首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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*法国のターン


第15話 来訪者─その2

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 評議国の使節団が来てから翌日の昼前。

 エ・ランテルに存在するそこそこ立派な宿屋、その一室にて──六色聖典のまとめ役の男──レイモン・ザーグ・ローランサンが、魔法の〈伝言(メッセージ)〉で連絡をとっていた。

 

「そうか……わかった。最高神官長様に伝えておく」

 

 レイモンは〈伝言(メッセージ)〉を切ると、先程の──王都に潜入させていた風花聖典からの報告内容を改めて確認する。

 

 昨日、風花聖典から連絡があり、王都に評議国の使節団が来た事が報告された。その後、しばらくしてから評議国の目的が『竜の宝』を自国に招待するつもりでやって来た事が、二度目の報告で判明した。

 

『竜の宝』に謝罪する目的でスレイン法国を出立した使節団の当初の予定では──まずエ・ランテルに行き、そこから王都に使者を派遣、自分達がエ・ランテルに居る事を王国の王に伝え、王都への進行が許可されるのを待つ。という予定だった。

 

 しかし風花聖典からの報告で、評議国の使節団が『竜の宝』に会いに来ている事を知った法国は慌てて予定を変更した。エ・ランテルから使者を送ったのでは、使者が到着する前に『竜の宝』が評議国の招待に応じ、評議国へと移動する可能性があった。そうなれば、自分達の謝罪の機会が失われ、ここまで来た意味がなくなってしまう。なので、本来なら隠し通すはずだった風花聖典に使者としての役割をやらせ、自分達の存在を早めに知らせたのだ。

 

 結果、王国では『竜の宝』をエ・ランテルに行かせるかどうかの会議が行われた。

 貴族派閥の貴族達は、謝罪する側である法国の使節団が王都まで来るべきであり、『竜の宝』がわざわざ行く必要はない、と主張。対して王派閥の貴族達は、なんとか『竜の宝』をエ・ランテルに行かせようと意見を主張したが──

 

『我々が自分から出向く道理はない』

 

 と、竜王達全員が貴族派閥の意見を認めた為、法国の使節団は王都へと向かう事になった。

 

「王都に向かう際はエ・ランテルの冒険者を警護に付ける事──か……」

 

 王国側からの指示で、王国側の冒険者を同伴させる事を義務付けられた。つまりは監視役を付けろという事だろう。

 

「(ただでさえ、エ・ランテルの冒険者の人数は減っている。なのにエ・ランテルの冒険者を同伴させろとは……)」

 

 王国側のあまりに酷い指示に、レイモンは頭が痛くなる。おそらく、貴族派閥側がエ・ランテルの戦力を削ぐために仕組んだものだろう。愚かな事である。国が悪魔に狙われているのにも拘らず、貴族達は派閥争いの方が大事らしい。

 

「さて……最高神官長様に報告した後、組合に行って冒険者を見繕うか……」

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 昼時の賑やかなエ・ランテルの通りを、モモンチームの一行が冒険者組合を目指しながら歩いていた。時折、通りを歩く人や見知った人物に声をかけられた時の挨拶も欠かさずに。

 モモン達が組合に向かっている理由は──少し前に、アインザック組合長が呼んでいると、組合から連絡が来たからである。

 

「まさか、このタイミングで召喚要請が来るとはな。……楽な仕事だったらいいんですけど」

 

 モモンが気だるい雰囲気を出すのは当然だった。

 既に、他国から来た使節団に関する情報を勝チームから受け取っている。その対処法を考えている時に、組合からの呼び出しを受けたのだ。組合長からの呼び出しがなければ、本日の冒険者業は休むつもりでいた。

 

「いっそ、ナーベとルプに任せる、という手もアリですよ?」

「そうですねぇ……。しかし、ブラックからの報告では、エ・ランテルにスレイン法国の連中が居る訳ですし、ナーベ達だけにするのも危ない気が──」

「じゃあ俺がナーベちゃん達と一緒に残るっスよ?」

 

