艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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べ、別に武蔵とか要らないし(震え声)


番外編:妖怪猫吊るし

 

 その日、ブイン基地に衝撃が走った。

 鉄底海峡へ向けて多数の深海棲艦が終結しているのを、鉄底海峡付近を巡視していた部隊が発見したのだ。これを受けて、各鎮守府は提督たちへ向けて警報を発令した。

 

 敵が脅威となりえる前に殲滅すべし

 

 警報は瞬く間に各鎮守府へと通達され、警報を聞いた提督たちはこぞって鉄底海峡へと向けて出撃していく。そして、それはブイン基地にいる青年の部隊も例外ではない。

 青年は珍しく気合が入っていた。資材はギリギリ、高速修復材もなく、変えの艦艇もいない。最初で最後のビッグチャンスと言っても過言ではないこの機会を逃すまいと、青年は寝る間も惜しんでありとあらゆる事態を想定した作戦を考えていた。

 青年に気合が入っているのには理由がある。それは、今回の作戦で敵を撃破したい際に手に入る報酬が目的だ。欲を言えば大量の資材が欲しい青年ではあったが、それと同等の価値がある魅力的な報酬が、海域を制圧するごとに総司令部から授与されることになっている。

 

 

「最新式の艦艇……何としても手に入れなければ……」

 

 

 そう、報酬とは艦艇である。

 しかもただの艦艇ではない。最近になって開発された最新式の艦艇だ。それを一海域制圧するごとにタダで一艦やるというのだから、総司令部がどれだけ必死なのかが良く分かる。

 そして、その餌にまんまと釣られた提督たち。一海域を制圧するなんて楽勝だ、と最初は自信に満ち溢れていた彼らだったが、後からになって総司令部が破格の報酬を用意した理由を心の底から理解した。

 運に運を重ねてようやく進行できる航行、夜戦による被害の増加、さらに最深部では深海棲艦の中でも最高クラスの装甲を誇る『鬼』艦艇、『姫』艦艇、『浮遊』要塞の存在も確認されている。

 既に幾多の提督たちがドロップアウトし、残っているのは強靭な艦隊を所持した古参の提督たちのみ。そんな中へ新米提督である青年が乗り込んで海域を制圧出来るのか疑問に思うところだが、今回の青年に抜かりはない。深海棲艦という切り札を利用し、万全の体制で挑めるように作戦を練っていた。

 

 

「ふう、今日はもう休もう。明日の出撃に備えて体力を回復させておかないと」

 

 

 ここ数日の間徹夜が多かった青年。やることはやった。後は万全の状態で挑むだけだ、と布団にもぐり込んだ青年は、明日の決戦に備えて体力を回復させるのであった。

 

 

 

 

 

 けたたましい目覚ましの音が部屋に鳴り響く。

 

 目覚ましの音で目を覚ました青年は布団から飛び起き、すぐさま身支度を整えて朝食を取ると、出撃準備万端の第一艦隊がいるであろう旧解体ドックへと向かった。気分が高揚しているせいか、青年の歩調はいつもより速い。強張った表情から今回の出撃に対する意気込みも感じられる。

 旧解体ドックの扉を開けた青年の目に飛び込んできたのは横一列に並んだ少女達の姿。第一艦隊を形成するヲ級、ル級、ヌ級、リ級、チ級、そして青年の相棒である叢雲。六艦共何もしゃべることなく、提督である青年が声を発するのをただじっと待っている。

 青年は大きく息を吸った。この一言を皮切りに、青年の全てをかけた最初で最後の戦いが始まるのだ。

 無表情のチ級、びしっと直立不動のヌ級、左右をキョロキョロと見渡すヲ級、不敵な笑みを浮かべるリ級、提督である青年をじっと見つけるル級。大戦を前にしても、深海棲艦たちはいつもの調子を崩さない。作戦に関しては既に叢雲が深海棲艦たちに説明しているのだが、それでもいつもの調子を崩さないのは自由奔放な彼女たちらしいといえばらしいのだが、やはり少しは緊張感を持ってもらいたいと思う青年。

 しかし、青年はそのことについてとやかく言うつもりは無かった。理性よりも本能で動く深海棲艦たちは少しくらい気が抜けているほうが丁度いいのだと、ここ数日で理解していたからだ。

 

 

「現時時刻、マルロクマルマルをもって第一艦隊は鉄底海峡へ向けて出撃する!」

 

 

 青年は大きな声で高らかに作戦決行を宣言した。

 宣言を聞いた六艦は元気な返事を返し、それぞれ港へ向けて歩き出す。真っ先に動いたのはル級だった。

 

 

「ルー」

「頼むぞ、お前がウチの主戦力なんだからな」

 

 

 いつものように青年に抱きつくル級に対して、青年は激励の言葉をかけた。

 みしみしと体から何かが軋む音が聞こえるが、これでル級が万全の状態で戦えるのならと笑顔を崩さずル急に抱きしめられる青年。数分後、満足したル級は青年を解放し一人で港へと向かっていった。

