艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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しかたないんだ・・・。
俺は・・・もう艦これを続けられない・・・。
だったら、仲間でもある、友でもある読者に艦これごと・・・俺を消してもらう・・・。
それで満足するしかないじゃないか・・・。



着任三十三日目:孤軍奮闘 其の三

 

 深海棲艦の大波に飲まれ散り散りとなってしまったチリヌルヲとタ級。

 それぞれ近くにいたル級とタ級、ヌ級とヲ級はなんとなくペアを組み、リ級とチ級はそれぞれ単独で行動を開始する。

 だが、叢雲という楔を失った今、彼女たちを繋ぎとめるものは何もない。彼女たちは仲間と合流しようとはせず、各々別行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 散らばった仲間を探すつもりのないタ級はル級は、独断で青年のいる岩場を目指す。

 しばらく進行を続けていると、他の深海棲艦が二艦の周囲に勝手に集まり艦隊を成し始めた。既にル級とタ級の後ろには複数の深海棲艦が追従している。

 先頭を行くタ級とル級は背後の有象無象など気にも留めない。背後の深海棲艦は反抗しない。周囲の深海棲艦は例によって勝手に艦隊へと加わる。

 二艦はまさに「我を妨げるもの無しって感じだな」という勢いで大海原を進み続けた。

 

「レー?」

「!」

「!」

 

 ル級とタ級にもはっきりと意味の伝わる声。それはつまり、声の主が深海棲艦であることを示している。二艦は首だけで声の聞こえた背後へと振り向いた。

 声の主は駆逐艦や軽巡洋艦のような角ばった姿ではなかった。

 ル級、タ級と同じ人型。白い肌の上から黒いパーカーを身に付け、白い髪をフードで覆っている。腹部の辺りまで大きくはだけさせたパーカーの中からは豊満な胸部装甲と、それを覆う黒いビキニ。首元には白黒のチェック柄のマフラーが巻かれ、背中には白いリュックのようなものが着いている。

 のちに『戦艦レ級』と名付けられるその深海棲艦は、臀部から伸びる白色の尾をふらふらと揺らしながら、再び言葉を口にした。

 

「レー?」

 

 どこにいくの?一言目と全く同じ言葉をル級とタ級に向けて放つ。

 

「ルー」

「ター」

 

 あの人の処へ。まったく同じ言葉を、まったく同じタイミングで返す二艦。

 

「レー?」

 

 そーなのかー?レ級は意味深に聞こえる言葉を適当に受け止めた。

 もともと知能の高くない深海棲艦が言葉の裏に秘められた意味を悟るなど、どだい無理な話だった。

 進行を再開したことで再び場に沈黙が訪れる。人間社会なら気まずい空気が流れる場面だが、この場にいる彼女たちはその沈黙を気にも留めない。

 本能の赴くままに、自由気ままに、自分のしたいことを好きにやる。それが深海棲艦。

 今のル級たちを突き動かしているのは鉄の意志と鋼の強さを宿した高純度の最高級燃料だ。

 進む。進む。ひたすら前へと突き進む。後退はない。あるのは前進勝利のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、とある地点で開戦を告げる砲撃音が鳴り響いていた。

 

「リ!」

 

 リ級の主砲が火を噴いた。放たれた砲弾は一直線に飛び、直撃。轟音と共に爆煙が巻き起こった。

 

「……来ルナ」

 

 その敵は未だ自らの武装を展開せず、リ級に静止を呼びかける。リ級の砲撃を受けても傷一つつかないその船体は、彼女が上位の深海棲艦であることを示していた。

 白い長髪と白い肌。白のセーターワンピースを着用し、首回りから胸元を黒い鉄鋼で覆っている。

 特筆すべきは彼女の巨大な胸部装甲だ。背筋がぴんと伸びているためか、ただでさえ大きな胸部装甲がより一層激しく自己主張をしている。

 彼女こそ、後に『爆乳大要塞』もとい『港湾棲姫』と呼ばれる深海棲艦であった。

 肥大化した両腕をだらりと下げ、けだるそうな瞳をリ級に向ける港湾棲姫。

 彼女は好戦的な性格ではなかった。相手が艦娘ならしぶしぶ戦うが、今彼女が相手をしているのは自身と同じ深海棲艦。

 わざわざ同胞を手にかけるような真似はしたくなかった。

 

「リ!」

 

 だが、港湾棲姫が今相手にしているのは強ければたとえ同胞が相手でも容赦なく襲い掛かる狂犬だ。言葉でどうにかできる相手ではない。

 リ級の主砲が再度火を噴く。港湾棲姫は砲弾を回避した。敵の余裕を見せる行動に、リ級のボルテージが更に上がる。

 一発の砲撃で倒せないならば、千発の砲撃を浴びせるのみ。リ級の砲撃はさらに激しさを増していった。

 

