Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
「ねぇ、鳳翔? 一つ、提案なんだけど・・・ カッコカリを外さないか?」
「えっ??」
鳳翔が驚いて秦を見た。
睦や皐月たちも驚いていた。
みんなで作ったケーキを食べながら、徐に秦が話したのだが・・。
カチャーン!
「い、いま、なんて・・・・」
手に持っていたフォークを落としてしまった鳳翔。
「ん? カッコカリをやめないか?って言ったんだけど。」
段々と鳳翔の顔から笑みが消えて、影が・・・・。
徐々に、目に涙が溢れてきた・・・
「ほ、本気で、言ってますか?」
「ああ。 本気だ。」
「父さん! どういう事??」
秦の話を聞いていた睦が応える。
「なに、言ってんだよ!! しれーかん??」
「やめるって、どういうこと??」
「そうだよ! 何言ってんのさ! 別れる気なのかい!」
皐月も、朝霜も声を上げた。
「ん?」
鳳翔が、両手で口を覆って、涙を流していた。
しかも嗚咽しながら・・・
う、っえぐ・・・ そ、そん、な・・・ うっ・・・・
言葉にならない声を出していた。
「わ、わだし、わだしは、いやぁで・・・ ひっ・・・」
い、いやぁぁぁぁと叫びながら部屋を飛び出して行った。
「え?」
言った秦の方が驚いていた。
「ほ、鳳翔?」
立ち上がって鳳翔が立ち去った方を見た。
「どういう事、父さん! 別れる気なの?」
「あたいらはどうすんだよ!!」
こども達はいきなりの事であったが、大いに秦を攻めた。
「ち、ちょ、ちょっと待て! 待ってくれ!!」
慌てた様子で手を出して話を止めようとする。
「ちょっと待て! 何か、勘違いしてないか??」
止めようとするが、勢いが違った。
「何が勘違いだよ! 鳳翔さんと、お母さんと別れるって、今、言ったでしょ?」
「そうだよ! 何言ってんだよ!」
「いきなり何よ? 別れるって。 本気なの?? ホントに? ねぇ、父さん!!」
と怒り顔の睦、朝霜、皐月。
声を出さないが、秦を睨みつける卯月と弥生・・
秦は、なんだ、と思ったが、そこで、ハッと気が付いた。
「待て待て!! 待ってくれ、説明するから、ちょっと待てって!!」
睦らの視線が秦に集ま・・ いや、刺さっていた。
「誰が別れるんだよ? 別れるなんて言ってないし、俺は、”カッコカリ”を外して”ケッコン”だけにならないか、って言ったつもりなんだよ!」
【はぁ??】
「どういう事だよ、父さん??」
何のことか、分からなくなった睦が聞く。
「だからだなぁ、ちゃんと言うと、今は”ケッコンカッコカリ”だろ? これを”ケッコンガチ”に、正式な婚姻にしないかってことだよ。」
「「はぁ?」」
「正式な婚姻って・・」
「だからあ! 鳳翔を、お母さんを”艦娘”としてじゃなくて、”一人の女性”として迎えたいんだよ!」
「「へ??」」
怪訝そうな表情のこども達だが・・
「な、なんだ。 そういうことかよ。 まったく。」
「心配するじゃん! 説明、下手すぎでしょ!」
「ご、ごめん。 ホントにごめん!」
こども達に言われるだけ言われた秦が、バツの悪そうな顔をして頭を下げていた。
「そうだ! 鳳翔、鳳翔はどこ行った?」
ハッと鳳翔が居ないことに気が付いた秦が慌てて立ち上がった。
「確か、執務室に入っていったような・・・」
そう言ったのは皐月だった。
「よし、執務室か。」
急いで執務室へと向かう秦。
そのあとを追うこども達。
執務室の扉の前に来ると、中からすすり泣く声がする。
鳳翔の声だ。
悲しい声だった。
「・・鳳翔、入るよ。」
扉を開けて中に入る秦。
うっ、やぁぁぁぁ・・・っとソファーに俯せに倒れこんで、肩を震わせて泣いている鳳翔が、そこにはいた。
ひっ、ぁやぁ・・と。
秦がソファーの傍まで進んで、鳳翔の顔辺りに跪いた。
「鳳翔、ごめん。 説明が悪くて・・」
