首なしデュラハンとナザリック   作:首なしデュラハン

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「恩にきる、勝殿。陽光聖典との戦いで死んでしまった馬が数頭いて困っていたのだ。」

現在、勝は馬車(コシュタ・バワー)に乗っている。
カルネ村に戻る際は、ケガした隊員を背負うなどして無理矢理運んだガゼフ隊だったが、レッドの魔法の治療により、ガゼフ隊全員が無事復帰した。
しかし、肝心の馬が数頭殺されてしまっていたので、長距離の移動が困難だったのだ。
そこで、勝が馬車(コシュタ・バワー)で運ぶ事にしたのだ。

馬車内には、勝とブラック、戦士長ガゼフと副隊長が乗っている。馬車を引いてる首なし馬に、ガゼフ隊の兵士が二人乗りしている。
ブルーとレッドは、馬車の上を人型で飛びながら追従している。

「もうすぐ都市に着く。都市エ・ランテルに着いたら、兵士達に物資調達のため買い出しに行かせる。エ・ランテルから王都までは3日ほどかかりますので、食料などを買い込んでおかなくてはならないのでね。エ・ランテルで1泊し、翌日の朝、王都へ出発する予定だ。」
「3日もかかるのですか…馬で3日なら、我々ドラゴンのスピードなら、半分以下の時間で到着しますが?」
「ハハハハハッ!それは頼もしいが、私達はドラゴンに乗った経験がない。落っこちてしまうかも知れませんぞ?」
「フッ…我々は、ご主人様を快適に乗せて移動できるよう特訓済みだ。素人のお前達でも、落とさず運搬できる自信があるぞ?」
「ほほう?そう言われると、乗りたくなってしまいますな。」
「期待していていいぞ。それよりも、都市についてからだが、我々はどうすればいい?1泊するのは構わんが、ご主人様も我々も異形種だ。下手にブラつく事も出来んのだが?」
「エ・ランテルの軍事施設に宿泊する予定だが、そこで少し休憩した後、私と共にエ・ランテルの街の主要な施設を歩いていきませんか?ある程度の案内はできますぞ。」
「なるほど。では、それでいきましょうか。戦士長と一緒ならば、街の住民もあまり警戒しないと思いますから。ご主人様もそれでよろしいですか?」
【うん。それで良いよ。】

Goodポーズで返す。

「では、勝殿。しばらくの間、よろしくな。」

ガゼフと握手する。

【よーし!新世界初の人間の都市街だ!心が弾むぞー!】


第9話 都市エ・ランテル

都市エ・ランテル

 

エ・ランテルは三重の城壁に守られた城塞都市である。

 リ・エスティーゼ王国の国王直轄地であり、毎年恒例となったカッツェ平野でのバハルス帝国との戦争では軍事拠点として利用されている。そのため、他の都市とは違い食料関係と武器関係の商人がかなりの権力を有している。また、戦死者の死体が運ばれてくる関係上、墓地の広大さは類を見ないほどである。

 

『外周部 軍事関係エリア』

王国軍の駐屯地として利用されるため、軍事系統の設備が整っている。

 

[城壁塔]

都市で最も高い場所にあり、遠くまで見渡すことができる。

 

[共同墓地]

外周部の城壁内のおおよそ四分の一、西側地区の大半を占めている。墓地は常時満杯のため白骨化した遺体を粉々にして場所を空けている。時折アンデッドが発生するため、周囲は壁で取り囲まれ衛兵が見張りをしている。

 

 

『内周部 市民のためのエリア』

 

[中央広場]

この区画に点在する広場の中で最も大きく、幾人もの露天商が店を開いている。

 

[冒険者組合]

中央広場に隣接する五階建ての建物に入っている。

 

 

『最内周部 行政関係のエリア』

都市の中枢機能たる行政関係。兵糧を保管しておくための倉庫等も立ち並び厳重な警備が行われている。

都市長パナソレイの館もここに存在する。

 

[貴賓館]

この都市で最も立派な建物であり、王やそれに準ずる地位の人間のみが使用する。

 

 

城塞都市エ・ランテルについては、概ねこのような都市らしい。

 

 

勝達は、都市の入口が見え始めた辺りから馬車を消し、歩きながら門の前に来る。

 

「やあ、門番兵のみんな、お勤めご苦労。」

「これは!戦士長様!お勤めご苦労様です!」

「すまんが、軍施設に1泊したい。構わんかね?」

「はい!すぐに軍施設に連絡しておきます!」

「それと…そちらの異形種達は、『ワケあり客』だ。彼らも私達と共に宿泊するが、大丈夫かな?」

「…ワケあり、ですか…承知しました。」

「では勝殿、行きましょうか。」

 

