艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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戦艦レシピで建造したら那珂ちゃんが出てきたので那珂ちゃんのファンやめます。

追記:一部おかしくなっていた文章を修正しました

追記2:少し修正しました。


着任四日目:ヲっ。

 

 少し前から問題を抱えていた青年に、更なる問題が圧し掛かった。

 新たな仲間、軽空母『ヌ級』が加わり、青年の部隊もそれなりの戦力が整ったのだが、それは同時に消費の増加も意味する。

 「こちら」の常識を理解していない「深海棲艦」。本能の赴くままに資材をむさぼる彼女たちは加減というものを知らなかった。

 資材の供給が再開されたにも関わらず一向に減り続ける資材の残量。他の部隊が安泰ムードを見せる中、青年の部隊だけは未だに予断を許されない状況が続いていた。

 

 そこで登場したのが叢雲大先生だ。

 

 深海棲艦の言葉をわずかではあるが理解できた叢雲は、青年の懇願をしぶしぶ聞き入れチ級とヌ級の教育係に任命された。

 資材には限りがある、沢山食べたらすぐに無くなる。叢雲は司令部の仕組みを噛み砕いて二艦に説明した。

 しかし、ここで新たな問題が発生。チ級はまだ言葉が通じる分、教える側としても楽だったのだが、ヌ級の言葉はチ級以上に分かりづらく意思の疎通は困難を極めた。

 途中で我慢の限界に達した叢雲がヌ級にローリングソバットをぶちかました回数は優に十を超える。

 だがしかし、それが功を奏したのかヌ級は積極的に叢雲の言うことを聞くようになった。ヌ級は叢雲の言葉を理解しようと積極的に行動し、間違いを起こせばすぐに間違いを正そうと機敏な動きを見せた。

 叢雲は内心「自分には教育者としての才能があったのか」と思っていたが、実際は命の危機を感じたヌ級が叢雲の機嫌を損なわないよう必死になっていただけだということを、本人は知る由もない。

 こうして、丸々二日間かけて行われた叢雲の新人教育は無事成功?という形で幕を閉じた。

 司令部を押しつぶそうとしていた大きな問題を解決できたことを手放しで喜んだ青年は、功労者である叢雲と共に司令室で小さな祝勝会を上げた。

 

 

 

 

 

 ところがどっこい、まだ終わりではありません。というより、ここからが本番といっても過言ではない。

 叢雲と祝勝会を上げた翌朝、青年の司令部に一通の書状が届けられた。相手先はブイン基地総司令部。一体何事だろう、と不思議に思いながらも青年は包みから書状を取り出して内容を確認した。書状に書かれていた内容は、要約すると以下のとおりだ。

 

『お前の司令部にいる深海棲艦について話がある。ちょっとブイン基地総司令部まで来い』

 

 青年の時間が止まった。

 お偉いさんからまさかの個人指名。しかも、今まで誰にも教えることなく隠していた青年の司令部内だけの極秘事項が、どういうわけか一番偉い人たちに知られていたのだ。

 青年の頬を冷や汗が流れ落ちる。本来深海棲艦と青年たち提督は敵対している関係だ。その敵を保護していたとなれば、青年にはそれ相応の罰が科せられることになるだろう。提督の権利剥奪?謹慎?禁固刑?もしくはそれ以上……。脳内に最悪の結末が再生される。青年は深い、とても深いため息をこぼした。

 

 

(全てを知られている以上、下手に嘘をついてごまかそうとするのは逆効果だろうなあ……どうしよう。……いや、もうどうしようもないか。もういいや、開き直ってしまおう。お偉いさんが相手?そんなの知るか。権利剥奪?そんなもん知るか!もうどうにでもなれってんだ!!)

