Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~   作:鶉野千歳

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五月。
今年もやってきた母の日。
子供たちは、初めて母・鳳翔にプレゼントをすべく考えるが・・



母の日と父の日を・・(1)

五月の上旬のころ、睦が部屋で他の四人に話していたことがあった。

 

「ねぇねぇ、来週の日曜日、母の日なんだけど、どうしようっか?」

 

と睦が部屋に居たほかの四人に向かって言った。

 

「あー、母の日か。 もうそんな時期なんだね。」

 

「そうだねぇ・・ 何しよっか?」

 

そう皆の返事だったが・・

お花?

お花なら、カーネーションかぁ・・

家事手伝い?

炊事洗濯だね・・

肩もみ?

うぅぅぅぅん・・

・・・

いくつかの案が出た。 出たが、どれもありきたりで、”これっ!”というものは想い至らなかった。

 

「ねぇ、お母さんは何がいいのかなぁ。」

 

と睦が言うと、

 

「だいたい、お母さんは働くの大好きだし、”ゆっくりする”っていう単語を知らない人だし・・」

 

と皐月が言う。

その言葉に、朝霜、卯月、弥生が、無言のまま首を縦に振るのだった。

”働き者”と言うのが皆の共通認識であったが、それは間違いではなかった。

五人は、頭を寄せ合って、うぅぅぅぅんん・・・と唸り声を上げて考え込んでしまった。

 

「でも、来月には、父の日もあるだけどなぁ・・」

 

と、睦がボソッと呟いた。

 

「母の日と父の日かぁ・・ ! そうだ!」

 

天井を見上げて考えていた皐月が、声を上げた。 何か思いついたようだった。

 

「な、なんだよ? 皐月ちゃん?」

 

「ね、お母さんがゆっくりする時って、父さんと一緒に居る時だよね?」

 

「そういえば、そうだね。 あの二人がイチャイチャしてるときかな。 それがどうかした?」

 

ふっふっふっ。 と不敵に笑う皐月。

 

「いいこと思いついちゃったぁ。」

 

キャハって言う言葉を聞いたような気がするほど、笑っていた。

 

「あのね・・・・・」

 

「ははーーん、そういう事ね。」

 

「いいんじゃない? それだと、一石二鳥だね。」

 

「一応、お母さんにジャブを打ってみるから。」

 

と相成った。

 

 

ある日の午後、食堂ではなく、居間で鳳翔が絹さやの筋摂りをしていた。

絹さやを一つ手に取り、枝側の端を折り、筋を取っていく。

反対側の筋もとっていく。

絹さや一つに筋が二つある格好になる。

筋を取らなくても食べられるが、食べたときに硬かったり気になったりするから、筋は取るのだった。

筋取りを始めてしばらくたったころ、皐月がやってきた。

 

「お母さん、何やってるの?」

 

「絹さやの筋取りよ。」

 

「筋取り?」

 

「ええそうよ。 筋取り。 これを取らないと食べたときに筋が残って食感が悪いわ。」

 

「そうなんだ。 ・・ボクも手伝うよ。」

 

「あら、ありがとう。 じゃぁ、残りを手伝ってくれるかしら。」

 

「うん、いいよ。」

 

そう言って、鳳翔、皐月の二人で絹さやの筋取りを始めた。

皐月が手伝い始めて10分程たったとき、

 

「ねぇ、お母さん。 もうすぐ母の日なんだけど、お母さんは何か欲しいものとかある?」

 

とどストレートに聞いてみた。

 

「え? 母の日?」

 

「うん。 皆で何か贈ろうってことになってさ。 何がいいかなって。」

 

「ありがとう。 ふふふ。 私は特に要らないわ。 皆のその気持ちだけで充分よ。」

 

そうニコリと微笑んで皐月を見ていた。

 

「え~、そうは言ってもさ・・・」

 

「大丈夫よ。 ありがとうね。 さあ。終わったわね。 今日の夕ご飯に、絹さや卵を一品に加えますからね。 楽しみにしててね。」

 

そう言って片付け始めた鳳翔。

その鳳翔に、

 

