそうですね。同じ
「そうですよ。魔術師の力量が高ければ高いほど、よりたくさんの
「えーと…ご主人様が言うには、召喚士の召喚魔法も召喚士の力量次第で1回の召喚魔法で出せるモンスターの数も変わるのでは?と、おっしゃってます。」
「ああー!なるほど、そう言う事か!勝さんの召喚士としての力量が高いから、
モモンガとウルベルトが納得する。
「魔法は、アイテムや敵側の魔法で封じられたりして妨害を受ける事もあります。それに対して、スキルは安定して使えますからね。それを考慮するなら、釣り合いをとるために、召喚魔法の方が若干強くされているのかも知れません。召喚魔法に限らず、魔力は様々な魔法で消費しますからね。1回分の効果が高くなりやすいんでしょうね。」
ウルベルトさんが冷静に解析を言う。
モモンガさんとウルベルトさんが、スキルによる召喚と召喚魔法との違いについて、いろいろ話ながら盛り上がっている。
その一方で、勝は召喚した
「我が主人、此度は召喚して頂き感謝します。我ら騎兵隊、勝様のご命令あらば、敵の殲滅から勝様の護衛など、なんでも致しましょう。」
【うおっ!?君達喋れるんだ。】
「これは申し訳ありません。驚かせてしまいましたか?」
【え?もしかして、私の心の声が聞こえてる感じ?】
「はい。我ら騎兵隊は勝様の魔力により召喚されました。ゆえに、魔力による『パス』が繋がっているので、勝様の意思が伝わって来るのです。」
【そうなのか!それはありがたい。直接会話ができる相手が増えるのは私的には嬉しいからね。】
「そうでしたか。我ら騎兵達の皆も、勝様と会話ができて嬉しく思います。」
【お、おう。そうか。それは良かった。あー…えーと、今回は召喚魔法が使えるかどうかのテストをしていたんだ。だから、今お前達に対して与える命令はないんだ。すまないな。】
「勝様が謝る必要はありません。我ら騎兵隊、勝様に召喚して頂いただけでも嬉しいのです。」
【そ、そうか。ところで、1つ聞きたいんだが、私がお前達に『消えろ』と命じない限り、お前達は消滅しないのか?】
「はい。我々に限らず、召喚魔法によって召喚されたモンスターは、勝様が『消えろ』と命じない限り、消滅せず存在し続けられます。」
【そうか。それはありがたい情報だ。感謝するぞ。】
「感謝など恐れ多い!勝様はただ、我らにご命令して下さるだけで良いのです。」
【あー…うん。お前達のその忠義心、しかと理解したぞ。次は、ちゃんとした仕事を与えよう。それまでは、消えてもらってもよいかな?】
「はっ!かしこまりました。では、失礼致します!」
【まさか、召喚したモンスターまで忠誠心MAXとは…。しかし、これで召喚したモンスターが裏切る可能性はなくなったかな?】
「はい。そのようですね。」
【よーし。次はいよいよドラゴンの召喚だ!】
「皆さん、ご主人様がドラゴンの召喚に挑戦するそうです。」
「お!いよいよドラゴンですか!いきなり超位魔法の方を召喚するんですか?」
【とりあえず、様子見で第10位階のドラゴンを先に召喚してみますね。】
「先に第10位階の召喚魔法を行うようです。」
【よし!
勝の目の前の地面に、大きめの魔法陣が出現する。
現れたドラゴンは
ユグドラシルでは、雪エリアの中ボスぐらいの強さで知られている、体が氷でできた雑魚モンスターである。レベルはおよそLv80前後。体格は、ドラゴン形態のブラック達より若干小さいサイズだった。
勝が氷竜の頭を撫でる。氷竜が嬉しそうに勝にじゃれていたが、しばらくすると消滅した。
「あれ?