 

 

 半ばやけくそになった青年は叢雲と、連れてくるように指示されたチ級、ヌ級の二艦をつれてブイン基地総司令部へと向かった。

 道中、他の提督たちからの奇怪な視線が青年たちに突き刺さる。

 

 

「何だよあれ……アイツ深海棲艦連れてるぞ!気持ち悪ぃ!」

「うわっ、マジだ!悪趣味だなぁ。叢雲ちゃんかわいそ~」

「相当な変人だよな。近寄らないようにしようぜ……」

「敵を保護だと?提督の恥さらしめ」

 

 

 指を差され、避けられ、気味悪がられながらも、青年たちはただ黙々と歩くのみ。そんな中、青年の後ろを歩いていた叢雲が青年にだけ聞こえるような小さな声で言葉を発した。

 

 

「好き放題言われてるわね、私達」

 

 

 青年は後ろをちらりと覗いた。そこにはいつもどおり、凛とした表情の叢雲が歩いている。そうか、よくよく考えればこうして会話出来るのもこれで最後なのか。青年も同じように小さな声で叢雲に答えた。

 

 

「そうだな……悪いな、最後までこんなんで」

「別にかまわないわ。アンタが幸薄そうなのは出会ったときから感じてたし」

「そんな俺の所に配属されたお前は俺以上に幸薄い奴だよな」

「まったくその通りだわ……認めたくないけど」

 

 

 それ以降、誰一人として言葉を発することは無かった。余所見もせず、回り道もせず、青年たちは一直線に総司令部へと続く道を進み続ける。

 そして、いよいよ終わりの時がきた。ブイン基地総司令部の正面ゲートへとたどり着いた青年たち。このゲートをくぐれば終わる。相棒である叢雲との出会い、本来ありえるはずの無い二艦の艦娘との出会い、そして、始まったばかりの青年の提督としての生活、全てが終わりを迎える。

 

 

「短い間だったけどさ……本当に感謝してるよ。ありがとう、叢雲」

「ま、感謝されといてあげるわ。………………私も……ありがと…………」

 

 

 青年たちはブイン基地総司令部のゲートをくぐった。

 

 

「つーわけで、そのままそいつらの面倒見たって」

(ええええええええええええええええええええええ!!?)

 

 

 この返答を一体誰が予想できただろうか。上層部は、引き続き青年に深海棲艦を預ける決定を下した。

 今回青年を呼び出した総司令部の真意は、ブイン基地内でうろうろしている深海棲艦が、青年の司令部へ入っていくところを目撃したという報告が事実かどうかを確認するためだったのだ。ちなみに、目撃されたのは叢雲のローリングソバットで蹴り出されたヌ級である。

 報告を求められた青年は、事のあらましを包み隠さず全て話した。上層部の提督たちは皆、にわかに信じ固い話だという顔をしていたが、青年に寄り添うチ級とヌ級がおとなしくしているのを見て、青年の話が事実であることを認識した。

 深海棲艦が人間になつくなど、今まで聞いたことがない。しかし、青年の司令部にいるチ級とヌ級はどういうわけか青年になついている。

 これは今までに類のない、非常に興味深い事例だと判断した上層部は深海棲艦の生態調査および観察も兼ねて、二艦の深海棲艦を今までどおり青年に任せることを決定したのだ。

 しかし、青年に報告怠慢やその他もろもろの罪状があるのも事実だ。よって総司令部は、罰として青年を半年間減給処分とし、さらに、通常の提督としての業務に加え、深海棲艦について分かった事を逐一報告する義務を言い渡した。想像を遥かに越えた破格の軽さの罰である。

 

 

「……なんつーか、拍子抜けだな」

「ええ……ついさっきまで思いつめてた自分が馬鹿らしいわ」

 

 

 夕日を背に、司令部へと帰宅する一人と三艦。

 総司令部入りする前のあの覚悟とは一体なんだったのか。あのシリアスな空気とは何だったのか。お互い今生の別れのつもりで言葉を交わしていたせいか、青年も叢雲もお互いの顔をまともに見れずにいた。

 真面目な台詞を言った後の、あのむずがゆい恥ずかしさといったらとても言葉では表現できない。

 

 

「チ……」

「ヌゥ」

 

 

 そんな一人と一艦の気持ちなど露知らず、後ろを歩く二艦は「オナカスイタ」と青年に晩飯を催促するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、港には提督である青年と旗艦である叢雲、深海棲艦のチ級とヌ級の姿があった。

