艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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うちの艦隊に瑞鳳さんがやってきました。そしてついに開発できた紫電改二。なるほど、瑞鳳さんを使えということですね。
というわけで麻耶様。いままでご苦労様でした。あなたの活躍は決して忘れません。

追記:2-4突破記念に、感想欄のコメントに返信しました。

追記2:少し修正しました。


着任五日目:マスター叢雲

 

 本日は晴天なり。

 

 絶好の出撃日和となった今日、叢雲率いる第一艦隊は二回目の出撃を行う。出撃という名の遠征ではなく、本来の意味での出撃だ。

 まず手始めに、敵の少ない『鎮守府正面海域』で腕試し。その後司令部で補給を行い、前回遠征を行った南西諸島沖へすぐに出撃する。いけそうならば製油所地帯沿岸に出没する深海棲艦を迎撃する任務も行う予定だ。

 敵との交戦を目的とした出撃は今回が初めてだが、最初から飛ばしすぎではないだろうか。青年は提案者である叢雲に心配の声をかけるが、叢雲はその言葉を一蹴。私がいれば問題ない、と断言した。

 初めて自分で艦隊を率いて交戦するためか、朝からかなり気合が入っていた叢雲。青年は一言「絶対に無茶はするな」と命令し、自身の持ち場である司令室へと戻っていった。

 陣形や作戦をまとめた資料を机に並べ、いつでも叢雲たちに指示を出せるように準備を整えた青年は、来(きた)るべき交戦に備えて気を落ち着かせるのだった。

 

 が、ここに来て予想外の事態が発生。

 

 前回ブイン基地総司令部から呼び出された際に、深海棲艦について分かった事を逐一報告するよう命令された青年は命令どおりヲ級が新たに艦隊へ加わったことを報告したのだが、その返答がタイミング悪くやってきたのだ。

 総司令部から「正規空母ヲ級を見てみたからつれて来い。今すぐに」という内容の書状が届いたため、急遽出撃を中止することにした青年だったが、それに反対する者がいた。

 

 

「ふざけないで!ここまで来て中止なんで出来るわけ無いじゃない!」

 

 

 それは叢雲だった。

 出撃まで後数分というところで中止の指示。元々好戦的な上に、第一艦隊初戦闘ということでやる気満々だった叢雲にとってその指示は死刑宣告に等しいものだった。

 提督である青年の指示を頑なに拒否し、無理やりにでも出撃しようとする叢雲。今の叢雲を説得するには時間がなさすぎる。自分の腕時計を見て書状に書かれた時間が迫っているのを確認した青年は、南西諸島沖より先へ進まないことを条件に仕方なく出撃の許可を出した。

 まあ、鎮守府海域ならば強敵もいないだろうし、それに今回はチ級型とヌ級型もいるから大丈夫だろう。青年はそう自分に言い聞かせ、司令部のどこかにいるであろうヲ級を探すことにした。

 しかし、青年の足はすぐに止まる。青年の前に『ある生物』が現れたからだ。

 

 

「……?何だあれ……?」

 

 

 寸胴な体系、体の大半が黒色で、お腹の部分が白く、顔には黄色いくちばしがあり、水かきのついた足で青年の前をぺたぺたと歩く生物は、南極に生息している『あの生物』に良く似ていた。

 

 

「何で『ペンギン』がうちの司令部にいるんだ?」

 

 

 そう、ペンギンだ。鳥類ペンギン目に属する、空を飛べない代わりに海を自由自在に泳ぎ回ることができるあのペンギンが、何故か青年の前から歩いてくるのだ。

 ペンギンはそのまま直進し、青年の足元を通り過ぎた。何故ペンギンがいるのか疑問に思う青年だったが、今はヲ級を見つけることが最優先。ペンギンの一匹くらい司令部をうろつかせても問題ないだろう、そう判断した青年は再びヲ級を探し始めた。

 

 しかし、このとき青年は知らなかった。

 

 そのペンギンが、提督たちの間で語り継がれている三大都市伝説の一つ、『不幸を呼ぶペンギン』だということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽の日差しが真上から照りつける中、青年は汗だくになりながら総司令部へと続く道を歩いていた。