「ご安心を、モモンガ様。ご主人様が氷竜を消しただけですから。」
「え?そんなアッサリ消滅させちゃうの?」
【普通のドラゴンは、ブラック達で間に合ってるからね。】
「普通のドラゴンは、私達だけで間に合ってるそうです。」
「あー、そう言う事か。なるほど。」
「第10位階召喚魔法の氷竜《ブリザードドラゴン》でも問題ない事が確認できましたので、次はいよいよ超位魔法の竜王召喚だそうです。」
「ついに竜王召喚ですか。ちなみに、どの竜王を召喚するんですか?」
【んー…やっぱり、誰もが知ってる竜王ファフニールかな?】
「竜王ファフニールを召喚するようです。」
「ユグドラシルプレイヤーなら誰もが最初に挑む竜王ですね。竜王ファフニールを倒せないと他の八竜にも挑めませんからね。」
「竜王ファフニールですか。そう言えば私、竜王ファフニールには1回しか挑んでませんでしたね。名前すら久しぶりに聞きましたよ。」
「竜王ファフニールのドロップ素材で作れる装備って、そこまで高性能じゃないから、誰も狩りに行かないですからね。」
「1回倒したらもう会わなくてもいい竜王、とか言われてましたよね。」
ほぼ、竜王戦のチュートリアル的な立ち位置の竜王ファフニールは誰もが戦える竜王である。レベルもそこまで高くなく、Lv80と良心的で属性攻撃も少ない。
竜王戦は難易度を選択でき、
EASY、Normal、HARD、very HARD
と4つ存在し、難易度で竜王の攻撃力、防御力、素早さ、身体のサイズなどが変わる。
特に、very HARD級はかなり難易度が高く、チュートリアル的な立ち位置のファフニールでも強敵になる。
ドロップ素材の量や質も変化し、難易度が高い方がレアドロップ素材が出やすくなる。
その代わり、ドロップ素材で作れるものはあまり高性能ではないので、余程の物好きでもない限り、竜王ファフニールの素材集めをするものはいない。
竜王ファフニールを倒せるほどのプレイヤーならば、この時点で高性能な防具を所持しているからだ。
【では、竜王ファフニール、召喚するぞー。】
勝が超位魔法の発動準備に入る。
勝の周りに立方体の魔法陣が現れる。
超位魔法特有の演出だ。
この詠唱中は身動きできず、防御力も低下する。
しかも一定ダメージを食らうと詠唱が中断されてしまうなど、発動にかなりのリスクを伴うのだ。
皆が勝の詠唱を見守る。
勝が片手を出し、召喚の儀を唱える。
【
勝の周りの立方体の魔法陣が消え、突如、勝の目の前の空間に大きな魔法陣が現れる。
白く光る巨大な魔法陣がくるくる回転しながら、さらに大きくなっていく。
「ちょっ!?デカすぎません!?闘技場よりデカいサイズだったらヤバいですよ!?」
「このサイズ、まさかのvery HARD級では!?」
「はぁー!?ムリムリ!?very HARD級だと、それなりの防具つけとかないと、ワールドチャンピオンの私でも苦戦しますよ!?」
「勝さーん!オレ、Normal以上の竜王と戦った事ないんっスよー!?」
【私もvery HARD級は1人じゃ無理だー!!HARD級がギリギリ倒せるぐらいなんですがー!?】
「ご主人様でも、HARD級がギリギリ倒せる、ぐらいだそうです。」
「ええぇー!?very HARD級だったらマジヤバじゃないですかー!?」
皆が慌て出すが、もう召喚は止まらない。
巨大魔法陣の手前の空間が、バリバリッと凄まじい音をたてながらヒビ割れて行く。
そして…
割れた空間の裂け目から、竜王ファフニールの姿が徐々に現れる。
ひと目でわかる。
顔のサイズだけで、ドラゴン形態のブラック達よりデカいと。
ドラゴン形態のブラック達を1口でバクリと食べてしまえるほどの巨大な竜王が、巨大な空間の裂け目から顔だけ出している。
身体全てを出そうものなら、闘技場が押しつぶされるであろう。
【わぁぁぁ!?デカすぎる!!それ以上は出て来られたら、困るぅぅぅ!!】
「ぁゎゎ…ご主人様!なんてサイズを召喚してるんですか!?これじゃ、私達皆ぺちゃんこですよぉぉ!!」
「ストップ!ストップ!これはマズイ!全員退避ぃぃぃぃぃ!」
【竜王ファフニール!顔を出すだけにしてくれぇ!】
皆が逃げようとしたその時、目の前の竜王から声が発せられた。
「わかりました、我が主。我が主の命に従い、顔だけ出しましょう。」
【……へ?】
「「「「え?」」」」
皆がキョトンとしている。
…今、竜王ファフニールが喋った…?
