首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

43 / 58
第8話 王都─その6

·

·

·

──『竜の宝』の拠点・闘技場──

 

 

「ふー……やっと一息つける」

「お疲れ様です、ご主人様」

 

ブラックから手渡された飲み物を飲みながら、『竜の宝』の〔デュラハンの勝〕兼〔補佐役のシロ〕は椅子にもたれ掛かる。

 

午前中にガゼフ達の鍛錬に付き合い、昼にガゼフ達に昼食をご馳走、その時王城にちょっかいを出していたヤマタノオロチの後始末と貴族達への自己紹介を終えた後、ガゼフ達と『蒼の薔薇』にも新しい名前を説明した。そのまま再び鍛錬に付き合い、夕方になってようやくガゼフ達は去って行った。

 

「……まったく……ヤマタノオロチのせいで、またややこしい役を増やすハメになった」

「申し訳ございません……」

 

シロが零した愚痴に、ヤマタノオロチが8つの頭を地面スレスレまで下げながら謝罪する。

 

「私の悪口くらい聞き流して構わん。今はまだ、全ての人間達から信頼を得ているわけではないからな。私達の事を悪く言う輩がいてもおかしくないのは当然だろうに……」

「はい……早計でした……」

「……はぁ〜……」

 

シロが吐くため息に、ヤマタノオロチがますます頭を低くする。

 

「(しかし、ヤマタノオロチが貴族を脅したのは、貴族達が私の悪口を言ってたからだったな。それが許せなかったから、あんな行為をした……。『私の為』にした行為を叱るのも後味が悪い……)」

 

うなだれているヤマタノオロチが可哀想に思えて罪悪感を感じたシロは、ヤマタノオロチに手招きして近づくように指示する。そうして近づいたヤマタノオロチの頭に優しく片手を当てて撫でてあげる。

 

「……とは言えだ──」

 

少しだけ恥ずかしそうな表情をしながらヤマタノオロチの頭を撫でるシロ。ヤマタノオロチの頭の一つ一つを丁寧に撫でつつ、そっとヤマタノオロチに耳うちする。

 

「──私の為にありがとな、オロチ」

 

シロから囁かれた言葉の意図を理解したヤマタノオロチが、全ての頭の先っちょをシロの体に擦り寄せる。

ヤマタノオロチからしてみれば、シロの体はとても小さい。うっかり押し潰してしまわないように、細心の注意をはらう。

 

いつまでも撫でてもらいたい──そう思わずにはいられない程、主人の手で撫でられる感覚が心地よかったヤマタノオロチは、シロが撫でるのをやめるまで、その感覚を堪能した。

 

 

 

 

ヤマタノオロチを充分に撫でてやった後、今日の残りの時間をどうしようかと思案するシロ。その時、不意に〈伝言(メッセージ)〉が送られてくる。

送信者はデミウルゴスである。

 

「私だ」

『─リュウノ様、お忙しい時に失礼します─』

 

別に忙しくしていた訳ではなかったが、デミウルゴスなりの気遣いだったのだろう。そんな事を思いながら、デミウルゴスの会話に再び意識を向ける。

 

『─捕虜の尋問が終了しました。スレイン法国に関する情報がある程度集まりましたが……今後の予定はどの様になさいますか?─』

 

捕虜からスレイン法国の情報を入手してから、スレイン法国に攻める時期を決める、そう伝えていた事を思い出す。

 

「……そうだな……一度ナザリックに帰還してから、集まった情報を確認させてもらうとしよう。できれば、アインズやウルベルトさんも呼びたいが……」

 

集めた情報の内容しだいでは、スレイン法国に攻め込むのを中止する事も考えなくてはならない。そういった判断は、用心深いアインズに任せるのが1番良い。

しかし、アインズ達も冒険者として活動している身だ。こちらの都合で連れ回す訳にもいかないのだが──

 

『─それでしたらご安心を。アインズ様とウルベルト様は既に、今日の冒険者活動を終えて帰還なさってます─』

 

──いらぬ心配だったようだ。

あの二人も交えて話し合うか。

 

「そうか。なら、二人にも伝えておいてくれ」

『─畏まりました。では、後ほど……─』

 

デミウルゴスとの〈伝言(メッセージ)〉が切れる。

シロは飲み物を一気に飲み干すと、ブラック達に留守番を命じる。

 

「(……1日くらいのんびりしたいなぁ……)」

 

