Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
5月の最終日曜日の前日。
明日日曜日は、ここ相生はお祭り騒ぎになる。
かなり昔から、ペーロン祭りが開かれているのだった。
明日の前夜祭的なイベントが、ここ相生湾で行われる。
時期としては、少々早い気もするが、夜に花火大会が行われ、夜店が出るのだ。
打ち上げ場所は、空母・鳳翔や駆逐艦たちが係留している桟橋よりも、上流側だった。
それでも、ボートや遊覧船に乗って、海から花火を見よう、という人もいた。
秦と鳳翔は、係留されている空母・鳳翔の艦橋のデッキから見る事にしていた。
打ち上げ会場からは少し離れるものの、二人きりになれる場所だったから。
「ここからだと、ちょっと遠いけど、この高さからなら、遮るものが無いから、絶好の位置だな。」
「ホントですね。 ちょっとみんなには悪いけど、二人きりでゆっくり見れますね。」
と頬を赤めていた。
睦や皐月たちは、クラスメイト達と一緒に花火を見るね! と言って夕方には出て行っていた。
まぁ、夜店を覗きながら、食べ歩くんだろうな、と秦は思っていた。
秦と鳳翔は、デッキに椅子と小さなテーブルを持ち出し、持って来たお酒とおつまみを広げていた。
「何もないと寂しいと思ったので、おつまみを作って来ました。」
とニコリ。
お酒は涼やかなガラス製のちろりに入れられていた。
見るからに涼しそうな、青いグラデーションの柄が施されていた。
容量は・・ 二合くらいだろうか。
それにぐい飲みもガラス製だった。
ちろりと同じ柄のものだった。
おつまみは山菜のお浸し。
椅子を二つ並べて秦と鳳翔が隣り合って座って、
「おお。 いいねぇ。 じゃあ、二人で呑みながら、花火見物といきますか。」
「はい。」
ぐい飲みにお酒を注いで・・・
「「乾杯。」」
とぐい飲みを合わせた。
一口飲んで、
「ふう。 美味いお酒だね。 このお酒は、鳳翔が選んだの?」
「はい。 地元のお酒だそうです。 酒米は山田錦とか。」
「そうか。 でも、普段、睦たちがいて堂々とお酒を飲めないからね。 飲むのは久しぶりだね。」
「あなたと二人で飲むのも、久しぶりです。」
鳳翔もぐい飲みを持って、お酒を飲んでいた。
「うん、美味しい。」
秦はその飲みっぷりをじっと見ていた。
「あ、あの、なにか、付いてますか?」
「あ、いや、そうじゃないんだ。 いい飲みっぷりだな、と思ってさ。」
「あら? 私も結構いける口ですよ? 知りませんでしたか?」
「いや、知っているさ。 ある意味、俺よりも酒飲みなんじゃないかな?」
「あ。 そんなこと言いますか?」
「鳳翔だから言うんだよ。 他の誰かには言えないだろう?」
頬を赤めて、「もう!」と言って秦の肩を叩いた。
そうしているうちに、花火大会の開始時刻になったようだった。
打ち上げ会場の方から、ドン!っと打ち上げる音がしたかと思うと・・・
上空で大輪の花が咲いた。
「おお~、上がったぞ。」
リズミカルに間を於かずに次々と上がる花火。
「わぁ・・ 綺麗ですねぇ。」
「あぁ、いつ見ても綺麗だねぇ。」
青や赤の光を発しながら開く花火、稲穂の様にオレンジ色でたくさん流れ落ちる星たち。
中には、星形やニコマークに形づくった花火もあった。
「やっぱり、いいですね。 花火って綺麗ですねぇ。」
と鳳翔が言う。
が、秦の声をしばらく聞いていないことに気が付いた。
不思議に思って隣の秦を見ると・・・
秦の目は・・ 鳳翔を見つめていた。
え?
「あ、あの・・ 花火は・・ 見ないのですか?」
「いや。 見てるよ。 それより・・・ 鮮やかな花火を見てる鳳翔の方が、綺麗だなって。」
真剣な眼差しだった。
!!
