Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
一人体調を崩して・・
今日は、何となく、早く目が覚めた秦だった。
時刻は0530。
隣で寝ている鳳翔が起き出す頃合いだ。
だが、隣の鳳翔が起きる気配が無い。
それどころか、うぅぅぅぅん、と唸っている。
何かおかしい、と思って声を掛けてみた。
「どうした?」
と声を掛けるが、返事は帰ってこない。
訝しながら、鳳翔の顔を覗き込んだ。
すると、額には汗が!
よく見ると、額だけではなく、全身、汗をかいているようだった。
「な! 鳳翔! 鳳翔、大丈夫か?」
と声を掛けるが、すぐには返事は無く、まだ唸っている。
「ぅぅぅぅん、 はぁ、あ、あなた・・ え? もう、朝ですか・・・。」
「朝には、朝だが、どうしたんだ、体調は? 悪いのか?」
「いえ、そんな事はありません。 今、起きますから・・ あれ? あらら・・・」
ベッドから起きようとするが、不安定に倒れ込む鳳翔。
「おい! 大丈夫じゃ、ないだろ!」
と秦が手を鳳翔の額にあてると・・・
「!! あつっ!」
額は熱かった。 ものすごく。
「熱があるじゃないか! ちょっと待ってて!」
そう言って急いでベッドを出て、体温計を探した。
「え~っと、確か、この辺に・・・・ あった、あった。」
体温計は赤外線で額の熱を測るタイプだが・・・
測ってみると、39度8分!
秦は鳳翔を寝かせて、聞く。
「熱がある。 頭はぼーっとする?」
「ええ、少し・・。」
「身体は、だるい?」
「ええ、少し・・。」
寝間着が汗を吸って湿っていた。
「風邪っぽいが、とにかく、休むことだ。 とはいうもののまずは着替えだな。 その湿った寝間着じゃ余計に身体に悪い。」
そう言ってタンスの中を探した。 鳳翔の寝間着と下着の替えを。
タオルを持ってきて、湿った寝間着を交換するが・・・
「あ、あの、一人でできますから・・」
といって顔を赤めていたが、
「恥ずかしさより、まずは着替えだ!」
そう言って、秦は、脇目も振らずに湿った寝間着を脱がせ、タオルで全身の汗を拭いていった。
さすがに下着の交換は鳳翔自身にしてもらった。
その間、秦は窓の外を見ていた。
さすがに恥ずかしかったのだ。
寝間着の交換を終えると、
「とりあえず、今日は休むんだ。 いいね?」
「で、でも、食事や洗濯が・・・」
鳳翔はいつものように働こうとする。
「それは、俺がやるから。 ね?」
と、秦が代わりにやるからと。
「は・・い・・ じゃあ、お任せします・・ね、あなた。」
秦が布団を鳳翔に掛け、
「じゃ、後でまた来るから。」
と微笑んで見せて、汗を吸った寝間着を持って部屋を出て行った。
◇
鳳翔の代わりに、朝の食事の用意と、こども達のお弁当作りだ。
お米を研いで、炊飯器に早炊きでセットし、おかずとお味噌汁だ。
お味噌汁の具には、玉葱の薄切りと豆腐を用意した。
おかずは、ベーコンを焼いてその上に卵を落とした、ベーコンエッグ。
アジの一夜干しを焼いた、焼き魚。
まぁ、料理がある程度出来る秦だったから、この程度は問題なかった。
他に、梅干し、らっきょうの甘酢漬けとしぐれ煮を用意した。
ご飯はもう少しで炊き上がりそうだった。
秦は、その間にこども達を起こしにかかった、のだが・・
「父さん、おはよう。」
と皐月が一番乗りでやってきた。
「お、おはようさん。 今日は早いなぁ。」
続いて睦、弥生がやってきた。
「父さん、おっは~。」
すでに着替えも終えている。
「相変わらず、お前さんたち三人は早いな。」
だが、卯月と朝霜はまだだった。
