首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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その2人は突然現れた。
村をあらかた占領し、村人を集めて殺す予定だった我々の前に。

その2人は問答無用だった。
立ち向かう者、
逃げる者、
恐怖に怯える者、
目の前の真実を受け入れられずにただ立ち尽くす者。
だが、そんなの関係無いと言わんばかりに、
兵士だけを淡々と殺していく。

その2人は人間ではなかった。
鱗のような手足、竜のような尻尾。
その2つが、彼女らが人間ではないことを教えていた。

その2人は美人だった。
人間のような容姿に美しい顔立ち。
綺麗な金髪と抜群のスタイルは、この世の全ての男が魅了されてしまうのではないか、と言っても過言ではない。

その2人は強かった。
ある者は、頭を殴られ一撃で粉砕された。
ある者は、鋭利な爪で首を切断された。
ある者は、尻尾で鎧ごと貫かれた。


「な、なんなんだ!?コイツらは!?」
「兵士だけを的確に殺してるぞ!」
「駄目だ!剣が効かねぇ!見えない鎧でも着てるのか!?」
「こんなのどうしろってんだ!?」

兵士達が混乱している。
突然現れた2人に次々と仲間が殺されていく。

「お、お前達!何してる!あの怪物を倒せ!」

兵士の隊長が叫ぶ。
しかし、無駄だった。
誰も戦おうとしない。
当然だ。前に出れば確実に殺される。
殺されていく兵士は怪物の近くにいた者達だ。

「お、俺は、こんな所で死んでいい人間じゃあないんだ!誰か!俺を守れ!」

周りを見渡す隊長。
だが、残ってる味方はあとわずか。
せいぜい、8人程だ。
村人を見張らせていた4人の兵士、怪物に剣を構えてる3人の兵士と副隊長のみ。

勝てない

すぐに予想できた。
たくさんいた兵士達が、あの2人の怪物に殺られたのだ。
これだけの戦力で勝てるはずがない。

「ぎゃああっ!?」
「がふっ!?」
「た、助け…!あがっ!?」

兵士3人が殺された。
それを見た隊長は

逃げ出した

部下を見捨て、馬が止めてある場所に走りだす。

「隊長!?待って下さい!隊長ぉ!」

副隊長の声がしたが、もはや構ってられない。
一刻も早く逃げたかった。助かりたかった。

「ひっ!?来るな!来るなぁぁぁぁ!うわぁぁ!」

副隊長の声が聞こえた。
走りながら振り返ると、副隊長の首が無くなり、血が吹き出ていた。
副隊長を殺した怪物の目と自分の目が合う。

次は自分が殺される!

隊長はそう思った。
だが、怪物は隊長を見るのをやめ、村人達の側にいる兵士達の方へと歩いていく。

助かった!まだ、助かる!

隊長はそう思った。
しかし、その思いはすぐに消えた。

「情けない人間め。仲間を見捨てるか。」
「え?」

突如、背後から声がした。
確認しようと正面を見ようとする。
が、できなかった。
なぜなら…

隊長の首が地面に落下したからだ。
血を吹き出しながら、隊長の身体が倒れる。

「貴様のような最低な上司は、頭も最低な位置にある方がお似合いだぞ?」

死に行く意識の中、首だけになった隊長は見た。
黒いツインテールの女の怪物が、血の付いた刀を持ってこちらを見下ろす姿を。




第6話 カルネ村

ブラック、ブルー、レッドの3人は、

村を襲撃していた兵士4人を捕らえて、残りは殲滅した。

 

ブラックが集められていた村人に言う。

 

「村人達よ、聞け!この村を襲撃していた兵士達は、我々が撃退した。この村はもう安全だ。それと、我々はお前達村人に危害を加える気はない。だから安心してほしい。」

 

村人達の安堵する声がする。

 

「この村の村長は居るか?」

「わ、私ですが…」

「お前が村長か。(じき)に我々の主人がここに来る。我々の主人は、貴様との対話を望んでおられる。問題ないな?」

「は、はい…。」

 

村長も村人達も、まだブラック達に怯えている。

 