その言葉で、顔から火が出るように思った鳳翔だった。
「な、何を、言うんです?」
一気に胸の鼓動が高鳴っていた。
「何をって・・・ 花火が上がるたびに、その明かりに浮かび上がる鳳翔の顔が・・色っぽく見えて、綺麗だなって。 ちょっと、キザっぽかったかな?」
「もう!」
花火の光に、一瞬照らされる秦の顔も、鳳翔の顔も、真っ赤だった。
お互いを、無言のまま見つめていた。
高鳴る気持ちに、従う二人・・・
徐々に顔が近づいていく・・
そして、二人の唇が重なる・・
花火の明かりに照らされ、二人の影が合わさって一つになっていた。
秦の腕が、鳳翔を包み込む。
いつまでも、いつまでも、こうしていたい、と二人は思っていた。
だが、その終りは突然にやってきた。
唇が離れ、互いをニコリとして見つめていたが・・・
「あ--!! こんなところにいた!!」
ビクッ!!
声の主は卯月だった。
「父さん、お母さん。 ラブラブ~。 もう、熱くて見てらんないよ~。」
「しれーかん、ずるいよ! こんなとこで花火を見てさ?」
皐月と朝霜もやってきていた。
「な、なんだぁ。 お前たち、友達と花火を見に行ったんじゃないのか?」
「そ、そうよ? どうしたの? こんなとこまで来て?」
と焦る二人。
「確かに、友達と行ったんだけどさぁ。 あまりに人が多くて、屋台見てたら、みんなとはぐれちゃってさ。」
「携帯に連絡したら、集まるのは無理だから、自由行動にしようってなってさ。」
「それで、確か、父さんとお母さんが艦から見るって言ってたよね、って思いだして、走ってきたんだよ。」
「わあ、綺麗に見えるよ!」
「どれどれ? わあ、ホントだ! よく見えるね。」
「うん、いい眺めぴょん!!」
一気に賑やかになったデッキ。
秦と鳳翔は、見やって、二人してクスクスと笑いだした。
まったく、もう。 と呆れる二人。
(ここまでで、お預けだな。)と耳打ちすると、(はい。 また今度ですね。)と小声で返してきた。
椅子に座る秦と鳳翔を中心に、こども達5人が囲みながら花火を見ていた。
いつまでも、この時間が続けばいいのに・・・と思いながら。
◇
翌日。
朝から忙しかった。
ペーロン祭りの本番だ。
元は、長崎からやってきた造船関係の従業員たちが始めたというペーロン競漕だったが、いつの間にかイベントとしてここ相生の街に根付いていた。
相生湾に特設のコースが設けられていた。
スタートから沖にあるブイを廻って帰ってくるコースなのだ。
そのコースも、昨日の花火大会のように、空母・鳳翔や駆逐艦たちの係留場所までは離れていた。
だが・・
沖のブイから離れること300mほど沖合のところに、駆逐艦を盾の様に配置するのだ。
目的は、これ以上、沖に出ないように。
それと、海からペーロン競漕が見れるようにと、観客を載せるため。
これは、実施委員会から、協力の要請が警備部にあったからなのだが、秦は、一も二もなく了承したのだった。
なので、秦は、駆逐艦・朝霜と同・皐月に観客を載せるよう、手配をしたのだった。
2隻におよそ200名が載ることに。
遊覧船のりばに、駆逐艦・朝霜と皐月が横付けされ、観客を載せていく。
「へぇ、今年は軍艦に乗れるなんて、ラッキー!」
「毎年、船を出せばいいのに・・」
なんて声が聞こえてきた。
載せ終わると、遊覧船乗り場を離れ、微速で所定の位置へと向かっていった。
その途中は、まるで湾内を巡る遊覧船のようだった。
コースに対して盾の様に配置を終えた2隻。
当然、指揮官として、駆逐艦・朝霜に秦が乗り込んでいた。 もちろん鳳翔も。
