それと遅くなりましたが、明けましておめでとうございます!
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仲介人として立ち会った蒼の薔薇は、デュラハンに個人的な相談をしにやって来た人物達の会話を聞いていた。
特に、メンバーの中で1番長い時を過ごしているイビルアイは、己が持つ知識には無い事ばかりするデュラハンが、どのような対応をするのか興味を抱いていた。
「呪いを解いていただけませんか?」
「はい、解呪のポーション!」
「あ、ありがとうございます!」
「魔法の深淵を覗かせて頂きたい!」
「はい、第7位階の魔法《チェイン・ドラゴン・ライトニング/連鎖する龍雷》の魔法が記された魔導書!」
「ヾ(*゚ο゚)ノオォォォォーーー!! あ、ありがたき幸せぇぇぇえ! _|\○_」
深刻な表情で相談に来た帝国の四騎士──レイナース・ロックブルズは、自身の顔の半分を覆う呪いについて、デュラハンに相談を持ちかけた。
レイナースの呪いはイビルアイにも解く事ができない程の強力なものだった。
レイナース自身も、藁をも掴む想いで『竜の宝』に頼ってみたとの事。
しかし──
レイナース・ロックブルズの顔の呪いをデュラハンはあっさり解決。デュラハンはレイナースに、呪いを解いた見返りとしてある約束を交わした。
それは、デュラハンが帝国の貴族になった際に貴族のしきたりやマナー等を教えるというものだ。
元々デュラハンは貴族ではない。貴族に必要な知識を得る為の人脈の構築という事ならば、この約束は特に問題はない。
何よりデュラハンがやった事は
呪いを解いてもらったレイナースは、泣きながら笑顔で約束を承諾。デュラハンに感謝の言葉を述べながら退室した。
次の人物は──
部屋に入るなり、開幕土下座をしながら懇願を始めた人物──帝国の主席宮廷魔術師であり、
イビルアイですら第6位階の魔法には到達しておらず、自身より高い位階の魔法を酷使するフールーダには、魔術師としての格の違いを認めていた。
そんな人物がいきなり土下座を始めるのだ。沸き上がってくる困惑の気持ちを抑えることなどできなかった。
デュラハンは何も言ってもいない。しかし、フールーダは土下座しながら己の全てを捧げると言い出した。
自身よりも高位の魔法を酷使する魔術師が土下座している光景に、イビルアイは驚きを隠せなかった。
あまりの迫力に流石のデュラハンもたじたじであり、立ち上がるようフールーダを促したが、フールーダは平伏をやめなかった。
結局そのまま会話を進める事になった。
デュラハンは、フールーダから帝国の魔法に関する技術や教育体制などを詳しく聞き、特に帝国の魔法学院に関してとても興味を抱いていた。
フールーダの権力を利用し、魔法学院の見学や入学は可能か? という質問を投げかけ、可能だと返事をもらうとデュラハンは大層喜び。
フールーダに第7位階の魔法──《チェイン・ドラゴン・ライトニング/連鎖する龍雷》が記された魔導書を機嫌よく渡していた。
対するフールーダも大喜び。
魔導書を受け取ると、平伏しながらデュラハンの足にキス(正確に言えばレロレロ)をして、涙を流しながら感謝の言葉を述べ、退室して行った。
もしもの場合として、デュラハンは自身が学院に訪問する機会があった際に、学院側のパニックを避ける策としてフールーダの協力を得る事を考えたらしい。フールーダを同行させれば学院の生徒や先生達と関係を持てやすくなると、私達に説明した。
魔法学院の入学には年齢や種族の規制がないらしく、入学時のテストなどを達成すれば入学は可能だとの事。
デュラハンが学院への入学を希望した場合、正当な手段で入学するとなれば、我々はそれを止める事はできない。
さらに、人間達との友好的な関係を築く方法だと言われてしまうと、こちらも咎める事ができず、不正な取引という扱いにはしづらかった。
結局、これも黙認するしかなかった。
ちなみにだが
まったくもって納得がいかない。
何故私は駄目なんだ!
