首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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第11話 悪魔は夜空でため息を吐く

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「……はぁ〜……今日はとことんついてないなぁ〜……」

 

 そんな愚痴を零しながら、リュウノは王都の上空を飛んでいた。

 

 時刻は深夜。

 どんよりとした雲に覆われた王都の上空。

 下を見れば、王都の街灯が星のように見える程の高さ。

 

 何故そんな所に居るのかと問われたら、答えは1つ。

 

 ──1人で考え事がしたかったからだ。

 

 一度拠点に戻り、王女達との会談ででた案件をどうするか検討しようとした。だが、竜王達が周りに居ると、何故か気が散ってしまい、集中して考え事ができなかったのだ。

 なのでウロボロスと合体し、王都の上空で考える事にした。空の上なら、静かに考え事に徹する事ができると思ったのだ。

 軍服を脱いで夜風にあたれば気持ちいいかもしれない──そんな思いを胸に抱きながら空へと飛んだ。

 

 しかし、王都の空は生憎の曇り空。しかも、今にも雨が降りそうな雰囲気である。

 雲の上に行こうか迷うが、ユグドラシルでの経験を思い出し、やめる。

 

 地上から空にいる敵を狙撃する行為は、狙撃系の職種を持ったユグドラシルのプレイヤーなら朝飯前の事だ。

 たとえそれが濃い雲に隠れた対象であっても、100Lvのプレイヤーならそれを悠々と撃ち抜く技量を持っている。

 

 だからこそ、撃たれる側は見通しの良い状態で飛行し、狙撃してきた相手の位置を把握しなくてならない。少なくとも、同じ狙撃職を持つ自分はそう考える。

 

 例えばだ。

 君が森の上を飛行していたとしよう。

 すると突然、地上から狙撃されてしまった。

 

 すると君は、次にある行動を取るはずだ。

 

 1つは敵の捜索だ。撃ってきた相手の位置を特定し、応戦する。もしくは防御行動に移り、敵の攻撃に耐えながら突破を試みる。

 

 二つ目は、身を隠すなどの回避行動を取る事。

 下降し森に降りる。上昇し雲に隠れる。

 

 森に降りるのはアリだ。敵もこちらを見失う。しかも障害物が増える事は、自分を守る盾が増える事にも繋がる。

 しかし、雲の上は危険だ。既に敵に見つかっているのに、何もない空に上がるのは恰好(かっこう)(まと)になるのと同じだ。

 

 雲に隠れれば大丈夫? それは間違いだ。

 狙撃系の職種には、スキルで相手の位置を特定するものや、常にターゲティングを行えるスキルが存在する。雲に隠れた程度では防げない。

 しかも、雲に隠れた側は、相手の位置が見えなくなるというデメリットを背負う事になる。

 その為、そのデメリットを理解した時にはもう遅い。転移の魔法か、何らかの対狙撃用の防御手段を持っていない限り──地上の森に降りる前に撃ち抜かれて終わる。

 だからこそ、森に隠れた方が安全だ。

 

 狙撃職にとって、狙撃対象の前に障害物があるのは大変困る。

 特に森は非常厄介である。形が決まっていない、位置も決まっていない、そんな大量の木々が対象を隠すのだから。

 ハッキリとした場所を把握せずに銃を乱射すると、銃声で自分の位置を相手に教えてしまう危険性がある。

 また、場所によっては敵に近付こうとしていた味方を背後から撃ってしまう事もありえるのだ。

 

 そういった──狙撃手が迂闊に手を出せない──状況を作り出す。狙撃手を相手にする者達はコレを心掛けるべきなのだ。

 

 狙撃手には二種類のパターンがある、

 

 ①待ち伏せタイプ

 

 特定のポイントに身を潜め、獲物が来るのを待ち、気付かれる前に仕留める戦法だ。

 これの大前提は、獲物に自分の気配を覚らせない事だ。ある意味暗殺と同じだが、距離が遠い分、発見されにくい。相手がこちらを発見していないなら、更に継続して狙撃が可能なのが利点だ。

 

 欠点としては、頼れる味方が近くに居ない、相手が集団だと囲まれる、と言った部分だろう。

 

 

 ②援護・後方支援タイプ

 

 前衛の味方とチームを組み、前衛の背後から敵を狙撃する戦法だ。

 前衛に気をとられた敵を狙い撃つ。或いは遠くの敵から撃ち抜き間引く事で、前衛の負担を減らす。という、パーティー戦術でよく見られるやり方だ。

 同じ支援系の魔法詠唱者(マジックキャスター)が居れば、更に安全な狙撃が可能なのも強みだ。

 

 欠点としては、チームで移動するので速度が遅い、仲間が居るせいで隠れる戦法が使えない、と言った部分だろう。

 

 

 では、この異世界──王都ではどうだろうか? 

