艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ 作:お暇
艦載機で先制攻撃→敵駆逐艦一艦轟沈→見方戦艦が生き残った敵駆逐艦、敵重巡洋艦をこぞって攻撃→敵ミスト艦の攻撃→見方艦艇中破、大破→見方戦艦が生き残った敵空母をこぞって攻撃→敵ミスト艦の攻撃→見方艦艇中破、大破→被害甚大のため追撃できず
追記:よそ見してたら赤城轟沈してたでござる。気晴らしに感想に返信しました。しましたよ……。
カリカリと、静かな執務室に筆音だけが鳴り響く。
青年は自分の机に向かい書類の空欄を一つずつ埋めていた。つい先ほどまで『あるトラブル』に巻き込まれていたせいで顔に疲れが見えるが、今日中に処理しなければならない書類があるため疲れた体に鞭打って、こうして筆を動かしているのだ。
そんな青年を他所に、叢雲は早々に今日の出撃に関する報告書を書き終え青年の目の前で優雅なティータイムを堪能していた。時たま青年から救援の声をかけられるが、自業自得だ、と叢雲は救援を拒否。恨めしそうな目で叢雲を見つめながら、一人で黙々と書類整理を続ける青年。
書類の量はそれほど多いものではないのだが、やはり数時間前に起こった『トラブル』が尾を引いているのか、青年の筆の速度はいつもより遅い。結果、青年が書類の山をさばき終えたのは日が変わる時間ギリギリとなった。
ようやく終わった、と背もたれに体重を掛けながら大きく背伸びをした青年。
「あー……疲れた……」
「そう。ま、お疲れ様と言っておこうかしら」
なんだかんだで青年の仕事が終わるまで付き添っていた叢雲は手に持っていた小説を机の上におくと、おもむろに急須を手に取り茶葉を入れ替えた。そしてポットから急須にお湯を注ぐと、『あらかじめ用意してあった』青年用の湯飲みに緑茶を注ぐ。青年は叢雲から差し出されたお茶に口を付け、目を瞑りながら大きくため息をついた。
「はぁ……ただでさえリ級の絡みで疲れたって言うのに、追い討ちをかけるように『アレ』が来たからなぁ……」
「『アレ』を見た瞬間不安になったわ。いつもみたいに、すぐに艦隊に加わえるんじゃないかって」
「さすがに、な。ただでさえ資材が足りないっつーのに、ここで戦艦がもう一艦加わったら確実に破産するだろ」
そう言って、青年は数時間前の出来事を思い出す。リ級との命懸けのコミュニケーションを終えた後に起こった、はた迷惑な遭遇劇を。
◇
その出会いは唐突だった。
登校中に曲がり角でパンを咥えた女子高生と出会いがしらにぶつかってしまうような、家に帰ってきたら自分の部屋を漁っている泥棒と鉢合わせしてしまったような、そんな衝撃的な出会い。
青年と叢雲は驚愕のあまり固まってしまった。ル級の声が聞こえた方へと振り返ったら、そこにはル級とは別にもう一艦、見覚えの無い深海棲艦の姿があったからだ。いや、「見覚えの無い」というのには少し語弊がある。その深海棲艦の姿格好は青年の部隊では見かけない深海棲艦というだけであって、青年自身はその深海棲艦の姿を以前に資料で見たことがあった。
深海棲艦の一種『戦艦』、通称『タ級』。その戦闘能力は同じ戦艦のル級を大きく上回ると言われている。
深海棲艦特有の真っ白な肌と真っ白な長髪。スクール水着の上からセーラー服の上着という何とも奇抜な格好。そして深海棲艦の象徴ともいえる不気味なオーラを放つ主砲を、袖と一体化したマントの下から覗かせている。
