首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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午前11時30分 闘技場通路にて

「それにしても、勝様の召喚なさった竜王《ドラゴンロード》達の迫力は、凄かったでありんすねぇ。」
「私も竜人ではありますが、やはり真なる竜王様達の貫禄にはかないません。」

シャルティアとセバスが歩きながら、先程のでき事の感想を言う。

「いや〜、私も数々の魔獣達を従えさせてるけど、やっぱりドラゴンって良いなぁ〜。勝様が羨ましく思っちゃうよ。」
「僕も、ドラゴン2匹飼ってるけど、勝様の召喚する竜王に比べたら、全然かなわないと思う。」

アウラとマーレが嫉妬にも似た感想を言う。

「アレガ竜王ト呼バレル存在カ。機会ガアレバ、闘ッテミタイモノダ。」
「それは無理があるのではないかね、コキュートス。至高の御方達でさえ、かなり警戒なさっていたようだし。berryHARD級?という言葉から察するに、かなり倒すのが難しい存在なのでしょう。」

武人魂を滾らせるコキュートスをデミウルゴスがさりげなく諌める。

「私も驚いたわ。闘技場に訪れたら、見たこともない竜が闘技場いっぱいに居たんだもの。何事かと焦ったもの。」
「ご主人様が竜王様達を全部召喚するとおっしゃった時は、肝を冷やしました。私達竜人にとって、竜王様達はドラゴン界の頂点に立つ存在と認識しているので。ご主人様が近くに居なかったら、あの場から逃げていたかもしれません。」
「ええ、私も少し、あの場から走り去りたい気分になったもの。だって…だって!」

アルベドがふるふると震えながら言う。

「勝様がティアマト様の豊満なバストに包み込まれ、モミクチャにされてる光景を見せつけられて、敗北感を感じるなんて!ああ!羨ましい!私にも、あんな豊満な胸があれば!」
「あれは身体そのものの大きさが違うので…アルベド様も、人間サイズのなかでは、既に立派な胸かと。」
「ガウー…(それ以上デカくする必要ないよね?)」
「ガウー…(もう充分デカいと思うけどね。)」

ブラック、ブルー、レッドが呆れながら、アルベドの後に続いて歩く。

「ところでブラック?貴方、勝様と一緒に居なくていいの?他の至高の御方は自室にお戻りになられたけど、勝様はまだ闘技場にいらっしゃるんでしょ?」
「竜王様達と少し会話してから自室に戻るとおっしゃってました。私達は、12時の会議までは自由にしてて良いと言われましたので。」
「そう。なら良いのだけど。それにしても、勝様も大変ね。竜王様達からお願いされて、あのような重荷を背負い込む形になってしまわれたのだから。」
「ご主人様ご本人も、竜王様達の存在を保つ、という役割を引き受ける事になるとは思ってもいなかった。と、おっしゃってました。」
「まあ…でも、私達も似たようなお願いを至高の御方達にしちゃったから、人のことは言えないけどけどね。」
「それを言うなら私達三姉妹も同じです。だから、少しでもご主人様のお役に立てるように頑張るつもりです!」

気合いたっぷりのブラック達を見て、アルベドが微笑む。

「やけに気合い入ってるわね、貴方達。なにか良い事でもあったの?」
「ご主人様が先程言ってたんです。会議の内容次第にもよりますが…会議が終わったら、偵察も兼ねて外に散歩に行こう!と、言ってくださったんです。楽しみだなぁ、散歩。」

目をキラキラさせるブラック達。

「散歩がそんなに嬉しいの?」
「当たり前じゃないですか!ご主人様と散歩ですよ!?ユグドラシルでは出来ませんでしたが、私達の夢の第一歩、『ご主人様との散歩』が実現するんですよ!嬉しくてたまりませんよ!」

熱く語るブラックの気迫に、アルベドが少し押される。

「そ、そうなのね。まあ、私も、至高の御方との二人っきりのデートとかなら夢見ている事もないけど…」
「欲を言うなら、私達三姉妹の夢の理想の最終散歩形態!『首輪付き散歩』が実現すればよいのですが…」