 まず、100LvのプレイヤーやNPCの存在は、現時点では確認できていない。無論、相手側が巧みに隠れている可能性もあるし、こちらがまだ見つけていないだけという事も有り得る。

 

 仮に居たと想定した場合、今のように空を飛ぶ行為は危険ではないか? と、思うだろう。

 油断している訳ではない。ただ単純に──狙撃されても大丈夫だから飛んでいるのだ。

 理由は明白。ウロボロスが持つ特殊スキル〈死と再生〉と〈全知全能Lv2〉があるからだ。

 即死耐性に肉体の高速治癒能力──少なくとも、一瞬で死ぬ可能性はない。時間さえ稼げればこっちのもの。敵を探す、身を隠す、どちらも実行可能になる。

 そして、自分も同じ狙撃職を持つ者だ。最適な狙撃ポイントなど、即座に理解できる。

 それに加え、ドラゴンという種族が持つ基本スキル〈ドラゴン・センス〉により、より正確な位置特定が可能なのだ。

 敵の場所が判明すれば、モンスターを召喚して盾にするなり攻撃するなり、様々な戦術が使える。

 

 

 

 だが──しかしである。

 今の自分は竜王と合体した存在だ。つまりドラゴンだ。

 そんな自分に──ドラゴンという存在に攻撃する者は二種類しかいない。

『ドラゴンを恐れない強さと勇気を持つ者』か、『死ぬ覚悟がある者』か、この二つだ。

 前者は実力の話。後者は──心の話だ。

 

 弱い生き物達はドラゴンに手を出したりはしない。勝てないと理解しているし、何より死にたくないからだ。

 なのにドラゴンに手を出す。その行為は──ドラゴン達からしてみれば、『殺してよい』という意味で解釈される。

 

 そう──相手が自分をドラゴンだと認識して攻撃した場合ならばだ。

 

 では、そうでない場合は? 

 

 そう──例えば、悪魔と勘違いして攻撃してきた場合はどうなるか? 

 

 悪魔となった自分は、どう解釈すれば良いのだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「相変わらずお美しい……」

「……そうですね。私も少しばかり羨ましく思ってしまう程です」

 

 遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を覗きながら、ゆったりと椅子に座るウルベルト。その背後にはデミウルゴス。

 2人は鏡に映る人物──ウロボロスと合体したリュウノを見ていた。

 

 リュウノと王女達との会談が終了した後、ペロロンチーノは再びクレマンティーヌ達とネコちゃんごっこを楽しむ為に退室した。

 部屋の主──アインズは、自分のデスクでナザリックの執務をやりつつ、アルベドと今後の方針に関する話し合いをしている。

 

 そしてウルベルトはというと、焦る様子もなくゆったりと飲み物を飲みながら、デミウルゴスとスレイン法国をどう蹂躙するか話し合っていた。

 のだが──つけっぱなしにしていた遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)に、ウロボロスと合体したリュウノが映った事で、話し合いは脱線していた。

 王都の曇った夜空で、紫色の禍々しいオーラを身体から噴き出しながら、1人で浮遊し考え込むリュウノの姿を見ながら悦に浸る悪魔の二人組。

 

「そう言えば……ウルベルト様、リュウノ様に()()をお渡ししてもよろしいでしょうか?」

 

 そう言いながらデミウルゴスが取り出したのは、デミウルゴスがヤルダバオトを演じた時に装着していた仮面だった。

 

「おやおや……奇遇ですねぇデミウルゴス」

 

 何か閃いた──と、言わんばかりの雰囲気を出すウルベルトの様子に、デミウルゴスは興味をそそられる。

 

「実は私も、リュウノさんに渡したい物があるんですよ」

「それはそれは! どの様な物なのでしょうか?」

「……秘密です☆」

 

 ニンマリと笑いながらはぐらかす自分の創造主に、デミウルゴスは感激せずにはいられない。

 自分の創造主が見せる邪悪な笑み、それを間近で見る事ができて喜ばない下僕がいるだろうか? 

 

「リュウノさんに渡す物を用意してきます。デミウルゴス、貴方はリュウノさんを見ていて下さい」

「畏まりました、ウルベルト様!」

「アインズさん、私は少し用事ができたので失礼します」

「あ、はい! お疲れ様です、ウルベルトさん」

 

 友人に話しかけられてうっかり支配者モードを忘れ、素の口調で返すアインズ。

 

 本来なら、ギルド長であるアインズは1番偉い立場である。しかし、アインズはどんな時でもギルドメンバーに対しては対等な存在──友として、仲間として接してくれる。

 そんなアインズだからこそ、ウルベルトはアインズがギルド長である事を嬉しく思う。

 どこまで行っても、何年経っても、この人は変わらない。そういう安心感があるのだ。

 

 そんな事を思いながら、ウルベルトはアインズの部屋を出て行くのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 約15分後、再び部屋に戻ってきたウルベルトを待っていたのは、仮面をつけたデミウルゴス──ヤルダバオトと三魔将だった。

 

「おや? 何故、三魔将まで居るのですか?」

 

 三魔将はウルベルトが金貨召喚で生み出した悪魔達の事である。全員Lv80台であり、普段はナザリックの第七階層──デミウルゴス直轄の親衛隊として、赤熱神殿の周辺警護させている。

 

 ①強欲の魔将〈イビルロード・グリード〉

 腹部の開けた鎧を纏い、頭部には二本の角、後背部には翼がある。

 

 ②嫉妬の魔将〈イビルロード・エンヴィー〉

 烏の頭部にボンテージを纏った女の肉体をしている。

 

