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「困ったものだ」
朝日が差し込む部屋の中で呟かれた一言。
その言葉の意味を、様々なかたち、様々な想像で受け取る大勢の人間達がいた。
そして、一人の男……帝国四騎士の一人──バジウッドが、周囲の想いを代表するかのように尋ねる。
「何がです? 陛下」
「何もかもさ」
ソファーに寝そべりながら、気楽な雰囲気で、帝国の皇帝──ジルクニフは答える。
「皇帝として……皇太子として産まれた時から、私は常に最高の物で囲まれて生きてきた。最高の家具、最高の芸術、最高の衣服、そして最高の異性。何もかもが、誰にも負けない物であった。それがどうだ? 今、私は敗北を感じているよ」
まるで演説でもしているかのように、ジルクニフは片手を広げる。
この部屋にある物を見ろと言わんばかりの動作に、部下達は改めて部屋を見渡す。
「これほどの建築物──これほどの華美な調度品を前に、敬意を示さない人間のほうがどうかしている」
「ああ……そういう事ですか。確かに、ここに置かれている家具全てが、陛下の城にある物を売っぱらっても足りない程の高級品ですね」
「そのとおりだとも。今座っているソファーも、昨日使ったベッドも、今飲んでいる紅茶も、全てが私の物を超えている。できることなら、全て持ち帰りたいぐらいだ」
この場に居る全ての部下達が、ジルクニフの言葉に肯定の意味の頷きを返す。
事実、この館は『竜の宝』が用意した物であり、王国に宿泊する帝国と法国の人間達の為にそれぞれ宛てがわれた建物である。
外見は普通の館なのだが、内部の無数にある部屋には、美しい装飾が施された家具が充実していたのだ。
それだけではない。
部屋の壁も天井も、廊下でさえも、信じられない程の高度な技術によって造られた物である事が見てわかる。
これほどの技術を、はたして人間が身につけられるだろうか?
ドワーフなら可能かもしれない。だが、そんな考えは即座に破棄される。人間に化けたドラゴンが造ったと言われた方が、今の自分達なら信じてしまうからだ。
そんな豪邸のような建物を、デュラハンが魔法か何かの力で、軽くポンッと生みだしてしまうのだから驚きだ。
法国の人間達ですら、言葉を失う程だった。
法国はデュラハンを『神に匹敵する存在』として容認する事を決めたようだが、昨日の戦いを見た今、ジルクニフ自身もデュラハンへの評価を改めていた。
デュラハン自身がドラゴンを従わせる事ができる力量の持ち主であると知ったからだ。そして、デュラハンが
数々の偉業、数々の破天荒な行動をやっておきながら、デュラハン自身は昨日まで己の力を自重し、隠していた。しかも、昨日見せた実力ですら、まだ全てではない事をほのめかしている。
本当に恐ろしい存在である。
そして、そんな存在を部下として自分の元に招こうとしている自分が恐ろしく感じてしまってもいる。
そういう意味も込めて、最初の発言に繋がる訳なのだが。
「──そう言えば、じいとレイナースの姿が見えないが?」
本来なら居るべきはずの二人の姿が見当たらない事に疑問をもったジルクニフが部下達に尋ねると、フールーダの高弟たち数名が困った顔を浮かべる。
「それが……我が師であるフールーダ様は、昨晩から部屋に籠り、魔導書の解読に没頭している状況でして……」
「デュラハンから貰った……たしか、第七位階の魔法が記された魔導書……だったか?」
「はい。今朝もお声をかけたのですが、『深淵を覗いている最中だ。邪魔をするな』と、おっしゃいまして……」
「まったく、じいのヤツにも困ったものだ……」
フールーダは、新しい魔法に関する事案に関わると、それに没頭するクセがある。
それを知っているジルクニフは、フールーダの事を大した事ではない雰囲気で受け流す。
「魔力が切れれば部屋から出てくるだろう。……で、レイナースは?」
「陛下……その……なんと言えばよろしいのか……」
「ん? ……どうした? 何かあったのか?」