「皐月、卯月と朝霜は?」
と秦が聞くと、
「ん? まだ寝てるよ。」
と答える皐月だった。
ハァ、しょーがねーなぁ、とため息をつく秦だったが、
「じゃ、起こしてくるか。」
そう言って、こども達の寝室に入っていった。
朝霜の、寝相は・・・酷かった。
卯月も、似たようなモンで・・・
掛け布団を蹴飛ばして、身体の上にない。
卯月に至っては、掛け布団を抱き枕の様に抱え込んでいる・・。
秦は・・声を掛けることなく、朝霜の足の裏を・・・こちょこちょこちょこちょ・・・と。
「!! くっ、ひゃはははははっ!」
「起きろ!」
「起きる・・・」
そう言って身体を起こした瞬間、ゴン! と音がした。
「イッテェェ!!!」
3段ベッドの天井に、頭をぶつけたのだ。
「あ、あんだよ! イッテェ!」
「自分で起きないからだよ? ほらさっさと起きる! 朝飯、出来てるぞ。」
そう言って部屋から出た。
0645。
食堂で、秦、皐月、睦、弥生の四人が朝食を摂っていた。
遅れて、卯月と朝霜がやってきた。
二人のお味噌汁をよそい、ご飯をよそった。
「そういや、お母さんは?」
いつも鳳翔が居るのに、今日はいないから気になっていた睦が聞いた。
「ああ。 鳳翔は体調不良でな。 風邪っぽいんだが、きょう一日、休ませることにしたからね。」
「「え?? 体が悪いの?」」
「「な、なんで?」」
と驚くこども達。
「大丈夫だよ。 たぶん、季節の変わり目も重なって、疲れが溜まってるんだと思うよ。」
「なら、いいけどさぁ・・」
と訝しがる朝霜だった。
「とにかく、炊事洗濯は、きょう一日は俺がやるからね。 いいね?」
「了解だよ。 父さん。」
と納得してくれたようだった。
「それで、あたしたちに出来る事はないの? 何か手伝うよ?」
と睦。
「じゃあ、学校から帰ってきてから、買い出しに行ってもらおうかな? うーーんと、今日の晩ご飯は、豆腐ハンバーグにしようかと思うんだけど、どう?」
「いいよ。 あたいは。」
「皐月たちみんなは?」
【異議なーーーし!】
「へへっ。 父さんの手料理だぴょん! ひっさしぶりぃ!」
という事で、今日の晩御飯メニューは、豆腐ハンバーグに決まった。
朝食後、急いで五人分のお弁当を用意する秦。
メニューは、出汁巻き卵、たこさんウインナーに、鳳翔が作っておいた煮物、豚ミンチの肉団子、豚ミンチ肉をそぼろにした、そぼろご飯だ。
肉団子には、ケチャップを添える。
それぞれ、2段のお弁当箱。
下段にはそぼろご飯。上段におかずとサラダ。
五個のお弁当が、出発ギリギリになってようやく出来上がった。
「遅くなったね、ゴメンね。 はい、お弁当。」
「わーい、父さんのお弁当だ! へへへ、楽しみぃ。」
【じゃ、いってきまあす!!】
秦手作りのお弁当を持って、元気よく学校へと出ていくこども達。
「行ってらっしゃい! 気を付けてな! ちゃんと勉強するんだよ?」
と見送る秦だった。
そして五人は駄弁りながら学校へと向かうのだった。
◇
朝食の後片付け、洗濯を終え、再び厨房に入った秦。
作るのは、病人の鳳翔のご飯だ。
食欲があまりないだろう、と考え、たまごおじやを作ることにした。
一人用土鍋に出汁を張って、炊いたご飯を入れて煮込む。 ここには・・・なぜか一人用土鍋がある。それも7つも。
暫く煮て、ご飯がつぶれるくらいになったら、とき卵を流し入れ、芽ねぎを散らして完成だ。
おじやと小皿に梅干しを用意した。
そしてもう一つ、林檎をすりおろしたのを用意した。
なぜか、こういう時は林檎だ。 ミカンやバナナではなく、だ。
秦も小さいころ、風邪を引いたときは、母親にすりおろしの林檎を食べさせてもらった記憶がある。