「もう。 お母さんってば、遠慮しすぎだよ? 少しはボクみたいに、ボクたちに甘えてもいいんじゃない?」

 

と言って、鳳翔の膝に抱き着いていた。

 

「あらあら。 甘えたさんね。 でも、あなたたちの方こそ、もっと甘えてもいいのよ?」

 

そう言いながら、皐月の頭をゆっくりと撫でる鳳翔だった。

そこへたまたま通りかかった弥生が入ってきた。

 

「あ・・」

 

と呟いた。

 

「弥生ちゃんもおいで。」

 

と鳳翔が手招きして誘った。

 

「うん・・」

 

弥生も皐月のように、鳳翔の膝に抱き着いた。

右ひざに弥生、左ひざに皐月だ。

 

「「へへへへ。」」

 

と二人が笑えば、

 

「ふふふ。 まったく、甘えん坊さんね。」

 

と鳳翔が二人の頭を優しく撫でていた。

 

 

その日の夜、こども達の部屋では、就寝までの時間で話し込んでいた。

 

「やっぱりお母さんは、あれこれ欲しいとか、してもらいたい、とかは無かったわ。」

 

「「「やっぱりかぁ・・」」」

 

「予想通りって言えば予想通りだね。」

 

「ま、働くの大好きな人だからねぇ。」

 

皆が溜息をつくほど、欲のない”お母さん”なのであった。

話は変わって、皐月が皆に進捗状況を聞いた。

 

「で、お店の方はどうだったの?」

 

答えるのは、まずは睦。

 

「うん。 その日は大丈夫って。 9時くらいから17時くらいまでならOKって確認もとれたよ。」

 

「やったね。 で、送迎とかしてくれるの?」

 

「うん。 お願いしておいたし、送迎してくれるって。 9時に迎えに来てもらえればいいよね?」

 

「部屋はどんな感じなの?」

 

この質問には卯月が答えた。

 

「えっとね、和室の離れで・・・ 専用の部屋風呂があって、静かなところだって。」

 

「昼食は?」

 

この質問には弥生だ。

 

「手配済みだよ。 和洋食になるんだけど。 おまけに、おやつまで付いてるんだって。」

 

「うん、手配はばっちりだね。」

 

「あとは当日だね。」

 

「朝霜ちゃんと卯月ちゃんは、ちゃんと朝から起きてよ? いい?」

 

「な、なに、その言い方わ! あたいらが起きれないみたいじゃん!」

 

「え、なにって、その通りだから言ったんだけど?」

 

ガン!

テーブルに額をぶつけた朝霜。

 

「な、なんでそうなるかなぁ・・ ちゃんと起きるよぉ。」

 

「まぁまぁ、皐月ちゃん。 当日はあたしも一緒に起こすから、ね?」

 

「うん、まぁ、期待してるよ、睦ちゃん。」

 

 

そして・・

母の日当日の朝、0500。

もそもそと起きだしてきたのは・・ 睦と皐月だった。

 

「ふわぁぁぁ・・ ねむぅい・・」

 

寝ぼけ眼で起きだしてきた。

二人は朝の身支度をして、厨房に入った。

まだ、厨房の”ヌシ”は起きてはいなかった。

 

「さてと。 まずはお米を研いでっと。 じゃぁ、睦ちゃん、お味噌汁をお願い。」

 

「うん。 了解。」

 

しばらくして弥生が起きてきた。

 

「おはよ。」

 

「あ、おはよう。」

 

「私は何する?」

 

「残りの二人をお願いしてもいい?」

 

「うん。 いいよ。 起こしてくる。」

 

そう言って弥生が後の二人を起こすことになった。

お米は皐月だった。

 

「よし。 お米を研ぎ終えたから、炊飯器に入れてっと。 お水は・・・これくらいだね。 これでセット完了っと。」

 

一方の睦は、昆布だしをとり終えていた。

 

「睦ちゃん、どう?」

 

「うん。 大丈夫。 今日は利尻昆布のお出汁だよ。」

 

お出汁の鍋から立ち上がる昆布だしの匂いを嗅いでいた。

 

「クンクンっと。 おぉ、いい匂いだね。」

 

