首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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第21話 御前試合──後編

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「じゃあそろそろ、久々に本気をだすわ」

「おう、やってみろ」

「武技・限界突破……──」

 

 番外席次が戦鎌を上に構えた姿勢で武技を発動させる。

 すると、彼女の体全体から漆黒のオーラが出現する。

 鎧を着ているにもかかわらず、肌から伝わってくるオーラのその感覚は、闇属性に近いものである事をこちらに教えてくる。

 

 武技の名前からして、身体能力の上限を上げるタイプと予想したのだが、漆黒のオーラとの関係性がわからない。単なるエフェクトではない事は確かなのだろうが。

 

「──能力向上、能力超向上、流水加速──」

 

 番外席次が次々と武技を発動させていく。

 その光景を眺めるリュウノの脳裏によぎったのは、番外席次が武技によって得られるバフを使って自身を最大限まで強化してから攻撃してくるのでは? という予想だ。

 

 “強敵と戦う”という場面に於いて、自身を強化するという方法は定石だ。特にボスキャラが待ち構えているエリアに入る等の時などは。あのアインズですら、ありったけの強化魔法を使用してバフをかける。無論、私もだが。

 

「──肉体向上、痛覚鈍化、知覚強化、可能性知覚──」

 

(おいおいおい……どんだけ発動する気だ!? いくらなんでも、やりすぎだろ!)

 

 ブレインから武技の知識は得ている。

 武技は発動する際、使用者は集中力を消費するらしい。また、使用後にはある程度の肉体負荷も発生するとか。なので、武技の使いすぎはかえって自分を追い詰める事にもなりかねないので、使い所を考える必要があるとのこと。

 ブレイン曰く、あのガゼフですら、武技の同時使用は六つが限界だったらしいが……。

 

「──戦気梱封、素気梱封、縮地改、疾風加速──」

 

 どうやら、目の前の女は違うらしい。

 彼女は平然と武技を重ねがけしている。つまり、彼女にとっては問題ないのだろう。

 ガゼフと彼女とでは、実力──レベル差があまりにも大きい。故に、武技の使用できる差も大きいのかもしれない。或いは──相手を殺せる自信があるからこそ、肉体負荷で動けなくなっても構わない、という考えでいるかだ。

 

「──急所感知……ふふふ……」

 

 強化の作業が終わったようだ。

 戦闘中に、相手の強化作業を見守るなど愚行であると理解している。アインズならば、すぐさま妨害して中断させてただろう。

 

 だが、今回は“あくまで試合”だ。

 互いの実力を他国に知らしめる必要がある為、ある程度は相手側にも花を持たせる必要がある。ダンジョンでばったり遭遇したボスモンスターと戦っている訳ではないのだから。何もさせずに倒すという行為は許されない。

 それに、相手の戦闘能力を探る意味合いも兼ねているのだし。

 

「そろそろ準備できたか?」

「……優しいのね。わざわざ待ってくれるなんて。それとも、強者としての余裕……なのかしら?」

「いいや。単純に、そっちの方が面白そうだから、かな?」

「あら、それは僥倖。私と同じ考え────だったなんてッッ!」

 

 最高の笑みを浮かべる彼女。その瞬間、彼女はこちらへと突撃を開始した。

 肉薄するなり放たれた斬撃。

 咄嗟に盾で防ぐ。今まで以上に重たく、最高に速い一撃だった。衝撃で腕が弾かれないよう、力を込めて耐える。

 

 その直後、彼女の怒涛の攻撃が始まった。

 強化された身体能力、ホバー移動にも似た高速移動、魔法と闇属性が込められた武器──ありとあらゆるステータスが底上げされた彼女が放つ連撃。己が持つ戦鎌のリーチを活かした絶妙な距離を保ちながら、反撃する猶予すら与えないという勢いで、武器が振るわれる。

 戦鎌が盾を切りつける度にギャリリッという音が鳴り響く。あまりに早すぎて、金属を丸鋸で切っているかと、耳を疑ってしまう程だ。

 

 だが、攻撃の速さで言えばブラックの方が速い。なので防ぐ事自体は楽だ。

 しかし、一撃一撃が軽かったブラックとは違い、目の前の女の攻撃は、戦士職がメインのブルーより重い。

 

 さらに、剣では届かず、鞭では攻めにくい間合い。

 懐に潜り込もうにも、戦鎌の特有のリーチと高速の連撃がそれを許さない。さらに、彼女を守るかのように、戦鎌の幅の広い十字の刃が行く手を阻むのだ。

 はっきり言って、攻撃する隙が少なすぎて反撃できない。

 情けなくも、盾を構え続けて耐える事しかできない。

 

