Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
ハズされた者達の再会
4月の早朝。
桜の花が散り出した横須賀鎮守府から辞令を受けた3隻の駆逐艦が出港した。
行き先は・・・不明だった。
「司令官ったら、どこへ行くか教えてくれないんだもん。」
「それも、”潮岬を過ぎたら開封しろ”と言われて、”行き先はそこに書いてあるから”ってさ。 どうなってんのさぁ? アタイら、どこへ行かされるのかねぇ・・」
横須賀港を出港し、浦賀水道を通過し相模湾に入ったところだった。
「おお~、右舷に、富士山だぴょん!!」
「やっぱり、美しいよねぇ。」
標高3778メートルの霊峰・富士を右に見ながら3隻は一路南西を向いて走っていた。
南西に向かう3隻は・・・
睦月型駆逐艦の卯月、皐月と夕雲型駆逐艦の朝霜。
出港前に提督から「本日付で特別任務を与える」と言われ、「行き先は、この中の紙に書いてあるから。」と封筒を渡された。
しかも、武装はしているが、弾薬は・・・1発も積んでいない。
弾薬は全て降ろせ、と命令されていたのだった。
卯月と皐月の12サンチ主砲弾、61サンチ魚雷はおろか、対空機銃弾の、1発も、である。
朝霜も同様だった。主砲弾、魚雷、機銃弾の1発も積んでいない。
今の3隻は、それこそ、丸腰である。
「卯月ちゃん、もっと速度を上げて! 黒5だよ! なるべく早く行こ! う~、弾が無いってこんなに不安なんだね。」
「誰が、特殊任務だよ? 丸腰じゃ、怖いったらありゃしないわ!!」
ぶつくさ言いながらも、最短経路で走っていた。
3隻は速度をさらに上げて南西を目指した。
大島を左に、伊豆半島を右に見てまっすぐに進む3隻だった。
この季節は、海から陸を見ると、山が所々ピンク色になっているところがある。
ピンク色に見えているのは・・桜だ。
山に生える木もあれば、人が公園なんかに植えた木もあったが、海から見る桜はまた一味違った感じがした。
そして伊豆半島の下田沖を通過して、伊豆半島の先端、石廊崎沖にまで達した。
そこで針路を南西から西へと変針した。
相模湾から駿河湾に入ったことになった。
まだ右舷に富士山が見えていた。
次の目標は御前崎だ。
ここ駿河湾は、プレート境界によって海底が深く、陸地に近い割に深海が目の前という特異な地形にある。
港を出て5分も走れば、水深は100mを軽く超える。
「う~、海の色が濃いなぁ・・・」
「なんか、不気味だねぇ・・・」
朝霜と皐月が呟いていた。
濃い海の色に、白い航跡が一筋、彼女たちの後ろに続いていた。
卯月ひとりが、鼻唄を唄っていた。
「卯月ちゃん、楽しい?」
「楽しい、こともないぴょん・・ 何かしてないと、落ち着かないぴょん・・」
(そうだよね・・)
と思う皐月だった。
そうこうしているうちに、なんとか御前崎沖に達した。
そこからまた南西へと変針だ。
次の目標は、潮岬だ。
ここからは遠州灘だが、徐々に陸地から離れていく。
遠州灘に入ってしばらくして・・
「対空電探に感あり!」
電探妖精の報告で一瞬にして緊張感が高まる。
電探妖精からの報告が続く。
「反応からして・・・大型機と思われます!」
「対空警戒! っても、弾が無いんだったあああああ!!」
頭を抱える朝霜。
「どうするぴょん? 逃げるぴょん?」
「どこへ逃げるっちゅうねん! この海の上で!!」
「ジグザグ運動ぴょん!!」
「各艦最大戦速! 各個で回避運動に入って!!」
と皐月が叫んだ。
「見張妖精! 見える?」
「目標、視認!! ・・・あれ?」
「どうしたの?」
「目標は・・・ 大型水上機、友軍と認む!!」
そのうち艦隊の上空を、低空にて通過していく。
どうやら、二式大艇のようだった。
”ブジノコウカイ ヲ イノル” と発行信号が発せられた。
返信する間もなく、視認外へと飛び去って行ってしまった。