【…もしかして、今喋ったのファフニール?】
「はい。私ですが…。驚かせてしまいましたか?」
【あ、いや!大丈夫だ、問題ない。しかし、顔だけ出現させるとか、器用な事できるんだな。てっきり、身体全て出現するのかと思ってた…】
「本来であれば、身体全てを出現させますが、我が主の命令でしたので、今は顔だけです。もし、我ら竜王の身体の一部のみを召喚したい場合は、つぎからは簡易召喚魔法を唱えると良いと、助言致しましょう。簡易召喚であれば、他の竜王も顔だけ出すなどの状態で出現するでしょう。」
【簡易召喚とかできたんだ…知らなかった。】
「ちなみに、簡易召喚でも超位魔法1回分と判定されますので、ご注意を。まあ、我が主であれば問題ないですが…」
【え?なんで?私なら問題ないって、どういう事?】
「我が主、貴方様はワールドアイテムによって、超位魔法を何回でも使える状態なのでしょう?」
【はぁぁああ!?何ソレ!?というか、ワールドアイテムとか持ってないんだけどぉ!?】
「勝さん、ワールドアイテム持ってたんですか!?」
【いやいやいやw持ってないって!】
「ご主人様は、ワールドアイテムなんか持ってないとおっしゃってます。」
「それはおかしいですね、我が主。…もしやワールドアイテムを作成した事に気付いていないのでは?」
【ふぁっ!?ワールドアイテムって作成できるの!?というか、私が作ったって…そんな記憶無いが…】
「竜王ファフニールよ、そのワールドアイテムの名は!?どんな形をしている?指輪みたいな物か?」
モモンガが少しでも情報を得ようと聞き出す。
「ワールドアイテムの名は、『竜覇の証』という名の勲章アイテムです。我が主が胸に付けてるソレですよ。」
皆の視線が勝の軍服に付いている勲章に集中する。
そこには、金色に輝く、ドラゴンの顔を模したような形の勲章が飾ってあった。
【え!?これがワールドアイテム!?まさか!これは聖遺物《レリック》級のアイテムだったはず!】
「我が主、それはワールドアイテム『竜覇の証』のレプリカです。本物の『竜覇の証』も貴方様が所持しているはずですが…」
【レプリカ!?いや、しかし!それなら、このレプリカと一緒に作成した、もう一個があったはず!】
勝が所持道具を漁り出す。
【あった!これだ!】
勝が取り出したのは、同じ形をした銀色に輝く勲章だった。
「おお!我が主よ、それがワールドアイテム、本物の『竜覇の証』になります。」
「勝さん、どうしてそれを身に付けてなかったんですか?」
【えーと…ユグドラシルのサービス終了日の2日程前に、自室の道具箱の整理をしてたんだけど、その時無駄に余ってた素材達で何か作れないかなー、と思ってアイテム作成リストを眺めてたのよ。】
ブラックが勝の心の声を代弁しながら話す
【そしたら、竜覇の証っていうアイテムが作れそうだったから、金色の竜覇の証を最初に作ったんだけど、とくに効果とか書かれてない聖遺物《レリック》級の勲章アイテムだったのよ。でも、軍服に似合うかなーと思って付けたら、なんかカッコよくて。そのノリで銀色の竜覇の証も作ったんだけど、灰色の軍服だとあまり目立たないなって、思って。調べもせずに所持道具箱に入れちゃった…ははは…】
「…だそうです。」
「何やってるですかwマヌケにも程かあるでしょ!」
【だってー、ユグドラシルもサービス終了する間近だったしー。今更ワールドアイテムなんか所持したところで、なんにもならないと思うでしょうがー。】
ブラックが勝の言い訳を代弁する。
「はぁー…まあ、わからないでもないですが…。それで?そのワールドアイテムの効果は?」
【…わかんにゃい…】
「ご主人様も知らないようです。」
「うわぁー…とんでもない効果だったらどうするんですか。もー。」
「もし、よろしければ、私がワールドアイテムの効果を教えますが?」
竜王ファフニールの発言に皆が驚く。
「ファフニールは、このワールドアイテムの効果を知ってるのか!?是非、教えてくれ!」
