Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
4月下旬になって、気温も上がり始めた頃。
良い天気となった日曜日。
今日は七人で潮干狩りに来ていた。
場所は、相生湾のすぐ東側にある海岸、新舞子海岸だ。
ここは小高い山がそのまま海に落ち込んでいる地形をしているが、海は遠浅なのだ。
山は、梅林になっており、3月には、梅の花が見ごろになると、観梅ができる。
ここの潮干狩りは、この地域では有名で、この日はたくさんの家族連れで賑わっていた。
「わあ、結構、広いんだ。」
「もう、潮が引いてる。 見て! 向こうまで砂浜だよ!」
既に浜に入って、貝を採っている人たちがたくさんいた。
「う-ちゃんも、いっぱい採るぴょん!」
「そら! みんな行け! いっぱい、採ってこい!」
と秦が号令を発した。
【わあああい】
と熊手とバケツを持って浜に入っていく5人。
もちろん、裸足だ。
それを後ろで見ている、秦と鳳翔。
「あらまぁ。 あまりはしゃぎすぎないでね?」
と言う鳳翔を尻目に五人は早速、しゃがみこんで砂をほじくり始めていた。
「あの格好で、良かったろ?」
「そうですね。 学校の体操着で十分です。」
みな、上衣は体操着を着て、下は、ハーフパンツだ。
今の時間は、潮が引いていて、まだまだ沖まで砂浜が見えている。
五人の内、一番沖に行ったのは、朝霜だった。
「掘れば掘るほど、出てくるじゃん!」
どうやらたくさん取れているようだ。
へへへっ、アタイが一番たくさんとってやるんだぁ、っと。
他の四人は、陸に近い場所で採っているが、こちらもたくさん採れているようだった。
鳳翔は袴をたくし上げて砂浜にいた。
バケツを持って、採った貝を集めていた。
「どう? 皐月ちゃん、弥生ちゃん?」
バケツ半分ほどまでに、貝が入っていた。
「まぁ、たくさん採れたわねぇ。」
「へへへっ、どう? 大きいでしょ。」
皐月の手には、手のひらサイズのアサリが握られていた。
「あら、大きいわねぇ。」
それも一つや二つではなかった。
秦もやってきて、
「おぉ。 デカいな。 それも、いくつもあるじゃないか! ここってこんなにおっきいヤツ、いたのか!」
と驚いていた。
近くで睦と卯月が一緒になって砂浜を見ていた。
「何やってんだ? たくさん、採れたか?」
と秦が声を掛けた。
「あ、父さん。」
と睦が顔を上げて・・
「ねぇ、この穴ポコは、なにぴょん?」
「穴ポコ?」
そう言って秦も砂浜を見た。
そこには5ミリほどの穴がいくつも開いていた。
三人が顔を寄せて下を見ていたので、不思議がった鳳翔らがやってきた。
「何をしているんですか?」
「なになに?」
鳳翔らに向かって、睦が返答をした。
「お母さん、この辺にたくさんの穴があるんだよ。」
「穴? あなた、なんなんですか?」
「ああ。 たぶん、マテ貝だな。」
「「マテガイ?」」
「うん。 確か、塩が・・・・ あった、あった。」
とポケットから塩の袋を取り出した。
その塩を一掴みして、穴に落としていく。
「何が起こるの?」
「まぁ、見てなって。」
何やら顔がニヤついているような・・・
すると!
穴から、ピュッと何かが飛び出してきた!
わぁ!
と言って、睦と卯月が尻餅をついた。
きゃ!
と言って、鳳翔が秦に抱き着いた。
「はははっ、驚いたかい? マテ貝は、塩を入れると、飛び出してくるんだ。」
高笑いしている秦に、鳳翔が怒る。
「もう! そう言うのは、前もって言ってください!!」
「こういうのは、言わないから面白いんじゃない。 ははは。」
「父さん!! あたしと卯月ちゃん、お尻が濡れちゃったじゃない! もう! 一人で笑ってるし!」
「父さん、酷いぴょん!」
「わるいわるい。 でも、はははは。」
笑いが止まらない秦だ。
そこへ、「何笑ってんのさ?」と朝霜がやってきた。
遠くから見ていたが、何やら楽しそうに笑っていたからだ。
「楽しいことでもあったのかい?」
と言ってまっすぐ近づいてきた。
すると、秦たちの手前、目の前で朝霜が、消えた!
