艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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資材がマッハでマジヤバイ。

何で敵旗艦を攻撃しないのさ。何でわざわざHPを3残すのさ。ゲージ空になっても敵旗艦を撃沈できなきゃ意味ないんですよ。

だから装甲薄いんだってマジで。後何回撤退を繰り返しゃあいいの。


着任二十四日目:ヌ級、しゃべる

 

 新しい朝が来た。

 東の海から太陽が顔を出すと同時に自室を出た叢雲は、朝食を摂るために食堂へと向かった。叢雲は今日の予定を頭の中で確認しながら廊下を進む。出撃、整備、教育。叢雲のすべき仕事は山ほどあるが、今の彼女が最優先で処理しなければならない仕事はただ一つ。先の大戦の事後処理だ。

 と言っても、叢雲は自身に割り振られた仕事をとっくに処理し終えているため、今の彼女に与えられた使命はもっぱら泣き言を言う青年のケツをひっぱだくことである。

 そうこうしているうちに食堂の入り口が見えた。叢雲は思考を目先の朝食へと切り替えた。今日の朝食は何にしようか。食堂の扉をくぐった叢雲は壁にかけられた品書きを眺める。

 

 

「……?」

 

 

 叢雲は違和感を覚えた。いつもなら食欲をそそるいい匂いが調理場から流れてくるはずなのだが、どういうわけか今日はそのいい匂いがしないのだ。叢雲は毎朝食堂に一番乗りしているため、その違和感にすぐ気づいた。

 台所には人の姿がある。すでに食堂は稼動しているようだ。叢雲はカウンターへと向かった。

 

 

「ん、おはよう叢雲」

 

 

 カウンターの奥で料理をしていた人物は、振り向くと同時に叢雲へ声をかけた。叢雲は料理をしていた人物を見て僅かに驚く。

 

 

「アンタ、何してんのよ」

 

 

 料理をしていたのは青年だった。白い軍服の上着を脱ぎ、エプロンと三角巾を身に付けた青年は鍋の火を止め、おたまで鍋の中身をぐるぐるとかき混ぜる。

 

 

「今日はいつも以上に早起きしちゃってさ。久しぶりに料理でもやってみようかなーと」

「一体どうやったらそういう思考に至るのよ……」

「気分だよ気分。料理したい気分だったの。お前の分も作ったんだぞ」

 

 

 お前の分もある。その言葉を聞いた叢雲は思わず頬を緩めた。

 青年と一緒に食事を摂ることは何度もあった叢雲だが、青年の手作り料理を食べる機会は今まで一度も無かった。

 思い人の手料理。期待せずにはいられない。乙女フィルターのかかった叢雲の視界には、少女マンガなどによく出てくる『ぽわぽわとした謎の物体』が浮かんでいた。その中心にいるのはもちろん青年である。

 

 

「俺特製のカレーだ。味わって食べろよ!」

 

 

 盛り付けた皿の乗ったおぼんをカウンターに置き、笑顔を見せる青年。その笑顔はとても清清しいものだった。叢雲はカウンターに置かれたカレーへと目を向けた。

 

 

「…………………………………………………………………………は?」

 

 

 不可解。それが目の前に鎮座する物体に対する叢雲の感想だった。

 目の前のカレーはごく一般的な形象。浅く窪んだ皿に真っ白な米を盛り、上からカレールーをかけたものだった。そこまでは普通のカレーとなんら代わりはないのだが、青年特製のカレーには普通のカレーとは違う点が二つほどあった。

 まず一つ目は、カレールーが黒い。「黒ずんでいる」とか「色が濃い」とか、そういったレベルの話ではない。コールタールのように本当に真っ黒。そして、その黒くドロドロした液体の上に角切りの野菜がプカプカと浮いているのだ。

 二つ目は、匂いが無い。食欲をそそるカレー独特のいい匂いが一切無い。完全に無臭。いくら匂いをかいでも、湯気の熱気しか伝わってこない。

 

 

「俺独自のアレンジを加えてあるから、普通のカレーとは一味違うぞ?」

 

 

 誇らしげな表情で豪語する青年。叢雲は何も言えなかった。いくら乙女フィルターがかかっている叢雲でも、青年の「一味違う」という言葉を本来の意味で捉えることは難しかった。