エ・ランテルの門を潜る。

行きゆく人々が珍しいモノを見るかのように視線を向けてくる。

 

【やっぱり…スゲー見られてるな。】

「軍人達に交ざって異形種が歩いているせいでしょうか?視線が集まってますね。」

「申し訳ない、ブラック殿。しばらくは、このような事が続くと思う。耐えて頂きたい。」

「お構いなく。ドラゴンの姿のほうが、より視線が集まると思うので。これぐらいなら問題ありません。」

「そうか…なら良いのだが。」

 

しばらく歩いていると、軍施設が見えてきた。

中に入り、施設関係者に挨拶と紹介を済ませる。

困惑気味な表情をされたが、戦士長が隣にいてくれたおかげか、割とスムーズに受け入れてもらえた。

戦士長に案内された部屋で休む。

 

【戦士長がエ・ランテルの軍上層部に報告しに行ってる間、軍施設内を見て回ってもいいと言ってたけど…大丈夫かな?】

「一応、施設内の人間達にも、我々の事を伝えておくと言われましたし、大丈夫なのでは?」

【なら、ちょっと行ってみたい場所があるんだよね。】

「どこに行きたいのですか?」

【練兵所だよ。この国の兵士達の訓練風景を見ておきたいんだ。】

「どうして練兵所を見たいのですか?」

【んーー…私が将軍(ジェネラル)だからかな?】

 

 

練兵所ではエ・ランテルに駐屯している兵士達が戦闘訓練をやっていた。

練兵所の訓練敷地はかなり広く、たくさんの兵士が訓練に励んでいた。

木で作った人形に、剣や槍で攻撃する者も居れば、兵士同士で稽古している者もいる。

場の雰囲気もよく、活気がある良い仕事場のように感じる。

よく見ると、ガゼフ隊の兵士達も何人かいる。

買い出し組に参加していないメンバーだろうな、と察する。

 

「これは勝殿!ここには何用で?」

「ご主人様が、エ・ランテルの練兵所の風景を見てみたい、とおっしゃってな。」

「そうですか!どうぞ、ゆっくり見ていって下さい!」

 

ガゼフ隊の兵士達が勝達と普通に会話しているのを見たおかげか、他の兵士達もあまり警戒していないようだ。

 

【そうだ!ブルー!せっかくだし、私と『じゃれつく』か?】

ガウ!?ガウガウガウ!(ウソ!?やりますやります!)

【よーし!なら、『訓練用武器』でやるか。ほら、どの武器がいい?】

ガウガーウ。(ハルバードで。)

 

勝が取り出したのは、ユグドラシルの武器アイテムの1つ、『訓練用武器セット』である。

これは、ユグドラシルでの戦闘チュートリアルで使用する武器で、

 

当たってもケガしない、

ダメージは0、

切られたところから少し痛みが発生する。

 

という、リアル模擬戦向けの武器である。

リアルな戦闘に慣れてもらうための初心者用なのだが、知り合いや友達とじゃれ合いをしたり、はたまたRP(ロールプレイ)を好むプレイヤー達には重宝されており、遊び道具感覚で持ち歩くプレイヤーも多かった。

 

勝は刀、ブルーがハルバードを持って、訓練敷地の空いてるスペースに行く。

兵士達が、気になってチラチラ見ている。

 

【よーし!さあ、来いブルー!】

ガウ…ガウガウ!(では…行きます!)

 

ブルーが勝に全力疾走する。

そのスピードは凄まじく速く、常人なら一瞬で間合いをつめられたと、感じるだろう。

ブルーがハルバードを横薙ぎに振る。

勝が、それを刀でアッサリ受け止めから、

 

激しい斬り合いが始まった。

 

常人には見えない、見きれないほどの速さで互いに攻撃し、防御し、反撃する。

ギギギギギギギギギギッ!!と、激しい音が連続でなる。

両者の武器がぶつかるたびに幾つもの火花が飛び交い、小さな衝撃波のようなものまでおきている。

 

「凄い…こんな激しい斬り合い、見たことねぇ!」

「ガゼフ戦士長でも、こんなに速く攻撃できねぇよ!」

「避けれる自信がねぇよ…」

 

兵士達が、信じられない、とばかりに観戦している。

 

およそ1分程、互いに激しい斬り合いをしていた両者だったが、唐突に勝が身体を回転させ、下から振り上げるようにブルーのハルバードを打ち上げた。

キンッ!と甲高い音がして、ブルーのハルバードが宙を舞う。

 

ガッ…ウッ!?(あっ…しまっ!?)

