艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ 作:お暇
追記:各サブタイトルの仕様を少し変更しました。
追記2:一航戦、五航戦まさかのダブル獲得。記念に感想へ返信しました。
ついに、ついに叢雲以外の普通の艦娘が司令部にやってくる。
青年は鼻歌を歌いながら、提督としての業務でさばく書類の数よりも圧倒的に多い顧客情報の書かれた書類を嫌な顔一つせずにさばく。今の青年はかなりご機嫌だった。出撃を催促してきた叢雲に対して二つ返事で返すほどご機嫌だった。
青年の目論見どおり、『ヲ級レンタルサービス』は順調な滑り出しを見せた。壁に貼られたV字を描く資材量推移のグラフを眺めながら、青年はこれから始まる司令部再建に思いを馳せる。これだけあれば新しい艦娘を建造することも可能。滞っていた出撃の回数も爆発的に増える。装備も作り放題。そして何より、建造が可能となれば普通の艦娘で艦隊を結成することが出来る。
浮かれに浮かれている青年は書類をさばきながら、夢にまで見た艦娘に囲まれた明るい未来を幻視するのだった。
しかし、これから青年の『明るい未来』と『資材』は消失する。
『ヲ級レンタルサービス』は、既に上層部の耳に入っていたのだ。というより、ブイン基地に着任している提督たちに知れ渡っている情報を上層部が知らないわけが無い。情報を耳にした上層部は「またアイツか……」と苦い顔をしながらも、騒ぎを沈静化するべく行動を起こす。
青年はブイン基地総司令部に呼び出された。理由は言わずもがな、『ヲ級レンタルサービス』についてだ。一時的にとはいえ、ブイン基地の機能を麻痺させている青年の所業は目に余る。上層部は青年に対して厳重注意を施した。
青年は素直に反省した。若干の混乱はあるだろうと承知はしていたが、まさかこれほどとは思ってもみなかった。欲に目が眩んで、周りが見えていなかったと。年寄り特有の長ったらしい説教を聞きながら、今までの自分を振り返り猛反する青年。最初に受け入れた自分がきちんと最後まで面倒を見ないでどうするんだ。心機一転、心を入れ替えた青年は自分に喝を入れ、総司令部を後にした。
自分の司令部に戻った青年はすぐさま『ヲ級レンタルサービス』の永久凍結を宣言。受け取った資材も全て元の持ち主たちへ返却した。すっからかんになった資材倉庫を見て少し物寂しい気持ちになるが、やる気に満ち溢れた今の青年はその程度の事では止まらない。青年はすぐさま気持ちを入れ替え、これからの部隊運用について思案する。出来れば今すぐにでも叢雲に意見を仰ぎたいところだが、叢雲は昨日の昼頃からチ級、ヌ級、ヲ級を連れて『カムラン半島』へ出撃中だ。時間的に考えて、帰ってくるのは今晩となるだろう。
「ま、この話はまた今度にしよう。出撃で疲れた叢雲に意見を聞くってのも何か気が引けるし」
急いてては事を仕損じる。冷静に先を見た青年は、まず初めに自分が目指すものを明確化しようと考えた。今まで流れに身を任せて部隊を運用してきたが、よくよく考えてみればいつも周りに振り回されてばかりで、自分はほとんど何もしていないことに気づいた青年。
事務仕事は青年と叢雲の二人がかり、部隊の運用に関してはほとんど叢雲にまかせっきり、深海棲艦とのコミュニケーションに関しても叢雲に頼りっきり、とてもじゃないが青年の立ち回りは提督と呼べるものではない。これでは、叢雲がいなければ何も出来ない木偶の坊ではないか、と青年は自分の不甲斐なさを改めて認識した。
しかし、心機一転した今こそが好機。今日の一件を機に、新たな一歩を踏み出そうという結論に至った青年は、自分の中で今一番の問題となっている部分から着手することにした。
「深海棲艦と、コミュニケーションをとる!」
事務仕事や部隊の指揮に関してはどうしても叢雲に頼らざるを得ない部分が出てきてしまう。しかし、せめて深海棲艦とのコミュニケーションくらいは自分の力だけでできるようになりたい。一番最初に出会ったチ級とはわずかながらも心を通わせることが出来たのだがら、他の奴らと通じ合えることも出来るはず。そう考えた青年はすぐさま行動に出た。