 そして同時に、あまりにも違いすぎる理想と現実のギャップに打ちのめされていた。

 

 

「おっと、先に言っとくがこのアレンジはトップシークレットだからな。いくらお前でも教えられないぜ!」

 

 

 ど素人のアレンジほど恐ろしいものは無い。どの分野においても共通して言えることである。

 

 

「さあ、召し上がれ!」

 

 

 いつもの叢雲ならば、ここで辛辣なツッコミを入れるだろう。しかし、理想をぶちのめされた衝撃はあまりにも大きかった。思考停止状態に陥り、「食べない」という選択肢が頭からすっぽりと抜け落ちてしまった叢雲は言葉を詰まらせる。

 時間が経つにつれて徐々に追い詰められる叢雲。「意外とおいしいかも」という現実逃避に走った彼女は両手をゆっくりと上げ、カウンターに置かれたカレーを手に取ろうとした。

 

 

「……ゥ」

 

 

 その時だった。叢雲の背後からとある艦艇の声が聞こえてきた。勢いよく振り返った叢雲はその艦艇の姿を視界に納めた。

 

 

「ヌゥ」

 

 

 叢雲の背後にいたのはヌ級だった。少ない資材で何とか行動できるまで回復したヌ級は指示を仰ぐために叢雲を探していたのだ。そして、食堂で佇んでいる叢雲の後姿を発見し、こうして近づいていたのである。

 

 

「!!!」

 

 

 叢雲に電流走る―――!

 ヌ級の登場が、叢雲に一筋の活路を見出させた。カレー?の皿がのったおぼんを素早く手に取った叢雲は早足でヌ級へ近づいた。

 

 

「何よアンタ朝っぱらから食い意地張っちゃってシカタナイワネー。ほら、これやるからさっさと食べなさい!」

 

 

 鬼気迫る形相で皿を突きつける叢雲。これが突破口。一発逆転の可能性を秘めた活路。

 青年は深海棲艦の言葉を理解できない。故に、ヌ級が何を言っても「ヌゥ」としか聞こえない。「ヌゥ」という言葉の裏に隠れた「ナニスレバ」という副音声は青年の耳には届かない。そのため、ヌ級の言葉は叢雲のさじ加減でいくらでも捏造可能なのだ。

 

 

「おいおい、おかわりはいくらでも……」

「ほらほらほらほら!遠慮しないで食べなさいよっ!」

「ヌゥ」

 

 

 叢雲の指示ならばとヌ級は口を大きく開き、カレーに似た何かを皿ごと飲み込んだ。

 

 

「!!?!?!??!?!?!!?」

 

 

 次の瞬間、ヌ級の体が大きく跳ねた。青白い両手を口の中へと入れ、必死に中の異物を掻き出そうとするヌ級。しかし、中の異物は中々出てこない。いよいよ我慢できなくなったのか、ヌ級はドタドタと食堂の中を駆け回り始めた。

 ヌ級は叢雲でも一切聞き取れない奇声を上げながら机や椅子にぶつかる。ついにはバランスを崩し床に倒れ伏してしまった。ヌ級は両手を口に突っ込んだまま両足をバタバタさせるが、やがてその動きは弱まり、そして、ついには動かなくなった。

 

 

「ちょ、ちょっと……」

「な、何が起きたんだ?」

 

 

 慌ててヌ級のそばに駆け寄る青年と叢雲。二人はヌ級の体を揺らしてみたり呼びかけたりしてみるが、ヌ級の反応はない。

 その場しのぎの策が、まさかこのような結果になろうとは思ってもみなかった。罪悪感にかられる叢雲だが、しかし、あのままアレを食べていれば叢雲自身もどうなっていたか分からない。これは仕方の無い事。いわば、不慮の事故なのだ。

 

 

「……人間の食べ物を食わせたのがまずかったのか?」

 

 

 無自覚のうちに惨劇を引き起こした張本人は言葉を発した。

 青年の言葉はある意味的を射ている。その食べ物は、違う意味でまずかった。深海棲艦が悶絶するほど、不味かった。

 

 

「……ッ」

「!」

「!」

 

 

