Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
それは結構、厳しい訓練だった・・
六月に入って、相生湾から播磨灘にかけて艦隊の訓練が行われていた。
当初の予定ならば、既に改造・改修を終え、呉に向かっていいころのはずなのだが・・・遅れている。
突破的な出撃もあったことも、遅れる要因の一つではあった。
しかし、遅れている理由は・・それだけではなかった。
一つには、時間だ。
皐月らが、学校から帰ってきてから運用訓練を行っていたため、1600から1900頃までのよくて3時間程度しか、1日の訓練時間が取れなかったのだ。
1600と言っても、警備部の前の桟橋から出港して訓練海域までの移動時間を含んで、だ。
もう一つの理由は・・・故障なのだが、ちょっと困った故障の発生の仕方だった。
◇
1500。
いつものように皐月らが学校から帰って来た。
「「「ただいま!」」」
宿題もそこそこに、制服はそのままで桟橋へと向かう。
「ほら! みんな! 行くよ!!」
「皐月ちゃ~ん、待ってぴょ~ん~」
「さっさと行くよ!!」
「行ってらっしゃい!! 気をつけてね!!」
睦は自身が担当する”艦”を持たないため、一人で留守番だ。
だから、勢いよく出ていく四人を見送っていた。
皐月たちが各自の艦に乗り込んで、出港していく。
「精神同調・・ よし! 駆逐艦・皐月、機関始動!! 抜錨する。 錨あげーッ! 機関前進微速!」
「皐月ちゃんに続くぴょん! うーちゃん、機関微速前進!」
「駆逐艦・弥生、機関始動、抜錨。 卯月に続く!」
「殿はあたいだね! 抜錨! 微速前進! 皆に続いて出港するよ!」
四隻は順に港を出ていく。
「やあ、みんな、出港できたかい?」
湾をでると、既に秦と鳳翔が空母・鳳翔に乗り込んで、沖合で待っていた。
というより、鳳翔航空隊の訓練を既に行っていたのだ。
今日の午前中は第一飛行隊で、午後からは第二飛行隊だった。
「みんな、来たのね。 それじゃぁ、始めましょうか。」
と鳳翔の声で、航空隊と艦隊との連携訓練が始まる。
対潜哨戒の基本は、まず、対潜哨戒機の発艦、対象海域へのソノブイ投下、ソノブイによる音波探針もしくは聴音による潜水艦の発見・追尾、その後に航空機・駆逐艦による攻撃へと移る。
これら一連の流れの確認を行うのだ。
哨戒機は既に空中待機していた。 家島上空を旋回しながら、艦隊の到着を待っていた。
”始め!”
の秦の合図で始まるのだ。
待機中の飛行小隊各機から訓練海域にソノブイが投下される。
ソノブイ・・・空中から海上に投下する、無線式の音響探知機だ。 現有のモノを艦娘搭載機用に改良したものだ。
ちなみに・・・秦の艦隊は、電子化と近代化の工事が施されている。
装備品の電子化や近代化は、艦娘の精神同調に影響はなかった。
恐らく、全艦娘艦隊の中でも最先端を行ってるだろう。
ただ、武装の近代化はされていない・・・
巡航ミサイルの類は、艦娘の艦艇に拒絶されていた。
精神同調が出来ず、搭載が出来なかったのだった。
◇
訓練の一部はこんな感じだ・・・・
「只今より、訓練を開始する!」
と秦の号令によって始まる。
「各哨戒機へ。 ソノブイ投下始め!」
と秦の指示が飛ぶ。
訓練海域に数個のソノブイが投下される。
そして・・
「こちら哨戒1番機! ソノブイ3番に反応あり!」
「反応位置、特定せよ!」
ソノブイ3つ以上による三角測量によって位置が特定される。
「こちら哨戒1番機。 位置特定。 1番艦皐月へ、2時方向、距離5500、深度20から40、艦数1。」