そういうと、手で顔を覆っていたが首だけを回して、秦を見た。
「わ、わだじは、い、いやぁあ です・・ わがれ・る、なんで・・」
目が赤く、涙で顔がぐちゃぐちゃだった。
「ああ。 俺はお前とは、別れない。 ずっとそばに居るから。」
「ヒッ、だ、だったら・・」
「ごめん。 ちゃんと話すとだな、今”カッコカリ”だろ? この”カッコカリ”を外して”ガチ”にならないか、ってことなんだけど。」
「ウッッ、そ、それって・・」
「ああ。 戸籍上ちゃんとした婚姻関係にならないか? ってことなんだ。」
「こ、婚姻・・」
「ああ。 戸籍上の本物のな。 俺は本気だぞ。 ・・ともかく、説明が悪くてゴメン。」
悲しみの顔が、戸惑いの顔になって・・
鳳翔の目に涙が、ぽろぽろと再びあふれてきた。
「俺は、鳳翔を、君を必要としている。 仕事上の付き合いじゃなく、俺の心と気持ちが鳳翔を欲している。 ずっとそばに居てほしいと。 一言で言えば、”愛している”。 それに・・」
「それに?」
「俺の胃袋は・・、鳳翔に捕まれてしまったから他へは行けないんだ。 だから・・・ 説明が悪くてゴメンよ。」
ふ、ふ、ふぇぇぇぇぇーーーん!
と、今度はうれし涙に代わって、涙で顔がぐしゃぐしゃのまま、ソファーから上半身を起こし秦に抱き着いてきた。
うわぁぁぁぁぁん、と鳳翔の涙が滝の様に流れていた。
秦は、完全にバツが悪そうに、頭を掻きながら、鳳翔を抱き留めていた。
鳳翔の涙は・・止まらなかった。
秦から別れ話を切り出された、と思っていた涙から、正式な婚姻と聞いて、今度はうれし涙になって流れていた。
「ちゃ、ちゃんと、いっでくださぃぃ!」
ろ、呂律が・・・滑舌が・・・
「ちゃんと、言っでくださぁい! わがれるって、思っだじゃない、でずがぁ!」
秦の胸をたたきながら、抱き着き、泣いていた。 大泣きだ。
「いてて。 ゴメンよ。 それで・・嫌かい?」
「なんで、いやっで、いやっでいうんでずが! そんなごと、いいまぜんがらぁああ! あああああああぁぁぁ!」
そこだけは、大きな返事だったが、まだ泣いていた。 顔は涙でぐっちゃぐちゃのまま。
秦は、涙を流す鳳翔の唇を塞いだ。 いきなりだった。
ウ!
ウン・・
ウ・・
鳳翔は、最初こそ目を開いていたが、そのうちにゆっくりと目を閉じていた。
二人の唇が、しっかりと絡んでいた。
いつもより長い口づけ。
二人が離れると、二人の唇は濡れていた。
鳳翔の涙は、まだ止まっていなかったが、二人は微笑んでいた。
そこへやってきた朝霜が溜息を付きながら、
「はぁ、しれーかん、ごめんよ。 早とちりだったね。」
「もう、父さんったら・・。 最初からちゃんと説明してよぉ。 心配したよぉ、まったく、もう。」
と愚痴を言った睦だったが、みな目に涙を溜めていた。
皆一様に安どの表情だ。
改めて皆に向いて、
「ごめんね。 でも、そう言う事なんだ。」
と言う秦だったが、泣いたままの鳳翔を抱きしめていた。
その鳳翔は濡れた頬のまま秦に抱き着いてた。
鳳翔の背中をポンポンと叩きながら、顔を寄せる秦。
ホッとした表情のこども達。
しばらくそのままで、七人はいた。
「さ、残りのケーキ、皆で食べよ。」
そう皐月が言って、秦、鳳翔とこども達は食堂へと戻っていった。
秦が鳳翔の肩を抱き、涙を拭きながら。
今度こそ、笑いあいながらケーキを頬張っていた。
鳳翔の涙の跡はそのままに。
◇
「はい、鳳翔。」
と言って秦が一口大のケーキが刺さったフォークを差し出した。
頬に涙の跡が残ったままの、鳳翔の小さな口に収まっていく。
「お、おいしいです・・」
今度は鳳翔が切り分けたフォンダンショコラを秦の前に差し出した。
「あ、あなたも、はい・・」
あー、んぐ、
と秦の口に収まる。
「ん、おいしいよ。」
お互いの気持ちを確かめるように、お互いに食べさせあう二人。