 ぴくり、と小さく動いたヌ級を見た青年と叢雲は安堵のため息をこぼした。

 ゆっくりと活動を再開したヌ級は両膝をつきながら両手で状態を起こす。そして、横で見守っていた青年と叢雲へと視線を向けた。

 

 

「……あの、何でしょうか?」

 

 

 不思議なことが起こった。

 これまで「ヌゥ」としか言葉を発さなかったヌ級が、鬼型姫型の深海棲艦以上に流暢な言葉で青年たちに話しかけてきたのだ。

 

 

「……しゃべった」

「え?」

「しゃべったぁああー!」

 

 

 突然の事態に動揺する青年はヌ級に掴みかかった。青年はべたべたとヌ級の全身を触る。青年の触診に驚いたヌ級は四肢を縮こませながら体を震わせた。

 

 

「んっ!……や……そんな……恥ずかしぃ……」

「あ、すみません」

 

 

 我に返った青年はヌ級から素早く離れた。

 一つ深呼吸し改めてヌ級を見る青年。ヌ級はハの字座り、所謂『女の子座り』の状態で、自分の体を隠すように両腕を体の正面でクロスさせている。小刻みに体を震わせながら「止めてください……」と幼い可愛らしい声、所謂『アニメ声』で訴えかけてくるその様は、恐怖に怯える少女そのもの。

 だが、忘れてはいけない。ヌ級は人型でないタイプの深海棲艦。大雑把に言うと、彼女は黒い半球に人間の手足が生えたような姿をしているのだ。そんなヌ級が、生娘のような仕草でアニメ声を発するとどうなるか。

 

 

(シュールだ……)

(シュールね……)

 

 

 ホラー以外の何者でもなかった。

 怯えるヌ級にどう声をかけていいのか分からない青年は叢雲に目配せした。青年の意図を察した叢雲は眉をひそめるが、警戒されている青年とヌ級がこれ以上接触しても事態は一向に進まない。むしろ場の空気が険悪な方に流れてしまうだろう。

 仕方が無い、といった様子の叢雲はヌ級の前で屈み、目線を合わせて話しかけた。

 

 

「ちょっと、少し落ち着……」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

 

 予想外の絶叫に思わず耳を塞いだ青年。叫び声を上げたヌ級は青年たちに背を向け、今度は頭を隠すように両手を頭の上に回した。

 自分の方が落ち着いて話が出来るだろう。そう思ってヌ級に話しかけた叢雲だったが、その考えは大きく間違っていた。

 ヌ級が叢雲の命令を素直に聞くようになった理由を思い出して欲しい。そして、その際叢雲がヌ級に対してどのようなことをしたのか。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいっ!いい子にしますから蹴らないでくださいっ!」

 

 

 ヌ級からすれば、叢雲という名は恐怖の代名詞。唯一であり絶対。天地がひっくり返ろうとも決して逆らえない存在。それがヌ級にとっての叢雲なのだ。

 叢雲は屈んだ状態から動かない。体も、表情も。まるで時が止まったかのようにピクリとも動かない。はっきりと聞き取れた拒絶の言葉は、先ほど受けた衝撃を優に超える恐ろしい一撃となって叢雲に突き刺さっていた。

 そっとしておこう。青年は怯えるヌ級をなだめながら、叢雲が復活するのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、何とか活動を再開した叢雲。傷が完全に癒えていない彼女は青年に手を引かれて食堂の椅子に着席。その隣には青年が、対面にはヌ級が座った。

 青年はまじまじとヌ級を見る。背もたれのない椅子に正座するヌ級の姿はとてつもなくシュールだ。

 

 

「あの……な、何でしょうか?」

 

 

 正面で両手をもじもじと動かしながら、体をゆさゆさと左右に揺らすヌ級。仕草自体は女の子らしくてかわいらしいのだが、その仕草をやっているのは黒い半球に人間に手足を生やした人外である。

 青年は心の声を口に出さないよう細心の注意を払いながら言葉を発した。

 

 

「おぅ……その、あれだ。ヌ級は何で急にしゃべれるようになったんだ?」

「急にしゃべる……ですか?私はいつも通りに過ごしているつもりなのですが……」

 

 

