首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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第5話 話題に事欠かないデュラハン─その1

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──午前10時・スレイン法国──

 

◇『竜の宝』の授与式から三日後◇

 

 

スレイン法国の中央部に位置する都市『神都』

その都市の中にある、とある神殿──スレイン法国で最も厳重な警備がなされた、スレイン法国最重要施設──そこで会議の準備が行われていた。

 

国のトップとして存在する最高神官長をはじめ、六柱の神からなる六つの宗派の最高責任者である六人の神官長達の内、五人が出席。

さらにこれに、司法、立法、行政の三機関長。魔法の開発を担う研究館長。軍事機関の最高責任者である大元帥の合計十二名──法国の最高執行機関に関わる人物が勢揃いしている。

 

その他、スレイン法国の中でも有力な力を持つ人物や、軍事機関の各軍団長や部隊長達を始めとした隊員達も参加している。

 

現在、出席予定である最高責任者である六人の神官長達の内の1人──水の神官長がまだ来ていない為、参加者全員が待機している状況となっている。

 

 

そんな状況の中、スレイン法国の中でも最高戦力として君臨する『漆黒聖典』──その隊長が、ある男と話していた。

 

 

 

「──という訳で、以上が国外で活動中の『風花聖典』からの報告だ。何か質問はあるかね、隊長?」

「いえ、問題ありません。」

 

隊長は渡されていた報告書を見る。

 

この報告書には特別な羊皮紙が使われている。

『伝言の羊皮紙(スクロール・オブ・レポート)』と言って、羊皮紙に書いた内容を相手に送る事ができる紙である。秘密の連絡手段として使われる事が多い。

現地で活動している者から、最新の情報を得る事ができる手段の1つである。

 

報告書に記載されている内容は、『風花聖典』の活動によって得られた、デュラハンに関する情報である。

 

『風花聖典』──スレイン法国の神官長直轄の特殊工作部隊群の1つであり、情報収集や諜報活動を得意とする部隊である。

『風花聖典』には、逃亡中の元『漆黒聖典』のメンバーであるクレマンティーヌの捜索を中断させ、デュラハンに関する情報を入手する指令がだされてある。

それにより、『風花聖典』は活動場所を王都に移動、デュラハンの監視を行っている。

 

その為、『風花聖典』のメンバーはまだ知らない。知らされていないのだ。自国が11体の怪物の襲撃を受け、ボロボロな状態であるという現状を。

もし、『風花聖典』が自国の現状を知れば、任務に集中できなくなる。場合によっては、自国の復興を優先し、任務を放棄する可能性もありえるのだ。

 

だが、それはスレイン法国にとってはまずい展開となる。自国が攻撃を受けた以上、襲撃犯達がコチラの戦力を調べている可能性は大である。

ならば、国外で唯一活動中の部隊を国に帰還させるのは避けたい。

万が一、なんらかの敵に国が包囲された時、包囲している敵の背後を突く事が可能な味方を残しておきたいのだ。

 

「ありがとうございました、レイモン神官長。」

「何、気にするな。今でこそ私は『六色聖典』のまとめ役ではあるが、かつて私が所属していた漆黒聖典……その隊長である貴方からのお願いとなれば話は別だ。無下にはできぬさ。」

「……感謝します。」

「……そうか。そろそろ会議が始まる。私も自分の席に戻らせてもらうよ。」

 

自分の席へと戻って行くレイモン。その姿を目で追っていた隊長の隣に座っていた男が口を開く。

 

「隊長、貴方が出くわしたというアンデッド……デュラハンでしたか?死んでいなかった様ですね。」

「そのようです。ですが、()()が本当にアンデッドだったとは思えません。それに、人間だったのなら蘇生魔法による復活も可能ですからね。」

「私が隊長達と一緒に出撃していれば、デュラハンにトドメを刺す事ができたかもしれませんね。」

「……そうですね。」

 

