Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~   作:鶉野千歳

1 / 38
再会
ハズされた者達の再会


4月の早朝。

桜の花が散り出した横須賀鎮守府から辞令を受けた3隻の駆逐艦が出港した。

行き先は・・・不明だった。

 

「司令官ったら、どこへ行くか教えてくれないんだもん。」

 

「それも、”潮岬を過ぎたら開封しろ”と言われて、”行き先はそこに書いてあるから”ってさ。 どうなってんのさぁ? アタイら、どこへ行かされるのかねぇ・・」

 

横須賀港を出港し、浦賀水道を通過し相模湾に入ったところだった。

 

「おお~、右舷に、富士山だぴょん!!」

 

「やっぱり、美しいよねぇ。」

 

標高3778メートルの霊峰・富士を右に見ながら3隻は一路南西を向いて走っていた。

南西に向かう3隻は・・・

睦月型駆逐艦の卯月、皐月と夕雲型駆逐艦の朝霜。

出港前に提督から「本日付で特別任務を与える」と言われ、「行き先は、この中の紙に書いてあるから。」と封筒を渡された。

しかも、武装はしているが、弾薬は・・・1発も積んでいない。

弾薬は全て降ろせ、と命令されていたのだった。

卯月と皐月の12サンチ主砲弾、61サンチ魚雷はおろか、対空機銃弾の、1発も、である。

朝霜も同様だった。主砲弾、魚雷、機銃弾の1発も積んでいない。

今の3隻は、それこそ、丸腰である。

 

「卯月ちゃん、もっと速度を上げて! 黒5だよ! なるべく早く行こ!  う~、弾が無いってこんなに不安なんだね。」

 

「誰が、特殊任務だよ? 丸腰じゃ、怖いったらありゃしないわ!!」

 

ぶつくさ言いながらも、最短経路で走っていた。

3隻は速度をさらに上げて南西を目指した。

大島を左に、伊豆半島を右に見てまっすぐに進む3隻だった。

この季節は、海から陸を見ると、山が所々ピンク色になっているところがある。

ピンク色に見えているのは・・桜だ。

山に生える木もあれば、人が公園なんかに植えた木もあったが、海から見る桜はまた一味違った感じがした。

そして伊豆半島の下田沖を通過して、伊豆半島の先端、石廊崎沖にまで達した。

そこで針路を南西から西へと変針した。

相模湾から駿河湾に入ったことになった。

まだ右舷に富士山が見えていた。

次の目標は御前崎だ。

ここ駿河湾は、プレート境界によって海底が深く、陸地に近い割に深海が目の前という特異な地形にある。

港を出て5分も走れば、水深は100mを軽く超える。

 

「う~、海の色が濃いなぁ・・・」

 

「なんか、不気味だねぇ・・・」

 

朝霜と皐月が呟いていた。

濃い海の色に、白い航跡が一筋、彼女たちの後ろに続いていた。

卯月ひとりが、鼻唄を唄っていた。

 

「卯月ちゃん、楽しい?」

 

「楽しい、こともないぴょん・・ 何かしてないと、落ち着かないぴょん・・」

 

(そうだよね・・)

 

と思う皐月だった。

そうこうしているうちに、なんとか御前崎沖に達した。

そこからまた南西へと変針だ。

次の目標は、潮岬だ。

ここからは遠州灘だが、徐々に陸地から離れていく。

遠州灘に入ってしばらくして・・

 

「対空電探に感あり!」

 

電探妖精の報告で一瞬にして緊張感が高まる。

電探妖精からの報告が続く。

 

「反応からして・・・大型機と思われます!」

 

「対空警戒! っても、弾が無いんだったあああああ!!」

 

頭を抱える朝霜。

 

「どうするぴょん? 逃げるぴょん?」

 

「どこへ逃げるっちゅうねん! この海の上で!!」

 

「ジグザグ運動ぴょん!!」

 

「各艦最大戦速! 各個で回避運動に入って!!」

 

と皐月が叫んだ。

 

「見張妖精! 見える?」

 

「目標、視認!! ・・・あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「目標は・・・ 大型水上機、友軍と認む!!」

 

そのうち艦隊の上空を、低空にて通過していく。

どうやら、二式大艇のようだった。

”ブジノコウカイ ヲ イノル” と発行信号が発せられた。

返信する間もなく、視認外へと飛び去って行ってしまった。

 

「・・・なんだったんだよ・・・」

 

と呟く皐月だった。

みながホッと溜息をついた。

各艦が回避運動から単縦陣形に戻った。

 