人間の時に限って、ゆったりしようとするとイベントが起きる──そうな風に思いながら、私はレッドに転移の魔法を使用するよう命令を出したのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ナザリックに帰還したシロは、一旦体を洗う為に入浴を済ませ、黒い軍服に着替える。〔補佐役のシロ〕から〔人間のリュウノ〕へと切り替え、アインズの執務室に向かった。

 

アインズの部屋の前に着くと、伴っていた一般メイドが扉をノックし、部屋の中にいたメイドと確認を取り合っている。部屋の中に居るアインズに私が来た事を報告しているのだろう。そうして直ぐに扉がメイド達によって開かれる。

開かれた扉をくぐると、椅子に腰掛けたアインズとウルベルトさんが見えた。アインズの背後にはアルベドとシズ、ウルベルトさんの背後にはデミウルゴスとユリが立っている。

それと、部屋の扉の脇に当番メイドが2名。おそらく片方は、ウルベルトさんの担当のメイドだろう。

 

「お待たせー」

 

軽く手を振りながら部屋に入る。

 

「ご苦労様です、リュウノさん」

 

私が来た事を目視で確認したアインズは、普段の支配者らしい口調ではない、嬉しそうな声で労ってくれた。こっちも2、3日ぶりに会う為、アインズの声が懐かしく感じる。

一方、ウルベルトさんは、私と同じ仕草で返してくる。

 

一緒に入室した一般メイドと私の身辺警護に就いていたエントマは、扉の脇まで移動して待機状態になる。それを気配で感じ取りながら、アインズ達がいる場所へと移動する。

その時、部屋の天井や天井近くの壁から複数の気配が感じ取れた。姿は見えないが、数は7体。

 

天井に潜んでいる者達の正体は、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)と呼ばれる49Lvの虫のモンスターである。

人間大の大きさで、忍者服を来た黒い蜘蛛のモンスターであり、体を透明にする事ができる。

金貨消費の召喚で呼び出す事が可能で、ナザリックには15体がコキュートス配下で配置されている。そのうちの7体がアインズの身辺警護に就いている。

 

「(…毎度のことながら警備が厳重だな。アインズの部屋は…)」

 

そんな事を思いつつも、天井に潜んでいる者達を何事も無かったように無視しながら、アインズの方へ歩み寄る。

アルベド達やメイド達が、入室した私にお辞儀をするのを視界の端に捉えながら、アインズの隣に静かに腰を下ろす。

それを合図に、会議が始まる。

 

「では、デミウルゴス。捕虜から入手した情報を教えてくれ」

「畏まりました、アインズ様」

 

デミウルゴスが得たスレイン法国の情報は、主に軍部の戦力、国の社会、六大神に関する事などであった。

 

スレイン法国には、『六色聖典』と呼ばれる六つの特殊工作部隊が存在し、その部隊はスレイン法国が信仰する六大神と呼ばれる神達を信仰しており、神1人につき1部隊ごとで分けられている、との事らしい。

 

カルネ村で私を襲った部隊は、〔闇(死)を司る神・スルシャーナ〕を信仰している『漆黒聖典』と呼ばれる部隊であり、『六色聖典』の中では最強の部隊だったらしい。

漆黒聖典は本来、六大神が残した世界級アイテムの守護を基本任務としている部隊だそうだが、その世界級アイテムを使用して、世界の脅威になる存在の討伐・支配&確保も任務にしているという事らしい。

 

「世界級アイテム……これがもし、ワールドアイテムの事を指すのなら、『傾城傾国』以外のワールドアイテムもあるかもしれないな」

「その可能性は充分ありえますね。リュウノさんを狙った連中──漆黒聖典のメンバーが着ていた装備品も、かなりレア度が高いものばかりでしたし。ですが……──」

 

アインズが言おうとしている事は、なんとなく察しがつく。

 

スレイン法国はデュラハンを『世界の脅威になる存在』として認識し、漆黒聖典にデュラハンの討伐・支配を指示したのだろう。

しかも、世界級アイテム──ワールドアイテムを身につけた老婆を部隊に組み込んでまで。

 

これだけを見れば、スレイン法国がデュラハンをどうにかしようと本気で行動していたように見える。

しかし、拭いきれない疑問が一つある。それは──

 

「──…わざわざワールドアイテムまで持たせておいて、あの弱さが理解できません。私だったら、もっと強い下僕に装備させますね」

 