「・・・なんだったんだよ・・・」
と呟く皐月だった。
みながホッと溜息をついた。
各艦が回避運動から単縦陣形に戻った。
「あれって、浜松の航空隊ぴょん?」
「てことは、対潜哨戒機ってこと?」
「はぁああ、胆を冷やしたよ。 まったくぅ・・・」
3隻は、かなりの速度で走っているから、昼を過ぎて、潮岬が見えてきた。
潮岬の手前あたりから陸地にかなり近づいていた。
「那智の滝は見えるかな?」
「あ、アタイも見たい、それ!」
「でも、よくわかんないぴょん?」
「えぇ~、見えないかぁ。」
としょぼくれているウチに、
「右舷前方に潮岬灯台を視認。」
と朝霜。
「さあ。 指示書を開封しようよ?」
と言ったのは皐月だった。
「じゃあ、ちょっと早いけど、開けるね。・・・」
指示書を見た朝霜が・・・・
「・・・何これ・・・」
「なんだぴょん? 朝霜ちゃん?」
「えっと・・ あの・・・ 」
「どうなのさ?」
と皐月が声を掛けるが、朝霜の反応が・・・鈍い。
「あの、ね、 じゃぁ、指示書、読むね・・・」
朝霜が読み上げるが、なぜか、乗り気が今一みたいだった。
”潮岬通過後、北進し、紀伊水道を北上、明石海峡を通過し、家島群島沖で呉からの1隻と合流し、相生港に入港せよ。 それ以降は現地での指示に従うこと。”
「・・・だって。」
「「あいおいこう?」」
「「呉からの1隻??」」
・・・・
「相生港に行けばいいんだね?」
「そうみたい。」
「紀伊水道を北上って、大阪湾だよね。 明石海峡? 家島??」
「で、呉からの1隻って・・誰?」
「そこまで書いてないよ。」
「・・・」
「考えても仕方ない。 じゃあ、行くか。」
「そうだね。 進路変更、紀伊水道へ。」
「「了解(ぴょん)!」」
3隻は潮岬を通過後、進路を紀伊水道に向けた。
右舷に紀伊半島の陸地が見えている。
三段壁や白良浜が見えてきたが、寄り道することもなく、3隻は単縦陣で進む。
正面に淡路島が見えてきた。
左には四国だ。
淡路島の左に進むと鳴門海峡だ。
渦潮と鯛が有名だ。
同じく右には紀淡海峡だ。
指示は”明石海峡を通れ”という事なので、3隻は紀淡海峡を目指すことにした。
友ケ島の脇を抜けて、紀淡海峡を通過する。
通過したらそこは大阪湾だ。
「やあ、ここまで来たら、弾がなくてもだいじょうぶかな?」
皐月が皆を代表して口にした。
艦隊は、淡路島に添って、大阪湾のど真ん中を進む。
3隻の右に人工島が見えてきた。
関西空港島だ。
立派な人工島の24時間利用可能な海上空港だった。
そんな人工島を過ぎて行くと正面に六甲山を背後に持つ港町・神戸が見えてきた。
神戸にも空港島がある。
神戸空港だ。
ここ神戸港には、造船所がある。
昔からの造船所が。
太平洋戦争前には、民間でありながら、戦艦が建造されたこともあった。
3隻は神戸港の手前で左に舵を切った。
明石海峡を通過するためだ。
艦が西に向いた途端、電探に反応があった。
「! 水上電探に反応! 前方に障害物多数あり! ・・・あれ?」
「どうしたの??」
「小さい反応は、船のようですが・・ ! 前方海域全面に渡って障害物の反応あり!」
「全面に障害物? そんなん、見えないよ?」
「あ! あれぴょん!! あのでっかい橋ぴょん?」
「うわあ、でかい橋だ~」
そう。 明石海峡大橋。 全長4kmにもおよぶ、海上吊り橋だ。
電探上は、壁のように見えていた。
この海峡は狭いくせに通過する船が多いため、海上吊り橋が建設され、その橋の下を通る航路が設定されていた。
朝霜らは東から西へと向かう航路に入った。
海面からの高さは、最大で60m。
駆逐艦クラスの船では余裕の高さだ。
現在、艦隊速度は10ノット。
結構、潮の流れが速かった。
当然、西から東へと向かう船もある。
また、この海峡を横切る船もあるため、かなりの注意力を要するのだった。