「へへへ。 そうでしょ。 今日の具は、お芋さんだよ。」

 

「お芋さん?」

 

「うん。 これ。」

 

睦が見せたのは・・

サツマイモなんだが、やや小ぶりだ。

 

「ひょっとして、鳴門金時?」

 

「せいかーーい! このお芋さんは甘くて柔らかいからね。」

 

鍋に張った出汁に厚めに切ったサツマイモを入れて煮ていた。

 

「じゃぁ、ボクはだし巻き卵だね。」

 

皐月がだし巻き卵を作る。

卵に出汁を入れて、数回かき混ぜる。

玉子焼き機に油をひいて、溶き卵を流しいれる。

ジューっと音がするが、音よりも浮いてくる気泡の方を気にするのだ。

気泡を箸で潰していく。

少し固まったかな、と言うぐらいで鍋の端に寄せていく。

空いた鍋にさらに溶き卵を流しいれていく。

同じように浮いてくる気泡をつぶしていくが、そのころには、寄せた卵を中心になるように巻いていく。

 

「よっ。 くのっ。 えい!」

 

なかなかに、巻くのは難しい。

鳳翔のように、毎日だし巻き卵を焼いているわけではないから、かなり難しい。

 

「どう、皐月ちゃん? 上手くいった?」

 

「ちょっと、崩れちゃったよー。 これで勘弁してね?」

 

「いいんじゃない? なかなか上出来だよ。」

 

だし巻き卵を切って、お皿に移して完成だ。

睦は出汁にお味噌を溶いていく。

これでようやくお味噌汁らしくなった。

味見をしてみて・・

 

「うん、いい感じじゃない!」

 

「上手くいった?」

 

「OK、OK!」

 

と、皐月と睦が料理をしているころ、2階のこども部屋では弥生が残りの二人を起こしにかかっていた。

 

 

ウニャウニャ・・・

カァーーー・・・

卯月と朝霜は・・ 爆睡中であった。

まずは、卯月から、と思った弥生。

最初は、身体を揺すった。

 

「卯月ちゃん、起きて。 卯月ちゃん。」

 

と。

それでは当然、起きない。

で、段々と揺すりが大きくなる・・

 

「うづきちゃん! 起きて!! 今日は何の日?」

 

そこまで言うと、

 

「うぅぅぅーん、眠い ぴょ・ん・・ 今日は・・・」

 

ハッと目を開けて、

 

「そうぴょん! 今日は、あの日ぴょん!」

 

ガバッっと起きてきた。

 

「朝霜ちゃん、朝霜ちゃん、起きるぴょん!」

 

「あんだよ・・ 眠いじゃんかぁ・・・」

 

「今日は、あの日ぴょん! 起きるぴょん!」

 

「ふぇ、あの日ぃ・・     そ、そうだった! あの日だ!」

 

こちらも、がばっっと起きるが・・

ゴン!

ベッドの天板に頭をぶつける朝霜。

 

「ッイッテェ!」

 

「ほら、早く起きて!」

 

「イッたいなあ、もう!」

 

最後まで弥生の世話を焼かす朝霜だった。

 

 

今朝は、鳳翔や秦の手を煩わせることなく、起きることを課していたこども達だった。

皐月と睦による朝食の準備が出来上がるころ、弥生、卯月、朝霜の三人が食堂へとやってきた。

 

「これでみんな揃ったね。 じゃぁ、父さんとお母さんを起こそう!」

 

そう皐月が言った途端、食堂に鳳翔が入ってきた。

 

「あら。 どうしたのみんな? こんな朝早くからって、え?」

 

テーブルの上を見て、動きが止まっていた。

既に朝食の準備が出来ていたのだった。

 

「え? これって・・ もしかして、あなたたちが用意したの?」

 

「うん。 そうだよ。」

 

「ど、どうして・・」

 

そう言っているうちに秦も起きてやってきた。

 

「お、おはよう。 ん? どうしたんだ?」

 

「あ、あなた。 これをこの子たちが・・」

 

テーブルを見ると既に朝食の用意が出来上がっていた。

 

「え? これを皆が?」

 

「そうだよ。 皆と言っても、ボクと睦ちゃんなんだけどね。」

 