アインズの言う通りだ。ワールドアイテムを所持していた漆黒聖典は、100Lvのプレイヤーを相手にするには、あまりにも弱すぎたのだ。別の言い方をするなら、『装備品だけは強かった』である。

自分が重傷を負ったのも、奴らの隊長が持っていた武器の特殊性能によるものだ。

油断していたとはいえ、あそこまでダメージを受けるとは思ってもいなかった。

 

「同感ですね。あれをナザリックで例えるなら、プレアデスにワールドアイテムを持たせてる様なもの。みすみすワールドアイテムを敵に渡しに行くような……そんな馬鹿な真似をプレイヤーがするでしょうか?」

 

ウルベルトさんの疑念は最もである。

 

スレイン法国が神と崇める『六大神』──それが仮にプレイヤーだと考えるなら、スレイン法国には最悪6人のプレイヤーが居る事になる。集団で居る事から、我々と同じようにギルドごと転移した可能性が高い。

 

ワールドアイテムまで所持しているプレイヤー集団となれば、生半可な相手ではないはずだ。そんな奴らが、こんな間抜けな作戦をとるとは思えない。

 

「……その六大神ですが──」

 

ウルベルトの疑念に答えるべく喋りだしたデミウルゴスに、支配者3人の視線が集まる。

 

「──捕虜からの情報では、その六大神は600年程前に現れたそうです。そして、6つの神の内……5つの神は、500年程前の時代の時点で既に死んでいるそうです」

 

「「「500年前!?」」」

 

リュウノも含め、アインズとウルベルトが驚愕の表情を浮かべる。

 

「これはまた、厄介な情報が入ったなぁ……」

「六大神がプレイヤーなら、我々とは違う時間軸に転移したプレイヤーが他にも居るという事が……──」

「……なるほど。だから神として崇拝されて……──」

 

リュウノは天井を仰いで嘆き、アインズは顎に手を当て思考の世界へ、ウルベルトは腕を組みながらブツブツと呟く。

 

ナザリックの支配者達が独自の反応を見せていた時、アルベドがデミウルゴスに質問を投げかける。

 

「それでデミウルゴス、残りの1神はどうなったの?」

 

アルベドの質問の内容を聞いて、アインズ達は我に返り、再び会議に集中する。

 

「残りの1神ですが……なんでも、他の神々が寿命などで死にゆく中、その神は生き続けていたそうです。が、八欲王と言う者達によって500年程前に殺害された……あるいは放逐された等、諸説あるそうです」

「諸説ある?死んだかどうかハッキリしていない、という事か?」

「はい。捕虜の話では、最後の1神は〔死を司る神・スルシャーナ〕という名前のアンデッドだそうです。特徴としましては──」

 

デミウルゴスがスルシャーナの特徴を述べていく。

 

スルシャーナは、闇と一体化するほど大きい漆黒のローブを纏い、光り輝く杖を持った、髑髏に僅かな皮を貼り付けたような姿らしい。

 

その特徴を聞いた時、リュウノとウルベルトがアインズを見つめる。

 

「……いや…まさかね?」

「……ふむ…ないとも言えませんが……」

「……な、何でしょうか?二人とも私を見て……」

 

アインズを見つめた後、なんとも言えない表情で互いに見つめ合うリュウノとウルベルト。その二人の仕草を不思議に思うアインズは、困惑した雰囲気で二人を交互に見ている。

 

リュウノが想像したのは、スルシャーナがアインズと同じ『死の支配者(オーバーロード)』という種族なのではないか、という考えだ。

ユグドラシルにはたくさんのプレイヤーが居る。自分達と同じ種族のアバターでプレイしていたプレイヤーが居てもおかしくはない。

それだけではない。装備品も、用途や目的によってバランスや性能を重視していくと、同じ装備品になる場合もあるのだ。

 

アインズの装備品のほとんどは神器(ゴッズ)級であり、簡単に真似できる様なものではない。

しかし、外装のデータクリスタルを弄れば、性能はともかく外見だけでも真似る事は可能なのだ。

 

ギルド・アインズ・ウール・ゴウンは大手掲示板サイトに『DQNギルド』として載る程、ユグドラシルでは有名なギルドだった。ギルドメンバーのほとんどが、裏掲示板などに画像付きで装備品が勝手に晒されていたりする程だ。