すりおろし林檎とおじや、薬を持って寝室に向かった。
コンコンとドアを叩き「入るよ。」と。
「鳳翔? 体調は・・・どんな感じだい?」
と声を掛けると、寝ている鳳翔が、首だけをこちらに向けてきた。
その顔は熱で赤いし、目は潤んでいるようだ。
「あ、あなた。 子供たちは?」
まったく、他人よりも自分を心配しなさい、と心の中で思った秦だったが、口には出さなかった。
「ああ。 さっき学校へ行ったよ。 はい、遅くなったけど、朝ご飯。 どう? 食べれる?」
ベッドサイドまでお盆を持って来た。
「はい。 私・・お腹、空きました・・。」
起き上がろうとするが、秦がそれを止める。
「無理をしないでいいから寝てな。」
ベッドのそばまで来て、
「おじやを作ったんだ。 ちょっとくらいは食べようか?」
そう言って、レンゲにおじやをすくって、フーッフーッと息を掛けて冷まして、
「はい。」
と鳳翔の口元まで、レンゲを差し出した。
秦の顔がほんのり、赤い。
え?? っと思った鳳翔だった。
(え? 一人で食べれるけど・・ これって・・)
そう思うと顔が赤くなっていく・・
「どうした? 食べれないか?」
「え、いえ、いただきます・・」
(こ、ここは・・・ 病人になりきりますか・・・)と覚悟を決めた。
そして口を開けた。
あーーんっと。
その口にレンゲを入れ、おじやを口に流し込む。
(あ・・ これ、カツオ出汁ですね、いい塩梅ですね、美味し。)
飲み込むと二口目を。 あーーんっと。
また、おじやをレンゲにすくって、息を吹きかけて、冷まして・・
鳳翔の口に入れる。
(ん、温かくて、美味しい。)
続けて、鳳翔は口を開けて、催促する。
あーーん。
それをみて、秦は微笑んで、またおじやをすくう。
そうして時間を掛けたが、お茶碗1杯分は食べただろうか。
「ありがとうございます。 美味しかったです。」
とニッコリと微笑む鳳翔。
「それは良かった。 味はどうだった?」
「はい。 いい塩梅でしたよ、あなた。」
とベッドで横になったまま秦を見つめていた。
「口直しに、すりおろし林檎は食べる?」
「あ、はい。 いただきます。」
「はい、あーーん。」
スプーンに林檎をすくって、鳳翔の口元まで持って行った。
んっと、口を開けて、催促する。
すりおろし林檎を口の中に入れて、
「どう?」
と聞いてみる秦。
口の中で、すりおろしの林檎の触感がいい。
シャリシャリして、果汁があって。
飲みこんで、更に口を開けた。
あーーん、と。
更にすりおろし林檎を口に入れた。
鳳翔は、すりおろし林檎を3口ほど食べて、満足そうな顔をして秦を見ていた。
「ん? どうした?」
「あ、いえ。 あ、あなたに食べさせてもらって・・・優しくしてもらって、私、幸せだなぁって。」
と顔を赤めてそう話した。
それを聞いた秦も顔を赤めた。
「だって・・ 惚れた女が寝込んでいるんだ。 これくらいはさせてもらうさ。」
そして、
「俺が倒れたら、看病をしてもらうからね。」
ニコリと笑って言った。
「さあ、薬を飲んで寝てくれ。」
薬を飲んで、更に寝ようとしたが、
「あなた・・・」
そう言うと、手を、布団から出してきた。
それに気づいた秦は、その手を取って握った。
「ああ。 傍に居てやるから、ゆっくり休みな。」
黙って頷くと、目を閉じて、すぐに眠りに落ちた。
暫く、秦は鳳翔の手を握っていた。
寝ている鳳翔の顔は、満足そうだった。 小気味よい寝息がしてきたのだった。
◇
秦は、その日の書類仕事を寝室に持ち込んで、鳳翔の傍でこなしていた。
鳳翔は、朝の食事の後から寝たままだった。