そう言いながら、隊長は隣の男と一緒に報告書に目を通す。そして絶句する。

 

まず報告書の出だしには──

 

『王都の住人や冒険者などから聞き込みを行って得られた情報』

 

──と、記述が載っている。

 

『風花聖典』が王都に潜入したのが今日の朝である。

いきなり調査対象に接触して情報を得るのは怪しまれる為、まずは近隣住民から情報を得るのは当然である。

 

記入されている情報には、聞き込みで得られたデュラハンやドラゴン達の個人情報が書かれているのだが、その内容が信じられないものばかりだったのだ。

特に、デュラハンとレッドという名前の魔術師(マジックキャスター)のドラゴンの情報が目を疑う。

 

ドラゴンの方は第10位階までの魔法を使用でき、デュラハンはさらに凄い召喚魔法を使用できるという。

 

『陽光聖典』の隊員達が言っていた、神を召喚する魔法だろうか?──と、隊長は思考を張り巡らせる。

 

他の情報として──

 

デュラハンが王都の王城の真後ろに闘技場を建てて住み着いた事、

デュラハンが『竜の宝』というチーム名で冒険者になった事、

シャドウナイトドラゴンを倒してアダマンタイト級冒険者に昇格した事、

オリハルコンやアダマンタイトの鉱石を大量に所有している事、

第10位階までの魔法のスクロールを作製可能な事、

瞬時にゴーレムの召喚ができる事、

 

などの、デュラハン達に関する情報が書かれてあった。

 

 

見れば見るほど信じられない情報ばかりである。しかし、それらの情報が王都の民達から得られた情報である以上、虚言と切り捨てる事はできない。

 

何より、デュラハンに関わってからというもの、自国の不運が連続している。

『陽光聖典』から伝えられた情報を含め、スレイン法国最強と言われている『漆黒聖典』の損害、自国を襲撃した謎の魔物達など、想定外の出来事ばかり発生しているのだから。

 

 

「『召喚魔法を使用する』ですか……。しかもドラゴンだけでなく、神の召喚まで可能とは……。」

 

隣で報告書を見ながらブツブツと呟く男に、隊長は視線を移す。

 

漆黒聖典第五席次

『クアイエッセ・ハゼイア・クインティア』

 

スレイン法国の漆黒聖典に所属するメンバーの一人であり、最強のビーストテイマー。

英雄級の実力を持つ上、殲滅という点では他の漆黒聖典の追随を許さない。

英雄級の存在でなければ倒すことが困難なモンスターを召喚する事ができ、最低でも十体は使役できる男。

 

そのモンスター達を使役し、圧倒的殲滅力を出す彼についた異名は『一人師団』。

 

そんな実績を持つクアイエッセですら驚き、顔を暗くさせるデュラハンの情報は、ある意味ではクアイエッセよりも実力が上かもしれないという事実を突きつけるような情報だったとも言える。

 

「クアイエッセ、もし貴方がこのデュラハンと戦った場合、勝てる見込みはありますか?」

 

隊長の質問に対し、クアイエッセは首を振る。

 

「アダマンタイト級冒険者でようやく倒せるギガント・バジリスクが10体と最高位天使を容易く屠る竜王が11体では、戦力差が違い過ぎます。10対1でも勝てる気がしませんね。」

 

クアイエッセの言葉に、隊長も異論はない。

ドラゴンにトカゲをけしかけて勝てると思う人間など、いるはずがないのだから。

 

「それに、このデュラハンは最高位天使の魔法を受けて平気だったらしいですね。しかも、恐ろしい殺気まで放つとか。」

 

「陽光聖典の隊員達の報告では、そうなっています。」

 

第7位階の天使の魔法を受けて無傷のアンデッド、通常ならありえない事である。

しかし、『陽光聖典』が自国に対して、その様な嘘をつくはずはない。しかも、実際に王都でデュラハンが活動している事がわかった今、『陽光聖典』がデュラハンと戦った事は、紛れも無い事実である事が証明された事になる。