「皐月、了解! 両舷いっぱい! 方位2時方向へ! 爆雷投下よ-い!」
白波を上げて皐月が回頭を始める。
「皐月ちゃん! 加速、遅いわよ!」
とは、鳳翔だった。
「は、はい!」
と返事をする皐月。
続いて艦内に向けて指示を出す。
「訓練用爆雷信管調整、深度30にセット! 雷数4!・・・・投下よーい、よし!」
爆雷投下の準備が整うと、次は攻撃だ。
「間もなく、敵潜を通過・・・・ 投下よーーい・・・・ てーーっ!!」
駆逐艦・皐月の艦尾から模擬爆雷が海中に投下されていく。
・・・模擬爆雷なので、実際に爆発はしないが、破裂はする。
破裂すると、小さいながらも気泡が出る。
「哨戒2番機より、2番艦卯月へ。 敵潜が取り舵、深度30から40へ、 追跡されたし!」
「! 了解ぴょん! うーちゃん、取り舵! 爆雷投下よーーい!」
「こちら皐月、攻撃終了。 定位置へ戻る!」
皐月が爆雷攻撃を終え、いったん、定位置となる艦隊先頭へ戻る。
その間にも卯月が敵潜を追う。
「哨戒2番機より卯月へ。 そのまま前方3000、敵潜水艦、浮上する模様!」
それを聞いた秦が新たな指示をだした。
「楠木より卯月へ。 さらに取り舵10度、浮上する敵潜水艦に対し、砲撃を開始せよ!!」
「! 了解ぴょん! さらに取り舵、1番砲、砲撃よーーい・・・・」
「卯月ちゃん、取り舵、遅いわよ!! もっと素早く!!」
またまた鳳翔だ。
「りょ、了解ぴょん!」
途中でも随所で鳳翔からの指示が飛ぶ!! 秦よりも早く。
「哨戒2番機より卯月へ。 敵潜水艦、潜望鏡深度で停止の模様。」
この報告を受けて、卯月が攻撃を開始する。
「よーし、うーちゃんの攻撃ぴょん!! 1番砲2斉射! 潜望鏡付近海面に向けて、砲撃開始! てーーっ!!」
1番砲から砲弾が2斉射分、発射される。
海面に着弾の水柱が立つ。
「敵潜水艦、被弾と認む!」
と哨戒機より報告が来るのだ。
「楠木より卯月へ。 定位置に。」
「うーちゃん、了解ぴょん! 定位置に戻るぴょん!」
・・・とこんな感じの訓練が、日々繰り返されていた。
◇
改造工事で遅れている理由のもう一つが、この訓練の激しさに要因があった。
所々で入る、鳳翔からの指示、指摘。
これにより、各艦の動きに、影響いい影響がでる。
各自の意識と注意力に。
しかし、悪い影響も出るのだ・・・
指示が細かい事もあり、操舵関係、特に機関関係を酷使しすぎて、故障が出るのだった。
先日の訓練では、朝霜の機関で不具合が発生していた。
・・・
「! 艦隊11時の方角より雷跡ふたーーつ! 目標は・・ 駆逐艦・朝霜の模様!」
と哨戒機より連絡が来る。
その報に秦が、
「朝霜! 加速して敵魚雷を回避だ!」
と指示を出す。
そして朝霜が舵を切るが・・
「了解! 最大戦速! 取り舵いっぱい! ・・・・ あれ? あれれ?」
「朝霜ちゃん、遅いわよ!」
動きが遅い朝霜に檄が飛ぶ。
「朝霜より、しれーかんへ! 機関不調! これ以上の加速ができないよ!!」
朝霜の速度が徐々に落ちていく。
艦首が作り出す波が小さくなっていく。
止まりはしなかったが、ほぼ微速程度まで減速してしまった。
「機関室内で発煙、戦列を離脱するよ!」
秦は朝霜に代わって、弥生に攻撃続行を指示するのだった。
「楠木より弥生へ。 朝霜に代わって敵潜水艦を追尾せよ! 爆雷投下よーい!」
訓練としては、弥生が代わって継続する。
「朝霜へ。 こちら楠木。 どうした? 原因は、わかるか?」