青年は意気揚々と深海棲艦たちに占拠されている旧解体ドックへと向かった。チ級、ヌ級、ヲ級は出撃中、ル級はイ級を連れて遠征中、となれば必然的にドックにいるのは一艦だけだ。一対一とは好都合。そう思いながら青年は旧解体ドックの扉を開けた。
そして、それとほぼ同じタイミングで巨大な爆発音がドック内に響き渡った。
扉を開けた体勢のまま、青年は呆然とドック内を眺める。ドック内には青年の予想した一艦、置いてきぼりにされたリ級がいた。しかし、そのリ級が何故か主砲を構えているのだ。そして、何故かその主砲の砲口からは今まさに砲撃を行ったかのような煙が出ているのだ。
青年はリ級が砲口を向けている方へと目を向ける。大きな風穴の開いたドックの壁からは心地よい潮風が流れこみ、燦々と輝く太陽の暖かい光が差し込んでいた。
ちなみに、リ級が砲撃した理由は置いてけぼりにされたことに対する憂さ晴らしである。
「あ、やっぱ無理だわ」
青年はすぐさま前言を撤回。やはり自分には叢雲の存在が必要不可欠だということを、深く心に刻み込んだ。
そんな青年の事などお構いなしに、リ級は二度目の砲撃を開始する。二発目は天井を破壊し、ドック内に鉄くずの雨を降らせた。続けて三発、四発と、リ級の砲撃は徐々に激しさを増していく。
リ級と分かり合うことを放棄した青年だったが、さすがにここまでやられては黙っていられない。旧解体ドックが破壊しつくされる前に何とか止めなければ、と青年は勇気を振り絞り砲撃を続けるリ級へと近寄った。
近づいてきた青年に気づいたリ級は一時砲撃を中断し青年に向き直る。青年は何とか砲撃をやめるように身振り手振りを使って必死に説得するが、やはり言葉が通じないせいかリ級は首を傾げてばかりだ。
それでも青年は説得をやめない。一度はあきらめたが、もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。そんな一縷(いちる)の望みが青年を突き動かしていた。
しかし、現実は非常である。青年の口うるささにイライラしたリ級は、青年に主砲の砲口を向けた。軍人の勘が敵意を感じ取り、咄嗟に姿勢を低くした青年。次の瞬間、リ級の主砲から発射された一発の砲弾が青年の後方で盛大な爆撃音を奏でた。
青年は顔を青くしながらゆっくりと顔を上げリ級を見る。そして、リ級の表情を見て確信した。脅しや冗談ではない。リ級は今、明確な殺意を持って自分を殺しにきたのだと。
ベテラン提督ならばここで洒落た言葉を一つや二つ口にしているところだが、初めて『死』というモノに直面した青年に心の余裕などあるはずが無い。青ざめている青年を見下すリ級は面白そうなモノを見つけた、と悪意に満ちた笑みを浮かべ、主砲の砲身を再び青年へと向けた。
そこから始まる決死の戯れ。軍人としてある程度は鍛えられた青年だが、それでも兵器にはかなわない。青年は逃げに徹さざるを得なくなった。対して遊び半分のリ級は、ニヤニヤしながら右手の主砲をゆっくりとしたペースで撃ち続ける。青年が叫び声を上げながら必死に砲弾を避ける様を見ては満足げな笑みを浮かべ、そして更なる砲弾を青年に向けて発射した。
追い詰められた青年は無造作に積み上げられたコンテナの背後に隠れた。乱れた呼吸を整えながら、青年は息を殺してリ級の出方を伺う。リ級は青年の姿が見えなくなり興が削がれたのか、右手のみのスローペースな砲撃から両手を使った連射へと切り替え無差別に砲撃を仕掛ける。
けたたましい爆発音と共に無差別に破壊されていくコンテナ。青年から遠く離れた場所にあるコンテナが吹き飛んだ、と思えば次の瞬間には青年のすぐ右側のコンテナが消し飛ぶ。今の状況、例えるならまさに『黒ひげ危機一髪』。リ級がハズレを引いた瞬間、青年は天高く飛んでいくことになるだろう。肉体的にも、魂的にも。
(マジでやべえ……クソッ!こうなったら一か八か、砲弾の雨をかいくぐって……ん?)