「あくまで、我が主が付けた場合の効果になりますが、よろしいですか?このワールドアイテムは、身に付けたプレイヤーの習得職業によって、効果が変化するので。」
「習得職業で効果が変わるワールドアイテムとは珍しいな。」
「ワールドアイテムの効果を説明する前に、前提条件について話しても良いですか?」
「前提条件?」
竜王ファフニールがワールドアイテム『竜覇の証』の前提条件について話始める。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このワールドアイテムはユグドラシル世界では特定の条件と素材を用意する事で『作成可能』なワールドアイテムである。
特定の条件とは、
①ドラゴンライダー、ドラグーン、ドラグナーのいずれかの職業を身につけており、Lv15にしている事。
②ドラゴンテイマーを身につけており、Lv15にしている事。
③ユグドラシルに存在するドラゴン系ボスモンスターを5種類以上撃破している事。
作成するための素材は、
『竜の涙石』という素材で、ドラゴン系ボスモンスターのみがドロップする希少素材アイテムである。
しかも、上の特定条件①の職業を修めたプレイヤーにしかドロップしないうえ、他人に渡す事もできない。
各ドラゴンによってデザインが違う。
これらをなんでもいいので5種類必要となる。
作成後の竜覇の証は、他人には譲渡不可。作成者本人しか装着できない。
しかも、装着するのも、先程の特定条件を達成してないと装着できない。
つまり、最低でも、①と②の職業が必要である。
と、言うことになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「つまり、勝さんは、その前提条件を知らない間に達成していて、『竜覇の証』がワールドアイテムであることも知らずに作成し、所持していた。ということになるんですね。すっごい確率の奇跡ですねww」
【竜の涙石、竜覇の証の作成以外に使い道なかったから、これ専用のアイテムだったのか。というか、竜の涙石は、他のみんなにもドロップするアイテムだと思ってたが、違ったのか。】
今明かされる衝撃の事実に、皆が唖然する。
勝がレプリカを外し、本物を装着する。
【それでファフニール。このワールドアイテムの効果ってなんなの?】
「我が主の場合ですと、以下の効果が発揮されます。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
①闇騎士《ダークナイト》
物理防御力が2倍にアップ&闇属性耐性が2倍にアップ
②銃士《ガンナー》
射撃武器の攻撃力が2倍にアップ
③狙撃手《スナイパー》
急所を攻撃したときに確率で即死させる。
④将軍《ジェネラル》
指揮下(配下)の味方のステータスが全て1.5倍にアップ
⑤魔獣使い《ビーストテイマー》
全ての魔獣を使役&支配可能
⑥竜使い《ドラゴンテイマー》
全てのドラゴンを使役&支配可能
⑦竜騎兵《ドラグナー》
全てのドラゴンに騎乗可能
⑧召喚士《サモナー》
全ての召喚魔法を『ノーコスト』『ノーリキャスト』『ノーリスク』で発動可能。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「以上が、我が主がワールドアイテム『竜覇の証』を装備した際に得られる効果となります。」
【ぶっ壊れ過ぎるだろぉぉぉぉ!!】
「ぶっ壊れ過ぎるだろぉぉぉぉ!!」
勝とモモンガが同時に叫ぶ。
ユグドラシルでは、ワールドアイテムのほとんどは無茶苦茶な性能ばかりで、俗に言うバランスブレイカーアイテムである。1回、もしくは3回使うと壊れるものがほとんどだが、装備する事で効果を発揮する物も多い。
モモンガのギルドでは、ギルドメンバーの頑張りもあって11個のワールドアイテムを保管している。
しかし、今回のを含めると、12個になる。
【え?じゃあなに!?私は、下手すると、超位魔法の召喚魔法を何回も連発で使用できるって事?】