 

「それで……隊長が出会った、デュラハンを名乗る女はどうだったのですか?」

 

「陽光聖典の情報とは、まったく()()()()()()でした。召喚魔法も使わず、恐ろしい殺気も放ちませんでした。何より、容姿も一致してません。」

 

名前も姿もまったく別。ドラゴンも従えさせていない。冒険者のような仲間が数名と、魔獣が1匹。

『陽光聖典』と『風花聖典』が調べた情報とも一致しない。なのに、あの女は自分をデュラハンだと名乗った。それがわからない。

 

「謎ですね……どういう関係なのでしょうか?この両者は。」

 

クアイエッセも、隊長と同じ疑問を抱く。だが、いくら考えてもわからないのが現状だ。

 

「それだけではありません。村を襲撃していた『陽光聖典』の別働隊の生き残りが見たという、『アインズ・ウール・ゴウン』という人物も謎のままです。」

 

帰還した兵士の話では、その人物は──漆黒のローブを身に纏い、光り輝く杖を持った仮面の男だったと言う。

 

漆黒聖典の隊長の脳裏に、不吉な考えが浮かぶ。

格好が似ている、と──そう思ったのだ。

自分達の部隊が信仰している、死の神の姿に。もし、仮面の下の素顔が骸骨だった場合──それはまさしく──

 

そこまで考えて、隊長は『ありえるはずがない』と、自分の考えを打ち切る。

そして再び報告書に目を戻す。

 

情報によれば、デュラハンは組織に属しているという。組織の名は『アインズ・ウール・ゴウン』

村に現れた人物と同じ名前である以上、村に現れた人物が組織のリーダーであると断定して良いだろう。

 

その人物から──

 

『村を襲うな。従わぬなら貴様達の国に死をもたらす』

 

と、警告を受けた後に解放されたという。

 

「もしかしてですが、隊長達が再び村に現れたから、その『アインズ』という人物が、警告を破ったと判断して、私達の国に怪物を送った、という事は考えられませんか?」

 

可能性としてなら、ありえなくもない話だ。

だが、それだと怪物が突然消えた事が説明できない。滅ぼすつもりだったのなら、怪物を消す必要がないのだから。

 

となると、怪物達も警告の1種──という可能性もある。

 

『お前達の国を滅ぼす事など、私には簡単にできる。』

 

という脅しを兼ねた意味で。

 

「可能性はありますが──」

 

 

そこまで言った時、会議室の扉が開いた。

 

最初に入ってきた人物は──地、水、火、風、闇、光の六大神殿の内の1つ──水の神殿に仕える神官衣をきた男。

その男に続く形で、同じ格好をした者達が数名入って来る。その人混みの中央に、年老いた老人の姿があった。

水の神官長──ジネディーヌ・デラン・グェルフィである。

 

だが、グェルフィが部屋に入るやいなや、グェルフィの姿を見た者達が驚きの声を上げる。

 

無理もない。数日前まで健康的であった彼の顔は、まるで病人のように痩せ細っていたからだ。

極度のストレス、あるいは恐怖を味わったかのような──それほど、グェルフィの身体の状態が一変していた。

 

それだけではない。グェルフィが、まるで何かに怯えるような、まだ恐怖から立ち直っていないような面持ちでいるのだ。

周りにいる部下達から支えられながら歩く姿が痛々しく思えてしまう程、グェルフィが衰弱している事が丸分かりであった。

 

グェルフィが席に着く。

最高神官長や他の神官長達が彼を心配するが、グェルフィは『会議を始めてくれて構わない。』と、言う。

 

仕方なく、最高神官長の合図で会議が始まる。

各代表者が、順番に報告を伝えていく。

 

「まず国が受けた被害ですが、兵士や天使、ゴーレム等を使用して復興作業を進めていますが、完了するまで半年以上はかかる予定です。」

 