とんでもないブラックの言葉にアルベドが興奮する。

「く、首輪!?それって…奴隷とかが付けるヤツかしら?」
「違いますぅ!奴隷用の首輪なんて付けませんよ!私達の理想は、『ペット用』の首輪をご主人様に付けて頂いて、ご主人様に引っ張られながら散歩する事です!」

あまりにもマニアックなプレイに思える事を恥ずかしげもなく言うブラックに、ある意味尊敬ささえ思え始めたアルベドは、さらに興奮する。

「そ、そんな、飼い犬のような事をされて、嫌とは思わないの!?」
「嫌だなんてとんでもない!むしろバッチコイです!だって、ご主人様に首輪を付けてもらえると言うことは…」

『お前達の事を離さない。』
『私のそばから離れるな。』
『お前達は私の所有物だ。』

「と言う、ご主人様のさりげないアピール!いや、もはや告白に近い!そんなアプローチをされて断れるとでも!?無理ぃ〜!絶対無理ぃ〜!」

三姉妹がほっぺに手をあて、アヘ顔に近い顔をしながら妄想している。
アルベドは思った。

「(この子達、マジだわ!!)」

だが、アルベドも同じシチュエーションで妄想する。
例えば、モモンガ様に首輪を付けて散歩させられたら?
欲を言うなら、飼い犬らしく全裸で野外を歩かせられたら?
そんな事されたら…私…

そんな妄想を始めたアルベドに、トドメの一撃とも呼べるセリフをブラックが言う。

「そしてご主人様が最後にいつものアレをするんです。首輪を付けられ、おすわりのポーズもしくは服従のポーズをした私達に、トドメの頭ナデナデ!これをされたらもう、私達は理性を保てません!もっともっとと、おねだりして、全身を撫で回してもらうまで落ち着かないかもしれませんね!」

アルベドの妄想が爆発した。
フフ…フフフ…と、不敵な笑いを発しながら歩く守護者統括。
その姿に、ブラック達以外のメンバーがドン引きしている。

「な、なんかアルベドがおかしくなってるんだけど…」
「アウラ、あれはそのままにした方が良いかと。守護者統括様は、しばらく妄想の世界に入るみたいですから。」

アルベドがビッチである事を知ってるメンバー達は、いつもの感じで受け流した。

┣これも全部、タブラさんが悪いんだ!┫


第5話 顔のない救世主

午後1時

 

会議は割とアッサリ終わった。

 

①[ナザリック地下大墳墓の隠蔽工作]案

②[羊皮紙などの資材調達]案

③[周辺地域偵察&調査]案

④[今後の方針について]案

 

これらの案件が掲示されたが、

 

①隠蔽工作はマーレが担当

 

ナザリックが草原に転移しているため、

外部の者達からの発見を防ぐという事で、ナザリック周囲の地形を変え、土の壁や丘を作る計画だそうだ。

 

②資材調達はデミウルゴスが担当

 

ゲーム時代とは違い、日用品などの消耗品が調達できてない現状を改善すべく、それらを確保、あるいは生産するための計画だ。デミウルゴスが独自に行う、という事で計画が進んでいる。

 

③偵察&調査は勝が担当

 

散歩に行きたい!…以上。

 

④今後の方針については、

ひとまず、

ユグドラシルのプレイヤーを探す。

この世界の調査。

 

という事でまとまった。

 

会議で『正式』に周辺地域の偵察&調査を任命されたからには、周辺地域を『散歩』するしかない。

という事で!

 

【よし!周辺地域偵察隊!出るぞー!】

「おーー!」

「ガウー!」

「ガウー!」

 

やる気まんまんの勝達を見て、見送りに来たモモンガが言う。

 

「勝さーん!あ・く・ま・で、偵察&調査が目的ですからねー!交戦だけは控えて下さいよー!」

「わかっておりますよ、モモンガ様!」

【行ってくるぜ!モモンガさん!ヒャッハー、散歩だぁぁぁぁ!】

 

竜騎兵のスキル《騎乗魔獣召喚》にて召喚したワイバーンに乗り、空へと飛び立つ勝。

それに続くように飛び立つブラック、ブルー、レッド。

隠密性を重視し、ドラゴン形態ではなく人型での飛行である。

 

ナザリックの周囲は草原で、さらにその周囲を森で囲まれているため、空からの調査で調べる事となった。

 

