Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
やはり、人と艦娘の壁は大きく・・
委員長の圭子が警備部に来てから1週間余りが過ぎた頃だった。
横須賀の秋吉から連絡が来た。
「よお。 元気にしているか?」
「はい。 お陰様で。 まだ訓練が残ってしまって、申し訳ありません。」
と頭を下げた。
「そう言うな。 我々にとって初めての対潜専門の艦隊なのだから、時間が掛かるのは分かっていたんだからな。 とは言え、可及的速やかな完了を期待するぞ。」
最近になって、各鎮守府、各警備部と大本営との間が、通信ネットワークで結ばれるようになった。
それに伴い、”紙”から”電子データ”へと置き換わりつつあった。
その中でも、いわゆるネットワーク回線を使ったネット会議が出来るようになっていた。
リアルタイムの双方向通信なのだ。
今、そのネット会議を使って、秦は秋吉と会話をしていた。
「で、貴様から要望のあった潜水艦の件だが・・ 呉から一隻、借りる事が出来だぞ。」
「あ、ありがとうございます。 で、誰になりますか?」
「伊号の伊58だ。」
「呉も良く了解してくれましたね?」
「まあ、ちょっとは苦労したんだぞ?」
「それはそれは。 お手数をお掛けします。」
「で、随伴に青葉が就くことになった。 これも貴様の希望とおりだ。」
「なおの事、ありがとうございます。」
「今日の早朝に呉を出ているハズじゃ。 ただし。 1週間だけだ。 それが過ぎると、青葉共々、呉に返す事になっている。」
「やはり、そうですか・・・。」
「ま、仕方がないな。 転属ではないからな。 万事、後は頼むぞ。 ”お父さん”。」
「!! な、なんで、知ってるんです?」
「おや? そんなことも知らんで、貴様の上官は勤まらんわい。」
そう言って、がはははははっと大声で笑った。
大声はスピーカーを通しても、部屋中に響くほどであった。
画面の向こうで声がした。
「もう、提督ったら。 声が大きいですよ?」
声の主は、赤城だった。
「そうかね? ま、精々、頑張ってくれたまえよ。 ”お父さん”。 ”こども達”にもよろしくな。」
そこまで言って、会議を終了しようとしたが、何かを思い出したようで・・・
「そうじゃ。 楠木? 貴様ら夫婦はどうなのだ?」
「は? どう、と言われましても・・ 仲のいい、普通の夫婦と思いますが・・」
そう言って傍に立つ鳳翔を見た。二人の視線が重なり合う。
「そうか。 仲がいい、か。 画面から見ても判るほどに惚気よって。 まあ、艦娘とケッコンカッコカリする輩はいるが、ガチまでしたヤツは、貴様一人なのでな。 大本営でも話題になっておってな。」
大本営でも話になるほどの事なのか、と思った秦だった。
「で、艦娘の健康管理や健康診断は、各地の海軍病院が担当じゃが、そこ相生には海軍病院が無いからな。 一応、呉の海軍病院には連絡してあるから、何かあった場合は、呉に行ってくれ。」
と。
「”何か”あったらって、それはどういう・・・?」
「”何か”とは何かじゃ。 その時が来ればわかるじゃろ。」
何やら意味深な事を言う秋吉だったが・・
「それではな。 ”お父さん”。」
そう言って通信が終了した。
・・・・
「誰だよ、”お父さん”て言われてるの漏らしたの・・・」
傍に居た鳳翔が、クスクスと笑っていた。
「あぁ、ひょっとして、お前さんだな、鳳翔?」
「いえ。 私は知りませんよ。」
と言っても、クスクスと笑っていた。
実は・・
秦が席を外した時などに、鳳翔が赤城と連絡を取っていたのだった。
もっとも、話題は、お互いのパートナーの愚痴だったりする。
この時点で、秦は、鳳翔だな、と確信したのだった。