「はい。我が主は、超位魔法の召喚魔法を何回も使用でき、連発も可能となります。」
「はぁあ!?超位魔法を何回も連発で使用可能とか、ヤバいでしょう!竜王を呼び出し放題じゃないですか!」
【モモンガさん、私、自分が恐ろしい存在になった気分です。】
「モモンガ様、ご主人様が、あまりの衝撃の事実に、自分自身が怖い、とおっしゃってます。」
「だ、大丈夫ですよ!使い方さえ、間違えなければ。…たぶん…」
「勝さんがとんでもないプレイヤーになってしまいましたね。」
「ワールドチャンピオン大会に、このワールドアイテムを付けた勝さんが参加してたら、大混乱待った無しですよ。」
「急所を狙撃すると、確率で即死ってヤバいッスよ!体力や防御力に関係なく、相手を殺せるって事ッスよね。ヤバ…」
皆がワールドアイテムを所持した勝について語り出す。
「我が主よ、少し試して頂きたい事があるのですが…よろしいでしょうか?」
【な、何?】
「召喚可能な全ての竜王を、簡易召喚で召喚して頂けませんか?」
【……は?】
「な、何だって!?」
あまりにもぶっ飛んだお願いに、皆が驚く。
勝が召喚可能な全ての竜王を、この場に召喚する。
その光景を想像するだけで恐ろしい。
【…何故、全ての竜王を召喚して欲しいんだ?】
「はい。実は、昨日まで確認できていた我が本体とのパスが切れていまして。そのせいで、他のエリアにいた竜王達との念話ができない状態なのです。」
竜王ファフニールが言うには、ユグドラシルのサービス終了をきっかけに、ボスエリアで待機していた自分の本体との情報供給ができなくなった。
彼らの本体は、念話を使って、他のボスエリアにいる竜王達と念話をする事ができるらしい。暇な時間は談笑する事で時間を潰して過ごしていた。
という事らしい。
「竜王達同士で談話をしていたという事実に驚きですね。」
「はい。最初の頃は、多くのプレイヤーが我ら竜王に戦いを挑みに来ていて、退屈しない日々でした。しかし、次第に挑戦しにくるプレイヤーが減っていき、終いには、1日誰も来ない日々が続く事が多くなりました。」
竜王ファフニールの言葉に、プレイヤー達が視線を落とす。
引退したり、ログインすらしなくなったプレイヤーが増えていき、MMORPGユグドラシルの衰退が進んでいたのは事実だ。
「しかし、ただ1人、八竜達の談話で名前が上がるプレイヤーがいました。それが、我が主、勝様です。」
「え?何故、勝さんの名前が?」
【え?私!?】
意外な発言に、皆が勝を見る。
「勝様だけが、たまに我ら竜王に戦いを挑みに来て下さっていたのです。おかげて、八竜達の会話では、今日は誰の所に例のプレイヤーが来たーと、そう言う話がちょこちょこ出る感じになっていました。昨日なんて、全ての八竜と戦って下さったのでしょう?我が主よ。」
【あーはははw日替わりで八竜を『見に言ってた』だけなんだけどね。昨日は、思い出残しも兼ねて、朝から戦い挑んでただけだったんだけどね。】
「…ご主人様は、日替わりで八竜に戦いを挑んでいたようです。」
「勝さん、ドラゴン好きすぎでしょwww」
【いや!1番好きなのは、ブラック達だし!そこは譲らないし!】
「ハハハ。ブラック達が羨ましいですなー。竜王より愛されるとは。良き主を持てて良かったな。ブラック達よ。」
「竜王様にそう言われると、複雑な気持ちになります…いえ!ご主人様と出会えた事は嬉しい限りですが!」
ブラック達が照れながら言う。
「おっと、話がそれましたね。他の竜王達がどうなったか心配なのです。それで、他の竜王達に会いたくと思い、我が主にお願いしているのです。」
【…よし!せっかくだから、全ての竜王を簡易召喚するか!】
「え!?ご主人様!本当に召喚するんですか!?ぁゎゎ…竜王様達がたくさん現れるとか、恐れ多くて心の準備が!」
【いや!もう我慢できん!竜王ファフニールにお願いされて断るなんぞできるか!竜王簡易召喚《サモン・ドラゴンロード》!いでよ!我が召喚に応じし全ての竜王達よ!】