 いろいろ相談し合うが、最終的に依頼の内容を聞いてから考えるという事になり、ひとまずモモンチームは冒険者組合を目指して歩く。

 

「おや? あれは──」

 

 冒険者組合の近くまで来たモモン達は、とある光景に足を止める。

 冒険者組合の前に5台の馬車が並んでいた。普段見かける馬車より豪華な作りであり、引いてる馬もかなり立派な馬である。誰が見ても、上級階級の貴族などが乗る馬車だと理解できる。

 

 しかし、モモン達が足を止めた理由は()()()()()()()

 

 馬車の周囲にスレイン法国の兵士達の姿があった。等間隔で並び、馬車を警護している。兵士達の顔は、ヘルム──と言って良いのか分からない独特なデザインではあるが──に隠されていて、表情を窺う事ができない。

 カルネ村でモモン達は法国の特殊部隊の1つと交戦した。であれば、法国が自分達の事を警戒していてもおかしくはない。モモン達は警戒しつつ、組合の入口に向かう。

 

 すると、入口のすぐ脇に女が立っていた。見た目は10代前半の少女。長い髪は片方が白銀、もう片方が漆黒の色をしている。髪と同様瞳の色も左右で異なっている。

 女は手にルービックキューブを持っており、色を揃えるのに夢中なのか、こちらをチラリと見ただけで、直ぐに玩具弄りに戻る。

 

 普段なら素通りするモモンだったが、女が持っていたルービックキューブを見て、足が止まる。

 ルービックキューブ──現実世界の玩具であり、こちらの異世界では初めて目にした玩具である。とは言っても、現実世界でルービックキューブを見たのは、子供の頃のリュウノがルービックキューブで遊んでいた時ぐらいである。どんなに色がバラバラでも、1分以内に全面の色を揃えてしまうくらい、リュウノが夢中になって遊んでいた。そんな記憶が甦る。

 

「何か用?」

 

 女から声をかけられ、モモンが慌てて過去から意識を戻す。見れば、女がこちらに視線を向けている。感情が一切感じられない無表情でだ。

 

「いや……その──」

 

 隣で見つめながら立ち止まっていれば、女が不審に思うのは当然だった。モモンは自分の浅慮な行動に心の中で舌打ちしつつ、言い訳を考えようとするが、とっさには出てこない。すると──

 

「この辺じゃあまり見かけない可愛い子だったから、つい見蕩れちゃったっだけスよ~」

 

 まるで女が自分に声をかけたかのように、ペロロンが代わりに答えた。モモンは心の中でペロロンのとっさの対応に感謝しつつ、女の様子を窺う。

 

「──……そう……」

 

 女はキョトンとした表情をうかべはしたものの、直ぐにまた無表情になり、興味を失ったと言わんばかりに玩具を弄り始めた。

 すると、女に興味のない雰囲気のウルベルが急かし始めた。

 

「皆さん、邪魔するのはよくありませんよ。それに組合長を待たせるのもよくありません。早く行きましょう。()()()さん」

 

 ウルベルがモモンの腕を引きながら無理やり組合の中に引っ張り込む。ウルベルの強引な行動に、モモンは疑問を感じながらも大人しく従う。すると、女が視界から消えたのを確認したウルベルがモモンに囁く。

 

「あの女、現実世界の玩具を持っていましたね」

「え? ええ……」

 

 それがどうかしたのか? といった反応を返すモモンに、ウルベルは呆れながら会話を続ける。

 

「エ・ランテルの店でルービックキューブが売られているのを見た事はありません。なのに、あの女は現実世界の玩具を持っていたのですよ? 警戒するべき相手かと思いますが?」

「───!」

 

 モモンもようやく事態を把握する。

 エ・ランテルは王国、帝国、法国の中間に位置する大都市だ。様々な国の商人達が行き交う、この都市の店の品揃えはかなり豊富なのだ。

 様々な商品の中には現実世界の物を模した商品も並んでいたりする。噂では、とある人物が発案した品々らしいが、作り方までは知らなかったらしく、その発案者に付いた異名が『口だけの賢者』という名前らしい。