 ヌ級はいつものように「ヌゥ」と話しているつもりのようだ。

 しかし、今のヌ級が話す言葉は青年でも理解できる言語。本当に何が起こったのか理解できない青年。自分の料理に過失はないと信じきってるため、彼が自分の力で真実に到達することは無い。

 

 

「あの、私からも質問してよろしいでしょうか?」

「ああ。いいよ」

「『ぬきゅー』とは、私の名前なのですか?」

 

 

 ヌ級という名前は人間たちが勝手につけた名前だ。それを深海棲艦であるヌ級が知る由も無い。一人納得した青年はヌ級に説明を始めた。

 

 

「知りませんでした。私たちに名前が付けられていたなんて」

「まあ、普通は知らなくて当たり前なんだけどね」

「じゃあ、あそこにあるのは……」

 

 

 ヌ級との会話は青年の予想していた以上に弾んだ。あれやこれやと色々な物に興味を示すヌ級。青年も青年で、自分の回答にいちいちはしゃぐヌ級を見て気をよくしていた。

 そんなほのぼのとした空気の中で、心中穏やかではない者がいた。

 

 

(……いつまで私をのけ者にするつもりよ)

 

 

 それは叢雲だった。復活を遂げた叢雲は自然に会話に混ざる方法を模索していた。ヌ級の質問にしれっと答えるか、青年の言葉にしれっと同調するか、自分で新しい話題をしれっと提供するか。

 今叢雲が熟考している間も、青年とヌ級は楽しそうに会話を続けている。このまま空気になる事だけは避けたいと考える叢雲。自分が参加している場で、自分の存在が無視されるのは彼女のプライドが許さなかった。

 しかし、先ほどのヌ級の言葉が尾を引いているせいで中々言葉を口にできない。また、怖がられるのではないか。叢雲は最初の一歩を踏み出せずにいた。

 

 

「うーん、ちょっと分からないなぁ。叢雲、分かるか?」

「ぅえっ!?」

 

 

 チャンスはすぐやってきた。ヌ級の問いに答えられなかった青年が、叢雲に助けを求めたのだ。

 ナイスな展開じゃないか、といわんばかりにいい笑顔を見せた叢雲は「しょうがないわね」と前置きを入れ、饒舌に語り始めた。

 

 

「と、言うわけよ」

「そうなん……ですか。あ、ありがとうございます」

「……何よ。言いたいことがあるならはっきり言いなさい」

「あぅ……いえ、そのっ……何でもありません」

 

 

 叢雲、小破。先ほどまでの和気藹々とした雰囲気から一転、圧迫面接のようなギスギスした雰囲気へ。

 ヌ級の様子があからさまに違っていた。青年と会話をしていたときは自分から積極的に声を上げていたヌ級だが、叢雲が相手になった途端に口数を減らしてしまった。

 どちらかと言えばサバサバした性格である叢雲だが、そんな彼女でもヌ級の変わりようはかなり堪えた。

 

 

「……そう。それじゃあ、他に聞きたいことはないかしら?」

「………………いいえ、特には……」

 

 

 叢雲、中破。上艦(上官)は時には嫌われ役とならねばらない。そう自分に言い聞かせて何とか平静を装う叢雲。

 叢雲の歯に衣着せぬ物言いがヌ級を萎縮させているのだが、既に自分の事で手一杯の叢雲はそのことに気づかない。

 青年はヌ級の豹変が気になった。青年から見たヌ級の印象は、いつも叢雲の言うことを素直に聞き、後ろをしっかりついてまわる優等生。そんなヌ級が叢雲を前に萎縮、時折拒絶するような素振りも見せている。

 表面上では良好な関係を築きつつ、内心では忌み嫌う。人間社会でもよく耳にする話だ。

 もしや。青年はヌ級に問いかけた。

 

 

「ヌ級。お前、本当は叢雲が苦手だったのか?」

「………………」

 

 

 叢雲、大破。青年は地雷を全力で踏み抜いた。

 場に静寂が訪れた。旗艦の才能があると思い込んでいた叢雲は、現実を目の当たりにして完全沈黙。気まずい空気に呑まれたヌ級も沈黙を維持。そして、二艦の反応を見て盛大にやらかした事を悟った青年。

