艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

16 / 43
最近加賀さんが絶好調すぎてヤバイ。二代目赤城さんは……もう少し被弾しない努力をしてください。

追記:タイトル変更しました。


着任十四日目:ブイン基地アイドル頂上決戦!

 その日、青年はいつも通りの一日を過ごしていた。

 いつもの時間に起き、いつもの時間に朝食を取り、いつものように雑務をこなし、そしていつものように司令部の資材難に頭を悩ませていた。駆逐艦イ級を用いた遠征部隊が加わったおかげで資材の減るスピードは減ったものの、依然として減少傾向にある資材。このままでは、そう遠くない未来に資材は枯渇してしまうだろう。何とか対策を立てなければ。静かな執務室で、青年は机に置かれた資料の数々とにらめっこを続けていた。

 しかしそこへ、どたどたと喧しい足音が近づいてくる。何かあったのだろうか、と書類から目を離した青年が執務室の扉へ顔を向けた次の瞬間。

 

 

「ちょっとコレ!コレ見なさいよ!!」

 

 

 バタン、と勢い良く扉を開けたのは、青年の秘書艦である叢雲だった。叢雲の右手には一枚の紙が握られており、紙面には鮮やかな色使いで描かれた文字が見える。青年は叢雲から紙を受け取り、紙面をまじまじと見つめた。

 

 

「『那珂ちゃん大感謝祭!』。横須賀鎮守府発の艦隊のアイドル『那珂ちゃん』がブイン基地にやってくる?」

 

 

 叢雲が持ってきた紙は、イベント告知のポスターだった。

 川内型の三番艦、軽巡洋艦の『那珂』がアイドルとしてブイン基地にやってくる。青年はそのことに対して特に疑問を持つことは無かった。何故なら、那珂がブイン基地建設以前から『艦隊のアイドル』を名乗り、既設の鎮守府でコンサートやショーを開いている事は提督たちの間でも話題になっているからだ。

 一体叢雲は何を必死になっているのだろうか。青年が眉間にしわを寄せながら紙面を眺めていると、見かねた叢雲が凄まじい勢いで青年が持つ紙の『ある部分』を指差す。次の瞬間、青年の顔が驚愕に染まった。

 

 

「な……んだと……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日は晴天なり。絶好のイベント日和となった今日、予定通り『那珂ちゃん大感謝祭!』は行われることとなった。会場には沢山の艦娘たちが、トップアイドルの姿を一目見ようとひしめき合い期待に胸を膨らませている。

 そしてついにそのときは来た。ステージの左右端に設置された巨大なスピーカーから軽快な音楽が流れ出す。そしてその音楽に合わせるように、ステージ中央の入り口からニ艦の艦娘が姿を現した。彼女たちは今回のイベントの司会進行を勤める艦娘だ。

 

 

「皆さんこんにちわ。今日はお忙しい中、『那珂ちゃん大感謝祭!』にお越しいただきありがとうございます!私は司会進行を勤めさせていただきます『神通』と申します!」

「同じく、司会進行の『川内』!今日も飛びっきり最高のステージをお届けするから、最後まで見逃しちゃダメよ!」

 

 

 彼女たちの名は神通と川内。那珂ちゃんと同じ川内型の軽巡洋艦であり、アイドル那珂ちゃんのマネージャーでもある。

 ニ艦は会場にやってきた観客たちに感謝の言葉を述べた後、イベントの大まかな流れや注意事項などを説明。さすがは同型といったところか、息の合ったトークは所々で会場の笑いを誘った。

 

 

「んじゃ、固っ苦しい説明はこれで終わりと言うことで……」

「皆さんいよいよお待ちかね!このステージの主役の登場です!どうぞっ!」

 

 

 神通と川内の掛け声を合図に、ステージ中央の入り口に向かってスモークが噴出され入り口を覆い隠す。真っ白な煙幕に映し出されるのは一艦の艦娘の影。あのシルエットは、あの頭についた二つのお団子は間違いない。彼女こそ、下積みからチャンスを掴み、スターの座を駆け上がっている、艦隊のアイドル。

 

 

「やっほー☆皆元気ー?今日は那珂ちゃんのライブ、楽しんでいってねー☆」

 

 