ふと、追い詰められた青年の視界にあるものが映った。鉛色に鈍く輝く『それ』は青年の正面、壁際にバラバラと落ちていた。
(……鋼材?)
そう、鋼材だ。深海棲艦たちの食事として運んできた資材の残り、残飯が偶然青年の正面に落ちていたのだ。それを見て青年は思い出す。初めて出会った未知の敵に対して、鋼材がすばらしい効力を発揮したことを。
反撃の手立てが無い以上、試せるものは全て試そう。青年は藁にもすがる思いで鋼材をかき集めて手に取った。そして、コンテナの陰からリ級に向かって鋼材をバラバラと放り投げる。
鋼材は放物線を描き、リ級の頭上へと向かう。突然現れた謎の飛来物にリ級はぴくり、と反応し、照準を反射的にコンテナから飛来物へと向けた。しかし、バラバラと舞い飛ぶ飛来物に敵意がないことを感じ取ったリ級は砲撃をせずに、主砲を構えたまま落ちてくる飛来物を眺め続けた。
謎の飛来物がリ級に降り注ぐ。こつん、と自分の頭に当たって床に落ちた飛来物の一つを主砲の裏に隠れた右手で掴んだリ級。手の中にあるものが鋼材だと分かった瞬間、リ級は大きく口を開けて鋼材にかじりついた。ごりん、ごりんという鈍い音を立てながら、リ級は周囲に落ちた他の鋼材にも手を伸ばし一つ一つ口へと運ぶ。
その様子を見た青年は反撃開始だ、と心の中でほくそ笑んだ。
◇
青空が星空へと様変わりし、基地内の司令部から明かりがぽつぽつと消えていく頃、叢雲率いる第一艦隊はようやく青年の司令部へと帰投した。
完全勝利を収め無傷で帰投した叢雲は戦果を報告するために、青年がいるであろう司令室へ向かう。しかし、司令室に青年の姿はなかった。司令室にいないのであれば執務室だろうか、と司令室を後にした叢雲は執務室へ向かうが、執務室にも青年の姿は無い。その後も、叢雲はしばらく司令部内をうろつき青年の姿を探したが青年の姿がどこにも見当たらない。一体どこへ行ったのだろうか、と周囲を見渡していると、叢雲の目が対面から近づいてくる艦艇の姿を捉える。
先ほど別れたはずのヌ級が慌てた様子で叢雲の下へ駆け寄ってきたのだ。ヌ級の様子がおかしいことに気づいた叢雲はすぐさまヌ級に事情を話すように促す。すると、ヌ級の口から信じられない言葉が飛び出してきた。
「提督が旧解体ドックにいる!?」
一体何故、と一瞬疑問に思った叢雲だが、すぐにリ級を司令部に残していたことを思い出す。
最初はル級が犯人か、とも思った叢雲だが、ル級なら自分から青年の下へ向かうだろうから青年がドックにいることとつじつまが合わない。チ級、ヌ級、ヲ級は叢雲自身が連れ出していたため接触は不可能。となれば、残る可能性はただ一つ。リ級が何らかの問題を起こして青年がドックへ赴きトラブルに巻き込まれた。元々気性の荒いリ級なら、何かしらトラブルを起こしてもおかしくはない、と結論付けた叢雲ははヌ級と共に急いで旧解体ドックへと向かった。
到着した叢雲の目の前では、信じられない光景が展開されていた。あの自己中心的で誰の指図も受けないリ級が、言葉の通じない青年と打ち解けているのだ。叢雲は訳の分からないまま、ただ呆然と青年とリ級のやり取りを眺め続けた。
「リ!リ!」
「三個か!三個も欲しいのか!?このいやしんぼめ!!」
そう言って、青年は手に持った鋼材をリ級に向かって全力で投げつけた。リ級は素早く体を動かし、投げつけられた鋼材全てを口で受け止めゴリゴリと噛み砕く。青年はリ級を左腕でがっちりホールドすると、右手でリ級の頭を何度もなでた。
「よーしよしよしよし!」
青年に頭をなでられまんざらでもないリ級。我を忘れていた叢雲はハッ、と正気を取り戻し、狂ったようにリ級の頭をなで続ける青年をリ級から無理やり引っぺがした。
「ちょっと!アンタ一体何やってんのよ!?」
