注意として──
今回の番外席次さんの設定は、原作準拠ではなく、私の想像によるオリジナル設定が多く含まれています。
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闘技場内にいた各国に、ブラックの口から今後の予定が変更される旨が伝えられた。
夕食後に行う予定だった談議を中止し、御前試合を行う──と。
当然の如く、各国から詳細を尋ねる声が上がる。が、ブラックはそれを無視。淡々と言葉を続ける。
「試合を申し込んだのは法国の番外席次という方です。この申し出に、我らがご主人様は応じると仰いました。よって夕食後、試合場の準備を行います。真に申し訳ございませんが、夕食後は皆様は観客席の方へ移動願います。ご報告は以上です。──では、夕食を用意致しますので、しばらくお待ち下さい……」
伝える事を伝えると、ブラックは瞬時に姿を消した。
騒然とする各国。
特に法国は混沌と化した。最高神官長が慌てながら、番外席次に詰め寄っている。
「何を考えているのだ! 我々は謝罪に来ているのだぞ!?」
「……なによ、別にいいじゃない。私が勝てば、法国は安泰。恐れる必要もなくなるじゃない。それに……あのデュラハンが、本当に神に相応しい力を持った存在なのか、確かめる必要もあるでしょ?」
「ぐっ……それは、そうなのだが……」
「なら、問題ないわね? 私、試合に向けていろいろと備えなきゃいけないから、失礼するわ」
相変わらずの無表情で応えた番外席次は、法国の馬車へと歩いていった。
法国最強相手にどうする事もできず、最高神官長は不安と苛立ちの表情を浮かべながら、頭を掻きむしるしかなかった。
しばらくして、チーム・漆黒の剣とモモン達が面談を終わらせ、法国の陣営に帰還。それと同時に蒼の薔薇の面々も王国陣営に戻っていく。
リーダーであるラキュースは最初と同じ場所──ラナーの横に座る。
帰って来るのを首を長くして待っていたであろうラナーが、ラキュースを笑顔で迎える。
「待っていたわラキュース」
「待たせて申し訳ないわね、ラナー」
「ううん、別に構わないわ。それよりも──」
「ええ、わかっているわ。何があったのか、知りたいんでしょ?」
ラキュースはひと通りラナーに説明した。
帝国と法国の内容は全て語り、無論、リグリットとデュラハンの会話の内容は全てを言う訳にはいかず、幾つかは口止めされた事を正直に伝える。
「……そう。少し内容が気になるけど、念押しされてしまっているなら仕方ないわね……」
「ごめんなさい、ラナー。……本当は全て話したいけど、私達にもいろいろ事情があるのよ……」
「いいのよ、ラキュース。私も無理に聞くつもりはないわ。それより続きをお願い」
「わかったわ。えーと──」
ラキュースは残りの2つの冒険者チームの内容について語った。
漆黒の剣の内容は、エ・ランテルの悪魔事件にて、悪魔達に連れ去られた竜人・リュウノの救出を『竜の宝』に嘆願しに来た、というもの。
彼らは悪魔事件発生時に現場に居た当事者達であり、悪魔に殺されそうになったところをリュウノに助けてもらった恩があるとの事。一刻でも早くリュウノを悪魔の手から救い出して欲しいと、『竜の宝』にお願いしたかったらしい。
チームリーダー・モモンを筆頭とする冒険者チームは、リュウノが所持していた四大暗黒剣の1つ──邪剣・ヒューミリスを『竜の宝』に渡しに来た、というものであった。
「最初見た時は驚いたわ……まさか暗黒騎士の剣がもう1本見つかっていたなんて。私、思わず『触らせて!』って叫んじゃって──」
楽しそうにその時の事を語るラキュース。
同じ四大暗黒剣の所持者として、『竜の宝』や他の冒険者チームから剣の管理や扱い方などを質問され、ある程度の助言などを与えたりしたとの事。また、元々の剣の所有者である暗黒騎士が十三英雄の一員だったという事もあり、十三英雄の生き残りであるリグリットに剣を返却するべきかどうか、デュラハンが尋ねたりもしていた──など。
