Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
その時・・
6月も下旬になって、運用訓練も、ほぼメドがつきはじめていた。
「うん、訓練もほぼ終わり、かな。」
「そうですね。 みんな、頑張ってくれましたから、思った以上に早く終わりそうですね。」
「となると、だな・・ ここにいられるのも、あと少し、という事になるなぁ。」
「そうなりますね。 どうしたんですか?」
「ん? いや・・・」
「やっぱり、寂しいですか?」
「うん・・。 七人家族になってから、3カ月・・・ 短かったけど、楽しい事、いろいろあったなって。 そう思うと寂しいなぁ。」
「そうですね。 いろいろありましたし。 私もお母さんを体験出来て楽しかったですよ。」
二人して、ハハハと笑いあう。
「ここを出れば、次は・・・呉だな。」
「はい。 当初の予定通りでは、そうなります。」
「いつくらいになるかな?」
「そうですね・・・ やっぱり、睦ちゃんたちの学校の1学期が終わる来月20日過ぎ、が一番、妥当ではないでしょうか?」
「やはり、そうなるか・・」
「はい。」
ここ相生での、艦隊の、楠木艦隊の編成・訓練のメドがたち、いよいよ秦の本来の役目に戻ることになりそうだった。
本来の役目・・ 当初の予定では、春に呉鎮守府に提督として赴く筈であったが、諸々の事情により、ワンクッション、ここ相生におくことになってしまっていた。
まあ、そのおかげで、対潜駆逐艦隊としての整備が出来たのだが・・
◇
秦は、横須賀の秋吉に連絡することにした。
画面に赤城が現れた。
「楠木です。 秋吉提督は、いらっしゃいますか?」
「あら? 楠木提督。 こんにちは。 秋吉提督ですか? う~ん、今、席を外していらっしゃいますね。」
「そうなのですか。 どうしましょう?」
「そうですねぇ。 でも、すぐに戻られると思いますから、お待ちいただけますか?」
「まあ、そうしますか。」
「あ、そうそう。 今、そちらにお母様はいますか?」
「え? 鳳翔?」
「はい。」
「いるよ。 あ、ちょっと待ってね。 鳳翔? 赤城が替わってくれって。」
画面に映る人物が、秦から鳳翔に代わる。
「何かしら、赤城ちゃん。 あなたも元気そうね。」
「はい。 私はいつでも、元気モリモリ、ご飯モリモリですよ。」
とにこやかに答えていた。
「ふふふ。 ならいいわ。 それで、私に何用かしら?」
「はい。 お母様の健康保険証の事です。」
「保険証?」
「ええ。 今までは横須賀在勤でしたのでこちらに保管してあったのですが、今はそちらの在籍ですので、書換えをしておきました。」
「あら、ありがとう。」
「いえ、大したことではありませんから。 で、これをそちらに郵送致しますので、受け取りをお願いいたします。」
「わかったわ。 じゃあ、よろしくね。」
そこまでの会話が終わったころ、秋吉が戻って来た。
「ん? 赤城、どうしたのだ?」
「あ、提督? 実は、楠木提督から連絡が来ています。 今、替わりますね?」
画面に秋吉がでた。
「お久しぶりです。 提督。」
「おお。 貴様もな。 息災で何よりだ。 で、何用かな?」
「はい。 艦隊の整備および訓練が来月中旬を持って完了しそうとの、見積りが出ましたのでお知らせを、と思いまして。」
「そうか! ようやく纏まったか! いや、よくやってくれたな。」
「はっ。 ありがとうございます。」
「そう、畏まらなくてもいいぞ。 ”お父さん”。」
またもや弄ろうとする秋吉であった。
「中将・・・ 今ここで、その言い方は・・勘弁してください・・・・」
「ハハハハッ。 事実なのに、何を言うか。 貴様も満更ではないのだろ?」
「それは・・・ そうですが・・・」