…………読みたかったなー……あの魔導書……。
次の人物──
リグリットは陽気な雰囲気で入室し、私達に手を振った。そしてデュラハンに改めて挨拶をし、自身の自己紹介を始めた。
デュラハンはリグリットが十三英雄のメンバーであり、200年以上生きている人間であると知って驚いていた。
「まさか……十三英雄の生き残りがいたとはな……」
「驚いたかの? カカカッ!」
「それでリグリットさん、貴方の要件は?」
「……そうじゃな……
「───ッ!」
いきなりその話題を出すのかと、イビルアイは僅かに緊張する。
デュラハンがユグドラシルという世界から来た存在である事は明確だ。
200年以上の時を生き、様々な出来事を体験した自分が保有していない知識や魔法、様々なアイテムを、デュラハンは惜しげも無く披露している。
未知の塊であるデュラハンが、自分と同じ世界の存在だとは思えなかった。
現に──リグリットから発せられたユグドラシルという言葉に──デュラハンが警戒心を高めた様子が感じられた。
「……なぜ貴方は、ユグドラシルについて知っているのです?」
「ある人物に教えてもらったんじゃ。そやつは、自分はユグドラシルという世界から来た者だと言っておった」
「その人物とは?」
「わしの質問に答えたら教えてやる」
リグリットの表情が真剣なものに変わる──知りたければ、そちらも情報を渡せ──という意味だろう。
「……チッ……そういう事か……仕方ない──」
デュラハンもリグリットの思惑を理解したのだろう。
若干面倒くさそうに指示を飛ばす。
「──レッド、部屋の扉に鍵をかけて音を消せ」
指示を受けたレッドが素早く扉に鍵をかけ、魔法を発動させる。
これにより、この部屋の会話は外部に漏れなくなった。
様子を眺めていたラキュース達の不安気な表情を察し、デュラハンが説明する。
「今、この部屋での会話が外部に聞こえないよう遮断した。よって、ここでの会話で得られる情報を知っているのは私達とお前達だけだ。この意味がわかるか?」
「……ここで得た情報を
「そうだ。ただし、ツアーという人物だけには話ていい。それ以外の人物には言うな。特にお前達! あの王女には絶対喋るなよ。この前のように、うっかりバラされたら困るからな!」
デュラハンがこちらを指さしながら──どちらかというとラキュースを──注意してきた。
ラキュースが以前犯した失敗……人間に化けたデュラハンの正体(名前)をレエブン侯や王女の前でうっかり喋ってしまった件。きっとその時の事を根にもっているのだろう。
ラキュースが苦笑いを浮かべている。
「さて……で、質問というのは?」
評議国の老婆──リグリットが入室してからかなりの時間が経過した。
未だに彼女が出てくる様子はない。
待合室では、順番待ちしているもの達で談話が繰り広げられていたが、雑談のネタも尽き始め、最初の活気はなくなりつつあった。
「長いですね……」
「そうですねー……あの老婆──いや、リグリットさんはなんせ200年以上生きている方ですからね。『竜の宝』に質問したい事が山ほどあったのかもしれません」
「あるいは、十三英雄時代の過去話で盛り上がっているか……ですかね……」
退屈そうに呟くウルベルに、同じ雰囲気で応えるモモン。
かなり深い話し合いが行われているのだろう──二人はそう予想しながら、老婆が出てくるのを今か今かと待っている。
そんな二人とは裏腹に、ペロロンとルプは漆黒の剣のメンバー達と、先程まで待合室で一緒だったリグリットについて語りあっている。
帝国の二人が『竜の宝』と面会している時、リグリットが自己紹介を交えながらエ・ランテルで起きた悪魔騒動に関して尋ねてきたのだ。
リグリットの名前を聞き、リグリットが十三英雄のメンバーの内の1人である事を知った漆黒の剣のメンバー達は驚き、御伽噺の有名人に会えた喜びと感動の声を上げまくったのだ。
モモン達と漆黒の剣のメンバーはリグリットに悪魔騒動の事を話した。
その途中、ヤルダバオトがリュウノを暗黒騎士と呼んでいた事を話すと、リグリットの表情が著しく変化したのだ。そして、その時の事をより詳しく教えて欲しいと言ってきたのだ。
「本当に、そのヤルダバオトとか言う悪魔は、リュウノと名乗っていた竜人を暗黒騎士と呼んだのかの?」
「ええ。……リュウノさん本人は、最初は否定してましたが──」
途中からリュウノが悪魔っぽい姿に変化し、自身が暗黒騎士と認めるような言動をしていた、という事がペテルの口から語られた。
それを聞いたリグリットは腕を組み、何やら考え込み始めた。
不思議に思ったモモンが声をかける。
「どうしました、リグリットさん?」
