Family of Seven ~ハズされ者の幸せ2~ 作:鶉野千歳
仲間が増えていき、楽しく過ごせるのかな??
0600。
夏の朝の太陽は既に昇っていた。
窓から差し込む日差しで目が覚めた秦。
いつもは一緒に眠る鳳翔の方が起き出すのが早いのだが、今日は、秦の方が早かった。
ベッドには、秦に抱き着いたままの鳳翔がいた。
寝息が、こそばゆい。
暫くの間、空いている方の手で髪を鋤いていた。
(よく眠ってる・・)
見えるその寝顔は、満足そうな顔をしていた。
う、うぅぅーーんん・・
と寝返りを打ったかと思うと、うっすらと目があいた。
二人の視線が重なる。
「あ、おはようございます。 あなた。」
「おはよう。 よく眠れた?」
「はい・・ あなたを、充分に感じることができて。」
そう言って秦の胸に赤い頬の顔を摺り寄せていた。
司令官室の大きくは無いベッドで抱き合う二人だった。
二人はしばらく、そうやっていたが・・
「さて、そろそろ起きるか。」
「はい。」
と起き出した。
身支度をして、甲板にでた二人。
朝日を見ながら、伸びをする秦。
ふっ、ううううーーん・・
「いい天気だな。」
「ええ。 気持ちのいい朝ですね。」
「今日から忙しくなるな。 改めて、よろしくね。 鳳翔。」
「はい。 よろしくお願いします。 あなた。」
朝の空気を堪能した二人が食堂に降りていく。
食堂に入ると、既に五人が起きて座っていた。
「おっはよー。 父さん、お母さん。」
「しれーかん、おっそーーい!!」
「早く! あ さ ご は ん!!」
「ごめんごめん。 遅くなったな・・ て、どうしたんだ、その恰好・・」
「なに?」
「なにって、そのセーラー服だよ。 学校のだろ? それぞれの服は、どうしたんだ?」
「いやぁ、なんか、こっちの方が着慣れちゃって。」
「まぁ、いいけどさ・・」
「それより、お腹すいた。 ご飯にしようよ。」
「あら、ごめんなさい。 朝ご飯ね。」
料理長の作った朝ご飯を頬張る。
スクランブルエッグ、焼きたてのパン、良く焼いたベーコン、そして、野菜のスープ。
飲み物は、珈琲か、紅茶だった。
秦は、珈琲も飲むが、どちらかと言えば紅茶派だ。
茶葉の香りが”好き”なのだそうだ。
こども達は、カフェオレの方が好きなんだと。
珍しく艦内で七人の朝食風景となった。
みなが、へへへへ、ふふふふ、と笑う。
まさに”家族”の食事風景だった。
朝食後、しばらくの空き時間のあと、七人が内火艇の前に集まった。
時刻は0800。
「さあ、行こうか。」
そう号令を掛けて、内火艇に乗り込んでいく。
七人が乗り込むと呉港・鎮守府の桟橋を目指して内火艇が動き出した。
波の静かな港に、艇が起こす白い波が後ろへと続く。
◇
「昨日はあんまり気にしなかったけど、結構な数の艦が居るんだね。」
そう言ったのは睦だった。
港内の広い範囲に渡って、艦船が停泊していた。
内火艇は、停泊している艦の間を進む。
駆逐艦は何隻かが寄り添って停泊しているようだった。
大型の艦は単独で錨を下している。
長門、陸奥、大和、武蔵などの戦艦、飛龍、蒼龍などの空母などなど。
目的の桟橋に近づくと、速度を落とし、ゆーっくりと接岸する。
秦を先頭に七人が上陸すると、陸には大石大佐と五十鈴が待っていた。
「おはようございます。 提督、お待ちしておりました。」
「おはよう、大石大佐。 まさか、出迎え?」
「はい。」
「そこまで気を使ってくれる必要はないのに。 でも、ありがとう。」
「ホラ。 言ったとおりでしょ。」
そう言ったのは五十鈴だった。
秦の頭の上に”?”が付いた。
「あ、いえ、その・・ 岸壁で待とう、と言い出したのは五十鈴でして・・・」
「そうか。 大佐、既に尻に敷かれてるな?」
そう言って、はははと笑う秦だった。
時刻は0830になって、秦、鳳翔、大石、五十鈴が執務室に到着した。
こども達は、食堂や休憩室に向かっていった。
秦が席につき、持って来た鞄から書類を出して・・
「では、大石大佐、君に辞令だ。」
「ハッ。」
「大石大佐、呉鎮守府副提督として、楠木の補佐を命じる。 以上だ。 以後、よろしく頼むよ。」
「了解いたしました。 こちらこそ、改めてよろしくお願いいたします。」
大石が敬礼で返す。
「で、大石大佐の秘書艦は、現状でいいね?」
「はい。 このままで、お願いいたします。」