「そう言えば、我々の主人が女性と子供を先程森で助けていたな。名前は確か…エンリとか言う名前だった。この村の住人か?」

「そ、そうです!よかった!あの子達も無事だったか!」

「我々の主人はとても優しい御方だ。そう怯えなくて大丈夫だぞ?」

 

ブラックなりに気を遣ったつもりだったが、口調のせいで威圧感が残っている。

村長が恐る恐る聞いてくる。

 

「あの、貴方がたのお名前をお聞きしても?」

「私の名前はブラック。あちらの2人は妹のブルーとレッド。我々は竜人族という種族で、人型に変身できるドラゴンだ。」

「ど、ドラゴン!?」

「我々はアゼルリシア山脈からやって来た。主人と旅をしている途中、この村が襲われていたので助けに来たのだ。」

 

村人達がザワザワと話だす。

ブラック達の素性を知って、恐怖が安らいだのだろう。

 

「む?村長、我らの主人が到着したようだ。」

 

ブラック達の視線の先を見る。

村長も村人達も、ブラック達の主人がどんな人物か気になっていたからだ。

 

やって来たのは、首無し馬のチャリオットに乗ったエンリとネム、そして…

 

「あ、あれが…あの方がブラック様達の主人なのですか?」

「そうだ。我らのご主人様である、デュラハンの勝様だ。」

 

首の無い人間、いやアンデッドのデュラハンが、チャリオットを止め、エンリ達を優しくチャリオットから降ろしている。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

お礼の言葉に対し、Goodポーズで返す。

 

「村長さん、みんな、無事ですか!?」

 

エンリ達が村人達の方に駆けて行く。

 

「おお、エンリちゃん。無事でよかった。こっちは何人か死人が出たが、村人の大半は無事だよ。」

「私達は、兵士達に殺されそうになっていたところを

このデュラハンさんに助けていただいたんです。」

 

エンリの言葉に合わせるように、勝がお辞儀をする。

 

「そうか…。あの、勝様…でよろしかったでしょうかか?私達の村を救っていただき、本当に感謝しております。ありがとうございます。」

 

村長と握手をする。

 

【いえいえ、お構いなく。当然の事をしたまでです。】

「ご主人様が、当然の事をしたまでだ。と、おっしゃってる。」

「え?あ、そうなのですか?」

 

勝が喋らない事に疑問を抱いているのだろう。

 

「言い忘れていたが、ご主人様はこの通り頭がなくてな。他人と会話ができぬのだ。妹達も、人語を理解できるが人語を話せない、という欠点がある。私が代弁者を務めている。」

「な、なるほど。そう言う事だったのですね。」

 

エンリ達も、勝が喋らない理由がわかって安堵していた。

チャリオットに乗ってるとき、ずっと無言で会話がなかったからだ。

 

「えーと、それで勝様。村を救っていただいたお礼に、なにか差し上げたいのですが…なにぶん、小さな村ですので、たいした額のお金はお渡しできません。」

 

村長はお礼代わりに金銭を渡してくれるようだ。

しかし、襲撃にあって多少被害がある村から金銭を貰う気にはなれなかった。

 

「村長よ。ご主人様はこうおっしゃってる。お金は要らない。村の修繕費にでもまわしてくれ、と。」

「それは、私達にとってはありがたい事ではありますが…」

 

お金を貰わないどころか、村の事を気遣ってくれている勝に、村長達は感動する。

しかし、村を救ってくれた人物にお礼もしないのは気が引ける。

 

「では、代わりに情報が欲しいそうだ。我々は、アゼルリシア山脈に引きこもって居たせいか、今の世界情勢を知らないのだ。知っている範囲、わかる範囲の情報を提供して貰えると助かる。と、ご主人様はおっしゃってる。」

「そうですか!わかりました。では、私の家でお話しましょう!」

 

村長の家へと歩き出す。すると…

 

「よろしければ、私達も交ぜていただいてもよろしいかな?」

 

突然、空から声がする。

全員が見上げると、そこに居たのは2人の人物だった。

 

「貴方々は?」

「これは失礼。私達はそこのデュラハンの知り合いです。私の名前は、『アインズ・ウール・ゴウン』。アインズとお呼び下さい。」

「私はアルベドと言います。アインズ様の護衛です。」

 