「ま、それはそうと、我が軍もついに、対潜専門の艦隊を持つに至る、か。」
「はい。 艦娘で編成するのは、結構骨が折れましたよ?」
「本当に、ご苦労だった。」
「ありがとうございます。」
「おお、そうだった。 忘れるところだった。」
「なにを・・・」
「貴様の艦隊に、正式名称を割り振ることになったのでな。」
「!? 正式名称ですか?」
そう言って秦は鳳翔を見やった。
「そうじゃ。 旗艦に空母・鳳翔を据え、駆逐艦・卯月、皐月、弥生、朝霜の四隻を合わせて、第一対潜駆逐艦隊とする。」
「”第一対潜駆逐艦隊”ですか・・・ 了解しました。 謹んで拝命致します。」
「よろしく頼むぞ。」
そう言って通信を終えた。
椅子にもたれて、ふう、と溜息を付く秦。
「第一対潜駆逐艦隊、ですか・・」
「ああ。 堅物な名前だな。 確かに、対潜駆逐艦隊なんてなかったから、分からんでもないんだけど。」
「なにか、責任重大ですね。」
「やっぱり、そう思うよね。」
そこまで言って、改めて盛大な溜息を付く秦だった。
それを傍で見ている鳳翔が、ふふふっと笑っていた。
◇
夕食後、居間に全員を集めた秦。
そこへ鳳翔がお茶を煎れて持って来た。
一口啜って、おもむろに話し出す。
「え~、皆の協力も有り、ついに、艦隊の訓練も終盤になってきた。 そこで、本警備部での訓練の終了を、横須賀から告げられたので、皆に報告するね。」
「え? 終り??」
と朝霜が言う。
「ああ。 終りだ。 と言っても、発令は7月の中旬ころの予定だ。 その際に、艦隊名を受ける事になったことも併せて報告するよ。」
「艦隊名?」
と返すのは皐月だ。
「艦隊名は・・ ”第一対潜駆逐艦隊”だ。 空母・鳳翔を航空戦隊とし、艦隊旗艦として、お前たち四人の対潜駆逐隊を加えた、我が軍初の”対潜専門艦隊”だよ。」
『へぇ~~』
と五人の声だが、今一、反応が鈍いような・・・
「なんだ、反応が薄いなぁ。」
呆れるように秦が言っていたが・・
「まあ、呼び名だからね。 嬉しくもないかな。」
と皐月が言った。
これに秦は、ガクッと肩を落とした。
それを見た鳳翔が、
「あらあら。 せっかく呼び名がついたのに、その言い方は無いんじゃないの?」
と言うものの、クスクスと笑っていた。
「もっとカッコいいのがいいぴょん!」
「そうだよね? ねぇねぇ、しれーかん、かっこいいのとか、可愛いのとか、ないの?」
「そ、そうは言ってもなあ・・ 二つ名とか名乗ってるヤツ等はいたかな・・・ 例えば、どんなんがいいんだ?」
「例えばさぁ、”水雷乙女”とか。」
「それだと、ダメじゃん? だって、お母さんがいるんだよ? 航空母艦に魚雷や爆雷は無いよ?」
「そっかぁ・・・」
うぅぅぅーーん、と二つ名を考えるのにいっぱいいっぱいの五人だったが・・・
「”空駆ける”ってのは?」
「”空”?」
「うん。 ”空駆ける水雷乙女”。」
「それだと、空を飛んでるみたいだけど・・・」
皆が更に、う~~ん、と唸っていた。
そこに不意に弥生が
「別に、”楠木艦隊”でいいけど・・・」
と言った。
「まあ、それでいっか。」
とは皐月。
結局、悩んだ挙句に、二つ名、というより通称としての”楠木艦隊”だったとは。
頭を掻く秦だった。
その時、睦がボソッと、
「母に導かれる水雷乙女だよね?」
と言った。
皆が”なに?”と首を傾げている・・
「ロゴとか、マークとか、なんだけど・・・ 女神が指さし、4本の矢がその方向に向かうような絵はどう?」
睦が机上で、紙に粗々のイラストを描いて見せた。
図の右寄りに、左を向いた女神を描き、腕を伸ばして指さし、その腕の下あたりに、4本の矢が指さしした方向に向かう、というような感じの絵だ。
また、4本の矢は、一本がやや大きく、残り三本が同じ大きさだった。
