Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
そのころ、こども達は・・
そのころの秦と鳳翔は、と言うと・・
送迎車で料亭に着いた二人。
「本日はこちらのお部屋をお使いください。」
と案内されたのは、海に面した離れの和室だった。
「ほほう。 いい眺めだね。」
「海がキラキラして綺麗ですねぇ。」
「はい、この宿一番の眺めでございます。 昼食はお部屋でご用意させていただきますので。 御用がありましたらフロントまでご連絡ください。 では、ごゆるりと。」
そう言って仲居が出ていった。
入口の扉が閉まると、聞こえるのは波の音、と二人の呼吸する音だけだった。
この部屋は海に面してはいるが、全面開放!と言うわけではなく、縁側の先に小さいながらも木々が植えてある庭があった。
その庭の先に海が見えるのだった。
その木々のお陰で縁側には日影が出来ていた。
障子を開け放ち、ガラス戸も空けると風が入り込んできた。
「あら。 心地いい風ですね。」
縁側に足を崩して鳳翔が座った。
そして、秦を手招きしていた。
「あなた。 ここへ来てください。」
「あぁ。」
鳳翔の隣に、秦が縁側に足を投げ出して座ると、早速、鳳翔が身体を預けてきた。
「ふふふ。 何もしなくて、こうやって居られるなんて。」
微笑んで秦を見ていた。
「ははは。 こども達に感謝しなきゃな。」
と応えて鳳翔を見た。
「ええ。」
そう言って互いを見やって、口づけを交わす二人だった。
こども達もいない、誰もいない、今この時に、二人の口づけは、それは濃厚なものだった。
んっ、ちゅっ、むっ、ぴちゃ・・・
長い長い口づけが終わると、二人とも息が切れきれだった。
ただ、二人とも頬は赤く、目は潤んでいた。
「鳳翔・・」
「あなた・・」
ゆっくりと手を取り、寄り添う二人だった。
時間を気にすることなく、いつまでも寄り添っていた。
そして時間が経って、いつの間にかくぅぅぅぅっと音がする時間になった。
「あっ、やだ・・」
と鳳翔が言って、顔を赤めた。
「もうそんな時間か?」
いつしか時間は1200になろうとしていた。
音は、鳳翔のカワイイお腹の虫の声だった。
「お食事をお持ちしました。」
と仲居さんが入ってきた。
部屋のテーブルに昼食を並べていく。
「今日は牛カツです。」
そう言ってお皿を並べた。
メニューは、牛カツだ。
ご飯のお代わりはこちらのお櫃で、と言って部屋を出ていった。
「やあ、牛カツとはね。」
「まぁ。 美味しそうなカツですね。 あら? 衣が薄いのかしら。」
「ん? いや、衣はしっかりしてそうだぞ。」
二人して、
「では、頂こう。」
と言って、まずは牛カツに箸を伸ばした。
カツにはデミグラスソースが掛けられていた。
口に入れると、衣はカリッ。 中はしっとり柔らかい。
咀嚼して、
「これはとんかつと違って美味しいですね。」
とは鳳翔だ。
「うん、美味しいね。 このソースもいい感じだね。」
付け合わせのマカロニサラダも、マヨネーズもそこそこに効いていて、これまた美味しい一品だった。
小鉢も地物野菜を使ったものらしく、
「うん、このほうれん草の胡麻和え、美味しいです! お醤油がちょっと違うのかしら? ゴマも金胡麻ですね? 風味がいいですね。」
と鳳翔はご満悦のようだった。
「確かに。 この小鉢は美味しいなぁ。」
二人してご飯のお代わりをしたが、きれいさっぱり食べてしまった。
「さすが、料亭のことはあるね。 一品一品がすごく美味しいね。」
「はい。 シンプルでも味はしっかりしていますね。」
二人は満足だった。
「こりゃあ、睦や皐月たちに感謝しないといけないなぁ。」
「うふふ。 そうですね。」
食器が下げられたあとも、二人は縁側に座っていた。
鳳翔は秦に寄りかかり、腕をしっかりと絡めていた。
「出かけることも出来るけど?」
「いえ。 このままで。 あなたを感じていたいんです。 ずっと・・ このままで・・」
しばらくそのままであった。
風が心地よく吹き、日差しがそこそこに暖かい昼下がりだった。
「ふわぁぁ・・」
鳳翔が気が付くと、秦の膝の上に自分の頭が載っていた。
「え? あ、ご、ごめんなさい。 いつの間にか寝てしまったみたいで。」