「離せっ!離せぇえええ!!俺は、俺は生き残るんだ!絶対に生きて帰るんだよぉおおおお!!」
我を忘れていたのは叢雲だけではなかった。極限の緊張状態が続き錯乱した青年は壊れたおもちゃのように笑う。このままではまずいと判断した叢雲は青年の正面に回ると、青年の頬を何度もはたいた。さすがに全力で、とまではいかなかったが、それは青年を元に戻すには十分の威力だった。
元に戻った青年を見て一安心した叢雲は、何故こんなことになったのか説明を要求し、青年はそれに答える。ヲ級レンタルサービスを永久凍結したこと、心を入れ替えたこと、叢雲の負担を減らすために深海棲艦とコミュニケーションを取れるようになろうと思ったこと、ドックに向かったらリ級が砲撃をしていたこと、それを阻止しようとしたら変わりに自分が標的となってしまったこと、鋼材でリ級をチ級の時みたいに餌付けしようと考えたこと、青年は包み隠さず起こったありのままの出来事を叢雲に話す。叢雲は所々で驚きながらも、青年の話を最後まで聞き終えた。
「で、最終的にはアンタの目論見どおり、リ級は従順になったと……」
「重巡だけにね」
「うるさいっ!!」
青年の言い回しに腹がたった叢雲は青年の腹部に拳を叩き込んだ。腹部を押さえながらうずくまり、小さな唸り声をあげて苦しむ青年。あまりの痛みに胃の中のものをぶちまけそうになるが、なんとか堪えて痛みの波が引いてくるのをじっと待つ。
しかしそこへ、リ級が悪意の無い追撃を仕掛けた。青年との戯れが面白かったのか、リ級は「またやって!」と催促するように右手で青年の襟を引っ張る。腹部の痛みに加えて首を思い切り締め付けられ、青年の中で引き始めていた波が再び大きく荒れ始める。
このまま何の抵抗も出来ないまま、青年はドックで盛大に胃の中の物をリバースする……ということにはならなかった。青年の顔色を見た叢雲が危機を察知し、青年がリバースする前にリ級を引っぺがしたからだ。その後、叢雲に長々と説得されたリ級はしぶしぶといった様子でドックの奥へと戻っていった。
腹部をさすりながら、青年は叢雲に感謝する。当然の事をしたまで、と青年の感謝を素直に受け取ろうとした叢雲だったが、ここで叢雲の頭にある閃きが浮かんだ。心の中でニヤリと笑った叢雲は、顔をしかめながら数歩後ろへ引き下がった。
「殴った相手に対して感謝するなんて、アンタいたぶられて喜ぶ趣味でもあったわけ?そういうのは他所でやってちょうだい」
「いや違うからな!?」
叢雲に変な誤解をされたと勘違いし慌てふためく青年。もちろん、叢雲はそんな事を本気で思っているわけではない。心配させた青年に対しての罰というやつだ。必死に弁解する青年を見て満足した叢雲は「冗談よ」と一言口にし、してやったりの表情で青年を見つめた。叢雲の言葉を聞いて安心した青年は大きなため息をつく。
その後、一人と一艦はその場で談笑を続けた。
「ルー」
「お、戻ってきたか」
誤解が解けてから数分後、叢雲と談笑をしている青年の耳に聞き覚えのある声が届いた。
イ級を引き連れて遠征に出ていたル級が戻ってきたのだ。資材を没収された今、ル級が持ち帰ってきた資材が頼りだ。出来れば今日の補給分はあってほしい、そう願いながら青年は声の聞こえたほうへと振り返り、それに続くように叢雲も振り返った。
「!!?」
「!!?」
視界に飛び込んできた光景に、青年と叢雲は驚愕した。
ル級は旧解体ドックの扉をくぐった所にいた。この旧解体ドックは深海棲艦の塒(ねぐら)なのだから、ル級がここにいること事態はおかしいことではない。しかし、その周囲に明らかにおかしい部分があるのだ。それは、青年から見てル級の右側、ル級から見て左側の『空間』。青年と叢雲の視線は、その『空間』に釘付けとなった。
「ター」
そこには、見覚えの無い艦艇の姿があった。
次回・・・義と愛の名の下に