艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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秋にもイベントをやる・・・だと・・・?もう止めて!俺のライフはゼロよ!

あと、深海棲艦の数増えすぎじゃありませんかねえ・・・。


着任二十五日目:妖精たちの反撃・裏

 

「ふぁ~あ……」

「私の前で堂々と欠伸なんて、いい度胸してるわね」

 

 

 早朝の執務室。よろよろと自分の椅子に座った青年に対し叢雲は眉をひそめた。

 

 

「悪い。また書類と向き合わなきゃならんのかと思うとさぁ……」

「それはこっちの台詞よ。毎日毎日遠征ばかり……いい加減うんざりだわ」

 

 

 戦艦棲姫が引き起こした先の大戦の影響は根深く、今だに戦後処理に追われている青年。そして、司令部の資材が底を尽きたことにより遠征で資材を稼ぐ毎日の叢雲。一人と一艦は同じ毎日の繰り返しにうんざりしていた。

 唯一の救いは、青年の部隊に所属する問題児であるリ級とル級が未だに動けない状態にあることだろうか。ここで二艦が好き勝手に動ける状態だったならば、青年と叢雲の心労はピークに達していただろう。

 

 

「じゃあ、私はそろそろ行くわ。帰りはお昼前になると思うから」

「おう。気をつけてな」

 

 

 叢雲は執務室を出て行った。一人残された青年は椅子の背もたれに寄りかかり木製の天井をぼーっと眺める。心の中で面倒だな、やりたくないなと愚痴をこぼし、十分ほど過ぎたところでようやく机に向かうのだった。

 そして数時間後、事は起こった。突然、執務室の扉がノックされた。青年は筆を止め扉へと視線を向ける。

 叢雲が帰ってくるには少し早い。チ級、ヌ級、ヲ級は叢雲と共に遠征へ出ている。リ級、ル級は大破して動ける状態ではない。頭の中で選択肢を一つずつ消していき、青年は最終的な答えを導き出す。

 

 

(来客?)

 

 

 事前連絡がない来客。今と同じシチュエーションを青年は何度も経験している。そして、その来客が何を言うのかも大体予想がついていた。

 

 

(緊急の呼び出しか?)

 

 

 多分ブイン基地上層部からの緊急の呼び出しだろう。そう予想した青年はいそいそと立ち上がり服装を正す。そして、自ら扉へと駆け寄り扉を開けた。

 

 

「申し訳ありません、少し立て込んでおりまし……あれ?」

 

 

 青年の予想に反して、扉の向こうに人の姿は無かった。廊下を奥まで見通しても、人影は一切見られない。

 

 

「コッチダヨー」

 

 

 人の姿は無かったが、人の形をした生き物の姿はあった。青年の足元には五人の妖精がいた。

 妖精。御伽噺の中でよく目にするその存在は、提督たちの間では身近なものとなっていた。彼らがいつから存在していたかは定かではないが、はっきりと言えるのは『艦娘たちの味方』であるということだ。

 艦娘の建造や艦娘の装備をの開発など、未知の技術を用いて提督をサポートするのが妖精の仕事である。その後、作業効率化のため人間の作業員を配備。現在は『提督と艦娘』を『妖精』がサポートし、『妖精』を『人間の作業員』がサポートするという形になっている。

 

 

「シッパイシタノ!」

「カイハツシッパイ!」

「ゴメンナサーイ」

「ユルシテクダサイ」

「ヤッチマッタナ」

 

 

 妖精たちは一斉に言葉を発した。曰く、新型装備の開発に失敗したとのことだ。

 何故この時期に新装備の開発を、と疑問に思う青年。装備を開発する場合はその都度指示を出している。妖精たちが勝手に装備を開発したという話も聞いたことがない。ならば、この新装備開発は一体誰の指示によるものなのか。

 

 

「ムラクモサン、ゴメンナサイ」

「ヒミツダッタノニ……」

 

 

 青年は妖精たちの言葉からある程度察した。どういう意図があって秘密にしたのかは分からないが、叢雲が指示を出したのならば問題はないだろう。青年は一人納得した。

 

 

「ムラクモサン、ドコ?」

「叢雲は今ここにはいないよ」

「ゴメンナサイシナイト……」

「そっか。でもなあ、アイツが帰ってくるにはまだ時間が……」

 

 

 落ち込む妖精たちを尻目に、青年は腕時計で時間を確認する。現在の時刻は午前十一時三十分。そろそろ叢雲たちが帰投する頃だ。

 

 