「海峡横断のフェリーが右から艦隊の前を通過するよ! 各艦、注意して!!」
明石海峡を無事通過すると、そこは播磨灘だ。
正面に小さな島々が見えてきた。
家島群島だ。
群島と言うから、男鹿島、家島、西島などからなる群島だ。
この群島を左に見るように、やや右舵に切る。
そうやって、家島の沖にまで達した。
ここまで達して、停船した。
指示書にあった、呉からの1隻が来ていなかったから。なので到着を待つことにしたのだ。
「目標海域に到着ぴょん!」
「やぁ、やっと着いたね。」
「相手はまだ来てないみたいだね。」
「じゃぁ、ここらで待ちますか?」
「そうだね。」
3隻は家島沖に停泊した。
既に陽は西の空に無く、夕暮れになっていた。
到着してから1時間が経過したころ、西から1隻の駆逐艦らしき艦が近づいてきた。
「電探に感! 距離は・・近い! 島影からいきなり、現れました!!」
と、すぐに連絡がはいった。
そして、対象艦から通信が入った。
「こちら呉鎮守府より命を受けて当地に到着。 貴艦らは横須賀鎮守府の艦か?」
「おお! そうだ。 横須賀鎮守府所属艦、朝霜だ。」
「了解。 こちら呉鎮守府所属艦、弥生だ。」
「え? 弥生?」
「久しぶりだね! 皐月と卯月だよ!」
「あ・・ 久しぶり。」
4隻は挨拶もそこそこに、北へ針路をとり、港へと向かった。
既に日も暮れ、暗くなっていた。
探照灯であたりを照らしながら進む。
微速で進む4隻だったが、相生湾の入り口で1隻のタグボートが待っていた。
”ワレニツヅケ”と発光信号を発しながら、4隻の前へと進み出た。
タグボートを先頭に4隻が続く。
湾の入り口は狭く、幅はおよそ400m。
ただ、右舷の陸側には筏が浮いているようだった。
しばらく進むと、正面に工場らしき明かりが見えてきた。
工場の手前に桟橋が見えた。
”セツガンセヨ”とタグボートが発光信号を送ってきた。
4隻はとりあえず、工場手前の桟橋に接岸することにした。
「各艦、接岸用意。 接岸と同時に投錨。」
と朝霜が指示する。
そして、接岸、舫をして、上陸する。
上陸すると作業着の係員が待っていた。
港から少し離れた建物まで案内され、中に入っていく。
既にあたりは暗く、建物入口に看板は掛かっていたが、明かりがなかったため、文字を判別することはできなかった。
「こちらです。」
と案内されたのは、”食堂”と札の上がった部屋だった。
室内は明るく、人の気配がしていた。
「お連れしました。」
4人が入ると、軍服姿が一人、着物姿が一人、ショートヘアの少女が一人、の三人が座っていた。
4人の気配に気がついた軍服姿の男が立ち上がって、振り向いて4人を見た。
「遠路良く来たね。 3人は久しぶりだな。」
次に着物姿の女が声を掛けた。
「みんな、疲れたでしょ? ご飯にしましょ。」
その二人を見た、横須賀組の三人は・・・
「「「あ!!」」」
「し、しれーかん!! な、なんで、ここにいるの??」
「鳳翔さんも! な、なんで??」
「ははは。 そう驚くな。 詳しくは後で話してやるから、まずは夕飯にしよう。 こっちもお前さん達の到着を待っていたんだ。」
「あら? 弥生ちゃん、久しぶり。 元気だった?」
「うん。 元気。 鳳翔さん、久しぶり。」
横須賀組三人は、口を開けたまま、固まっていた。
その姿を確認した少女が、
「もう、三人ってば、固まっちゃってぇ。 あたしもお腹空いたんだから、ご飯にしようよぉ。」
「む、睦ちゃん?」
「た、確かに、お腹は減ってるぴょん・・・ でも・・・」
「さあ、ご飯にしよう。 俺と鳳翔の二人で作ったんだぞ。 さあ、座った座った。」
「はあ・・・」
納得しきれない4人は、怪訝そうな顔をしながらも、空腹には勝てず、秦と鳳翔の料理に箸を伸ばしていた。
食事後、4人は部屋に案内され、疲労からすぐに寝入ってしまった。
そんなこんなで相生警備部での初夜が更けていった。