 満を持して、那珂ちゃん登場。主役の登場により会場は凄まじい盛り上がりを見せた。憧れの存在を初めて近くで見た観客席の艦娘たちは黄色い歓声を上げ、ステージ上で手を振る那珂ちゃんを盛大に歓迎した。

 これまで幾多の経験を積んできた那珂ちゃんはその勢いを見逃さない。鉄は熱いうちに打て。勢いが冷めないうちに、一つ大きな花火を打ち上げてやろうと考えた那珂ちゃんはステージ脇に控えたスタッフに合図を出した。ステージ左右に設置されたスピーカーから明るいテクノポップ調の音楽が流れ出し、その曲調にあわせて軽やかな踊りを見せる那珂ちゃん。右手に持ったマイクを口元まで持ってきた彼女は、会場にいる観客たちに向かって元気な声で呼びかけた。

 

 

「それじゃあ早速一曲目いっちゃうよぉ!皆、しっかりついてきてね☆」

 

 

 いよいよ本格的に始まった『那珂ちゃん大感謝祭!』。那珂ちゃんの歌と踊りに魅了され、会場の観客たちはステージ上の那珂ちゃんに向かって精一杯の声援を送る。そして、イベントの主役である那珂ちゃんもその声援にこたえるように最高のパフォーマンスを披露。那珂ちゃんが持ち歌を全曲歌いきる頃には、会場の熱気は最高潮に達していた。

 会場にいる各々は思いを馳せる。今日は最高の一日だ。私は今日という日を一生忘れない。きっと明日の今頃には、今日のイベントの話題で盛り上がっているのだろう。会場にいる誰もが、今日のイベントの成功を信じてやまなかった。

 

 そう、この時までは。

 

 時間はあっという間に過ぎ、残るはメインイベントを残すのみとなった『那珂ちゃん大感謝祭!』。現在ステージ上ではメインイベントの準備が行われている最中のため、那珂ちゃんは舞台裏に戻って衣装直しを行っていた。

 

 

「え、一対一?」

「そうなんです。予選では沢山の娘たちがエントリーしてくれたんですが、何故かみなさん次々と棄権しちゃって。残ったのは一艦だけなんだそうです」

 

 

 ギリギリまで歌や踊りの練習を続けていたため、今日のステージの管理はほとんど神通と川内にまかせっきりだった那珂ちゃんは、その情報を今日初めて耳にした。神通は困惑した表情で予定表を那珂ちゃんに差し出す。予定表には、次のメインイベントに参加する艦娘の数は『一』と書かれていた。

 予定表を見た那珂ちゃんは一気にやる気を失った。次のイベントは訪れた鎮守府では毎回行っている、いわば恒例イベントと呼ばれるもので、参加者が多ければ多いほど盛り上がる目玉イベントの一つでもあったからだ。

 

その名も『アイドル頂上決戦!那珂ちゃんを倒すのは誰だ?』。

 

 訪れる予定の鎮守府に着任している艦娘たちに事前に参加を呼びかけ、予選を勝ち抜いた四艦の艦娘に那珂ちゃんを含めた総勢五艦で対決を行い、会場を訪れた観客たちに一番輝いていた娘を選出してもらうというイベントだ。

 ちなみに、那珂ちゃんを含めた川内型三艦は対戦相手の情報を一切知らない。事前に打ち合わせをしていたら『やらせ』を疑われる、と危惧した那珂ちゃんがこのメインイベントに限っては顔合わせを行わないと過去に決定したためである。

 「今日から私もアイドルに」や「那珂ちゃんと同じステージに立ちたい」など目的はさまざまだが、自分の目的を達成しようとこれまでに数多くの艦娘たちがエントリーしてきてくれた。そして、今回も同じような展開になるだろうと思っていたが、まさか一艦だけとは思ってもみなかった。張り合いのない戦いになりそうだ、とテンションだだ下がりの那珂ちゃんは大きくうな垂れた。

 

 

「こらっ!まだイベントは終わってないんだ。せっかく見に来てくれた客の前に、そんなしょぼくれた顔で出て行くつもりか?」

 

 

 ばしん、と落ち込む那珂ちゃんの背中を叩く川内。どんな状況であろうと会場を盛り上げる、それがプロってモンだろ?落ち込む那珂ちゃんをたきつけた川内は、準備が整ったステージ上に一足先に戻っていった。

 

 

「では私も行きます。那珂さん、お願いしますね」

 

 