「起きたのかい? ははは。 いいよ。 ずっとこのまま寝ていてもいいんだよ。」
そう言って秦は鳳翔の頭を撫でていた。
鳳翔もこの状況も、満更ではない、と思っていた。
鳳翔が身体を起こそうとしたときだった。
「キャッ」
秦が鳳翔を畳の上に寝かせ、覆いかぶさったのだ。
「あ、あの・・」
「鳳翔・・」
二人の顔は赤かった。
目も穏やかな目をしていた。
「鳳翔。 愛している・・ どこの誰よりも・・ 愛している。」
「あ・・ あなた・・」
鳳翔の目に光るものが浮かんできていた。
「はい。 私も、あなたを愛しています。」
そう言い終わると同時に二人の唇が合わさった。
ちょっと強引ではあったが、秦が鳳翔の唇を塞いだのだった。
「あなた・・ いい、ですよ・・」
秦は改めて鳳翔の額にキスをした。
次に鼻の頭に軽くキス。
もう一度唇にキス。
鳳翔の右頬にキス。
あ・・
秦の唇が徐々に下がっていく。
鳳翔の首筋を、上から下へと軽いキスの波・・
や・・
秦の手が鳳翔の袴の帯を解き始めた・・
そして・・・・二人は愛し合うのだった。
そのあと、帰る時間になるまで、寄り添い、抱き合い、二人だけの時間を堪能したのだった。
◇
昼食を終えた睦たちは、モップ掛けをみんなで手伝い、夕飯の買い出しまでには何とか終わらせていた。
「ふぅぅぅぅ。 結構キツイねぇ。」
「これをお母さん一人でやってんの? 信じらんなぁーい!」
「お母さん、やっぱ神だわ。」
そんなことを言いながらも一通りの家事を終えた睦たちだったが、ゆっくりもしていられない。
時間は1500になろうとしていた。
「あ! もうこんな時間。 皆次だよ!」
じゃぁっていうことで、
「洗濯取り込みは皐月ちゃんと朝霜ちゃんでお願いね。 弥生ちゃんと卯月ちゃんは買い出しお願いね。」
「ん、睦ちゃんは?」
「私はご飯を炊くね。」
「「了解だよ!」」
「で、夕ご飯は何にするんだい?」
「今日はね、回鍋肉にするの。」
「「ホイコーロー?」」
「今日は中華デーだね。」
「うん。 作ってみたかったんだあ。」
「え? 作ったことないの?」
「うん、ないよ。 だってお母さん居るし、父さんも作っちゃうし、あたしが作ることなんてないからさぁ。」
ふぅーーんっと納得する皐月たちだった。
「じゃあ、買い出し、行ってくるぴょん。」
「うん、よろしく!」
「それじゃあ、ボク達は取り込みだね!」
「うん、よろしく!」
弥生と卯月は買い出しに出ていった。
先日も来たことのある、近所の食品スーパー。
「こんにちは。」
と言って店に入る卯月達。
「あら、いらっしゃい。 またお手伝いかい?」
声をかけてくれたのは女将さんだった。
「うん。 今日はお母さんの代わりぴょん。」
「そうかい。 偉いねぇ。 で、今日は何を買いに来たのかな?」
「えっとね、薄切りの豚のバラ肉と、キャベツ。」
「そうかい。 えっと、豚バラ肉はこっちだね。 それと、キャベツ、キャベツっと。 キャベツはこっちの棚だね。」
「ありがとう。 え~っと・・ バラ肉はいくら買うの、弥生ちゃん?」
「1キロ。」
「へ? そんなに買うの?」
「でも、これくらい買わないと。 みんな食べるでしょ?」
豚バラ肉を1キロ用意してもらって、買い物かごに入れていく。
次はキャベツ。
棚に並んでいるキャベツを手に取って、
「うーん、どれがいいかなぁ・・」
見ると、どれもかなりの大きさをしている。
真ん丸ではなく、ちょっと扁平な形をしていた。
「たしか、重い方がいいんだよね?」
「うん。 そうだよ。」
「じゃあ、これかな。」
と卯月は一つのキャベツを手に取った。
大きめのキャベツだった。
「あら、良いキャベツを選んだわね。」
「へへ。 見る目あるでしょ。」
豚バラ肉とキャベツを買って、卯月と弥生は足早に警備部へと戻っていった。
◇
皐月と朝霜は洗濯物の取り込みだった。
七人分の下着と肌着を取り込み、個人ごとに仕分けて箪笥に入れていく。
「ひゃぁ、多いねぇ。」
「大丈夫、朝霜ちゃん?」
「うん、何とか持ってるよ。 それにしてもこんなに洗濯物が多いと整理するのも大変だあ。」