最終的に、その剣はデュラハンが受け取り、一時的に管理する事となった。
結果、特に気にするべき事はなかったと、ラナーは結論付けた。
個人的には、十三英雄のリグリットとの会話内容が気になる所ではあるが、それはいつかラキュース達から聞き出せば良いだけで、現状は焦る必要はない。強いて言うなら、虎視眈々と『竜の宝』が帝国との関係を築いている事が、王国にとって問題となるぐらいだろう。
ラナーがラキュースに礼を言ったその時、タイミング良く夕食が運ばれてきた。二人は再び、美味しい夕食を楽しくいただくのだった。
夕食後、試合場は今、多くのドラゴンやアンデッド達によって掃除が行われていた。試合場を埋めつくしていた財宝を地下へと運ぶ作業が行われている。後数分もすれば、砂金と金貨だけが残った試合場が出来上がる事だろう。
それに合わせるように、闘技場内にいる者達の話題は、この後行われるであろう試合の事でもちきりである。
スレイン法国最強の女とデュラハンの戦い、誰もが気になる試合である事は明白である。試合の内容や結果次第で、ここに集まった国々からの
評価が大きく変わる事だろう。
特に──『竜の宝』と鍛練を行った事がある者達──クライムを始めとする、ガゼフ、蒼の薔薇のメンバー達は、試合を観戦し参考にすることで、自身の戦術向上や対デュラハンへの対抗策を編み出そうと真剣だった。
そうして10分後──
整地が終わった試合場に、既に準備が整った番外席次が入場し、試合開始を待っていた。彼女の手には、十字槍に似た
「あれが勝殿の対戦相手か。クライムと同い年くらいに見えるが……」
「そ、そうですね……。もっと、イカつい方が戦うのかとばかり……」
自分と同じくらいの年齢の少女が試合場に現れた事に、クライムは驚きを隠せない。
遠くから見てもわかる程、あの少女には戦士として鍛えられた様な雰囲気が感じられなかった。何より、格好も戦士らしくない。左手と右足に重厚そうな黒っぽい鎧を身に付けてはいるが、それ以外は布地でできた衣服を纏っているだけであり、とても戦闘向きの格好には見えない。
所持している武器も、少女が持つにはあまりにも不釣り合いだった。
少女が手に持っている戦鎌の刃の形は、敵を殺す事にこだわったかのような殺意の高い形をしており、刺す、切る、引き刈るなど、全ての状況に対応できる形をしている。
そんな恐ろしい武器を、少女が何食わぬ顔で持っているのだ。あれを振り回して戦うのだろうが、正直に言うと、少女があの武器を扱えるようには見えない。
しかし──
デュラハンに試合を申し込んだという事は、あの少女にはなんらかの勝算があるという事だ。だが、全く想像はできなかった。彼女がデュラハンに勝てる姿が。
その時、闘技場の扉が開く。
観客席から各国の者達が見ている中、デュラハンがドラゴンに乗った状態で入場してきた。のしのしと歩きながら入場してくる黒いドラゴン。
その頭の上で仁王立ちしているデュラハンの姿は、先程と同じく、頭の部分を除いた黒の全身鎧であり、手には剣と盾を装備している。
盾には赤い竜の顔の浮き彫りが大きく刻まれており、口の部分から火が出てもおかしくないほど精巧に作られている。
そして──
「勝殿が手にしているのは剣か……いつもの刀ではないのだな」
「そのようですね……しかし、あのような剣は初めてです」
「……確かに。あの剣の刃は、些か不思議な形だな」
デュラハンの持つ剣は不思議な形をしていた。
一見すると形はレイピアに近い。
だが、レイピアにしては刃の形が変なのだ。
まず先端が鏃のような形をしている。その先端から一定間隔で同じ形のギザギザした刃が続いている。具体的に言えば、コップを逆さまにして同じ物を幾つも重ねたような、そんな形状の刃である。
とてもではないが、実戦向きの武器には見えない。
