Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
急に慌ただしくなる二人・・・
その連絡は突然やってきた。
横須賀の秋吉から、今日、そちらに行く、と・・・。
なんなのか、訝しながら連絡を受けた秦だったが・・
「なんなんでしょうね? 急に、来る、だなんて。」
鳳翔も怪訝に思っていた。
「さぁ・・ 俺にも分からん。 ま、あるとすれば・・・」
一応、思い当たることはあるんだが・・・
「改修の進み具合ぐらいなんだが。」
「・・そうですよね・・」
そんな事を考えているうちに、時刻は1100になった。
空からプロペラ機の音が、徐々に大きくなってくるのが聞こえた。
どうやら、秋吉が空からやってきたようだ。
だが、この湾、および近郊には、飛行場はない。
どうするんだろうか・・・
そんな事を思っていたら、湾の南側から低空飛行で1機の飛行艇がやってきた。
その音を聞いて、秦と鳳翔は桟橋まで来ていた。
どうやら着水するようだ。
湾の中ほどから着水して、水上を滑走してきた。
桟橋近くで、エンジンを止め、惰性で桟橋まできた。
舫で固定されると、中から人が、降りてきた。
秋吉だった。
後ろからもう一人。
白の弓道着で、赤のスカートを穿いている。
どうやら、秘書艦の赤城の様だ。
「よお!」
と言って右手を上げていた。
秦が敬礼で返す。
「これは、提督。 ようこそ、相生警備部へ。 お久しぶりです。」
「ああ、久しいな。 元気だったか?」
「ええ。 皆、元気ですよ。」
「そうか。 それならいいことだ。」
挨拶もそこそこに、執務室までやってきた四人。
「粗茶ですが、どうぞ」
と、鳳翔がお茶を煎れてきた。
「鳳翔も久しいな。 元気だったか。」
「はい。 ありがとうございます。 秋吉提督も、赤城ちゃんもお元気そうで、何よりです。」
ガハハハと秋吉が笑っていた。
「で、今日は、なんの用でしょうか?」
「そんなに、急がなくてもいいぞ?」
「急ぎますよ?」
「そうかぁ? ま、ホントの目的は、改修の進捗状況の確認、なんだが・・ 実は、お前さんに次の仕事を持って来た。」
「次の仕事?」
「あぁ。 今の仕事が終わり次第、呉に行ってもらう、予定だった。 もちろん、今の艦隊を率いてな。」
「「だった?」」
秦と鳳翔が見合わせて首を傾げる。
「ああ。 だった、だ。」
「どういう事ですか?」
「お前さんの艦隊の改修工事が完了するまでに、日米で連合して、敵本拠地を直接、攻撃・殲滅することになったんだ。」
【!】
なんと!
「敵本拠地に対して、ですか! 直接攻撃と?」
「そうだ。」
秦も、鳳翔も、驚いていた。
「いつの間に・・・」
「話せば長くなるが、細かくはこの作戦指令書を見てくれ。」
赤城が、1冊のかなり分厚い書類を出した。
「こちらです。」
と。
秦が手に取って、捲っていく。
「横須賀、呉、佐世保、大湊、舞鶴の各鎮守府の、これは・・ほぼ全艦を投入し、また、米国も太平洋地区所属艦隊の全艦を投入する・・・」
なんと! 日米の全艦を投入するという作戦だった。
「作戦参加艦艇数、200隻以上、航空機は、艦載機だけでも2000機以上とは・・・」
「そうだ。 我が国から120隻余り、米国から100隻余りだからな。 すでに足の遅い潜水艦は、作戦行動に入っている。」
「なお、大西洋でも同時に作戦が行われます。」
と赤城。