 

それらの情報を元に、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーの種族や装備品を真似するプレイヤーも居たりしたのだ。

また、それを利用し、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーに、あらぬ罪をきせる模倣プレイヤーも居たりしたものだ。

無論、こちら側も似たような事をやって、敵ギルド同士を仲間割れさせたりする戦略もやってはいたが。

 

「その死を司る神がアインズさんと同じ種族かもしれない、そう思っただけですよ」

「な、なるほど……私と同じ……」

 

困惑していたアインズが、ウルベルトさんからの説明を受け、納得する。

その時リュウノが「あ、そうだ!」と声を上げる。

 

「いい事を思いついた!捕まえたスレイン法国の捕虜に、アインズの姿を見せればいいんじゃね?それでもし──」

「なるほど!」

「流石リュウノ様!」

 

頭の中で思い付いた事を語ろうとしていたリュウノの言葉を、デミウルゴスとアルベドの二人が突如、声を発し遮った。

アインズとウルベルトは、「また始まったよ…」と言わんばかりの様子でデミウルゴス達を見ている。

デミウルゴス達の反応に、リュウノは訳が分からないままである。

 

「──え?」

「リュウノ様の素晴らしきご推察…このアルベド、しかと理解しました」

「──は?」

「たったあれだけの情報で、そこまでお考えになられるとは……このデミウルゴス、感服せざるを得ません!」

「──ちょ、何を言って……!──」

 

勝手に深読みし、勝手に納得するNPC二人。二人がどんな考えに至っているのか、まったく分からないリュウノは、二人に質問してどんな風に解釈したのか尋ねたかった。のだが──

 

「ほう!お前達も、私達と同じ考えに至ったか!流石はナザリックの知恵者二人だ!」

「──は?!」

「デミウルゴス、アルベド、お前達が辿り着いた考えが、私達と同じものかどうか確認したい。念の為、説明してくれるかな?」

 

アインズとウルベルトの華麗な連携プレーが炸裂する。

 

アインズとウルベルトにとって、デミウルゴスやアルベドが勝手に深読みして、とんでもない考えに至るのは、最早いつもの事となりつつある。

その際、至高の御方であるアインズ達も同じ考えに至っていると、デミウルゴス達は勝手に解釈するのだ。当然、支配者として君臨しているアインズ達は、その評価を落とさないように振る舞わないといけない。

自分達が理解できていない事を悟られないように、知ったかぶりを演じる技術を鍛えたアインズ達は、毎回この手で切り抜ける技を身につけたのだ。

 

今回も、支配者としての評価を落とさないように知ったかぶりを演じ、NPC達のリュウノへの評価を保持&デミウルゴス達の考えを探るという華麗な技を瞬時にやりこなしたのだ。

 

だが、肝心のリュウノは理解できていない。

スルシャーナがアインズとそっくりなのかどうか、スレイン法国の捕虜に確認したかっただけという、単純な思い付きを言いたかっただけだったのだが、アインズ達のせいで勝手に話が進んでしまったのだ。

しかも、自分だけが置いてけぼりにされているような感覚を味あわされた気分である。

最早聞き返すタイミングを逃したリュウノは、仕方なく話の流れに合わせる事にした。

 

「では、失礼ながら言わせていただきます。(わたくし)の考えとしましては──」

 

デミウルゴスの考えを短くまとめると、スレイン法国が信仰している〔死を司る神・スルシャーナ〕をアインズに置き換え、そのまま神に仕立て上げるという考えであった。

アインズがこの異世界で神として認知されれば、多くの人間達がアインズに平伏すだろう。そうデミウルゴスは思っているらしい。

 

アルベドも似たような考えに至っており、アインズが神として認知されれば、スレイン法国の神として、スレイン法国を支配できるのではないかと思っている。

 

「フフッ……流石、ナザリックの知恵者二人──」

 

ウルベルトは、自分に妙な役が舞いおりずに済んだ事にホッと安心する。そのまま話を流して、知ったかぶりを演じる。

 

「──私とアインズさん、そしてリュウノさんの我々3人の考えを即座に理解するとは!」

 

褒め称えるウルベルトの言葉に、「ありがとうございます」と言いながら頭を下げる知恵者二人。

 

「oh......」

 