「国を襲った怪物に関して調査を進めていますが、いまだに有力な情報は、入手できておりません。ですが、『陽光聖典』が戦ったデュラハンと、何か関連がある可能性があります。」

 

「『陽光聖典』が戦ったデュラハンとドラゴンですが、リ・エスティーゼ王国の王都にて冒険者をやっている事が『風花聖典』の調査で判明しました。しかも、我が国が怪物達に襲われた日に、王都でアダマンタイト級冒険者に昇格した事を証明する、プレートの授与式が行われていたそうです。」

 

「なんと!アンデッドが冒険者に!?しかもアダマンタイト級だと!?」

「王国は何を考えているのだ!」

「──待て待て!気にするのはそこではないだろう!我が国が襲撃を受けた日に、デュラハン達は王都に居たという事が重大だろう!」

「となると、怪物を差し向けた者は別にいる可能性がある訳か……」

「『漆黒聖典』の者達が出会ったという、デュラハンを名乗る女が関与していると考えるべきだろうか?」

 

「『漆黒聖典』の隊長が書いた報告書には目を通しましたが、女とデュラハンの関係性は未だ謎です。ですが、新たな情報が見つかりました。」

「おお!それは?」

「報告書によりますと、デュラハンを名乗った女の名前は『リュウノ』という名前だそうです。仲間らしき者達から、そう呼ばれていたそうです。」

「それがどうかしたのか?」

「はい。実は、我が国が怪物から襲撃を受けた日の夜、城塞都市エ・ランテルに魔王を名乗る悪魔が襲撃をかけていた事が分かりました。魔王の名は、『アレイン・オードル』、部下の名前は『ヤルダバオト』という名前らしいです。詳細は、後から配る報告書に書いてありますので、そちらを読んで下さい。」

「ふむ。それで、その悪魔達と女の関係は?」

「はい。実は、悪魔がエ・ランテルを襲った時刻に、『リュウノ』という名前のアダマンタイト級冒険者がエ・ランテルに居たそうです。その女は最初、アンデッドのフリをしていたそうです。」

 

どよめきが起こる。

 

「アンデッドのフリだと!?」

「はい。その『リュウノ』という女性はタレント能力を持っており、その能力でアンデッドに化ける事ができる事が分かりました。『リュウノ』という女性の正体は竜人であり、例の王都で活躍しているデュラハンが連れ回しているドラゴン達の姉であった事が判明しました。」

 

「おお!そんな繋がりがデュラハンと女にあったとは!」

「はい。おそらくですが、『漆黒聖典』が出会った女と同一人物である可能性が高いかと思われます。その女は、後にエ・ランテルを襲撃した悪魔達から、十三英雄の1人である、『暗黒騎士』と呼ばれていた事も判明しております。」

「む?何故『暗黒騎士』と呼ばれたのだ?」

「はい。実は、その『リュウノ』という竜人は──」

 

男がリュウノの特徴について説明する。

 

「悪魔の姿に似た竜人か……。」

「はい。その竜人は、後に悪魔達がエ・ランテルの住民を人質にとった時に──」

 

男が悪魔事件で起こった事の顛末を全て語る。

 

「自分の身を差し出して人質を解放させた、か。『リュウノ』という女性が人間だったなら、勇気ある英雄として語られ、伝説になっただろうに……もったいない。」

 

「ですが結果的に、『漆黒聖典』が仕留め損なったおかげで、悪魔達から大勢の人間を救う事ができたとも言えますな。」

「──ですが、それだと『リュウノ』という人物を殺そうとしたのは不味かったのでは?人間側に協力的な者を、我が国は敵に回した事になる訳ですから。」

 

 

「ああ。なんとも愚かな行為だ。」

 

突如、今まで黙っていた水の神官長のグェルフィが喋り出す。

それをきっかけに、会議室に居た全員が静かになる。

 

「あの女を……いや、あの方を敵に回したのは大変まずい。あの方を敵に回すような事は、避けるべきだったのだ。」

「何故かね?グェルフィよ。」

 