 品揃えが豊富なエ・ランテルの店でも売られていない現実世界の玩具を持ち歩く女──ましてや、昨日まで見かけなかった人物である。警戒するべき相手であるのは言われるまでもなかったはずだ。

 

「そ、そうですね……。すみません……」

「どうかしましたか? モモンさんらしくありませんね」

「大丈夫です。ただ、あのルービックキューブを見て、少しだけ昔の頃の──リュウノさんとの思い出を思い出していただけですので……」

「……そうですか」

 

 ウルベルはなんとなくではあるがモモンの心情を察し、それ以上の詮索はしなかった。モモンもそんなウルベルの対応に感謝を感じつつ、気を取り直して受付へと足を向けた。

 

 

 そんな受付へと向かうモモン達を、先程の女が入口から少しだけ顔を覗かせて観察していた。

 

「へぇ~……あれがモモン……デュラハンとつるんでいたお仲間なのねぇ~……フフフッ」

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 組合長からの話の内容は護衛の依頼だった。言うまでもなく、護衛の依頼人はスレイン法国の人物であり、レイモンという名前の男であった。

 モモンは断ろうか迷ったが、組合長から『今回の依頼を達成したら、君達のチームのランクをオリハルコンに昇格させる事を約束しよう』と言われ、引き受けてしまった。現実世界で社畜としての経験を持ったモモンは、昇格という言葉に弱かったのだ。

 

 依頼人が待つ応接室に行くと、なんと『漆黒の剣』のメンバーも居た。詳しい事情を聞くと、今回の依頼には彼らも参加する事になっているらしく、組合長から昇格の話を受け、引き受けたとの事。おそらく、私達と最も関わりのある冒険者チームを組合長がわざと組ませたのだろう。

 

「よろしくお願いします、モモンさん!」

「こちらこそよろしくお願いします。ペテルさん」

 

 慣れた様子でリーダー同士で挨拶を交わす。既に何度も協力し合った関係であり、チーム同士の距離感や接し方のはかり具合も分かり合っている。

 

「ナーベちゃん、ルプちゃん! また一緒に仕事ができて、俺は感激だよ~!」

「近寄らないで、ゴミムシ」

 

 美女二人にいち早く接近し挨拶をしてくるルクルットの行動はいつもの事であり、それを冷たい一言で罵倒するナーベの行動もいつもの事である。

 

「ありがとうございます!」

「罵倒されて喜ぶとか、ルクルットくんは相変わらずっすね~。キモイっす!」

 

 ルクルットの反応に、棘のある言い方を本心なのか冗談なのかわからないような笑顔でルプが言うのもいつもの事である。

 

「よろしくお願いしますね、ウルベルさん」

「ペロロン殿も、よろしくお願いするのであ~る」

「どーも」

「よろしくっス!」

 

 ニニャはウルベルに対し、自分よりも実力の高い魔術師としての尊敬の念のこもった挨拶を──

 ダインはペロロンに対し、仲間を脅威から守り合う者同士としての信頼のこもった挨拶をする。(とは言っても単純に、後方支援向きのルプとナーベという美女を、ペロロンが積極的に守ろうとしているだけなのだが)

 

『漆黒の剣』との挨拶をすませ、モモンチームも席に着く。

 依頼人のレイモンから、スレイン法国の使節団の王都訪問の理由がデュラハンへの謝罪である事を知らされる。その謝罪の為にスレイン法国のトップである最高神官長が出向いており、その神官長が乗った馬車隊の警護が依頼内容だと説明された。

 

 モモンは一通り説明を受けた後、簡単な打ち合わせに入る。

 

「私達以外に、使節団の警護についている方達がいるようですが……私達はどこを警護すれば良いのでしょうか?」

 