「来ルナト……言ッテイル……ノニ」

 

 リ級の砲撃を避け続けていた港湾棲姫だったが、さすがに我慢の限界が来たようだ。

 海面を突き破って現れたのは巨大な深海棲艦。港湾棲姫の艦装である。巨大な深海棲艦は港湾棲姫の背後へとまわり、港湾棲姫は巨大な深海棲艦に優しく手を添えた。

 手始めに、港湾棲姫はリ級の足元を狙う。直撃を避けた砲撃だ。

 

「リ!」

 

 リ級は右へと動き爆発地点から遠ざかった。そのまますかさず全速前進。湾曲した航跡を描きながら、リ級は港湾棲姫の左側面へと向かう。

 港湾棲姫は緩い追撃を仕掛ける。リ級の向かう先に次々と砲弾を放ち、爆発の衝撃で水柱が立ち上った。

 リ級は押し寄せる荒波をかき分け、立ち上る水柱を突き抜け前へと進む。

 

「リ!」

 

 リ級は両腕を港湾棲姫に向け、主砲副砲を一斉射撃。無数の砲弾が港湾棲姫を襲う。

 港湾棲姫はその場に佇んだまま行動を起こさない。より正確に言うと、行動を起こす必要がないのだ。

 港湾棲姫は砲弾へ右手をかざした。すると、巨大な深海棲艦が港湾棲姫と砲弾との間に割って入った。砲弾は全て巨大な深海棲艦に直撃したが、赤黒い装甲に損傷は見られない。

 

「リ!」

 

 放つ、放つ、ぶっ放す。後先を考えずにひたすら連射。リ級は攻撃の手を緩めない。

 港湾棲姫はたちまち爆煙に包まれた。

 

「……モウ……止メロ」

 

 爆煙に映る港湾棲姫のシルエットがゆらりと動く。

 リ級はそれを見逃さなかった。すぐに来るであろう攻撃に備え身構える。

 

「ッ!」

 

 だが遅かった。リ級の間近で巨大な轟音が轟く。リ級の視界は大きく揺れ、瞬く間に天地がひっくり返った。

 海面を数回跳ねた後、なんとか体制を立て直すリ級。彼女の右腕は大きく損傷していた。港湾棲姫の砲撃が直撃したのだ。

 

「分カッタ……ダロウ」

 

 港湾棲姫はリ級に向けて言葉を投げかける。この戦いの無意味さを分かってもらうために。

 

「リ!」

 

 港湾棲姫の言葉を無視し、リ級は再び前に出た。リ級は両腕を前方に向け主砲を副砲を同時に放つ。

 リ級の砲撃を受けながら、港湾棲姫は静かに右手を前方にかざす。それを合図に、彼女の背後にいた巨大な深海棲艦が砲撃を開始した。

 リ級の砲撃はすべて命中しているが、その殆どがダメージにつながらない。港湾棲姫の砲撃はすべて外れているが、一撃でも当たれば大ダメージだ。

 港湾棲姫のダメージの蓄積が先か、リ級への直撃が先か。勝敗はいかに。

 

「……無駄ダ」

「ッ!?」

 

 撃ち合いに勝ったのは港湾棲姫だった。

 港湾棲姫の放った砲弾がリ級の腹部に直撃し、大爆発が起こる。数十メートル宙を舞った後、リ級は海上へと落ちた。

 船体に大きな損傷を受けたためか、仰向けで倒れるリ級の体は半分ほど海面より下に沈んでいた。

 港湾棲姫はゆっくりと歩き始め、やがてリ級の目の前までやってきた。

 

「……コレガ……最後ダ。モウ……止メロ」

 

 最終通告を告げる港湾棲姫。彼女の背後で巨大な深海棲艦が砲身をリ級に向ける。

 

「…………」

 

 リ級は言葉を発さない。しかし、その眼は明らかに戦意に燃えていた。それがリ級の答えだった。

 港湾棲姫は自らの右腕をリ級へと伸ばし、巨大な右手でリ級の頭を掴み持ち上げた。

 巨大な深海棲艦はリ級の胴体へと砲頭を向け、止めを刺そうとした。

 その時だ。

 

「ゼロ!ゼロ!」

「!」

 