「ストロノーフ様、参考までに聞きたいのですが……」
「何だ?」
「以前、御前試合の決勝で戦った相手であるブレイン・アングラウス様と勝様では、どちらが強いですか?」
ブレインはガゼフと互角の勝負を繰り広げた人物として有名な刀使いである。比較する対象としては、クライム的には一番わかりやすい人物である。
「ふむ……比べるまでもない。勝殿の方が圧倒的に強い」
「ほ、本当ですか!? ……根拠は?」
「ブレインと勝殿とでは、動きと武器の振りの速さだけでも圧倒的な差がある。ブレインの動きは、ある程度までなら私も見切れる自信がある。が、勝殿は無理だ。あれは速すぎる」
確かに、とクライムも同意する。
離れた場所から目の前まで一瞬で移動し、フルアーマーの相手を悠々と切り裂く。
それ程の事をいとも容易くやりこなす腕前を持つ人物が、普段から身に付けている刀を試合で使わないのだ。となると、刀は単なる趣味であり、本気の時は剣を使うという事になる。
そんな事を考えている間にも、試合場の状況は進む。
デュラハンを試合場に降ろした黒いドラゴンが、竜人形態になって王国側の観客席へと移動。そして平然とクライムやガゼフ達の近くに座る。
「失礼するぞ、お前達」
「ブラック殿、何故こちらに?」
「私達もここで、ご主人様の戦いを観戦する」
そういうと、試合場の端にいたブルーとレッドの二人を呼び、自分の横に座らせた。
これにより、試合場は番外席次とデュラハンの二人だけとなった。いつ試合が始まってもおかしくない状況である。
二人の距離は約30m程。クライムなら、接敵するのに数秒はかかる距離だ。
「いよいよ始まりますね……」
「そのようだな」
高鳴る気持ちを抑えるクライムとガゼフ。
試合場にいる両者がどのような戦いをするのか、気になって仕方がないのだ。
──一方、その頃。
観客席から来る多くの視線に、試合場に立ったリュウノは僅かながら緊張していた。別に闘技場での戦闘が初めてだからとか、そういう訳ではない。ナザリックにも闘技場はある。観客は皆ゴーレムである為、情けない負け方をしても問題はないが。
しかし、今回は違う。
各国の首脳や警護の兵士、はたまた冒険者……そういった、
かっこ悪い戦いにだけはならないようにと、リュウノは祈る。
しかし、相手は未知の相手であり、しかも最強を名乗る相手である。どんな戦いになるかなど、予想もつかない。
なにより対人戦闘に関しては、おそらくアインズよりも経験がない。リュウノが対人戦をやる機会など、ユグドラシルではあまりなかった。
それは幸運か? あるいは環境に恵まれていたから? それとも両方?
──いや、多分両方だったのだろう。
カンストレベルのプレイヤー達が束にならないと勝てない難易度の竜王がいるエリアでPK行為をやるプレイヤーなんて現れるわけがないのだ。そんな事をすれば……最悪、自分が竜王にキルされる。
そんな場所に、リュウノはしょっちゅう通い詰めていた。ましてや、移動手段が転移可能な
無論リュウノにも、PK目的のプレイヤーと遭遇し戦闘になった経験は僅かにある。指で数える事ができる程度の数でしかないが。それでも、まともな戦闘になった事はない。
当時のリュウノはドラゴンに夢中であり、敵対的なプレイヤーと遭遇した時は適度に戦闘行為をやり、途中で戦闘をやめて逃げるという、些か卑怯な手段をやっていたのだ。プレイヤーとの戦いで体力を消耗したくなかったから、というのが最大の理由だ。
アンデッドは治癒魔法やポーションによる回復行為ができない。アンデッドの体力回復は、負のエネルギーを吸収するか、即死系の魔法かスキルを自身に使用するという方法が主な手段である。
これからドラゴン達と戯れる予定なのに、敵対プレイヤーに体力を減らされてはたまったものではない。戦闘の途中でモンスターを召喚し、敵対プレイヤーがそれらを処理してる間に