 守備する範囲を予め決めておく事は重要だ。要人警護──とくに上級階級の貴族と言った存在を警護する場合、自分達が近付いて良い範囲というものが存在する。少なくとも、一般市民に等しい冒険者を自分達の馬車に乗せる貴族はいない。

 

「モモン殿のチームには1番前の馬車の警護をお願いしたい。『漆黒の剣』の皆様には二番目の馬車をお願いします。最後尾は我が国の特殊部隊の1つ、陽光聖典が守護します」

 

 聞き覚えのある部隊名に、モモンは思考を走らせる。

 陽光聖典──リュウノがガゼフと共に戦ったスレイン法国の部隊だったはず。あの部隊は『竜の宝』の脅威をよく知っている。なら、『竜の宝』にいきなり戦いを挑むような事はしないだろう。

 

「最高神官長の身辺警護は?」

「そちらはご安心を。我が国の最強の部隊が警護いたしますので」

 

 最強の部隊──おそらく漆黒聖典だろうとモモンは予想した。

 カルネ村でリュウノを奇襲した部隊……現時点でリュウノを殺せる武装を持った最も危険な集団、それがリュウノに謝罪する為に会いに行こうとしている。

 油断していい相手ではない。再びリュウノに襲い掛かる可能性だってありえるのだから。

 

 ある程度の情報を入手したモモン達は、最終確認として出立の日時を確認する。

 

「我々としては早い方が助かるのだが……其方は大丈夫かね?」

「……そうですね……1、2時間程、準備する時間をいただければ、今日にでも出立は可能です」

「私達も問題ありません」

「おお、そうかね! なら……二時間後に出立しよう。それで良いね?」

「ええ。構いません」

「わかりました」

 

 レイモンとの打ち合わせを終わらせたモモン達は、そのまま組合の外に行き、警護の部隊と顔合わせと軽い挨拶を交わす。案の定、カルネ村でリュウノを奇襲した部隊の生き残りの三人が居た。三人はモモン達の姿を見るなり動揺していたが、隊長らしき人物が一礼するのに合わせて部下達もモモン達に一礼した後、最高神官長が乗る馬車へと姿を消した。例の三人以外にも、漆黒聖典のメンバーが居たが、同じく馬車へと乗り込み姿を消す。自分達とはなるべく接しないようにしているのだろう。

 

 警護部隊との挨拶を終わらせたモモン達は、一旦宿に引き返し、『竜の宝』に〈伝言(メッセージ)〉で情報を渡す。

 

「かしこまりました。ご主人様にお伝えしておきます」

「よろしく頼むぞ、ブラック」

「はっ! では……──」

 

 ブラックとのやり取りを終え、モモン達は自分達のやった事を整理する。できる事はしたはずだ。後は王都に着くまで何事も起きなければいい。

 

 そう考えていたモモン達は、(のち)に自分達の考えが甘かった事を思い知った。

 

 

 

 予定通りの時間に冒険者組合へと足を進めていたモモン達の前に、血相を変えた『漆黒の剣』のメンバーがやってきたのだ。どうしたのか、理由を尋ねると──

 

「先程、エ・ランテルの東門を警備している門兵から組合に連絡があって、バハルス帝国の使節団がやって来たと……」

 

 まさかの展開である。法国に続き、帝国まで使節団がやって来てしまったのだ。しかもスレイン法国がまだエ・ランテルに逗留している最中にだ。

 

「しかも帝国の皇帝と、かの有名な大魔術師(マジックキャスター)・フールーダ・パラダインまで来ているそうです!」

 

 帝国のトップと最高戦力まで出張って来ている。となれば、目的は1つしかないだろう。

 

「なんという事だ……」

「これって、あれっスか? 帝国も『竜の宝』に会いに来たとかっスか!?」

「タイミング的に……可能性は充分ありえますね」

「どうしましょう、モモンさん。法国の皆さんに知らせるべきでしょうか?」

 

