Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
この日、こども達が学校へ行ったあと、秦と鳳翔は飛行艇に乗って東へと向かっていた。
「すまないね、急に横須賀に行くことになって。」
「いえ。 秘書艦としては、提督に付き添うのが当然ですから、気になさらないでください。」
はは、と秦が苦笑いをする。
この飛行艇には、操縦室の搭乗員以外の客は、秦と鳳翔の二人だけだった。
「まあ、二人だけの、小旅行、とも言えなくもないか。」
「そういう見方もありますね。 ウフフフ。」
そう言うと二人して頬を赤めていた。
今日の目的地は、横須賀鎮守府。
その目的は、辞令の内示を受けるため。
いよいよ、相生での艦隊整備が終わりを迎える。
その後の秦の、いや、秦たちの行き先が正式に伝えられるのだ。
「今日の予定はどうなりますか?」
「ああ。 このまま横須賀にはあと2時間弱で着くな。 その後、内示を受けて、そのままとんぼ返りだね。」
「では、帰り着くのは・・」
「早くても1500くらいかな。 睦達には、日帰り、と言ってあるから、夕方までには帰らないといけないなぁ。」
「そうですね。 じゃぁ・・ それまでは・・」
そういうと、鳳翔が秦の肩にもたれてきた。
「ふふふ。 あ な た。」
最近よく甘えるようになった鳳翔だった。
「”ていとく~”、じゃないのか? それに、もう襷をハズしてもいいぞ。」
「え? いいのですか?」
「ああ。 久しぶりに、襷掛けをしていない鳳翔も見てみたいなぁ、なんてね。」
もう、と頬を膨らませる鳳翔だった。
襷をハズして、また秦にもたれ掛かる鳳翔だった。
そんな二人の乗客を乗せた飛行艇は安定飛行に移っていった。
その飛行艇を追うように姫路の飛行場から護衛戦闘機が飛び上がってきた。
空母・鳳翔の艦上戦闘機の1小隊4機の烈風だった。
胴体下に増槽を抱えていた。
飛行艇が相生湾を離水して約90分。
秦と鳳翔を乗せた飛行艇は、三浦半島は横須賀鎮守府の港に着水した。
港外に着水して、桟橋まで滑走してきた。
桟橋に着くと、秦と鳳翔が降り立った。
約半年ぶりに、横須賀の地を踏む二人であった。
出撃や演習に出ているのだろう。
停泊している艦船は少なかった。
鎮守府に着くと、早速、執務室へと向かった。
◇
ドアをノックし、室内に入る二人。
「楠木准将、および秘書艦鳳翔、ただいま到着致しました。」
「おお。 やっと来たか! 入ってくれ。 久しいの。」
「はい。 久方ぶりであります。 秋吉中将。」
提督席の脇に立つ女性、赤城が口を開く。
「お母様もお元気そうで、何よりです。」
「赤城ちゃんも、ね。」
挨拶もそこそこに、
「では、異動の内示を伝える。」
「ハッ。」
秦と鳳翔が直立不動の姿勢を取る。
咳払いを一つして、
「楠木准将、来る七月二十日付を以て、横須賀鎮守府直属を解き、呉鎮守府提督を命ず。」
「はい。 謹んで拝命致します。」
「なお、貴殿の秘書艦、および所属艦艇も同様に、呉鎮守府所属とする。」
「はい。」
「以上だ。 これで貴様も鎮守府持ちとなるわけだが、どうだ?」
「どう、と言われましても、やることは変わりませんからね。」
「ま、そうだがな。 現在、呉には、臨時で春から大佐が提督代理をしている。 名を大石と言う。 彼も貴様の配下となる。 これが彼の辞令だ。 一緒に持って行ってくれ。」
「は。 了解致しました。」
「それとは別に・・」
と言って、そこそこ分厚い書類を引き出しから出して、机の上にドカッと置いた。
「中将、それは?」
「これは、おおかた半年前までの呉の内部調査の結果の資料だ。 もちろん、現状とは多少違うとは思うがな。 調べたのは、憲兵の井藤本部長のチームだ。」
あ、と思った。
「昨年、貴様がここに来てから、極秘裏に呉の調査を依頼していたんだ。 その結果が、この資料だ。 見てみるがいい。」
報告書を手に取り、大まかに、ざあっと見てみると、前提督は、かなり無茶をしていたようだった。
特に、逃亡し連れ戻された艦娘は、一人二人ではなく、相当数が書き込まれていた。