 ③憤怒の魔将〈イビルロード・ラース〉

 悪魔のイメージそのままの炎を身に纏ったモンスター。体は鱗に覆われ巨腕には鋭利な爪がある。

 

 

 親衛隊を引き連れている事に疑問を感じたウルベルトに、ヤルダバオトは深くこうべを垂れながら理由を説明する。

 

「念の為でございます。王都にも、プレイヤーと関係を持つ者達が居ます。それに、リュウノ様が瀕死の重症を負うという事態もありましたので、もしもの時の用心にと思いまして」

 

 つまり護衛という事か──そう納得したウルベルトは、今からリュウノに会いに行く事をアインズに告げる。

 

「構いませんが……問題を起こさないで下さいね、ウルベルトさん」

「デミウルゴスが居ますから大丈夫ですよ」

 

 不安そうに心配するアインズに対し、気楽な調子で返したウルベルトは〈転移門(ゲート)〉の魔法を発動し、〈転移門(ゲート)〉を潜った。

 

 

 (ゲート)を潜った直後、目の前に広がったのは王都の上空……ではなく──

 

「動くな!」

 

 拳銃を構えたリュウノの姿だった。突きつけられた銃口は、ピタリとウルベルトの頭に狙いを定めている。

 

「──おっと……!」

 

 突然の事に驚いたウルベルトは身体を硬直させ、自然な動きで両手を上げる。

 背後から、同じかたちで(ゲート)を潜って顔を出したヤルダバオトの息を呑む声が聞こえた直後、リュウノが武器を下ろした。

 

「……まったく、いきなり目の前にゲート(転移門)を出現させるな。驚くだろうが! せめて一言、伝言(メッセージ)くらい送って来い!」

 

 敵ではない事に安堵する表情をしたのも束の間、イライラした雰囲気に変わったリュウノがウルベルトに文句を言う。

 

 確かに、連絡が何もないまま、いきなり目の前に転移門(ゲート)が出現したら、警戒するのは当然の成り行きだ。リュウノが武器を構えるのも頷ける。

 

「これはこれは! すみません、リュウノさん。うっかりしてました」

 

 これっぽっちも悪いと思っていなさそうな謝り方で謝罪するウルベルトに、リュウノは方を落とす。

 

「……はぁ〜……。我が一度、奇襲にあって死にかけた事はウルベルトさんも知ってるだろ? もう少し、こちらの気持ちも考えて行動してほしいものだ」

「そうでしたね。()()()()努力してみます」

「なんでだよ! 今しろ! 今!」

 

 自分のおふざけに的確なツッコミを容赦なく繰り出してくれるリュウノを見て、ウルベルトは心が踊る。

 下僕達に同じようなおふざけをしても、おふざけだと理解してもらえなかったり、ありのまま受け入れたりしてつまらないのだ。

 

「……で? 何しに来たんだ、()()()?」

 

 おそらくだがリュウノは、デミウルゴスがつけている仮面、後から(ゲート)を潜ってやって来た三魔将を見て、ウルベルトの立ち位置を把握したのだろう。ウルベルトの呼び名をさらりと言い換えた。

 

「渡す物がありましてね」

「渡す物?」

 

 ヤルダバオトがリュウノに仮面を渡す。

 

「今後の()()()()にご使用ください。顔を隠す事で正体がバレにくくなるでしょう。それと! 装着した際に、多少ですが声が変化する魔法を付与してあります」

「ふーん……」

 

 受け取った仮面を裏表にクルクル回すリュウノ。仮面を怪しんでいるのか、装着しようとしない。

 

「……装着したら洗脳されたり呪われたりしないだろうな?」

「大丈夫ですよ、リュウノさん。装着したら、人を殺したくなる呪いとか、自我を失い狂戦士になる呪いとか、仮面が外れなくなる呪いとか、私の事が好きになる呪いとか、そんなお茶目な呪いは付与してませんから」

「最初の二つをお茶目と言い切るな! 後、ほとんどが洗脳する気まんまんじゃねーか!」

 

 やはり楽しい──無論、リュウノをからかう事が楽しい訳ではない。

 リュウノもそれを理解しているのか、なんだかんだ言いながら仮面を装着している。

 

「……どうだ?」

 

 少しだけ声が低くなったリュウノが感想を求めてくる。言い方次第では男にも思える声質だが、今のリュウノの格好では女性だと丸わかりである。

 黒のタンクトップとスパッツのみ──そんな格好で野外にでれば、人間の姿なら痴女だと勘違いされるだろう。

 しかし、ウロボロスと合体した竜人形態でなら話は別だ。悪魔の様な見た目であれば、その格好も違和感がほとんどない。

 これでタンクトップではなくボンテージを身につけていれば、嫉妬の悪魔(イビルロード・エンヴィー)と並んで、いい絵になった事だろう。

 

「……目が見えなくなるのが少し残念ですが、悪魔らしさは増したと思いますよ」

「ホントかー?」

「はい。実に似合っております、リュウノ様」

「……うむ。まぁ、ヤルダバオトが言うなら大丈夫か……」

「おやおや……私だけでは信用ならないのですか?」

 