 その横を、手を繋がれたヲ級がとてとてと歩く。叢雲曰く「まだこちらの常識を理解していないから下手に一人歩きさせたら大変なことになる」と警告されたため、青年はこうしてヲ級の手をつないでいるのだが、これが思った以上に大変だった。

 今は気温が一番高くなるお昼時。真上から照りつける太陽の日差しを浴び続けている青年の髪はべっとりと肌に張り付き、軍服の中に着ているシャツや下着などは、まるで土砂降りの雨に打たれたかのようにずぶ濡れ状態だ。

 もう本当に時間がない。ここで遅刻しては余計に肩身が狭くなる。青年はしきりに時計を気にしながら先を急ぐのだが、その行く手を阻む障害が青年の前に立ちはだかった。

 

 

「ヲっ」

 

 

 その障害とは、今青年の隣を歩くヲ級だった。

 途中で自分の興味のあるものを見つけたのか、ヲ級は頻繁に明後日の方向へ進もうとするのだ。深海棲艦の力は人間よりも遥かに強い。ヲ級がどこかへ行こうとするたびに青年は精一杯の力で何とか引きとめ、肩で息をしながら前へと進む。

 しかし、障害はそれだけではなかった。青年の進行を妨げようとするヲ級よりも更に厄介な障害。青年の周囲に群がる「彼ら」こそ、今の青年にとって最大の難関だった。

 

 

「何だおい、また増えたのか?大変だな。ったく、しょうがねえ。俺が一艦面倒見てやるよ。とりあえず、今後ろにつれているヲ級ちゃんでいいかな?」

「やあ、元気にしてたか兄弟。今度、君の司令部へ遊びに行っていいかな?手ぶらで訪問ってのもアレだし……そうだ、資材を持っていくよ。ボーキサイトとか」

「お義父さん、ヲッキュンを僕にください」

「また貴様か、いい加減にしろ。一体どうやったらこうなるんだ?マジでやり方教えてくださいお願いします」

 

 

 右を見ても提督、左を見ても提督、提督提督提督。青年にとって最大の難関とは、ブイン基地に着任した提督たちだった。

 清清しいほどの手のひら返し。三日前は「気持ち悪い」だの「関わらないようにしよう」だの「提督の恥さらし」だの好き放題言っていた連中が、今では自分から積極的に青年に話しかけてくるのだ。

 この豹変っぷり、話しかけられる側からすればホラー以外の何者でもないのだが、理由が分かっていればそれほど恐ろしくも無い。

 

 

「……ヲっ?」

 

 

 ちらりと青年が視線を向けると、ヲ級は小首を傾げた。おそらく、いや絶対にコイツが原因だ。自分もそうだったから間違いない、と青年は心の中で確信した。

 ヲ級に馴れ馴れしく話しかる者もいれば、カメラを片手にヲ級を撮影する者もいる。わらわらと周りをうろつかれて歩きづらいことこの上ない。さらに、一部の悪質な提督がボーキサイトを片手にヲ級を誘うため進行はさらに遅くなる。

 さらにさらに、提督たちがヲ級に首ったけなせいで、ほったらかし状態になっている秘書艦たちの機嫌がとんでもないことになっている。

 提督たちの欲望丸出しのねっとりとした視線と、自分の提督を取られて不機嫌になった秘書艦たちの突き刺さるような視線の二重攻撃を受け、青年の心は大破寸前だった。

 しかし、騒動の原因であるヲ級は周りの事など一切気にせず、ひたすらマイペースを貫き通す。一人と一艦に後続する邪な感情に支配された真昼の百鬼夜行。このカオスな行列は、青年が総司令部のゲートをくぐるまで解散することは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 出撃していた叢雲率いる第一艦隊でも騒ぎが起こっていた。

 

 

「チ……」

「ヌゥ」

 

 

 出撃前はやる気に満ち溢れていた叢雲。しかし、今ではそのやる気もすっかり萎え、目の前で屯する『三艦』をただ呆然と眺めていた。

 さかのぼること数分前、叢雲たち第一艦隊は南西諸島沖で敵艦隊と戦闘を行っていた。はたして、深海棲艦同士で戦闘は可能なのか?最初は少し不安だった叢雲だが、その心配は杞憂に終わった。チ級とヌ級は『駆逐艦イ級』を容赦なく攻撃。見事、敵艦隊を壊滅させた。