秘書官であるロウネが歯切れを悪くしながら、気まずそうな雰囲気で机に何かを置いた。
それは一枚の紙。
「これは?」
「レイナースの置き手紙です……」
嫌な予感を感じながら、ジルクニフは手紙を手に取ると、内容を読む。
始めに『突然の事で申し訳ありませんが──』という文面から始まる手紙の内容を要約すると、『竜の宝』との約束を果たす為、帝国四騎士を辞めて一足先に帝国に帰ります、というものだった。
帝国の騎士でありながら、皇帝の許可なく仕事を辞め、護衛対象である皇帝を置き去りにし、先に帰国するなど、通常ではありえない行為である。
職務の怠慢、あるいは放棄と見なされ、罰せられるのが普通だ。
「……困ったものだ」
「どうします? 追いかけますか? 陛下」
命令違反を行ったレイナースを放置すれば、皇帝の威厳に傷がつく可能性がある。それなりの対処を行なうのが必然だ。
しかし──
「よい。放って置け」
ジルクニフは慌てる事なく冷静に告げる。
「よろしいのですか?」
「
レイナースの処分なんぞ、後からどうとでもなる。
今は『竜の宝』をスムーズに迎える為の活動をやらせておくべきだろう。
それに、今のレイナースは『竜の宝』の道具だ。レイナースに何かした場合、『竜の宝』の怒りを買う可能性もありえるのだから。
「では、この後のご予定はどうなさいますか?」
ジルクニフは頭の中で予定を組む。
現状、『竜の宝』は帝国との関係を築こうと動いてくれている。ならば、こちらが下手に動くのは不味い。
他国が何らかの行動を起こすまで、静観しておくのが吉であろう。
だが──
「……何人かに変装させて王都の市場に行かせろ。『竜の宝』が王国に提供した技術やアイテムを調べておく必要がある」
「はっ!」
「場合によっては購入しても構わん。こちらには、
「了解しました。部下達に命じ、対応させます」
王国に先を越されはしたが、ある意味これは良い目安にもなっている。
王国と同じだけの提供を、帝国も貰える可能性がある訳なのだから。交渉次第では、更に高い提供を受けられるかもしれない。
「……あとは、欠けた四騎士の座をどうするか……」
レイナースの代わりとなる、バジウッドやニンブルに匹敵する人材を確保する必要がある。
強さだけで言えば帝国内に候補となる男が一人、いるにはいるが。
「……帰ってから考えるか」
ジルクニフは現実逃避をするかのように、美味しい紅茶を飲むのだった。
王都の最奥に位置する王城── ロ・レンテ城。
その城の領地の一角に、
向かい合うように建てられた館の片方には帝国が、もう片方には法国が宿泊している。
館には、それぞれの国が自国の兵を配置し警護させている。
帝国にとって、ここは敵対している国の、しかも王城の敷地内である。警戒を強めるのは当然の行為である。
法国にとっても同じである。王国とは明確に敵対はしていないものの、裏で様々な工作をしていた事は王国にもバレている。
故に、王国の兵も館から離れた位置から監視している。
一切の油断を許さない緊張感が場を満たし、いつでも異常を察知できるよう、兵士一人一人が精神を集中させる。
───そうなるはずだった。
しかしである。
帝国も法国も、そして王国も……警備についている兵士たち全員が、上を見上げていた。
彼らの視線の先にあるのは、館の周囲を浮遊しながら巡回している巨大な存在だ。
王国と帝国からはモンスターとして認識されてはいるが、法国にとっては神の使いとして認識されている。
それは天使──中でも最高位の天使として知られている存在。
威光の主天使《ドミニオン・オーソリティ》
それが四体。
デュラハンの意向で、館の警護に宛てがわれているのだ。
法国の人間達にとって、かの天使は切り札的存在だ。召喚する場合、優秀な魔術師を何人も動員し、数日間にもわたって魔力を枯渇させる程の勢いで大儀式を執り行う必要がある。
そうする事で、やっと一体召喚できるのだ。
だがしかし、デュラハンは違う。