だからこそ、今になってリュウノは悔やむ。ある程度は対人戦闘の経験を積んでおくべきだったと。
だが、今更悔やんでもどうしようもない。
今の自分にできる──カンストレベルのプレイヤーがやってきそうな事に対する──対策はやってはみた。即死対策、時間対策は必須。これはアインズから教わっているので当然やった。他のデバフ対策も、思いつく限りの事をやった。
唯一不安なのは……神聖と光に対する対策ができていない事。
対ドラゴン用に炎耐性は完璧にしている。故に、炎属性のダメージは無力化できる。他の属性──雷や毒、氷に水、風や闇など──に対する耐性も、ダメージを激減させる程の耐性は施している。
しかし、神聖及び光属性に関しては無理だった。ハッキリ言って脆弱だ。相手が神聖や光属性の攻撃を多用してきた場合、自分の勝率は格段に下がる。
だが、これは仕方のない事なのだ。アインズもウルベルトさんも、チャンピオンであるたっちさんも、全ての属性に対して完全耐性を備えるなんて事はできないのだ。
ユグドラシルというゲーム自体、プレイヤーが全ての耐性を獲得できないよう調整を施して対策していた。完全無敵のキャラを作れないようにする為に。
故に、どうしても耐性に穴が開く。その弱点を、いかに早く見つけるかが、勝利への鍵でもあり、ユグドラシルというゲームでの対戦の醍醐味でもあった。
だがしかし──
この異世界において、これから戦う相手がユグドラシルのルールや法則に従っているという保証はない。タレントという謎の能力持ちが存在したりする世界だ。完全無敵の存在がいないとは断言できない。
仮に完全無敵ではないにしても──
魔法に対して無敵
物理に対して無敵
遠距離に対して無敵
──などというとんでもない耐性を持っていたりする可能性もありえるのだ。
リュウノは目の前に立つ対戦相手──『番外席次』に目を向ける。
無表情で物騒な武器を持って立っている彼女は、こちらを恐れている様子がまったくない。
自分の強さに自信があるからだろうか?
それとも、装備品が高ランク且つ高性能であり、耐性が万全だから?
──駄目だ、まったくわからん。
だが戦う前に、一番重要な事を聞く必要がある。
「あのさぁ、ちょっといいかな?」
「……なにかしら?」
「これから貴方と私は戦う事になるんだけどさ、一応ルールの確認をしてもいい?」
「ルール?」
「うん。まず勝利条件はどうする? どちらかが死ぬ、又は敗北を宣言するまで、というシンプルな感じでいい?」
「ええ。それで構わないわ」
「オッケー……なら次。私と貴方による1VS1の戦いになるわけだけど、召喚魔法を使うのってアリ? 私としては、アリの方が本領発揮できるんだけど……」
アリであれば、竜王を一斉にけしかけて数の暴力で圧勝できる。この戦術ならば、どんなプレイヤーでもねじ伏せられる。あのたっちさんですら。
「……そう。私は別に構わないわ」
「(しゃァァ! 私の勝ち確定!)」
心の中でガッツポーズを決める。
召喚魔法がアリならば、数の暴力で攻め続け、自分は遠距離攻撃に徹するという安全な戦術が行える。
そのはずだったのに──
「待って欲しい! 流石に1VS1の戦いでモンスターを多用するのは卑怯だと私は思うのだが……皆さんはどう思う?」
帝国の皇帝──ジルクニフが抗議の声を上げた。それどころか、他国に意見まで求めている。
「(あの野郎ぉ! 余計な事ぉぉ!)」
心の中で湧き上がる苛立ちを、リュウノは必死に隠す。
そして冷静に考える。おそらくだが、ジルクニフ皇帝は私個人の戦闘能力を知りたいのだろう。これから部下として迎える身なのだ。少しでも私の実力を知っておき、手網を握れるかどうかを把握しておきたいのだろう。
しかし──
召喚魔法を封じられると、自分の戦術──手数が大きく減る。これでは一種の縛りプレイと同じだ。1VS1である以上、接近戦は避けられない。近づかれる前に仕留める事ができれば問題ないのだろうが、そんな上手く事が運ぶわけがない。