 ウルベルトの問いかけに対し、まるで仮面の下でニヤついているように感じられる雰囲気でリュウノが答える。

 

「悪魔の言葉は半信半疑で聞けと言われているからな。それにヤルダバオトは我に向かって冗談を言う様なヤツじゃないし」

「ヤルダバオトも立派な悪魔ですよ? 悪魔を信用し過ぎるのは危険ですよ、リュウノさん?」

「我は忠誠を誓う部下を信用しただけだぞ? 逆に、忠誠を誓う部下を信用するなとは、酷い魔王様だな」

「……おっと、そうきますか。ふむ……」

 

 皮肉を言われ、何か自分も言い返そうかと考えこむウルベルトに、リュウノがおいうちをかける。

 

「残念だが……"ギルドメンバーを信用しないのですか? "は意味がないぞ? そもそも我に悪魔らしさなんぞ必要ないからな。似合っていようが似合っていまいが、どっちでもいいしな」

 

 これは敵わないな──と、ウルベルトは知略戦を諦める。

 ウロボロスの所持スキルである全知全能を持つリュウノの前に、創り出した自分でさえ驚く程の知略を持つデミウルゴスが居るのだ。

 リュウノがデミウルゴスを参考にして知略を得ているのであれば、頭脳戦で勝てる訳がないのだ。

 

 

「──それで? まだ何かあるのだろう、魔王様?」

 

 既に見透かされているのか、リュウノはウルベルトの目的もわかっているようだ。

 

 ウルベルトがポケットから数枚の書類を取り出し、リュウノに渡す。

 渡された書類を開き、書かれた内容に目を通していく。

 

 1枚目は──『ソロモン72柱の悪魔』

 

 というタイトルが書いてあり、用紙いっぱいに悪魔の名前と悪魔達の特徴がズラズラと書いてある物だった。

 

 

 2枚目は──『魔界と地獄の住人』

 

 というタイトルであり、有名な悪魔や邪神、堕天使に魔神に死者などの名前が書いてある。

 

 3枚目は──『オリジナル』

 

 というタイトルで──おそらくだが、ウルベルトが個人的に考えた名前と、その名前に似合った細かい設定がビッシリと幾つも書いてある。

 

 それらに目を通しながら、リュウノが発した第一声が──「何これ?」──である。

 

「悪魔活動の際に、リュウノという名前では色々とまずいかなと思いまして。リュウノさん用の"悪魔っぽい名前"と設定を考えてきました。参考にでもなればと思いましてね」

「参考にって……要するに偽名と(やく)を考えろって事か?」

「そうですね。仮面と偽名を使う事で、後々、いろんな言い訳ができますからね」

「言い訳ねぇ……」

 

 

 悪魔に連れ去られたリュウノが悪魔達の悪事に加担した場合、例えどんな理由があろうと、被害にあった人達や国から後々責められる可能性は充分ありえる。

 

 しかし、仮面と偽名を持つ事で、リュウノが悪事に加担した証拠を減らせるのだ。場合によっては、洗脳されていたという言い訳も可能になる。

 

 しかしだ。参考にしようにも、どれもしっくりくるものがない。特に、ウルベルトの『オリジナル』の名前とキャラ設定は、あまりにも厨二臭いものばかりであり、正直に言うなら破り捨てたいくらいだった。

 

「ヤルダバオト、お前ならどれをオススメする? 私にピッタリな名前を選んでくれ」

 

 手っ取り早く決める方法としてヤルダバオトに尋ねる。

 自分自身は悪魔ではない為、本物の悪魔に選んでもらう方が効率がいい。

 

 書類を受け取ったヤルダバオトが、ざっと目を通していく。

 

「どれも素晴らしい名前ではありますが……やはり私はウルベルト様のお考えになられた『オリジナル』の中にある──」

「(よりにもよって『オリジナル』の方かよ!)」

 

 デミウルゴスに選ばせたのはマズかったか!? ──と、後悔の念が募る。

 よくよく考えれば、ウルベルトによって創造されたデミウルゴスが、自分の創造主と同じ趣向になるのは当然の成り行き。つまり、ウルベルトがカッコイイと感じたものは、デミウルゴスもカッコイイと思ってしまうのだ。

 

「──『マドュニオン』が1番のオススメでしょうか?」

「『マドュニオン』? そんなのあったか?」

「はい。こちらに……」

 

 リュウノが、デミウルゴスが指さす項目を閲覧する。

 

 

『マドュニオン』〔魔王の花嫁〕

 

 魔王と交わりし魔女。もしくは、魔王と契りを結んだ魔女の事。

 魔王への賛辞となる花束(マッドブーケ)と、魔なる魅力を放つその素顔を覆い包む聖布(ブラックヴェール)、そして貞操帯を身に付けた格好をしている。

 

 しかし、貞操帯を身に付けているとはいっても、彼女たちには性別と呼ばれるものは無い。魔王との契約の代償として、性別(性器)を奪われているからである。

 それ故に、彼女たちは「ロストセクス」とも呼ばれたが、悪なる魔女の持つ、性的な魅力や欲望は決して衰えることはなく、それどころか、なお一層の強まりを見せるのである。それは、彼女たちが得た力と共に、魔王の加護と恩寵の為す業であろうが、それ以上のものを彼女たちに感じる。「彼女」と呼ばれることもはばかられる身に置きながら、それ以上に感じられる「女」の性。女性の魅力を「魔性」と呼ぶことがあるが、これこそ正にそれであろう。

