艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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2-4がクリアできない。

追記:ちょこっと修正しました。


着任一日目:とある青年提督の苦労

 人気のトレンドというものは、時代と共に変化する。

 あるときはサッカー選手、あるときは野球選手、あるときはメイド、あるときはアイドル。

 

 そして、今時代の最先端を行くトレンドは『提督』。

 

 『提督』というのは女の子の形をした艦艇、通称『艦娘』でハーレm……ではなく自分の部隊を編成し、海を荒らす深海棲艦たちをやっつけるのが仕事である。

 今日も提督たちは己の部隊に磨きをかけ、まだ見ぬ敵に立ち向かうのだ。

 

 この物語の主人公はその提督と呼ばれる職についている、これといった特徴の無い普通の青年である。

 彼が着任したのはブイン基地。周りはどこを見ても彼と同じ新米提督で埋め尽くされている。

 

 

(よーし、周りの連中に置いてかれないように自分もがんばらないと!)

 

 

 青年はこれから始まる提督生活に心躍らせながら自分の執務室へと向かった。

 

 これが、今から約一年前の話である。

 

 

 

 

 

 そして現在、提督が板についてきた青年は新米提督たちの間で鬼門と言われている『沖ノ島海域』への出撃を開始しようとしていた。

 

 

「え、えーっと……まず始めに、今から出撃する沖ノ島海域についての注意事項なのですが……」

 

 

 青年は作戦会議室で今回の作戦を説明する。青年の話を聞く者達は皆、なにやら険しい顔つきで作戦を聞き続けていた。

 

 

「えー……以上が今回の作戦なのですが……何か質問等ありますでしょうか?」

 

 

 青年の言葉が切れると同時に、作戦会議室は異様な静寂に包まれた。誰も言葉を発することなく、ただただ、提督である青年を真顔でじっと見つめている。

 その視線に耐えられなくなったのか、青年は隣にいる相棒とも呼べる駆逐艦に声をかけた。

 

 

「む、叢雲さん。何か質問はありますか?」

「えっ、ちょっ……な、何で私がアンタに質問しなきゃいけないの!?特に無いわよ!それより、作戦を理解してなさそうな連中がそっちにいるでしょう!?そっちをどうにかしなさいよ!」

 

 

 青年の救援要請をずっぱし切り捨てた駆逐艦『叢雲』。

 相棒に見捨てられ、いよいよ後が無くなった。目の前にいる彼女たちとはできるだけ接触したくないのが彼の本音であるが、しかし作戦開始の時間までもう時間が無い。

 これ以上のロスは作戦に支障がでると判断した青年は、意を決して一番前の席についている者に声をかけた。

 

 

「あの……何か質問はあるかな?」

「ヲっ」

 

 

 再び訪れる沈黙。

 「ああ、やっぱり……」と青年は心の中で涙を流すが、これももう何度も経験したやり取りだ。もうこの程度でめげるようなタマじゃない。青年は気を取り直し、再び意思の疎通を図ろうとした。

 しかし、それとほぼ同じタイミングで「ヲっ」という言葉を発した少女の隣にいる少女が口を開く。

 

 

「ルー」

「……え?えー……あ、うん。そうだね……?」

 

 

 「ルー」という言葉を発した少女はどこか気合が入ったような顔つきで提督である青年を見るめる。

 青年はとりあえずありきたりな答えでお茶を濁し、目の前にいる少女達に対して再び作戦の説明を始める。この時点ですでに青年の心は『中破』していた。

 出来るだけ難しい言葉は使わず、身振りや手振りを多めに使ってなんとか伝えようと、青年は必死にがんばった。それが幸いしたのか――

 

 

「ヲっ」

「ルー」

「ヌゥ」

「リ!」

「チ……」

 

 

 青年の「わかった?」という言葉に対して、彼女達全員が同時に返事をした。

 しかし、ここで安心してはいけない。青年ははっきりと覚えていた。前にも同じやり取りをかわして、後から大惨事に発展した事を。青年は作戦会議室から出て行く彼女達を見送った後、まだ残っていた叢雲に指示を出した。

 

 

「叢雲、後はお前に任せる。何とか被害を最小限にとどめてくれ」

「言われなくてもわかってるわよ。はあ……何で私、あの時『あんな事』したのかしら……」

 

 

 それから数分後、叢雲率いる第一部隊は沖ノ島海域へと出撃していった。

 

 新米提督が避けては通れない最初の鬼門『沖ノ島海域』。

 

 親玉にたどり着くまでの道のりが長く、運が悪ければ親玉と遭遇することなく帰還するなんてことはざらにある。さらに道のりが長いゆえに敵との戦闘の数も多くなるため消耗が激しい。さらにさらに、親玉にはフラグシップ戦艦が一艦、残りは全てエリート艦艇という素敵仕様。