デュラハンは何も無い空間から一つの魔導書を引っ張り出すと、法国の人間達が苦労して召喚させる最高位天使を指パッチン一つで簡単に召喚させたのだ。しかも複数。
そしてそれを、デュラハンは単なる警備兵として扱っているのだ。
『デュラハンは神である。あるいは、神と同等の力を持つ存在である』
最高神官長が告げた言葉。
それに異論を言う法国の者はいない。少なくとも、この場に居る者たちはだ。
天使の召喚や扱いに長けている陽光聖典……その部隊長であるニグンですら、神の領域にいるデュラハンならこれぐらいできて当然なのだろうと信じて疑わない。
日課としている祈り時間では、
そんな異質な警備体制が敷かれた──ある意味では区画と呼んでもよい場所を、鋭い眼差しで睨む人物がいた。
評議国の代表── ツァインドルクスである。
彼にとって、法国や帝国が『竜の宝』に会いに来た事は迷惑に近かった。この両国が来なければ、悪魔問題が解決した後、『竜の宝』をスムーズに自国に招く段取りが取れていたはずだったのだ。
だが、『竜の宝』は帝国を優先した。
彼らが仕える存在──アインズ・ウール・ゴウン。
その人物に捧げるエ・ランテル周辺の土地を、手っ取り早く得るという手段の為に。
「どうしたのじゃ? ツアーよ」
後ろから語りかけてきた古くからの友人に、ツアーは振り返りながら優しい口調で返事を返す。
そこには、先程までの睨み顔はない。穏やかな表情をしていそうな……そんな口調があるだけだ。
「なんでもないよリグリット」
「……ふむ? そうかい。なら、早くあヤツらの所に向かうかの」
「ああ。そうだねリグリット」
「凄かったよな〜! こう……光がバッーってさ!」
「僕の人生を振り返っても、あんな凄い魔法は見た事ありません!」
「その前の剣戟も、凄まじいものでしたよね!」
「うむ! もはや伝説の戦いの一端を垣間見たと言っても過言ではないのである!」
王都のとある酒場にて、先日の御前試合の感想を述べ合う『漆黒の剣』のメンバー達。
昨日の出来事とはいえ、彼らの興奮は未だ下がっていない。
ドラゴンに金銀財宝、国家同士の交渉に御伽噺の十三英雄にも匹敵する戦い等、一日でありえない程のものを観たのだ。その全てを語るには、一日では足りない程だと思う程に。
そんな彼らの周りには、酒場に集う冒険者達でごった返していた。
普段、この酒場がこれほどの賑わいを見せる事はない。
しかし、話題が『竜の宝』に関する事となれば、誰もが食いついて当然である。
特に先日、評議国の一団が王都に来た事は王都全体に知れ渡っている。その評議国の一団の目的が『竜の宝』である事も知られている為、どんな内容だったか誰もが気になっていたのだ。
だが……フタを開けてみれば、帝国と法国まで絡んでいたという事実に誰もが驚愕した。
無論、『漆黒の剣』だけでは信憑性を疑われただろう。彼らは王都では無名に過ぎないのだから。
冒険者たちが彼らの話を信じるきっかけになったのは、彼らと並んで同じ話題で盛り上がっている『蒼の薔薇』のメンバー達のおかげである。
さらに、元十三英雄のリグリットまで加わっていれば、話題に関係なく人が集まってしまうものだ。
昨日の出来事を語る彼らの話を、聞き耳を立てながら聞く冒険者たち。その内容は瞬く間に広がり、さらに詳しい話を聞こうと集まってきた結果が今の賑わいである。
二つの冒険者チームの会話により、『竜の宝』の拠点で国家同士の話し合いが行われた事、御前試合が行われデュラハンが勝利した事が語られ、その詳しい内容が多くの冒険者たちに知れ渡った。
明日明後日には、王都中に知れ渡る事だろう。
そんな活気をみせている酒場の賑わいを、とある二人の人物が物静かに聞き入っていた。
「いいのかいイビルアイ。戻らなくても?」
「……しばらくはあのままでいいだろう。私が戻ったところで、話題が変わる雰囲気でもないしな」
「……そうかい。君がそれでいいなら別に構わないのだが……」
