Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
鳳翔には・・
秦と鳳翔の寝室に、鏡台がある。
もともとは無かったのだが、秦が新たに買ってきたのだ。
「いつもは小さな鏡を使ってて、使いにくそうだったから、ちゃんとした鏡台を、っと思ってね。」
「まあ。 私はそんなに化粧道具を持っていませんのに。 宝の持ち腐れになってしまいますよ?」
と謙遜する鳳翔。
「道具が少なくても、お化粧はするんだし、必要でしょ?」
と秦が言うと、
「まあ、あればあったで、有り難いですけど・・・ こんな大きな鏡台でなくてもよろしかったのに・・・。」
と鳳翔が申し訳なさげに言う。
秦が買ってきたのは、椅子に座って使用する鏡台で、小物入れの引き出しが左右に2つずつ付いていた。
鏡は三枚あって、真ん中が正面用、それと左右に1枚ずつの三面鏡だ。
鳳翔は、濃い化粧では無く、どちらかと言えばすっぴんに近い、ナチュラルメイクだ。
普段は、潮風と日焼け対策と保湿、口紅くらい。
秦としては、元々美人の部類に入る鳳翔が、化粧をする必要もないのだろう、とは思ってはいた。
ただ、大人な女性として考えた時、化粧をしても綺麗と言える事は、秦としてもうれしい事なので、化粧をしやすい環境を整えてやりたかったのだ。
化粧道具も、それなりのものを手配した。
化粧筆は、広島は熊野の筆を買ってきた。
熊野の筆は、1本1本、全てが手作業で作られる、高級品だった。
試しで、手に取ったときの毛の感触は、羽毛に撫でられているかのような、毛ざわりだ。
思わず、おおぉぉぉっと声を上げるくらい、柔らかく、気持ちのいい感触だった。
秦はその化粧筆をセットで買ってきたのだった。
その化粧筆を見て、
「あ! この筆、いい化粧筆ですねぇ。 すごく化粧のりが良さそうな筆ですね。」
化粧筆を手に取り、感触を確かめていた。
化粧水、保湿クリームなどは、東京は銀座の化粧品店のモノを買ってきた。
「まあ、これも。 高かったでしょうに。 いいんですか?」
「ああ。 いいよ。 鳳翔が今より、ずっと綺麗になるならお金は惜しまないから。」
と言った秦も、
「もう。」
と言った鳳翔も、顔を赤めていた。
◇
鏡台と同時に、姿見としての全身鏡も買った。
姿見は執務室に一つだけだったのだが、寝室とこども達用に、2つ追加で購入した。
鏡台を買った時に、
「あたしも欲しい!」
「ボクも!」
と言われたが、
「もう少し、大きくなってからね?」
と我慢してもらった。
「「「え~~!!」」」
という大合唱にはなったが・・・。
その代り、と言ってはなんだが、姿見を買ったのだ。
やはり、女の子だ。
化粧やおしゃれには興味津々のようだった。
姿見の前で、ポーズをとったり、髪を鋤いて見たり、と。
「まあ、あの子たちは、まだまだ若いから化粧品は必要ないだろうけど、リップくらいは使うかな?」
「今どきの女の子なら、リップ以外にも結構、お化粧はしているみたいですよ。」
「え? そうなの?」
腕を組んだまま、驚く秦。
「若いのに、ケバケバしい化粧は要らないでしょ? 基礎化粧品くらいで良かない?」
そう思う秦だが、
「ふふふっ。 あなたも結構、考え方が古いですよ。 確かにケバケバしいのは要りませんけど、かわいく見えるお化粧はやってもいいと思いますよ。」
と鳳翔に言われて、
「そうなのかい・・・ま、反対は・・・しない、方がいいかな?」
と答えるのが精一杯だった。
「はい。 その方がいいかと思いますよ。」
そう言われると、また秦は考え込んでしまった。
「そうなると、鏡台がもっと要るなぁ。 部屋には人数分、入らないし・・やっぱり、我慢してもらおうか・・・。」
「はい。 今は無くてもいいと思います。 そのうち・・・ですね?」
「鏡台って、みんなで使えるものなのかい?」
秦本人が鏡台を使わないから、鳳翔に聞いてみた。 すると、鳳翔の答えは・・
「使えますけど、でも・・・ 使う時間帯は、重なりますから、やっぱり人数分は・・・」
暗に、1台では無理よ、と言われているようなものだ。
やはり、鏡台は諦めてもらおう、と思った秦だった。
その代り、と言ってはなんだが、こども達様に一人ずつ20cm四方の折り畳みの化粧用の鏡を買う事にした。
そして、それなりの化粧品のセットと化粧ポーチも買ったのだった。
それなら、部屋の机ででもお化粧が出来ると、考えたのだ。
持ち運びができれば、居間でも、お化粧は出来るだろうと思ったからだった。
後日、それらを買ってやると、喜んではくれたようだ。 それなりに・・・。
「悪いね。 お前さんたちのお化粧は、このセットで我慢しておくれ。」
「まあ、そんなに化粧することは無いから、これで我慢するよ。」
と皐月と睦。
そして朝霜が
「ホントは、全自動なんかができ・・・」
パカーン!