「しれーかん、機関室内で異常発煙を確認。 現在ダメージコントロール中。 ただし、微速以上の出力は無理みたい!」
煙突からは通常ではない、灰色の煙がもうもうと上がっていた。
「了解だ。 無理をしなくていいから、艦隊を離脱し港に向かっていいぞ?」
「了解! 先にもどるね。 ・・面舵いっぱーい! 艦隊を離脱して港へ戻るよ!」
・・・てな感じだ。
代わりの弥生は継続していた。
「まもなく敵潜を捉えるよ。 ・・爆雷投下、てーー!」
駆逐艦・弥生の艦尾の爆雷投射機から2発の爆雷が投射され、破裂して気泡が上がった。
◇
そんなこんなで今日も訓練が終わろうとしていた。
していたが・・・
「ハァハァ・・ お母さん、指示細かすぎ!」
「ハアアア・・ 休まる時間が無いよおーー」
と、各人が、嘆く嘆く・・・
「もう! まだまだです! まだ足りません!!」
と鳳翔が艦橋で不満そうにしていた。
まさに、仁王立ち。
両手を腰にあてて、頬が膨れている・・・
「・・鳳翔・・・ 今日はこの辺にしないかい?」
「何いってるんですか! 生きて帰るための訓練に”この辺”はありません!」
秦も圧倒されるほどの勢いだ。
「・・とは言うものの、時間も遅いので、今日はこれで切り上げましょう。」
と、いつもののにこやかな表情で言う。
これで、飛行隊も終了となる。
(ハァ・・ 今日もみっちり、やられたなあ・・・)
(ああ。 今日もお艦は、厳しかったなあ・・・)
(やっと、基地に帰れるぞ!)
「これより、飛行隊は帰投します!」
「お疲れ様。 また明日も、よろしくお願いしますね。」
ニッコリと。
(ひえぇぇぇ、さっさと帰って休息だ!!)
飛行隊は速度を上げて帰って行った。
(おおぉぉ、まさに、微笑む鬼だ・・・)
と思った秦だった。
帰り着いても、反省会だ。
そこでも鳳翔からは激が飛ぶ。
「皐月ちゃん、もっと加速を早くしないと・・・」
「卯月ちゃん、回頭はもっと早く、半径を小さく・・・」
「その時の朝霜ちゃんは・・・・」
と、秦が言おうとすることを、全部、鳳翔が言ってくれるのだ。
最期に、
「みんな、明日も、みっちりやるわよ? だから、ゆっくり休んでね?」
とニッコリと言われる為、みな、「は、はい・・」としか言えなかった。
(ううぅぅぅ、こ、こわいよーー)
(噂通り、微笑む鬼だ・・・)
(しれーかん、た、助けて・・・)
「あなたもよ? 指示は素早く、的確にね?」
とニッコリと言われて、
「は、はい。」
としか言えなかった。
(父さん、弱い・・・)
(しれーかん、だめじゃん・・・ 尻に敷かれてるじゃん・・・)
「と、ところで、朝霜の機関の具合はどうだい?」
「そうそう。 応急じゃ、ダメみたいだよ? 明日、バラしてみるって。」
「そうか。 じゃぁ、修理が間に合わなければ、しばらく朝霜抜きだな。」
「それは仕方がありませんね。」
「じゃあ、朝霜。 念入りに機関のチェックもしておいてくれ。」
「了解!」
そこん所は、司令官らしく締めた秦だった。
「それじゃぁ、晩ご飯にしますね。」
と割烹着を着て夕食の準備に取り掛かる鳳翔。
鼻唄を唄いながら調理を進める。
その姿は、いつもの”母”たる姿であった。
ご飯だけは、留守番の睦が炊いていた。
訓練が始まってからは、睦がご飯当番となっていたのだった。
「今日も上手く炊けたよ?」
だから、晩ご飯は、睦と鳳翔の共同作業によるものとなっていた。
「さあ、出来ましたよ!」
「「わぁーい、いっただきまぁーす!!」」
テーブルに運ばれてきた鳳翔のご飯に飛びつく腹ペコのこども達であった。