Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
一つの目的が水着だったが・・
7月に入ってから、いい天気が続いていた。
この日は学校が終わってから、訓練を休み、七人で買い物に姫路の街へ来ていた。
「おお! あれが世界遺産の姫路城か!」
「真っ白に見えるね。」
大修理を終えて、壁が白さを増していたため、真っ白に見えていた。
駅を出て、大手前通りから望む姫路城。 通称、白鷺城とも言われる、世界遺産に登録されたお城だ。
今日、ここ姫路に来たのは、睦たちの水着を買うためだ。
今度の休日に海水浴に行くために。
スクール水着は、学校指定のものがあり、既に購入済だが、普通に海水浴に行くには、スクール水着では、ちょっと・・・ と相成ったのだが。
最近のスクール水着は、昔と違ってデザインが競泳用に近くなり、生地も競泳用に近く、薄くなっていた。
お店は、駅からお城に向かう通りの中にあった。
この通りには、大小のお店がひしめき合っていた。
その中の大きめのビルに入っていった。
さすがに、夏ともなると水着売り場は拡張されている。
カラフルな柄やデザインの商品が所狭しと並ぶ。
こども達はその中へ突入していく。
「「「わぁあああい!!」」」
「ねぇねぇ、どれにする?」
「あ、これ、可愛いかも?」
「えぇ、やっぱこれだよ!!」
「何言ってんだよ! もっと大胆なのが!」
と、商品を絶賛物色中であった。
「鳳翔も見てきなよ?」
と秦が促すが・・
「え? 私はいいです・・」
「そうは、いかないさ。 七人で行くんだからさ、鳳翔も。」
「は、はい・・・」
頬を赤めながら、おずおずと店内に入っていく。
各人が選んで、試着までしているようだった。
店内に入ってから、かれこれ1時間近く経過したころ、
「私はこれ! 決めた!」
とは睦だ。
「うーちゃんも、きーめた!」
「私はこれにする。」
「ボクは・・・ これだね!」
「ん? 朝霜は?」
「あたいは、決まってるよん!」
「あとは、鳳翔かな?」
「はい・・ 一応、決めました・・・」
どんなのを選んだのだろうか、顔が赤いんだが・・・
ワンピースかな、ビキニかな・・・ と思いつつも、
「それじゃ、支払いっと。」
六人分を購入した秦だが、
「あれ? 父さんのは?」
「俺のは、ちゃんと買ってあるよ。 ホレ。」
「い、いつの間に・・・」
「お前さんたちが、あーでもない、こーでもないって言っている間にね。」
ははは、と笑っていた。
そのあと、売店でおやつになるものを買おう、と秦が言い出した。
「おやつ?」
「ああ。 買ってすぐ食べてもいいけど、持って帰って温めなおせば十分に美味しいから。」
そういってとある売店の前にやってきた。
「姫路でおやつと言えば、これだろうな、やっぱり。」
看板に”御座候”と書いてあった。
「ゴザロウ?」
そう言うのは朝霜だった。
「ははは。 違うよ。 ”ござそうろう”と読むんだよ。」
「「「ゴザソウロウ?」」」
「売ってるのは、これだよ。」
秦がガラスケースに並んでいる商品を指さした。
「あ、大判焼きだ!」
「え? 回転焼きだよ。」
「違うよ。 今川焼だよ。」
いろんな呼び名があるんだよな、これって。
「呼び名はいろいろだけど、同じ商品だからね。」
「「紛らわしい・・」」
そう言うのは朝霜と皐月だった。
「でも、赤と白ってなに?」
「赤は、普通のあんこで、粒あん。 ま、お店によっては漉し餡もあるけど。 白は白あんだよ。」
秦は赤一箱、10ケ入りを買ったのだった。
「帰ってから食べような。」
と。
◇
いくつかお店を廻って、時間は・・・既に陽も暮れて、お腹の虫が鳴く頃合いになっていた。
「ねぇねぇ、しれーかん、あたいお腹空いたよぉ。」
「「「私も-。」」」
朝霜の言葉に反応する睦たちだった。
「そうだな、そんな頃合いか。 だいたいの買い物は終わったのかな?」
買い物の確認を、鳳翔に向いて聞く秦。
「ええ。 粗方終わってますよ。」
買い物袋を手に持った状態で、秦に見せる。
「じゃあ、今日はこっちで食事して帰ろう。 いい?」
【やったあ!】
「いいんですか? 私は帰ってからでも、用意しますけど?」
とちょっと困惑な顔をする鳳翔だったが・・