「な、なんで?」

 

秦も鳳翔も、なんで? の表情をするしかなかった。

 

「まぁまぁ、細かいことはあとで話すから、まずは朝ごはんだよ。 皆で食べようよ。」

 

「「まぁ・・」」

 

と納得していない秦と鳳翔だったが、とりあえず、朝食をとることにした。

 

【いっただきまぁす!】

 

納得いかないまでも、お腹は空くのだ。

炊きたてのご飯は、やっぱり美味しい。

上手く炊けていた。 程よい柔らかさだった。

サツマイモのお味噌汁。

やや甘いお芋さんは、角が取れるくらいに煮てあった。

 

「ん。 よく炊けているわ。 柔らかくて、甘くて。」

 

だし巻き卵も、

 

「塩加減はちょうどいいわね。 あとは回数を重ねれば、形も良くなるわよ。」

 

それとは別に、焼き魚が一品あった。

塩鮭だった。

秦が箸で身をほぐして一口。

 

「うん。 程よい塩加減だな。 塩辛くない。」

 

「そうですね。 これくらいならちょうどいいですね。」

 

秦と鳳翔は、睦と皐月たちが作った朝食に舌鼓を打った。

 

「美味しくできているわね。 合格よ。」

 

へへへへっ、と笑う睦と皐月だ。

どや顔であった。

 

「「「ご馳走様でした!」」」

 

「美味しかったわよ。」

 

と微笑む鳳翔だった。

食事を終え、

 

「で、今日はなんでそんなに早起きなんだ?」

 

と秦が聞いた。

 

「そうよ、そうよ。」

 

と鳳翔。

睦たちが顔を寄せてから、秦と鳳翔をみた。

 

「今日は何の日か知ってる?」

 

ん?

そこで秦が気づいた。

 

「そうか。 今日は、母の日だったか。」

 

「そうだよ。 母の日だよ。」

 

「え? 私は、そういうのは遠慮するわよ?」

 

遠慮気味に鳳翔が答えたが、

 

「ホラぁ。 お母さんはそう言うと思ったよ。」

 

皐月が睦たちを見ながら言った。

 

「でも、ちょっと違うんだなぁ。 今日は母の日だけど、来月には父の日もあるんだよね。」

 

そう言われて、

 

「そうだけど、それが?」

 

と答える秦だった。

フフフっと不敵に笑いながら、皐月が、

 

「私たちとしては、母の日、父の日を一緒にすることにしました!」

 

と胸を張って言った。

 

「「は?」」

 

秦と鳳翔は、なんのこっちゃと思った。

 

「えー、今日一日、お母さんと父さんの二人でイチャイチャし放題の時間を私たちからプレゼントします!」

 

「「はぁ??」」

 

秦と鳳翔は、さっきよりも大きな声だった。

 

「寝る時間以外だと、朝の短い時間と、執務の合間と、夕食後の時間と・・ でイチャイチャしてるけど、今日は朝から晩まで二人だけの世界に浸ってもらいます!」

 

「もう、手配は済んでるから、反対してもダメだからね。」

 

「しれーかんとお母さんの二人だけで、誰も邪魔しない時間を過ごしてもらおうと。」

 

ちょっと驚きながら、

 

「ちょ、ちょっと待って。 手配済ってどういうことだよ?」

 

「0900にお迎えが来るから。 夜は1800までだけど、昼食は手配済だし、夕食は私たちが用意するから。」

 

「え? お迎えって、どういう・・」

 

「あ、潮干狩りに行った海岸の近くにある料亭屋さんなんだけど、お昼の一日ならOKだったんで、お願いしたの。 だから0900に迎えが来て、1800に送ってきてもらえるように手配済だよ。」

 

「そ。 だから何にも心配しないで。 いい? 今日は、仕事もなし! 家事炊事もなし! いい、父さん、お母さん。 分かった?」

 

「え、あ、そうなのか・・」

 

「ど、どうしましょう・・」

 

鳳翔は秦の顔を覗き込む。

秦もまた鳳翔の顔を見ていた。

お互いが、

 

「「どうしよう・・」」

 