「それでご主人様、どのぐらい遠くまで行きますか?」

【んー…とりあえず森が途切れるまで進んでみるか。遠くに行き過ぎても、レッドの魔法『転移門《ゲート》』でナザリックに戻れば大丈夫だろうし。万が一、魔法がふうじられても、私のデュラハン種族のスキル『騎乗魔獣召喚』で召喚できる、『首なし馬《コシュタ・バワー》』に乗れば問題ないし。】

 

勝には、2つの《騎乗魔獣召喚》というスキルがある。

1つは、勝の職業・竜騎兵のスキル。

一人乗りの移動用のワイバーンを召喚できるスキルで、飛行が可能である。

戦闘中でも乗れるが、耐久度は低い。

 

もう1つは、勝の種族・デュラハンのスキル。

二人乗りできる首なし馬(コシュタ・バワー)を召喚できるスキルで、転移の機能がついた魔獣である。

また、馬車やチャリオットを付けることもできる。

唯一、水の上を走れない、という欠点がある。

 

馬車の場合は、馬に2人、馬車に4人、合計6人を乗せて移動や転移ができる。

移動が遅くなるが、大勢を運べるのが利点だ。

ただし、馬車部分は脆く、敵に破壊されるリスクがあるので、戦闘中に出すのは危うい。

 

チャリオットの場合、馬に1人、チャリオットに3人、合計4人運べる。

こちらは主に戦闘用で、鎧を来た馬に、頑丈なチャリオット、両方の車輪に鋭い棘が付いている。

チャリオットの方に、狙撃手などを乗せれば、移動要塞のような感じで暴れ回る事ができる。

馬に乗らず、チャリオットの方に乗っても運転可能である。

ただし、転移機能が失われるが、いつでも取り外しできるので特に問題はない。

 

《コシュタ・バワー》の転移機能は、どこにでも転移できる訳では無い。

転移できるのは、

 

①ギルドなどの拠点

②国や街、村などの入口

③地名やエリア名が判明している土地の出入口(境界線)

 

と、限られている。

ただし、魔法での転移ではないので、妨害を受けにくいという性質を利用し、緊急時の脱出装置代わりにもできる。

 

 

【村とかが見つかればいいなー。人間が住んでるなら、ブラックを侵入させて、この世界についての情報を得る事ができるかもしれないし。】

「私には隠密スキルがありますから、バレずに侵入するのは得意ですよ。」

【油断は禁物だぞ、ブラック。最悪な展開を予想し、常に警戒しろ。ここはユグドラシルではない、未知の場所だ。どんな敵が居るか、わからないからな。】

「はい。心得ています。」

 

空の上を飛んでるとはいえ、狙撃スキルを持ったプレイヤーなら容赦なく撃ち落としにくる可能性はある。

勝は周囲を最大限に警戒し、森を調べる。

ブラック達も、怪しいものがないか、竜人としての野生の勘を働かせる。

 

しばらく飛び続ける。

 

【しかし、かなり広い森だなぁ。】

「かなりの距離を飛びましたが、村1つ見えませんね。」

【少し、方向を変えるか?ナザリックを中心に、円状に飛行するか。】

「そうですね。一応、ナザリックの周辺地域の偵察が目的ですし。」

【よし!ワイバーン、進路変更だ!】

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方そのころ…

 

「やあ、モモンガさん。お疲れ様です。」

「ヘロヘロさんもお疲れ様です。」

 

執務室にてモモンガが鏡ようなアイテムを弄っていた。隣にはセバスが立っている。

入室してきたヘロヘロが質問する。

 

「モモンガさん、何してるんです?」

「あ!これですか?遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)でナザリックの外を見ようと思いまして。」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)

 

指定したポイントを距離に関係なく映し出す直径1メートルほどの鏡。一見非常に便利だが、低位の対情報系魔法で簡単に隠蔽され、攻性防壁の反撃を非常に受けやすいため微妙系アイテムとして考えられている。

通常は室内などまでは見られないが、《フローティング・アイ》と併用することで室内の観察も可能(魔法による障壁がある場合は不可)。

 

「あー!ありましたねぇ、そんなアイテム。」

「ユグドラシルだと、コンソールで簡単に操作できたんですか、こっちだと扱いにくくて…もう30分くらい苦戦してますよw」

 