勝の周りに立方体の魔法陣が現れるが、一瞬で消える。そして、闘技場にいる皆を囲むように、巨大な魔法陣が幾つも出現する。
ナザリックの魔法職達が絶叫する。
「ちょっ!?詠唱時間すらカットされるとか、マジチートでしょ!?」
「ノーリスクって、『詠唱時間の隙』すら無くすんですね。これは酷い性能ですねw」
竜王ファフニールの召喚の時と同じ現象がおき、空間に亀裂が入って割れる。
そして現れる。
勝が超位魔法で召喚可能な残りの竜王達が。
ぐるりと自分達を囲み、顔だけ出し、コチラを眺める竜王達の光景に、闘技場に居る全員が息を呑む。
「では、改めて…我が名は、第一の八竜!無の竜王ファフニール!我が主の召喚に応じ参上いたしました!」
「同じく、第二の八竜!火の竜王バハムート!我が主の召喚に応じ参上いたしました!」
「同じく、第三の八竜!土の竜王ナーガ!我が主の召喚に応じ参上いたしました!」
「同じく、第五の八竜!風の竜王ヤマタノオロチ!我が主の召喚に応じ参上いたしました!」
「同じく、第七の八竜!毒の竜王リヴァイアサン!我が主の召喚に応じ参上いたしました!」
5種類の八竜達の紹介が終わる。
第四、第六、第八の竜王は召喚条件を達成できてないので現れない。次は、イベントのレイドボスの竜王達だ。
「「ではまず、我らから!春イベントのレイドボスを担当した、雷の竜王!青龍と黄龍!我ら二竜、我が主の召喚に応じ参上いたしました!」」
春イベントのレイドボス、珍しい双子?の竜コンビ。
2人が繰り出す雷撃と巧みな連携に苦戦したプレイヤーが多くいた。片方を倒すと、残った方の竜が怒り、フィールド全体に雷撃を落とす、という初見殺しで有名だった。
「夏イベントのレイドボスを担当した、水の竜王!ティアマトよ。ご主人様の命により、召喚に応じ参上いたしました!」
夏イベントのレイドボス、普段は美しい人型の美女の姿をしている竜。頭に大きく曲がった角がある。
水色のスクール水着のようなピチピチボディスーツは多くの男性プレイヤーを魅了させた。
エロに厳しいはずのユグドラシルにしては、なかなかサービス旺盛な竜だった。
が、戦闘中に体力が半分を切ると、美女の姿から、恐ろしい姿へと変わる。
角が羽のような形に変わり、口が横に広がり首元まで大きくなるのだ。
わかりやすい例えを出すなら、
エリマキトカゲと口裂け女を足した姿、かな?
その姿は、多くの男性プレイヤー達を泣かせた。
ある意味、初見殺しの竜である。
「冬イベントのレイドボスを担当した、雪の竜王!白竜だ!我が主の召喚に応じ参上したぞ!」
冬イベントのレイドボス、全身真っ白のスノードラゴンとも呼ばれる竜だ。
高い氷山の一角に陣取り、足元が滑る氷のフィールドを作り出し、縦横無尽に動き回る。
その滑る床に、対策を施してないプレイヤー達が次々と深い谷底に落とされトラウマとなった。
ボスよりフィールドの仕組みが怖い、ということで有名だった。
「年末イベントのレイドボスを担当した、闇の竜王!ウロボロスだ。我が主の召喚に応じ参上いたしました。」
年末の最後をくくるレイドボス、禍々しいオーラと紫色に輝く鱗が特徴で、厨二心をくすぐる竜だ。
瀕死にすると、即死魔法を連発してくるという鬼畜なAIで有名だったが、アンデッド系などの即死耐性持ちプレイヤー達にはカモだった。
「新年及び年始のイベントのレイドボスを担当した、光の竜王!神竜《ゴッドドラゴン》だ。我が主の召喚に応じ参上いたしました!」
新年を飾るレイドボス、天使の羽のような翼を幾つも持つ竜だ。
真下から見上げると、神が舞い降りたかのような錯覚に囚われる。
一部のプレイヤー達が、本気で神様として崇めたりするほどだった。
神聖魔法を幾つか習得しており、アンデッド系などのプレイヤー達を苦戦させた。
瀕死にすると、回復魔法で体力を回復するため、長期戦になるプレイヤーもいるほどだった。
勝さんが1番苦戦した竜でもある。
八竜とレイドボス達の名乗りが終わると、竜王達が息を合わせて、同じセリフを言う。