 資材の供給が開始され、深海棲艦の二艦が加減を覚えた今こそ出撃の時。叢雲単機の出撃ではない。チ級とヌ級を部隊に加えた、青年提督率いる真の「第一艦隊」がついに出撃するのだ。

 

 叢雲大先生の教えその一、働かざるもの食うべからず。

 

 食べてばっかりいないで少しは働け、と教育を受けたチ級とヌ級は今日から本格的に叢雲の指揮の下で活動することになった。

 今回の出撃内容はごく単純なものだ。いや、出撃というより遠征と言ったほうがいいかもしれない。

 叢雲と深海棲艦たちの連携を確かめるために、今回第一艦隊は鎮守府海域の南西諸島沖まで資材の採掘に出ることにした。また、補給艦の存在が確認されていない鎮守府海域で生き残った深海棲艦がどのようにして消費した燃料や弾薬を補給しているのか、それを知ることも今回の遠征の目的の一つである。

 叢雲がチ級から聞いた話では、補給艦の利用を許されるのは『エリート深海棲艦』以上のみで、それ以外の深海棲艦は海面に浮かんでいるごくわずかな廃材や、岩場で取れる天然の資材を探すのだという。深海棲艦社会の上下関係もなかなか厳しいようだ。

 準備を整えた三艦は南西諸島沖へ向けて出撃した。深海棲艦のチ級とヌ級は旗艦である叢雲の後をしっかり追いかける。進行方向を変えたり一時停止してみたりと、叢雲はわざと途中で動きを変えるが、二艦はその動きにもちゃんと反応して方向転換したり停止したりする。とりあえず簡単な陣形は組めそうだ、と叢雲は思っていた以上の成果に満足した。

 そうこうしている内に目的地点である南西諸島沖へ到着した叢雲率いる第一部隊は、青年の指示通り資材の回収を始めた。

 叢雲はチ級型とヌ級型にここら一帯で資材を集めると指示を出す。チ級とヌ級はお互い顔を見合わせ、小さくうなずきあうとキョロキョロと周囲を見渡し始めた。

 最初に動いたのはチ級だ。それに続くようにヌ級、叢雲も移動を開始する。チ級はいつも自分がはしごしてる岩場のルートを通って資材を回収することにした。

 といっても、岩場から取れる天然の資材の量もたかが知れている。結局最初の岩場で回収できたのは少しの鋼材と、ヌ級のように海流で流れ着いた残骸から取れたわずかばかりの燃料だけだった。

 

 

(たったこれだけ……)

 

 

 取得できた資材の少なさを見て叢雲は思った。まさか、今までに破損した深海棲艦たちはこれほど少ない資材で自身の修復や補給を行っていたというのだろうか。それで自身の船体を万全の状態まで回復させるのだから、深海棲艦の自己修復能力はかなりのものだろう。

 深海棲艦の底力に僅かばかりの恐怖を覚えながら、叢雲はチ級とヌ級の後に続く。

 その後も資材集めは順調に進み、チ級が知りうる資材が取れる岩場は全て回った。資材もそこそこ集まったし今日はこの辺でやめておこうと叢雲が後ろにいる二艦に帰投の指示を出そうとした、その時だった。

 

 

「……?……この音、砲撃?」

 

 

 叢雲の耳が遠くで何かが爆発する音を捉えたのだ。

 それも一回だけではない。何発も何発も、不規則な爆発音がどこからか聞こえてくる。叢雲は慌てて周囲を見渡した。しかし、目に映る所に戦闘を行っている艦隊はいない。

 ここで叢雲にある疑問が浮かんだ。おかしい、今いる南西諸島沖ではこれほど大量の砲撃を行う戦闘はまず起こらない。鎮守府海域でも『鎮守府正面海域』と、今いる『南西諸島沖』は深海棲艦の数が圧倒的に少ない。

 今回の初出撃先として南西諸島沖を選んだのもそれが理由だ。では何故、そんな海域で大量の爆発音が聞こえるのだろうか。

 

