Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
秦と鳳翔は、そろって出席するのだが・・
五月の連休も過ぎ、後半ごろの土曜日、睦の学校では、授業参観が行われることになっていた。
秦と鳳翔は、最初はどちらかが参加すればいいか、なんて考えていたが、元々、1クラスあたりの人数が少ない事もあって、父母の両方が参加することが少なくない、との事だったので、二人で参加する事にした。
「今度の土曜日だったな? 参観日は?」
「そうだよ。 父さんとお母さんの二人で来てくれるの?」
そう聞くのは睦だった。
「ええ。 そのつもりよ。」
とこども達にニコリと微笑んで答える鳳翔。
「みんなの勉強する姿を見るのは、楽しみだな。」
普段は、居間で宿題をしている姿しか見たことのない秦と鳳翔だが、学校での姿を見ることができるのは、楽しみであった。
「アタイは、いいとこ、見せちゃうんだから!」
と拳を握って、勢いよく答える朝霜であったが・・
「よく言うよ、まったく・・・」
嘆息してうなだれる皐月。
ここから朝霜に対して皆の批判合戦が始まった。
「な、なんだよ? 皐月ちゃん。 あたいが何かしたかい?」
「朝霜ちゃんはいっつも余計な発言して、授業を混乱の渦に巻き込んでる張本人じゃないか!」
「え? そんなことないじゃん? ね? 睦ちゃん。 してないよね?」
「残念でした! 私は皐月ちゃんに一票にゃ。」
「うーちゃんは皐月ちゃん・・・じゃなくて朝霜ちゃんに一票ぴょん!」
「卯月はだめ! 一緒になって遊んでるじゃないか!」
「え~~、いいじゃん、いいじゃん。」
「だめ。 弥生は皐月ちゃんに一票。」
結果、三対二で皐月に軍配が上がった。
「でも、なんなんだよ、その、混乱の渦に巻き込むってのは? 授業中だろ?」
と秦が聞く。
「え? 説明するのは難しいよ。」
「だいたいは、ブラックジョークなんだけどね。 時々、少しばかり内容が過ぎるんだよ。」
「それで、先生が発狂しちゃってさぁ・・・”楠木さん! 何言ってるの!! そんなことを言ってるじゃないのよ!!”ってキレちゃうんだよね・・・」
「はあ・・・ なんか、行くのが億劫になって来たぞ・・・。」
気がおもーくなってきた秦だった。
「ま、まあ、元気な事は分かったから、勉強する姿をちゃんと見せてくれよ? 期待してるからな?」
【了解!】
と返事は良い。 返事だけは。
その会話を聞きながら、呆れるように微笑んでいたのは鳳翔だけだった。
◇
そして、授業参観日当日の土曜日。
今日の授業参観は、午前中だけで、睦たちの授業も午前中で終わって、帰る事になっていた。
朝、朝食後、
「じゃあ、父さん、お母さん、ちょっと早いけど、先に行くね。」
「ああ。 行ってらっしゃい。 後から行くからね。」
「「行ってきます!」」
そう言って五人は学校へと向かった。
見送った秦は、スーツに着替える。
身支度をして、執務室にいた。
暫くして鳳翔が、身支度してやってきた。
桜色の訪問着姿。
髪型は変わらないが、薄く化粧をして、淡い赤の口紅をしていた。
「お待たせしました。」
鳳翔の姿を見て、秦は、
「やあ。 綺麗にお化粧したね。 着物も似合ってて、すごく綺麗だよ。」
と。
「や、やだ。 恥ずかしい・・・。」
顔を赤める鳳翔だ。
それを見た秦も顔を赤めていた。
「じゃ、じゃあ、行こうか。」
授業参観は2時限目と3時限目の2コマ分なのだそうだ。
「今日の授業参観の科目は、2時限目が日本史で、3時限目が数学、だそうだ。」
「そうなのですか。 計算は・・あの子たちは得意でしょうけど、その他の科目はどうでしょうか。」