 

 

「花嫁……貞操帯……ロストセクス……魔性……」

 

 読めば読む程、狂った設定が目に飛び込んで来る。よくこんな設定を思いつくものだ。他の候補にも似たような設定がビッシリ書いてあるあたり、1日や2日で考えたものではないのだろう。何日も、或いは何ヶ月も前から考えていたものなのかもしれない。

 

「魔王の妻──というポジションにピッタリな名前かと!」

「いやいやいや! ちょっと待て! キャラ設定が濃すぎないか!?」

 

 リュウノが嫌そうな反応を見せているのに対し、ウルベルトは拍手をしながらヤルダバオトを褒め始める。

 

「さすがは私の子! なんとピッタリなものを選んで──」

「ストップ、ストォォップ! 待て、マジで待て! なんだよこの貞操帯って! まさか、ありえないと思うが! この『マドュニオン』の設定と同じ格好をしろとか言わないよな? マッドブーケやブラックヴェールはともかく、貞操帯とかそんなのは絶対つけないからな!?」

 

 必死に抗議するリュウノだが、この抗議が更にヤルダバオトを暴走させていく。

 

「貞操帯をつけない……つまり女性でありたい……つまり魔王の子を……ハッ!? つまりはそういう事ですね!? マドュニオン様!」

「待て、ヤルダバオト! そういう事とは何だ!? 今、何を連想した!? それと、すんなりマドュニオン呼びするな! まだその名前にするなんて言ってないぞ!」

 

 勝手に深読みし、妙な勘違いを始めるヤルダバオトをリュウノが慌てて止めようとする。が、ヤルダバオトの脳内では既に、魔王とマドュニオンのラブラブな展開が浮かび上がっている。

 

「ご安心をマドュニオン様! このヤルダバオトが、スレイン法国を制圧後、立派な式場を作り上げ、奴隷にした人間達の前で、華々しい最高の結婚式を開いてご覧にいれ──」

「うぉぉい!? 待てヤルダバオト! 早まるな! 誰も結婚するなんて言ってねぇからな!」

「クククwwwハハハハハwww」

 

 ヤルダバオトの暴走と、それを必死に止めようとするマドュニオンのやり取りがあまりにも面白いウルベルトは、必死に笑いを堪えようとしてできないでいる。

 

「何笑ってやがる!」

「いやwwこれを笑うなとはwww無理がwww」

「だから笑うな! とにかく、ヤルダバオトを説得しろ! コイツ、我とウルベルトさんを結婚させようとしてるんだぞ!?」

「いいじゃないですか。かたちだけの偽造結婚という事にすればww」

「いや、絶対それだけで終わる気がしないぞ! あの様子、本気で結婚させる気だと思うぞ!? 妙な事になる前にやめさせろよ!」

「え〜……(嫌そうな顔)」

「お前、アイツの創造主だろうが! ウルベルトさんがハッキリ言わないと止まらないから!」

 

 仕方ありませんねぇ……と、ボヤキながら、ウルベルトはヤルダバオトに声をかける。

 声をかけられ、意識を妄想の世界から現実に戻したヤルダバオトがウルベルトに顔を向ける。

 

「──し、失礼しました、魔王様!」

「ヤルダバオト、貴方は少しばかり気が早すぎます。結婚だのなんだの、そう言った行事を貴方1人の判断でやっていい訳がないでしょう?」

「そ、その通りでございます……。出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございません……」

 

 ホッ──と、胸を撫で下ろすリュウノ。これで結婚の話はなくなった、そう安堵する。

 しかし、そんなリュウノの安心は──

 

「それに、結婚するのは世界征服が終わってからですよ」

 

 ──というウルベルトの言葉であっさり打ち砕かれた。

 

「はぁっ!?」

 

 何かの聞き間違いかと、リュウノがウルベルトに顔を向けると、舌を出しながらお茶目な表情で笑う悪魔の顔がそこにあった。

 

 いつ達成できるかもわからない世界征服。故に、結婚式もいつ行われるかも不明。ただ、魔王とマドュニオンの結婚の約束だけはしておく。そういう流れにしておこうという目論みなのだろう。

 

「(アイツ、わざとあんな言い方しやがったな!)」

 

 恨むような視線を送るリュウノに対し、ヤルダバオトは先程のウルベルトの言葉に喜びをあらわにしていた。

 

「おおおぉぉお! 魔王様の仰る通りでございます! やはり祝い事は勝利を刻んでこそ! 世界を征服した魔王様に寄り添うマドュニオン様……ああ……なんと素晴らしき光景でしょう! このヤルダバオト、より一層の忠義と共に、魔王様とマドュニオン様のより良き未来の為に誠心誠意務めさせていただきます!」

 

 ヤルダバオトのこの喜び様。最早、"結婚は冗談でした"とも言えない。

 リュウノは、もうどうにでもなれ──という気分になり、ヤルダバオトの説得を諦めた。

 