モモンガが鏡の前で手を動かしている。

いろいろな動きをやってるが、なかなか上手くいかないようだ。

 

「ちょっと、私にさせてもらえませんか?」

「良いですよ。どうぞ。」

 

モモンガが席を譲り、ヘロヘロが鏡の前に座る。

 

「ヨッ!ハッ!ソリャアァ!!」

 

ヘロヘロが鏡の前で手を動かすが、変化はない。

 

「くそーw何故上手くできない!」

「私もいろいろ試したんですが…」

 

鏡の前で手を動かしまくる2人。まるで素人のダンサーが踊ってるかのようだ。

すると、執務室に他のギルドメンバー達がやって来た。

 

「モモンガさん、ヘロヘロさん、お疲れ様ッス。2人して、鏡の前で何してるんッスか?ダンスの練習?」

「2人ともお疲れ様です。これは…外の映像ですか?」

「遠隔視の鏡…でしたか?なにか情報は得られましたか?」

 

ペロロンチーノ、たっち、ウルベルトの3人がモモンガ達が鏡の操作で苦戦している現状を聞く。

すると、ペロロンチーノが言う。

 

「オレがやってたエロゲーの1つに、画面にタッチして操作するヤツがあったんスよ。これも案外、そういう操作だったりして。」

「画面をタッチですか?」

「そうッス。こう…画面をなぞる感じて、指でスライドさせるんッスよ。」

「どれどれ…よっ!あ!動いた!」

 

ようやく鏡の操作方法を理解し、テンションが上がる。

 

「画面を拡大する時は、指2本で画面の中央から外側に。縮小する時は逆ですね。」

「おおー!ペロロンチーノさんのエロゲー知識が、こんなところで活躍するとは!」

「エロとは全く関係ないけどねw」

 

鏡の操作に慣れたモモンガが、ナザリック周辺の地域を調べていく。

 

「あ!皆さん見て下さい。村を見つけましたよ!」

「お!どれどれ!」

 

皆が鏡に映る映像をみる。

小さな村が映っていた。

田舎にある、のどかな農村をイメージさせる村だったが、村の中で小さな黒い点のようなものが激しく動いている。

 

「祭りかなにかですかね?」

「…いや、モモンガさん!拡大して下さい!」

 

妙に慌て出すたっちの反応に、モモンガが不思議に思いながら拡大する。

黒い点は人間だった。

しかし、見えた映像はとんでもないものだった。

 

「村人が…襲われてる!?」

「鎧を着た兵士…ですかね?村人を殺しまわってるようですが…」

「あ!ここ。村人達が集められてます!人質ですかね?」

「そこ以外は、抵抗してる村人を躊躇なく殺してますね。」

 

鎧を来た兵士の部隊が農村を襲撃している。

どこかの国の兵士だろうか?

と、すると、この世界には軍隊を所有する国家があることになる。

 

「モモンガさん!助けに行きましょう!」

 

たっちが言う。

しかし、それをウルベルトが止める。

 

「待って下さい、たっちさん。お気持ちは理解できますが、今はやめておくべきだと、私は判断します。」

「何故だ!?ウルベルトさん!」

 

「村を襲ってる奴らの格好を見る限り、野盗の様には見えません。どこかの国に属する軍隊と予想します。まだ、この世界について何も知らないのに、村人達を助けるために、いきなり国家を敵に回すつもりですか?」

 

「しかし…!私達には、助ける力がある!罪もない村人達が一方的に殺されるのを見過ごすなんて、私にはできない!」

 

「仮に助けに行ったとして、どうするんです?私達は『異形種』ですよ?バケモノが現れた!と、さらにパニックを起こすだけですよ!村人達が素直に従ってくれるとは思いませんがね。」

「ぐっ…!み、皆はどう思う?皆の意見を聞きたい!」

 

たっちがギルドメンバー達に意見を求める。

 

「私は反対です…。まだ情報が足りない状況で目立つ行為は危険かと…。」

 

ヘロヘロさんは反対のようだ。

 

「オレは行くッスよ!ほら!女性と幼女が兵士達に追いかけられてます!あんな可愛い子達が殺されるのは、オレは耐えられないッス!」

 

ペロロンチーノさんは賛成だが、理由が少し不純だ。

 