もちろん、鳳翔もそのうちの一人だったが。
「なんですか、この数字は。 逃亡の件は知ってはいましたが・・ ここまでとは。 それに、非人道的行為も、ですか・・」
まともな運営ではない、と直ぐに理解した秦が声を上げる。
パワハラを通り越して暴力行為と誰もが判る内容だった。
「驚いただろ? 最初に見たときは、目を疑った。 まったく、酷いものだとね。 皆、よく耐えていたものだと感心すらする。」
「では・・ 私の役目は・・」
「察しの通り、このおかしな状況を無くすため。 これが第一となる。 もっとも、敵との戦闘をしながら、になるのだがな。」
「となると・・、いま派遣されている大石大佐は・・」
「とりあえず、現状維持が目的だった。 もっとも、先任だった提督とはやり方が違うから、それだけでも改善されていると思ってくれればいい。」
ハァ・・と溜息をつく秦だった。
「やることは分かりました。 運営を正常に戻す、と。」
「そう言う事だ。 大石大佐とともにな。」
「了解しましたが・・ 重そうな課題ですね。 先が思いやられます。」
と溜息をつきながら報告書を鳳翔に見せた。
報告書を見た鳳翔も、
「・・ある意味、当事者でしたが、私も知らない事が書かれていますね。」
と。
井藤本部長が本気を出したら、白も黒になるんじゃないか、と思うほどに、報告書には事細かに書かれていた。
「これを元にするなら、大ごとですね。 でも、どうするんですか、提督?」
鳳翔が秦に聞く。
「とにかく、その大石大佐とやらに、現状を聞いてからになるだろうな。 どれだけ変わったか、によるだろうからね。」
一拍の間をあけて、
「艦娘たちのケアは、鳳翔、君に頼ることが多くなると思うよ。」
「え? でも・・」
口籠る鳳翔だった。
自身も前任提督から逃げ出してきた身であることを、まだ気にいていたのだった。
「君が、率直に向き合ってくれるだけでも、相手が受ける影響は違うと思うよ。 何しろ、俺とケッコンまでしたんだから。」
はぁ、と頷いたようにも見えた。
「ともかく、呉の運営は、貴様に任せたぞ。」
「はい。」
「で、だ。 楠木よ・・」
「なんでしょう。」
「・・やはり、貴様は、後の事を考えているのか?」
「はい。 そのつもりです。 今回、大石大佐が居るのは、私にとって天佑かと思っております。」
「その考えは、変らんのじゃな?」
「はい。 変わりません。」
「そうか。 分かった。 だが、その時までには、ワシにはちゃああんと教えてくれるんだろうな?」
ん? と疑いの目を秦に向ける秋吉だった。
「えぇーっと、そのつもり、ですが。」
「ホントか?」
「は、はい、 ほ、ホントですよ。」
ちょっとばかり、シドロモドロする秦だ。
「もう、提督ったら。 そんなに楠木提督をいじめないでください。 ホラ、困ってらっしゃいますよ?」
そう助け船を出してくれるのは赤城だった。
その顔は・・呆れている顔だった。
「提督は、相手が楠木提督だと、ホントに、いじめますよね?」
と赤城が聞いた。
「そうですね。 それは私も聞いてみたいと思っていました。 昔に、何か悪い事でもしたんですか? それとも何か弱みでも握られているとか?」
追い打ちを掛ける鳳翔だった。
うっ、と言葉に詰まる秦だったが、
「うー、詳しくは、中将に聞いてくれないかなぁ・・」
「あ? それをワシに振るか。」
「そりゃぁ、振りますよ。 何しろ、私には身に覚えのない事ですからね。」
と、手を腰に当てて、溜息をついていた。
「どういうことですか? 余計に怪しいですけど。」
と鳳翔が聞く。
秦の目が、ジーッと秋吉を見ている・・。
「まぁ、言うとだな・・ ワシが士官学校の教官をしていた頃に、楠木が新人として入ってきたんだ。 周りからちょっと浮いた感じのする奴が居るなぁ、何か可愛げのないヤツだなぁ、とは思っていたんだ。
確か、洋上実習だったか。 実習中に機関の不調から事故が起こってしまってな。 初期対応が不味くて火災を起こしてしまったんだ。
新入生らは、おろおろするばかりだったんじゃが、こやつだけは、嬉々として先頭に立って、対処し始めたんだ。