 …………と、周りの観客達は思っている頃だろう。だが──

 

「おっっらァァッ!」

 

 盾を構えた姿勢のまま前方に思いっきり踏み込む。

 相手の攻撃なんぞ知ったこっちゃないと言わんばかりに、スキルを発動させながら強引に盾を押し込む。

 

 同時に発動したスキルは3つ。

 

 まず、自身の防御力を上げつつ、盾を構えたまま攻撃できる〈シールドアタック〉

 

 次に、相手をよろめかせ、一瞬だけ行動不能にさせる〈シールドスタン〉

 

 最後に、相手を吹き飛ばしながらダメージを与える〈メガインパクト〉

 

 これらはヘイトコンボと呼ばれる連係スキル技だ。

 ギルドメンバーの1人──ぶくぶく茶釜さんもよく使っていた技だ。

 どのスキルも敵のヘイトを集めてしまうという欠点があるものの、茶釜さんは相手のヘイトを管理する能力に長けていた。なので、敵のヘイトを上手く操り、場の流れをコントロールしていた訳だが。

 敵が多い集団戦で使うと集中砲火を受ける危険性も高まる技だが、相手が1人なら、なにも問題はない。

 

 

 盾が戦鎌を押しのけ、相手の胸元にめり込む感覚が伝わってくる。それと同時に聞こえる、相手の呻き声と肉が金属にぶつかる音。いや、肉を叩く音……が正しいかもしれない。

 相手の体重が一番のしかかるタイミングで相手を殴り飛ばす。

 

 凄まじい衝撃音と共に、強烈な衝撃を受けて吹き飛ぶ少女。

 常人ならミンチになっていてもおかしくない程の衝撃を受けたにもかかわらず、戦鎌を手放していない。

 戦士として流石だと褒めたくなる。

 

 相手が宙を舞いながらアリーナの壁へと吹っ飛んでいく。

 だが、それを見守る程優しくはない。

 相手がまだ宙を舞っているうちに、素早く狙撃銃(スナイパーライフル)を取り出し、片膝をついて構える。

 

 先程、相手に飛び道具(狙撃)が効かない事は、私も含め全員が把握している。なのに再び銃を構えた私を見て、『馬鹿なアンデッドめ』と思っている者達もいるかもしれない。

 

 ならば、馬鹿なのはそいつ等だ。

私だって対策くらい用意している。

 

 相手はおそらく、()()()宿()()()()()()飛び道具を無効化する装備品を身に付けている。故に、いくら()()()()()を撃っても当たりはしない。

 だが、逆を言うなら……魔力を宿した弾丸──『魔弾』までは無効化できないという事だ。

 

 宙を舞っている相手に、容赦なく魔弾を撃つ。

 狙った箇所は両肘、両膝の4つ。相手を殺さずに無力化する為だ。

 放たれた魔弾が、相手に命中する。

 

 その後すぐ、相手がアリーナの壁に激突した。

 通常の人間なら、潰れて肉片が飛び散っていてもおかしくない衝突音がアリーナに響く。

 少女の身体が壁にめり込んでる姿は、壁に飾られた十字架を見ているようだった。

 

 防具を装着している2箇所を撃ち抜けたかは、現時点ではわからない。

 しかし、残りの2箇所は確実に撃ち抜いたはずだ。

 その証拠として、撃ち抜かれた箇所から鮮血が噴き出している。あれなら、撃ち抜いた片腕と片足は動かせないはず。

 

 しかし、まだ警戒は怠らない。

 ユグドラシル(ゲームの世界)なら、相手はまだまだ体力が残っており、何事もなく余裕で立ち上がってくるはずだ。

 体力が0になるまで、プレイヤーは問題なく活動できる。とは言っても、痛みを感じないからこそできる事なのだが。

 

 異世界の仕様──と言うより、現実的に考えて、銃で撃たれた人間が痛みを気にせず冷静に行動するなど不可能だ。痛みで動けない、それが()()()()()()()()だ。

 

 女が壁から剥がれ落ちるのを見届ける。

 

 砂金の地面へと落下する女。

 手足から流れる血が、周囲の金貨を真っ赤に染めていく。

 

 そのまま相手が戦意を失ってくれれば良いが……。

 そんな淡い期待の言葉を心の中で呟く。

 しかし、ヨロヨロと立ち上がり始めた女の姿を見て、やっぱありえないか、と淡い期待を投げ捨てる。

 

 相手の性格的に、自分から負けを認めるような女ではないだろう。何より、この試合は彼女からの申し出なのだから。

 完全なる敗北を、身に染みて理解するまで諦めないだろう。

 