と声が揃うくらい、驚いていたし、困惑していた。

その時、睦から一言。

 

「まったく、この二人は・・。 素直にあたし達からのプレゼントを有難く受け取りにゃさい!」

 

「「「そうだ、そうだ!」」」

 

弥生が二人の前に来て、

 

「ゆっくりする時間をたっぷり作ったから、二人でまったりして来て。」

 

と。

 

「「まったりって・・・」」

 

弥生の言葉を聞いて、耳まで赤くなる秦と鳳翔だった。

そして、

 

「そういう事なら・・ 分かったよ。」

 

と、しぶしぶではあったが、こども達の言う事を聞くことにした秦だった。

 

「いいのですか?」

 

「ああ。 睦や皐月たちがここまで言ってくれているから、ここは甘えよう。」

 

「あ、あなたがそう言うなら、私は構いませんが・・」

 

「じゃ、決まりだね。 0900にはお店からお迎えが来るから、そのつもりでね。」

 

「あ、そうそう。 特に準備は要らないからね。 向こうで、お願いしている以外の飲み食いは、自腹だから。 一応、言っておくね。」

 

こども達の顔は、いちおうににこっりと笑っていた。

秦と鳳翔は、互いの顔を見やって、気まずそうに思っていたのだが、こうなっては仕方がなかったので、言う通りに聞くことにした。

 

「じゃあ、父さんとお母さんは執務室にでも入って待ってて。 後はあたしたちがやるから。」

 

そう言われて、秦と鳳翔は、しぶしぶ執務室に入っていった。

出ていった食堂では、睦らが後片付けを始めていた。

 

 

秦と鳳翔の二人が出ていった食堂では、

 

「さあ、始めるよ!」

 

と皐月が号令をかけたのだった。

朝食の後片付け、洗濯だ。

後片付けは卯月と睦だ。

 

「卯月ちゃん、使い終わりの食器を持って行って!」

 

「了解ぴょん!」

 

洗濯は皐月だ。

 

「さぁ、やるぞーー!」

 

掃除は朝霜と弥生だった。

 

「まずは食堂からだね!」

 

五人の分担で始まった。

0800。

朝食の後片付けを終え、食器類の水滴をふき取って食器棚にしまっていく。

 

「はぁ。 まずは朝の分が終了だね。」

 

「ふー。 結構な量になったぴょん。」

 

二人とは言え、七人分の食器は大変だった。

時間が0830になったころ、玄関前に一台の車が止まった。

 

「こんにちはー。 お迎えに上がりました!」

 

とやってきたのは、皐月たちが予約しておいた料亭の送迎車だった。

 

「はーい! ちょっと待ってくださぁい!」

 

と皐月が返事をして、秦と鳳翔を呼びに行った。

弥生が二人を連れてきていた。

 

「じゃあ、父さん、お母さん、行ってらっしゃいね?」

 

そう言われて秦と鳳翔は、

 

「「ホントにいいの?」」

 

と声を揃えていたが・・

 

「いいの、いいの。 だから、さっさと行く!」

 

足の運びが遅い鳳翔を、車に押し込んで、

 

「父さん、お母さんをちゃんと面倒見てね?」

 

「お母さんも、父さんをよろしくね。」

 

そうこども達に言われて、二人は車に乗ったのだった。

二人が載ると、車は料亭に向けて動き出した。

 

「じゃぁ、行ってくるね。」

 

「こっちは大丈夫だから。 行ってらっしゃい!」

 

五人に見送られながら車が走っていった。

見送った皐月たち五人。

 

「さあ。 やるよ!」

 

との掛け声で、こども達だけの一日が始まったのだった。

 

 

「ねぇ、睦ちゃん。 お昼はどうするの?」

 

「うん? お昼? お昼ご飯のこと?」

 

「うん。 どうするのかなって。」

 

「お昼は、チャーハンにするつもりだよ。 だから、ご飯を炊かないと。」

 

そう言って、昼食用にご飯を炊くことにした睦だ。

 

「じゃあ、うーちゃんがお米を研ぐね。」

 

「うん。 よろしくー。」

 