◇
夕方前、今日の訓練を終えた後、桟橋に秦、鳳翔らが全員揃って、到着を待っていた。
秋吉から連絡を受けた秦は、睦に連絡し、今日の夕方に青葉たちが到着する、と伝えていた。
圭子が迎えに出れるように。
桟橋で、圭子が合流する。
すると、湾の入り口に1隻の軍艦が現れた。
双眼鏡で確認すると・・ 青葉だった。
「青葉を視認。 予定通りだな。」
「ねぇ、潜水艦は?」
と皐月。
「うーん、恐らく、青葉の後ろにいると思うんだけど・・ 青葉が邪魔で見えないなぁ・・・ あ、待って! いた!」
双眼鏡を覗いていた朝霜が言った。
呉から青葉を先頭に、伊58が続いていたのだった。
◇
「ふぅ。 やっと相生湾に着いたね。 どう、ゴーヤ? 大丈夫?」
「大丈夫でち。 浮上航行ならみんなと同じ速度で走れるでち。」
「瀬戸内の内海航路を、しかも日中に通るなんて、滅多にないのにねぇ。」
呉から相生まで、瀬戸内を通って来た青葉と伊58。
巡洋艦サイズが内海航路を走るとなると、大型艦扱いとなる。
その為、自由な航行は望めない。
速度は巡行14ノットでも早いくらいだった。
しかも、岸に近い航路もある。
海岸には見物人が少なからずいた。
ゆっくりした速度だったから、浜辺にいた人たちから手を振られ、往きかう船からも汽笛を鳴らされやってきた。
普通は、瀬戸内海は通らないから、珍しかったのだろう。
「あ! 見えてきた。 あれが到着地だね。 機関中立から後進いっぱーい! 接岸よーい! ゴーヤも合せて!」
「よーい、よし、でち!」
2隻は、臨時に作られた仮説桟橋に接岸した。
「ふう。 到着ぅ!」
と桟橋に降り立った。
そして、視線の先に軍服姿を確認した。
その前まで進んで敬礼する・・・
「お出迎え、恐縮です! 楠木提督でいらっしゃいますか? 呉鎮守府所属、巡洋艦、青葉です。 ただいま到着致しましたぁ!!」
「おなじく、伊58でち!」
「ご苦労様。 ここ相生警備部の楠木だ。 よろしく。 堅苦しい挨拶は無しにしよう。 この後は二人の歓迎会を予定してるからね。 それと・・・」
秦が桟橋にいるみんなを紹介した。
「秘書艦兼妻の鳳翔、娘の睦、朝霜、卯月、皐月、弥生だ。」
【よろしく!】
「? 妻、ですか? え? 鳳翔さん・・ですよね? それに・・ 娘ですか? え??」
青葉は、いまいち理解しがたい感じだった。
「ああ。 鳳翔とはケッコンしているからな。 なので俺の妻なんだ。 後の五人も俺たちの娘だ。」
「はあ・・」
と青葉が呆れにた溜息をついていた。
「それと、青葉にはもう一人いるんだが・・・」
と秦の後ろに隠れていた少女を青葉の前に連れ出した。
「え?」
青葉が驚いた顔をする・・
「お姉ちゃん・・」
圭子も信じられないような顔をしていた・・
「け、圭子ちゃん?」
青葉が名前を呼んだ。
「お、お姉ちゃん!!」
と言って圭子が青葉に飛びついた。
その目からは涙が流れていた。
「やっと、やっと会えた!! お姉ちゃん、お姉ちゃん!! 合いたかった!」
青葉が、しがみついて泣いている圭子をそっと抱きしめる。
「圭子ちゃん・・ 大きくなったわね・・ 元気してた?」
ぐすっ。
「うん。 お父さんもお母さんも、何も教えてくれないし・・ 私は合いたかったのに・・」
「そう・・ お父さん、お母さん、まだ怒ってるのね・・」
そう言ってさらに強く抱きしめる青葉だった。
桟橋で抱き合う二人を見ていた鳳翔が、秦にそっと寄り添い、手を握ってきた。
秦はその手を・・強く握り返していた。
(良かった・・)と。
そして、
(はい。 良かったと思います。)
と小声で話していた。
すると、秦の反対の手を握って来たヤツがいた。 弥生だ。
ん?