ただ、その顔は、苦しんでいる表情ではなく、微笑んでいるような、安らかな表情だった。
時刻が1500になったころ、玄関から声が聞こえてきた。
【ただいま!!】
と。
睦や皐月らが帰って来たようだった。
(ああ、もうそんな時間か)
秦は、そーっと部屋を出て、居間へと向かった。
居間では、睦らが鞄を置いて寛いでいた。
朝霜と卯月は、冷蔵庫からお茶を持ちだして飲んでいた。
「あー、冷た!」
「あ、しれーかん! お母さんの具合は、どうなの?」
全員の視線が秦に向かう。
「ああ。 だいぶ熱は下がったから、大丈夫だと思うよ。」
「良かったあ。 やっぱり、心配だったんだぁ。」
「心配してくれてありがとうね。 そうとはいえ、晩ご飯の用意をしないといけないから、みんな、手伝ってくれる?」
「「おっけー!!」」
「じゃあ、挽肉と豆腐の買い出しを、睦と卯月にお願いするね。 皐月と弥生は洗濯ものの取り込みをお願い。 朝霜は俺の手伝いだ。」
それいけ!! っと指示を出して、みんなそれぞれに散って行った。
「ねぇ、アタイは何をするんだい?」
「朝霜は、まず、米を砥いでくれ。 研いだら炊飯器に入れてね。」
と指示を出す。
「了解っさ!」
腕まくりをして、お米を流水で砥いでいく朝霜。
よっ、このっ、と声を出しながら。
何度か水を入れ替えて、砥ぎ終えたら、炊飯器に入れる。
さすがに7人分のお米の量は多かった。 しかも、5人は食べ盛りだし。
炊飯器をセットして、付け合せの調理に掛かった。
◇
買い出し組は、警備部から5分ほどのところにある、小さいながらも食品スーパーに買いにきた。
「おや? 楠木さんとこのお嬢ちゃんじゃない? 今日は鳳翔さん、お母さんは、どうしたの?」
「こんにちは。 お母さん、風邪ひいて寝込んでんの。 だから今日はあたし達がお手伝いなの。」
「そうなの? えらいねぇ。 で、今日は何を買いに来たの?」
「えっとね、合挽の挽肉に、お豆腐!」
「あいよ。 合挽きはこっちね。 豆腐は・・・これだね。」
お目当てのモノはちゃんと買えた二人だったが、
「今日は、あんた達にだけ、おまけしといてあげたからね。」
と挽肉をやや多めに入れてくれた。
「「え? いいの? ありがとう!!」」
(でも、この量って、おまけの域を超えてるんだけど・・・ ま、いっか。)
「で、今日はお父さんが料理をするのかい?」
「ううん、みんなでするんだ。 ね?」
「そうぴょん。 みんなで、分担なんだぴょん。」
「そうかい。 そりゃ、偉いねぇ。 また、いらっしゃい!」
◇
皐月と弥生の洗濯組は、物干し竿から取り込んでいた。
洗濯物を並べて居間で畳んでいる。
各人ごとに仕分けをしながら。
仕分けたのちは、各人用のタンスに入れていった。
「結構な量だね。」
「まあ、七人分だからねぇ。 でも、お母さん、これを毎日やってたんだ。 大変だぁ。」
そう、何事にもにこやかな鳳翔からは、その大変さが伝わってこないが、実際に代わりにやってみると、結構、大変なのだった。
◇
「ただいま! 買って来たよ!」
と買い出し組が帰って来た。
「おかえり。 ちゃんと買えた?」
「うん。 はい、これ。」
首尾よく買えたようだ。
材料を秦と朝霜に渡した。
「あれ?」
と秦が気がついた。
「この挽肉、ちょっと多くないか?」
「うん。 お母さんの代わりって言ったら、お店の人がおまけしてくれたよ?」
「そうなんだ。 よかったな。」
と微笑む秦だった。
そこへ洗濯組も終えたらしく、一緒に居間に入って来た。
「ふぅ。 洗濯物の取り込み終わったよ。 結構、疲れたぁ。」
と嘆く皐月だった。