完全武装状態のアルベドと、嫉妬マスクを付けたモモンガが浮遊した状態で挨拶をしている。

村長が本当に知り合いかどうかコチラに視線を送る。

 

【素顔を隠し、ギルド名を偽名代わりに使ってるって事は、正体を隠す流れか。ブラック、モモンガ…いや、アインズさんの芝居に合わせて!】

 

ブラックがコクっと頷く。

 

「これは、アインズ様。アインズ様もおいでになられるとは。ご主人様が心配で、来てしまわれたのですか?」

「ん?ああ、そんなところだ。勝さんだけでは、会話が難しいと思ってな。」

 

ゆっくりと降りて来るアインズ。

 

「村長さん。私は山奥に居を構えているマジックキャスターでして、勝さんとは友達なのです。私も勝さんと同じで世界情勢が知りたく思っています。同行してもよろしいですか?」

「は、はい。私達は構いませんが…」

「なら、一緒に行きましょうか、勝さん。」

 

勝とアインズが一緒に並んで歩く。

その後ろにブラック達とアルベドが続いて歩く。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アインズのおかげで、村長との話し合いはスムーズに進んだ。

村長や村人達も、いきなり現れたアインズに警戒心をあまり抱かず、普通に話せていた。

 

世界情勢に関して得た情報をシンプルにまとめると、

3つの国家が争いあってるらしい。

 

村長が見せてくれた地図によると、

カルネ村の近くに『エ・ランテル』という大都市がある。この『エ・ランテル』が地図の真ん中にある。

 

まず、エ・ランテルの北西側がリ・エスティーゼ王国。

カルネ村とエ・ランテルも、この王国の領土らしい。

 

次に、北東側がバハルス帝国。

王国と戦争を続けてる国だ。

 

最後に、南側にあるスレイン法国。

王国と帝国のあいだにあり、この法国も戦争に加わっているが、積極的な戦争はしていないらしい。

 

北側には、トブの大森林という森が広がり、さらに北にはアゼルリシア山脈がある。

この山脈があるおかげで、王国と帝国の大激突が防がれている。

 

南東側に、王国と帝国の戦争がよく行われていたカッツェ平野が存在する。

戦争跡地という事もあってか、アンデッドがよく現れるそうだ。

そして、そのカッツェ平野のさらに南東側に竜王国という国が存在するという。

 

【竜王国かー。気になるなー、その国。ドラゴンとなにか関係あるかな?】

「竜王《ドラゴンロード》が支配しているという可能性は?」

【この世界にも竜王《ドラゴンロード》がいるなら、是非会いたいものだ。】

 

 

 

次に、この世界には『冒険者』と呼ばれる職業が存在する。

冒険者には誰でもなれるらしいが、異形種も冒険者になれるのだろうか?

 

冒険者の職業は、冒険者組合から依頼を引き受け、達成した内容で報酬が貰えるらしい。

また、冒険者にはランクが存在し、ランクの高い冒険者には同ランクの依頼が来る。

ランクが高いほど危険度が上がるが、報酬も上がる。

 

冒険者のランクは、

 

《カッパー》

《アイアン》

《シルバー》

《ゴールド》

《プラチナ》

《ミスリル》

《オリハルコン》

《アダマンタイト》

 

の8つのランクがある。

1番高いランクのアダマンタイトは、もはや伝説と呼ばれるほどの実力者達がなれるランクらしい。

 

 

【冒険者か。私もなれるかな?】

「ご主人様なら、すぐにアダマンタイト級冒険者になれますよ。」

【私もお前達も異形種だぞ?まず冒険者として認めてもらえるのかどうかが問題じゃないか?】

「う…。それもそうですね…」

 

【それに、どう頑張っても最初は最低ランクのカッパーからだ。最低ランクの依頼なんて、人間達の荷物運びや薬草採取などの地味でつまんないものばかりだぞ?私は平気だが、お前達はどうだ?威厳あるドラゴンが、人間達にアゴで使われるんだぞ?耐えられるのか?】

 

「ご主人様が耐えるのなら、私達も耐えます!」

【本当か〜?『人間の分際で、私達のご主人様に荷物運びをさせるつもりかー!』とか、言ったりしそうw】

「うー…それは、やってしまうかもしれません…。」

 