と鳳翔が心配な顔をする。
警備部を出て、学校までの短い間、寄り添って、いや、秦の腕に抱き付いていた。
少々、歩きづらかったが、
「歴史なんて、新たな発見があるたびに内容が書き換わるから、個人的にはあまり重要視はしてないけど、起こった”事実”だけは知っておいて欲しいかなぁ。」
「そうですね。」
そんな事を言いながら歩を進めた。
学校に着くと、睦たちの教室に向かった。
1時限目の休憩時間であったため、教室の後ろの入り口から入った。
既に何人かの父兄がいた。
会釈で挨拶しながら、二人して教室の後ろに立った。
すると、休憩中の五人と目が合った。
五人は、鳳翔を見て少々驚いていたようだ。
【お母さん、きれい・・・】
って声が聞こえたような・・・。
鳳翔がにこやかに小さく手を振ると、皐月たちも振り返してきた。
そうしているうちに授業が始まった。
後ろから見ると、楠木家の五人はよくわかる。
髪が一目瞭然だったから。
睦の栗色、皐月の金?色、弥生、朝霜の銀色、卯月の赤茶色。
睦は、比較的短いショートヘアだが、後の四人は髪の毛が超長いからよく目立つのだった。
歴史は、ほとんどが暗記物だからそんなに考える事は少ないものの、どれだけ覚えられるか、が問われる科目だ。
基本的に、先生からの一方通行になり易い授業だ。
今日の内容は平安期だ。
絵巻にある貴族の生活などがテーマの様だった。
建物様式、貴族衣装、しきたりなどなど。
建物の話では、あまり興味を示さなかった五人だったが、貴族衣装の話になると、ちょっと食付いたようだった。
歴史の教科では、副教材が大抵付いている。
平安絵巻のカラー刷り資料も含まれている。
何百年経とうと、衣装と言うものの色使いや柄は、現在に通じるものはある。
それを知れるだけでも歴史は、楽しいと思うのだが。
それを見ながら授業が進む。
ま、だいたいは、 へぇーーや、ほぉーーって言う声が聞こえてくる。
この授業では、五人は大人しくしていた、ように思ったのは、秦と鳳翔だけだったかもしれない。
(面白くない!)
と思っていたのは朝霜だけではなかったようだが、ともあれ、無難に日本史の授業が終わっていった。
休憩時間になると、秦と鳳翔の元に五人がやってきた。
「来てくれたんだね。」と。
「そりゃ、そうさ。 お前たちが普段、どんなふうに授業を受けているかを見るために来たんだから。」
「なにそれ? 酷くない?」
そういうのは皐月だったが、
「そうだよ、ちゃんとやってやんよ!」
とは、朝霜だった。
どうやら、意欲満々のようだった。
「じゃあ、次の時間は、期待してるよ?」
と秦が言う。
そのやり取りの中で、鳳翔にしがみついているヤツが一人いた。
弥生だ。
鳳翔に取り付いて、へへへへっと笑っている。
それを見つけた卯月が、
「あ! 弥生ちゃん、ズル!! うーちゃんも!!」
と言って鳳翔に抱き着いた。
その二人を見た皐月が
「もう、次の授業が始まるよ? ホラ、席に戻らないと。 こら!卯月ちゃん!!」
「あーーん、もうちょっとぉ・・」
と卯月を実力で剥がしていた。
弥生は・・・素直に席に戻ろうとしていた。
そそくさと自席に戻る五人。
後ろの二人を振り返りながら席についた。
すると、他のお母さん方から、
「あら? あなたが、あの楠木さん?」
と聞かれることがあった。
大抵は、”五人姉妹って大変でしょ?”という話しだが、
「そんなことは、ありませんよ? 人数が多い方が楽しいですよ?」
と鳳翔が答えてくれた。
「それに・・ みんな聞き分け良くて、親としては助かってますから。」
と言うと、
「あら、そうなの? ウチはもう、反抗期で・・・・」とか、