 戦鎌を杖代わりにしながら立ち上がった女を見ながら、次はどうするかと思案を始め出す。

 

 だって相手はまだ──()()()()()立っているのだから。

 

 

 

 

♦♦

 

 

 

 

 初めてだった。

 

 自分の身体が吹き飛ばされた。

 自分の身体が宙を舞った。

 自分の身体が撃ち抜かれた。

 自分が身体が壁に叩きつけられた。

 自分の身体が地面に倒れ伏した。

 

 全てが未知の体験だった。

 

 これまで戦ってきた相手で一番強かった隊長ですら、私に対してそんな事はできなかった。逆に、ボコボコにして馬の小便を浴びせてやった程だ。

 

 でも、今戦っている相手は違う。

 速さもパワーも、隊長とは段違い。おまけに、武技で強化された私の猛撃ですら、大したダメージを与えられなかった。

 

 驚きが私を包んでいる。

 歓喜が私を包んでいる。

 期待が私を包んでいる。

 

 何もかもが自分より弱くて、つまらないと感じていた私を目の前の存在は楽しませてくれる。

 ならば──と、思ってしまう。

 

 周りより()()()()()()()()()()私に、目の前の存在……デュラハンは教えてくれるかもしれない。

 今まで戦ってきた相手が、隊長が──体験したであろう、敗北という経験。まだ経験した事がない未知(敗北)を教えてくれるかもしれない。

 

 

 戦鎌を杖代わりにしながら立ち上がる。

 幸い、防具を装着していた左腕と右足は軽傷で済んでいる。

 右腕と左足は関節部分を飛び道具で撃ち抜かれたせいでまともに動かせない。対飛び道具用の魔法が付与された防具を身に着けていたのに、相手は堂々と撃ち抜いてきた。

 対策をされたのだろう。しかし、いったいどうやって? 

 

 …………いくら考えても埒が明かない。

 

 思考を捨て、武器を握り、立ち上がる。

 どちらかの行動をするだけで、本来なら激痛が襲ってくるはずだ。

 しかし、〈武技・痛覚鈍化〉のおかげで、()()無理やりながら動かす事はできる。

 

 なら戦える。まだ戦える。

 武技の連続使用により、精神力もかなりすり減っている。

 正直に言えば辛い。これ以上の武技の使用は、肉体にも負担が出る。いや、負担どころではない。体のどこかの血管が破裂してもおかしくない。だが──

 

「おーい、大丈夫か?」

 

 またデュラハンが待ってくれている。

 私が立ち上がるのを、何もせずにだ。

 少し前にデュラハンは言った。“面白そうだから”と。待ってくれる理由はそれなのだろう。

 

 自分相手にこんな事をする相手はいなかった。今まで戦ってきた相手はみんな必死だった。私に勝とうと一心不乱に攻撃してくるか、逃げるかだった。

 

 嬉しくてたまらない。こんな好敵手に出会えた事に。

 そして思った。

 

 まだ終われない。

 終わりたくない。

 終わらせたくない。

 

 こんなにも楽しい時間を。

 いや、こんなにも楽しい時間なのだから。

 だから終わらせたくない。

 

「まだやる? それとも降参する?」

「まだよ……まだ、戦えるわ……」

「……そっか。なら、はいコレ」

 

 何かを放り投げられる。

 目の前に落ちたそれは、赤いポーションだった。

 法国の人間達が居る観客席がざわつき始めたのが聞こえた。デュラハンの投げたポーションを見て、ソレがなんなのかわかったからだろう。

 私もソレを知っている。

 法国の宝物庫に保管されている──六大神が所持していた──“神の血で造られている”、と言われている腐らないポーション。それと酷似していたからだ。

 

「……これは?」

「傷を癒すポーションだよ」

「なぜ私に?」

「全快したあなたを叩き潰して、完全敗北させる為」

 

 やはりだった。このデュラハンは私を楽しませてくれる。私が欲しているものを理解してくれている。

 闘技場での決闘の最中に相手を治癒させる者はいない。そんな行為は自分を不利にするだけだ。

 だが、このデュラハンにとっては不利にすらならないのだろう。

 

「……そう。なら頂くわ」

 

 ポーションを飲む。完全回復とまではいかなかったが、手足の傷が癒えただけでも充分だ。

 

「……よし。傷は癒えたな。じゃあ私からの提案、互いに大技をぶつけ合って最後まで立っていた方が勝ち、って勝負はどう? ちまちました攻撃をぶつけ合うよりはマシな気がするんだけど?」

「……良いわねそれ。のったわ」

「オッケー! ならそちらからどうぞ」

 

 本当に面白い。デュラハンの行動の一つ一つが予想できない事ばかりだ。

 あれだけ武技で強化した私の猛撃を『ちまちました攻撃』程度にしか思っていない。

 さらに、大技勝負で私に先を譲ってくる。

 本当に、あのデュラハンはどこまで強いのだろうか? 