【もらったぁぁぁー!】

 

すかさず勝がブルーの喉元に刀を突き刺した。

 

ウガッ!?(うげぇ!?)

【私の勝ちだ!】

 

ハルバードが地面に落ちる。

勝がゆっくりと、ブルーの喉元から刀を引き抜く。

すると、それを見ていたブラックとレッドが、何かブツブツと相談している。

 

「0と12だと思う。レッドはどう?」

ウガッウガガッウガウガウ?(0と11だと思ったけど?)

 

「ブラックさん、何の数字を言ってるのですか?」

「ん?ああ、ご主人様とブルーが相手に何回攻撃を当てたかの数だ。」

「ええ!?最後の突き以外にも当てていたのですか!?」

「私の数では、ご主人様が12回、ブルーを刀で切っている。逆にブルーは1回も当たらなかった。」

「マジかよ…。」

 

兵士達が驚きの声を上げる。

 

ガウガァ…ガウガッガウ…(1回も…当てれなかった)

【いや、1回だけ喰らったぞ。】

ガッ!?ガウガッ!?(えっ!?ホントに!?)

【私が身体を回転させて、刀を下から振り上げるとき、ブルーのハルバードの突きをしゃがんで避けてただろ?】

ガウ。ガウッガウガガウッウガガウ?(はい。でも、ご主人様の身体の上でしたよ?)

【うん。あの突きな、私に頭があったら完全に串刺しにされてたわ(笑)。だから、あれは1回当てた判定になるぞ。私の一瞬の隙を貫くとは…ブルーもなかなかだぞ?】

ガウウッ!?ガウーー!(ホントですか!?ヤッター!)

 

ブルーがガッツポーズをして笑顔になっている。

 

「ブラックさん、なぜブルーさんは笑顔なんです?」

「ん?ああ、ご主人様から褒められたからだぞ。」

「あっ…そうだったんですか。」

「ご主人様!次は私とお願いします!」

【いいぞー。】

「っしゃぁぁ!なら、私は忍刀でやらせてもらいますね。」

 

ブルーと入れ替わり、ブラックが勝の正面に立つ。

 

「では…行きますよ、ご主人様!」

【おっしゃァ!来やがれ!】

「次はブラックさんか。いったいどうなるんだ?」

 

兵士達がワクワクしながら観戦モードになる。

しばらく睨み合っていた勝とブラックだったが…

 

「フッ!」

 

ブラックが小さな声を上げたかと思った瞬間、ブラックの姿が一瞬で消える。

それと同時に、勝が刀を振る。

キィン!

という、刃と刃がぶつかる音がして、勝の目の前で火花が散っていた。

そして…

何もいない空間に、勝が刀を高速で斬り続ける。

ギャリリリリリリリリリッ!

という、複数の金属が触れ合うかのような凄まじい音を出しながら、勝の周りで火花が散り始める。

 

「なんだ!?何が起こってるんだ!?」

「まさか、ブラックさんと斬り合ってる!?」

「ブラックさんの姿が見えねぇのに!?」

「どうして、あのデュラハンは見切る事ができるんだ!?」

「ブルーさんとレッドさんはどうですか?どっちが勝ってるんです?わかりますか?」

 

ガウウガウガ?(ブルー、わかる?)

ガウガ?ガウウ。(私が?無理よ。)

 

わからない、というジェスチャーをする2人。

兵士達も納得の返答だった。

 

キィン!

と、高い音がしたかと思うと、勝の刀が空に打ち上げられていた。

誰もが勝の敗北を想像した。

が、次の瞬間、

勝が少し身体を斜めに傾けながら、『何か』を避ける動作をした瞬間、勝の手が、忍刀を突き出していたブラックの手首を掴んでいた。

そのまま、ブラックの手首を捻り、組み倒す。

 

【捕まえたぞ、ブラック!】

「アダダダッ!?バカな!?見切られた!?」

 

兵士達が驚きの声を上げる。

 

「スゲー!捕まえやがった!」

「勝さんが負けたかと思った!」

「最後の一撃を待ってたのか!?」

「あのスピードに対応するのかよ!」

 

「うぐぐっ…降参です、ご主人様。」

【ブワッハッハッハー!見たか!私の凄さ…】

 