 鈍痛の走る背中をさすりながら、やれやれといった表情で青年は旧解体ドックを出る。すると、彼の視界の右側に何かがちらりと見えた。顔を向けると、そこには壁にもたれかかりながら腕組をする叢雲がいた。やれやれといった表情を浮かべている叢雲に苦笑いで答える青年は一息つき、目の前に向き直った叢雲に向かって言葉を発した。

 

 

「頼むぜ、相棒」

「ふん、私を誰だと思っているの?大船……いえ、戦艦に乗ったつもりでいなさい」

「そりゃ頼もしい限りだ」

 

 

 青年と叢雲は互いに拳を突き出し軽くぶつけ合った。

 余計な言葉をしゃべることなく、お互いに軽く笑いあう。やがて、どちらからともなく拳を下ろし互いに背を向けた一人と一艦は、それぞれの持ち場へと戻っていった。ふと、青年は後ろへ振り返る。見えるのは青年よりも頭二つほど小さい細身の少女の小さな背中。青年には、その後姿は堂々としているようで、どこか儚げに見えた。

 

 

「……沈むんじゃねえぞ」

 

 

 叢雲の後姿を眺めながら小さくつぶやいた青年は、自分の持ち場である司令室へと向かった。

 

 

「こんにちわ」

「えっ?」

 

 

 しかし、青年の足はすぐに止まる。突然聞き覚えのない声が青年の耳に届いたからだ。周囲を見渡し誰かいるのかと探してみると、開けっ放しになっている旧解体ドックの扉の先に一人の少女がいた。少女は手に持った猫をぶらぶらと揺らしながらニコニコ笑っている。

 青年は疑問に思った。あの少女はいつの間に旧解体ドックへと入ったのか?というより、自分の司令部に、あのような少女がいただろうか?強い違和感を感じた青年は張り付いたような笑顔を浮かべる少女に対してわずかに恐怖を感じていた。

 

 

「ごめんね?」

 

 

 少女が謝罪の言葉を口にした瞬間、青年の視界は暗転した。それと同時に体のほうも動かなくなり、聞こえていた音も徐々に遠くなっていく。突然の事態に動揺する青年は無我夢中で体を動かした。このままだと自分の体がおかしくなってしまうのでは、という恐怖に駆られて必死にもがく青年だが、既に手足は動かせずに触覚だけが残っている状態だ。視界も何とか元に戻そうと、大きく目を見開いてみたり何度も瞬きをしてみるが、それもまったく効果が見られない。

 これから全てを賭けた大戦が始まるというときに、訳の分からないまま目も見えず体も動かせなくなる。一体何だって言うんだ畜生め。理不尽な展開に心の中で批難を垂れ流しながら、完全に抵抗が出来なくなった青年は絶望に打ちひしがれていた。

 しかし、唯一残った体の触覚が、青年の頭にある可能性を生み出させた。背中にかかる圧力からして、重力は腹から背へと向かっている。つまり、地面に寝転がっている状態。そして、この全身を覆うやわらかさと暖かさと軽い圧迫感。もしや、と思い一度心を落ち着かせた青年は、今度はゆっくりと瞼を開いた。

 

 

「あー、やっぱ『夢』か」

 

 

 青年は上半身を起こし、薄暗い暗い自分の部屋を見渡した。

 目に映るのは、どれも見覚えのあるものばかり。苦しめられていた恐怖から開放された青年は心から安堵し、大きなため息をついた。ふと、枕元に置かれた時計を見ると、時計の指針がセットしておいたタイマーのすぐ近くまで迫っている。

 

 

「……起きよう」

 

 

 布団からのろりと這い出た青年は身支度を整え、食堂へと向かい朝食を取ることにした。

 朝食を取りつつ、さっきまで見ていた『夢』を思い出す青年は再びため息をつく。『夢』とはいえ、突然あんな状態に陥るのは勘弁願いたいと心底思う青年。まあ事前練習が出来たと思えばいいか、と気持ちを切り替えた青年は残っていた朝食を一気に胃へと流し込むと、第一艦隊がいる旧解体ドックへと向かった。

 旧解体ドックの扉を開けた青年の目に飛び込んできたのは横一列に並んだ少女達の姿。第一艦隊を形成するヲ級、ル級、ヌ級、リ級、チ級、そして青年の相棒である叢雲。六艦共何もしゃべることなく、提督である青年が声を発するのをただじっと待っている。

 無表情のチ級、びしっと直立不動のヌ級、左右をキョロキョロと見渡すヲ級、不敵な笑みを浮かべるリ級、提督である青年をじっと見つけるル級。ここも今日見た『夢』のとおりだな、と思わず笑いそうになるのを堪えた青年は並んだ六艦の前に立つと、戦いの幕開けを告げた。

 

 