 聞き覚えのある声が港湾棲姫の耳に届いた。

 声の聞こえた方へ視線を向ける港湾棲姫。視線の先には彼女の見知った姿があった。

 全長は人間の子供と同程度。髪は前髪の短い白い長髪。白のワンピースを着用し、手には白のミトンをつけていた。

 後に『北方棲姫』と呼ばれることになる深海棲艦はつぶらな瞳をキラキラと輝かせていた。

 

「…………?」

 

 港湾棲姫はそのまま視線を右へとずらす。

 北方棲姫の隣には他の深海棲艦が二艦程いた。どちらも空母型。よく見かける姿だが、放っている雰囲気がどこか異質だった。

 

「ヌゥ」

「ヲっ」

 

 北方棲姫の隣にいた深海棲艦。その正体はヌ級とヲ級だった。

 彼女たちの出会いは今から数十分前。叢雲率いる第一艦隊がバラバラとなってしまった後のことだった。

 偶然合流することができたヌとヲ級はしばらくその場に佇んでいた。

 叢雲に従うヌ級と、自発的に動こうとしないヲ級。どちらも自主性に欠けた性格のためか、お互いその場から動こうとしない。

 今の彼女たちは、デパートで母親とはぐれてしまった迷子だ。

 迷子のヌ級とヲ級はどっちへ行けばいいのかわからない。本物のデパートであれば、ヌ級たちに手を差し伸べてくれる親切なおばちゃんがいただろう。だが、現在彼女たちがいるのは海の上。おばちゃんが現れるはずもない。

 時たま近づいてくる深海棲艦は総じて知能が犬と同等もしくはそれ以下のため役に立たない。

 この時点で、ヌ級とヲ級が青年のいる場所へと到達するのは不可能だった。

 ヌ級は律儀に叢雲を待つ。調教、もとい厳しい訓練を受けたヌ級の忠誠心は本物だ。

 ヲ級は退屈気味だった。元々のんびりとした性格ではあるが、大所帯からいきなり孤立して内心少し不安だったりする。

 ヲ級はちらり、ちらりとヌ級に視線を向け、相手の出方を待つが、相変わらずヌ級に動きはない。

 手持ち無沙汰のヲ級は何となく艦載機を飛ばしてみた。

 青年救出に向けて叢雲に無理やり詰め込まれた『零式艦戦』を、自分の艦載機で追いかけるという鬼畜な遊びに興じるヲ級。この間、零式艦戦に乗っていた妖精は大粒の涙をこぼしていた。

 ひとしきり遊んだ後、ヌ級は艦載機を帽子の中へと帰還させた。周囲に着陸する場所がないため零式艦戦もしぶしぶヲ級の中へと戻っていた。中に乗っていた妖精は青い顔をしていた。

 

「ゼロ!ゼロダ!」

 

 そんなときだった。ヲ級は不意に左手を引っ張られた。

 ヲ級は自身の左側へと目を向けた。左側には誰もいない。だが、相変わらず左手は引っ張られたままだ。

 

「ゼロ!ヨコセ!」

 

 ヲ級は左を向いたまま視線を下へとずらした。

 ここで初めて、ヲ級たちは北方棲姫と出会った。

 

「ゼロ!オイテケ!」

 

 より強い力でヲ級の左手をぐいぐいと引っ張る北方棲姫。

 ヲ級は首をかしげた。深海棲艦同士のため言葉ははっきりと聞こえている。

 だが、北方棲姫の言う『ゼロ』が何を指しているのかが分からない。ただ何となく、北方棲姫が何かを欲しがっている。ヲ級はその事だけは理解できていた。

 もっとも、『ゼロ』という言葉で『零式艦戦』を連想するのはその筋に関係する者たちだけである。ごく普通の人間ですら理解に苦しむだろう。元々知能の低いヲ級ならばなおさらだ。

 ヲ級はとりあえず手に持っていた杖を差し出した。杖はすぐさま弾かれた。北方棲姫はさらに力を増した。

 

「ゼロ!来テ!ゼロ来テ!」

 

 北方棲姫はヲ級の手を引っ張っりながら移動を始めた。ヲ級はちらりと後ろを見る。ヌ級はいつの間にか直立不動の姿勢を崩してヲ級に目を向けていた。

 ヌ級の心は揺れていた。叢雲を待つべきか。それともヲ級を追いかけるべきか。

 叢雲によって徹底的に調教もとい教育されはしたが、ヌ級にも自分がどう動くべきか判断する能力がちゃんと備わっているのだ。

 徐々に遠のいていくヲ級の姿を見ておろおろと悩むヌ級。

 北方棲姫に手を引かれるヲ級は首だけで背後へと振り向いた。ヲ級の瞳にヌ級の姿が映る。

 戸惑っている様子のヌ級を見たヲ級は思った。

 