「……はぁ……ひとまず、そちらの用件は済んだという事で良いんだよな、魔王様?」

「ん〜……そうですね」

「では、我からもプレゼントだ。貰いっぱなしというのも嫌なのでな」

 

 リュウノがインベントリから何かを取り出し、ウルベルトに放り投げる。

 それを受け取ったウルベルトが、渡された物を見る。

 カプセルのような形のアイテム。どこかで見たことがあるような気さえするが、ハッキリとは思い出せない。

 

「これは?」

「拠点作成系アイテムを収納する、ぽいぽいカプセルだ。ちなみに、中身は『魔王城』だ」

「──! ……ほう、これが……」

 

 念願の魔王城──それが、こんな形で手に入るとは想像もしていなかった。故に、内心では歓喜の喜びで満ちてはいるが、魔王である自分が喜びはしゃぐ訳にはいかない。

 平静を装い、なんでもない様に振る舞う。

 

「ありがたく受け取っておきましょう」

 

 心の中で、この魔王城をどう有効活用しようか──という妄想を膨らませながら、ウルベルトはポケットに入れる。

 

「ヤルダバオト、お前には『悪魔城』をやろう」

 

 そう言って、リュウノがぽいぽいカプセルを渡そうとすると、ヤルダバオトは畏れ多いと言わんばかりな態度をみせた。

 

「私のような下僕が、至高の御方であらせられるリュウノ様から褒美を頂くなど──私は対価が欲しくて仮面を渡した訳ではありません! お気持ちだけで構いませんので!」

 

 気軽な感じで渡そうとしていたリュウノは面食らう。ここまで受け取りを拒否されるとは思わなかったからだ。

 しかし、ここで引き下がる訳にはいかない。()()()()()()()リュウノの頭脳が、即座に別の手をうつ。

 

「勘違いするなヤルダバオト。これは褒美ではない。悪魔活動に利用する為の物だ」

「──と、言いますと?」

「スレイン法国を制圧後、他国に知らしめる為の城を建てる必要があるだろう? 無論、本命は『魔王城』の方だがな」

 

 そう言うと、流石のヤルダバオトも理解したらしく、表情に笑みが浮かび始めていた。

 

「なるほど! 仮初(かりそめ)の城を作り、我々悪魔の脅威を世に知らしめるのですね! そして──仮に城が攻め滅ぼされたとしても、悪魔を退治したと喜ぶ人間達に真の魔王城の存在を教える事で再び絶望に叩き落とす……そう言う事でございますね? マドュニオン様」

「フッ……そう言う事だ。魔王が城を複数所有してはいけない、などというルールはないからな。落とされても構わない悪魔城を目立つ所に建て、やって来る強者ども迎え撃つ。城を陥落させる程の実力者が居た場合、城を犠牲にしてそいつ等の情報を入手できたと思えば儲けものだ。魔王様もそう思うだろ?」

「ええ、なかなか良い作戦かと」

 

 ウルベルトも納得した事を確認したので、ヤルダバオトに悪魔城を渡す。

 頭を下げながら、ヤルダバオトは悪魔城を受け取り、感謝の言葉を述べる。

 

「ありがとうございます! このヤルダバオト、より一層の忠節を貴方様に捧げます!」

「うむ。期待しているぞ、ヤルダバオト。さて……そろそろ雨が降りそうだ。濡れる前に帰らないか?」

 

 ウルベルト達が空を見上げる。

 どんよりとした雲がより一層濃くなっており、雲の中からも雷の音が響き始めていた。

 

「そうですね……では、私達は帰りましょうか」

「畏まりました。ではマドュニオン様、私達はお先に失礼させていただきます」

 

 ヤルダバオトと三魔将達がリュウノに一礼している間に、ウルベルトが〈転移門(ゲート)〉を開く。

 そして、ウルベルトが門を潜ろうとした時、リュウノが呼び止めた。

 

「一つ言い忘れていた。スレイン法国への攻撃の件だが……悪魔軍の戦力が整い次第、攻撃して構わないぞ」

「おや? 私達のタイミングで良いのですか?」

「ああ。私もいろいろ忙しい身になってしまってな。逐一、相談にのる余裕がない。全ての段取りは二人に任せるよ」

「では、そうさせていただきますね」

 

 ウルベルト達は門を潜り去っていった。

 自分も拠点に帰ろうと、一人残されたリュウノは拠点の方角にゆっくり下降していく。

 

 そして、王城の屋根と同じ高さまで降りた時だった。

 突如、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「少し外を見てくる」

 

 そんな声が聞こえ、黒い何かが王城の窓から飛び出し、屋根の上に登って来たのだ。

 

 王城内の気配は全て把握していた。見張りの兵士の位置も確認済みで、彼らの視界に映らないよう気をつけていた。

 だが、まさか窓から飛び出して来るヤツが居るとは予想外だった。

 しかも、よりにもよって、あの魔術師(マジックキャスター)と遭遇するとは。

 

 その黒い何かの正体が何なのか理解したリュウノは、気付かれないよう静かにその場を去ろうとしたのだが──。

 