微動だにせず、ただじっと青年を見つめ続けるタ級と、タ級に釘付けとなっている青年の視線がぶつかる。傍から見れば男女が運命的な出会いを果たしたかのような構図だが、青年にとってタ級の存在は厄介者以外の何者でもない。今まで青年が経験したトラブルの中心には、必ずと言っていいほど深海棲艦の姿があったからだ。リ級との決死の戯れで疲れきっているところに、新たなトラブルを持ち込まれるのは御免蒙(ごめんこうむ)りたい。
そんな青年の心中を知らないタ級。無表情のままじっと青年を見つめ続ける彼女は自分の服の袖をぎゅっと握ると、一言こう言った。
「ター」
当然、深海棲艦の言葉が青年に通じるわけも無く、青年はタ級の言葉に対して首をかしげる。しかし、艦娘である叢雲はタ級の言葉をしっかりと理解していた。そして同時にこう思った。あぁ、前にも同じようなことがあったな、と。
言葉を口にしたタ級は早歩きで青年へと近寄る。無表情のまま近づいてくるタ級に対して恐怖心を抱いた青年は隣にいる叢雲に救援を要請するが、叢雲は「大丈夫よ」と言うだけで動くことはなかった。
タ級はあっという間に青年の目の前までやってきた。至近距離に迫ったタ級の顔を見て思わずたじろいでしまった青年だが、そんな青年を逃がすまいとタ級は青年の右手を自分の左手で掴む。そして、青年の右手を掴んだ左手をそのまま自分の胸元まで持って行ったタ級は、左手の上から右手を重ね青年の手を両手で包んだ。
「ター」
いきなり近づいてきたと思えば、相手はただ自分の手を握って見つめてくるだけ。タ級の行動にいよいよ理解が追いつかなくなってきた青年は横目で隣の叢雲を見る。叢雲はやれやれといった様子で、タ級が口にした言葉を通訳した。
「一生ついていきます。私の愛しいあなた様、ですって。よかったわね」
「……」
叢雲の言葉を聞いた青年は反射的にル級との出会いを思い出す。
あの時も、今と同じような状況だった。いきなり現れた深海棲艦に押し倒され、絶体絶命の時にル級から出てきた言葉が「お慕い申しております」だ。後から復活した叢雲に、自分にべったりと引っ付くル級を引っぺがしてもらったのを、青年は今でもはっきりと覚えていた。そして、今まさに目の前でそのときの再現が行われている。もしかしたらまた押し倒されるのでは、と青年は自分の身の危険を感じずに入はいられなかった。
しかし、タ級はル級のような無茶なアプローチを仕掛けてはこなかった。ただじっと、青年の手を握ったまま青年の瞳を見つめ続けるのタ級。そんなタ級の様子を見た青年は、普段叢雲の言うことをおとなしく聞いているチ級やヌ級の姿を連想した。絶対の忠誠を体(てい)で表すかのように、黙って叢雲の言葉を待つあのニ艦の姿を。
もしかしたら、タ級はチ級やヌ級寄りなのかもしれない。多分襲われないだろうとタカをくくった青年は自分に落ち着くように言い聞かせ、今の状況を冷静に分析する。
タ級の言葉がル級の言っていたものと同じ意味合いだとすれば、タ級は青年の艦隊に加わりたいと言っている。確かに戦艦がもう一艦増えるというのはありがたい話だ。エリート艦艇のル級に匹敵する火力と装甲。加入すれば即戦力となること間違いなしだろう。しかし、いくら戦力が増えたところでそれを維持するだけの資材がなければ宝の持ち腐れだ。むしろ戦力増加というプラス面よりも資材の消費量が増えるというマイナス面の方が遥かに大きい。青年の司令部の資材事情は限界ギリギリだ。これ以上深海棲艦が増えれば、まず間違いなく破産するだろう。そして、それは司令部の主である青年自身が一番よく分かっている。
情に流されること無く、冷静に状況を分析した青年はタ級に対して無慈悲な言葉を放った。
「君の好意はうれしい。しかし、今私の司令部には君を受け入れるだけの余力が無いんだ。残念ながら、君を迎え入れることは出来ない」