 川内に続いて神通もまた、ステージへと歩みを進めた。

 舞台裏に残された那珂ちゃんの頭の中で、川内の叱咤が大きく反響する。そうだ、主役の自分がこんなんでどうするんだ。どんなときでも観客に最高の那珂ちゃんをお届けする。それが私のポリシーだったはずだ。那珂ちゃんは両手で自分の頬を叩き、気合を入れなおした。

 

 

「よーっし!観客の娘たちにも、チャレンジャーの娘にも、皆に楽しんでもらえるようにがんばるぞっ!」

 

 

 ステージから自分の名を呼ぶ声を聞きいた那珂ちゃんは、とびっきりの笑顔でステージ上へと舞い戻った。那珂ちゃんの姿が見えたと同時に、観客席から黄色い歓声が再び飛び交う。その歓声一つ一つに答えるようにステージの右端から左端までを手を振りながら移動した那珂ちゃん。川内の叱咤で再びやる気を取り戻した今の那珂ちゃんは、ステージ開演時となんら変わりない元気で明るい姿へと立ち戻っていた。

 しかしここで、那珂ちゃんはある異常に気づく。その疑問が浮かんだのは、那珂ちゃんが舞台の中央へと戻った時のことだった。

 

 

(あれ……お客さん増えてる?)

 

 

 午前の部では艦娘でいっぱいだった観客席。しかし、今は会場のいたるところに上下白の軍服を身に纏った『男性』の姿が見える。一体何故、と一瞬考えた那珂ちゃんだったが、仕事が忙しくて最初から参加できなかったのだろうとすぐに自己完結。これから始めるメインイベントに意識を集中することにした。

 司会進行の神通と川内がイベント概要を説明しさらに沸き立つ会場。中でも一番盛り上がったのは、那珂ちゃんに勝利した場合の報酬が発表されたときだ。

 

 

「那珂ちゃんに見事勝利した暁には……なんと!高額賞金と大量資材が進呈されます!」

「おおっ!こりゃすごい!正規空母を十艦建造してもおつりが来るぞ!」

 

 

 そう、このイベントには特別ルールとして、トップアイドルである那珂ちゃんに勝利できた場合のみ賞金と資材が発生するのだ。この賞金と資材もまた、艦娘のエントリー数を稼ぐ重要なファクターとなっている。

 数分後、イベントの説明が終わりいよいよチャレンジャー登場の時間となった。会場が静寂に包まれる中、司会進行の川内の声がかかる。

 

 

「おっし。それじゃあチャレンジャー、出てこいやっ!」

 

 

 川内の掛け声と同時にステージ中央入り口にスモークが噴出された。煙幕に映し出された影に会場の視線全てが集まり、まだ見ぬチャレンジャーの登場をまだかまだかと待ちわびている。徐々に煙が晴れてゆく中、那珂ちゃんは心の中で意気込んでいた。どんなヤツでもかかって来い。私は負けない、と。

 

 

「ヲっ」

 

 

 那珂ちゃんの時は止まった。

 おかしい。自分は今、チャレンジャーの艦娘が登場するのを待っていたはずだ。なのに何故、入り口から深海棲艦が現れるのだ?

 どんなヤツでもかかってこいとは言ったが、この対戦相手はさすがに予想できなかった那珂ちゃん。突如襲来した異次元からの刺客に、那珂ちゃんは完全に度肝を抜かれた。

 そう、今回の那珂ちゃんの対戦相手は深海棲艦の『空母ヲ級』だったのだ。出場の経緯はお察しのとおり、賞金と資材に目が眩んだ青年の仕業である。半ば強引に連れて行かれたヲ級が予選会場に到着するやいなや、会場は大パニック。噂では聞いていたが、実際に対面すると気味が悪くて仕方がない。ヲ級を気味悪がった予選出場艦たちは一艦、また一艦と姿を消し、最終的に会場から艦娘がいなくなった結果、順位繰上げでヲ級一艦だけが予選通過となったのだ。

 普段敵対している相手が敵地のど真ん中にいきなり現れたら驚かないわけがない。観客たちがパニックを起こして大混乱に発展してしまう可能性もある、と考えた神通、川内、那珂ちゃんの三艦は慌ててマイクを握り締め、会場の娘たちに落ち着くよう呼びかけることにした。

 

 

「ぴぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ペロペロしてやる……ハァハァ……ペロペロ……ペロペロしたいよおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉおおおおおおお!!!」」

「がんばれヲ級!お兄ちゃんがお前の勇姿を見守っているぞ!」

「ぶひっ、ブヒィイイイイイイイ!」

 

「「「!!?」」」

 

 

 三艦の想像した甲高い悲鳴とはかけ離れた、欲望まみれの野太い叫びが会場に木霊する。

 突然現れた深海棲艦の姿を見て艦娘たちがパニックを起こすかもしれない。冷静になるように呼びかけよう。そう思って那珂ちゃんたちはマイクを握ったはずだった。しかし、蓋を開けてみるとどうだ?パニックを起こしたのは艦娘ではなく、上下共に白の軍服を見に纏った野郎共ではないか。予想の斜め上を行く事態に神通、川内、那珂ちゃんの思考は完全に停止した。

 純粋に那珂ちゃんのステージを楽しみに来た艦娘たちはあからさまに嫌そうな表情を浮かべ、咆哮する野郎共に軽蔑のまなざしを向けてる。しかし、その視線も我を失った野郎共には何の効果も持たない。口に出して非難している艦娘もいるが、それも半狂乱状態の野郎共にはまったくの無意味。口でダメなら手を出すのみ、と言いたいところだが、目の前で発狂している連中は自分たちより地位が上なため艦娘たちでは手を出すことは出来ない。

 打つ手は完全に無くなった艦娘たちは静かに悟った。自分たちの楽園は侵略者たちに犯されてしまったのだと。那珂ちゃんのステージを楽しみに来た艦娘たちは半ば諦めるように一艦、また一艦と姿を消していった。

 そして、それはステージ上にいる神通、川内、那珂ちゃんも例外ではない。彼女たちもまた、諦めの気持ちとその場から逃げ出したい気持ちで一杯だった。しかし、いくら彼らが汚らしい咆哮をあげていようと客であることには変わりない。来てもらった以上、今日は楽しんでもらわなければ。そう自分に言い聞かせ、神通、川内、那珂ちゃんは後一歩の所で何とか踏みとどまる。

 腹をくくった三艦は、引きつった笑みを浮かべながらイベントの続行を決意した。

 

 

「そ、それでは!アイドル頂上決戦、いよいよ開始です!」

「果たして勝つのはどっちだ!?種族を超えた戦いが今始まるっ!!」

 

 

 こうして、艦娘対深海棲艦の世紀のアイドル大決戦が幕をあけた。が、その進行は困難を極めた。

 

 

「それでは、自己紹介をお願いします!」

「み、みんな元気ー?私は川内型軽巡洋艦三番艦の那珂ちゃん!特技は歌と踊りで、趣味はアイドル活動だよっ☆会場の皆に楽しんでもらえるよう精一杯がんばるから、応援よろしくねー☆」

 

 

 パチパチパチ。会場からは歓迎を表す拍手が巻き起こる。先ほどとは異なる常識的な反応に少しほっとした那珂ちゃん。そうか。さっきのアレはきっと、初めてイベントで興奮しすぎてしまっただけなのかもしれない。会場を埋め尽くす野郎共の奇行に対して前向きな結論を出した那珂ちゃんは考えを改め、会場を埋め尽くす男達に笑顔を振りまく。

 

 

「続いて、チャレンジャーさん。お願いします!」

 

 

 しかし、那珂ちゃんの期待はすぐに裏切られる。

 

 

「ヲっ」

「うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「はふっ、はふはふっ!ヲ級をおかずにご飯がうまい!!」

「ヲ級ー!俺だぁあああー結婚してくれぇええー!!」

「ひぃっ!?」

 

 

 突如豹変する会場の反応に那珂ちゃん小さな悲鳴を上げる。そう、那珂ちゃんは考えを改める必要など無かった。那珂ちゃんの考えは百人聞いて百人全員が間違っていないと答えるほど正しいモノだった。

 

 

(もうやめちゃっていいかな……このイベント)

 

 

 既にこのイベントは、会場を埋め尽くす真っ白な野獣たちの手によって台無しにされてしまっていた。

 今は心の中に残った僅かなプロ精神が那珂ちゃんを何とかギリギリの状態に保たせてはいるが、その精神がへし折れるのも時間の問題だった。那珂ちゃんは艦娘だ。故に、ヲ級の言葉を理解できる。自己紹介で「雲がいっぱい」と言ってみたり、何の前触れもなく「おなかすいた」と言ってみたりと、ヲ級が対決とはまったく関係ない的外れな言葉をしゃべっていることを那珂ちゃんは重々承知だ。