「我が軍としては、戦艦10隻。大和、武蔵、長門、陸奥、伊勢、日向、金剛、比叡、榛名、霧島だ。 空母は、赤城、加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴、大鳳、葛城、雲竜、天城、信濃の大型空母11隻、飛鷹、隼鷹、千歳、千代田、龍驤、大鷹、瑞鳳、祥鳳、龍鳳、雲鷹、冲鷹の中型11隻。 神鷹、海鷹は鳳翔と同じく、本土防衛組として参加し、巡洋艦は全艦、駆逐艦の8割以上が参加する。 その他補助艦艇30隻以上が同道する。 潜水艦も30隻以上だ。」
「ほぼ全力投入、ですね。 そうすると、米国は・・・」
「貴様の考えるとおり、東西海岸で300隻以上の艦艇が参加する。もちろん、ヨーロッパからも、な。」
秦は続けてページを捲る。
「で、我々は・・・っと。」
そして見つけた。
「えっと・・ 稼働可能艦をもって、呉鎮守府および南海海域の防衛・・・紀伊半島から九州東岸までの範囲で防衛・哨戒行動・・・」
「防衛、ですか?」
と鳳翔が聞く。
「そのようだ。 ただ・・哨戒するといっても、この範囲は広いぞ。 こりゃぁ・・」
「残存艦艇が少ないにも関わらず、広範囲だからな。 横須賀からも同じく防衛艦隊を用意する。 大湊、佐世保、舞鶴は全艦で攻撃に加わる。 舞鶴は、既に出港した。」
「・・・・」
秦も鳳翔も言葉を失っていた。
「楠木。 残念だが、貴様の改修工事は途中で終了して、すぐにでも作戦行動に入ってもらう。 いいな?」
「それは、構いません。 というより、やらざるを得ませんね。 艤装の改修に一部手を付けていましたので、即刻、切り上げます。 空母・鳳翔は大丈夫ですが、航空隊との連携がまだですが・・。」
「そうか。 とは言え、直ちに、頼む。 現状で、泣き言も言えんし、言われても聞けんからな。 では、楠木、勝って、また会おう。」
「はい。 健闘を祈ります。」
「うむ。 貴様もな。」
そう言って、互いに敬礼で返す。
その後、秋吉と赤城は慌ただしくも横須賀へと帰って行った。
◇
残された秦と鳳翔・・・。
作戦指令書を見ながら、秦が指示を出す。
「全員に召集を掛けてくれ。」
「はい。」
館内放送で全員を執務室に集めた。
「どうしたの、父さん?」
「何なに?」
「なんなのさぁ?」
と訝しがるが・・・
「急で申し訳ない。 新たな作戦が開始された。 直ちに出撃準備に入ってもらう。」
「へ?」
「だって、まだドックに・・」
「中止だ。」
「「「はぁ?」」」
「詳細はこいつに書いてあるんだが、・・・・・・・・」
と作戦の説明をした。
「そ、そんな! 急に言われても!!」
否定的な反応をする皐月だったが・・
「泣き言は言ってられない状況だ。 作戦開始まで48時間しかない。」
「48時間ったって・・・」
「報告では、船体の改修は完了している。 艤装の工事中だが、現状のままで行く。 各自、艦の確認をしてくれ。」
秦が皆を見渡して、そして・・
「すまないな、みんな。」
秦が皆に頭を下げた。
「や、やめてよ、しれーかん!」
とは朝霜。
「そうだよ。 戦うのは、ボクらの役目なんだから。」
と皐月。
「お前たち・・・」「あなたたち・・・」
「あ~あ、明日は、調理実習だったのになぁ。 残念だよぉ。」
「そうだね、ケーキだったね。」
「ま、しゃーないさ。」
「帰ったら、ケーキ、食べたい! いいでしょ? 父さん!」
諦めの態度をする朝霜や皐月たち。
家族として、生活してきて、ようやく慣れた頃合いだった。
艦娘ではなく、ホントの娘の様に思って接してきた秦と鳳翔。
楽しく、愉快な日々だった・・・
秦は、申し訳なかった。 命令一つで、生活が、一変するのだから。
眼頭が熱くなる感じがしていた。
「ああ。 そうだな。 帰ってきたら、みんなで、ケーキを作ろうな。」
「約束だよ!」
「そうぴょん!」
「あなた・・・」
鳳翔が秦を見つめた。 目が潤んでいる様だった。