「たまには、いいんじゃない? そう言う鳳翔もゆっくりできると思うよ。」
そう言って秦たちは、ある駅から10分ほど歩いたお店にやってきた。
「確か・・・ あ、あったあった。 ここだ。」
「父さん、ここは?」
と聞くのは睦だった。
「ここは、昔、来たことがあるお店でね。 骨付鶏のお店なんだけど。」
「「「ホネツキドリ?」」」
なんのこっちゃ的は声を上げるこども達。
「ああ。 本店は四国・丸亀にあってね。 ここには何年か前に来て以来かな。」
ガラリと扉を開けてお店に入っていく。
店に入ると、香辛料の何とも言えない匂いが充満していた。
「わあ。 すごい匂い。」
「なんか、よだれが出る匂いだね。」
「いい匂いだろ?」
ちょうど、8人用の個室が空いているとの事だったので、そこを使わせてもらう事にした。
「ここは、これ、鶏しかないからね。」
と秦がメニューを見ながら話をする。
「へぇー。 ねぇ、”ひなどり””おやどり”ってなに?」
「”ひなどり””おやどり”は鶏の成長時期によって分かれてるんだよ。 若い鶏は”ひなどり”、大人な鶏は”おやどり”って言う感じかな。」
「ふーーん。 でも、ご飯系もあるよ?」
「鶏飯とお結びだね。 みんな鶏が混ざってるから。 でも、美味しいぞ。」
「ほーーん。」
そんなみんなを横目に秦が注文をしていた。
「初めてだろうから、ひなどりとお結びを人数分で。」
と。
「え? それだけ?」
「ん、来たらわかるよ。」
と含み笑いで答える秦だった。
「でも、その前に、なに、コレ?」
皐月が指を差して言ったのは、いわゆるお冷。 ま、水だね。
「ん? これは、言わずと知れたお冷だけど?」
「そうじゃないよ。 なんなのさ、この大きさ。」
そう。
このお店で出されるお冷は、ジョッキで来ていた。
「普通、こんなに要らないでしょ?」
「ははは。 普通ならそうだな。 でも、あとでわかるよ。」
と笑っている秦だった。
10分程待たされて、テーブルに料理がやってきた。
近づくにつれ、スパイシーな匂いが近づく。
「おお!! これが骨付鶏?」
「そうだよ。」
一人につきでっかい鶏ももが1本。
金属のお皿の上で、鶏肉がジューーっと言ってる。
香辛料で鶏肉の表面が覆われている。
匂いは・・ スパイシーだ。 それも、すっごいスパイシーな匂い!!
お皿の上は、鶏の油でいっぱいだ。
みんな、料理を見て固まっていた。
「こうやって食べるんだよ。」
と秦が見本を見せた。
もも肉を手で持って、直接、ガブリ!と喰らいついた。
肉を持った手は・・ アルミホイルで包まれているとはいえ、油と香辛料で、ギトギトになっていた。
「ん! 旨い。 久しぶりに食うと旨いなあ。」
おしぼりは、ちょっと大きめのタオルだ。
このタオルで手の油を拭いていくのだが。
それを見て、みなもかぶりついていた。
「! スパイシー!!」
「結構、味が濃いね。 でも、ウマ!」
「思ったより、香辛料が効いてますね。 これは病み付きになる味ですねぇ。」
とは鳳翔だが、鳳翔も口元は油と香辛料がべったりと付いていた。
おしぼりで拭いて、なおもかぶりついていた。
「このお肉、思ったより柔らかいね。」
「んー、これは喉が渇くよー。」
と言いながら水を飲む。
ジョッキで来ていたお冷。
みなガブ飲みだ。
「ん、なるほど。 これならジョッキは必要だね!」
そう皐月が言っていたが、それを見ていた秦は、微笑んでいた。
(良かった、とりあえずは、口に合ったようだ。)
みな食べる事に夢中で、言葉を発しない。
そのうち、みな、鶏もも肉を骨だけの状態にしてしまった。
「「あー、ウマかった!」」
「うーん、唇がシビれる~。」
そう言いながら、お結びに手を伸ばす。
「このお結びも、鶏、だね?」
「ああ、そうだよ。 鶏肉が入ってるし、鶏の出汁でご飯を炊いてるからね。」
そう言って、そうそう、と続きを話す。
「お結びは、この油を付けて食べると、また違って美味しいぞ。」
「そうなの?」
と言って、皐月が試すと・・・
「ホントだ! 鶏を感じる! これもウマ!」
そのうちに、
「ねぇ、おやどり?だっけ? どうなの?」
「おやどりは、歯ごたえが違うよ。 味付けは、まぁ、同じだからね。」
「じゃあ、ちょっと食べてみたいなぁ」
と睦。
「あの一本で来るのは、ちょっときついけど、何人かで一皿なら食べられるよね?」