それを見て微笑む秦だった。
秦は次に、
「じゃぁ、朝霜。 これからだぞ。」
そう言って朝霜と二人でメインディッシュの調理開始だ。
とはいっても、簡単な豆腐ハンバーグなので、そんなに難しくは無い。
挽肉に香辛料、つなぎのパン粉を入れて、ある程度かき混ぜ、そこに水を切った豆腐を入れる。
全体を万遍なく混ぜるが、豆腐はあまり潰さないようにした。
今回は、タネはまん丸に作った。
「しれーかん、なかなか丸くなんないよ~」
なかなか苦戦をしている朝霜だったが、
「どれどれ? お、そんなことないぞ。 なかなかいいじゃないか。 そんなにまん丸にならなくてもOKだよ。」
「えぇ、そ、そうかい。」
と言いあいながら調理が続く。
それを居間から見ている4人の眼。
「今日は、朝霜ちゃん、大人しいね。」
「うん。 いつもは突っかかるくせにね。」
「まあ、父さんのこと好きなんだから、今くらい、いいんじゃない?」
四人の顔は・・・ニシシと笑っていた。
その声が聞こえていた朝霜が、
「みんな、うっさいよ! だまってなよ!!」
と反論するが、その顔も笑っていた。
そうこうしているうちに、タネが7人分出来た。
次は、タレだ。
今回は、豆腐ハンバーグなので、大根おろしにポン酢をチョイスした。
和風で締めるつもりだ。
7人分の大根おろしとなると、結構な量だ。
「じゃあ、朝霜、頑張ってくれ。」
「おっけー。 まかさっしゃい!!」
返事はいいが、おろしはじめると、結構疲れる。
しかも、今回は、目が細かいおろし器を使ってるから余計だ。
大根の半分ほどをおろした時、
「それくらいでいいだろう。 ありがと、朝霜。」
「はああああ、疲れるわ~、これぇ。」
水分を絞って、ポン酢を加えて、混ぜておく。 これでタレは完成だ。
タネは、食べる直前に焼けば、焼きたてを食べれる。
そして・・夕食時。
タネをフライパンで焼いていく。
焼くのは秦だ。
焦げ目が付けば、蒸し焼きにする。
お皿に盛りつける。
おろしタレは、たっぷりと。
付け合せは、ニンジンのグラッセ、茹でブロッコリーだ。
七人分が用意でき、食堂のテーブルに並ぶ。
「わーい、お腹空いたよー。」
「さあ、もうちょっとだから。 皆も手伝って。」
炊き上がりのご飯をよそって、準備完了だ。
◇
そして、秦は鳳翔を呼びに来た。
ドアをノックして
「入るよ。 どう? 体調は?」
と。
ベッドの上で上半身を起こしていた鳳翔が振り向いて
「あ。 大丈夫です。 もう、すっかり良くなりましたよ。」
と元気そうな声で答えていた。
「どれどれ。」
と秦が額を、鳳翔の額にくっつけて熱を測った。
二人の頬が朱くなる。
「ん。 大丈夫だね。」
とにこやかに、ホッとする秦だった。
「夕ご飯が出来たんだ。 食べれる?」
「はい。 いただきます。 私、もうお腹ペコペコなんです。」
と朱い頬に手をあてて言う。
「はは。 お腹がすくぐらいなら大丈夫だね。 じゃあ、行こうか? ・・・よっと。」
と鳳翔をベッドから抱き上げた。
「キャッ。 えっ、あの・・・・」
いわゆる、”お姫様だっこ”だ。
「あ、あの・・ 私、重いですから・・・」
「何言ってんだ。 こういう時くらい、やらせてよ。 鳳翔は軽いなあ。」
と言ってだっこのまま、食堂へと戻って行った。
鳳翔は赤めた顔のまま無言で秦に身体を預けた。
食堂へ入ると・・・
「父さん、おそーい! って、お母さん?」
「遅くなったね。 ご飯にしよう。」
「父さん、それ、反則! ボクもしてよ?」
「あ、アタイも!」
「はははっ。 また今度な。」
お姫様だっこのまま、鳳翔のいつもの席まで抱いて行って、座らせた。