「あれって、浜松の航空隊ぴょん?」

 

「てことは、対潜哨戒機ってこと?」

 

「はぁああ、胆を冷やしたよ。 まったくぅ・・・」

 

3隻は、かなりの速度で走っているから、昼を過ぎて、潮岬が見えてきた。

潮岬の手前あたりから陸地にかなり近づいていた。

 

「那智の滝は見えるかな?」

 

「あ、アタイも見たい、それ!」

 

「でも、よくわかんないぴょん?」

 

「えぇ~、見えないかぁ。」

 

としょぼくれているウチに、

 

「右舷前方に潮岬灯台を視認。」

 

と朝霜。

 

「さあ。 指示書を開封しようよ?」

 

と言ったのは皐月だった。

 

「じゃあ、ちょっと早いけど、開けるね。・・・」

 

指示書を見た朝霜が・・・・

 

「・・・何これ・・・」

 

「なんだぴょん? 朝霜ちゃん?」

 

「えっと・・ あの・・・ 」

 

「どうなのさ?」

 

と皐月が声を掛けるが、朝霜の反応が・・・鈍い。

 

「あの、ね、  じゃぁ、指示書、読むね・・・」

 

朝霜が読み上げるが、なぜか、乗り気が今一みたいだった。

 

”潮岬通過後、北進し、紀伊水道を北上、明石海峡を通過し、家島群島沖で呉からの1隻と合流し、相生港に入港せよ。 それ以降は現地での指示に従うこと。”

 

「・・・だって。」

 

「「あいおいこう?」」

 

「「呉からの1隻??」」

 

・・・・

 

「相生港に行けばいいんだね?」

 

「そうみたい。」

 

「紀伊水道を北上って、大阪湾だよね。 明石海峡? 家島??」

 

「で、呉からの1隻って・・誰?」

 

「そこまで書いてないよ。」

 

「・・・」

 

「考えても仕方ない。 じゃあ、行くか。」

 

「そうだね。  進路変更、紀伊水道へ。」

 

「「了解(ぴょん)!」」

 

3隻は潮岬を通過後、進路を紀伊水道に向けた。

右舷に紀伊半島の陸地が見えている。

三段壁や白良浜が見えてきたが、寄り道することもなく、3隻は単縦陣で進む。

正面に淡路島が見えてきた。

左には四国だ。

淡路島の左に進むと鳴門海峡だ。

渦潮と鯛が有名だ。

同じく右には紀淡海峡だ。

指示は”明石海峡を通れ”という事なので、3隻は紀淡海峡を目指すことにした。

友ケ島の脇を抜けて、紀淡海峡を通過する。

通過したらそこは大阪湾だ。

 

「やあ、ここまで来たら、弾がなくてもだいじょうぶかな?」

 

皐月が皆を代表して口にした。

艦隊は、淡路島に添って、大阪湾のど真ん中を進む。

3隻の右に人工島が見えてきた。

関西空港島だ。

立派な人工島の24時間利用可能な海上空港だった。

そんな人工島を過ぎて行くと正面に六甲山を背後に持つ港町・神戸が見えてきた。

神戸にも空港島がある。

神戸空港だ。

ここ神戸港には、造船所がある。

昔からの造船所が。

太平洋戦争前には、民間でありながら、戦艦が建造されたこともあった。

3隻は神戸港の手前で左に舵を切った。

明石海峡を通過するためだ。

艦が西に向いた途端、電探に反応があった。

 

「! 水上電探に反応! 前方に障害物多数あり! ・・・あれ?」

 

「どうしたの??」

 

「小さい反応は、船のようですが・・ ! 前方海域全面に渡って障害物の反応あり!」

 

「全面に障害物? そんなん、見えないよ?」

 

「あ! あれぴょん!! あのでっかい橋ぴょん?」

 

「うわあ、でかい橋だ~」

 

そう。 明石海峡大橋。 全長4kmにもおよぶ、海上吊り橋だ。

電探上は、壁のように見えていた。

この海峡は狭いくせに通過する船が多いため、海上吊り橋が建設され、その橋の下を通る航路が設定されていた。

朝霜らは東から西へと向かう航路に入った。

海面からの高さは、最大で60m。

駆逐艦クラスの船では余裕の高さだ。

現在、艦隊速度は10ノット。

結構、潮の流れが速かった。

当然、西から東へと向かう船もある。

また、この海峡を横切る船もあるため、かなりの注意力を要するのだった。

 