 この日──リュウノは再び、ため息を吐く事となった。

 二度あることは三度ある、ということわざが正にピッタリくるような展開が待っていたからだ。

 

 一度目は、カルネ村で。二度目は銭湯で。どちらもリュウノが単独で行動している時に限ってやってきた災難だったが。

 

 では、三度目はというと──

 

「待て! 貴様、何者だ!?」

 

 力強い声で発せられた女性の声。リュウノはビクリと体を震わせ、声がした方へ身体を向けた。

 

 王都で屈指の実力者である──蒼の薔薇のイビルアイがそこに居た。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 王城に悪魔が潜んでいた──その情報を仲間から聞いたイビルアイ達は、即座に王城へ出向いた。

 待っていたリーダーのラキュースから事の顛末を聞く。

 

 人間に化けたデュラハンが悪魔を見つけ、始末した。

 結果だけ聞けば、デュラハンが善行を成したという事で終わる。

 しかし──それより前の出来事の方が衝撃的だった。

 

「ラキュース! お前、アイツ(デュラハン)を怒らせたのか!? なんでそんな危険な行為を!」

「わ、私じゃないわよ!? ラナーが攻め込み過ぎたというかなんというか……」

「……はぁ……まったく……」

 

 イビルアイは、侍女室に横たわる悪魔の死体に目を向ける。

 

 デュラハンが悪魔と対立する理由──リュウノ救出を目論んでいた事が分かった事は良い結果だったが、そのチャンスを台無しにしてしまった、という結果は良くなかった。

 もし万が一、リュウノの救出が上手くいかなかった場合、今回の件を理由にデュラハン達から恨まれる可能性ができてしまった。

 

「おそらくだが、『竜の宝』はこの悪魔をあえて泳がし、上司か魔王に報告に行くタイミングを狙っていたんだろう。後をつけて、根城の場所が判明したら、ドラゴン達で一気に攻め落とす算段だったのかもな」

「……やっぱり?」

 

 ラキュースもだいたい予想できていたらしく、今回のミスの重大さを実感しているようだった。

 

「とにかく、悪魔がコイツ1匹とは限らない。お前達は王城内を調べてくれ」

「イビルアイ、貴方はどうするの?」

「私は──」

 

 イビルアイは近くの窓を開けると、〈飛行(フライ)〉の魔法を唱え、外に出る。

 

「──少し外を見てくる」

 

 そう言って王城の屋根へと登ったのだ。まさか──いきなり()()()()()()()とは想像もしていなかったが。

 

 後ろ姿から見て──サキュバス風の悪魔が()()()()()()()()()()

 元から居たのか、仲間が死んだ事を察知して探りに来たのかは不明だが──向こうはまだこちらに気付いていないらしく、背を向けた状態で何処かに行こうとしている。

 人が居る場所に行かれるのはマズいと直感し、声をかけて呼び止める。

 

「待て! 貴様、何者だ!?」

 

 一瞬、身体をビクリと反応させ、ゆっくりと振り返った悪魔は仮面をつけていた。

 

 不気味さを醸し出す悪魔を象った仮面に加え、コウモリのような翼、悪魔だと証明するかのような角と尻尾、()()()()()()()()()()()()()。そこから浮き出た血管。そして、その悪魔から噴き出す紫色の禍々しいオーラ──間違いなく人間ではない。

 

 なにより、その悪魔から放たれる圧倒的プレッシャーが物語っている。この悪魔は自分より強い化け物だと。

 

 振り返った悪魔は返事も返さず、こちらをじっと眺めている。

 得体が知れない。ますます不気味さが増す。

 

 しばらく睨み合いが続く。

 すると、空から雨がポツポツと降り始めた。

 目の前の悪魔は、降り出した雨が気になったのか、空を見上げ始める。

 雨は次第に強さを増し、激しい豪雨へと変わり始める。

 

 アンデッドである自分は雨にうたれても平気だ。風邪なんかひかないし、体温も無い。

 しかし、目の前の悪魔は嫌なのか、大きなため息をつき始めた。

 痺れを切らし、再び質問する。

 

「もう一度聞く! 何者だ!?」

「……悪魔だ」

 

 男か女かもわからない声だった。そしてやはり悪魔だった。

 なら、遠慮はいらない。向こうが襲い掛かってくるならば、全力で対抗するのみ。──いや、全力を出さないと死ぬ。それがわかってしまう。

 なら、せめて情報だけでもできるだけ入手し、みんなに伝えなくては! 

 

「ここで何をしていた?」

「……散歩」

 

 ありえない。このタイミングで王城の上を散歩していたなど。何か悪さを企んでいたに違いない。

 

「城の中に居た悪魔は、お前の仲間か?」

「……魔王様の部下」

「魔王だと!? まさか……エ・ランテルに現れた魔王、アレイン・オードルの事か!?」

「……他に魔王が居ないのなら」

 

 ラキュース達から聞いた話では──エ・ランテルに現れた悪魔達は、次なるターゲットとして王都を襲撃するかもしれないと、デュラハン(シロ)が言っていたらしい。

 その予想が当たっていたという事か? 