とみんなに聞く。
すると、うん!だって。
じゃあ、と言うわけでは無いが、秦はおやどりを3皿追加注文した。
料理が届くと、身をほぐして、いくつかに切り分けた。
切り分けたお肉を頬張っていくこども達・・・。
「! ホントだ。 歯ごたえが違う。」
「アタイは、やっぱり、ひなどりの方がいいかな? ちょっと歯ごたえ?よりちょっと硬いかな。」
「鶏の油は・・ おやどりの方が多いでしょうか。」
と分析する鳳翔だ。
追加注文の3皿も平らげた七人だった。
「あーー、食べた食べた。」
「スッパイシーだけど、旨かったね。」
「鳳翔はどうだった?」
「はい。 美味しかったですね。 でも、あれは家ではできないですね。 すっごい匂いですから。 それに・・・ 」
手のひらを見せて、
「こびりついたこの匂い。 これはかなりきついですし、なかなか落ちないと思いますよ?」
と。
「ははは。 そうだよね。 これは家ではやめとこうか。」
そう言って皆で笑った。
◇
その日はお店からまっすぐ警備部へと帰って来た。
手についた匂いと油がなかなか取れなかったので、そのままお風呂に入って、落とすことにした。
帰り着いて、お風呂を沸かした。
沸くまでの間、居間で7人が寛いで・・・ というより、ダラーンとしていた。
何しろ、帰り着いた時点で2200を過ぎていたから、眠くてたまらん! と、こども達は言って居間の畳に寝っ転がってしまったのだ。
まずは、元気がある秦が先にお風呂に入った。
しばらくして、そこへ・・
ガラリと扉が開くと、睦が立っていた。 タオルで隠すこともなく、だ。
「いっしょにはいろ。」
と。
「おわっ!」
と驚いた秦だった。
そんな秦を気にせず、掛け湯をして湯船に入ってきた。
「お邪魔するね。 んーー、あったかあい。」
と言って、秦の隣に入ってきたのだった。
並んで湯船に浸かっている・・
「そういえば、睦と一緒に入るのは・・・久しぶりだな。」
「そうだよ・・」
といつもの元気な声ではなく、なにか沈んだような声だった。
「睦・・ どうした? なんか悪いことしたかな?」
「ん? うん・・ そうじゃないよ。 まあ、毎日楽しくて、賑やかで、さ。 でも・・・」
少し間が開いた。
そして、睦が、秦にもたれてきた。 頭を秦の胸に寄せて・・。
「楽しいのはいいんだけど・・ 父さんに甘えられない、独り占めできないよ・・」
「・・そうか。 それは、悪かったな・・ ごめんな・・」
そう言って睦を抱き寄せた。
睦の身体は、秦よりもかなり小さい。
ものすごく華奢な体つきだった。
「そうだよ・・ もっと構ってよ・・」
睦の目には、うっすらと涙が・・。
「せっかく、父さんの娘になったのに、甘えさせてもらってないよ・・」
そうか、と言って睦を抱きしめる秦だった。
「睦は、俺や鳳翔の言いたいことを、すぐ理解してくれるから、俺たちはお前に甘えてたんだな。」
まだまだこども、だと思っていた。
それでも、良く気が付く子とも思っていた。
「睦だけに構うのは難しいけど、その時は思いっきり甘えていいぞ。 なんせ、お前は俺の娘だからな。」
「うん。」
そう言って秦の胸に顔を埋めていた。
身体を洗い、頭も洗って、再び湯船に浸かっていた。 秦の隣に。
そして・・
「父さん、大好きだよ。」
そう言って、先にお風呂から上がって行った睦だった。
残された秦は、湯船の縁に座って入口を見ていた。
ここのお風呂は・・半露天風呂の形になっている。 湯船から空が見えるのだが、秦は縁に座って星空を眺めていた。
(みんなを平等に愛せれば、いいんだが・・・)
暫く湯船に浸かっていたが、秦もお風呂から上がることにした。
寝間着に着替え、居間に入ると、まだこども達が鳳翔を膝枕に転がっていた。
「あ、あなた。 お帰りなさい。」
「ああ。 睦は?」
「はい、もう部屋に行きましたよ。」
「そうか・・・」
そして・・
「おきろ! 風呂だぞ!!」
と転がっているこども達に声を掛けて、みなを風呂に入れていく。
「んーー、眠いぴょん・・・」
「さあ、お風呂に入ったら、布団で寝ていいぞ。」
と、一種の餌で釣っていく。
「「「ふわああああい・・」」」
と渋々なのか、だらだらなのか、なんとか朝霜、皐月、卯月、弥生をお風呂に放り込んだ。
「まったく。」