対して、とんでもない大役をやらされる事を理解したアインズは、知ったかぶりを演じた自分を後悔していた。知ったかぶりを演じた事で、自分自身もその考えを実行するつもりでいたと、NPC達の前で宣言したのと同じ状況をつくってしまったのだ。

無論、スレイン法国の人間達の前で神の演技をやる自信も覚悟もなかったアインズは、不安な気持ちでいっぱいいっぱいである。

 

一方リュウノは、そんなアインズの気持ちなんぞそっちのけで真面目に話を進める。

 

「アインズを神にするのは別に構わんが──」

 

リュウノの言葉に、アインズが「(えっ?!構わないの?!)」という驚きを見せるが、骸骨の顔だった為、誰にも気づかれない。

 

「──スレイン法国の捕虜の反応をまず確かめるべきだろ?デミウルゴス、捕虜の様子はどうだ?覆面男と…えーと、そう!クレマンティーヌだったか?あの二人は無事なんだろうな?」

 

覆面男の尋問はアインズとウルベルトがやる事になっていたので、問題はないだろう。

しかし、クレマンティーヌの尋問はデミウルゴスに任せてある。悪魔であるデミウルゴスがまともな尋問をするはずがないと、リュウノは理解している。

拷問など、痛みをともなうやり方で吐かせたに違いないと予想していた。

 

だが、結果は意外な結末だった。

 

申し訳なさそうにアインズが報告したのは、覆面男が尋問中に死亡したという結果だった。

何故死んだのか問うと、覆面男には対尋問用の魔法が施されており、特定の条件下──例えば、拘束状態や支配の魔法などで無理やり情報を聞き出そうとした場合、三回質問に答えると即死する魔法が付与されていたのだ。

 

これにより、覆面男からの情報引き出しは不可能になった。だが、もう1人の捕虜──クレマンティーヌには、対尋問用の魔法は施されていなかった。その為、クレマンティーヌからスレイン法国の情報を聞き出す事になったらしい。

 

つまり、今まで出たスレイン法国に関する情報のほとんどは、クレマンティーヌから聞き出した情報という事だ。

 

デミウルゴスが、クレマンティーヌに関する結果を報告し始める。

 

「あの人間ですが……拷問部屋に飾ってあった様々な拷問器具を見て怖気付いたようでして、拷問前からありとあらゆる情報を吐いてくれました」

「そうか。なら、クレマンティーヌは拷問を受けてないのか?」

「いえ、嘘をついている可能性もありましたので、全ての情報を喋ってもらったのち、拷問にかけました」

「(やっぱり拷問したのかw)」

 

予想はできていたが、デミウルゴスの判断は間違いではない。

あらゆる作戦において、情報はとても大切である。どれが真実で、どれが偽物かを見極める必要がある。嘘の情報に踊らされない為にも、念入りに情報を集める必要がある。

 

「どんな拷問をしたのかな?教えてくれ、デミウルゴス」

 

デミウルゴスの拷問内容が気になったのか、ウルベルトが詳細を聞きたがる。

 

リュウノとしては、あまり聞きたくない内容ではある。

しかし、そのリュウノの気持ちに反して、悪魔二人の顔は、まるで面白い話を聞くような笑みで満ちている。

 

「はい。まず1日目ですが、女性用拷問・初級コースから始めました」

「拷問に女性用とかあるの!?」

 

いきなりやばそうなワードが出てきた事に、リュウノは嫌な思いにかられる。

 

「まず、爪を剥ぎ取る拷問から開始しました。人間には爪が20個あります。1枚剥ぐ度に、『やめて、やめて』と泣き叫ぶ彼女の顔はとても素晴らしいものでした」

「うわぁ……」

 

拷問の様子を想像する。きっとデミウルゴスは、泣き叫ぶ彼女を見て、楽しそうな笑みを浮かべていたに違いない。

 

「爪を剥いだ後、熱湯に指先を浸す拷問、指先を火で焼く拷問、指先をハンマーで叩き潰す拷問などを行いました」

「指先ばかり攻め過ぎだろ!しかも、だんだんエグくなってるし!」

「初級コースですので☆」

「初級って、そういう意味かよ!」

 

 

 

「それでデミウルゴス、中級コースはどんな拷問なのかな?」

「聞かなくていいよ!」

「はい。2日目の中級は、指先だけではなく、身体全体に痛みを与える拷問になります」

「うわぁ……ここから本格的なヤツか…」

 