 ま、いいか。

 

 手を引かれるヲ級はそのまま北方棲姫についていくことにした。

 北方棲姫が先導するなら、自分はそれに従うのみ。ヲ級さんは断れない。

 一艦ぽつんと取り残されたヌ級。右を見て、左を見て、再びヲ級の背を見つめ。

 雷を落とす鬼(叢雲)がいないことを確認したヌ級は、手を繋ぐ二艦の後を追いかけた。なんだかんだで、ヌ級も不安だったのだ。

 そして現在、ヌ級とヲ級の目の前には今まさに止めを刺されそうになっているリ級の姿がある。

 

「ゼロ!ゼロ!」

 

 北方棲姫はヲ級の手をしきりに引っ張りゼロと叫ぶ。

 北方棲姫がヲ級をここまで連れてきた理由。それは、港湾棲姫にヲ級の『零式艦戦』を手に入れてもらうためだったのだ。

 零式艦戦はヲ級の頭上にある帽子の中に格納している。だが、北方棲姫の伸長ではヲ級の帽子に手が届かない。ならば、自分よりもっと背の高い者に代わりに取ってもらえばいい。

 北方棲姫の見知った顔の中でそれを実現できるのは港湾棲姫だけだったのだ。

 ヲ級を倒して手に入れるという手もあるのだが、北方棲姫はそれをしなかった。

 無意識のうちに戦闘を避けたのは、ひとえに零式艦戦に対する愛ゆえだろう。

 見た目は幼子だが、後に北方棲『姫』と名付けられる彼女の実力は深海棲艦の中での上位に位置する。

 零式艦戦欲しさにがっついて攻撃すれば、ヌ級とヲ級はあっという間に海の底へと沈んでいただろう。

 

「ゼロ!早ク!ゼロ!」

 

 北方棲姫はヲ級に「零式艦戦を早く出せ」と言う。

 対するヲ級は北方棲姫の言葉の意図を考えていた。

 「早く」と言っているのだから『何か』を急かしている事はわかる。問題はその『何か』がわからないことだった。

 

「早ク!早ク!」

 

 とりあえず、ヲ級を進行速度を速めてみた。だが、北方棲姫の「早く」コールは鳴りやまない。

 ヲ級は再度手に持っていた杖を差し出す。杖はすぐさま弾かれた。これでもない。北方棲姫は一体何を催促しているのか。謎は深まるばかりだった。

 ふと、ヲ級は死に体のリ級に目を向けた。その瞬間、ヲ級に電流走る。

 そういえば、以前に今と似たようなことがあった。満身創痍の叢雲に危機が迫っていたときだ。その時、自分は艦載機を飛ばして敵を攻撃していた。

 今も丁度敵(港湾棲姫)が止めを刺そうとしているし、状況が似ている。「早く」というのは、「早く敵(港湾棲姫)を攻撃しろ」ということなのではないか。

 ヲ級の中で線がつながった。つまり、あの敵(港湾棲姫)を早く攻撃しろと言っているのか。

 そうと分かれば話は早い。ヲ級は零式艦戦と自身の艦載機を発艦させた。

 

「ッ!」

 

 ヲ級の放った艦載機を見た港湾棲姫は、自分が標的になっていることを一瞬で悟った。

 

「……止メロ」

 

 港湾棲姫は左手を艦載機へとかざす。巨大な深海棲艦は、照準をリ級から艦載機へと移した。

 この時、港湾棲姫に大きな隙ができた。自身の勝利を確信し油断していたせいだろう。港湾棲姫は意識をリ級から艦載機へと向けてしまった。

 リ級は左腕で港湾棲姫の腕を思い切り払い、拘束から逃れた。そして着水すると同時に、港湾棲姫の腹部へ右腕の主砲の砲頭をねじ込んだ。

 

「リ!」

「ッ!!?」

 

 この距離なら防御はできないな!リ級の言葉を港湾棲姫ははっきりと耳にした。

 ゼロ距離からの連射が港湾棲姫を襲う。爆発の衝撃で体勢を崩した港湾棲姫は海面を滑るように後退した。

 

「ワァー!」

 

 一方、港湾棲姫の惨状など全く目に入っていない北方棲姫は、空を旋回する零式艦戦を見て目を輝かせていた。

 急降下を始めた零式艦戦を目で追う北方棲姫。青空の下をすさまじい速さで駆け抜ける零式艦戦の雄姿に、彼女は弾んだ歓声を上げた。

 

「ワァ~!」

 