 不安そうにしているペテルがモモンに判断を仰ぐ。モモンは落ち着いた態度で返す。

 

「既に法国の方達にも伝わっていると思いますよ。むしろ、出立の時間に変更が出る可能性が高いです。ひとまず、私達は法国の方達と合流しましょう」

「わかりました」

「ウルベルさん、先にみんなを連れて法国の方達と合流を! 私は買い忘れた物があるので!」

 

 モモンはウルベル達の方を見ながら片手を耳元に当て、電話の動作をする。『連絡をとる』という合図だと理解したウルベル達は、『漆黒の剣』達と一緒に組合の方へと走りだした。

 

 モモンは人気(ひとけ)の少ない路地に入ると、〈伝言(メッセージ)〉をブラックに繋ぐ。すると、すぐさまリュウノから〈伝言(メッセージ)〉がかかってきた。

 

「何だ、アイ──じゃなくてモモン! 今クソ忙しいんだぞ!」

「あれ? 何でリュウノさん、人間になってるんですか!? デュラハンじゃないとまずいのでは?」

「今、いろいろと準備中なんだよ! それで? 用件は何だ!?」

 

 モモンは、エ・ランテルにバハルス帝国の使節団が来た事を伝える。

 

「はぁ──!? 皇帝に大魔術師(マジックキャスター)だとぉぉ! あ──もう! 次から次へと何なんだよ!」

 

 リュウノはかなり慌てているらしく、モモンから情報を受け取るなり、そのまま誰かに指示を飛ばし始めた。

 

「お前ら! すぐにソコの財宝をどかせ! 来客が増えたから、スペースを確保しろ! ブラック、すぐに王城に行って王様に伝えろ! 帝国の連中まで来ているってな!」

「──? リュウノさん、何をそんなに──」

「──モモン!」

「は、はい!?」

「いいか、よーく聞いとけよ? 今からそっちに迎えを行かせる。お前達は法国と一緒に来い! 場合によっては帝国も一緒だからな!」

「──え? どういう事なんです!?」

「決まっているだろう! お前達を、私を殺そうとした連中と王都に着くまで一緒に居させるなんてできる訳ないだろうが! お前達が襲われたらと思うと、こっちは安心できねぇんだよ! だから、馬車での移動はカットして、エ・ランテルから直接〈転移門(ゲート)〉で移動してもらう!」

「な、なんですって! 本気ですか!?」

「本気も本気だ! ひとまず、お前は法国の連中と合流しろ!」

 

 そう言うと、リュウノは連絡を一方的に切ってしまった。

 自分達を心配しての行動なのだろうが、些か大胆すぎるリュウノの手段に、モモンは不安な気持ちを隠せずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 モモンが法国と合流した時には、既に帝国の馬車隊が組合の前に停車していた。法国の馬車隊から少し距離をとってはいるものの、乗っていた者達は既に下車しており、それどころか法国と帝国の要人達同士で会話が始まっている。

 

「まさか、法国まで来ているとはな。其方も『竜の宝』に?」

「……まあ、そんなところだ、帝国の皇帝よ」

「それは丁度いい! どうかね? 私達と一緒に王都に行くというのは? その方が、王国側もそれなりの対応をしてくれると思うが?」

「我々は既に入国の許可をもらっているが、其方はまだであろう? こちらは王都とすぐに連絡をとれる手段を得ているが、帝国はどうなのかね? 今から使者を送っても、返事が届くのは六日後……そんなに待てんぞ?」

「大丈夫だとも。私達帝国も、王都と連絡をとれる手段を確立させていてね」

「……なるほど。既に仕込み済みか……」

 

 法国の最高神官長はかなり高齢の老人であるのに対し、帝国の──おそらく皇帝と思われる人物はかなり若かった。

 帝国の皇帝の見た目を一言で言うなら眉目秀麗。すらりと長い足、髪は金髪、濃い紫で切れ長の瞳をしている。

 そんな人物が、法国の最高神官長を前に堂々している。

 

 