「ウチの子とも遊んでやって!」とか、
いろいろ言われたのだった。
それを聞いて、秦も鳳翔も苦笑いを浮かべるしかなかった。
そして、3時限目の授業が始まった。
科目は数学だ。
朝霜なんかは、不得意科目ばっかりだろう、と思ってはいたがそんなことは無かった。
積極的に手を上げていく。
ま、合ってるのか、合ってないのかは、分からないが・・・。
艦を操り、砲雷撃を加えるためにも、計算は行う。
それも、三角関数は必須だ。 だけど、今日は・・・三角関数ではなかったが、二次元、三次元の方程式だった。
これくらいは五人にとって簡単だったらしく、問題を出されてもすぐに応えれたようだった。
(先生)「じゃあ、この問題を解いてくれるかな?」
「ハイハイ、ハアアイ!!」ってな感じで、他の子より、手を上げる回数は多かった。
(先生)「はい、楠木皐月さん、よろしく。」
「はあい。」
と黒板まで進んできて、回答を書き込む。
(先生)「はい、正解です。 良く出来ました!」
皐月は秦と鳳翔に向かって、
「へへへっ」
と笑って見せた。
いくつか進んで、
(先生)「ちょっと難しくなるけど、理屈は同じだから。 これ、分かる人!」
問題が難しくなって、手が上がらなくなった、と思ったら、
「ほーーい! アタイがやる!」
と朝霜の手が上がった。
(先生)「お? それじゃ、楠木朝霜さん。」
「まかさっしゃい!」
と言って黒板に回答を書いていく。
書き終えて、
「どうでい?」
(先生)「正解! よくわかったね!」
フンス! と、朝霜が胸を張り、得意げになって秦と鳳翔を見た。
秦と鳳翔がサムズアップして返していた。
「やっぱり、うちの子達は、計算は得意のようだね。」
と小声で鳳翔に言うと、
「ええ。 そうでないと、困ります。 砲雷撃の角度の計算や距離の測定などで、数学は使いますからね。」
と微笑む鳳翔だった。
そして3時限目の授業が終わった。
終わったと思えば、父兄はみな、ぞろぞろと教室を出ていく。
下校は、こども達と一緒に帰るのだそうだ。
だから、校舎の玄関で、他の父兄と一緒に睦たちを待つことにした。
生徒達は終わるとホームルームの時間だ。
今日の伝達事項と来週の予定の確認をして、解散となった。
1,2,3年生全員が出てきた。
部活に行く生徒はそのまま部活に行くが、楠木家のこども達は、部活に入ってないから、帰宅組だ。
寮までの10分少々の道のりを、七人で帰って行く。
「そういや、七人で学校から帰るのって、一緒に歩くのって初めてだよね?」
と皐月が言えば、
「そうだな、そういやぁ、今までなかったか?」
とは秦だった。
「ボク達はいっつもの事だけど、父さんとお母さんとは、初めてだね。」
そう言いつつ、秦の右手には睦の手が、左手には朝霜の手が繋がっている。
鳳翔の右手には卯月の手が、左手には皐月の手が繋がってる。
弥生は、秦と鳳翔の荷物を持ってくれている。
「弥生、悪いな。 荷物持ちになっちゃって。」
「ううん、大丈夫。 怒ってないから。」
こう言うときの弥生は・・・寂しかったりする。
そこで秦が弥生に声を掛けた。
「弥生、ちょっとおいで。」
立ち止まって、弥生を呼んだ。
「なに?」
「いつもありがとう。 今日も・・・」
そう言って頭にキスをした。
「あ・・」
と頬が赤くなる弥生。
「へへへへっ」
とほほ笑む。
「あ~、弥生、いいなあ。」
と羨望の声が上がるが、
「お前たちは手を繋いでるだろ。 その代りだよ。 ハハハ、我慢しな。」
そんな他愛もない話をしながら、警備部までの短い道のりを七人は歩いていった。
今日の授業参観の感想もそこそこに。