 青年は悪しき流れを断ち切るために策を練る。叢雲を頼ることも、ヌ級の手を借りることも出来ない今の青年に出来ること。ない知恵を絞って必死に考えた、彼にしか出来ないたった一つの冴えたやり方。それは……。

 

 

「ヌ級、俺の事を提督と呼んでくれ!!」

「ひぇっ!?」

「提督、提督だ!俺を提督と呼ぶんだ!!」

「えっ、え、あ……て、ていとく?」

「声が小さーいっ!もっと大きな声で!さん、はいっ!」

「て、提督」

「もっと大きく!」

「提督!」

「モット!モット!」

「提督っ!!」

 

 

 全力で誤魔化し、強引に流れを変えることだった。

 大声と勢いで場の空気をリセット。後から冷静になったとき、今の光景を思い出して思わず笑いが零れるような雰囲気へと持っていくことも出来る。少々分は悪いが、このまま何もしないよりはマシだ。青年は最後の賭けにでた。

 そして青年の策にツキも乗った。なんと、青年以外にも場の空気を換えようと考えていた者がもう一人、いや、もう一艦いたのだ。叢雲である。

 青年が突然騒ぎ出したことには驚いた叢雲だったが、その行動の理由はすぐに察しがついた。彼がこのまま場の空気を変えてくれれば、と叢雲は内心期待する。

 

 

「叢雲、お前もだ!ほらっ!」

「はぁっ!?何で私が……」

 

 

 しかし、叢雲には誤算があった。それは、青年が最初から叢雲を巻き込む気満々だったということだ。

 

 

「俺の役職を言ってみろぉ!」

「……ぃ……く……って、別に今言う必要なんてないじゃない!」

「聞ーこーえーまーせーん!」

「ぐっ……アンタ、調子に乗ってんじゃ……」

「命令だ!ほら早く!」

「~~~っ!分かったわよ!言えばいいんでしょ言えば!提督!提督提督提督ていとくてーとくてぇとくっ!!」

「そうだ!ヌ級、お前も続け!」

「提督っ!」

「そうだっ!俺は提督だぁっ!!」

「提督!」

「提督!提督!」

「提督!提督!提督!提督!」

 

 

 青年は賭けに勝った。

 ぴょんぴょんと跳ねながら楽しそうに叫ぶヌ級と、顔を真っ赤にしながらやけくそ気味に叫ぶ叢雲。気まずい空気はどこかへと流れて消え去った。そして、場には新たにカオスが充満した。

 彼らの大騒ぎは、寝坊した給仕が食堂に現れるまで続いた。青年は満足そうに笑う。ヌ級は楽しそうに体を揺らす。そして、叢雲はぐったりとうな垂れる。全力で叫び続け疲労困憊となった叢雲。今の彼女には「一騒ぎしたら腹が減った」と調理場に戻っていく青年を止める気力すら残っていなかった。

 未曾有のバイオテロが迫る。叢雲は死を覚悟した。

 

 

「えっ、もう全部食べちゃったんですか?」

 

 

 だが、バイオテロは一人の英雄によって食い止められた。

 騒ぎの間に、バイオ兵器は給仕の手によって速やかに処分されていたのだ。給仕は青年を適当に言いくるめ、無断で調理場へ立ち入らないことを約束させた。表向きの理由としては『衛生面の問題』という形になっているが、真の理由は言わずもがなだ。その後、給仕の中で『青年に調理器具を持たせてはならない』という取り決めが密かになされた。

 

 翌日になればヌ級も元の状態へと戻り叢雲も一安心。再び言葉が通じなくなって残念がっていた青年だったが、すかさず叢雲にケツをひっぱだかれて執務室へと連行されていった。

 一艦残されたヌ級は、徐々に小さくなってゆく一人と一艦の後姿を見つめる。

 

 

「…………テートク」

 

 

 潮風にかき消されそうなほど小さな声だったが、彼女の発した言葉は確かに司令部の主を呼ぶ声だった。

 




その日、妖精たちは思い出した.。
奴らに支配されていた恐怖を・・・。
鳥かごの中に囚われていた屈辱を・・・。


次回・・・妖精たちの反撃
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