洗濯するときは、洗濯物かごに入っているのを、洗濯機に入れればいいのだが、取り込みは、各人の分を整理していかなきゃならないから、ある意味、洗濯するより取り込みの方が大変だった。
下着と肌着が終わると、セーラー服だ。
今日は天気も良く、風があったために、よく乾いていた。
「おーー、すっかり乾いてるじゃん!」
物干し竿から上衣を外して取り込む。
スカートもハンガークリップから外して取り込んだ。
下着はそうでもないが、制服はアイロンがけをしておくのだった。
アイロンと言っても、スチームをしてシワを伸ばすんだけど。
上衣とスカートに直接アイロンをあてると、生地が傷んで、テカテカするので、手ぬぐいかハンカチをアイロンの下に敷いて、スチームを掛けた。
特にプリーツのあるスカートは、プリーツを崩さないようにしないといけない。
「朝霜ちゃん、プリーツに気をつけてね。」
「お、おう。 んーー、ちょっと緊張するぅ。」
一枚、また一枚とアイロンを掛けていった。
アイロンを掛けている最中に、卯月と弥生が帰ってきた。
「睦ちゃん、買ってきたぴょん。」
「首尾は?」
「うん、ばっちり!」
豚バラ肉とキャベツを睦に渡した。
渡した後は、アイロンがけをしている皐月、朝霜の手伝いに廻った。
「どう?」
「うん、半分くらい終わったけど、まだ残ってんだ。」
「じゃあ、終わったヤツは仕舞ってくればいい?」
「うん、お願い。」
卯月と弥生はアイロンがけが終わった分から、各人用のハンガーに掛けていった。
「おー、きれいになったぴょん。」
「シワもないし、いい感じ。」
五人分のセーラー服とスカート、スカーフのアイロンがけが終わって、居間へとやってきた四人。
「ふぅ、ようやく終わったねぇ。」
「後はっと、睦ちゃんの下ごしらえだね。」
そう言って冷蔵庫からお茶を出してきて、ゴクゴクと飲んでいた。
飲み終わった朝霜が、
「じゃあ、睦ちゃんを手伝ってくるか!」
「ボクも行こうか?」
「んーー、睦ちゃんに聞いてみるよ。」
四人は食堂に移って、睦に声を掛けた。
「睦ちゃん、どんな具合? 手伝いはいるかい?」
「ありがとう。 でも下ごしらえだけだから、大丈夫だよ。」
既に豚バラ肉は、一口大に切られており、ボウルに漬け込まれていた。
「ん? お肉は漬け込んでるの?」
「うん。 この方がいいかなって。 醤油ダレなんだけどね。」
買ってきた1キロ全部は使ってはいなかった。
それでも800グラムは使ったのだった。
キャベツは4,5センチ角くらいに切り分けられていた。
こちらもボウルに入れられて、炒めるのを待っていた。
そのうちご飯が炊きあがった。
炊きあがったご飯は、蒸らしに入っていた。
◇
山に陽が沈みかけた1800過ぎになって玄関前に一台の車が止まった。
「ご利用、ありがとうございました。」
運転手がそう言って後部座席から二人が降りてきた。
秦と鳳翔だった。
「ありがとうございました。」
とお礼を言って玄関の方を見ると、ニコリと笑っているこども達が居た。
「「お帰りなさい!」」
「「どう? まったりできた?」」
そう言って二人に駆け寄ってきた。
「「ただいま。」」
「ええ。 ”まったり”できたわ。 みんなありがとう。」
秦と鳳翔の顔はにこやかだった。
それだけを見ても、こども達は”良かった”と思ったのだった。
鳳翔の手を弥生と卯月が引き、皐月が背中を押して中へと入っていった。
秦は睦と朝霜に手を引かれていた。
もうすぐ夕ご飯の時間だったため、居間ではなく、食堂へとやってきた。
そこで、二人は質問責めにあう、のかと思えば、そんなことはなく、みんなニコニコするばかりだった。
「どうしたの?」
と不思議がって鳳翔がたまらず聞いてみた。
「だってぇ、”何したの”って聞いてみてもいいけど、結局のところ”まったり”してたんだよね? そういう事は聞かなくても分かるし。 ね、みんな?」
「うん。 父さんとお母さんのことだから、いちゃいちゃばっかりで、あたしたちにしてみたら、なんにも面白いことはないからね。」
「まぁ、二人がいちゃいちゃしてるってことは、平和な証拠だし、ボクたちが付けこむ隙は無いってことだからね。」
こども達にそう言われて、バツが悪いのか、恥ずかしいのか、分からないような感じがする秦と鳳翔だった。
そこへ・・
パンパン!