 二艦を見て「教育の成果がでている……!」と内心大喜びだった叢雲。叢雲の「働かざるもの食うべからず」という教えを「勝てなければ飯を食わせない」と誤解したチ級とヌ級が必死になって戦っていることを、彼女は一生知ることは無いだろう。

 第一艦隊はその後も交戦を繰り返し、順調に勝利を重ねていった。そして数時間後、燃料と弾薬の残量が少なくなってきたところで、一度司令部へ帰投することになった。

 

 

「ふう。それじゃ、一度司令部まで……ってあれ?」

 

 

 叢雲は後ろを振り返るが、そこにチ級とヌ級の姿がなかった。慌てて周囲を確認する叢雲。すると、チ級とヌ級が明後日の方向へ勝手に進撃しているのが見えた。

 一瞬あっけに取られる叢雲だったが、すぐに冷静さを取り戻し考えをめぐらせる。何故指示を無視したのか理由は分からないが、とりあえず二艦を引き止めなければ。二艦とも燃料と弾薬をだいぶ消費している。これ以上戦闘を続けるのは危険だ。叢雲は全速力で二艦の後を追いかけた。

 

 

「っ!……なるほど、そういうことね」

 

 

 チ級とヌ級の後を追う叢雲は、二艦が勝手に移動し始めた理由を把握した。

 前方を進む二艦のさらに先、距離にして約三百メートル先の地点に低速で移動する深海棲艦がいたのだ。前方にいる深海棲艦の周りには他の艦艇の姿が見えない。敵が一艦のみなら今の残量でも大丈夫だろうと判断した叢雲は追いついた二艦と並走して目の前に迫る深海棲艦との戦闘に備えた。

 徐々に接近する第一艦隊。敵との距離はすでに百メートルをきっている。そろそろ攻撃陣形を展開しよう、叢雲は失速して並走する二艦に指示を出した。

 

 

「陣形展開!単縦陣で一気に……ってちょっと!?どこ行くのよ!」

 

 

 しかし、チ級とヌ級の二艦はまたしても叢雲の指示を無視した。失速した叢雲のことなどお構いなしに、すでに前方五十メートル先にまで迫った敵に向かってチ級とヌ級は前進する。

 訳がわからない、一体何が起こっている。突然言うことを聞かなくなった二艦を呆然と眺める叢雲。いつもの彼女ならば、言うことを聞かない二艦に対して文句を言うところだが、今は自分の言うことを聞かない二艦に対する怒りよりも、二艦の態度が急に変わったことによる動揺の方が大きかった。叢雲は頭にいくつもの疑問符を浮かべながら、とりあえず先を行く二艦の後を追うのであった。

 

 そして現在、砲撃を開始するどころか敵の前方二メートル前まで接近したチ級とヌ級は、目の前にいる敵の深海棲艦と仲良くおしゃべりをしていた。

 叢雲はチ級とヌ級がやる気を出して自分の意思で敵を倒すために動いたのだと思っていたのだが、そうではない。

 ただ、普段この辺りで見かけない奴がいたから気になったという、どうでもいい理由で動いていたのだ。

 こんなの、自分の想像していた出撃と違う。一人たそがれる叢雲を他所に、二艦と敵深海棲艦は談笑を続けた。

 

 

「チ……」

「ヌゥ」

「リ!」

 

 

 青白い肌にストラップレス水着のような格好。ポニーテールのように頭から伸び、背中へと接続されたパイプ。そして、右手に装備された巨大な連装砲と左手に装備された21インチ酸素魚雷。彼女は提督たちからこう呼ばれている。

 

 深海棲艦の一種『重巡洋艦』、通称『リ級』。

 

 本来、今第一艦隊のいる『南西諸島沖』にはいないはずのリ級だが、何故このようなところを一艦でうろうろしていたのだろうか。途方にくれながらも、事情を飲み込もうとした叢雲は談笑する三艦の後ろで聞き耳を立てた。