「……う〜む……実はな……わしもあ奴の──暗黒騎士の種族を正確には把握しておらんのじゃよ」
「え!?」
全員が驚く。
同じ十三英雄のメンバーであるリグリットですら、仲間であった暗黒騎士の種族を知らなかったのだ。
「何故です? 御伽噺では、暗黒騎士は悪魔との混血児だと言われていますが……?」
「それなんじゃが……
そういう事かと、皆が納得する。
イジャニーヤは十三英雄の中で隠密に特化した人物であったと、御伽噺で語られている。その人物から得た情報であり、リグリット本人が目撃した訳ではなかったという事実が判明した。
「次の日の出発に備え、夜中に水を汲む為に野営地近くの川に行ったところ、水浴びをしている人物を見つけたらしくてな。後ろ姿しか見えず、夜だったせいかハッキリと姿を確認する事ができなかったそうじゃ。唯一わかったのは、頭に角、長い黒髪、紫に似た色の尻尾と蝙蝠のような翼だったそうじゃ」
モモン達と漆黒の剣のみんなが顔を見合わせる。
リュウノの特徴と見事に合致する。
モモン達は、「(こんな偶然はありえるのか?)」と、半信半疑の状態だが、漆黒の剣のメンバーはリュウノが本当に十三英雄の暗黒騎士だったのでは? と、確信を強めていく。
「では、それ等の特徴から暗黒騎士の種族を悪魔かも知れないと?」
リュウノの事情をよく知っているモモンは、冷静に話を整理していく。
「まぁの。あ奴は自分の種族を頑なに話そうとしなかったからの。結局、覗き見がバレて水浴びをしていた奴には逃げられたそうじゃ。水汲みから戻ったイジャニーヤからその話を聞き、仲間の誰かでは? という話になったのじゃが……──」
「その時居なかったのが、暗黒騎士だったと?」
「その通りじゃ。あ奴はちょうど見回りに行ってた最中でな。戻ってきたあ奴に仲間達が詰め寄ったが、あ奴はシラを切ったんじゃよ」
話を正しく並びかえると──見回りに行くフリをして水浴びに行っていた暗黒騎士が、仲間の1人であるイジャニーヤに水浴びを目撃された。暗黒騎士は自身の素性を隠し続けたが、覗き見で得た情報を仲間の誰かが世間に漏らし情報が拡散。最終的に──
「その時の事が、御伽噺として広まったと?」
「おそらくな。じゃが、人間以外の種族の英雄を気にくわない連中が、あ奴の素性を作りかえてひろめたんじゃよ。悪魔と人間の混血児とな」
「なるほど……悪魔では印象が悪く思われる可能性もあり、英雄として扱いずらかった。だから、人間の血が混じっている混血児という存在にされた……そんな感じでしょうか?」
リグリットが頷く。
おそらくだが、暗黒騎士の情報改変にはスレイン法国出身の者達が一番関わっている可能性が高い。
神を信仰しているスレイン法国にとって、悪魔は邪悪なる存在そのもの。英雄として扱う事じたいに抵抗を感じるはずだ。
その後もモモン達は十三英雄に関する事をリグリットに尋ねた。が、途中で彼女が呼ばれた為、話は一旦打ち切りとなった。
「──やっぱりリュウノさんは暗黒騎士なんでしょうか?」
「んー……どうッスかね〜……リグリットさんも、暗黒騎士の性別に関してはわからないって言ってたッスからねー……」
「声色も、性別の判断が難しい声色だったって言ってたっすからね。せめて性別だけでも判別してれば、判断材料になったっすけど……」
「俺は女だと思うね! 水浴びをしてたって事は身体を洗っていたって事だ。旅の途中で女が身体を洗いたがるのはよくある事だって聞くし、暗黒騎士は女に違いない! つまり! リュウノちゃんは暗黒騎士で決まり!」
「ルクルット、それは少し安直すぎるのであ〜る!」
「でもでも、オレっちも女だと思うッス! そっちの方がこう……なんというか、華がある──的な?」
「流石ペロロンさん! やっぱ俺達ウマが合いますね〜!」
相変わらず、ペロロン達と漆黒の剣のメンバーが『暗黒騎士が女ではないか?』という議論で語り合っている。
漆黒の剣のメンバーは真剣なのだろうが、ペロロンは完全にエロゲー路線に持っていこうとしている。
そんなペロロンの──ある意味恥ずかしい──言動を懐かしく思いながら、モモンは気付かれないようにしながらヘルムの中の視線を別の場所へと移す。
その場所は待合室の隅にいる人物。
無表情でルービックキューブを弄る女。彼女もまた異質だった。
美女に目がないルクルットやペロロンが話しかけてもまったく動じす、『……集中の邪魔』と冷たく突き放したのだ。
ルービックキューブは1面が揃ってはいるが、それ以降はまったく進行がなく、揃えられていない。
彼女のルービックキューブを弄る姿が子供時代のリュウノを思い立たせるせいで、どうしても気になって見てしまう。