「みんな、今日はゴメンなさいね。 寝込んじゃって。」
「ううん、 大丈夫だよ。 今日はみんなで協力してやったんだよ。」
と睦や皐月が話した。
「そう? みんな、ありがとう。」
「さあ。 食べよう。」
手を合わせて、
【いただきま-す。】
と。
豆腐ハンバーグを一口食べて、
「ん、美味しい。 良くできていますよ、あなた。」
「はははっ。 それはよかった。 でも、作ったのは俺だけじゃないからね。」
「そうなんですか?」
「へへへっ。 あたいも手伝ったんだよ。 どう? 上手くできてるでしょ。」
「そうなの。 ありがとう。 美味しいわよ。」
そう言われて、へへへとニヤツく朝霜だった。
「良かったな朝霜。 今日は、全員に手伝ってもらったんだよ。 買い出しに睦と卯月、洗濯取り込みに皐月と弥生がね。」
「そうだったんですね。 みんなありがとう。」
そうニッコリと微笑んでこども達を見た。
「これくらいならどうってことはないぴょん!」
「ふふふ。 じゃ、今度も手伝ってもらおうかしら。」
「任せてぴょん! ね、皆。」
「うん。 もっと手伝うから、任せて?」
「ふふふ。 ありがとう。 みんな、優しくて、涙が出ちゃうわ。」
嬉しさいっぱいで、目に涙を浮かべる鳳翔だった。
「こらこら。 あんまり鳳翔を泣かさないでくれ。 さあ、ご飯を食べよう。 つけダレも朝霜と一緒に作ったんだぞ。 ちょっとアクセントをつけてみたけど。」
今度はたっぷりとつけダレをつけて頬張る。
「ん。 これって、醤油わさびですね。 確かに、ツンとしますけど、また味が変わって美味しいですね。」
「ははは。 そうだろう。 朝霜と俺との自信作だぞ。」
元気になった鳳翔を交え、賑やかな夕食となった。
(やっぱり、みんな元気なのがいいよなぁ。)
と思い、微笑む秦だった。
◇
夕食の後、入浴を済ませた七人が居間で就寝までの時間を過ごしていた。
こども達は、宿題をしていた。
「ねぇ、ここはどうするの?」
「それはねぇ・・・・・・」
「あ--! 意味わかんねぇよ!」
と嘆く朝霜。
「何をやってんだ?」
と秦が聞いた。
「国語だよ。 古文なんだ。」
と皐月が説明してくれた。
「難しく考えるからだよ?」
「だってぇ、暗号みたいじゃん!」
「暗号って・・・その表現もすごいけど・・・」
と呆れる秦。
「暗号のマニュアルだと思えば、いいんだよ。」
と弥生。
(古文を、暗号のマニュアルと表現するのも、すごい発想だ・・・)
こども達が悪戦苦闘する姿を、秦と鳳翔が見ていた。
宿題をする五人を横目に、二人の世界だった。
「寒くない?」
「はい。 大丈夫です。」
羽織り物を羽織っているが、それでも、
「こっちへおいで。」
と秦が誘う。
「ええ。 それじゃあ、遠慮なく・・」
と、鳳翔が秦にもたれかかった。
頭を秦の肩に預けた。
腕に抱き着いて、勉強するこども達を見ていた。
「こうしていれば・・ 暖かいです。 それに・・ あなたを感じられて、安心します。」
と、潤んだ目で秦を見ながら鳳翔が言う。
聞いていれば、こっちまで熱くなる会話だったのだが・・
それを聞いていた睦が、
「ったくもう! 父さん、お母さん、イチャイチャしすぎにゃし。 これ以上、乙女の前でやらにゃいで。 こっちまで恥ずかしいにゃしい やるなら部屋へ行くにゃし!」
と少々、おかんむりだ。
「「そうだよ。 勉強がはかどらないよ。」」
と皆から苦情たっぷりだった。
「「あぁ、ごめん。 気を付けるよ。」」
と平謝りの秦と鳳翔だったが、お互いを見やって顔を赤めていた。
それでも二人は寄り添い、引っついたままだった。