 

 ならば確かめるしかない。

 

 武技の過剰使用で精神力もかなりやばいが……それでもいい。この後放つ大技で動けなくなっても構わない。あのデュラハンの強さを確かめる為なら。

 それ程なのだ。それ程、あのデュラハンの強さに惹かれてしまった。

 

「……(ニグル)──(アルブム)……」

 

 己が持つ最大の武技を発動させる。

 精神力がごっそり持っていかれる。鼻から血が垂れ、脳の血管が幾つか破裂したような、そんな感覚が伝わってくる中、集中力を高め、指を鳴らす。これが、この武技の始まりだ。

 

「私より強いか、確かめさせてね」

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

「あれは!?」

 

 観客席から戦いを見ていたモモン達は、リュウノの対戦相手である少女が起こした異変に驚愕していた。

 

 少女の立っている場所から、闘技場全体を包むかのようにドーム状の特殊な結界が広がり始めたのだ。結界は闘技場全体に広がり、当然のように観客席に居る人間達も飲み込んでいく。迫りくる結界に、怯えるような仕草をした人間達が飲み込まれた瞬間、彼らは動かなくなる。

 

「まさか、《時間停止/タイムストップ》の魔法か!?」

 

 第10位階の魔法であり、その名の通り時間を止める魔法だ。どの程度の範囲止められるかはっきりしていないので不明だが、時間停止中はダメージを与えたりする魔法は発動できない。魔法遅延化(ディレイマジック)を併用して時間停止解除後即座に魔法を発動できるようにすれば攻撃は可能だ。また、時間停止中はダメージを与えたりしない一部の魔法は発動できる。70Lvになる頃には時間対策が必須となる脅威の魔法である。

 

 結界の影響を受けた空間は灰色に染まっており、まるで石化の魔法で石にされたかのような錯覚すら与える。これは、《時間停止/タイムストップ》の魔法を使用した時の演出と似ている。

 

 闘技場全体が結界に包まれ、灰色の世界となる。

 時間対策を行っていたリュウノが周囲を確認し、少女に質問する。

 

「……これは……時間を止めたとか、そんな感じ?」

「ああ……やっぱり。貴方は動けるのね。そんな気がしていたわ」

 

 少女の言葉から、時間停止系の効果である事が証明された。

 

(やはりか……)

 

 モモンは自分の考えが当たっていた事を知り、周囲を確認する。

 自分は時間対策をしているので問題なく動ける。ウルベルもぺロロンも問題無し。ルプとナーベも同様だ。

 

 王国側では、ブラック達三人も問題なく動けている。ナザリックの勢力は、この結界の影響を受けていないと考えていいようだ。その証拠に、動ける者は灰色になっていない。

 

 他に動いているのは──

 

「リグリット! 大丈夫かい、リグリット!?」

 

 なんと! 評議国の代表であるツァインドルクスも動けている。ツァインドルクスは、隣に座っていた老婆が動かなくなっている事を心配し、必死に呼びかけている。

 只者ではないと思っていたが、タイムストップの影響を受けていないという事は、時間対策を施すアイテムか装備品、スキルなどを持っているという事だ。

 

 そしてもう1人、灰色になっていない人物が居た。

 カルネ村でリュウノを背後から刺した漆黒聖典の隊長だ。彼も動けるようだ。

 他をざっと確認するが、ツァインドルクスと法国の隊長以外で動いている者はいない。

 

「驚いた……彼らも動けるのね」

 

 時を止めた張本人である少女……番外席次がこちらに視線を向けている。同じく隊長もだ。

 少女の言葉に、ツァインドルクスも老婆から私達、そして周囲へと視線を動かしている。

 

 カルネ村の一件で、リュウノことデュラハンと連んでいた事は法国にはバレている。よって、自分達が停止した時間の中で動ける事が知れたとしても大した問題ではない。唯一、評議国のツァインドルクスにバレた事は問題かもしれないが。

 

「そんな事、今はどうでもいいじゃん。早く来いよ」

「……そうね。じゃあ、行くわよ?」

 

 私達の事を追及されないよう気を遣ってくれたのか、リュウノが急かしたおかげで戦いが再開される。

 

 少女が戦鎌を再び上に構える。

 それと同時に、少女の体全体から漆黒のオーラが出現し始める。ここまでは前と同じだ。

 

(さっきの猛撃をまたやるのか?)