だが、彼女を見ていると複雑な気分も滲み出てくる。
モモンが思い出す子供時代のリュウノの姿は楽しげに遊ぶ姿である。
しかし、今、目の前でルービックキューブを弄る女の表情は無表情だ。
リュウノと彼女を重ね合わせようとしてもまったく合わない。
そんな些細なズレが、モモンをスッキリさせてくれないのだ。
──せめて……もう少し笑ってくれれば……──
そんな事を考えた時だった。
女の視線が動き、部屋の中央へと動いた。
そして──
「失礼します」
──突如、部屋の中央から声が聞こえた。
ビックリしたモモンが目を向けると、いつの間に待合室に入ったのか、ブラックが立っていた。
てっきりリュウノ本人が現れたのかと、少しだけ焦ったモモンだったが、現れたのがブラックだった事に安堵する。
待合室にいた者達がブラックに目を向けた事を合図に、ブラックはモモン達の方にお辞儀しながら丁寧な口調で言葉を告げる。
「長時間お待たせして申し訳ございません。ただいまリグリット様とご主人様の会話が長引いており、この後まだお時間がかかります。もう既に夕方の時刻になりますが、問題はございますか? ないのであれば御夕食などを用意致しますが?」
もうそんな時間なのかと、誰もが時間の感覚を忘れていた事に気付く。
漆黒の剣のリーダーであるペテルは、モモンにどうするか尋ねた。
通常なら、両チームが時間を気にする必要はない。冒険者という立場である彼らは、宿泊する宿さえ確保できれば基本的に自由である。
しかし、今回は法国の護衛として付き添っている立場である。法国が別の場所に移動する場合は同行しなくてはならない。
モモンが法国の人間に確認を取りに行く
「必要ないわ」
──部屋の隅にいた女が呼び止めた。
モモンが理由を尋ねると、女はブラックに歩み寄る。
「私が此処にいる限り、法国は移動しないわ。そして、私は最後まで残るつもりよ。たがら貴方達も最後まで残る事になるわ」
「残る──とは、どういう事でしょうか?」
「貴方の主人に試合を申し込むからよ」
女を怪しげに見つめながら尋ねるブラックに、女は無表情で言い放った。
試合を申し込む──つまり、彼女がデュラハンに戦いを挑むつもりでいる。部屋にいた全員がそう理解し驚愕した。
「ご主人様が試合を断った場合は?」
「引き受けてくれるまで帰らないわ。それでもダメなら──コッチから仕掛ける」
キッパリと言い切った。
下手をすれば自国すら巻き添えになるかも知れない強行手段。それを行うと、彼女はそう明言したのだ。
ブラックの顔が敵を見る目へと変化すると、女の口元が初めて笑った。
「そんな事をすればタダではすまないぞ、女」
「国がどうなろうと構わないもの。
笑みを浮かべながら躊躇無く言う女に対し、ブラックの表情は変わらない。
代わりに、漆黒の剣のメンバーの表情が険しくなる。平凡な力しか持たない彼らは、女の言動が異常すぎて理解できないのだろう。
ブラックは一度、モモン達に視線を移す。
自分の主人以外の至高の御方が目の前に三人いる。この女の申し出にどう応えるべきか、判断を仰ぎたい気持ちだったが、グッと堪える。
自分の主人が負けるなど
それにもし万が一の事態になろうものなら、自分達が全力で主人を護ればいい。逃げる時間を稼ぐぐらいはできるはずなのだから。
「良かろう。主人に伝えてくる」
「……そう。じゃあ私はもう用済みだから戻らせてもらうわ」
女が待合室から退室しようと扉に歩き出す。
それをブラックが呼び止め、最後の確認を取る。
「待て! 貴様の名は?」
「……あ。言い忘れてたわ。私の名は『番外席次』──スレイン法国最強の女よ」
「(こいつが!?)」
そう言って女──『番外席次』は立ち去った。
女がスレイン法国最強と言われている存在だと知り、モモン達が驚愕する。自分達は今までその様な存在と一緒の部屋に居たのか、という驚きも含めて。
ユグドラシルのプレイヤーやNPC、或いはそれに匹敵するかも知れない実力を持っている可能性を持つ存在からの試合の申し出。しかも断わる方が面倒な事になるオマケ付き。
引き下がるなど不可能な状況に追い込まれた。
ブラックは一度、モモン達の方に向かってお辞儀をすると、「主人に報告してきます」と告げ、待合室を出ていった。
モモン達はそれを不安げに見つめる事しかできなかった。
オバマスに番外席次が実装されて、ある程度、彼女の戦い方が参考にできる様になって嬉しいです。
(どうしよう……彼女、光属性の攻撃するんだ〜……ヤバイな〜……リュウノの耐性的に、光はアウトなんだがなぁ〜……)
_( ┐「 ﹃ ゚ 。)__