だが、今のリュウノにはどうしようもない。
国という存在が自分を評価しようとしている戦いで、批難されるような勝ち方をするわけにもいかない。
周りが出す意見を見守り、従うしかないのだ。
「……そうだな、その通りだ! 1VS1の戦いならば、やはり本人達が戦うべきだ。そう思うだろう? ボウロロープ侯よ」
「え、ええ! その通りでございます王子! 真剣勝負に召喚魔法を持ち込むなど言語道断でございますなぁ!」
王国でも一二を争う脳筋達がなにやら喚いている。
たぶんだが、バルバロ王子は私に負けて欲しいのだろう。あるいは『殺されてしまえ!』とすら思っているのかもしれない。
「(クソぉぉ……アイツら……)」
あんな事を言われたら、もはや数の暴力戦術は使用できない。卑怯なヤツ呼ばわりされるのがオチだ。冒険者としてのメンツだけは保持しなくては。
「──王国はあのように申していますが、法国の皆さんはどうです?」
「……我々としても、卑怯な手段による勝ち方はあまり……」
「(────ぐっ……)」
駄目だ……これは駄目な流れだ。
召喚魔法は多用できない。となれば、竜王合体で凌ぐしかない。
「──わかりました。他国の皆様がそうおっしゃるなら、召喚魔法は控えましょう。申し訳ありませんね、番外席次さん」
「私は別に問題ないのだけど……」
残念そうな表情を僅かに浮かべる対戦相手。
それでもコッチには問題があるんだよ!
と、心の中でツッコムが口にはだせない。
「……では、試合を始めましょう。ブラック!
「畏まりました」
闘技場に設置されていた、チャイム代わりの銅鑼の前にブラックが瞬時に移動する。
「……ではこれより、我らがご主人様と番外席次様の試合を開始します! 試合──開始!」
ブラックによって銅鑼が叩かれた。銅鑼特有のけたたましい音が鳴り響く。
こうして、戦いの火蓋が切られたのだった。
試合開始の銅鑼が闘技場に鳴り響く。
最初に動いたのは──番外席次だった。
彼女は手に持つ戦鎌を振りかぶりながら、もの凄いスピードでデュラハンへと接近した。
30m程先にいたデュラハンへと一瞬で距離を詰めた彼女のその速さは、クライムやガゼフといった者たちからは転移魔法を使用したのではないか、と疑う程の速さであった。
ユグドラシルのカンストプレイヤーであるモモン達すらも感心する程。
急接近した番外席次は、デュラハンの胴体を切り裂こうと一撃を繰り出す。
戦鎌の鋭利な刃がデュラハンの胴体に触れる刹那──その刃は空を切った。
──躱した。
クライム達がそう知覚するよりも速く、デュラハンが番外席次の背後に回り込み、持っている剣を振りかざしていた。
──やはり速い!
──前とは違う!
蒼の薔薇のメンバーの中でも、特に高い強さを持つイビルアイですら、デュラハンの動きを目で追う事ができない。正面に居たデュラハンが瞬く間に後ろに回り込んだ、という結果しか理解できなかった。
以前、カルネ村でデュラハンを名乗る女──リュウノと戦闘した事がある漆黒聖典のメンバー達も、その圧倒的な動きの違いに驚愕する。
番外席次は攻撃した直後のため、応戦体勢は整っていない。そんな状態の番外席次の背中目掛けて、デュラハンが容赦なく剣を振り下ろす。
番外席次の背後を完全にとったデュラハンの攻撃。
どうあがいても回避できないタイミング──そのはずだった。
しかし──
「──武技・即応反射──」
突如、番外席次の姿勢が攻撃する前の姿勢に戻ったのだ。通常ではありえない、まるで不可思議な力が働いたかのような挙動でだ。
体勢を整えた彼女は、デュラハンの攻撃を武器で受け止めようとする。
そして──
武器同士がぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃波が起こった。その衝撃は、二人の足元にあった金貨や砂金を周囲に吹き飛ばした。観客席にいた人間達にすら、その余波が伝わるほど強力であった。