何度か水を入れ替えてお米を洗った。

その後に炊飯器にセットするのだった。

 

「これでおっけーぴょん!」

 

「卯月ちゃん、よくできました!」

 

へへへっと笑う二人であった。

 

 

皐月は、というと洗濯だったのだが・・

 

「うー、七人分は多いなぁ・・」

 

七人分の下着、肌着だけでもそれなりの数だ。

また、自分たちのセーラー服も洗うのだ。

今の時期のセーラー服は長袖夏服で、洗い替え用もあるが、基本着たきり雀なのだ。

が、さすがに暑くなってくると汗をかく。 するとやはり、臭うのだ。

女の子ともなれば清潔にしたいものなのだ。 だからたまに洗うことになっていた。

洗濯の前に準備だ。

下着用の洗濯ネットを使う皐月。

肌着も大きめの洗濯ネットを鳳翔は使っていたので、その方法に従うことに。

これで洗濯機を一回廻す。

次に、制服だ。

セーラー襟などの芯を外して、一着づつ畳んで洗濯ネットに入れていく。

洗濯ネットは大きめだが、それでも二着入ればそれなりに分厚くなる。

また、プリーツのスカートもあるのだ。

ファスナーを閉め、ホックも留めて、だいたい二つ折りにしてこちらも洗濯ネットに入れる。

ここまでやっても皐月一人では量が多かった。 なんせ五人分である。

 

「ひゃぁ、つ、疲れるぅ・・」

 

途中で、卯月と睦が手伝いにやってきた。

 

「皐月ちゃん、手伝うぴょん!」

 

「あ。 ありがとー。」

 

制服だけで洗濯ネットは五個だった。

ただ、鳳翔の着物と秦の軍服は、週末の洗濯物には入っていなかった。

こども達の制服が週末に来るから、鳳翔の着物と袴、秦の軍服は、鳳翔が平日に定期的に洗濯していたのだった。

 

「よし、これで準備オッケーだね?」

 

そう言って、大きめのたらいに、ぬるま湯を入れ、洗剤を入れて、制服のネットを入れた。

 

「ねえ、このたらいって、もしかして・・・」

 

「お。 覚えてたの? そう。 貝の砂抜きに使ったたらいだよ。」

 

「そうなんだ。 ん? でも、使う回数からして、逆じゃない? 洗濯用のたらいを砂抜きに使ったんだね、お母さん。」

 

「ま、そうなるわな。 へへへ。 気にしない、気にしない。」

 

と笑っていた。

三人でネットを押しては沈め、を繰り返して、押し洗いした。

グーっと、沈めてっと・・・

五十回くらい押し洗いをして、たらいのぬるま湯を入れ替え、洗剤を洗い流した。

 

「つ、疲れるぴょんーーー!」

 

「これは、めっちゃ大変だわぁ!!」

 

制服の押し洗いが終わるころには洗濯機も終わっていた。

これから干すのだ。

七人分の下着、肌着を干して、次に五人分の制服だが・・

制服は、シワにならないようにしなければならない。

上衣は袖を通して。 スカートはベルトの部分で吊るして。

風通しの良い日陰に干した。

干し終えるころには、三人ともヘトヘトになっていた。

 

「ハァハァ・・ 急がないけど、ヘトヘトになるじゃん・・」

 

「うーちゃん、もう動けにゃいーー。」

 

「ホントだねー」

 

そう言って玄関先で座り込んでいた。

 

 

朝霜と弥生は掃除だった。

二人は、鳳翔のような割烹着ではなかったが、掃除用のエプロンをしていた。

掃除機とはたきを持っていた。

掃除道具は他にモップもあった。

まずは、各部屋の窓を開け放ち、風を入れ、はたきで埃を落としていった。

埃は、そんなになかった。

日々鳳翔が窓枠までキレイに掃除していたから。

 

「そんなにないね、埃。」

 

「そうだね、やっぱお母さんの掃除が行き届いてるんだね。」

 