普通は、事故に驚いて、足が竦むもんだと思うんだが、こ奴は事故発生と同時に、笑ってやがるんだ。
なんだ、こいつ! とも思ったんだが、その対処が、ワシの予想を超えていてな。 早いわ、的確だわ、教官のワシの出る幕が無くてな。
それから楠木に目を掛けるようになったんだが、問題はそのあとでな。 どうも、緊急時の対応はいいものの、普通の座学はいまいちでな。
その辺を指導しようとしたら、”別にいいじゃないですか。出来ないわけじゃ、ないんですから。”と平然と言いおってな。
ワシも呆れるしかなかった。 それからかのう。 こやつをいじる様になったのは。 いじっても、いじっても、平然とこなすこやつが面白くてな。」
「それからは、ずっと、いじめられているのさ。」
フフフっと笑っていた鳳翔と赤城だったが、そのうちお腹を抱えて笑い出した。
「くくっ。 分かる気がします。 あなたらしいです。 アハハハッ」
「まぁ、だから、上官の中には、嫌う奴もいたしな。」
「はい。 損な性分だとも思っていますが、変えられませんから、仕方がないと割り切っています。 ってか、みな笑い過ぎ!」
「ご、ごめんなさい。 あまりにも、しょーがないなあって。」
鳳翔と赤城が笑いあう。
腹を抱えて・・。
「まったく。 赤城も笑い過ぎでしょ? 鳳翔、お前さんも。 そんなに、腹を抱えるほどの事かい?」
呆れて笑う二人を見る秦。
「中将も、良く覚えてますね。 昔の事ですよ?」
「ワシにとって、貴様は特別記憶に残るヤツだったからな。 まだまだ忘れられんわ。」
四人の中で唯一、秦だけが肩を落とし、暗い顔をしていた。
「で! 今日のお話しは以上でしょうか。」
いつまでもいじられる空気が終わら無さそうだったので、無理に話を戻した。
「あ、ああ。 以上だ。 では、楠木、よろしく頼むぞ。」
「では。 失礼いたします。」
その足で帰路に着こうとしたが、時間的に、やはりお腹が減る。 もう昼食時を過ぎていたのだ。
二人で、久しぶりに間宮食堂で昼食を摂った。
「やぁ、ここも久しぶりだなぁ。」
「はい。 そうですね。 フフフ。」
「ん? どうした?」
「いえ、一瞬、おじさん臭いって思っちゃいましたよ、あなた。 気を付けてくださいね?」
「え? そうなの? う~、気を付けるよ。」
「あら、提督と鳳翔さん。 お久しぶりですね。」
「ええ。 こんにちは。 間宮さん。」
「今日は何用ですか?」
「ええ。 内示を受けに。 それと久しぶりに間宮さんのご飯を、と二人して来ましたよ。」
「まぁ、うれしいことを。 鳳翔さんがいらっしゃるのに、ありがとうございます。 内示ということは、ようやく?」
「えぇ。 その予定です。 ところで・・今日は・・ 誰もいないんですね?」
「ええ。 今日は遠征とこの間の出撃でかなり被害を受けたみたいでみんなドックで修理やら、で、朝から居ないんですよ。」
「そうなんだ。 じゃぁ、三人でお昼ご飯といきますか。」
「あら、夫婦仲睦まじくのところにお邪魔しても?」
「いいですよ。 お食事は多いほうが楽しいですし。 ね、あなた。」
「ええ。」
そういって三人でおしゃべりをしながらお昼ご飯を食べたのだった。
食事後、すぐ帰路に着いた。
港を離水した飛行艇は西を目指す。
それを追うように護衛の烈風が追随してきた。
帰りの機内でも鳳翔は”甘えたさん”モード全開だった。
秦に寄り添っているならまだいい方だ。
顔を秦の胸に埋め、腕をからめて、ニッコリとして、ふふふーん♪と、上機嫌であった。
最初は、しょうがない奴め、と思った秦だったが、あまりに抱き着いてくるので、鳳翔を抱えて、自分の膝の上に横向きで座らせた。
「きゃ」
「この方がいいんじゃない?」
頬を赤める秦だが、鳳翔はそれ以上に赤かった。
「じゃぁ、着くまでこのままで・・」
両手を秦の首に回して、顔を見上げていた。
それに気づいた秦が顔を寄せる。
口付け・・は無かったが、頬をあわせて、
「ああ。 このまま・・」
と。
それ以上の言葉は無かった。
いや、必要なかった。
二人は、ホントに着くまでの間、ずっとそのままだった。
会合の内容は、複雑さがのこるものの、今の二人の頭には入ってなかった。