「海峡横断のフェリーが右から艦隊の前を通過するよ! 各艦、注意して!!」

 

明石海峡を無事通過すると、そこは播磨灘だ。

正面に小さな島々が見えてきた。

家島群島だ。

群島と言うから、男鹿島、家島、西島などからなる群島だ。

この群島を左に見るように、やや右舵に切る。

そうやって、家島の沖にまで達した。

ここまで達して、停船した。

指示書にあった、呉からの1隻が来ていなかったから。なので到着を待つことにしたのだ。

 

「目標海域に到着ぴょん!」

 

「やぁ、やっと着いたね。」

 

「相手はまだ来てないみたいだね。」

 

「じゃぁ、ここらで待ちますか?」

 

「そうだね。」

 

3隻は家島沖に停泊した。

既に陽は西の空に無く、夕暮れになっていた。

到着してから1時間が経過したころ、西から1隻の駆逐艦らしき艦が近づいてきた。

 

「電探に感! 距離は・・近い! 島影からいきなり、現れました!!」

 

と、すぐに連絡がはいった。

そして、対象艦から通信が入った。

 

「こちら呉鎮守府より命を受けて当地に到着。 貴艦らは横須賀鎮守府の艦か?」

 

「おお! そうだ。 横須賀鎮守府所属艦、朝霜だ。」

 

「了解。 こちら呉鎮守府所属艦、弥生だ。」

 

「え? 弥生?」

 

「久しぶりだね! 皐月と卯月だよ!」

 

「あ・・ 久しぶり。」

 

4隻は挨拶もそこそこに、北へ針路をとり、港へと向かった。

既に日も暮れ、暗くなっていた。

探照灯であたりを照らしながら進む。

微速で進む4隻だったが、相生湾の入り口で1隻のタグボートが待っていた。

”ワレニツヅケ”と発光信号を発しながら、4隻の前へと進み出た。

タグボートを先頭に4隻が続く。

湾の入り口は狭く、幅はおよそ400m。

ただ、右舷の陸側には筏が浮いているようだった。

しばらく進むと、正面に工場らしき明かりが見えてきた。

工場の手前に桟橋が見えた。

”セツガンセヨ”とタグボートが発光信号を送ってきた。

4隻はとりあえず、工場手前の桟橋に接岸することにした。

 

「各艦、接岸用意。 接岸と同時に投錨。」

 

と朝霜が指示する。

そして、接岸、舫をして、上陸する。

上陸すると作業着の係員が待っていた。

港から少し離れた建物まで案内され、中に入っていく。

既にあたりは暗く、建物入口に看板は掛かっていたが、明かりがなかったため、文字を判別することはできなかった。

 

「こちらです。」

 

と案内されたのは、”食堂”と札の上がった部屋だった。

室内は明るく、人の気配がしていた。

 

「お連れしました。」

 

4人が入ると、軍服姿が一人、着物姿が一人、ショートヘアの少女が一人、の三人が座っていた。

4人の気配に気がついた軍服姿の男が立ち上がって、振り向いて4人を見た。

 

「遠路良く来たね。 3人は久しぶりだな。」

 

次に着物姿の女が声を掛けた。

 

「みんな、疲れたでしょ? ご飯にしましょ。」

 

その二人を見た、横須賀組の三人は・・・

 

「「「あ!!」」」

 

「し、しれーかん!! な、なんで、ここにいるの??」

 

「鳳翔さんも! な、なんで??」

 

「ははは。 そう驚くな。 詳しくは後で話してやるから、まずは夕飯にしよう。 こっちもお前さん達の到着を待っていたんだ。」

 

「あら? 弥生ちゃん、久しぶり。 元気だった?」

 

「うん。 元気。 鳳翔さん、久しぶり。」

 

横須賀組三人は、口を開けたまま、固まっていた。

その姿を確認した少女が、

 

「もう、三人ってば、固まっちゃってぇ。 あたしもお腹空いたんだから、ご飯にしようよぉ。」

 

「む、睦ちゃん?」

 

「た、確かに、お腹は減ってるぴょん・・・ でも・・・」

 

「さあ、ご飯にしよう。 俺と鳳翔の二人で作ったんだぞ。 さあ、座った座った。」

 

「はあ・・・」

 

納得しきれない4人は、怪訝そうな顔をしながらも、空腹には勝てず、秦と鳳翔の料理に箸を伸ばしていた。

食事後、4人は部屋に案内され、疲労からすぐに寝入ってしまった。

そんなこんなで相生警備部での初夜が更けていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。