「2対2…残りはギルド長…モモンガさんはどうします?」

「モモンガさんは賛成ですよね?」

「……………。」

 

しばらく考えるモモンガ。そして…

 

「見捨てる。」

 

「なっ!?モモンガさん!」

「すまない、たっちさん。ナザリックが危険に巻き込まれる可能性を考慮した結果の判断です。襲われてるからといって、見ず知らずの村をリスクを背負ってまで助ける必要はありません。許して下さい…」

「そんな…だって!」

「諦めて下さい、たっちさん!ギルド長の指示なんですから。」

「セバス!お前はどう思う!?」

「私は…」

「やれやれ、たっちさん!NPCに意見を求めるのは卑怯でしょう。仮に、セバスが賛成だったとしても、モモンガさんの決定に逆らえるわけないでしょう?」

「ウルベルトさん!たっちさん!お、落ち着いて下さい!」

 

言い合いになる2人。

ヘロヘロもペロロンチーノも止められない。

2人の対応に困るモモンガ。

どうすれば…

 

「1つよろしいですか、ウルベルト様?」

 

急にセバスがウルベルトに質問する。

 

「なんだい?セバス。創造主たる、たっちさんの味方でもするつもりかい?」

「ウルベルトさん!その言い方は…!」

「勝様の意見を聞いてみるのは…ダメでしょうか?」

 

この場に居ない、ギルドメンバーの勝の意見を聞くことをすすめられる。

 

「悪いがセバス、勝さんはこの場に居ないだろう?それに、伝言《メッセージ》を飛ばしても、喋れない勝さんから返事はこないぞ?」

「勝様に同行しているブラックに繋げば、連絡は取れるとは思いますが…」

「ちっ…!仮に勝さんが賛成だったとしても、3対3です!ギルド長の決定が優先されます!そうですよね?モモンガさん。」

「それは…まあ…」

 

モモンガの返事の歯切れが悪い。

モモンガ本人も、本当は助けに行きたいのだろう。

 

「ですが…ウルベルト様。おそらくですが、この村は助ける流れになると、申し上げます。」

「は?それは、どういう意味だ?セバス。」

 

皆がセバスの言葉に首を傾げる。

 

「モモンガ様。鏡をご覧下さい。私の言葉の意味が理解できるかと。」

 

モモンガが鏡を見る。そこに映っていたものは…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

とある女性が妹と一緒に森の中を走っていた。

名前は、エンリ・エモット

妹の名前は、ネム

 

彼女達は、カルネ村という田舎の農村で暮らしていた農家の娘達だ。

しかし突如、彼女達の村に鎧を着た兵士の集団が襲撃して来た。

エンリの両親は、娘達を逃がすための時間を稼ぐために、兵士達に立ち向かって行った。

両親から、「逃げろ!」と言われ、森へと逃げたのだが、後ろから兵士達が追いかけて来ていた。

 

「待ちやがれ、女!」

「いやぁぁぁ!」

 

このままでは追いつかれる。

捕まったら殺される。

早く逃げないと!

せめて、妹だけでも!

 

「キャッ!?」

「ネム!?」

 

妹のネムが躓いて倒れる。

急いで駆け寄って起こそうとしたところで、兵士達に追いつかれてしまった。

 

「このっ!」

 

ザシュッ!

妹を守るために庇ったエンリの背中を兵士の剣が斬る。

 

「あぐぅっ!?」

「お姉ちゃん!」

 

エンリの背中から血が滲み出る。

もう、エンリに逃げる力はない。

せめて、妹だけでも逃がさないと!

だが、妹は震えていて、とても逃げれる状態ではない。

 

「クタバレ!女!」

「誰か!誰か、助けて!神様ぁぁぁぁ!」

 

エンリは死を覚悟した。

なにか大きな音がした気がしたが、もはや目を瞑るしかなかった。

 

しかし…兵士の一撃は来なかった。

恐る恐る目を開けたエンリの目に映ったのは…

 

 

 

首のない人間が、デュラハンが、

兵士の頭を銃で撃ち抜いた光景だった。

 

【よし!間に合った!危なかったー。木が邪魔で狙撃できなかったから、咄嗟にワイバーンから飛び降りて正解だった!危うく女性を守りきれないところだった。】

 

エンリは目を疑った。

バケモノであるデュラハンがいきなり現れて、自分達を襲おうとした兵士を殺したのだ。

 

「(助けてくれた!?いや、でも!まだ私達が襲われないという保証はない!)」

 

エンリは目の前のデュラハンを警戒した。

 

「バ、バケモノ!」

 

エンリを追いかけていた兵士がデュラハンを見て叫ぶ。

 

【さて…咄嗟にライフルで撃ち抜いたが、威力の低い軽機関銃はどうだ!?】

 

ガチャ!