その二人を諦め、呆れから納得せざるをえない五人が見ていた。
(はぁ・・ もう、何も言っても聞かないわね、この二人は・・)
と思うのだった。
◇
その日のうちに、秦は秋吉に連絡していた。
「・・・・・・という事なんですが・・」
「そりゃあ、お前さんたちの事だから、反対はせんが。 そうか。 正式とはな。」
声を聞く限りでも、秋吉も驚いているようだった。
「ええ。 やっぱり、”カッコカリ”は、”仮”ですから。」
「分かった。 役所への鳳翔の戸籍復帰手続きはしておく。 何せ、本籍は横須賀所属だからな。 こちらでやっておく。 終わったら連絡するからな。」
「はい。 ありがとうございます。 それでは。」
と連絡を終えた秋吉だが、傍には赤城と加賀が居た。
加賀は、今日の当番秘書艦だが、どちらかと言うと、赤城の補佐、という面が強かった。
秋吉が2人に向かって言う。
「楠木が鳳翔と正式に戸籍上も結婚する、と決めたそうだ。」
赤城、加賀の二人が驚く
「「え?」」
一拍の間を置いて、
「そうですか。 お母様もそれを?」
「ああ。 受けたそうだ。」
「お母様の気持ち次第ですので、私たちがとやかく言う事は無いと思います。」
と加賀が言うが、その気持ちは複雑だった。
鳳翔が、カッコカリではなく、正式に誰か個人のモノになる、と言うのは理解しがたい事だった。
”母”は、”みんなの母”と、思っていたから。
その鳳翔が受け入れた、となれば、加賀にとっては何も言う事は出来ないと理解しているつもりだ。
「私としては、お母様の幸せを願うのみです。 ね、加賀さん?」
「ええ。 そうね。」
「お前たちとしても、それしか言えまいて。 まぁ、そうは言っても赤城よ? 届のための手続きをしてくれるかい?」
「はい。 承知しました。」
翌日、赤城が秋吉の承認を得て、鳳翔の手続きを行った。
役所にて書類が受理された。
受理されれば手続きは完了である。
そして、その報告を秦にした。
「楠木提督ですか? 先ほど、お母様の手続きが完了しましたので、お知らせいたしますね。」
「ありがとうございます。 早かったですね。」
「そりゃあ、早めにしますとも。 お母様のためですから。」
「わざわざ、ありがとうございます。 あ、ちょっとお待ちを。」
後ろでもう一人いるようだった。
「もしもし? 赤城ちゃん?」
替わったのは鳳翔だった。
「あ、お母様。 改めておめでとうございます、と言わせて頂きます。 それと、加賀さんからも、おめでとうと。」
「うふふっ。 ありがとう。 加賀ちゃんにもよろしくと伝えてくれるかしら。」
「はい。 ちゃんと伝えます。 お母様、お幸せに。」
「ええ。 ありがとう。 それで赤城ちゃんは、どうすのかしら?」
「え? 私ですか?」
「そう、赤城ちゃん、あなたよ。 秋吉提督のこと、どう思ってるのかしら?」
「わ、私は・・・ 尊敬しています。 それ以上でも以下でもありません。」
「そう・・・。 ならいいわ。 それじゃあね。」
「はい。 それでは。」
と、そこまで言って連絡を終えた。
その足で秦は鳳翔と共に相生の役所に赴き、最終的な手続きを行った。
婚姻届を提出したのだった。
提出し終わって、
「これでよし、っと。」
と言って鳳翔を見た。
「これで、何の文句も言われない、夫婦だよ。 とはいうものの、生活スタイルは変わらないけど・・・。」
「いえ。 気持ちはずいぶんと違いますよ。」
鳳翔は秦を見ていた。
「そうかい?」
「ええ。 私は、正真正銘、楠木 秦の妻、ですから。 嬉しいですよ。」
とニコリと微笑んで見せた。
「そうだな。 そして、俺たちは、5人の親、となるわけだな。」
「そうですね。 おっきな子供達ですけど。」
と笑いあった。
警備部に帰り着いて、皆に報告をした。
婚姻届けを出したと、これで正に七人が家族になることを。
「へへへへ。」「ふふふ。」
七人の顔はにこやかだった。