「よし、じゃあ一緒に謝りに行くか!」

「エ?」

「丁度休憩しようと思っていたんだ。そろそろ叢雲も帰ってくる頃だし、休憩がてら一緒に謝りに行くよ」

「イイノ?」

「任せろ。あ、そうだ!ついでに海見ていこうぜ、海!」

「ウミ!」

「今日は天気がいいからな。きっと潮風が気持ちいいぞ」

「イキタイ、ウミ!」

「ウミ、イクー!」

 

 

 青年は妖精たちを腕の中に抱えた。ぎゅうぎゅうに押し込めら苦しかったのか、妖精たちはすぐに青年の腕の中から抜け出し、青年の肩や頭など各々好きな場所を陣取った。

 純粋に謝りたいという気持ちを自分のサボりに使ってしまった。青年は心の中で謝罪しつつ、はしゃぐ妖精たちと共に港へと向かった。

 

 

(ケイカクドオリ……!)

 

 

 ワイワイ騒ぐ妖精たちがあくどい笑みを浮かべたことに、青年は気づかなかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青年と叢雲がいなくなり、完全無法地帯と化した司令部にこっそりと忍び込む二艦の艦艇がいた。

 

 

「ふふふ。潜入成功です」

 

 

 青年の司令部を半壊させる大惨事を引き起こした張本人、青葉である。

 

 

「アンタも懲りないよね。あれだけこっぴどく叱られたっていうのに」

 

 

 青葉の隣でため息をついたのは同型艦の衣笠だ。

 青葉がお叱りを受けて以降、青葉のお目付け役として必ず行動を共にするよう命令されていた衣笠。ある日、彼女は直感的に青葉の企みを察した。同型艦故か、その直感は見事的中。青葉が再び事を起こせば止められなかった衣笠も同罪だ。巻き添えを危惧した衣笠は青葉に自重するように言った。

 

 

「でも、衣笠だって興味あるんでしょ?」

 

 

 衣笠が青葉の考えを察したように、青葉もまた衣笠の心の内を見通していた。

 興味は大いにある。大いにあるが、提督からの言いつけを守らなくてはならない。心が揺れている自分に何度も言い聞かせ、衣笠は青葉を何度も説得する。

 チョロい。内心ほくそ笑む青葉は心揺れる衣笠に対しとどめの一言を放った。

 

 

「大丈夫だって。迷惑をかけなければ問題ないわけだし」

 

 

 自身の提督からこっぴどく叱られ青年に二度と迷惑をかけないように誓った青葉だったが、たった一度のお説教程度では彼女の内に秘めるマスコミ魂を鎮火することは出来なかった。

 『二度と迷惑をかけない』という約束を『迷惑をかけさえしなければ再接触してもよい』と都合よく解釈し、再びリ級及び他の深海棲艦との接触を図ろうとしていた。

 深海棲艦が解体ドックを占拠していることは前回のリ級へのインタビューで確認済み。ブイン基地内の司令部は構造が似たり寄ったりのため大体の位置も把握できている。青葉と衣笠の動きに迷いは無かった。

 

 

「ちょっと!これ不法侵入じゃないの!?」

「大丈夫だって。ちょーっとお話しするだけだから」

 

 

 こそこそと小声で話す二艦は、周囲を気にしながら素早く移動。そして、二艦は何事も無く解体ドック裏口へと到着した。

 再度周囲を見渡し誰もいないことを確認。青葉は扉へと手を掛け、ゆっくりと裏口の扉を開けた。

 

 扉の向こうで大きな爆発が起こった。

 

 青葉はすぐに扉を閉めた。いつまで経っても中に入らない青葉の様子が気になった衣笠は何事かと問いかける。扉を指差しながら後ろで控える衣笠に事情を説明する青葉。半信半疑の衣笠は説明の真意を確かめるべく、そっと裏口の扉を開けた。

 

 扉の向こうで深海棲艦が瓦礫の下敷きになっていた。

 

 そっと扉を閉めた衣笠は青葉に向き直る。その表情は困惑に染まっていた。

 もう二度と同じ過ちは繰り返さないと誓った青葉だったが、まさか自分のあずかり知らぬところで謎の大惨事が起きていようとは。青葉は自分の間の悪さを呪った。

 二艦はこっそりと中の様子を伺った。中ではリ級とル級が攻撃を受けている。それも複数から、相当激しい攻撃をだ。

 衣笠が仲間割れの可能性を上げるが、青葉はその考えを即座に否定。他の深海棲艦は叢雲と共に遠征に向かったため不在だと教える。

 ならば一体誰が攻撃をしているのか。青葉と衣笠は扉の隙間から注意深く内部の様子を確認した。

 次の瞬間、彼女たちは衝撃の事実を目撃する。

 

 

(よ、妖精!?)