「現時時刻、マルロクマルマルをもって第一艦隊は鉄底海峡へ向けて出撃する!」

 

 

 青年は大きな声で高らかに作戦決行を宣言した。

 宣言を聞いた六艦は元気な返事を返し、それぞれ港へ向けて歩き出す。『夢』と同じように、真っ先に動いたのはル級だった。

 

 

「ルー」

「頑張れよ、お前には期待してるんだからな」

 

 

 いつものように青年に抱きつくル級に対して、青年は『夢』と同じよう激励の言葉をかけた。

 そしてル級も青年が見た『夢』と同じように、青年へと抱きつき顔を胸板へとうずめた。こればっかりは何度やられても慣れないな、と心の中でつぶやく青年。『夢』の中で感じた痛みに匹敵する痛みを必死の思いで我慢する青年の額にはうっすらと汗が浮かび上がる。

 

 

(……そういえば、何で『夢』なのに痛かったんだ?)

 

 

 『夢』の中で感じた痛みに匹敵する痛みを、今自分は受けている?青年は今の状況を疑問に思った。

 アレが『夢』ならば、青年は痛みを感じることは無いはず。青年の本来の体は布団に包まっていて、本当にル級に抱きしめられていたわけではないのだから。ならば、何故青年は『夢』の中の出来事で痛みを感じたのだろうか。

 

 

「こんちにわ」

「っ!?」

 

 

 聞き覚えのある声が青年の耳に届いた。

 『夢』の中で聞いた声とまったく同じ声が、何故現実の世界で聞こえるのか?青年は得体の知れない悪寒に襲われていた。『夢』と同じように、謎の暗転に陥るかもしれないと思ったからだ。慌てて周囲を見渡し、『夢』の中で見た人影を探す青年。その人影はすぐに見つかった。振り向いたすぐ後ろ、青年の背後に。

 

 

「ごめんね?」

 

 

 その言葉と同時に、再び青年の視界は暗転した。『夢』とまったく同じ状況に陥りパニックになる青年。しかし、一度同じことを経験したからか、青年はすぐに冷静さを取り戻し『夢』の中の行動と同じ行動をとることにした。暴れるのをやめ、皮膚の感覚に全神経を集中させる。すると、『夢』と同様に全身を覆う暖かさを感じ取ることが出来た。そして、目を一度閉じてからゆっくりと開くと、視界に見知った天井が映し出された。

 何かがおかしい。ゆっくりと上半身を起こした青年は今の状況が普通ではないことを理解した。纏まらない思考が頭の中でぐるぐると渦巻く。何故、どうして、考えれば考えるほど、青年の思考は泥沼に陥っていく。ふと、背後に気配を感じた青年は背後へ視線を向けた。

 

 『夢』の中で『夢』を見る。それ自体はありえない話ではないが、見た夢の内容がどちらもほぼ同じというのはありえるのだろうか。そのどちらの『夢』でも痛みを感じるというのはありえるのだろうか。

 

 

「こんにちわ」

「っ!!」

 

 

 果たして、青年が見ている『夢』は本当に『夢』なのだろうか?

 

 

「一体……なんだってんだよ畜生」

 

 

 そこからは同じことの繰り返しだった。

 青年が自分の部屋で目を覚まし、朝食をとり、ドックへ向かい、出撃の号令を出す。時には朝食を取らずに直接ドックへ向かってみたりもした。しかし、到着する前に少女が現れ再び部屋へと戻される。起きると同時に部屋を出ても、あえて起きる時間を遅らせてみても、遠回りをしても、朝食を長引かせても、何をやっても進まない。

 

 鉄底海峡へ出撃できない。

 

 出口の見えない迷路をひたすらさまよい、時間がたてば再び入り口へと戻される。そのような無謀とも呼べる仕様を攻略するには、強靭な精神と何事にも屈しない強い心が必要となるだろう。幾度と無く繰り返し、すり抜け、欺き、『彼女』の眼をかいくぐったものだけが、栄光の地へとたどり着くことが出来るのだ。

 故に、青年は諦めない。繰り返される世界で必死にもがき続ける。ほんのわずかな希望を掴むために積み上げてきた物を無駄にしないために。栄光の地へ向かうために。未来を手にするために、徹底的に抗うことを青年は既に決意している。

 

 

「決意とは、己を明日へと導く道しるべ。俺の道に迷いは無い!」

 

 

 戦っている相手がどれほど強大なのかも知らずに、青年は戦い続ける。

 提督たちの間で語り継がれる三大都市伝説の一つ、『妖怪猫吊るし』。その存在は神出鬼没で、出会った者に同じ光景を何度も見せると言われている。一度目を付けられたら最後、出会った者の世界は彼女の気が済むまで繰り返されるそうだ。

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 

 果たして、青年はいつまで続くか分からない世界を脱出することが出来るのだろうか。

 

 青年の戦いは、まだまだこれからだ。

 

 




次回・・・着任十五日目:結成、第二艦隊!
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