勝がガッツポーズを決めた瞬間、

 

 

 

宙を舞っていた勝の刀が、勝の首に突き刺さった。しかも割と深く。

 

【ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!】

 

「ぷっwwwご主人様、大丈夫で…ブワッハッハッハwww」

ガガガガガwww(ハハハハハwww)

グガガwwwガガガガウガウwww(ブハハwwwご主人様ったらwww)

 

ブラック達が大笑いしだす。

 

「マジかよwwまさかの逆転!?ww」

「こんなのアリかよwww」

「カッコよかったのになー勝さんwww」

「これはなかなかにwww良い試合だwww」

 

兵士達にも笑われながら、勝が必死に突き刺さった刀を抜こうともがく姿が、さらに場を明るくさせた。

 

【誰か抜くの手伝ってくれー(泣)】

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「勝殿、部下達から聞きましたぞ。なかなか良い訓練試合をブラック達殿とやったとか。」

 

街の中を歩きながら、ガゼフ戦士長が練兵所での事を聞いてくる。

 

【(つд⊂)】

「ご主人様、そんなに泣かないで下さい。充分カッコよかったですから。」

ガウガウ、ガウガガ?ガウッガウ?(ご主人様、大丈夫?おっぱい揉む?)

ガウガー!ガッガウー!ガウ、ガウガウ。(ファイトー!イパッーツ!です、ご主人様。)

【(·︿· `)】

 

勝の気分の回復はまだ少しかかるようだ。

 

「あ!ここだぞ、勝殿。エ・ランテルで唯一のポーション製造所である、バレアレ薬品店だ。」

【お!ポーション製造所か!こっちの世界には、どんな効果のポーションがあるのか、調べるておく価値はあるからな。アインズ達への良い報告にもなる!】

「中に入っても大丈夫なんでしょうか?」

「勝殿達がいきなり入ると、少々騒ぎになるかもな。先に私が入って、バレアレ親子に言ってこよう。」

【親子?家族で経営してるのか。】

 

そこそこ大きな一軒家に、ガゼフ戦士長が入っていく。

親しげな会話が聞こえてくる。

顔見知りなのだろう。

 

「勝殿、入って大丈夫だぞ。」

【では、失礼しまーす。】

「失礼します。」

 

中に入る。

入るなり、広い部屋が現れる。

広い部屋の中央には作業台スペースがあり、その周囲を陳列棚が幾つも並んでいる。

棚に置いてある物は、ポーションの材料だろうか?

ところどころは書物で溢れている棚もある。

 

作業台の所に、2人の人間がいた。

1人は、背の低い老婆。

もう片方は、10代半ばか、後半ほどの青年で、おかっぱ頭のせいか、顔が確認しづらい。

 

「戦士長、そ奴らがさっき言っていた異形種かい?」

「ああ、そうだ。こちらのデュラハンが、リーダーの勝殿で、後ろにいる3人が竜人族のブラック殿、ブルー殿、レッド殿だ。」

 

戦士長の紹介に合わせ、お辞儀する。

 

「どうも。私がブラックだ。チームの代弁役を務めている。私の妹達とご主人様は会話ができないのでな。」

「ん?そうなのかい?それはご苦労なこったねぇ。私の名前は、リィジー・バレアレ。そっちは孫のンフィーレアだ。」

「ど、どうも。ンフィーレアです。」

「私と孫の2人だけで、ポーションの製造と研究をやってるんだよ。」

「この2人は、エ・ランテルでも屈指の薬師でな。右に出る者はいない、とまで言われている。」

 

2人の紹介がおわる。

その時、勝がある事を思い出す。

 

【薬師?どっかで聞いた事あるような?】

「ご主人様、あれですよ。カルネ村で助けた人間の…エンリという名前の女性が言っていた、『魔法が使える薬師の友達』という奴では?」

【ああー!思い出した!よく覚えていたな、ブラック。】

「忍者として、聞き出した情報はしっかり覚えるようにしてますので。」

【偉いぞー!頭ナデナデしてやろう。】

「んにゃぁぁ…」

 

勝がご褒美代わりに頭を撫でる。

ブラックの顔が緩んで、にこやかになる。

 

「ところで戦士長、こヤツら異形種と一緒にいるのは、何故なんじゃ?」

「この方達はな、バハルス帝国の兵士に偽装した、スレイン法国の兵士達に襲撃されていたカルネ村を救って下さった方達なのだ。」

「なんと!異形種が人間の村を救ってくれたのかい!?そりゃあ、凄いじゃないか!」

「あの!カルネ村にエンリという女性が居ませんでしたか?えっと…僕の知り合いの…その…友達なんですけど…」

 