【頑張って耐えろよw冒険者という職業は、信頼性が1番響くんだ。カッパーの依頼もろくにできない冒険者に高いランクの依頼は任せられない、という感じでな。トラブルばかり起こす冒険者も同様だな。】

「はい…できる限り頑張ります…。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「だいたいの情報は得られましたね。」

 

アインズと村長の会話に一通りの区切りがついた。

 

「他になにか聞きたい事はありますか?」

 

村長が訪ねてくる。

すると、勝が手を上げる。

 

「何でしょうか?」

「村長、ドラゴンに関する情報はないか?過去の歴史や伝説など、なんでもいい。ご主人様はドラゴンに関する情報が欲しい、とおっしゃっている。」

 

少し考える村長。

 

「そうですね…約500年程前に、竜王達が支配していた時代があった。という歴史ならありますね。」

 

【おお!?そんな過去が!】

 

「ですが、八欲王なる者が現れ、竜王を含むドラゴン達をほとんど狩り尽くしたそうです。」

 

【な、なんだとぉー!?竜狩りか何かか?ソイツ!】

 

 

村長の話によれば、

八欲王とドラゴン達はなんども殺し合い、八欲王も死んでは復活を繰り返しながらドラゴンをほとんど殺し尽くしたそうだ。

ただ、八欲王との戦いに参加しなかったドラゴンが今も生き残っている、という噂もあるらしい。

 

「なるほど。私達の先祖は、八欲王との戦いから生き延びたドラゴンという事になりますね。」

 

アゼルリシア山脈から来た事にしている勝達は、少しでも信用してもらうために、ドラゴンの逸話や歴史を組み込んでおく必要がある。

勝が召喚する竜王《ドラゴンロード》との辻褄を合わせる意味も兼ねている。

 

【竜王《ドラゴンロード》を召喚できる理由としては、今の情報でなんとか下地はつくれそうだな。私がどういう存在なのか、という設定を作っておけば、聞かれたときに役立つしな!】

「設定?ですか?」

【ああ。例えばだ…。】

 

 

①勝が何者か聞かれたとき。

 

私は500年前の人間の身体から生まれたデュラハンだ。

 

②君が500年前の人間だという証拠は?

 

500年前に存在した竜王達を召喚できる。

 

③500年前の出来事を話して欲しい。

あるいは、生前の記憶でも構わない。

 

デュラハンとして蘇った時に、過去の出来事や記憶が喪失したため、ほとんど覚えてない。

 

④過去の伝承や逸話などを調べたが、『勝』という竜騎兵の英雄や人物は発見されていない。

 

大量に居たドラゴンの内の1匹に、私が乗ってたなんて、昔の人達が気付くとでも?

八欲王との戦いに参加していたにしても、

ドラゴンの活躍ばかり目立って、私の活躍なんて歴史書にすら載らなかったんだと思います。

 

 

【…という言い訳ができるだろ?】

「なるほど!流石ご主人様。」

【後は、召喚した竜王達に、500年前の滅んだ竜王達のフリをしてもらえれば完璧だ。私の事を、500年前に一緒に戦ってくれた人間である、と竜王達が証言すれば、誰も疑わないだろ?】

「上手い作戦です!それで行きましょう!」

 

少々強引な設定ではあるが、これでゴリ押しするしかない。

 

【後でアインズさんにも話しておくか。】

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

村長から最低限必要だった情報は得られた。

村長の家から出て歩きながら、勝がアインズに話しかけた。

先程考えた『竜騎兵・勝の偽プロフィール設定』を教える。

 

「…という設定なんですが、どうでしょうか?アインズ様。」

「うーん…悪くはないですが、500年前の竜王が今も生き残ってて、『勝という人物は知らない』とか、言われたらアウトでは?」

「知らないのは貴様が八欲王との戦いに参加しなかったからだろう?と、切り返すつもりらしいです。」

「うわーwホントに強引ですね、それw」

 

アインズが笑う。

 

「あ!勝さんに言い忘れてた事がありました。」

【ん?】

「何でしょうか?アインズ様。」

「私達が村に現れる少し前、勝さん達は村長と会話してましたよね?実は、あの時にブラック達が捕まえた兵士達をにがしたんですよ。」

「え!?捕まえた兵士達を逃がしたのですか?」

【…もしかして、宣伝目的かな?】

 