酒場の屋上に設けられたバルコニーで、手すりに寄りかかるように立ち、立ち話をするイビルアイとツアー。
十三英雄として活躍していた時代、その時から知り合いである二人は人ではない身だ。
故に、少しだけ人間達から距離をおくクセが身についてしまっている。
というのも──両者とも、通常の人間がむかえるであろう寿命を遥かに超えて生きている。当然、長く生きている以上、死に別れも多く経験している。
イビルアイにとって、今の仲間達は大切な存在だ。無論、昔も含めてだが。
しかし──いつかは失われる。
それを理解しているからこそ、ツアーは気遣ったのだ。
「それよりも、お前から見て……『竜の宝』はどうだった?」
その質問がくる事をツアーは予想していた。
イビルアイが『話がある』と言って屋上に移動した時から予測していたからだ。
互いに、ユグドラシルという異なる世界から来た人物──十三英雄のリーダーとの交流を持つ自分達にとって、新たに現れたユグドラシルからの来訪者に関する情報や意見交換は大事な事である。
「……リーダーであるデュラハン本人は悪い人物ではないと思えるね。それとあの三匹も、デュラハンの命令に忠実ではある。しかし──」
「──ドラゴン……竜王達が悪い方へと導いている?」
イビルアイの言葉に、ツアーはコクリと頷く。
「そう言わざるをえないね。私が言うのもなんだが……良くも悪くも、ドラゴンの本能に忠実すぎていて、文句の言いようがないよ」
「……どういう意味だ?」
小首を傾げるイビルアイ。
ドラゴンの本能──それは、突き動かされる欲望だ。
ドラゴン達──特にティアマトのようなクロマティック・ドラゴン達は、自分には“この世の富をすべて我が物とする権利がある”と信じている。ドラゴンの財産を“横領している”人型生物や他の生き物どもの事情など無視して、自分の財産を“取り返そうと”する。金貨と銀貨、きらめく宝石、そして魔法のアイテムが山と積み上げられたドラゴンの財宝は、まさしく伝説の主題にふさわしい。だがクロマティック・ドラゴンは、商売にはまったく興味がなく、ただ所有するためだけに富を蓄えるのだ。
故に、元人間であるイビルアイには理解できないで当然だ。
「要するに自分本位なのさ。ドラゴンは基本的に、“自分こそ最強の存在だ”という考え持つ者が多いんだ。だからこそ──」
ツアーの言うとおり──クロマティック・ドラゴン等は、我らこそ定命の存在の中で最も強く最も偉い存在だと思いこんでいる。彼らの同族意識もこういった優越感に由来している。彼らが他のクリーチャーと関わる際には、自分の利益を増やすことしか考えない。彼らは自分が生まれつきの支配者だと信じており、この信念がすべてのクロマティック・ドラゴンの人格やものの見かたの根本にある。クロマティック・ドラゴンを慎み深くさせようとするのは、風に止まれと言うに等しい。この種のクリーチャーにとって、人間は動物と変わらず、獲物や家畜として使役すべき存在であり、人間に尊敬を抱く余地はみじんもないのである。
「──悪いドラゴンは問答無用で相手から宝を奪う。良いドラゴンは交渉や物々交換などをする事もあるがね」
善竜として名高いメタリック・ドラゴンは、人間と言った知性ある弱者を守護し、その見返りとして対価を要求する事が多い。
かくいうツアーも、どちらかといえば
「だが、
「根本?」
「ああ。あの竜王様達は自分の為に行動していない。何もかもがデュラハンを中心に置いてるんだ。わかりやすい言い方をするなら、『この世にある宝は全てデュラハンの為にある』……そう考えているように見えたね。だからこそ恐ろしいのさ。竜王様達は、最終的にデュラハンそのものを自分の懐に収めようと企んでいる。私はそう予想したね」
通常のドラゴンは、『自分こそ最強の存在だ』という考えを当たり前としているが、あの竜王達は違う。
彼らにとって最強なのは、自分達を召喚しているデュラハンだ。
そのデュラハンが、いわゆる移動する宝物庫と化している。
竜王達にとって、これほど都合の良い環境があるだろうか?