青年の言葉を叢雲を通して聞いたタ級は、握った両手の力を緩めながら表情を崩した。まるでこの世の終わりを目にしたかのような驚愕と絶望の入り混じった顔をうつむかせたタ級は、力の抜けた両腕をだらりと垂らす。その様はまさに恋心を打ち砕かれた少女そのものだった。
「…………今は、ね」
「はぁ?アンタ何言って……」
続けて出てきた青年の言葉に驚く叢雲。青年と同様に司令部の現状を知っている叢雲も、これ以上の深海棲艦の受け入れは不可能だという判断を下していた。故に、青年の口からタ級の受け入れ拒否の言葉が出てきたとき、叢雲は青年の事を評価した。以前とは違い、ちゃんと自分の現状を理解し冷静に判断を下せるようになったのだと。そう思っていた。
しかし、後から出てきた言葉は何だ。その言い回しだと、後からタ級を受け入れると明言しているようにも取れる。叢雲は後から出てきた言葉の通訳をためらうが、青年から視線で催促されたために仕方なく青年の言葉をタ級に聞かせた。次の瞬間、大きく目を見開いたタ級が勢いよく顔を上げた。
「今は無理でも、これから先はどうなるか分からない。だから約束しよう。こちらの準備が整ったら、私は君を迎えに行く。必ずだ」
「!!」
青年のクサい台詞を、叢雲は顔を歪ませながらタ級に伝えた。
歴史は繰り返される、とはまさにこのこと。落ち着いた雰囲気の女性が感情をむき出しにするという破壊力抜群のギャップ攻撃をモロに食らった青年はチ級やヲ級の時と同じように情に駆られ、思わずタ級に助け舟を出してしまったのだ。
その結果、タ級を遠まわしに追い返すはずが、遠まわしに受け入れることを約束する形となってしまった。一瞬でもコイツの事を評価した自分が馬鹿だった、と最悪の結果に頭を抱える叢雲。そんな彼女の隣を、ある艦艇が悠然と通り過ぎる。
「ルー」
叢雲の隣を通り過ぎたある艦艇、ル級はタ級の背後で立ち止まると、右腕の主砲を突き出した。そしてル級に呼応するかのように、タ級もマントの下に隠れていた主砲をル級に向けて突き出す。
「ター」
「ルー」
言葉を交わしながら、ニ艦はまるでハイタッチをするかのように互いの主砲の砲身をガチガチとぶつけ合った。
絶賛後悔中の青年は、その様子を光の宿っていないうつろな目で眺め続けた。途中までは冷静に自身を制御できていた青年。もちろんタ級を追い返すつもりでいた。しかし、タ級の落ち込んだ姿を見ていたら、反射的にあの言葉を口にしてしまったのだ。まあ、仕方の無いことと言えば仕方の無いことだろう。いつ何時、どの場所においても「かわいい」は正義なのだから。
ふと、視線を感じた青年は隣へと視線を向けた。隣では、不機嫌オーラ全開の叢雲が眉間にしわを寄せながらガンを飛ばしていた。時すでに遅し、と思いながらも、青年は何とか叢雲に機嫌を直してもらおうと声をかける。
「ア、アハハハハ……。たっ、楽しそうだなあいつらー。一体何の話してんだ?」
「さあ?さっきから『義』だとか『愛』だとか何度も言ってるみたいだけど」
「そ、そっかぁー。よっ、よぉし。俺も負けてられないな。明日からまた気合入れてがっ、がんばるぞー!」
「そうね。一日でも早く司令部を立て直して、タ級を迎え入れられるようにしましょう」
「…………そうですね」
淡々と話す叢雲にビクビク怯えながら、青年は真っ暗な海へと消えていくタ級の後姿を見送った。
◇
「まったく、アンタってホント学習しないわね」
「し、してるだろ……いつもみたいにすぐに艦隊に加えなかったし?」
「でもいずれ加わる予定なのよね?」
「…………」