「約束だ。 それでは、解散!」
みな納得してはいなかったが、命令とあらば、やらねばならない。
それからドックは急に慌ただしくなった。
確かに、船体の改修工事は完了していた。
だから・・・
真っ先に、ドックに注水が行われた。
「ドック内、作業員は、5分で退避! 注水を開始する!」
5分も待たずに、注水が始まる。
「水位、間もなく吃水線を超えます!」
その最中でも、各艦の確認が進む。
「機関始動! 艤装状況を確認! ・・・・ 稼働不能は・・・無い! よし!」
「各部署、起動を確認!」
4艦の確認が済むと同時くらいに、注水が完了し
「バラスト水、注水!」
各艦の水平が取られていく。
完了と同時に、接岸した。
ドックの扉が開いていく。
ドックの中が海と繋がった。
次は弾薬類の搬入だ。
ここまで作業開始からおよそ5時間。
そして、鳳翔では、既に弾薬類の積み込みが完了し、搭載機への連絡が終わったころだった。
「提督、搭載機は直ちに着艦させます。 着艦はぶっつけ本番でやります!」
「すまない、鳳翔・・・」
「あの子たちは、優秀ですから、きっと、やってくれますよ。」
艦隊のうち、まず、空母・鳳翔が湾の中ほどまで進み、艦載機の着艦作業に入った。
姫路の航空基地から艦上攻撃機と艦上戦闘機が編隊を組んでやってきた。
飛行妖精の練度は・・・と気になった秦だったが、そんなことは杞憂に過ぎなかったようだ。
次々と、軽々と着艦してくる。
秦が心配することは無く、みな、高練度だった。
(いったい、どれだけ、訓練で飛んでたんだよ・・・)
搭載予定だった対潜哨戒機は、一度も鳳翔に着艦したことが無い。
だから空母・鳳翔には載せず、陸上基地への配備とするつもりだった。
「鳳翔、偵察機と対潜哨戒機は、高知の飛行場に派遣してくれ。 高知の飛行場を、攻撃と偵察の拠点基地とするから。」
「了解しました。」
各飛行隊と空母との連携訓練をしていないので、都度、秦が指示を出すことにした。
空母・鳳翔の改造工事、ちょっと変わった工事をしていた。
それは・・・
「父さん、各飛行隊、着艦完了したよ!」
と声がする。
「ありがとう、睦。」
そう。 睦が提督補佐として、旗艦に乗ることができるように改造したのだ。
作戦が始まると、睦が一人で留守番をすることになるのだが、秦の本心はちょっと違っていた。
(死ぬときは、三人一緒だから。)と。
秦と鳳翔が帰らぬ人となったとき、残されるのは睦だけになってしまう。
それを避ける意味もあったのだが。
睦の主たる受け持ちは、通信関係だ。
それならば、艦橋にいて、秦や鳳翔の傍に居られるからだ。
◇
更に4時間余りが経過し、各駆逐艦への弾薬補給が完了した。
「皐月、補給、完了したよ!」
「弥生、完了。」
「うーちゃんも完了!」
「あたいも終わったよ!」
最後に鳳翔が纏めて秦に報告する。
「提督、全艦、補給完了しました。」
「そうか。 なんとか間に合ったな。」
「ええ。 みんな、よくやってくれました。」
うん、と秦が頷いていた。
「では、艦隊、出撃する。 ・・・出港!!」
「全艦、出港!」
「湾の外で、単縦陣を組む。」
【了解!】
相生湾を出て、東へと向かう。
穏やかな播磨灘を軽快に走り抜け、明石海峡を通り、神戸沖で南下する。
紀淡海峡を目指して進み、友が島の脇を抜けて、紀伊水道を超える。
目の前は太平洋だ。
楠木艦隊の守備範囲は広い。
紀伊半島から大隅半島までの範囲だ。
この範囲で艦隊を展開させながら、航空機による監視体制に入った。
各艦の聴音機能も最大にした。
今、各艦の距離は5km以上、開いている。
空母・鳳翔の傍には朝霜がついていた。
そして、作戦開始時刻になった・・・・。