と呆れ顔の秦であった。
「フフフ、お疲れ様です。」
「鳳翔もお風呂、入ってよ?」
「はい。 後で頂きます。 ところで・・・」
「ん?」
「何か、お風呂で何かあったんですか?」
「なんで?」
「睦ちゃんが、暗い顔をして部屋へ行きましたから、何かあったのかなって・・」
「何もな・い・・ いや、お前さんには言っておこうか・・・。」
秦がいったん、目を瞑って話した。
「もっと甘えたい、もっと構って、って言われたんだ・・ 睦に・・」
「え・・」
「もちろん、俺としては蔑ろにしているつもりはないけど・・ 睦はそうは思ってなかった、ってことかな。」
「そんなことは・・・」
「ああ。 睦もそれは分かっているんだ。 ただ・・」
「もっと自分に構って欲しいと・・」
「うん。」
「あなた・・」
悲しそうな顔をして秦をみている鳳翔。
「そんな悲しい顔をしないでくれ。 やっぱり、睦は俺に、俺たちに、気を遣ってくれていたんだ。 あの子は、気が利いて頭もいいから、俺たちが思っていることを察していたんだろうな。」
「・・・」
「父親として、落第点なのかな・・ ハハハハ・・・」
その笑いは、完全に乾いた笑いだった。
「そ、そんなこと、ありません! あなたは、十分に父親出来ていますよ。 私が保証します。 ですから・・・」
「ありがとう、鳳翔。」
その時、朝霜らがお風呂から上がってきて、
「眠いから、もう寝るね・・・・」
と言って4人は部屋へと入っていった。
「さあ、鳳翔もお風呂。」
「ええ。 じゃあ、頂きますね。」
そう言って、何か言いたそうな顔をしていたが、その思いを伏せたまま、お風呂へと入っていった。
居間で一人、残された秦だったが・・・
ふと、人の気配を感じて振り向くと、入り口に睦が立っていた。
「どうした? 眠れないのか?」
「うん・・」
その場で立ったままの睦に、秦が声を掛ける。
「立ってないで、こっちへおいで。 ここへ来て。」
扉を閉めて、睦が秦の傍まで来て・・
秦の胡座の上に座った。
「ここ・・ いいでしょ?」
「ああ。」
「あったかい・・・」
胡座の上で、秦に身体を預けて猫のように丸くなる睦。
「そうか・・ 睦・・・ 寂しくさせてごめんな。 こんな父親で。」
「うううん、そんなことない。 父さんは十分、父さんしてるよ。 我が儘なんだ、私。 だから・・ たまには、もっと甘えたい・・・ こんなふうに・・」
「そうか。 なら、皆がうらやむくらいに、甘えていいんだぞ。 俺は、受け止めるから・・・。 な?」
「うん。 そうさせて貰うよ。 お父さん・・」
秦の胸に顔を埋めたまま、そう言った。
そんな睦を優しく抱きしめた。
暫く、秦の胡坐の上にいた睦だったが、秦が気がつくと、軽い寝息をしていた。
秦の腕の中で、安心したかのように。
(大好きだよ、睦・・・ )
そう言って、そうっと抱きしめる秦だった。
暫くして鳳翔が帰ってきた。
髪を下ろし、湯上がりでやってきた。
「あら、あなた。 睦ちゃんが・・・・」
しーっと指を口の前に立てた。
「ん。 寝ちゃったよ。」
と小声で。
鳳翔が秦の傍に来て、秦の前に膝をついた。
「やっぱり、甘えたいんですね。 こんなに丸くなって。」
そう言って睦の頭を優しく撫でていた。
何度か撫でた時、睦の上から鳳翔も秦に抱きついてきた。
「私も、睦ちゃんのお母さんなんだから、甘えていいのよ。」
と。
さらに、
「睦ちゃんは、あなたと私の、娘、ですからね。」
そう言うと秦の顔を、にこりとして見あげた。
秦は、その笑顔にたまらず、鳳翔の唇を塞いだ。
二人の口づけの音だけが小さく響く・・
唇が離れ、二人が見あう。
「お願いがあるんだけど・・・」
「はい。 いいですよ。」
秦が最後まで言わなかったが、鳳翔は分かったようだった。
「今日は、三人で寝ましょ。」
「ああ。 すまない。」
「何言ってるんですか。 私たちは夫婦で、親子ですよ。」
そう微笑んだ。
秦が眠る睦を抱きあげ、寝室へと入っていった。
傍らには鳳翔が付き添って。
睦をベッドの真ん中に寝かせ、睦の右に秦、左に鳳翔が入った。
そして・・・
「「おやすみ。」」
と。
三人の心地よさそうな寝息が聞こえだした。
そして、次の日を迎えるのだった。
水着を買ったら、やっぱり、着ないと。
次は、みんなで海水浴。