気まずそうに目をそらした青年を見た叢雲はため息をつくと、再び椅子に座り小説を開いた。その小説は息抜き用にと、青年が自分の部屋から数冊執務室に置いたものだ。戦国時代に実在した人物を元に書かれた小説で、三人の武将が『義』と『愛』の名の下に乱世を駆ける物語である。
小説の表紙を見た青年はル級とタ級の姿を思い出した。叢雲がル級とタ級が『義』やら『愛』やら言っている、と言っていたが、奇しくもその小説にはル級やタ級の言っていた『義』や『愛』という言葉がよく登場するのだ。青年はお茶をすすりながら叢雲に話しかけた。
「そういや、その小説にも『義』とか『愛』がよく出るよな」
「ええ。確か『直江』、『石田』、『真田』の三人だったかしら?『義』と『愛』の力で天下を取るとか……」
「そうそう。利ではなく心で動く、それが『義』だってね。その本結構気に入ってるんだ」
その会話をかわきりに、小説の話題で盛り上がる青年と叢雲。乱世の時代背景、登場人物たちの生き様、話の展開など話題は尽きない。途中、うっかり青年がネタバレをしてしまい叢雲からお怒りを受けるなどのハプニングもあったが、それでも話が途切れることは無く、一人と一艦は互いに意見を交換し合った。
そんな中、少しずつ小説を読み進めていた叢雲の目にある文章がとまる。別々の土地で生まれ育った三人の若者たちが、一堂に集い言葉を交わす山場のシーン。そこでのやり取りが、つい数時間前に見たル級とタ級のやり取りと実に似ていたのだ。熱く語らう若者たちにル級たちの姿を重ねる叢雲。深海棲艦が世の未来を案じる様は実にシュールで、想像した叢雲自身もあまりの不釣合いっぷりに思わず苦笑いをこぼす。
しかし、そんな話があってもいいのかもしれないと叢雲は思った。現実に起これば目を背け逃げ出したくなるような事態ではあるが、作り話としてなら見てみたい。『義』と『愛』の名の下に集った戦国武将ならぬ、『義』と『愛』の名の下に集った正義の深海棲艦たちの姿。
背もたれに寄りかかりながら執務室の天井を仰いだ叢雲は、わざとらしく言葉を発した。
「ル級とタ級が『義』や『愛』で動くのなら、もう一艦くらい同じような理由で動く艦艇がいてもおかしくないわね」
この言葉は叢雲自身も特に意識して言った訳ではない、会話を盛り上げる軽い冗談のつもりだった。
「だとしたら誰がどの役をやるんだ?活発なル級は『真田』だろ。沈着ぽい雰囲気のタ級は『石田』……。あとは『直江』か」
そして、それは青年も同じだった。
「深海棲艦にル級とタ級以外の戦艦型なんていたかしら?」
「そういや聞いたことないな。だとすれば、戦艦以外の艦艇が『直江』役をやるのか?」
「そうね、それなら……って、ただの冗談に何マジになっちゃってんのよ。馬鹿らしい」
「ちょっ、お前が話しを振ってきたんだろうが!」
だがしかし、この何の変哲も無い些細な冗談が後に現実のものとなる。ル級ともタ級とも違う、『戦艦』の名を冠する深海棲艦が青年の下を訪れるのは、もう少し先の話だ。
あけましておめでとうございます。
この物語を書き始めてまだ数か月ですが、予想以上の評価に正直驚いております。今更ではありますが評価してくださった皆様、本当にありがとうございました。
基には艦隊の存在があるというのに戦闘描写やシリアスシーンがほとんど無いってのはどうなの?と思うかもしれませんが、シリアス要素は他の小説に任せて、自分はこれからも自分のペースでダラダラと書き続けていこうと思います。
この小説ではチリヌルヲ以外の深海棲艦が主役になることはありませんのであしからず。
次回・・・叢雲、小説を書く。