 

 そんな考えがよぎったが、少女の戦鎌に闇属性らしきオーラが出現、その刃に沿うように大きくなっていった事で、その考えを破棄する。

 明らかに先程の猛撃とは違う。オーラはどんどんデカくなり、少女の身体の倍以上の大きさへと肥大していっている。もはや、少女の持つ戦鎌は巨大な船の錨と同じぐらいの大きさへと変貌している。

 

 まるでエネルギーを溜まるのを待っていたかのような、そんな様子を見せていた少女が、突然、跳躍して高く飛び上がった。

 

「──さあ! 死になさい!」

 

 少女が戦鎌を振りおろす。

 武器に溜まっていたオーラ、それが三日月の如く形態で射出された。

 放たれた、高濃度の闇の斬撃がリュウノへと迫っていく。

 

 威力はありそうだが、攻撃自体は単調。避けるのは簡単そうだ。

 本来ならば、時が止まった状態からの攻撃なので、時間対策をしていない相手に放つ事が前提の技なのだろう。攻撃を受けた相手は、自分がどんな攻撃をされたのか、把握できずに困惑することだろう。

 

 

 向かってくる闇の斬撃に対し、リュウノは避けずに仁王立ちしている。避けようとする意思が感じられない為、敢えて攻撃を受けるつもりなのだろう。

 攻撃を敢えて受けるのは、被弾時に付加される効果を確認する為だと予想できる。

 未知の攻撃、未知の魔法、未知のスキル──どんな威力でどんな効果があるのか、実際に被弾しないとわからないものもあるのだ。

 

 一瞬、リュウノの身体が発光するようなエフェクトが出たのが見えた。おそらくだが、念を入れて属性防御系のスキルを発動したのかもしれない。

 

 敵の攻撃は属性の塊なので、物理的な防御では防げない。

 属性ダメージを軽減する耐性を備えた装備品や魔法でなければ無理だ。

 これは魔法にも言える事だ。

 一般的な魔法攻撃は回避、防御、物理装甲で軽減できない。耐性が無い限り、分厚い鎧や皮があっても純粋なエネルギーによる魔法攻撃は通用する。

 

 だからこそ、属性防御系のスキルや魔法が存在する訳だが……。

 

 斬撃がリュウノの上半身のど真ん中に直撃する。

 その瞬間、攻撃を受けたリュウノを中心に、灰色になっていた空間に斬撃と同サイズのヒビが入る。まるで空間ごと斬ったかの様に見えるヒビの中は黒く、何も見えない。ヒビはすぐさま全体に広がり、灰色の空間が砕け散った。

 

 灰色の空間が砕け散り、元の色鮮やかな闘技場に戻ると、周りにいた人々の停止も解除されたようだ。

 停止を解除された人々は、何があったか理解できず困惑している。

 

 しかし、困惑していた人間達の意識は──突然響いた絶叫によって一点に集中した。

 

「いっっってぇぇぇえッ────!!」

 

 リュウノが絶叫していた。

 両腕をわちゃわちゃと動かし、無い頭を掴もうとしている。

 おそらく、頭にダメージが入り、負傷でもしたのだろう。傷口を押さえようとしたが、物理的に触れず、両腕が空を切っている。

 

 着ている鎧には何も変化が見られない。だが、リュウノが痛がっているという事は、内部のリュウノの体に属性ダメージが入った、という事だ。

 現に、鎧の隙間から血のような液体が垂れている。

 

 だが、おかしい。

 敵の放った攻撃は闇属性の攻撃だったはず。あそこまで痛がるような大事にはならないはずだ。

 リュウノが持つ職業の一つ──闇騎士(ダークナイト)は、レベルを上げていくと闇や()への耐性が高くなる職業だ。

 おまけに、ワールドアイテム(竜覇の証)のおかげで闇耐性が2倍になっている……はずだ。

 

 簡単に言えば、計算的に()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 無論、相手の攻撃が桁違いに強力だったならば話は別だが。

 

「──ぐぁぁ……っってぇえ……!」

「……凄い。最高位天使である威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の放った《善なる極撃/ホーリースマイト》を受けてなお、無傷だったあのデュラハンにダメージを与えるとは!」

「……あの方であれば、デュラハンに勝てるかもしれないぞ!」

 

 負傷して痛がるデュラハンの姿を目にし、興奮と驚きを隠せなかったのか、試合を観戦していたスレイン法国の兵士達から声が上がる。

 リュウノが以前戦った、陽光聖典の隊長ニグンですら、兵士達と一緒に観戦に夢中である。

 