 空の青一色だった北方棲姫の視界下方に海の青が飛び込んできた。零式艦戦が海面近くまで降下したためだ。

 他の艦載機から爆弾が投下された。先行する零式艦戦の後に続く爆弾。一体何が起こるのだろう。先の展開が気になる北方棲姫は固唾を飲んで見守った。

 そのまま徐々に海の青が北方棲姫の視界を侵食していく。そして、ちょうど北方棲姫の視界の下半分が海色(みいろ)に染まった時だった。

 北方棲姫の視界下方に赤黒い塊と白い塊が飛び込んできたのだ。

 北方棲姫は、その二つの塊が港湾棲姫と港湾棲姫の艦装である事にすぐ気が付いた。

 何故、そこに港湾棲姫がいるのだろう。自分は零式艦戦をずっと目で追いかけていただけなのに。

 数秒後、北方棲姫の疑問は解消される事になる。

 零式艦戦の機銃が唸りを上げた。高速で連射される鉛玉が、港湾棲姫の頭上へと降り注ぐ。

 

「グッ!?」

 

 体勢を立て直せていない港湾棲姫は零式艦戦の攻撃を受けてしまう。

 射撃を終えた零式艦戦が急上昇を始め、港湾棲姫から遠ざかった。そして、零式艦戦の後に続いていた無数の爆弾が無防備な港湾棲姫を襲う。

 巨大な爆発が再び巻き起こった。

 

「ワーッ!?」

 

 笑顔から一転、驚愕の表情へと変わる北方棲姫。

 零式艦戦の航空ショーを見ていたと思ったら、殺戮ショーを見ていたのだ。その驚きも当然のものといえる。

 

「……ヤッテクレタナ」

 

 爆煙の中から姿を現す港湾棲姫。腹部の損傷は激しいが、それ以外の部分については若干焦げ付いた程度。さすがは鬼型といったところか。

 だが、今の一撃が完全に港湾棲姫のスイッチを入れてしまった。自分の持つ最大の戦力を持って敵を撃滅すると決心させてしまった。

 港湾棲姫の体から赤黒いオーラが噴き出し、けだるそうに開かれていた瞳には鋭い眼光が宿っていた。

 

「リ!」

 

 最後の捨て身攻撃で大破状態となったリ級だったが、それでもなお攻撃をやめない。

 

「ヌゥ」

「ヲっ」

 

 ヲ級は再度艦載機を発艦させ、上空からの攻撃を図る。

 今まで傍観していたヌ級も、反射的に艦載機を発艦させた。

 このまま港湾棲姫を放置しておくと恐ろしい事態に発展する。そのことを、三艦は直感的に悟っていたのだ。

 リ級たちは港湾棲姫を何とか止めようと奮闘するが、本気を出した鬼型を止めることはできなかった。

 

「……行クゾ」

 

 港湾棲姫の背後で巨大な深海棲艦が雄たけびを上げた。

 

「ヤル!」

 

 いつの間にか港湾棲姫の隣へとやってきた北方棲姫は、ふんす!と鼻息を荒くしていた。

 港湾棲姫のオーラに引き寄せられたのか、彼女の周りにはいつの間にか複数の深海棲艦が群がっていた。

 

「……ヤレ」

 

 港湾棲姫は集まった深海棲艦たちに合図を送った。目の前の敵を撃滅せよと。

 そして、集まった深海棲艦たちは港湾棲姫の命令に従った。

 

「ウグッ!!?」

 

 突如として、港湾棲姫は強烈な衝撃に襲われた。

 港湾棲姫はその衝撃が砲弾の直撃であることをすぐに理解したが、その衝撃が何故背後から来たのかが理解できなかった。体勢を崩しながら、港湾棲姫は目だけで背後を見た。

 

「ッ!」

 

 港湾棲姫が見たのは、硝煙が立ち上る砲頭を自分へと向ける三艦の戦艦だった。

 

「オ前タチハ……」

 

 港湾棲姫の言葉は途中で途絶えた。言葉を言い切る前に、情け容赦ない無慈悲な砲撃が港湾棲姫を襲ったからだ。

 この砲撃は誤りでなければ、悪意でもない。港湾棲姫を背後から撃った三艦の戦艦に落ち度はない。

 彼女たちは、港湾棲姫の命令をちゃんと実行しただけに過ぎないのだ。

 

「ルー」

「ター」

「レー?」

 

 そう。彼女たちは命令通り、目の前の敵を撃滅しただけなのだから。

 




今更ですが、あけましておめでとうございます。
艦これ熱はめっきり冷めてしまいましたが、この小説は必ず完結させますので、どうか最後までお付き合いください。


次回・・・孤軍奮闘 其の四

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