ンフィーレアが尋ねてくる。

 

「安心するがいいぞ。エンリという女性なら、勝様が最初に助けた人間だ。妹のネムという子供も一緒だったぞ。」

「本当ですか!良かった…」

「だが、ご両親が亡くなり、悲しんではいたな。勝様も、その事で心を痛めておいでだ。我々が後少し、早めにカルネ村に来ていれば、襲撃による被害を減らせたのだが…」

「そうだったんですか…。」

「勝殿達はベストを尽くした。過ぎた事を悔やんでも仕方がないさ。勝殿達がいなければ、カルネ村の被害は、より酷いものになっていた可能性もあるのだからな。」

 

少し、場の雰囲気が暗くなった気がした。

気分を変えるために、話題を切り替える。

 

「そう言えば、ご主人様が怪我したエンリという女性に、ポーションを渡そうとして警戒されたのだが、この辺で普及しているポーションは、どんな物なのだ?」

「ポーションかい?それなら、そこに置いてある小瓶がそうじゃよ。」

 

棚に置いてある、青色の液体の入った小瓶を見る。

 

「ご主人様が持ってるポーションとは、色が違いますね。だから、警戒されたのでしょうか?」

「勝殿達が持っているポーションは、違うタイプなのか?私は、この青色のポーション以外、見た事ないが…」

「ご主人様のは、赤いポーションだ。」

 

ブラックの言葉に合わせて、勝がポーションを取り出す。

 

「ちょっとアンタ!それはなんだい!?見せておくれ!」

 

リィジーが目を見開きながら、迫ってくる。

あまりの気迫に圧倒され、勝がポーションを渡す。

すると、リィジーが鑑定の魔法を唱え、勝さんのポーションを調べ始める。

 

「これは凄い!こんなポーション、見た事がないよ!これこそが恐らくは真なる神の血を示すポーションかもしれない!」

「本当なの!?お婆ちゃん!」

「まず、回復量が違う!それに、ウチのつくるポーションは、時間が経てば劣化するが、このポーションは劣化しないんじゃよ!こんなポーション持ってるなんて、アンタ何者だい!?」

 

リィジーが詰め寄ってくる。

全て話さないと、生かして帰さない、とばかりな表情をしている。ちょっと怖い。

 

「ご主人様は、元人間のアンデッドだぞ。生前が100年以上前なのは確定しているが、ご主人様本人が生前の記憶がなくてな。正確な時代はわかってない。」

「そうなのかい?せめて、ポーションについて、なにか覚えてないかい?」

【まさか、ユグドラシルの序盤のアイテムである、下級治癒薬にここまで興奮するとは…。お店でも安値で購入できるアイテムなんだがなぁ…。】

「あー…ご主人様にとっては、このポーションですら、下級品らしぞ。」

「下級品じゃとぉ!?このポーションだけで、金貨32枚分の価値はあるんじゃぞ!?ウチらの作るポーションで金貨8枚の価値しかないんじゃぞ!」

 

 

時間が経つと腐る1番安い青いポーションが金貨1枚に銀貨10枚。

バレアレ薬品店で扱う、1番高い青いポーションが金貨8枚。

ユグドラシルの下級治癒薬(マイナー・ヒーリングポーション)で金貨32枚。

イマイチ、価値の差がわからん。

よし、聞き出すか。

 

「戦士長、1つ聞きたい。金貨8枚は、割と高い値段なのか?」

「ああ、かなりの値段だな。少なくとも、カッパーの冒険者達ではとても買えない値段だ。ミスリルの冒険者でも、買うのには勇気がいる値段だと、言っておこう。」

【あ、高いわ、コレwww】

 

普通のゲームなら、初心者冒険者でも、回復薬ぐらい普通に買える。クエストをいくつか達成すれば、1個ぐらい余裕だろうに。

この世界では、回復薬ですら高級品のようだ。

なんてハードな世界なんだ。

 

「ご主人様、この赤いポーションは、かなりの高級品という事になるみたいですね。戦士長でも、金貨32枚は躊躇う値段か?」

「躊躇うな。赤いポーションより、青いポーションを3つ買う方が安上がりで済むと判断するくらいだ。」

【マジかよww赤いポーションなんて、それこそ腐る程所持してるぞwww】

 