 カタコトな言葉遣いを必死に頭で並び替え、つなげて、整理して、おおよその事情を把握した叢雲。だがしかし、それでも最初の出撃くらいは最後まできっちりやりたかったと、再び途方にくれるのであった。

 叢雲が三艦の話から見出したリ級の事情。それはリ級と『ある深海棲艦』の衝突が原因だった。

 リ級はある艦隊に所属していたのだが、そこには以前から気の合わない『艦艇』がいた。リ級もその『艦艇』もお互い火力で押し切る攻撃を得意としていたのだが、そのせいかたびたび小競り合いが起こっていた。

 戦い方が似ているために狙う相手も被ってくる。その『艦艇』は他の深海棲艦よりプライドが高いのか、自分の得物を横取りしてくリ級の事を良く思っていなかった。そして、それはリ級も同じだった。

 お互いに不満を声に出すことはない。ただ、誤射と偽って互いを攻撃しあうだけ。そんな関係が何日も続いたが、その関係はある日突然終わりを迎えた。

 

 その『艦艇』が、ついに面と向かってリ級に攻撃を仕掛けたのだ。

 

 リ級は迷うことなく反撃した。以前から邪魔だった相手を面と向かって叩きのめす。そうすることで自分が上だということを分からせてやる。リ級は意気揚々と戦闘に望んだ。

 だが、リ級は勝負に敗れた。轟沈寸前まで破壊されたリ級はヌ級と同じように海流の流れに乗ってこの南西諸島沖まで流された。その後、長い時間をかけて体を修復し、つい最近になってようやく動けるようになったのである。

 リ級は復讐に燃えていた。やられたらやり返す。倍返しだ。あの『艦艇』が今どこにいるのか見当はつかないが、絶対に見つけ出してだしてやる。リ級はあの『艦艇』を探し出すことを心に決めた。

 そこへ丁度やってきたのがチ級とヌ級だった。と、ここまでが叢雲が解読した事のあらましである。

 チ級とヌ級はお互い顔を見合わせ、そして頷きあった。そして、一度リ級に背を向けた二艦は後ろでたそがれていた叢雲の背後へと回り込むと、叢雲をリ級の目の前へ押し出した。

 突然の事態に対処できず、成されるがままリ級の前へと立たされた叢雲。どうすればいいのか分からず「え?え?」と言葉を発する叢雲の後ろから出てきたチ級は、右手の魚雷発射管を叢雲に向けた。

 

 

「チ……」

「ちょっ、ちょっと!危ないじゃ…………って、待ちなさい!アンタ勝手に何言ってるの!?」

 

 

 いきなり魚雷発射管を向けられ驚く叢雲だったが、チ級の言葉を聞いてさらに驚いた。チ級はリ級にただ一言、こう言ったのだ。

 

 「コイツ、イバショ、シッテル」と。

 

 もちろん、叢雲がそんな事を知るはずもない。だがしかし、叢雲の教育を受けたチ級とヌ級にとって、叢雲という駆逐艦の存在は『何でも出来て、何でも知ってる強い奴』と認識されてしまっているのだ。ちなみに、青年は『ご飯をくれる何か』と認識されている。

 自分の教育の成果が遺憾なく発揮されていることなど露知らず、叢雲はただ困惑することしか出来なかった。知らないなら正直に知らないと言えばいいのだが、元々プライドが高かった叢雲はここで「知らない」という言葉を口にできない。

 しかも、自分の部下とも言える存在が目の前で見ているのだ。なおさら「知らない」とは言えない。言えるわけがない。

 

 

「し、仕方ないわね。い、いいわ、わ、わた、私についてくれば……アンタのっ、さ、探している奴を見つけて、あ、あげるわっ」

 

 

 探す相手を知らない、探す方法も分からない。それでも叢雲はチ級の発言を肯定した。精一杯の強がりで何とか自分を支えながら、叢雲率いる第一艦隊は今度こそ司令部へ帰投するのだった。

 

 もう、後戻りは出来ない。

 




次回・・・因縁の対決。リ級型対ル級型

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