 

「……まさか、ここって防衛線じゃなでしょうね!?」

 

 

 そう、確かに『南西諸島沖』では敵の数は少ない。しかし、『南西諸島沖』から数十キロ移動した先には激戦区である『南西諸島防衛線』がある。

 そこはどういうわけか深海棲艦の出現数が爆発的に多くなる海域であり、よく深海棲艦の艦隊と艦娘の艦隊が戦闘を行っているのだ。防衛線では重巡洋艦や戦艦の存在が確認されており、それゆえに戦闘も苛烈なものとなる。

 自分たちの移動距離、絶え間なく続く爆発音、南西諸島、全ての要素が叢雲の頭で一つとなり、答えを紡ぎ出した。チ級に先導されるがまま岩場をはしごした結果、叢雲たち第一艦隊はいつの間にか『南西諸島沖』から『南西諸島防衛線』まで移動していたのだ。

 なんという平凡なミス。自分がもっとしっかりしておくべきだったと、叢雲は自身を激しく責めた。

 

 

「私としたことがっ……迂闊だったわ!第一艦隊、急いで帰投するわよ!」

 

 

 叢雲は急いで後ろの二艦に帰投の指示をだした。

 重巡洋艦や戦艦クラスが相手では、今の戦力では逆立ちしたって勝てはしない。手に入れた資材を投げ捨ててでも逃げなければと、叢雲はチ級とヌ級にそれぞれ側面と後方を警戒するように指示し、叢雲自身は前面を警戒しながら青年のいる司令部を目指した。

 しかし、このとき叢雲は気づいていなかった。彼女のミスは、実は一つではなかったのだ。一つの事に集中しすぎると、どこか必ず抜けができる。周囲の警戒に集中するあまり、自分のすぐ近くで起きた異変に叢雲は気づかなかった。

 結果を言うと、叢雲たちは無事青年の司令部へと帰投できた。『偶然』叢雲たちの北方十キロ先で砲撃戦が始まり、その音が南西諸島防衛線に百メートル程進入した叢雲たちに届いたおかげで、叢雲たちはすぐに南西諸島防衛線を離脱することが出来たのだ。

 その後は特に戦闘もなく、無事司令部に帰投。第一艦隊の初任務は無事成功という形で幕を閉じた。初任務『は』。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 無言で目の前の光景を眺める青年と叢雲。

 そこには、初任務大成功のお祝いをする深海棲艦たちの姿がある。青年が用意した資材を一心不乱に食するその姿はどこか可愛らしい。

 

 

「……ング……チ……」

 

 

 装備の都合上両手が不自由なチ級は長い舌で鋼材を掴み口へと放り込む。がっつきすぎて鋼材の重さに耐え切れなくなった舌が地面に押しつぶされて、びっくりすることもしばしば。

 

 

「ムグムグ……ヌゥ」

 

 

 ヌ級は人と同じような両腕を持っているため、それを駆使して資材を口へと放り込む。ボーキサイトと燃料の食べ合わせが好きなようだ。

 

 

「ヲっ。モグモグ……」

 

 

 一番人型に近いヲ級。彼女もヌ級と同様に人と同じような両腕を持っているが、ヌ級に比べて手のサイズや口のサイズが小さいため食べるスピードは一番遅い。大きなボーキサイトを両手で持ち、小さな口で必死に食べている。

 さて、ここで問題です。今、深海棲艦たちが行っているお祝いパーティーの中で、一つおかしなところがあります。それはどこでしょうか?