勝が、コッコッコッと、赤いポーションを幾つも出す。

 

「ぉぉぉぉ!?お主、本当に何者じゃ!?こんな凄いポーションを幾つも持っておるのか!?」

【ホイ。サンプルに3つあげるよ、お婆ちゃんw後、戦士長にもお裾分け。】

「ご主人様がサンプルとして差し上げるそうだ。光栄に思え。後、戦士長にも1個あげるそうだ。」

「ぬおおお!お主は神じゃぁぁ!これさえあれば、ワシの研究も、かなり進展するぞー!」

「よ、よいのか、勝殿。貰ってしまっても…?」

 

Goodポーズをする勝。

 

「では、ありがたく頂戴しよう。」

 

戦士長がポーションをポーチに入れる。

すると、リィジーが部屋の奥に移動し、何かを漁って戻ってくる。

 

「お主!こんな凄いポーションを3つも貰ってタダで帰すのは、バレアレ家の名が泣く!せめてもの礼じゃ!受けとってくれ!」

 

リィジーが小さな麻袋を渡してくる。

受けとって中を見ると、この世界の金貨が入っていた。

 

「赤いポーション3つ分と少しサービスして金貨100枚じゃ!」

「金貨100枚だと!?かなりの大金だぞ、リィジー殿!」

「別にご主人様は、お金が欲しくてポーションを渡したわけでは…」

「いや!頼む!受けとっておくれ!生きてる間にポーションを完成させて、貰った分を返すという方法もあるじゃろうが、ワシが死ぬ前に完成するかどうかの保証もないからの。恩を返さず死にとうはない!」

「…ご主人様、貰ってしまえば良いではないですか。よい活動資金にもなりますよ?」

【うーむ…仕方ない、自分で巻いた種だ。】

 

必死に金貨を渡そうとしてくるリィジーに、勝も根気負けしたのか、渋々受け取る。

 

下級治癒薬(マイナー・ヒーリングポーション)でこの騒ぎか…こりゃあ、上のランクのポーション出したら、お婆ちゃんがとんでもない雰囲気になりそうだなー。】

 

ユグドラシルのポーションは全部で4種類ある。

 

下級治癒薬(マイナー・ヒーリングポーション)

中級治癒薬(グレート・ヒーリングポーション)

上級治癒薬(ハイグレート・ヒーリングポーション)

全治全能薬(エリクサー)

 

の4種類だ。

 

【エリクサーは超レアアイテムだから、流石に渡せんな。…鑑定だけさせるか…】

「おい人間…ご主人様が特別に、鑑定だけ許してあげるそうだ。」

「ん?何をじゃ?」

 

勝が緑色と黄色のポーションを取り出す。

 

「にゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!なんじゃ、それはぁぁぁ!?」

 

目玉が飛び出すんじゃなかろうか…と、言いたくなるほど、リィジーの顔が破顔する。

 

「緑色が中級治癒薬(グレート・ヒーリングポーション)、黄色が上級治癒薬(ハイグレート・ヒーリングポーション)だ。」

「まさか、さらに上のポーションが存在するとは!……鑑定結果も嘘偽り無し!なぁーお主ー頼むぅー!そのポーションもサンプルでくれぇー!」

「まずは下級治癒薬(マイナー・ヒーリングポーション)が製造できるようになってからだ。それが作れないなら、それより上のランクのポーションを渡したところで無意味だろう?」

「ぐっ…!た、確かにそうじゃが…そうなんじゃが…」

 

まだ諦めようとしないリィジー。

 

「なあ、勝殿。貴殿はポーションの作り方を知ってたりするのか?それだけたくさんの種類のポーションを持ってるのは不思議でならないのだが…」

「はっ!?そうじゃよ!何故お主は、こんな凄いポーションを幾つも所持しておるんじゃ?」

【そんな事言われてもなー…。私はポーションを買ってた側だしなぁ…。】

「あくまでご主人様は購入者側だそうだ。」

「なんと!つまり、このポーションを売ってた店や製造していた者が居た、という事じゃな?」

「聞かれても答えられないぞ。ご主人様は覚えてないそうだ。」

 

ユグドラシルのポーションは、ユグドラシルの店なら何処でも売っていたし、下級治癒薬(ヒーリングポーション)にいたっては、倒したモンスターからドロップする事があったくらいだ。

材料さえ揃えれば、誰でも製造する事だってできた。

 

しかし、コチラの異世界では、存在すら希少ときた。

そもそも材料すら手に入らないのでは?