!!!
「もう! なんじゃこれ!」
よく見ると後ろに手をついてしゃがんでいる朝霜がいた。
「どうしたんだ!」
「急に沈んだ! 砂が急に沈んだ!」と。
気が付くと、踝辺りまで水位が上がってきていた。
砂が海水を含んで、滑ったのだろう。
「あ-あ、ずぶ濡れだよ~。」
と半泣き状態。
「あ!!」
と驚くような大声を上げた。
「! どうした!!」
「バケツ・・・・ ああぁあ・・・」
足を取られた際に、貝がいっぱい入ったバケツをひっくり返していた。
慌ててひろうが、半分以上がこぼれてしまった。
「せっかく採ったのに・・・」
慌てて拾おうとするが、潮が満ち始めてきて、貝が見つけにくくなってきていた。
「かなり満ちてきたぞ。 これで終わりだ。 さぁ、急いで陸に上がるぞ。」
【はあい!】
みんな一斉に陸に向かって歩き始めた。
バケツには、それぞれ半分くらいまで貝が入っていた。
陸に上がって、茶屋で休憩することに。
そこで、朝霜、睦、卯月の着替えをすることになった。
「はい。 着替え用の服よ。」
と鳳翔に着替えを渡された。
三人は着替え室で濡れた服を脱いで、乾いた服に着替えてきた。 といってもTシャツと短パン姿だ。
「まぁ、今日は天気もいいから、その恰好でも、大丈夫だろ。」
既にお昼時を過ぎていた。
茶屋と言っても、夏ならば、海の家に変身するらしいが・・・。
お昼を過ぎているので、人もまばらだった。
茶屋は、メニューもしっかりある。 あるが・・・
秦たちは、鳳翔のお弁当である。
鳳翔の手料理に勝るものは無い、と思っている。
「今日は、混ぜ込みおにぎりよ。」
と言って重箱を開ける。
【おおおぉぉぉ!】
色とりどりだ。
ピンク、赤、茶色、アイボリー・・・。
混ぜ込みの具材は、ピンクは鮭、赤は梅ぼし、黒は昆布とヒジキ、茶色は鶏そぼろ、アイボリーは筍だ。
おかずは、鶏のから揚げだが、いわゆる、チューリップと、レンコンのはさみ揚げだ。
【いっただっきまぁぁっす!!】
みな一斉に手を伸ばす。
鮭は、全体にほぐし身が混ぜてあって、しかも大ぶりの身が中に仕込んであった。
梅干しは、叩いた梅肉が混ぜられてあって、種のある梅干しが仕込んであった。
昆布は佃煮で、醤油の風味がいい感じだ。
ヒジキは、ヒジキと大豆の炊いたやつが入っていた。
鶏そぼろは、ちょっと甘辛く煮てあったが、そぼろはふわりとしていた。
筍は、一口大の筍の、タケノコご飯のおにぎりだった。
「うん、梅干し、すっぱさがいい!」
「鶏そぼろも、美味しいよ!」
「うわぁ、筍いっぱいで、崩れそう。 でも、美味しい!」
「ん? この鮭、混ぜ込んでいるのは、そんなに塩気は感じないけど、中の身は、塩鮭だね? 2つの鮭が味わえるのか。」
「昆布の佃煮もいいな。 醤油の風味が効いてる!」
「このレンコンのはさみ揚げ、味が付いてるよ!」
「はい。 ミンチ肉にケッチャップを混ぜてます。 なので、ソース要らずですよ。」
そうして、料理は全て、七人のお腹の中へと消えて行った。
今日も、器には残り物無し! きれいさっぱり、食べたのだった。
そして・・・
「さぁ、ゆっくりもしたし、帰るとするか。」
「はぁぁいい!」
「帰ったら、アサリの処理をしないとな。」
「処理?」
そう聞くのは弥生だった。
「ええ。 まずは、貝を塩水につけて、砂抜きをしないと。」