観ていた名だたる戦士や騎士達が背筋を凍らせる。自分達では、あの衝撃を受け止めるのは不可能だっただろうと。呆気なく吹き飛ばされるか、両腕を失うのが目に浮かぶ。
だが──
それほどの一撃を、あの少女は受け止めたのだ。
それだけでも、少女の持つ戦闘能力の高さが理解できる。
しかし、観客達の少女への関心は、束の間できえる。
デュラハンの攻撃を受け止めた少女は、数秒程耐えてはいたものの、その想像以上のパワーに耐えきれずに後ろに飛び退いた。
その瞬間を待っていたと言わんばかりに、デュラハンが間髪入れずに追撃を放つ。
その追撃に、観客席いた人間達は瞠目する。
デュラハンの持っていた剣が、鞭の様に伸びたのだ。
蛇の様にうねる剣の剣先が、距離を取ろうとしていた番外席次の心臓目掛け、矢の如く伸びていく。その長さは5mを軽く超え、脱兎のごとく下がる番外席次に瞬時に追いつく。
誰もが少女の死を想像した。デュラハンの追撃で、呆気なく心臓を刺される未来を。
しかし、その予想はあっさりと裏切られる。
「──武技・要塞──」
「──むっ!?」
見えない何かによって、デュラハンの追撃が弾かれた。まるで、透明な盾によって防がれたような、そんな感じだ。
クライムやガゼフと言った戦士達には馴染みがあるが、そうでない者たちからしてみれば摩訶不思議な現象に見えた事だろう。
『武技・要塞』── 相手の攻撃を跳ね返す防御系の武技だが、発動のタイミングが非常にシビアとなっている。剣や盾でなくては発動できない、というわけではなく、やろうとすれば手だろうと鎧だろうと発動できる。
「──ちっ!」
追撃で仕留められなかった事に、舌打ちを零すデュラハン。
相手が自分の攻撃に対応できる──それは、相手が弱い敵ではないという証明であり、強敵かもしれないという証明になるからだ。
対して、番外席次は笑っていた。それはまるで、新しいオモチャを見つけた子供のような笑みだった。
「……やるじゃない。私の背後をあっさり取るなんて……驚きだわ。しかもその桁外れなパワーに容赦ない追撃……私の想像以上の強さだわ……」
「なら降参する?」
「まさか、これからじゃない! 楽しみましょう……この、殺し合いを」
にんまりと笑う番外席次の表情を見て、「満面な笑みで言う事かよ……」と、
だが、そんな心情をすぐさま切り替え、リュウノは目の前の敵に集中する。
次の一手をどうするか。
自分から仕掛けるのも良し。
魔法で牽制するも良し。
竜王合体は──
脳内で様々な戦術を考える一方、念を入れて100Lvの状態にしておいて正確だったと、リュウノは自分の判断を褒めていた。
初めこそ若干舐めてはいた。
──しかし、今なら言える。
この異世界で出会った相手の中で、この少女はダントツの強さだと。
実際、竜王合体無しの状態だった場合、最初の攻撃を躱すのは難しかったかもしれない。
リュウノがそう考えてしまう程、番外席次の身体能力は高かったのだ。
大雑把な推測ではあるが──相手のLvは、低く見積っても90Lv前後相当はありそうである。動きの速さ、こちらの攻撃を受け止められるだけの筋力、反応速度……等などを総合的に考えて出した結論だ。
高く見積もる場合、仮に装備品のランクが最高ランクの物だと推定するならば、95Lv前後相当になってもおかしくない。
相手が本気を出している様には見えない為、この予想より高い可能性もないとは言えないが。
どちらにせよ、人間の状態だったら対応できなかったかもしれない相手だった可能性が高い。
流石は最強を名乗るだけの事はある。これ程の強さがあれば、法国で最強と呼ばれるのも無理はない。
だが、レベルだけで考えるならば、そこまで苦戦はしないであろう相手であるはずなのは確かなのだ。
では、なぜ簡単に倒せないのか?