 

おまけに、下級治癒薬(マイナー・ヒーリングポーション)なんて、自分で作るより店で買ったほうが手っ取り早いし、一気に買える。

そのため、下級治癒薬(マイナー・ヒーリングポーション)を自分で製造した事なんて1度もない。

ユグドラシルなら、製造時に必要な材料が表示されたので、どんな材料が必要なのか判断できたが、

コチラの異世界ではメニュー画面すら出ない。

 

今更、下級治癒薬(マイナー・ヒーリングポーション)の製造材料を聞かれても、答えられないのだ。

 

【アインズだったら知ってそうだが…】

「アインズ様は、ポーションの材料を知っていらっしゃるんですか?」

 

ブラックが、勝の呟きに反応する。

その瞬間、リィジーの顔色が変わったのを、瞬時に理解する。

 

【バカッ!アインズの事を喋ったら…】

「誰なんじゃ?そのアインズというのは!そヤツがポーションの材料を知っておるのか?」

「えっと…だな。アインズ様と言うのはだな…」

 

ブラックが咄嗟に誤魔化そうとするが…

 

「アインズ・ウール・ゴウン殿だな。勝殿と一緒に、カルネ村を救ってくれたマジックキャスターの御方だ。」

 

ガゼフ戦士長があっさり喋る。

戦士長、空気読んで!

 

「そヤツはまだ、カルネ村におるのか?」

「我々が勝殿と一緒にカルネ村を出発する時には見送りに来てくれていたな。もしかしたら、まだカルネ村にいるかもしれんぞ。」

「ふむ…マジックキャスターなら、ポーションの作り方も知っておるかもしれんな。ンフィーレアよ!明日、薬草採取の時にカルネ村に寄って、アインズという奴に会ってきてくれんか?」

「わかったよ、お婆ちゃん。」

「んふーー!アインズ・ウール・ゴウンとやら、絶対捕まえて、ポーションの材料を聞き出してやるぅー!」

 

リィジーの顔が悪い事を考えたときのウルベルトさんのような顔になる。

ゴメンよ、アインズ。

悪く思わないでくれ。

 

【ポーションに関する情報は得た。ひとまず、全員外に出るぞ!これ以上ココに居たら、お婆ちゃんに何されるかわからん。】

「そうですね。ブルー、レッド!退避ー退避ー!」

「「ガウ(了解)」」

 

コソコソと外にでる勝達。

 

「あ!待っておくれ!まだ、さっきのポーションのサンプルを貰ってないぞ!置いて行っておくれよ!」

 

お婆ちゃんに気づかれた!

 

【逃げろぉぉぉぉぉぉ!】

「すまんな人間!諦めろ!じゃあな!ほら、戦士長!行くぞ!」

ガウ!(来い!)

「あ!ブルー殿!そんなに引っ張らなくても…というか、凄いパワーだな!?」

 

戦士長がブルーに引っ張られながら、無理矢理外に連れ出される。

 

「待つんじゃ!待たぬなら、ワシの第3位階魔法が炸裂するぞぉぉぉ!」

【空だ!空に逃げろ!】

「ちょっ…!?待ってくれブルー殿!まさか!あああああ!」

 

勝がブラックに抱えられながら飛び立つ。

レッドも続いて飛び立つ。

ブルーも強引に戦士長を引っ張りながら、飛び立つ。

 

「待っておくれぇー!夢のポーショォォォォン!」

 

リィジーの悲痛な叫びが空に響いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ー 夜・軍事施設・勝チーム自室にて ー

 

 

【今日は酷い目にあった。】

「そうですね。」

「「ガウガウ〜(疲れた〜)」」

 

バレアレ薬品店から逃走後、エ・ランテルの冒険者組合に行き、どのような雰囲気なのかを確認しに行った。

戦士長と一緒に中に入り、冒険者組合に関する説明や紹介を受けたのだが、周りにいた冒険者達からの注目度が凄まじかった。

特に、男冒険者達の視線が、ブラック達のお尻や胸にいってるのはモロわかりだった。

 

もう一度説明しておくが、

ブラック達の格好は中々エッチなのだ。

手足こそ、人間ではない肌の色や形に鱗が変形しているが、身体の部分だけは人間そっくりな形をしている。

 

おまけに、ピッチリレオタード姿に、尻が丸出しになるほどに、レオタードがくい込んでいるのだ。

尻尾で少し隠れてはいるものの、男達の視線を集めるには充分なエロさだ。

 