最高神官長の質問に、グェルフィは懐から何かを取り出す。

それは、魔法の力で映像を録画するアイテムだった。かの偉大な六大神様が残したアイテムの1つでもある。

 

それを机に置いたグェルフィが、静かに語りだす。

 

「我が国が怪物に襲われた日、緊急会議が行われた。その会議にて、『漆黒聖典』の情報をもとに、1番被害が少なかった我が水の神殿にて、デュラハンを探る為の高位の魔法を発動させる大儀式を行った事は、みな知っているな?」

 

全員が首を縦にふる。

あの日、水の神殿にて大儀式が行われた事は、この会議室に居る全員が知っている。

 

※『大儀式』とは、《オーバーマジック》で二つ上の位階を使用するための儀式である。

スレイン法国の聖域で行われる魔法儀式は叡者の額冠を使い、さらに上の位階が使用可能となる。周囲の高位神官達から送り込まれた膨大な魔力を巫女姫の叡者の額冠に纏め上げる事によって、一時的に膨大な魔力をその身に蓄えさせる事が可能となる。巫女姫は、己の限界(第5位階)を遥かに超えた魔法の発動《オーバーマジック・プレイナーアイ/魔法上昇・次元の目》第8位階魔法による占術を行うことができる。

 

※《オーバーマジック・プレイナーアイ/魔法上昇・次元の目》とは、占術の魔法である。

使用者の前に魔法の結果の投影映像が浮かぶ。目標が何らかの魔法的防御に守られていると黒い映像しか映らない。

 

水の神殿で大儀式が行われたのは、昼頃である。

しかし、夕方になっても、水の神殿から報告がない為、上層部が兵士を向かわせたのだ。

が、水の神殿で大儀式を行っていた部屋に入った兵士は、驚きの光景を目にしたのだ。

 

水の神官長以外の──儀式に関わった者達全員が死んでいたのだ。頭が爆発したような形で。

唯一生存していた水の神官長も、部屋の隅で丸くなり、ガタガタと怯えている状態だったという。

 

そして、その日から今まで、水の神官長は自室に閉じこもっていた訳なのだが──

 

「あの日、私は死の神を目にした。」

 

水の神官長グェルフィの言葉で、部屋全体の雰囲気が一変した。

 

グェルフィが言った『死の神』とは、スレイン法国が信仰する六大神の一神である。

『スルシャーナ』という名の死を司る神であり、命ある者に永遠の安らぎ、そして久遠の絶望を与える神と言われている。

 

スルシャーナは、教典によると──四大神や自身と同格である生の神アーラ・アラフよりも強大である──と、書かれてあり、四大神より上位の神として信仰されている。

法国の人間がスルシャーナを信仰する理由は「崇める事で邪悪な力を自らに振り下ろすのを避けて欲しい」ためである。

 

 

その死の神を見たというグェルフィの言葉は、法国の人間達にとっては「ありえない」では済まない問題となる。

 

それは何故か──理由は、死の神であるスルシャーナが、まだ存命している可能性が噂されているからである。

口伝によれば、500年前に現れた八欲王に殺害された。と、伝わっている。

しかし、一部の者達の間では、「大罪を犯した者達によって放逐された」と言う口伝を信じる者もいるのだ。

 

その口伝──すなわち、スルシャーナ存命を信じる者の1人がクアイエッセである。

クアイエッセは、『漆黒聖典』のメンバーの中で1番と言っていいほど、スルシャーナを信仰している人物である。

 

当然の如く、クアイエッセが食いつく。

 

「見た、というのは、どういう事でしょうか?」

 

クアイエッセの質問に対し、グェルフィは机に置いたアイテムを指さす。

 

「これを見れば分かる。」

 

そう言って、グェルフィが机に置かれた──金属でできた、手の平サイズの四角い箱の上の部分を押し──アイテムを起動させる。

 

 