 何も知らず出撃して痛い目にあった提督は数知れず、現にブイン基地にいる提督の半分は今なお『沖ノ島海域』で足止め状態なのだ。

 「頼むから、何も起こらず無事に帰還してくれ」。青年は心の底から自分の艦隊が『何事も無く』帰ってくることを願う。しかし数時間後、その願いはいともたやすく踏みにじられた。

 

 

『提督聞こえる!?緊急事態よ!!』

「ッ!?状況を報告しろ!」

 

 

 通信を入れてきた叢雲に状況を説明するように求める青年。

 艦娘達の身に何かあったのか?奇襲を受けているのか?まさか、誰か轟沈してしまったのか?普通の提督ならば、ここで自分のかわいい艦娘の身を心配するところだが、この青年はまったく別の事を考えていた。青年は心の中でつぶやいた。「嫌な予感がする」と……。

 

 

『あのお馬鹿たち、他所の艦隊に突撃していっちゃったのよ!!』

 

 

 青年の心が大破した。

 しかし、こんなところでもたもたしている暇は無い。今こうしている間にも、彼女達は『敵』を倒すために攻撃を行っているのだ。青年は移動しながら叢雲に状況を詳しく説明するように求めた。

 

 

『沖ノ島を攻略して帰投してたら、鎮守府正面海域で他の艦隊が演習を行っていたのよ!それを『敵』と勘違いしたみたい!』

「おうふ……とりあえず、こっちは緊急回線使って演習中の提督たちに通信入れるから、そっちは間を取り持ってくれ!」

『もう!何で私がこんなことしなきゃいけないのよっ!!』

 

 

 その後、青年の逸早い連絡と叢雲の尽力もあり、幸い轟沈する艦娘はいなかった。

 しかし演習を行っていた艦隊の艦娘十二艦中、大破四艦、中破六艦、小破二艦という悲惨な状況。青年は演習を行っていた提督二人に平謝りを続け、最終的には、破損した艦娘が入渠する際に使用する資材を全負担することで話がついた。

 

 どこか誇らしげな様子で帰投した五艦と心底疲れた様な顔でその後ろを歩く叢雲。

 もうこれ以上好き勝手させるわけにはいかない。青年は五艦組に対して通じるか分からないお説教をすることを決意する。

 そんなことなど露知らず、青年の姿を発見した五艦は、我先に褒めてもらおうと青年の周りに群がった。

 

 

「ルー」

「ヌゥ」

「リ!」

「チ……」

 

 

 普段は真顔しか見せない連中が、何かを期待するようなワクワクした笑みを見せる。

 普段反応が薄い連中がそわそわしながら自分の前に頭を差し出す。そのギャップが青年の固い意志にヒビを入れた。

 しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。今日こそは、今日こそはと、青年は自分に言い聞かせる。青年は目をあわさないように視線を下げた。

 

 

「ヲっ」

 

 

 視界に飛び込んできたのは、軍服のすそをちょこんと握った正規空母の少女が上目遣いでそわそわしている姿だった。

 

 青年の決意がわずかに崩れた。青年は頭の中で素数を数えながら深呼吸をし、視線を別な場所へと移して意識を何とかつなぎとめる。だが、そんな青年へ追い討ちをかけるように、艦娘達は青年へと擦り寄った。

 

 軽空母の少女?は青年の右手を握り自分の頭へと持っていく。どうやら、頭をなでてくれと催促しているようだ。

 重巡洋艦の少女は無邪気に青年の右足へと抱きついた。褒めてくれるまで離さないという意思を示しているようだ。

 戦艦の少女は青年の左側にしゃがみこみ、青年の左手に自分の頭をこすりつけた。セルフなでなでをしているようだ。

 重雷装巡洋艦の少女は青年の背後に回りこみ、空いている右肩に顔をのせながら自分の体を密着させる。そのバストは傍から見ても豊満であった。

 正規空母の少女はなおも健在。

 

 逃げ場を完全に失った青年が取った行動は唯一つ。

 

 

「が……がんばったね。みんな、えらいぞー」

 

 

 完全崩壊した意思はゴミ箱へ捨て、結局いつものように甘える彼女達にご褒美を与えるのであった。

 海の底より現れた謎の敵に立ち向かうために生まれた存在『艦娘』。提督は『艦娘』と共に、今日も未知の脅威に立ち向かう。

 

 これは、偶然が重なり合い『未知の脅威』を懐に抱え込むことになってしまったとある提督の物語。

 




次回・・・全てはここから始まった

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