 しかし、歓喜の声だけが場を満たしていわけではない。

 先程の攻撃をデュラハンが耐え抜いた事に、信じられないという表情をしている者たちもチラホラいる。

 

「……てめぇ……! さっきの攻撃に、小細工してやがったなぁ!」

「何の事かしら? ふふ……」

「とぼけてんじゃねぇ! 闇属性の斬撃の中に、光属性の斬撃を隠してただろ!」

「あら、バレちゃった。そうよ。よくわかったわね」

 

 そういう事か、とモモンは納得する。

 光属性の斬撃を、さらに大きな闇属性の斬撃で覆い隠す。単純だが、事前に知っておかないと見た目に騙されて痛手を喰らう技であった事は間違いない。

 

 PVP(プレイヤー対決)で、会話や仕草で相手を騙す行為は上級テクニックの一つだ。弱点である火属性の攻撃を敢えて平気そうに受け、耐性を積んでいる光属性の攻撃を痛そうに受ける。それで相手に、光属性が弱点であるように誤認させる。そういった騙し手を、自分自身もユグドラシルではよく使っていたものだ。

 

 よくよく考えれば、先程の攻撃で叫び声を上げたリュウノは、完全に悪手をうった事になる。光属性が弱点だと、周りに教えたも同然だ。

 対人経験が少ない彼女には仕方のない事かもしれないが、ああいう行動は対人戦ではやらないようにと、後でレクチャーしておくべきだろうか。

 

「……まあ、いいさ。今度はこっちの番だ」

 

 リュウノの両手に握られていた武装が消える。

 デュラハンが武装を解いた事に、困惑するような人間達の声が微かに聞こえる。対して、番外席次の表情に変化はない。

 

「せっかくだ……見せてやろうじゃないか。神の力ってやつを」

 

 神の力──その言葉に、スレイン法国の人間達に緊張が走る。

 

 リュウノの漆黒の鎧が一瞬だけ発光する。

 その瞬間、リュウノの背中に大きな翼が出現する。

 現れたのは天使の羽のような翼。それが8翼。体より大きいその翼を、背中の黒いマントの隙間から羽ばたかせて、漆黒の首無し騎士が宙を舞う。

 

 一瞬、何が起こったのか理解できず、観ていた人間達の思考が止まる。無理もない。

 漆黒の首無し騎士から天使の翼が現れるなど、誰も想像できるはずがない。

 

 だが、リュウノの変化はそれだけではない。

 本来、頭がある位置の少し上に、金色の天使の輪っかが出現。

 さらに両手首と両足首に、金色に光る文字でできた輪っかのエフェクトまで出現している。

 

 そんなエフェクトを身にまとった漆黒の首無し騎士が黒いマントを揺らめかせ、宙を羽ばたく姿は、さながら堕天した天使を表すかのようであった。

 もしも──リュウノの着ている鎧が漆黒ではなく、白や金の装飾がなされた聖騎士の鎧だったら、間違いなく誰もが神と崇めただろう。或いは、神の使いだと。

 

 各国の観客席から驚きの声が上がる。

 特にスレイン法国の観客席は、一際騒がしくなっていた。

 

「あれです! あれが、我々が見たデュラハンの神のごとき姿です!」

 

 ニグンがリュウノを指さしながら叫んでいる。

 彼にとっては二度目の出来事だ。

 無論、以前よりも、神っぽいエフェクトが追加され、神様度が上がったデュラハンに、ニグン自身も驚愕していた。

 カルネ村での戦いの後、本国に帰還し、己が体験した事を報告したが、報告内容を半信半疑に受け止められでもしたのだろう。でなければ、あんなに必死に叫んだりはしないはずだ。

 

「あれが……神をも超えし存在……」

 

 最高神官長を含め、スレイン法国の人間達が惚けている状況の中、羽ばたきながらリュウノは番外席次を指さす。

 

「さあ、いくぞ。覚悟はいいか?」

「ええ。いつでも」

 

 薄く笑いながら身構えた番外席次に、リュウノは片手を頭上に上げ、魔法の詠唱を始める。

 

「《ウラヌス・アニュラス/天王星の円環》」

 

 リュウノの掲げた片手に光輝く球体が生まれる。金色に光る球体は次第に大きくなっていく。最終的に直径10m近い大きさになった。

 それはまるで、小さな太陽を思わせた。アリーナ内全体を照らすが如く、眩い光を放っている。

 

 それだけではない。

 大きくなる途中、球体の周囲にさらに小さい白く光る球体が無数に出現。金色の球体が大きくなるのに合わせて、小さい球体達も大きくなっていく。

 大きくなり終え、完成したそれは、(まさ)しく小さな惑星(天王星)だった。周囲の白い球体達は、惑星の周りを囲む輪っかのようであり、それが金色の球体の周囲を高速で回っている。