「我ら竜王、召喚者である勝様の下僕であり、絶対の忠誠を誓う存在なり!我が主よ。我ら竜王、いかなる命令にも従い、いかなる強敵からも貴方様をお守りしましょう!」
竜王達が主人の指示を待つかのように、勝を見つめながら、見下ろしている。
【…やべぇ…あまりの迫力と、あまりにも高い忠誠心に、押しつぶされそう…】
「ご、ご主人様。何か言わないと…私達では、どうしようもありませんよ?」
「か、勝さん。竜王達が勝さんに絶対の忠誠を誓ってくれてるんです!主人としての威厳を示さないと!」
モモンガとブラックが勝に状況改善を求める。
【よ、よし!竜王達よ!此度は、私の召喚に応じてくれて感謝する!】
と、嬉しさを伝えようとするが、
「な!なんと!感謝などとんでもない!我ら竜王、勝様のためならば、いかなる状況でも召喚に応じましょう!貴方様は、ただ我らに命令を下すだけで良いのです!」
やはり忠誠心MAXである。
しかも、明らかに勝より強い竜王達が、勝に絶対の忠誠を誓っている。
ありえない事であるが、現実だからどうしようもない。
しかし、勝は納得できない。自分より強い存在である竜王達が、自分に忠誠を誓うことが。
【あー…1つ聞くが、お前達竜王は、私が見た限りでは、私より強い存在のはずだ。なのに、何故私に忠誠を誓ってくれるんだ?】
「それは、我が説明しよう。」
神竜が代表で説明する。相性的に、今の神竜に勝が勝てる見込みはない。絶対的な強者である神竜が、勝に対して、丁寧に説明をする。
「我ら竜王が勝様に忠誠を誓うのは、我らが勝様無しでは存在できない状態になってしまったからだ。」
【はぁ!?私無しでは存在できない状態!?】
「どういう事です?竜王神竜。」
「昨日まで、我ら竜王達には、ユグドラシルの世界に本体がありました。しかし、日付が変わった瞬間、我らの本体の肉体が、なんらかの問題で消滅してしまったのです。こうなっては、我らの存在を維持するためには、我らを召喚できるプレイヤーに頼るしかないのです。昨日の段階で、我ら竜王を召喚できるプレイヤーは、『勝様ただ1人』でした。他の召喚士はもう…ユグドラシルに存在していないのです。」
ユグドラシルのサービス終了の時間と共に、竜王達の肉体が消失。今現在、竜王達を召喚可能なのは、勝だけという状況らしい。
「故に、我ら竜王は、勝様無しでは存在できないのです。仮に勝様が、我らを完全召喚したとしても、勝様が死んでしまった場合、魔力のパスが切れ、我らも消滅してしまうのです。逆に、勝様が生きてる限り、我らは何度でも蘇らせてもらえるのです。」
【そうだったのか…。だから、私の事を守る、と言っていたのか。】
「はい。我ら竜王、勝様のためならば、我が命に替えてでもお守りしましょう。邪魔な敵は全て排除致しましょう。なのでどうか!」
竜王達が勝に必死に請う。
「なのでどうか!我らのためにも生き続けて下さい。この世界から居なくならないで下さい。勝様が居なくなったら、我らも生きていけませぬ。どうか!どうか!」
竜王達の言葉に、モモンガ達の胸が締め付けられる。前にも似た展開を味わっていたからだ。
【…居なくならないで…か。】
モモンガ達が言っていた事を思い出す。
ナザリックのNPC達に、
『居なくならないで』
『去らないで』
など、そんな事を言われたと。
私がこの世界に残り続けたのは、ブラック達と離れ離れになるのが嫌だったからだ。
だが今では、私という存在に頼らなければ生きていけない者達まででてしまった。
【まったく、世界というヤツは、どれだけ私をこの世界に居させたいのだ。これでは、ますますこの世界から消えるのが嫌になってしまうじゃないか!】
「ご主人様?」
「我が主よ、どうなされた?」
【わかった!安心しろ!私とて、死ぬのは嫌だからな。お前達のために、この世界で生き続けよう。】
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!我ら竜王、勝様のためならば、全身全霊をもって、貴方様にお使い致します!」