最初に映し出されたのは、黒い服の上から魔導師のローブを羽織り、黒い帽子を被った女だった。

その後、女の周りに様々な金銀財宝が映し出される。

 

隊長はすぐさま気付く。例の村に居た、デュラハンを名乗った女であると。

 

「この女です!私達の部隊が遭遇した、デュラハンの女は!」

 

会議室に居る者達が、映像に映し出された女を凝視する。

 

女は何か、イライラした様子で、地面の砂を蹴り上げてむせている。

何か喋っている様子だが、何も聞こえてこない。

 

「音声は出ないのですか?」

 

隊長の質問に、水の神官衣をきた神官兵が対応する。

 

「申し訳ありません。映像だけです。ですが、映像に映っている人物の口の動きから、ある程度の解読ができております。映像に合わせて、口唇術を担当した者がセリフを読み上げます。一部、解読ができなかった部分がありますが、それはご容赦ください。」

 

神官兵の合図で、担当の神官兵がセリフを代読する。

 

 

『あーもう!こういう時、デュラハン状態なら冷静に──────できるのに!何故人間化している時に限って────と関係ある奴と出会うんだよ!』

 

 

デュラハン状態──人間化している──この情報だけで、この黒い服の女がデュラハンと同一人物である事が理解できた。

 

 

『いや…元々私は囮役──────だ。アンデッドの姿で─────れば、私達と同じように、この異世界に来た──────の目にとまるのはわかっていた事だ!アインズ・ウール・ゴウンという──の一員─────も、ユグドラシルの─────なら理解できる────。この私がユグドラシルから来た存在だと────は、最初からわかっていた事だし!』

 

 

異世界──ユグドラシル──六大神に関する書物でたびたび出てくる言葉であり、六大神が元々住んでいた神の世界の名でもある。

 

この黒い服の女が、神の世界から来た存在であるかもしれない可能性が出てきた事に、会議室に居る全員が動揺する。

 

 

『むしろ、他の─────が居ることがわかった───、ユグドラシルについて────奴の名前がわかった分、得したと思うべきだな!』

 

 

女にとって、誰かの名前を知った事が得する事に繋がった──という意味だろうか?

 

映像の女が歩くのを止め、宝の山に座る。

女の周囲には、キラキラと輝く金銀財宝と共に、たくさんの高そうな武器や杖なども交じっている。

 

 

『まずは、あの──だな。今からでも────か?いや、いっそ殺すか?

 

 

──いっそ殺す──いきなり物騒な言葉が出た事で、会議室に居た全員に緊張が走る。

 

 

『無理だな。確実に───る。』

 

 

『やはり、───メンバー全員に─────が先だな。私の独断で──やって──したらヤバいし。となると、まずは情報──────などに対する───だな。』

 

女が立ち上がる。

すると、グェルフィが青ざめながら告げる。

 

「来る……死の神が……死の神が現れるぞ!」

 

それは、何が出てくるかを知っているからこその恐怖。二度も見たくない、信じたくない、現実であってほしくない、そういう風に思おうとして──できなかった者のする恐怖の表情だと、グェルフィの様子を見た者達は思っただろう。

 

 

召喚(サモン)・アンデッド……』

 

 

映像の女は力強く召喚魔法を唱えているが、代読している兵士の声は僅かに震えてるいる。おそらく、兵士も先に解読する為に映像を見て、その先に映るものを見たのだろう。

 

女の周りに10つの魔法陣が出現する。

そこから現れたものを見た瞬間、クアイエッセが叫んだ。

 

「スルシャーナ様だ!あれは間違いなくスルシャーナ様です!」

 

スレイン法国の者なら誰でも知っている最も強き神の姿。

死を具現した姿は髑髏を基本として書かれる。それに僅かな皮を貼り付けた姿。漆黒のローブは闇と一体化するほど大きく、光り輝く杖を手にする。それが、経典に載る程語り継がれたスルシャーナの姿。

 