 しかし、その意味不明な発言に対する周囲の反応はというと。

 

 

「うぴゃああああああぁぁあああぁああぁぁああああああああああああああああ!!!!!」

「かわいいよぉおぉおー!世界一かわいいよおぉぉぉおお!!!」

「ヲ級ちゃんカワイイやったー!」

「ぶっっっひぃいいいいいいいいいいいいいぃぃいいいいいいい!!」

「ヲっきゅん!ヲっきゅん!ヲっきゅん!ヲっきゅんぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ヲっきゅんヲっきゅんヲっきゅんぅううぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん……んはぁっ!ヲ級たんの銀色の髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!アンソロジーのヲ級たんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!ファ○マとコラボできて良かったねヲ級たん!あぁあああああ!かわいい!ヲ級たん!かわいい!あっああぁああ!絵もたくさん投稿されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!ぐあああああああああああ!!!絵なんて現実じゃない!!!!あ…アンソロジーもファミ○コラボもよく考えたら…ヲ 級 ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!カド○ワぁああああ!!この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?立ち絵のヲ級ちゃんが僕を見てる?立ち絵のヲ級ちゃんが僕を見てるぞ!ヲ級ちゃんが僕を見てるぞ!ヴァイスシュ○ァルツのヲ級ちゃんが僕を見てるぞ!!ゲームのヲ級ちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはヲ級ちゃんがいる!!やったよ衣笠!!ひとりでできるもん!!!あ、アンソロジーのヲ級ちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!あっあんああっああんあ麻耶様ぁあ!!イ、イムヤー!!阿武隈ぁああああああ!!!霧島ァぁあああ!!ううっうぅうう!!俺の想いよヲ級へ届け!!舞台上のヲ級へ届け!」

 

 

 この盛り上がりっぷりである。何故メインイベントが始まる前に真っ白な汚物共が突然現れたのか気になっていた那珂ちゃんだったが、この現状を見せ付けられて理解できないわけがない。那珂ちゃんははっきりと理解した。奴らは自分のステージを見に来たんじゃない。奴らは、あの獣(けだもの)共は、最初からヲ級だけを見るためにこの会場にやってきたのだ、と。

 意味不明な言動ばかりなのに賞賛されるヲ級と、何をやってもなあなあの反応を返される自分との扱いの差に、心が大破し轟沈寸前となった那珂ちゃん。彼女がこれ以上の戦闘を続行するのは不可能だった。

 

 

「ボーキ!ボーキあるよヲきゅん!!おいでおいでおいでぇえええええー!!」

「おいでおいで!こっちのボーキは甘いぞ!おいしいぞっ!!?」

「ダメだヲ級、そいつらの言葉に騙されるな!そっちは危険だ行くんじゃあないっ!ほら、早くこちらへ避難するんだ!」

「やっと見つけた。俺のヲ級だああああああー!」

 

「や、やめてくださいっ!ステージに向かってボーキサイトを投げないでくださいっ!!」

 

 

 その前に、このイベントの続行事態が不可能となりそうだ。

 観客から見向きもされずアイドルとしてのプライドをズタボロにされた那珂ちゃんはその場にうずくまり、暴徒と化した観客に立ち向かう神通はボーキサイトの投擲をやめるように呼びかけ、頭にボーキサイトをぶつけられ堪忍袋の緒が切れた川内は飛んでくるボーキサイトを手に持っては会場に向かって投げ返し、今の状況を生み出した張本人であるヲ級は我関せずの様子で床に転がるボーキサイトを頬張る。混沌が渦巻き鈍器が飛び交うアイドルイベントの会場は、もやは収集不能の状態に陥ってしまっていた。

 激しい喧騒の中、荒れ狂う暴徒に背を向けうつろな瞳でひざを抱える那珂ちゃんはそよ風にもかき消されるようなか細い声で、ぼそりとつぶやいた。

 

 

「……この鎮守府……もう来たくない……」

 

 

 この日、『那珂ちゃん大感謝祭!』は初の中止を余儀なくされた。

 

 




次回・・・夢の中のアルペジオ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。