Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~   作:鶉野千歳

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ひょんなことから足踏みミシンを手に入れた秦たち。
それを使って作ることに。



足踏みミシンで・・

5月も中旬になって、そろそろ各艦体の改造工事が終了に近づいた。

 

「今月中には、各艦の改造工事が終わりそうだな。」

 

「そうですね。 今月末には終わると思います。」

 

「そうなると、検討してきた対潜哨戒と対潜攻撃の実地運用を試す事になるね。」

 

空母・鳳翔に、新たに新型の対潜哨戒・対潜攻撃機を搭載する事になっていたが、長らくその運用について検討をしてきた、秦と鳳翔。

先の作戦で、細かな指示は全て秦からしていたのだった。

その反省を含めて、新たに運用方法を検討していたのだった。

その検討結果を実際の訓練で試す機会が訪れようとしていた。

各航空隊は、空母・鳳翔への発着艦訓練や攻撃訓練をやってきたが、艦隊運動を含めた訓練はまだ行っていなかった。

空母・鳳翔の各航空隊の練度は、全国の航空隊の中でもとびきりの猛者で、高練度だ。

もちろん、鳳翔が生半可な訓練を良しとはしなかった事もあって、鳳翔には”微笑む鬼”という、聞くだけで末恐ろしい渾名が付いていた。

最初のころは”鳳翔お艦”とも呼ばれてはいたのだが。

それが、今度は各駆逐艦たちにも、厳しい目が向けられることに・・・なるかも、だった。

執務室のソファーに並んで座る秦と鳳翔の二人。

 

「訓練が始まる、という事は、朝霜たちの学校生活も終わってしまうのかな。」

 

「仕方がありませんね。 でも、最初から全力で訓練しませんから、しばらくは学校へ通いながらすることになりますね。」

 

「そうか。 でも、五人の、父親、母親の役目も、終わりになるんだな・・ 残るは睦だけか・・」

 

「寂しいですか?」

 

「うん。 ちょっと、というか、ね。 娘が五人も居て、大変なこともあったけど、賑やかで楽しかったし。 それに・・・」

 

「それに?」

 

「鳳翔との、その、こどもも、欲しいかなって、思ったし・・・」

 

鳳翔の顔が朱くなる。

言った秦も、頬を指で掻きながら、顔を赤めていた。

 

「も、もう! 恥ずかしい事を!」

 

そう言って秦の肩をパシッと叩いた。

でも・・・

 

「・・・わ、わたし、私も、いいですよ・・・ そ、その、あなた、との、こども・・・・。」

 

と真ッ赤の顔で俯く。

しばし、無言の時間が・・・流れた。

「そ、それはそうと、朝霜たちの小袖を作ってたんだよな?」

 

「え? そ、そうです、そうです。 四人分、出来たんですよ。」

 

と話題を変えた。

 

 

以前、睦と鳳翔がお揃いの小袖を着ていたとき、皐月や朝霜が

 

「それ何?」

 

「お母さんとお揃い? いいなあ・・ ボクも欲しいなぁ・・」

 

と言った事に始まるが、

 

「あら、じゃあ、みんなの分も作りましょうか。 ね?」

 

【やったあ!】

 

と相成ったのだ。

作業に掛かったのは、林間学校を終えた頃だった。

生地を取り寄せ、型を取っていくのだ。

そしてそれぞれのパーツを縫って行くのだが、最初は手縫いを考えていたのだが、裏のおばあちゃんから、ひょんな事から足踏みミシンを貰っていた。

このミシンを使って仕立てる事にしたのだ。

 

 

年代物の足踏みミシンだったが、おばあちゃんが使っていたらしく、状態は良かった。

動きも問題無く、十分に動いた。

子供達は見たことがなかった。 この足踏みミシン。

 

「お母さん、何これ??」

 

「見た事ない? これは、ミシンよ。」

 

「ミシン?」

 

「そう。 ミシン。 昔の足踏みミシンよ。」

 

「足踏みぃ?」

 

大きさは机ほどある。

足下にペダルがある。

足のペダルを踏み込むと、ベルトを通じて台の上のミシン針に上下運動が伝わる仕組みだ。

その運動によって、ミシン針が布を突き刺して糸を通していくのだ。

ただ、今風のプログラム付き電動ミシンみたいに、縫い目や布を縫う速度を自動で変える事ができない。

この古い足踏みミシンは、基本、すべてにおいて手動だ。

縫う速度は、足のペダルで速度を変え、縫い目の形は、人が布をずらせていく、という。

 

鳳翔は四人分の小袖をこの足踏みミシンで仕立てていくことにした。

ペダルを上下に踏み込む前に、本体にある、ベルトを手である程度動かす。

するとペダルを踏み込みやすくなる。

踏み込む動作がベルトを伝って、針が上下に動くのだ。

その音は、カタカタカタ・・・と。

生地は手で送っていくのだ。

着物の生地は、そこそこ丈夫にできているから、針もやや太い。

まっすぐに縫う時は、足の動きもリズミカルに、カタカタカタカタと連続音がする。

曲線を縫う時は速度を落として縫っていくのだが、着物の仕立てでは、縫い目は直線しかない。

 