それは、ユグドラシルには存在しなかった二つの要因のせいだ。
1つは武技だ。
クレマンティーヌが習得していた武技については、ある程度把握済みなのだが、それでもまだ未知の武技は山ほど存在する。それを目の前の相手がどれだけの数を習得しているのか、調べなくては安心できない。
2つ目はタレント能力だ。
相手がタレント能力を持っているかはわかってないが、何らかのタレント能力を持っていると想定して行動した方がいいだろう。
一発逆転の大ダメージを放つ、と言ったタレント能力が存在する可能性だってありえるのだから。
そのような思考を張り巡らせながら、リュウノは間合いを計る。
こういった未知の力を持つ相手に無策で突っ込む程、リュウノは脳筋ではない。頭は無くとも思考する頭は持っているのだ。
自分の武器の射程が活かせる適切な距離を計算しながら、相手の出方も探っていく。
相手は近接武器しか使わないのか?
魔法を習得しているのか?
耐性に穴はあるのか?
などなど、こういった相手の情報を様々な手段を用いて探っていきたい。そしてそれをモモン──アインズに知ってもらうのだ。
万が一、自分が負けた時……あるいは死んだ時、アインズ達に仇をとって貰う。そのためにも、できる限りの相手の情報を集めておく必要があるのだ。
「──さて、今度はこっちから仕掛けるか……」
両者が間合いを取りつつ、互いの隙を伺っている頃、観客席では──
「先程の少女の不可解な体の動きは──」
「──即応反射だ」
番外席次の姿勢が急に変わった事に対して、疑問を感じていたクライムにガゼフが丁寧に解説していた。
「即応反射?」
「武技の一種だ。攻撃した後、バランスの崩れた体を無理やりに攻撃する前の姿勢に戻す武技でな。俺も習得している武技だ」
「そのような武技も、存在するのですか……」
「武技の種類は豊富だぜ、童貞。特に、優秀な戦士である程、攻撃に防御、移動に補助に自己強化とか、様々な武技を使い分けたりするからな」
王国で最も名高い戦士である二人の言葉に真剣に耳を傾けるクライム。
自分が強くなれないにしても、あらゆる脅威への対策を練る事ぐらいはできる。経験を培うとは、まさにこの事なのだろう。
突如、金属同士がぶつかる音が響く。
見れば──デュラハンが相手に向かって剣を伸ばし、攻撃を何度も繰り出している。鞭の様にしなる剣先の速さは尋常ではなく、自分ごときではまったく反応できない速度である。
そんな攻撃を、少女は平然と凌いでいる。
右から、左から、真上からと、様々な角度から来る攻撃を避けたり防いだりしている。
焦っている様子がない以上、反撃のチャンスを伺っているのかもしれない。
「しかし、首なしが持つあの剣、あれはなんだぁ?」
「鞭の様に伸び縮みする剣みたいだけど……」
「似たような武器を持つヤツなら六腕にいるけど……」
「それ以前に、伸びた時の長さがおかしいだろ。最初の剣の状態からではありえない程伸びているぞ! いったいどんな仕組みだ……?」
「──あれはフレキシブルソードという類いの剣だ」
突然、ブラックが喋りだした事で、デュラハンの武器に関して議論していた蒼の薔薇の会話が止まる。
「……フレキシブルソード?」
「違う言い方をするなら『蛇腹剣』とも言う。刃の部分がワイヤーで繋がれつつ等間隔に分裂し、鞭のように変化する機構を備えた剣だ。剣としての剛性と、鞭の柔軟性、節々に分かれた刀身部の切削を鞭の打撃に加える事が出来、さらに剣と鞭の状態では倍程度間合いに差が出るため交戦距離を自在に変化させることが出来る。という代物だ 」
ブラックの説明に、何人かは納得の意を示した。が、ガガーランやガゼフ、忍びの双子といった上級の戦士系や盗賊系の者たちは、まだ納得いかない部分があり、疑問をぶつける。
「しかしよぉ、ああいった武器は強度に問題があるんじゃねぇのか?」
「ご主人様が使用している武器にはドラゴンの体から採取した素材がたくさん使われている。しかも竜王級のな。その辺の通常の金属とは比べ物にならない程の強度を得ているので、強度に関しては問題ないぞ」
「マジかよ……そりゃすげぇ……」
「ちなみにだが……ご主人様の使用している剣の名は、テール・オブ・ドラゴンロード──『竜王の尾』という名前だ。その名の通り、ドラゴンの尻尾をイメージして作られている」
「なるほどな……言われてみれば、確かにドラゴンの尻尾にも見えるな」
彼女の言う通り、剣のデザイン、伸び縮みする際の靱やか差など、様々な部分でドラゴンの尻尾を彷彿させる要素がたくさんあるのが理解できた。
「ああいった武器の基本戦術は……いや、私が言わなくてもお前達ならば、ご主人様の動きを見ればだいたいわかるだろ?」
こくりと頷くガゼフ達。
クライムもある程度は把握している。
基本戦術は──
1.相手が迫ってくれば剣で迎撃
2.相手が引けば鞭で追撃
3.さらに変形時の「伸び」を利用した射突攻撃
4.鞭状態での柔軟な斬撃
これぐらいだろうか?