「まず──熱々に熱した鉄棒の先端を、うち太もも、二の腕の内側の肉などに押し付ける拷問から始めました」

「いきなりエグい!」

 

「次に──脇や膝裏、脇腹や下乳にも押し付けました」

「痛い痛い!絶対痛い、それ!」

 

「最後は、女性器に差し込み──」

「やめてぇぇ!それ以上は言わないでぇぇ!」

 

 

 

 

「それでデミウルゴス、3日目の上級コースはどんな拷問なのかな?」

「なんで嬉しそうなんだよ!お前は!」

「はい。肉体へのダメージだけでなく、精神にもダメージを与える拷問になります。」

「精神にも……?」

 

「まず、エントマと恐怖公に協力を仰ぎ──」

「あー、もうダメだ。予想ついた……」

「──ゴキブリ、ムカデ、ゲジゲジ、ヒル、ミミズなどの害虫がたっぷり入った大きな箱の中に、捕虜を縛ったまま放り込みました」

「ヒェェー……私だったら、これで精神が壊れてるわ……」

「捕虜には、気絶と睡眠防止の魔法を付与してから放り込みましたので、1秒たりとも無駄なく虫地獄を味わってくれた事でしょう!」

「なんという……」

「あ!物理的にも味わえるように、口が勝手にムシャムシャする魔法も付与しました。」

「いや、酷すぎでしょ!」

「いやぁ〜……彼女の口が虫達を噛み潰す時の音と、その感触を感じて絶叫する彼女の悲鳴は……はぁ〜……最高の芸術でした……」

「最早、情報を聞き出すつもりがねぇよ、この悪魔!」

 

 

 

「──という訳で、一応捕虜は無事です☆」

「いや、精神的に死んでるでしょ、それ?!」

 

おぞましい程の数々の拷問に、捕虜が耐えきったとは思えない。逆に、それだけの拷問を受けて耐えていたら、クレマンティーヌの精神が凄まじく強い事になる。

 

「ひとまず、捕虜は無事という事ですし、後でアインズさんと会わせましょう。拷問の結果、得られた情報はありましたか?デミウルゴス」

 

拷問の話を楽しそうに聞いていたウルベルトが、結果の報告を尋ねる。

 

「はい。スレイン法国には、最強と呼ばれる女が居るそうです。名を──『絶死絶命(ぜっしぜつめい)』と、言うそうです」

「ぜっしぜつめい?何だか中二病臭い名前だな……」

「プレイヤーか、もしくはNPCである可能性が高いですね。要注意人物にしておくべきでしょう」

 

その後、スレイン法国に関する情報が幾つも報告されたが、目を引く内容はあまりなかった。

話し合いに夢中になっていたせいか、気付けば時刻は夜の9時。三時間以上も語り合っていた。

 

アインズやウルベルトと違い、人間であるリュウノは疲労する。それに夕飯もまだである。

 

「すまん、腹が空いた。私はもう抜けるから…二人とも、後の事は任せていいか?」

「ええ。大丈夫ですよ、リュウノさん」

「デミウルゴスの魔王軍の強化も、もう少し時間が欲しいですし。焦る必要もありませんから、のんびりしてていいですよ」

「ありがとう。んじゃ、お疲れ様」

「「お疲れ様です」」

 

 

部屋から出て、欠伸をしながらナザリックの食堂を目指すリュウノ。

時間的に遅いが、ナザリックの支配者の1人である自分が空腹だと言えば、料理長は喜んで作ってくれるだろう。

 

そんな事を考えていたリュウノに突如、ブラックから〈伝言(メッセージ)〉が入る。

 

『─ご主人様、来客が来ました。いかが致しましょう?─』

「相手は誰だ?」

『─昼間訪れていた、クライムという人間です─』

「用件は?」

『─ラナー王女が、()()()に会いたいとの事で、王城に来て欲しいと……─』

「ラナー王女が?」

 

こんな時間に何故?という疑問符を浮かべながら、リュウノは考える。

 

「(行くべきだろうか?罠という可能性も…。しかし、よりにもよって王女からの申し出……断る方が失礼か……」)

 

返事を待つブラックに、リュウノは告げる。

 

「わかった、すぐ行く」

『─畏まりました─』

 

お腹が食事を要求してくるが、王女を待たせる訳にもいかない。

リュウノは渋々と、レッドに〈転移門(ゲート)〉を繋げるように命令するのだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。