 

「お前達悪魔は……王都を襲撃するつもりなのか?」

「…………さぁ?」

 

 やはり、そこははぐらかすか……。

 そもそも相手は悪魔だ。こちらの全ての問いに、正直に答える訳がない。だからこそ、どこまで信用すればいいかわからない。

 しかし、少しでも可能性を得られるのなら、情報は得るべきだ。

 

「お前達はエ・ランテルの街でリュウノという女性を攫ったはずだ。そいつは生きてるのか?」

「…………生きてはいる」

 

 殺されてはいない! なら、まだ助け出すチャンスはある! 後は、魔王の根城さえわかれば! 

 

「…………けど──」

「ん?」

「──魔王の花嫁、マドュニオンに選ばれた」

「は、花嫁だと!?」

 

 え!? 結婚するの!? その為に攫った? 

 いやしかし──これが本当なら、リュウノが殺される危険性はなくなったと思って良さそうだ。

 なら、デュラハン達──『竜の宝』にも教えなくては! 

 

「…………魔王様、結婚式を挙げる予定。どこかの国を制圧して、奴隷にした人間達の前で盛大に式を行う……とか言っていた」

「国を制圧……! やはり、王都を狙っているんだな?」

「…………はぁ〜……」

 

 返ってきたのはため息。

 もう答える気がないのか、それともこのやり取りに飽きたのだろうか。

 

 そんな不安に駆られたイビルアイに、悪魔は最後の一言を放つ。

 

「……残念だが時間切れだ。我は帰る」

 

 悪魔はそう言うと、突如、イビルアイに向かって突っ込んでいき、イビルアイに拳を叩きつけた。

 目にも留まらぬスピードに、対応できなかったイビルアイが腹部を思いっきり殴られ、殴り飛ばされる。

 

「──ぐぁ──ぁ──」

 

 呻き声を上げながら、殴り飛ばされたイビルアイは王城の塔の様な作りの建物の壁に激突する。

 そのまま倒れ込み、屋根の上を転がり落ちていく。屋根の上から空中に転がり出たイビルアイは、再び〈飛行(フライ)〉の魔法を唱えて体勢を整えようとするが──

 

「迂闊だな。撃ち落とされたいのか?」

「──!!」

 

 いつの間にか、イビルアイの真上にいた悪魔が追撃を放つ。

 身体を回転させながら放つ強烈な回転蹴りがイビルアイの顔面に直撃する。

 

「──がっ!? ──」

 

 顔面を蹴られたイビルアイは、そのまま王城の窓へと蹴り飛ばされ、ガラスが割れる激しい音と共に王城内の廊下の壁に激突する。

 

「…………うっ……ぐっ……!」

 

 全身を襲う痛みに耐えながら、イビルアイはなんとか身体を起こし、悪魔の追撃に備えるが──悪魔は姿を消していた。

 

「くそ……どこに……!」

 

 行方を探そうとイビルアイが立ち上がった時、異常を知った王城内の者達が駆けつけてきた。その中にはラキュースの姿もあった。

 

「イビルアイ! 何があったの!?」

 

 びしょ濡れで傷だらけのイビルアイを見て、慌てて駆け寄るラキュース。

 

「悪魔に襲われた……しかもかなり強い……」

「悪魔に!?」

 

 ラキュースが壊れた窓から外を見るが、そこには既に何もいない。見えるのはどしゃ降りの雨だけである。

 

「やつは逃げた。しかし、いろいろと情報も得られたぞ」

 

 イビルアイは、先程の出来事をラキュースに語る。

 リュウノが生きている事、魔王の花嫁にされた事、どこかの国が襲われる事、魔王がリュウノと結婚式を挙げる事──その全てを語った。

 

「どこの国が襲われるか、それが問題ね」

「……王国しかないだろう。エ・ランテルの襲撃に、王城への潜伏……そしてさっきのヤツ……これだけの事をしていて、他国が狙われる理由が思いつかない」

「けど、相手な悪魔よ? 全てを信用するのは……」

「わかっている……ひとまず、王様と冒険者組合……それと竜の宝にも報告しないとな。ラキュース、頼めるか?」

「わかったわ。任せてちょうだい!」

 

 ラキュースとの打ち合わせが終わった時、ガガーラン達も合流。『蒼の薔薇』のメンバーは、ひとまず、事態の収拾を行う方針を決める。

 

 そこへ──

 

「おい、蒼の薔薇、何があった?」

「ブラック!」

「ブラックちゃん!」

 

 割れた窓の外から、飛行しながらやって来たブラックが廊下に降り立った。

 ブラックの姿を確認したラキュースとイビルアイは、何故か安心感をおぼえた。自分達より強い味方が現れた事に、恐怖が和らいだのだろう。

 ラキュースがブラックに駆け寄る。

 

「ちょうど良かったわ! ブラックちゃんに伝えたい事があるの!」

「ふむ……詳しく聞かせてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(  >д<).;':ハックショーーン!」

 

「主人よ、風邪ですか?」

「我らが暖めて差し上げましょうか?」

「ベッドの中でなら、さらに効率良く暖めて差し上げられますが?」

 

「お前ら、ぶん殴るぞ( º言º)」

 

「「「すみません!!」」」

 

 




休日に一気に書きました。
誤字脱字がありそうで怖い(笑)

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