秘書艦たる鳳翔は駆逐艦・皐月でも良かったのだが、以前に秦と約束した、”離れない”という約束をここでも実施していたのだ。
時間になり、ペーロン競漕が始まった。
競漕は、1グループあたり4艇(4チームね。)で行われ、一番早かったチームが勝ち進む、トーナメント方式だ。
今年は、全部で2つの部門に16チームがエントリーしてるらしく、それぞれの部門で、予選、決勝が行われる。
1艇あたり16から25,6名ほどの乗り組みだった。
木造船で、船頭が一人、舵とりが一人、銅鑼が一人、漕ぎ手が片舷8から10人ほどだった。
人力で漕いで船が進むから、当然、乗組員全員の呼吸が合わないと、なかなか前に進まない。
それに合わせるように、各チームの応援にも熱が入る。
スタートして、直線部分では、両舷の漕ぎ手全員が力いっぱいに漕ぐ。
ブイを廻るところでは、片舷の漕ぎ手が小刻みに漕いで、反対舷ではオールを水につけて抵抗を増やして、船を廻す。
廻りきると、ゴールまでは直線となる。
漕ぎ手全員が、再び力いっぱいに漕ぐ。
銅鑼を叩く間隔が早くなり、音も大きくなる。
そしてゴール! 歓声が一際大きくなる瞬間だ。
こんなレースが、今年は10回戦分行われたのだった。
艦橋から状況を見ている秦や鳳翔、こども達も、どこのチームを、というのは無かったが、観客と同じように応援していた。
そして・・・
今年のペーロン競漕が、無事に何事もなく終了した。
駆逐艦・朝霜と皐月は観客を遊覧船乗り場まで送り届け、いつもの停泊している桟橋に帰って来た。
七人が桟橋から警備部の建物への帰り道。
「私、初めて見ました。 こんなお祭りもあるんですね。」
「昔からあることは知ってたんだけど、実際に見るのは初めてだよ。」
「あたいもやってみたいなぁ。 面白そうだし。」
「朝霜ちゃんもやりたいの?」
「あれって、団体競技だよ? 人数どうすんのさ?」
「うーん、それが問題だよねぇ。」
「まあ、ボート競技に範囲を広げれば、一人乗りのシングルや二人乗りのペアなんてあるから、朝霜がそれでもやりたいなら、いいんじゃないか。」
「あ! ペアなら、あたいはしれーかんとね! 一人乗りは寂しそうだし。」
というものの、
「あら? 提督は、わたしとですよ? 朝霜ちゃんには悪いけど、”ここは譲れません”よ?」
と鳳翔が割って入ってきた。
(お母さん、最後のフレーズは、誰かさんを真似たね・・・)と思ったのは睦と皐月だけではなかったようだった。
「え~~。 そんなぁ~。」
残念な声を出す朝霜。
「仕方がないね。 俺は鳳翔と乗って、みんなを見てるよ。」
「ま、そうなるだろうね。」
とは皐月だ。
睦も一緒になって、
「そうだよね。 父さんとお母さんっていつまでたっても、ラブラブだし。 昨日だって、ねぇ・・」
ぱん!
と鳳翔が手を叩いていた。
「はい! そこまで!」
と言って話を強制終了させた。
やや頬を赤めながら・・
「それ以上言うと、みんな夕ご飯抜くわよ?」
と皆を脅し始めた鳳翔だった。
鳳翔にしか出来ない、鳳翔だからこそ効果のある脅しだ。
睦に皐月、朝霜らが悲鳴を上げた。
「へ? 夕飯抜き? い、いや・・」
「「いやあああ! ご飯抜くのは無しだよ! わ、わかったから。 これ以上言わないから。 ね? お願い!」」
それを聞いて、不敵にフフフっと微笑んだ鳳翔が、
「じゃあ、ご飯にしましょ。」
と。
すると今度は元気な返事の合唱だった。
【はああい!】
やれやれ、の表情の秦と鳳翔。
七人は食堂に入っていく。
また賑やかな夕ご飯の時間になるのだった。