デュラハンが軽機関銃を取り出し、兵士に向ける。

 

「ひっ!?た、助けてくれぇぇぇ!」

 

兵士が逃げ出す。

 

【逃がすか!】

 

ダララララララッ!!

軽機関銃を乱射する。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ──!」

 

兵士が蜂の巣になり、絶命する。

 

【よし。軽機関銃でも問題なし!銃が効かなかったら、即撤退も視野にいれてたが、大丈夫そうだ!そう言えば、女性は無事かな?】

 

デュラハンがエンリの方を向く。

スタスタと、歩み寄って来る。

 

「ひっ!?」

 

いよいよ、自分達の番か…。

エンリは再び死を覚悟する。

 

しかし、デュラハンは襲って来なかった。

エンリの前に片膝をついて、なにかこちらに渡そうとしている。

赤い液体がはいった小瓶だ。

まさか、血!?

 

【あれ?怪我してるから、ポーションを渡そうと思ったのに、受け取ってくれないなぁ…。まさか、これがポーションだって理解できてない!?】

 

エンリは戸惑っている。

そこへ、ブラック達が空からやって来た。

 

「ご主人様!ご無事ですか!?」

【ブラック!丁度良かった!この人間に、ポーションの説明をして、飲ませてあげて。怪我してるんだ。】

 

「了解しました。おい!そこの人間!」

「は、はい!?」

 

エンリは、いきなり現れたブラック達に驚いている。

一見、人間に見えたが、手足の鱗や羽、尻尾で人間ではない事が理解できた。

この3人は、デュラハンとなにか関係があるのだろうか?

 

「人間、これは治癒のポーションだ。飲めば傷が治るぞ。早く飲め。」

「え!?で、でも…」

「飲まねば死ぬぞ?お前が死んだら、誰がその小娘の面倒をみるんだ?」

「わ、わかりました!飲みます!」

 

意を決して飲む。

すると、傷がみるみる回復していく。

 

「ほ、ほんとにポーションだった!」

 

エンリはさらに驚いている。

女性の傷が治ったのを見届けた勝は、ブルーとレッドに指示を出す。

 

【ブルー、レッド!村を襲ってる兵士達を殺せ!村人は傷つけるなよ!できるなら、何人か兵士を生け捕りにしろ!どこの国の兵士か、尋問したいからな!】

 

「「ガウ!(了解!)」」

 

2人が獣の如く速さで村の方に走って行く。

 

【さて…いい機会だ。ちょっと女性に質問するか。ブラック!ちょっといい?】

「何でしょう?ご主人様。」

 

ブラックに質問したい事を伝える。

 

「おい、人間。いくつか質問するが、大丈夫か?」

「は、はい!」

 

エンリは緊張する。

どんな質問をされるか予想がつかない。

 

「と、その前に自己紹介をしておこうか。私の名はブラック。竜人族だ。そして、こちらが私達のご主人様である、デュラハンの勝様だ。私達は、旅をしていてな。お前達が襲われてる現場にたまたま居合わせたので助けたのだ。」

 

「あ、ありがとうございます!私の名はエンリ・エモット。こっちは妹のネムです!」

 

いきなりの自己紹介だったが、相手の素性が知れて少し安心するエンリ。

 

「で、1つ目の質問だ。お前は魔法を知ってるか?」

「魔法…ですか?はい、知ってます。私の友人が薬師で…魔法が扱えるんです。」

 

【魔法の存在が認識されてる世界か。なら、レッドが魔法を使っても不審がられずに済むな。】

 

「2つ目、お前はドラゴンを知ってるか?」

「ドラゴンですか?実際に見たことはありませんが、カルネ村の北にある、トブの大森林のさらに北にあるアゼルリシア山脈にドラゴンが居るという伝説なら知ってますが…」

 