次は掃除機だ。

各部屋と廊下に掃除機をかけていく。

ここの掃除機は強吸引式だった。

畳みも、畳の目に沿ってかける。

脱衣所のマットや玄関マットまでも。

掃除機をかけ終わると、モップ掛けだ。

警備部の建物は、基本、土足OKなので、箒で掃き掃除をした後、モップで拭き掃除だ。

モップ掛けの最初は、わあぁぁぁっと楽しくできた。

廊下の端から二人で競争だった。

が、部屋数が多いのと広いのとで、段々と口数が減ってきた。

 

「「・・・・」」

 

次第に、

 

「し、しんど!」

 

「はぁはぁ・・ こんなに疲れるなんて・・・」

 

「これだけを、一人で・・」

 

「どれだけ早くやるんだよーー!」

 

「と、とにかく、もうちょっとで・・・」

 

お昼になったころになって、ようやく濡れモップで拭き終わった二人だった。

だが・・

カラ拭きだけが残ったとき、とうとう息を切らせて座り込んでしまった。

 

「はぁはぁはぁ・・ もう、だめだぁ。 もたないよー。」

 

「だ、だめ・・ 休む・・」

 

そこへ睦がやってきた。

 

「あ! ここにいた。 ど、どうしたの!」

 

朝霜と弥生が寄り添って座り込んでいたから、驚いていた。

 

「あ・・ 睦ちゃん・・ 疲れた・・」

 

「あたい、もう動けないよー。」

 

そのぼろ雑巾のような雰囲気をみて、一瞬、引いた睦だったが、

 

「い、今のところで休憩しない? もうお昼だけど。」

 

「「お、お昼? そうする・・」」

 

そう言って食堂によろめきながら向かっていった。

 

 

「みんな揃った?」

 

食堂に入ってきた睦をみて卯月が声をかけてきた。

 

「うん、この二人で最後だよ。」

 

睦の後ろから朝霜と弥生が疲れてぐったりして入ってきた。

 

「あちゃー、めっちゃ疲れてるじゃん! 大丈夫?」

 

「だ、ダイジョーブじゃないよー と、とにかく、水、水をおくれ。」

 

「はい、お水だよ。」

 

と言ってお水を持ってきたのは皐月だ。

コップを受け取って、ゴクゴクと喉を鳴らしながら水を飲む朝霜と弥生。

その姿をみて、

 

「だいぶお疲れのようだね。」

 

と。

飲み干して、ぷはああーと息を吐いて、

 

「ハぁー・・ 生き返ったよーー!」

 

「お疲れ様ぴょん。 早速でわるいけどお昼ぴょん。」

 

調理は睦が担当だった。

コンロに中華鍋を用意していた。

中華鍋を熱して、お玉半分ほどの油を入れた。

次に三個分の溶き卵を投入する。

熱した油のために、卵がすぐに固まっていく。

油にのって、ブクブクと膨らみながら。

そこへご飯を投入した。

さすがに一回で五人分はきついので、一回で三人分だ。

ご飯と卵をかき混ぜていく。

ある程度いたまったら、具材を入れていく。

5ミリ角に切った人参、焼き豚やらネギやらを入れ、香味ペーストを追加で入れて、さらにかき混ぜて炒める。

味付けに、塩、胡椒をして、醤油を回しいれた。

最後にきざみネギを入れて、軽くかき混ぜて完成だ。

これをもう一回繰り返して五人分のチャーハンが出来上がった。

 

「よし! いい具合に出来たにゃし!」

 

睦は満足する出来栄えだったようだ。

スープは卯月が担当した。

スープと言っても、中華スープに卵を流しいれただけなんだけど、味見をして、

 

「ちょっと薄い? どうかな睦ちゃん?」

 

「どれどれ・・ ん、ちょっと薄いかなぁ。」

 

塩胡椒を追加して完成だ。

 

「さあ、お昼ご飯だよ! 食べるにゃし!」

 

「「「おお! 美味しそう!」」」

 

テーブルにチャーハンとスープが並べられると、

 

【いっただきまぁっす!】

 

と掛け声の後、腹ペコの胃袋に収まっていく。

今日の味付けは、塩胡椒が強かったが、動いて汗をかいた体には、ちょうどよかったらしい。

 

「いい塩加減だよ、睦ちゃん!」

 

との声が多かった。

 

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