(何で妖精が戦ってるの!?)

 

 

 青葉と衣笠は目を丸くした。ドック内のあちこちに設置された単装砲をぶっ放しているのは、彼女たちも日頃からお世話になっている妖精たちだったのだ。

 信じられない、といった様子で内部の様子を伺う二艦。いつもはニコニコと人懐っこい笑みを浮かべている妖精たちが……。

 

 

「ブッコロス!」

「ローストチキンニシテヤル!」

「ユルサン!」

 

 

 砲撃音の合間に聞こえてくる、聞くにも耐えない罵詈雑言。とても自分たちの司令部にいる妖精と同じ生き物とは思えない。青葉と衣笠は戦う妖精たちの鬼気迫る勇ましさに気圧されていた。

 

 

「青葉、何かヤバイよココ!今すぐ離れたほうがいいって!」

「……いや、でもこれはこれでおいしいネタになりそうな」

「馬鹿なこと言ってないで!ほら、早く行くよ!」

 

 

 ここにいてはいけない。直感的にそう感じ取った衣笠は青葉の袖を掴みぐいぐいと引っ張る。

 しかし、青葉はその場を頑なに動こうとはしない。衣笠と同様に直感が危険を告げてはいるが、同時に、燃え滾るマスコミ魂が特ダネを掴めと叫んでいたのだ。青葉の中で二つの意思がぶつかり合い火花を散らす。現実世界では一秒にも満たない時間の中で何度も何度も。そして数十回にも及ぶせめぎ合いの末、青葉の意思は一つに固まった。

 

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず……私行くよ」

「待ちなさいって!今行くのは自殺行為だから!また今度にしよう!?ねっ?」

「いやでも……」

「いいから!こっち来なさいっ!」

 

 

 壁越しでもはっきりと聞き取れる激しい轟音に怯えながら、青葉の首根っこを掴みズルズルと引きずる衣笠。

 特ダネを掴むと決めた青葉は必死に抵抗する。首根っこを掴む衣笠の右腕を叩いたりつねったりし、何とか衣笠の捕縛を逃れようとしていた。

 そんな青葉の態度に、衣笠の堪忍袋の緒が切れた。衣笠は青葉の首根っこを掴んでいた右手をいきなり離し、青葉の体を地面に落とした。

 

 

「もうっ!勝手にすれば!?私はどうなっても知らないから!」

「痛~っ!いきなり落とさないでよ!怪我したらどうするの!?」

 

 

 いきなり落とされ腹を立てた青葉は衣笠に食って掛かる。上等だ、と言わんばかりの剣幕で衣笠は青葉を睨みつけた。

 

 

「青葉は自分勝手すぎるよ!いつもいつも一人でどこかに行っちゃってさ!探すこっちの身にもなってよね!」

「別に私がどこで何しようと衣笠には関係ないでしょ!?それに、探してくれなんて頼んだ覚えもないから!」

「あ~!言っちゃうんだそんなこと!私が探しに行かなかったら出撃の時間に遅れてたって事が何度もあったくせに!」

「そ、それは今は関係ないっ!衣笠だって、私の新聞作り最初の頃から手伝ってるって周りに言ってるらしいよね!?手伝ってくれるようになったのはウケがよかった前々回の新聞以降なのにさっ!周りのウケがよくなったからって急に掌返さないでくれる!?」

「べ、別にそんな……て、手伝ってるっていうのは事実だし、ちょっと誇張しただけじゃん!」

 

 

 ギャアギャアと、内部の戦闘音に負けないくらい大きな声で罵倒しあう青葉と衣笠。

 彼女たちは気づかない。戦場は最終局面に突入し、妖精たちが最終兵器を持ち出したことに。彼女たちが罵倒しあうその場所は、その最終兵器の丁度射線上だということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叢雲たちを出迎えるべく港へ向かう青年と妖精たち。

 太陽の日差しと地面の照り返しが相まって外気温は高い。だが、その暑さを吹き飛ばすように潮風が強く吹き付けているためそこまで暑さは感じない。

 妖精たちは台風の日に外で遊ぶ子供のように大はしゃぎ。突風のような潮風に煽られるのを楽しんでいた。

 青年は帽子が風に飛ばされないよう手で押さえる。みゃあ、みゃあと遠くで聞こえるウミネコの鳴き声。潮風に吹かれ白波を立てる青い海。静かな海もいいが、少し荒れた海も悪くはない。青年は雑務で荒れた心が癒されるような感覚を味わっていた。