【そ、それにな!私にはブラック達が居るからな!ブラック達を置いて先に死ぬなんて、嫌でもしないからな!無論、ブラック達を置いて去るなんて事もしないさ!】
「ご主人様、その言い方は、その、少し恥ずかしいです…♥」
【と、とにかく!竜王達にお願いされたからな!意地でも死なないからな。私は!ブラック達だけでなく、お前達竜王の事も、私が護ってやるよ!約束する!】
「おお!ありがたきお言葉!我が主よ、これからよろしくお願いしま…」
「キャー!ご主人様素敵ー!ハグしたくなっちゃうぅ♥」
竜王ティアマトが巨大な手で勝をワシ掴み、巨大な胸にギュウギュウと押し付ける。
【ぬぅぅおおぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?胸がぁぁぁぁ!!】
「あー!ご主人様がティアマト様の胸にー!」
「勝さーん!ズルいッスよ!オレにもハグしてーティアマトさーん!」
「残念ながら、私の胸は勝様専用でぇーす♥諦めて下さーい、ペロロンチーノさーん!」
【だ、誰かたすけてぇぇぇぇぇぇ!圧死するぅぅぅ!】
この後、ティアマトにモニュモニュされまくった勝だった。
念の為、ブラック、ブルー、レッドのレベルとステータス設定も書いときますね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ブラック
[レベル]
種族レベル
竜人 15Lv
職業レベル
弓兵《アーチャー》 5Lv
修行僧《モンク》 5Lv
ならず者《ローグ》 5Lv
剣聖《マスターソードマン》 5Lv
暗殺者《アサシン》 15Lv
上位暗殺者《マスターアサシン》 10Lv
忍者《ニンジャ》 15Lv
仕掛忍《シカケニン》 5Lv
種族Lv15
職業Lv65
合計Lv80
属性 悪属性 カルマ値-100
[ステータス]
HP 60
MP 40
物理攻撃 50
物理防御 60
素早さ 90
魔法攻撃 10
魔法防御 60
総合耐性 60
特殊耐性 70
※ステータスは最大値を100とした場合の数値です
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ブルー
[レベル]
種族レベル
竜人 15Lv
職業レベル
戦士《ファイター》 15Lv
騎士《ナイト》 15Lv
剣使い《ソードマスター》 10Lv
修行僧《モンク》 15Lv
気使い 《キ・マスター》 15Lv
種族Lv15
職業Lv65
合計Lv80
属性 善属性 カルマ値+100
[ステータス]
HP 95
MP 15
物理攻撃 70
物理防御 80
素早さ 55
魔法攻撃 0
魔法防御 65
総合耐性 65
特殊耐性 70
※ステータスは最大値を100とした場合の数値です
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レッド
[レベル]
種族レベル
竜人 15Lv
職業レベル
修行僧《モンク》 5Lv
魔法使い《メイジ》 15Lv
大魔法使い《アークメイジ》 10Lv
賢者《セイジ》 5Lv
白魔術師《ホワイトマジシャン》 10Lv
黒魔術師《ブラックマジシャン》 10Lv
治癒術師《ヒーラー》 10Lv
種族Lv15
職業Lv65
合計Lv80
属性 中立 カルマ値0
[ステータス]
HP 50
MP 70
物理攻撃 40
物理防御 50
素早さ 65
魔法攻撃 75
魔法防御 60
総合耐性 60
特殊耐性 55
※ステータスは最大値を100とした場合の数値です
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
基本的には、この三姉妹だけでもパーティーが成立します。
これに勝様が加わると最強になるんです!
何故なら、私達三姉妹のモチベーションがMAXになるからです!(ドヤァ)(*-`ω´-)9 ヨッシャァ!!