と手を叩く音が響いた。
「はい、そこまでにゃし! 夕ご飯にするよ! 卯月ちゃん手伝って。」
「了解ぴょん!」
「なんだ、睦と卯月が当番かい?」
「そうだよ。」
厨房で睦が鍋を振っていた。
どうやら具材の投入係は卯月のようだった。
鍋に油を引いて、ニンニクを炒める。
香りが立ってきたら豚バラ肉を投入する。
火が通るくらいになったら、キャベツを投入するのだが、まずは芯に部分からだ。
しばらく炒めて、葉の部分を入れていく。
キャベツがしんなりしたら合わせ調味料を投入して、全体に絡めながら炒める。
合わせ調味料には、味噌、醤油、砂糖、豆板醤、酒などが入っていたが、味噌と豆板醤はやや多めだった。
「あら? 豆板醤の匂いね? ひょっとして中華?」
「うん、中華だよ。」
「この調味料の香りは・・・ 回鍋肉ね?」
「う、さすが、お母さんだ。 正解だよ。」
「睦ちゃーん、当てられちゃったよー!」
「えー、もう?」
「ふふふ。 私が判らないとでも?」
あぁーーあ、と残念がるこども達であった。
料理の方は、全体が絡めば出来上がりだ。
大皿に盛りつけて完成だ。
大皿二つを睦と卯月が持ってきた。
テーブルにはご飯がよそってあり、大皿がテーブルの真ん中にでん!と置かれた。
「うーん、豆板醤のいい香りだね。」
「わー、美味しそう。」
「さあ、だべよう!」
【いただきます!】
味付けはちょっと濃いめだった。
体を動かして汗を掻きまくったこども達からすると、ちょっと濃いめがちょうどよい濃さだった。
みな大皿に箸が伸びる。
かなりお腹が空いていたらしく、朝霜なんかはがっついて食べている。
「うん、辛い! でも美味しい。 辛くて美味いよ、睦ちゃん!」
「これは、ちょっと濃いめのご飯が進む味だな。」
そう言う秦もよく食べていた。
「ん、いいお味ですよ、睦ちゃん、卯月ちゃん。 良くできたわね。 上手よ。」
そう言って褒める鳳翔。
へへへっと笑う睦と卯月。
さあ、早く食べないと無くなるよ、と弥生に言われ、大皿に伸びる箸の回数が増えていった。
「もうこんなに少なくなっちゃったの?」
分かってはいたものの、自分が作った料理が無くなっていくことに驚く睦だった。
「でも、もう少しなら、”あるよ”。」
昔のテレビドラマでの、セリフを真似てみたのだった。
「それじゃあ、お願い!」
とは朝霜と皐月だった。
朝霜はいつもの事だったが、今日は皐月も仲間入りだった。
睦が追加で残りの豚肉とキャベツで回鍋肉を作ってやってきた。
「はい。 追加ね。 でも、これで最後だよ? 大丈夫?」
「「大丈夫、大丈夫。」」
そう言って、箸を伸ばす二人だった。
結局のところ、みんな箸を伸ばしていた。
そして・・
「ああ、ご馳走様でした! ちょっと苦しー。」
「まったく、食べすぎだよ、朝霜ちゃん。」
食事を終えて、居間に膨らんだお腹を抱えた朝霜が転がり込んでいた。
後片付けを卯月と睦がし終えて皆居間にやってきていた。
「ありがとうな、みんな。 今日は家事を全部やってくれたんだってな。」
「ホントよ。 ありがとう。」
「どうっていう事はないよ。 でも、お母さんが、働き者だった言うことは、嫌って言うほどわかったから。」
「そうだね。 それは確かだね。 あたいたちもやってみて大変だったもん。」
秦と鳳翔の二人を取り囲むように五人が廓座になって座っていた。
皆の顔はにこやかだった。
こうして、母の日と父の日を一緒にした一日が過ぎていくのだった。