 

 ドンッ。何かが爆発する音が、青年の耳に届いた。

 

 音の聞こえたほうへと視線を向けた青年。ドン、ドドン、と何度も響き渡る砲撃音。視線の先には、正面海域で演習を行う艦隊の姿があった。

 正面海域で艦隊同士が演習を行うのは珍しいことではない。青年も例に漏れず、他の司令部から演習の誘いを受けたことがある。だが、相手方の艦娘たちが断固拒否の姿勢を崩さず演習は中止となった。理由は、青年の艦隊に深海棲艦がいるからだ。

 人間である提督たちからすれば青年の艦隊は『物珍しさ満点の曲芸軍団』なのだが、艦娘たちからすれば『違和感の塊』でしかない。青年の艦隊と演習を行うということはつまり、昼夜問わず殺し合っている宿敵にいきなり手を差し伸べられて「ルールに則(のっと)り正々堂々戦おう!」と言われるようなものなのだ。

 中には例外もいるが、今でもブイン基地の大半の艦娘たちは青年の艦隊に難色を示していた。

 

 

「……いいな」

 

 

 もし自分の艦隊が普通の艦隊だったなら、今頃自分もあそこで演習をしていたのかもしれない。青年は水平線の彼方で演習を行う艦隊に自分の『もしもの未来』を重ねていた。

 

 

「ダイジョウブ?」

「ゲンキダシテ」

 

 

 青年の暗い表情に気づいた妖精たちが、青年に心配の声をかける。内心が表情に出ていたいことに気づいた青年は慌てて表情を取り繕い、妖精たちに返事を返した。

 

 

「大丈夫大丈夫!ちょっと考え事していただけだから。あ、ほら!叢雲たちが帰ってきたよ!」

 

 

 青年が指差す先には一艦の艦娘を先頭に海を走る三艦の深海棲艦がいた。

 青年は視界に映る自分の艦隊に『もしもの未来』を重ねる。彼女たちとの奇天烈な出会いが無ければ、自分は艦娘の艦隊を持てていただろう。彼女たちとの奇天烈な出会いが無ければ、自分はもっと穏やかで平和な日々を送れていただろう。

 だが、時間は決して戻らない。たとえ彼女たちを引き入れた選択が間違いだったとしても、自分の意思で決定した以上、その選択を後悔してはいけない。

 

 

「結局、俺がしっかりすりゃいいだけの話か」

 

 

 帰ってくる叢雲たちに大きく手を振りながら、青年は決意を新たにした。

 

 

 そんな彼の決意を祝福するかのように、背後の司令部で大きな爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発後は以前と同じ流れだった。帰投した叢雲と共に司令部へ戻った青年は旧解体ドックの有様を見て呆然とし、旧解体ドック付近で黒コゲになっていた青葉と衣笠を発見した叢雲がすぐに相手司令部へ通報。

 すっ飛んできた青葉と衣笠の提督が土下座する勢いで謝罪し、損害を賠償すると約束した。

 

 

「……で、言い訳はそれで終わりか?」

「言い訳じゃありません!本当なんです!妖精たちが深海棲艦を攻撃したんですって!」

「今回ばかりは私のせいじゃありませんよ!確かに邪な気持ちはありましたけど、でもまだ何もしてなかったです!本当ですよ!?」

 

 

 青葉と衣笠は見たままを伝えるが、青葉は前科があるため信用に欠ける。衣笠も新聞作りを手伝っている公言していた事が仇となり、自身の提督から「青葉に毒された」と言われる始末。

 更に、おとなしく人懐っこい妖精たちが重火器を片手にドンパチをやらかすなどという前例はない。誰が聞いても、彼女たちの言葉を信じることはないだろう。

 

 

「ホント、ホントなんですって!妖精たちが単装砲でズババーって!」

「艦載機をブンブン乗り回してたんですよ!」

「そんな馬鹿な話があるか。さっさと仕事にもどれ」

 

 

 こうして、妖精たちの激闘は闇に葬られた。妖精は元々不死であるため実際に葬られた者は一人もいなかったのだが、彼らの失ったモノはとても大きい。

 

 

「コロサレル……ミンナコロサレル……」

「ニゲルンダァ……カテルワケガナイョ……」

「カテッコナイ……」

「ど、どうしたの皆?大丈夫?」

 

 

 自信を根こそぎ奪われた妖精たちはしばらくの間、仕事が手につかなかった。

 

 




次回・・・ちうにびょう

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