落としてしまったとは言え、七人分で、バケツ3杯にいっぱいだ。
持ち上げようとするが、
「うっ、結構、重いぞ、これ。」
「そうだよね、七人分だもんね。」
どうにか警備部まで持って帰って来た。
さて、と。
鳳翔と秦が大きなタライを持ってきて、塩水を張った。
「これくらいのデカさがないとダメだろう。」
そこへ貝をぶちまけた。 ザザザ-っと。
「これでいいの?」
と睦が聞く。
「ああ。 このまま明日まで放置だ。」
「「ふぅ--ん」」
「じゃぁ、今日は食べられないんだね?」
「そうだね。 明日以降だな。 このまま料理は出来るけど、砂が入ってるから、ジャリジャリするぞ? そんなの嫌だろ?」
「そりゃ・・そうさね。」
「いくらなんでも、鳳翔でも、砂には苦労するから、ここで砂抜きをさせるんだよ。」
暫く見てると、貝が開き、足が出てきた。
「あ、動いた!」
「あれ? 少しずつだけど、砂が・・・」
へぇ~っと見ていたが、貝の動きは、早くないので、朝にまた覗くことにした。
次の日。
睦がタライを覗くと・・・
底一面に砂があった。
「すごぉい。 こんなにあったんだ。」
そこへ鳳翔がやってきた。
「あ、お母さん! こんなに砂が!」
「あら、また、沢山出たわね。」
「また?」
「ええ。 昨日の夜に一度、水を代えたのよ。」
「え? そうなの? それで、これ?」と驚いて見ていた。
「これだと、もう一回、水を代えましょうかね。 睦ちゃん、手伝ってくれる?」
「うん!」
結局その後に2回も水を代えた。
それで、ようやく、砂がなくなったのだった。
◇
砂を吐かなくなってから、ようやく料理の開始だ。
「さて、どうしましょうか・・・ 」
と大量のアサリを前に考えていた。
「この大きいのは、貝焼きにしましょうか。 で、比較的大きめのは、酒蒸しかしら。 あとは、お味噌汁の具材と、しぐれ煮ね。」
貝焼き用と酒蒸し用を別の器に取り分けてっと。
お味噌汁用の貝を除けて、残りを、お酒で茹でる。
貝が開くまで煮ていく。
全体が開いたら火を止め、貝殻から身を外していく。
この時の茹で汁はとっておく。
身を外す、これが、結構手間なのだ。
簡単に外れてくれても、なにせ、数が!
剥き終わったらようやく、調理開始だ。
むき身を鍋に入れて、醤油、みりん、砂糖、生姜の千切りを入れて、茹で汁を少し足す。そして火にかけ、煮立たせていく。
「調味料は・・・こんなものかしら。」
なんせ、貝の量が多いだけに、調味料の量も多かった。
煮立ったら、火を弱め、沸騰しない程度に、グツグツと煮る。
途中、何度もかき混ぜる。
焦げ付かないように。
かき混ぜると、醤油の色が全体に絡んでいく。
2,30分煮て、水分が無くなって来れば、完成だ。
貝は、濃い飴色になっていた。
好みで山椒を入れるのもアリだ。
このままご飯に載せても食べられるが、多いときは、冷蔵しておくと日持ちもする。
お味噌汁も、残った茹で汁を使うと、味に深みが出て、美味しくなる。
貝焼きと酒蒸しは、食べる直前で調理することにして、大量のアサリの調理を終えた鳳翔だった。
「どう? 終わったかい?」
「えぇ。 バッチリです。 美味しくできあがりましたよ。」
「そりゃ、よかった。 ご飯が楽しみだよ。」
フフフと笑う鳳翔に、ハハハと笑う秦だった。