アインズが兵士達を逃がした理由をすぐに察する勝。ブラック達はまだ理解が追いついていない。

 

「どういう事ですか?ご主人様。」

【あれだよあれ。わざと逃がす事で兵士達の上司に、我々の存在を教えるためさ。『この村は我々、アインズ・ウール・ゴウンの領地だ!再び手を出せば、次は貴様達の国に死を送るぞ!』的な脅しを添えれば、さらに効果的だ。敵はアインズを恐れて迂闊に攻撃して来ないし、敵の軍勢にアインズの噂が流れるだろ?】

 

「なるほど!流石アインズ様!」

 

先程の兵士達が所属する国家にプレイヤーがいる可能性もあるが、アインズ・ウール・ゴウンの恐ろしさはユグドラシルプレイヤーなら誰でも知っているはず。敵対は避けると思うが…。

 

【というか、人には戦闘避けろとか言ってたくせに、アインズさんが真っ先に国に喧嘩売ってるじゃんw】

「言われてみれば、そうですね。アインズ様が誰よりも先に敵国に喧嘩を売った形になりますね。」

「は!?私とした事が、なんて些細なミスを!」

「しかも、村にいた兵士達を捕まえたのが私達で、兵士達を逃がしたのがアインズ様なので、逃げた兵士達はご主人様の事を知りませんよね?ご主人様の情報は一切流れないのでは?」

【えー!?私が1番最初に村人助けたのにー。】

「まあ、カルネ村の人達が勝さんの情報を流すでしょ。むしろ、敵側に勝さんの情報が行かなかったぶん、良かったのでは?」

【それはそうだけどさー……ん?】

 

話しながら歩いていると、村人達が墓を作って埋葬していた。襲撃で殺された人達の墓なのだろう。

村人達が墓のまえで葬儀を行っており、その中にはエンリとネムもいた。

沢山ある墓の1つに花をお供えしている。

恐らく、エンリ達の家族の墓だろう。

エンリもネムも墓の前で泣いている。

 

【…彼女達も、大切なものを失ってしまったのか…】

「え?ご主人様、それはどういう…」

【いや、気にするな。私の独り言だ。】

 

動物園が閉園になったときに会えなくなった動物達の事を思い出す。

会えなくなる悲しみと、

大切なものを奪われ、失う辛さを。

 

自分はまだ良い方だ。死に別れた訳では無いのだから。

しかし、エンリ達は違う。

彼女達はもう、どんなに頑張っても…家族には会えない。

 

【大切なものを奪われるのも、大切なものを失うのも、もう二度とゴメンだ。奪われるなら…失うくらいなら、全てを敵にまわしてでも守り抜く。ナザリックの全てを!そして…】

 

勝がブラックの手を握る。

 

【お前達3人もな。】

「…ご主人様…」

 

ブラック達が照れる表情をする。

何がなんでも、この3人は守るんだ。私の手で。

 

勝が、ブラック達を連れてエンリ達の元に近寄っていく。

持ち物から、『しあわせ草』を取り出す。

 

ユグドラシルのアイテムの1つ、しあわせ草。

見た目は、とても美しい花がついた薬草型アイテムだ。

使用するとレベルが上がるレベルアップ用アイテムだが、既にLv100のプレイヤーには不要なアイテムでもある。

 

しあわせ草をエンリの家族の墓にお供えする。

村人達が勝のとった行動を不思議そうに見る。

 

「あ…ありがとうございます。勝様。」

【すまない…助けてあげられなくて。私がもっと早く来ていれば…】

「ご主人様が気に病むことはありませんよ。」

「え…?ブラックさん、どういう意味ですか?」

「ご主人様は、こうおっしゃってます。自分達がもっと早くカルネ村に来ていれば、被害が少なくすんだのでは…と。」

「そ、そんな!勝様達が来て下さって…村を救って下さっただけでも感謝しています!村人達全員がそう思っているはずです。」

「…そうですか。そう言って頂けるなら、ご主人様も安心できます。」

【ホントに優しい方達だ。できる事なら、この村の人達がまた同じ被害にあわない事を祈ろう。】

 