「要らんこと、言わない!」
と秦が、朝霜の頭を、はたいた。
「イッ、イテェ! なんだよ! 言ってみただけじゃん!!」
「お前の言わんとする事は分かるわ。 ったく。」
まあまあ、と鳳翔になだめられる二人だった。
◇
秦も良く知らなかったが、毎朝、鳳翔は長い髪をブラッシングしている。
その時間は・・・秦は眠っているから。
ブラシの後は、薄く髪に椿油を付けて、長い髪を括る。
化粧水、保湿クリームを念入りに付けて、薄く口紅を塗る。
そこまでするなら、鏡台は必要だ。
それとは違い、こども達は髪をセットするくらいだから、鏡台は要らなかったが。
また、夜のお風呂上がりにも鳳翔は髪のブラッシングをしていた。
そして、スキンケアも。
これは、秦も起きているからよく目にする光景だった。
いつだったか、居間で朝霜が一人で、折り畳みの鏡を前に、風呂上りで化粧水を使っていたのを秦が見つけた。
「おう。 どうした?」
「あ、しれーかん。 見てのとおり、湯上りのスキンケアだよ。」
「お前がねぇ・・・」
と感心なのか、呆れなのか・・・。
「なに? あたいがしておかしいかい?」
「いや、やっぱり、女の子なんだなあ、って思ってな。」
「あったりまえじゃん!」
そのうち、スキンケアを終えて、髪をブラッシングし始めた。
朝霜の髪は長い。
「手伝ってやろうか?」
「え? いいのかい?」
「たまには、手伝わせろよ。」
「変なコト、しない?」
「しないわい!!」
「じゃあ、よろしく~。」
と、朝霜からブラシを受け取って、髪を鋤いた。
根元から毛先まで。
「なかなか、綺麗な髪じゃないか、朝霜?」
「へへへ、当然ジャン!」
鏡に映る朝霜の顔は、やや赤かった。
時々、鏡を通して視線が合う。
そのたびに、ニコリとする秦。ニッと笑う朝霜。
「長いなあ。 毎日大変だろう?」
「そんなこたぁ、ないさ。 大抵は、みんなで交互にやりあいっこするからさ。」
「そうか。 それならいいな。」
そんなこと言いながら髪を鋤いていると、鳳翔がやってきた。
こちらも風呂上りだ。
「あら、朝霜ちゃん、提督に髪を鋤いてもらってるの? 良かったわね。」
「へへへっ。 いいでしょ?」
「よし! こんなもんでどうだ?」
「おう。 ありがと、しれーかん!! またやってよね! じゃあ!」
と言って自室へと戻って行った。
残された秦と鳳翔。
「フフフ。 どうでしたか? ”娘”の髪を鋤くのは。」
「案外、いいものだな。 これでコミュニケーションが図れるなら、お安い御用さ。 それはそうと、鳳翔もしようか?」
「あ、じゃあ、お願いします。 ここでは道具もないので部屋でお願いしますね。」
「ああ。 いいよ。」
そう言って二人より添って自室へと入って行った。
鏡台に向って鳳翔が座り、秦が後ろに立って、髪を鋤いていく。
スーーッ、スーーッと。
「鳳翔も髪は綺麗だね。 毎日、手入れは大変だろう。」
「そうでもありませんよ。 もう、慣れていますから。」
「俺からすると、大変だ、としか思わないけどさ。 それにしても・・ 朝霜もそうだったけど、うちの”娘”達は髪は長い方だね。」
「フフ。 そうですね。 短いのは睦ちゃんだけですか。」
「そうなんだよね・・ まあ、みんな綺麗な髪をしてると思うよ。 最近は手入れをしているみたいだけど、これって鳳翔譲りかな?」
「そうです、分かります? みんな、私に聞いてきますよ? どうしたらいいのって。」
「そうなんだ。 ははは。 震源地はやっぱり、鳳翔だったか。」
と秦が言ったが、鳳翔はすぐには分からなかった。
?? と。
「いや、みんな同じような時期から、肌や髪を気にしだしたから、おかしいなあ・・・とは思ってたんだ。」
「そうなんですね。」
そう言って、「はははは」「ふふふふ」と、二人して笑っていた。
髪を鋤き終えた秦は・・・
鳳翔の後ろからそっと手を廻して、抱きしめた。
「え? あ・・・」
顔を頭に近づけ、匂いを嗅いだ。
お風呂上りの髪からいい匂いがする。
「いい匂い・・・」
「や・・ もう・・・」
そして、鳳翔が首を後ろに回そうとする。
秦もそれに合わせて、顔を前に倒そうとすると・・ 二人の唇が・・ゆっくりと合さる。
最初は、軽く優しく、
次第に、強く、激しく。
唇が離れると頬を赤めて、
「もう、あなたったらぁ・・・」と。
そう言うと、秦に身体を預けるのだった。
そして・・・
秦は鳳翔を抱きかかえ、ベッドへと・・・。
・・・
翌朝、目覚めた二人は抱き合ったまま、とにかく満足そうな笑みを浮かべているのだった。