「どうした、弥生?」
「ん・・ ちょっと・・」
その悲しそうな表情をみて、秦は思った。
「弥生・・ 寂しいかい?」
「ちょっと・・」
というと、
「でも・・ なんか・・誰かに、甘えたいなって・・・」
そう言った。
「なら、俺に甘えろ。 遠慮はいらんぞ。 何しろ、今は、俺が父親だ。 そうだろ?」
「・・うん!」
そう言うと秦の腕にしがみついて来た。
結構な力だった。
「へへへへっ」
と笑って。
「さあ! 感動の再会はそれくらいにして、中に入ろう。 歓迎会の用意がしてあるから。」
桟橋から食堂へと移動する面々。
圭子は青葉の腕に取り付いたまま離れようとはしなかった。
今回の歓迎会、お酒は・・・ない。
お酒を飲めるのは、秦と鳳翔くらいだったから。
保護者たる秦と鳳翔が進んで酒に酔う訳にはいかないのだ。
鳳翔の手料理による歓迎会だった。
歓迎会が終わって、圭子は自宅に帰って行った。
青葉と伊58は警備部の空いている部屋を使う事になった。
そうして、その日は過ぎて行った。
◇
次の日からは、青葉と伊58を使った訓練が始まった。
午前中は、空母・鳳翔、および鳳翔航空隊による、潜水艦探知訓練が行わた。
午後一番からは、青葉を仮想目標とした、航空隊による対艦攻撃訓練が行われることになった。
皐月らが学校から帰ってきてからは、本格的な対潜探索・攻撃訓練と、対空迎撃訓練が行われることに。
青葉と伊58は一週間しかいないから、フル活動してもらっていた。
一日を通して、出ずっぱりなのは、空母・鳳翔に乗る、秦と鳳翔の二人だった。
そして・・
一週間の間、重巡洋艦・青葉には、学校から帰って来た圭子が便乗していた。
圭子は、妖精さんは見えなかったが、それでも、姉・青葉の傍に居たいと希望したからだった。
青葉の艦橋の司令官席に、一時的にとは言え圭子が座っていた。
「お姉ちゃん、すごい!」「みんなも、すごい!」
と言って、青葉や皐月らを見ているのだった。
秦は、休憩時間を利用して、圭子の両親に連絡を取っていた。
「もうすぐ、青葉が帰ります。 帰る前に、お会いになりませんか?」
と。
父親からは
「ウチを、艦娘になる、と勝手に出て行った娘の事など、知らん!」
と何度も言われた。
しかし、そのことで、妹の圭子が、寂しがっていること、普段の生活でも心のどこかに、穴が開いたようになっていることを切々と訴えた。
「会わなくても、遠目でいいので、見に来ませんか?」
と。
それでも父親は、首を縦に振ってくれることは無かった。
◇
そして、一週間が経ち、青葉と伊58が呉に帰る日になった。
「青葉、ゴーヤ。 一週間、ありがとう。 こちらの訓練に付き合ってくれて、ものすごく助かったよ。」
「ありがとうございます。 そう言われると、恐縮しちゃいます! 帰ったら、青葉通信に載せますね。」
「ああ。 期待させてもらうよ。 二人とも、道中、気を付けてな。」
「「はい。」」
「はいこれ。 二人の道中のお弁当よ。」
「わあ! ありがとうございますぅ。 鳳翔さんのご飯、美味しいですから、期待しちゃいますぅ!!」
「ふふふっ。 ありがとう。 最高の褒め言葉ね。」
睦や皐月らも見送りに桟橋に来ていた。
「ゴーヤ、気を付けてね。」
「青葉さんも、お元気で。」
「ええ。 みんなもね。」
後ろから圭子が進み出てきて、
「お姉ちゃん、元気でね。」
「うん。 圭子ちゃんも元気で。 お父さんとお母さんを、よろしく頼むわね。」
「うん。」
そう返事をする圭子の目には涙が溢れんばかりだった。
それは、青葉も同じだった。
3年ぶりに会った姉妹が、たった一週間で、また別れ別れになるのは、見ている秦たちも、心苦しかった。
圭子と青葉が抱きしめあって、別れの挨拶をしていた時、鳳翔が、岸壁に二人の人影があるのを見つけた。
「! あ、あなた。 あれ・・・」