 そんな光景を見ながら、モモンは先に到着していたウルベル達と合流する。状況を尋ねると、『ご覧の有様ですよ』と言わんばかりの仕草でウルベルが返した。

 仕方なく、モモンはレイモンの元へと確認をとりにいく。が、『しばらく待って欲しい』と返され、その場で待機する事になった。

 

 しばらく、最高神官長と皇帝の会話が続く。

 

「──なるほど。そちらは謝罪の為に……。しかし、謝罪だけで終わらせる訳ではないのだろう? 他にも目的があるように見えるが? どうなのかな?」

「悪いが、それは『竜の宝』に直接言うつもりだ。そちらこそ、『竜の宝』を引き抜きにでも来たのではないかね?」

 

 互いに腹の探り合いを行い、相手から情報を聞き出そうとしている。

 

 気付けば──エ・ランテルの冒険者組合前の広場で帝国と法国が会話している珍しい光景を見ようと、野次馬が集まっていた。

 

 

 ──その時だった。

 

「おい! あれを見ろ!」

 

 見物客の1人が空を指さした。広場にいた人々が、指された空に視線をやる。

 

「なにあれ!?」

「何なんだあれは!」

 

 空に現れたソレを見た人々が、不安気な様子でどよめきを上げ始める。

 

 バハルス帝国の皇帝も初めて目にするのか、隣に立つ大魔術師(マジックキャスター)に説明を求めている。それどころか帝国の者達だけではなく法国も、空に現れた謎の現象に動揺している。

 

「あれは何だ!? (じい)! 魔法か? あれは魔法なのか!?」

「おお……おおお……おおおおおっ!」

 

 帝国の大魔術師(マジックキャスター)は、空に起きている現象を見つめながら叫び声を上げている。まるでこの世のものとは思えない出来事に出会えて、嬉しくてたまらないと言わんばかりに打ち震えている。

 

 

 昼間のエ・ランテルの上空に、巨大な穴が開いていた。その穴──正確には、円状の波打つ水面のようなもの──は、エ・ランテルの広場と同じくらいの大きさで浮いていた。

 上空に現れた穴を見たモモンは、即座にそれが〈転移門(ゲート)〉である事を理解した。

 

 人々が不安気に見つめる中、空のゲートから次々と何かが飛び出して来た。しかも大量にだ。人々は、ソレが即座にドラゴンの群れである事を理解する。

 ドラゴン達はエ・ランテルの広場の上空を埋め尽くすかのように、円形に飛行しながら滞空し始めた。まるで巨大な竜巻の中に入ったかのような、そんな錯覚を与えてくる光景である。

 

 数匹のドラゴンが広場に降りてくる。威嚇するような声を発しながら、人々を広場の端へと追いやっていく。ある程度のスペースを確保すると、広場へ降りたドラゴン達が等間隔で並び、円陣を作り出す。広場の中央に誰も近寄らせない、そんな雰囲気を感じさせる。

 

 

 渦巻くドラゴン達の中心を、さらに大きなドラゴン──竜王・ファフニールがゲートを潜って現われ、ドラゴン達が確保したスペースに着陸する。

 着地の衝撃でズンっという音と共に揺れる大地。抉れて破損する広場の床。

 何もかもが桁違いの迫力に、『漆黒の剣』は恐怖を感じつつも、ドラゴンという存在を身近で見れた事に、僅かながら興奮を感じていた。

 

「よく聞け! 人間達よ!」

 

 巨大なドラゴンの出現に呆気にとられている人間達に向かって、竜王・ファフニールが話かける。

 

「我は竜王・ファフニール! 『竜の宝』のリーダー、勝様によって召喚された竜王である! 此度は主人の使いとして来た! スレイン法国の使節団は何処にいる!」

 

 竜王からの呼び出し。スレイン法国の使節団の者達が、恐る恐るといった面持ちで進みでる。

 

「わ……私達がスレイン法国の者だ」

 