では、映像に映る髑髏はどうなのか?まさに語り継がれたスルシャーナの姿と同じである。

唯一違うのは、光り輝く杖を手にしていない事だが──召喚者である女の周りには、光り輝く財宝と様々な武器と共に──明らかに普通の物とは違う、豪華な装飾や宝石が組み込まれた杖が何本も交じっている。

 

 

最高神官長も、各神殿の神官長も、参加している六色聖典のメンバーも、その他様々の人物達──会議室にいた者達全員が息を呑んだ。

 

10体のスルシャーナ、即ち10体の死の神を──映像の女は容易く召喚した。

召喚された10体の死の神は、女に何か指示され、跪いて忠義の姿勢をとる。

そして──立ち上がると同時に、魔法を発動した。

 

そこで映像は終了した。

 

 

沈黙が流れる。

誰も何も発さない。

 

しばらく時が流れ──グェルフィが口を開く。

 

「この後、私の部下──大儀式を行っていた巫女姫と魔術師達、計25名が死んだ。頭が破裂してな……。第8位階の魔法による情報収集魔法をあっさり打ち破り、こちらに攻撃してきたのだ。向こうの魔法は第8位位階より上の魔法だと、判断してよいだろう…。」

 

そう言うと、グェルフィは再び黙った。

 

再び訪れた沈黙の中、隊長は再び報告書に目を通す。

報告書のある一行を再び確認する。

だが、それより先に、沈黙が破られる。

 

「デュラハンは神を召喚する──」

 

部屋の隅、そこにずっと、壁に寄りかかるように立っていた人物──その名は『絶死絶命』又の名を『番外席次』──スレイン法国で最強と言われている女。

 

番外席次が最高神官長の方へと歩み寄る。

 

「どうするの?この女……もしくはデュラハン?──は、神を召喚できる。そして従えさせてもいる。『陽光聖典』や『漆黒聖典』の戦闘記録、それに加えて怪物の襲撃……この全てがこの女の仕業なら、スレイン法国に勝ち目があるとは思えないけど?」

 

「なら、どうするのが1番良いのだ?」

 

問い詰められて困った最高神官長が、思わず聞き返す。

 

「決まっているじゃない。使者を送って味方に引きずり込むしかないんじゃない?向こうは冒険者をやってるんでしょ?まだ、人類の敵になった訳じゃないんだから、精一杯謝れば──機嫌を直してくれるかもよ?」

 

そう、まだチャンスはある。

国を存続させる為にはデュラハンと和解するしかない。

ドラゴンや魔獣、そして神を──この国にけしかけられたらスレイン法国は終わる。

それだけは回避しなければならない。

 

「す、すぐに使者の用意を──」

 

「要らないわ。」

 

番外席次が最高神官長の言葉を遮った。

 

「何故──」

 

「私が使者としていく。それと生き残りの『漆黒聖典』のメンバー全員と……貴方もよ、最高神官長。」

「わ、私もか!?」

 

「当たり前じゃない。国のトップと、デュラハンに迷惑をかけた当事者達が謝りに行かなければ、向こうは信じないわ。間違いなく、『自分達を国に呼び込んで始末しようという罠だ』と疑うわよ?」

 

番外席次の言葉は正論だ。

国のトップがわざわざ王都に来て謝りに来れば、スレイン法国が本気で謝罪しに来たという誠意が伝わるはずだ。

 

「そうなったら、デュラハンは怒るでしょうね。ドラゴンや神を国に差し向けられて、この国は終わり。」

 

最高神官長の顔が冷や汗で一杯になる。

 

「さあ、さっさと支度しましょ?時間は待ってくれないわ。フフフッ……」

 

そう言うと、番外席次は会議室を出る。

 

 

誰も気付かない。番外席次の本当の狙いを。

 

「待っていなさい、デュラハン。今、私から会いに行ってあげるから。そしたら──たっぷり殺し合いましょう。フフフッ…。」

 


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