 

「おお! おおおぉぉぉ! ……なんという神々しさ! あれは、第六位階を上回る程の高位の魔法に違いない! 素晴らしい! 素晴らしい!」

「じい! あれは何の魔法だ!? 答えろ、じい!」

 

 初めて見る高位の魔法に、フールーダが涙を流しながら興奮の声を上げる。その傍らではジルクニフが、デュラハンが発動させた魔法の詳細をフールーダに必死に尋ねている。

 

 彼らだけではない。イビルアイもリグリットも、魔法の知識を有する全ての人間達が、自分達の知らない魔法をデュラハンが扱えている事に驚き見入っている。

 

「光よ、降りそそげ」

 

 リュウノの言葉に合わさるように、高速で回転していた白色の球体達が一斉に動いた。

 金色の球体を中心に、水平に散らばって行く球体達。

 夜空にひろがる星のように散らばった球体達に、観覧している人間達が息を飲み、番外席次が警戒の構えをとる。

 

 突如──光の雨が降り注いだ。

 

 流れ星のように、光線が何度も球体達から発射され、地上に向かって落ちていく。それはもはや、光の爆撃だ。

 その範囲はアリーナ(試合場)全体。容赦のない圧倒的な範囲攻撃が、スレイン法国の最強の少女を巻き込みながら、地上を破壊していく。

 

 ユグドラシルでの仕様で、竜王との接敵時には、それぞれの専用戦闘フィールドが出現し、その中で戦うシステムが組まれている。

 そして大抵の竜王達は、そのフィールドの六割を攻撃できる魔法やスキル、ブレスを持っているのが当たり前だ。

 

 今回、リュウノが使った魔法は、ユグドラシルにて神竜が猛威を振るった範囲攻撃魔法の一つ──

 

《ウラヌス・アニュラス/天王星の円環》

 

 神竜専用の、広大な戦闘フィールドの半分以上を攻撃できる神聖属性魔法である。

 広範囲に神聖属性の光線を降らす魔法ではあるが、誘導性能はない。なので、光線の落下場所はランダムである。

 

 転移魔法や瞬時に安全地帯に避難できる者ならば、魔法の範囲外に逃げる方が無難ではある。だが、それらを持たない者たちは、無闇に走るより、その場に留まり、直撃弾だけ避ければ良いと判断してしまう。

 しかし、中央にある金色の球体から、強力な極太の光線による精密射撃が飛んでくる為、敵は常に逃げ回る事が要求される。その為、ランダムに落下してくる大量の光線に、かえって被弾しやすくなってしまうのだ。

 

 

 豪雨の如く降ってくる光線に対し、番外席次は動かずに戦鎌を正面に構え、盾代わりにして凌ごうとしていた。

 光線はアリーナ全体に落下している。どこに逃げようと同じ結果だ。ならば、少しでも被弾を減らそう、という考えに至ったのだ。

 

 しかし、飛んでくる大量の光線が、自身の身体にダメージを蓄積させていく中、中央の金色の球体が光りだした事に気付く。

 

 番外席次は戦士の勘で理解する。

 動いて回避しないとマズイ攻撃が来ると。

 

 直後、球体からビームが発射される。

 寸前で直撃を避けた彼女に、バラまかれていた光線が次々と直撃していく。

 このままではジリ貧になると判断した番外席次は、ダメージ覚悟で反撃する。

 

黒白(ニグルアルブム)!!」

 

 再び闇の斬撃を放つ。

 放たれた斬撃が、バラまかれている光線を打ち消しながらデュラハンへと飛んでいく。

 

 迫り来る斬撃をリュウノは悠々と迎え撃つ。

 

不浄衝撃盾(ふじょうしょうげきたて)

 

 使用したのは防御系のスキル。

 自分の周囲に赤黒い衝撃波を発生させるスキルだ。吹き飛ばし効果があり、相手の攻撃魔法もかき消す事ができる。

 一日の使用回数が二回しかないスキルではあるが、今回は惜しみなく使っていく。

 

 リュウノのスキルにより、番外席次の斬撃はあっさりと掻き消された。

 しかし、番外席次は構わずもう一撃を放つ。

 だが、結果は同じで終わる。

 その間にも、番外席次に次々と光線が降り注ぎ、体力を奪っていく。

 そして──

 

「───っ!!」

 

 いつの間にか、身体が鉛のように重くなっていた事に番外席次は気付く。

 だが、気付いたときには遅かった。

 次第に動きが遅くなり、ついには足がもつれ、地面に倒れこむ。

 