 最高神官長を前に出す訳にもいかず、代わりにレイモンが代表して竜王に声をかける。

 ファフニールがスレイン法国の人間達を一瞥する。

 

「……貴様らがそうか。我が主人に謝罪する為、ここまでご苦労。我が主人も貴様らの謝罪を首を長くしながらお待ちだ。故に、ここからは──」

 

 ファフニールがそこまで言ったとき、空に現われていたゲートが消え、ファフニールの背後に再出現する。

 

「──このゲートを潜り、王都にある我が主人の拠点まで転移してもらう。無駄な時間は少ない方がいいからな」

 

 戸惑うスレイン法国の人間達。移動時間が短くなるのは嬉しいが、得体の知れない未知に挑むのには勇気がいるものである。

 

 するとそこへ、帝国の皇帝がファフニールの前に進み出た。部下達が慌てふためきながら制止の声をかけたにも拘らずだ。

 

「竜王・ファフニールよ! 私はバハルス帝国皇帝──ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである。貴殿の主人に用があり、私達も会いに来た! 我々も貴殿の主人に会わせてもらえないだろうか?」

 

 堂々した振る舞い。まるでドラゴンを恐れていないかのようにすら感じられる皇帝の様子に、ファフニールも興味げに視線を向ける。

 

「ほう? 貴様らもか。……よかろう! 会わせてやる。ただしこれだけは言っておく。貴様らの用がなんなのかは知らぬが、話し合いの場では、王国、評議国、法国の代表達と一緒に話し合う事になる。何か問題はあるか?」

「ない。むしろ、各国の代表がいる場で話し合える方が話も早く進むので都合がいい」

 

 皇帝の表情は余裕を漂わせる面持ちだった。余程自信があるのだろう。

 

「そうか。では……そこの冒険者達!」

 

 ファフニールがモモン達の方を見る。この広場は冒険者組合の目の前にある。当然、見物客の中には冒険者達もたくさん居た。そんな中からファフニールがモモン達の方に視線を送る。

 

「試しに貴様らがゲートを潜り、安全性を証明しろ」

 

 竜王からのご指名、これが意図的なものだとモモン達は察する。リュウノがモモン達を連れてくる為の策だろう。竜王からの命令で仕方なくゲートを潜ったと思わせる為の。どの道、ミスリル級の冒険者であるモモン達がドラゴンの命令に逆らうような、そんな馬鹿な真似はできない。そんな行動をすれば怪しまれるからだ。

 

「貴様らもだ」

 

 ファフニールの視線が『漆黒の剣』にも向く。モモンのチームだけを選抜すれば違和感が出る。それを避ける為なのだろう。

 

 指名された『漆黒の剣』のメンバーがゴクリと唾を飲み込む。そして仲間達同士で顔を見合わせる。

 これから自分達は未知の世界に飛び込む。本来なら恐怖や戸惑いを感じるものの筈が、不思議と自分達は興奮しワクワクしている。それが実感できている表情を全員がしていた。

 

「竜王様からの指名では拒否する訳にもいきませんね。皆、覚悟はいいですか?」

 

 モモンが『漆黒の剣』に視線を向けながら確認をとる。モモンのチームメンバーも『漆黒の剣』も、全員が頷く。

 モモン達はファフニールの隣を通りすぎ、ゲートの目の前に立つ。

 

 

 そして──最初にモモンチームがゲートに手を触れ、沈むように中に入って行ったのをきっかけに、『漆黒の剣』、帝国、法国の者達も後に続いてゲートを潜っていく。最後に残ったファフニールがくるりと振り向き、広場にいる人間の方を見る。

 

「エ・ランテルの人間達よ、騒がせてすまなかったな。では私も失礼する」

 

 そう言った瞬間、ゲートと一緒にファフニールの姿が消える。周りにいたドラゴン達も、上空に居たドラゴンも含め、全てが消える。

 エ・ランテルの人々は、まるで夢か何かを見ていたかのような様子で呆気にとられるしかなかった。

 

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