だが、自分ごときが理解できる以上の事を、ガゼフやガガーランと言った上級者達は理解しているのかもしれない。
そしてそれはすぐに訪れた。
「───ふっ!」
「───ッ!?」
デュラハンが突然、攻撃パターンを変えたのだ。
鞭の様に伸びていた剣がさらに伸び、ちょうど真ん中辺りが少女に命中。武器でガードしていた少女の身体に、余っていた鞭の先がグルグルと巻き付いたのだ。
巻き付きは少女の上半身から片方の足へと伸びていく。そして最後に、鞭の先端が巻き付いていない方の足へと命中。少女の片足を跳ね飛ばした。
一言で言えば、『足払い』だ。
足払いを受けてバランスを崩した少女。そのまま倒れるのかと思いきや、巻き付いていた鞭が強く引っ張られ、少女がデュラハンの目の前へと強引に連れていかれる。しかも強烈な回転を加えた上でだ。
普通の人間であれば、あんな状況から攻勢に出るなど不可能だろう。
しかし、少女は違った。
身体に巻き付いていた鞭がはずれるや否や、戦鎌を構え、回転を利用してデュラハンを切り裂こうとしたのだ。
対して、デュラハンは冷静に盾を構えてこれを防ぐ。更に、そのまま盾を前に突き出し、少女をおもいっきり殴り飛ばす。
後ろへと吹き飛ぶ少女に──いつの間に持ち替えたのか──デュラハンは筒状の武器を向けていた。
モモン達ならそれが、片手でも扱えるショートタイプのダブルバレルショットガンだと理解できただろう。
しかし、クライム達には未知の武器である。
デュラハンは躊躇なく引き金を引いた。
射出された二発の弾丸は、拡散しながら少女へと真っ直ぐ飛んでいき──
──当たる直前に全ての弾丸が逸れた。
「──くそっ! 対策済みかよ!」
狙撃武器が効かないとわかるや否や、デュラハンは再び剣へと武器を替える。
デュラハンが少女に足払いを行ってから狙撃武器を扱うまで、それがたった数秒の出来事だ。
あれだけの攻防がたった数秒で行われたのだ。
クライム達には、状況を一つ一つ理解するだけで手一杯である。
少女は受け身を取りながら着地すると、笑いながらデュラハンへと向き直る。
「最高だわ! 本当に最高だわ! 貴方なら、私に敗北を教えてくれるかもしれない!」
「……けっ! そうかよ。こっちは自信がなくなってきてるって言うのに……」
笑う少女に対し、不機嫌そうに愚痴を零すデュラハン。
両者の機嫌は正反対だ。
だが、どちらも継戦の意志はあるらしく、再び間合い取りが始まる。
「……じゃあそろそろ、本気で行こうかしら」
「な〜んだ、本気じゃなかったんだ。てっきり最初から本気かと思ってたのに」
「ふふふっ、言ってくれるじゃない」
あれだけの攻防があってなお、両者の試合はまだまだ始まったばかりなのだ──。