 

 

「……俺の司令部で深海棲艦が宴会してる時点で、すでに何かおかしいような気がするんだけど」

「……現実から目を背けるのはやめましょう。……まあ、これも完全に私のミスなんだけど……」

 

 

 青年と叢雲は深海棲艦のとある一艦を凝視する。

 容姿は普通の少女。しかし、肌の色は真っ白(比喩にあらず)で、髪の色は薄い灰色、下は黒いズボンで上は体のラインがよく分かるぴっちりとした白いレオタート?という奇怪な服装、肩には灰色のマントを羽織り、手には黒いグローブをつけ、頭にはヌ級によく似た形の被り物を被っている。

 

 深海棲艦の一種『正規空母』、通称『ヲ級』。

 

 いつの間にか第一艦隊に合流した謎の深海棲艦。叢雲が気づかなかったもう一つのミスである。

 後ろを警戒していたのだから気づいていたはず。なのに何故報告しなかったのか、と叢雲はチ級とヌ級を問いただすが、深海棲艦のズレた常識がここで炸裂。

 どうやら深海棲艦の間では「知らないうちに仲間が増える」というのは常識らしい。叢雲は軽いめまいを覚えた。

 とりあえず、何故ついてきたのかヲ級に理由を聞きたいところだが、さすがに初対面の相手に「何でついてきた?」とは聞けないので、叢雲はチ級に話を聞いてくるように命令した。

 叢雲はチ級のたどたどしい報告を頭の中で整理する。話によると、このヲ級は少し前までは自分で艦隊を率いていたらしい。しかし、艦娘の艦隊と交戦して仲間を全て失ってしまった。

 何とか生き延びることが出来たが、共に戦った仲間はもう誰もいない。一人で途方にくれていると、少し離れているところにチ級とヌ級と何か(叢雲)がいるのが見えたため、急いで後を追いかけてついていった結果、こうして司令部までたどり着いたらしい。

 

 要約すると、ヲ級は「一人で寂しかったからついてきた」と言ってるのだ。

 

 これはマズい展開だ、と青年は苦しい表情を見せた。

 ただでさえ資材はギリギリの状態なのに、これ以上消費が増えたら資材が完全の底を尽きてしまう。ヲ級は正規空母だ。おそらく他の二艦よりも資材の消費は多いだろう。何とかお引取りしていただかなければ、と青年は知恵を働かせるが、そこへ「情」が妨害をかける。

 仲間を失って一人寂しい思いをしていた相手を追い返せと言うのか?と、青年の「情」が語りかける。しかし、そうやって情けをかけたせいで給与の半分と周りの信頼を失い、さらには余計な仕事まで増やされた。今回大事にならなかったのは運が良かっただけだ。次もそうだとは限らない。

 青年の「理性」が「情」を押さえつける。

 

 

「ちょっとアンタ!さっきから何ボーっと突っ立ってるのよ!アンタからも何とか言ってやりなさい!」

「お、おう……」

 

 

 青年はヲ級を追い返そうと心に決め、いつの間にかエキサイトした叢雲の隣へと並び立つ。すまない、心苦しいが仕方の無いことなんだ。青年は自分の意思をヲ級に伝えようと大きく息を吸い上げた。

 

 

「……ヲっ?」

 

 

 ヲ級はぺたん座りをしながら両手でボーキサイトを持ち、食べかすのついた小さな口をもぐもぐさせ、上目遣いで首をちょこんとかしげた。

 

 

「保護しよう」

 

 

 青年の口から出てきた言葉は、心に決めた意志とは正反対の言葉だった。先ほどまで「情」をがっちりと押さえ込んでいた「理性」が一瞬で手のひらを返したのだ。

 これまでに出会ったチ級、ヌ級はまだ深海棲艦らしい不気味な雰囲気が漂っていたため「コイツは深海棲艦なんだ」と自覚できた青年だったが、今青年の目に映っているヲ級の容姿はどこからどう見ても普通の少女にしか見えなかった。

 肌の色から彼女は人間ではないと判断できる。しかし、その可愛らしいしぐさは男心を一瞬で虜にする程の破壊力を持っていたのだ。

 

 

「ちょっ、アンタ何言ってるの!?」

「おーい!追加、ボーキサイト追加ー!ありったけ持ってきてー!」

「こ……この馬鹿提督!少しは学習しなさいよ!」

 

 

 この後、野郎共が総出でチ級のとき以上にヲ級を猫かわいがりしたのは言うまでもない。

 




次回・・・マスター叢雲

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