 降りしきる攻撃の中、番外席次は自分が何故こうなったのか考えた。

 第一の原因は、武技を使い過ぎた事だろう。それが災いしたのか、身体の負担が限界をむかえてしまったのだ。

 よく良く考えれば──先程、デュラハンからポーションを受け取り傷を癒す事はできたが、すり減った精神力と身体に溜まった負担まで癒せた訳ではなかった。

 

 精神力の管理を見誤った。周りからみれば、そう判断されるだろう。

 しかし、これは仕方ない事だったのだ。

 なぜなら──ここまで自分が疲弊する戦いを、一度も経験した事がなかったからだ。

 大抵の相手は自分より弱く、あっさりと勝負に決着がつく。

 自分より強い存在と戦った経験は、今回が初めてだったのだ。

 

 故に全力を出した。

 武技を、ありったけの精神力を、攻撃にまわした。

 その為、もはや走り回る力など残っていなかった。

 

 番外席次は、倒れ伏した状態から上を見上げる。

 手を掲げ、眩い光の追撃を降らそうとしている、デュラハンの姿が目に映る。

 

 自分より強い存在。

 自分が追い求めていたものを与えてくれた存在。

 それが、目の前に居る。

 

 眩い光に包まれた時──番外席次は、ようやく答えにたどり着く。

 

「──そう……これが、敗北なのね……──」

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 首を動かし、周囲を確認する。

 どこか、宿屋の一室を思わせる内装の部屋だった。

 そして自分は、その部屋の寝台に寝かされていた。

 身体を起こそうとするが、身体に力が入らず、結局おこせなかった。

 

「目が覚めましたか」

「……何があったの?」

 

 寝台の横で、椅子に座って自分が起きるのを待ってくれていたであろう人物に質問する。

 

「目覚めて、開口一番がそれですか……」

「いいから話して」

 

 呆れたような仕草で、男──第一席次は話し出す。

 

 簡単に言えば、自分はデュラハンに敗北したとの事。

 その後、デュラハンも負傷した為、傷を癒すという名目で、話し合いは二日後に延期になった事も報告された。

 神官長達は、完全にデュラハンを神の類いであると、判断した事も。

 

「どうですか? 初めての敗北を味わった感想は……」

「……よくわからないわ……」

「そうですか? 屈辱や怒り、悔しさなどは感じませんでしたか?」

「……不思議と、それはないわね……」

 

 自分自身、初めて味わう感覚なのだ。どちらかというと、戸惑いすら感じている。

 

「そうですか……。いやしかし、あの方は凄いですね。流石は、私達が信仰している神を召喚するだけはあります。貴方を負かしただけでなく、アレすら容易く扱えるとは」

「アレ? アレって何の事?」

「コレですよ」

 

 自分の手の中に、何かが乗せられる。

 それはルビクキューだった。

 暇な時に自分が弄っていた、神の玩具。

 たった一面しか揃えられず、苦戦していた玩具は、全面が綺麗に揃えられた状態になっていた。

 

「倒れた貴方から、あの方が抜き取り、綺麗に揃えてから返却しました。ちなみに、全面揃えるのにかかった時間は、たったの三十秒程でしたよ。まるでルビクキューが、あの方の手の中で生きているように感じてしまう程の早さでした」

「……そう。何もかも、私より優れているのね……」

 

 遠くを見つめるような仕草で、番外席次は思い返す。

 戦いで見た、デュラハンの姿を。

 

「……あの方との間にできた子供って、どうなっちゃうのかしら?」

 

 一瞬、驚いたような顔を、第一席次が浮かべる。が、すぐにまた元の顔に戻る。

 

「……さあ? 私にも分かりません。しかし、結婚を考えているのでしたら、なかなか難しいかもしれませんよ? あの方には、何人もの女性のドラゴンが居ますから……」

「まあ……それは大変。どうすれば気に入られるかしら? ……ペットにでもなれば良いのかしら?」

 

 自分の問いに、第一席次は苦笑する。

 

「……はぁ……聞かなかった事にします。とりあえずは、体調を治して下さい。その後、神官長様が今後の事で話しあいたいと」

「……面倒ね……」

「我慢して下さい。とりあえず、私は朝食を取ってきます」

 

 第一席次が部屋を出ていく。

 番外席次は、朝日が差し込む窓を見つめながら、自分に敗北を与えてくれた人物を想う。

 

「ああ……早く、あの方の子供を孕みたいわ。さぞかし強い子が誕生するのでしょうね……」




コロナの影響で仕事場の環境が大きく変わるなど、様々なトラブルが発生し、更新が遅くなってしまいました。
申し訳ございません。
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