さらに、ブルーとレッドは中々の巨乳。

ブラックもそこそこバランスのよい胸の大きさなのだ。

それがピッチリレオタードのせいでさらに強調されている。

 

 

そのせいなのだろうか…

欲情を抑えきれなかったスケベ野郎達が、ブルーやレッドの尻をペチペチと触ってきたのだ。

 

「貴様ぁ!妹達に何をする!この、変態がぁぁぁぁ!!」

 

ブキギレたブラックと、イラついたブルーとレッドがスケベ野郎達と大乱闘、次々とノックアウトしていったのだ。

殺されなかっただけでも幸運と思うべきだと、私は言いたい。

 

「この、女の敵め!思い知ったか!我々、竜人族を舐めてかかるからだ!」

 

と、ブラックが決め台詞を言った瞬間、女冒険者達から拍手がおきた。

 

「我々にお触りしていいのは、ご主人様である勝様だけだ!」

 

という台詞に、その場にいた冒険者達の視線が自分に集まったのは恥ずかしかったが…。

 

まさか、この出来事で有名になったりしないよな?絶対にないよな?な?

 

 

【ひとまず、今日得た情報をアインズ達に知らせようか。ブラック、伝言(メッセージ)のスクロール渡すから、報告お願い。】

「かしこまりました。」

 

 

ブラックがポーションに関する報告を伝える。

 

劣化したポーションしかない異世界。

そのくせ値段が高いという現状。

 

正直に言えば、あまり良い情報とは言えない内容だ。

そしてさらに、悪い情報があった。

冒険者組合に行って、初めて理解したが…

 

「はい。コチラの異世界では、ご主人様ですら読めない文字が使われていました。私の忍術スキル、『暗号解読』によって、なんとか読めるようになる事はわかりましたが…」

 

日本語だけでなく、外国語ですらそこそこ勉強して理解していたはずの勝ですら読めない文字が使われていたのだ。

これは大きな誤算だった。

普通に会話ができるから油断していたが、冒険者活動する上で、依頼書類が読めないのは欠点だ。

いや、冒険者活動に関係なく、文字が読めない時点で色々不便である。

 

アインズ達も対策を考えると、返事がきた。

現状、自分達はブラックの『暗号解読』スキルに頼るしかないようだ。

メガネがあれば、解読魔法を使って読めるようになったかもしれないが、だれもメガネは持ってないのだ。

 

【ひとまず、一件落着という形か。明日はいよいよ王都に向けて出発だ。】

「移動方法はどうするんですか?我々だけでは、ガゼフ隊全員を乗せて飛ぶのは無理があるのですが…」

【なら、全員乗せて飛べるヤツを召喚するだけさ。】

「え?」「「ガウ?(え?)」」

【竜王ファフニールでも召喚して、王都まで運んでもらおう。】

 

 

勝の頭の中では、ガゼフ隊のみんなと仲良く空の旅をするイメージが湧いている。

無論、ガゼフ隊の皆が

涙を流しながら、空の旅をするハメになるなど、誰も想像していなかった。

 




リィジーの性格はWeb版のを参考に書きました(笑)

少しネタバレなるかもしれませんが、
アインズチームは原作ストーリーと同じ道順を辿る感じになりますが、
勝さんチームがいろいろ裏でやらかす感じの二次創作物になっていく。

と、思います。(あくまで予定ですがw)


後、誤字脱字や以前のストーリーとの設定ミス(過去に書いた設定との食い違い)などがあればご指摘して下さるとありがたく思います。

また、原作オーバーロードとの設定の違いなどがありますが、改変などや独自解釈などで書いてるものもあります。
そこは、二次創作だと言う事を理解したうえで、寛大な心でスルーして頂けたら嬉しいです。


ー補足ー

ポーションに関する細かい説明

異世界の青いポーションは4種類あり、

薬草を材料にした、1番安い青ポーションが金貨1枚と銀貨10枚。
(原作オーバーロード、ブリタという冒険者が持っていたポーションの値段)

薬草と魔法を組み合わせた青ポーション
(値段不明)

錬金術溶液と魔法を組み合わせたポーション

第一階位の効果で金貨2枚
第二階位の効果で金貨8枚

総じて、青ポーションは時間が経つと、腐る設定らしいです。

赤いポーションは、回復効果は金貨8枚の青ポーションと同じ。
腐らないという利点で金貨32枚という価値になっています。


というのが、原作オーバーロードで判明してる情報です。

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