【おお!?こっちの世界にもドラゴンが生息してるのか!なら、これを隠れ蓑に使わせてもらおう!】

 

クイックイッと、指で合図をする勝。

ブラックが勝の方に顔近づける。

フムフムと、なにか頷いている。すると、

 

「人間よ、先程私達は旅をしていると伝えたな。実は、竜人族である私はドラゴンでもあるのだ。その証拠を見せよう。」

 

ブラックがドラゴン形態に変化する。

エンリが目を丸くしながら驚く。

 

「ほ、本当にドラゴンになった…」

「私達竜人族は人間の姿になれるからそう呼ばれている。私達はアゼルリシア山脈からやって来たのだ。」

「じゃあ、ブラックさんが山脈にいる、伝説のドラゴンなんですか?」

「いや、それとは別だ。先程いた竜人も違う。あれは私の妹達でな。ブルーとレッドという。」

「そ、そうなんですか。わかりました。」

 

ブラックが再び人型に戻る。

 

「ご主人様が、村までお前達を護衛して下さるそうだ。」

「ほ、本当ですか!?」

 

勝がスキルでチャリオットを召喚する。

 

「す、凄い…」

「さあ、人間。乗れ。」

「は、はい!」

 

勝がエンリの手をとり、チャリオットに乗せる。 続いてネムも乗せる。

 

【よし!ブラック。ブルー達が心配だから、お前もブルー達と合流して援護してやってくれ。】

「了解しました。では、人間。大人しく乗ってろよ!」

 

ブラックがシュッ!と、消える。

三姉妹で1番足が早いブラックは、もはや人間の視力では追いつけない程のスピードで移動できる。

 

【じゃあ出発するよ。】

 

勝が、エンリが落ちないように、片腕で抱き寄せる。

エンリは、その優しい動作にドキッとする。

 

「ひゃあ!あ!すっ…すみません。」

 

ネムが勝とエンリの足をつかんでバランスをとっている。

安心しているのか、ネムの顔が笑顔になっていた。

 

「(このデュラハンさんは、悪い人じゃなさそう。)」

 

【コシュタ・バワー!進め!】

 

チャリオットが発進する。

勝が片腕でエンリを支えてるため、エンリがバランスを崩さずに済んでいる。

 

「……………」

 

エンリが静かに勝を見る。

顔がないせいか、少し見る場所に困る。

でも、このデュラハンから敵意を感じる事はなかった。

兵士に追いかけられ、さっきまで恐怖でいっぱいだったのに、今では安心感すら感じる。

 

すると、勝が抱き寄せていた手で、エンリの頭を撫でた。

エンリは、その優しい手つきと暖かさをかんじる掌に、つい身を任せたくなってしまいそうになった。

 

【まだ未成年なのに、最後まで妹を護ろうとするなんて。この女性は、絶対良い人だ。異形種である私を恐れてないっぽいし。これなら村人達とも友好的な関係になれるかも!】

 

勝は、村人との友好的な接し方を模索しつつ、村の方へとチャリオットを進ませた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方そのころナザリックでは、ギルドメンバー達が勝の活躍を遠隔視の鏡で見ていた。

 

「流石勝さん!村人を助け、怪我まで治療するとは!」

「何か会話してますね。情報収集でもしてるんでしょうか?」

「凄いですねー、勝さん。デュラハンなのに、村人の女性と打ち解けてますよ。」

「予想外でしたね。異形種でも問題ないとは…」

 

ギルドメンバーが次々と感想を言う。

 

「すみませんが皆さん、私もこの村に行きます。勝さんだけでは心配なので。」

 

モモンガがスタッフを手にとり、立ち上がる。

 

「セバス、ナザリックの警戒レベルを最大限に引き上げろ。それと、アルベドに完全武装で来るように伝えてくれ。」

「はっ!」

 

モモンガが転移門《ゲート》を開く。

 

「じゃあ皆さん、行ってきます。」

 

ギルドメンバー達が『お気を付けて』と、声をかける。

モモンガが転移門《ゲート》に向かって進み始めた。

 




今回はちょっと短めでしたかね。
更新はぼちぼちやって行きます。

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