彼らのような偉大で強大な存在たる竜王達を召喚できるのは、あのデュラハンだけ。それは、視点を変えて見れば
デュラハンにとって竜王様達は、己が騎乗する騎獣のような存在なのだろうが、竜王様達にとってデュラハンは、自分と鎖で繋がった宝そのものという認識だろう。
ババムート様を筆頭とする善竜はデュラハンを守護し、ティアマト様を筆頭とする悪竜はデュラハンに近づく外敵を滅ぼす。
一見、バランスがとれているように見える。が、それは竜王様達が協力し合っているからだ。少しでも、デュラハンという最高の宝を竜王達が奪い合う形になれば、周辺は地獄と化すだろう。
竜王様達が互いに争わずに済んでいるのは、奇跡的にデュラハンが上手い具合に手綱を握れているおかげだろう。
「確かに……特に、一番デュラハンを狙っているのはティアマトだな。あの竜王の言動はビックリする程わかりやすいぞ」
「そうなのかい?」
「ああ。この間、『竜の宝』と一緒に鉱山の依頼を受けた時なんだがな──」
イビルアイが、シャドウナイトドラゴンとの遭遇時に見た、ティアマトの言動をツアーに説明する。
①召喚されるなり、デュラハンを自分の胸に抱きしめた事
②四番目の妻を予約している事
③ティアマトがデュラハンを偉大で強くて優しくて素晴らしい人物だと思っている事
④デュラハンをどの宝石や財宝よりも高価で貴重な存在だと明言した事
⑤デュラハンに雌犬扱いされても喜ぶ事
⑥デュラハンが血の竜(ブラッド・ドラゴン)になった時、頬を赤らめて欲情していた事
その他etc.
「……それ、事実なのかい?」
「ああ。事実だ」
「………………」
ツアーは文字どおり絶句する。
自分達が崇拝しているババムートと対をなす存在であるティアマトが、そこまで酷い有様を晒していた事に。
いくら何でも、ドラゴンとしての誇りを捨てすぎである。
しかし逆に言えば、ティアマトがそれだけデュラハンのことを欲しているという事になる。他の竜王様達も同じようならば、近いうちに奪い合いが起きるのは確定か。
だが、疑問が一つある。
何故それ程──竜王様達はデュラハンを欲しがるのか。
金銀財宝を大量に持っているから?
デュラハンが自分達より強いから?
実は、デュラハンの『えぬぴーしー』だから?
それとも、先程イビルアイが言っていた血の竜(ブラッド・ドラゴン)が関係している?
「あ」
「ん?」
頭の中で様々な考察をしていたツアーは、イビルアイの声によって現実に戻される。そして彼女の視線を辿る。
多くの人が行き交う大通り、その道路の向こうから何かがやってくる。
屋上の手すりから身を乗り出しつつ、ツアーは持ち前の気配察知により、肉眼で確認するより早く知覚する。
この気配は──『竜の宝』だ。
しかもそこそこ速いスピードで近づいて来る。
そして──その光景を目撃したツアーは、またもや絶句する。
それは異様な光景だった。少なくともツアーにとっては。
だが、イビルアイを含め、王都に住む人々にとっては当たり前になりつつある日常だった。
三匹の竜娘……まるで犬のように四つん這いで走る彼女たち。それだけならよかったのだが───。
彼女たちの首にはリードがついており、その先端をデュラハンが握っている。まるで犬の散歩のように。
しかし、よく見れば誰でもわかる。いや、よく見なくてもわかる。
嬉しそうに走り回る三匹の竜娘の力に抗えず、荒々しい砂ぼこりを巻き起こしながら引きずられる情けないデュラハンの姿がそこにあった。
時刻は昼を大きく過ぎた昼間。
多くの人々が、暴走したペットを制御できずに引きずられる哀れな
酒場の前の通りを『竜の達』が走り抜けていく光景を見届け、やっとツアーは我に返る。
「あ、あれは……!?」
「本人達いわく、散歩だそうだぞ」
「さ、散歩……」
あれだけ凄まじい実力を見せていたデュラハンが、ああも情けない姿を衆目に晒すのかと、ツアーは驚きを隠せない。
そしてますますツアーは不思議に思う。
あのデュラハンが、よくもまあ竜王様達を手懐け、手綱を取る事ができているなぁと。
「ホント……世の中には、私の知らない不思議がいっぱいある」
「ふふ。アイツらに関しては、不思議しかないがな」
「はは。そうだね」