 

村人達の優しさを実感した矢先に、アインズが勝の名前を呼ぶ。

呼んだ理由を聞くと、

 

「先程村人達から報告がありました。騎士風の1団が、コチラに向かってきてるそうです。」

「村を襲撃していた奴らの仲間でしょうか?」

「わかりません。ひとまず、私達と村長が外で待ち受け、村人達は倉庫に集まって避難する方針で行く予定です。」

【襲撃犯と同じ兵士達なら、捕まえるか、最悪皆殺しかな。】

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕方・カルネ村

 

騎士風の1団が馬に乗ってやって来た。

1団のリーダーらしき人物が近づいて来る。

 

東洋人を思わせる顔つきに、鍛え上げられた屈強な肉体が目立つ。

 

出迎えたのは、村長とアインズ&アルベド、勝&ブラック達だ。

勝はあえて村長の隣に立っている。

村長が、隣に居る勝さんに警戒心を抱いていない事を知ってもらうためだ。

 

「私はリ・エスティーゼ王国の王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフだ。」

「王国戦士長!?」

 

村長が驚いている。

 

「王の命により、国境付近を荒らし回っている者達を討伐するため、村々を回っている。貴方が村長か?」

「はい。私がカルネ村の村長です。」

「それで…其方の方々は?」

 

戦士長がアインズ達に目を向ける。

アインズが一歩前に出て挨拶をする。

 

「初めまして、王国戦士長殿。私は、アインズ・ウール・ゴウンといいます。アインズと呼んで下さい。山奥の辺境住んでいる、しがないマジックキャスターです。この村が兵士達に襲われていましたので助けた者です。」

「それは本当か!?」

 

戦士長が下馬して頭を下げる。

 

「村を救っていただき、感謝する!」

 

まさか王国の戦士長が頭を下げ、感謝の言葉まで言うとは!意外と好感が持てるぞ!この戦士長さんは!

 

「あー…申し訳ありませんが、実際に村を救ったのは私ではなく、そちらのデュラハンのメンバーです。私は後から駆けつけただけなんですよ。」

「こ、これは失礼した。えーと…そちらのデュラハン殿、本当に感謝する!」

 

戦士長が勝の前でお礼を言う。

勝は、返事の代わりに戦士長と握手をする。

 

「ガゼフさん、少しよろしいですか?」

 

ブラックが戦士長に話しかける。

 

「何かな?」

「私の名前はブラックと言います。コチラは妹のブルーとレッドです。私達は竜人でドラゴンに変身できる種族です。」

「ドラゴン…ですか?」

「ええ。それと、そちらのデュラハンが、我々のご主人様である勝様といいます。」

 

勝がお辞儀をする。

 

「これはどうも、ご親切に。貴方々も、村を救って下さったのかな?」

「ご主人様が最初に村人を助けました。その後、ご主人様の命でカルネ村を襲撃していた兵士達を我々が殲滅しました。」

「そうでしたか。ブラック殿達にも礼を言おう。感謝する。」

 

何度も礼を言ってくれる戦士長を見て、アインズと勝は、ガゼフ・ストロノーフという人物が信用できる相手と判断した。

 

すると、王国兵の1人がやって来てガゼフに報告している。

 

「戦士長、周囲に人影があります!村を等間隔に包囲しているようです。」

「何だと!?」

 

【今度こそ、敵の援軍か?いろいろ起きすぎて、独断で動く訳にもいかんしなぁ…】

「そうかもしれませんね。どうなさいますか?アインズ様。」

 

状況が状況なだけに、ギルド長に判断を仰ぐ。

 

「全員、建物に入って様子を見ましょう。攻めてくるなら迎撃しますが、攻めて来ないなら別の作戦を考えましょう。それでいいですか?戦士長殿。」

「ああ。ひとまずゴウン殿の指示に従おう。」

 

次から次に起こる状況変化に勝は思った。

 

【偵察(散歩)から始まった外出が、とんでもない展開になったなぁ…】

 

 




チビチビと更新していきます。
しばらくは、細かいストーリー展開になるかもしれませんね(笑)

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