鳳翔が指を指し、秦が見ると・・・ それは、圭子の両親だった。
(あれほど、頑なだったのに・・・ やはり、ひとの親だな。)
と秦は思った。
「お父さん、お母さん・・・」
と青葉が声を出した。
「・・・わしは・・まだお前を認めたわけじゃない。 だが・・・」
「お父さん、まだそんなこと言って!」
と圭子が声を上げる。
「だが、圭子が・・ここまで姉の事を思っているとは、思わなかった。 青葉、圭子。 お前たちは姉妹なのだと、改めて思わされたよ。 それに・・ お前が私を”お父さん”と言ってくれている事も、考えつかなかった。 もう他人と思われていると思っていた・・・ 少なくとも・・ 圭子。 お前は姉の事を思ってやってくれ。 青葉。 お前も妹の事を思ってやってくれ。 今のわしに・・・ 言えるのは・・ここまでだ・・・。 青葉よ。 元気でな。」
「お父さん・・ うん。 あたしはいつでも元気だよ。 ほら。」
と言って笑ってみせるが、その目からは涙がこぼれていた。
父親の隣で、母親が涙を流しながら、何度も頷いていた。
そして、
「元気でね。 青葉や・・」
「うん。 あり が とう、お母・・さん。」
そう答える青葉の声は、涙声だった。
そして・・・
二人が自身の艦に乗り込んでいく。
暫くして、伊58の機関音がして、舫が解かれ、岸壁を離れていく。
続いて、重巡・青葉の機関音がして、同じく舫が解かれ、錨が巻き上げられ、岸壁を離れようとする。
すると、艦橋の窓から青葉がこちらを見て、敬礼をしていた。
秦、鳳翔らは、直立不動の姿勢をとって、返礼をした。
青葉が艦橋から叫ぶ・・・
「圭子ー! お父さんとお母さんをよろしくねー! お父さん、お母さん。 青葉、行ってきまーす!」
と叫んでいた。
「お姉ちゃーーん!! お姉ちゃーーーん!!!」
と大きく手を振る圭子だったが、涙が、止めどなく流れ落ちていた。
2隻が岸壁を離れ、湾の外に向かって進んでいく。
「前進、微速!」
と指示を出す青葉は、こぼれる涙を拭き、岸壁にいる両親に向けて、いつまでも敬礼をしていた。
艦の姿が徐々に小さくなる。
湾の外に出ると、2隻は速度を上げて、呉へと針路をとって行った。
2隻が見えなくなるまで、みな岸壁にいた。
「お父さん、お母さん・・」
「圭子・・。 さあ。 帰ろう。」
「うん・・」
「楠木さん。 頑固者だとお思いでしょうが、わしは・・まだ、納得しとらん。 しとらんが・・・」
「いきなり、納得しろなんて言いません。 理解さえ、して頂ければ。 それに・・・ 圭子ちゃんも青葉も、心優しい、いい娘さんじゃないですか。 大事になさってください。」
「・・・そうかね・・・」
そう答えた父親の顔は、僅かに微笑んだように見えた。
「ええ。 そう思いますよ。」
「そう・・ ありがとう。 では、お邪魔しました。」
そう言って父親は頭を下げて、母親、圭子と共に帰って行った。
◇
岸壁に残った秦たち。
「さあ。 私たちも帰りましょ。 あなたたちには、まだやることがあるのよ? 分かってる?」
と皐月たちに向いてニッコリと鳳翔が言った。
それを聞いて・・
「ひえーーっ 今日ばかりは、勘弁してぇーー!」
と皐月たちは、悲鳴に似た叫び声を上げて、逃げ散って行ってしまった。
「あ! もう!」
鳳翔が呆れていた。
「はははっ。 鳳翔、逃げられちゃったね。」
「しょうがない子達ねぇ。 じゃあ、その代り! あなたとやるべきことがありますからね?」
「え? 俺?」
「はい。」
とにっこり笑う鳳翔だったが・・
「え~っと、それは・・ 今からなのかい、それとも夜の・・・」
ボッと一瞬で顔が赤くなる鳳翔。
「い、今からじゃないですか! もう! エッチなんですから!」
と秦の肩を叩いた。
「じょ、冗談だよ!」
そう言う秦だったが、鳳翔に腕をとられて並んで帰る事自体には文句はなかった。