その矢は、まっすぐなのだが、矢の後ろ方は、波を打っている。
指さした先に、蝶が二匹描いてあった。
イラストなので、全ては、水色背景に、黒色で描かれる。
「こんな感じなんだけど、どうかな?」
「じゃあ、女神がお母さんで、四本の矢は、ボクたちだね?」
と皐月。
「この矢は・・ ちょっと大きいのは、あたいかい?」
と朝霜。
「うん、そうだよ。 駆逐艦・朝霜がひと回り大きいから、と思って。」
と説明する睦。
「この蝶々は、艦載機?」
とは卯月。
「うん。」
「でも、海だから、蝶々より、鴎がいいかな・・」
「鴎、ねぇ。 それもいいかも。」
その時、一緒に絵を見ていた弥生がボソッと、
「これ、いい。」
と。
「それじゃ、イラストはこれで決まりだね!」
と皐月がまとめた。
「いいの?」
と聞くのは鳳翔だった。
「うん。 お母さんも、描いてね。 みんな艦橋横に描くんだよ。 いいよね、父さん?」
「ああ、構わないが・・」
秦が皆の顔を見て、
「分かった。 妖精さんにお願いして、描いてもらおう。 ”母に導かれし水雷乙女”として、ね。」
と。
「よろしくだぜ、しれーかん!」
「え? その名前だと、私、ちょっと恥ずかしいですよ・・」
と恥ずかしがる鳳翔が言った。
「そう?」
と返すのは朝霜。
「だってぇ・・ いきなり”母”なんて、ちょっと・・」
モジモジする鳳翔だった。
「じゃあ・・ ”女神”にするのはどう?」
と対案を出すのは皐月だった。
「女神?」
「あ、それいいかも。」
それを聞いて鳳翔が、
「それなら・・・」
と了解したようだ。
「じゃ、決まりね!」
「判った。 ”女神に導かれし水雷乙女たち”だな。」
◇
「ところで! さっきの話だけどさ。 七月にここを離れるのかい?」
そう聞くのは皐月だった。
「ああ。 そうなるな。」
「えぇぇ??」
「それじゃあ、みんな転校?」
と聞くのは睦だ。
「そうだな。 転校だな。 皆も転校の手続きをとるけどね。 四人は、呉で学校に通えたら、だけど。」
「お! あたいはやっと勉強から離れられるぅ!!」
「あ! ズルいぴょん! 勉強から離れるならみんなぴょん? 抜け駆けはダメぴょん!!」
そこへパンパンと手を叩いて、
「はい、そこまで!」
と鳳翔が声をだした。
「学校の件は置いておいて。 一学期が終わると同時にここを離れるから、皆たくさん学んで遊べ。 いいね?」
と言うのは、秦だった。
「やっぱり、皆とは・・・」
改めて聞くのは皐月。
「ああ。 お前たちには悪いが、別れることになる。 それは覚悟しておいてくれ。」
やはりか、みな俯いて黙ってしまった。
沈黙の時間が流れる。
「・・わかったよ、父さん。 みんなと楽しく、残りを過ごすよ。」
と皐月が言ってくれた。
「ああ。 悪いな、お前たち。」
そう秦は言うと、こども達を抱きしめた。
「「「わっ」」」
こども達が声を上げるが、そんなことはお構いなしに、腕を広げて皆を抱きしめる。
「お前たち、みんな、俺の娘だ。 誰がなんと言おうとな。」
その姿を見つめる鳳翔の目に、うっすらと涙が浮かんでいた。
「あったぼうじゃん! それ以外に何があるのさ! ね、皆?」
そう言うのは朝霜だった。
「そうだよ。 みんな家族なんだからね!」
そう言うのは睦だ。
みんな、大きく頷いている。
そうだよ、と。
その輪に鳳翔も加わってきた。
「私も家族ですよ。忘れないでください。」
と。
「ああ。 そうだ。 みんな大事な家族だ。」
秦がそう言って、さらにきつく抱きしめるのだった。
七人家族、皆がにこやかな笑顔だった。
「「「父さん、大好き!」」」
「「お母さん、大好き!!」」
「お前たち、みんな、大好きだぞ!」
「そうですよ。 みんな、大好きですよ。」
笑顔のまま、七人はしばらくそのままで、居間にいたのだった。