作業は、反物から、右袖、左袖、左身頃、右身頃、衿、おくみとなる範囲を切り分けていく。

切り分けた布にそれぞれの部位となる型を合わせ、切り出していく。 型には縫い代となる部分が取ってあるから、実際に小袖となる部分のサイズより若干だが大きい。

左右の身頃の柄を合わせて、縫い合わせていく(背縫い)。

この縫い合わせで、足踏ミシンを使う。

今仕立てているのは、小袖で、無地の生地なので、身頃を合せるのも簡単だった。

簡単だけれども、長さが・・長い!後ろ衿から足もとまでだから、結構長い。

そして、裏地となる胴裏を縫いつける。

次に、左右の袖を縫いつける。 既に袖下を縫い、筒状になっている。 袖口は、通常の”着物”より小さい。 小袖の由来の一つが、この袖口が小さい事による。

これらの縫い付けも、足踏みミシンで行うのだ。

カタカタカタカタ・・・と。

身八口も開けておく。

衿を縫いつけていくが、衿も”着物”より幅は太い。 結果的に布地を二重くらい重ねる。

次に、おくみを縫い付けていく。

小袖は、おはしょりが無い分、普通の着物より着丈が短い。

もっとも、時代によって長さは違うが、今仕立てているのは、足首が見える程度の長さになっている。

所謂、和裁では布の表面に縫い糸は出ない、というか見えない。 縫い目は裏側になるのだ。

簡単とは言え、4人分は骨が折れた。

鳳翔が専業主婦なら時間はあったのだろうが、秘書艦であり、妻であり、母であり、艦の訓練と・・何役もこなす鳳翔に、たっぷりの時間はなかった。

その上、帯もないといけないし、町娘らしく湯巻もないと。 これらも4人分を作ったのだった。

それゆえ、余計に時間が掛かってしまった。

 

 

「これです。 四人分の小袖です。 それと草履です。 草履は買ってきましたけど。」

 

と四人分の小袖を秦に見せた。

 

「大変だったろ?」

 

「まぁ、それなりに、ですけど。 でも、いいものが出来たと思います。」

 

と、微笑みながら四人分の小袖を撫でている鳳翔が言った。

 

「あのミシンのおかげかな?」

 

「そうですね、あのミシンのおかげで、だいぶ助かりました。」

 

裏のおばあちゃんから貰った足踏みミシンが大いに役立ったのだった。

 

「ははは。 じゃあ、おばあちゃんに感謝しておかないといけないね。」

 

「そうですね。 おばあちゃんに感謝ですね。 ふふふ。」

 

二人して笑いあっていた。

 

「それじゃあ、睦や皐月たちが帰ってきたら、早速、着てもらうか?」

 

「ええ。 そうしましょう。」

 

そう言ってまた二人で笑った。

夕刻前になって五人が帰って来た。

 

【たっだいまあ!】

 

元気ありまくりの五人だ。

その勢いのまま執務室にやってきた。

 

「「父さん、お母さん、ただいま!」」

 

とは皐月と睦。

 

「今帰ったぞ!」

 

とおっさん風に言うのは朝霜だ。

 

「違うでしょ? ”ただいま”でしょ? 朝霜ちゃん、何回言わせるの?」

 

「また怒られてるぅ。 ただいまぴょん!」

 

「ただいま。 今、帰ったよ。」

 

「みんな、お帰り。 今日も元気だな。」

 

「あったぼうじゃん!!」

 

「じゃぁ、その元気なついでに、これを着てくれるかい?」

 

「なになに?」

 

「あ! これ、出来たの?」

 

「ええ。 やっと出来たわよ。 四人とも着てくれるかしら。」

 

「「うん、 やったぁ!」」

 

「じゃあ、居間で着替えましょ。」

 

そう言って鳳翔と四人が執務室を出て行った。

廊下の向こうで、きゃっきゃと声がする。

一人残った睦に秦が声を掛けた。

 

「睦はいいのか?」

 

「うん、私は持ってるし。 ま、いいんじゃない?」

 

「そうか。」

 

と言って二人でソファーに座って待つことにした。

暫くして、賑やかな声が廊下から聞こえてきた。

ドカッっと扉を開けて、

 

「しれーかん、どうだい??」

 

と朝霜が1番に入ってきた。

 

「父さん、どうかな?」

 

と皐月、続いて卯月、弥生が入ってきた。

 

「おお! 可愛いじゃないか、みんな! まさしく町娘だなぁ。 湯巻まで付けて似合ってるぞ。」

 

へへへへっっと、四人の顔が、にこやかだ。

 

「だいたい、ぴったりでしたね。 ただ・・」

 

と鳳翔が言うが・・

 

「? ただ?」

 

四人をよく見ると、ひとりだけ、お稚児さんの様に丈がちょっと短い奴がいた。

朝霜だ。

 

「あ? 朝霜だけ、ちょっと短いか?」

 

「はい、ちょっと短かったです。 反物が微妙に足りなくて・・・ごめんね。」

 

と鳳翔が朝霜に謝っていた。

 

「お稚児さんみたいだなぁ。」

 

「なんだい、それ?」

 

「だいたいは・・・”見た目で幼子みたい”、て言う意味で使ってんだけど。 ”お稚児さん”は、今じゃお寺さんのお祭りなんかで、幼子が化粧して煌びやかな衣装を着てるよ。」

 

ぶっ、はははははっ。

他の四人が笑った。

 

「一番おっきいのに、幼子だって・・・はははっ。」

 

「ぶー! みんな酷いよ?」

 

ブー垂れる朝霜だった。

ごめんごめん、と謝る秦。

皆の笑いが収まらない。

この後に始まる、地獄のような訓練までの楽しいひと時だった。

 

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