「了解した。」
「大佐、五十鈴さん、よろしくお願いしますね。」
と言ったのは鳳翔だった。 ニコリと微笑みながら。
その表情に、大石の頬が赤くなる。
(あぁ・・ 大人な女性だ・・ まさしく、母の微笑みだなぁ・・)
その瞬間、ガッと音がして・・
「いってぇ!!」
と足を抱えて痛がるのは大石大佐だった。
「フンッ!」
五十鈴が、腕を組んで横を向いていた。
「な、なんだよ! 五十鈴、痛いだろ!」
「鼻の下伸ばしちゃってからに! あたしと言うものが居ながら、なによ!」
「ちがうわ!」
「何が違うのよ! 鳳翔さんを見て、鼻の下伸ばしてたくせに!」
「だから違うって!」
「どう違うのよ!」
「ただ、母みたいな柔和な微笑みだなって思っただけじゃないか!」
そう言われて、鳳翔も赤くなる。
「ホントにぃ? 怪しいわねぇ・・」
「これこれ。 痴話喧嘩はそれくらいにしないか。」
呆れる秦だった。
「五十鈴、大丈夫だよ。 鳳翔は誰にも譲らないから。」
「あら! 提督も恥ずかしいこと言わないでください。」
そう言ってみな、頬を赤めていた。
秦が咳払いをした。
「んんっ。 では、仕事を始めようか。」
「はっ。」
「手始めにだな・・ 執務室なんだが・・ 大石大佐、君の執務デスクは、ここに置いても構わないかい?」
は?
「ここに、ですか? いえ、私は隣室におりますが。」
「隣? じゃぁ、壁を破ろうか。」
はい?
「”はい?”、じゃない。 君には私の仕事をやってもらうんだから、同じ部屋でないとね。 だから、この部屋を大きくして、お互いの秘書艦も含めて四人部屋ってことだ。」
「ええ~。」
とは五十鈴。
「なんだい、五十鈴? そんなに大石大佐との二人部屋がいいのかい?」
と五十鈴をちゃかしてみた秦だったが、
「ち、違いますっ!」
頬を赤くして、大声で否定する五十鈴だ。
「そうかぁ。 違うんだったら、壁を破るね。 鳳翔もいいだろ?」
「はい。 提督の思うとおりにしてくださって結構ですよ。」
(さすが、大人の対応だ・・・ それに引き換え、五十鈴はまだまだ、だな。)
と改めて思う大石大佐だった。
「では、妖精さんにお願いしておこう。」
執務室の改造はその日のうちに行われたのだった。
提督の秦、秘書艦の鳳翔と、副提督の大石大佐、その秘書艦の五十鈴の四人が一部屋で執務を行う事になった。
◇
午後、秦たち七人は、新たな”家”となる官舎を見に来ていた。
「へぇー、ここが官舎?」
「そのようだな。」
呉鎮守府の本館からほんの少し離れたところに、その建物はあった。
敷地は、鎮守府の中にある。
港を見下ろすように、やや高台の場所だ。
官舎は、書斎、居間、大広間、ダイニングルーム、キッチンなど水回りが1階、寝室は2階だった。
書斎と言っても、簡単な執務が出来るほどに広い。
家政婦さんが何人かいたらしいが。
「畳敷きの部屋は無いんだね。」
2階には、主寝室が一つ。 クローゼット、続部屋付きだった。
あとは、家人用なのか客用なのかは不明な寝室が4つあった。
問題は、こども達五人の扱いだった。
睦はいいとして、あとの朝霜、皐月、卯月、弥生の四人をどうするか・・・
本来は、というべきか、艦娘寮に入るのが一般的なのだが、五人は、
「今までと一緒がいい!」
と言って、五人の眼が秦をじっと見つめている。
結局、
「ま、いっか。 何とかなるだろ。」
と言ったものの、ちょっと心配な秦だった。
ただ、一部屋に五人は狭いので、二部屋の壁をぶち抜いて一部屋にすることにした。
柱の関係もあって、幅一間ほどの通路を壁に作る事になった。
一方を寝室にして、2段ベッドを三台置いた。
もう一方に机や鏡を用意した。
床にはコルク地のマット、カーペットを敷いて、寝そべれる様にした。
それでも相生の時より、広さはほぼ倍になった。
「やた! これでいままで通りだね。」
「みんな、また一緒だよ。」
と笑い合っていた。
カーペットには、犬や猫の柄をしたクッションが置かれた。
元々クッションは無かったのだが、卯月が欲しがったので、買っておいたものだった。
全員の部屋割りが終わって、各自の荷物の整理に掛かった。
鳳翔はキッチン廻りや洗濯場などを。
秦が主寝室と書斎の整理だった。
相生時代に購入した、鳳翔の鏡台や桐箪笥もだ。
秦用の箪笥も。
こども達も各人の荷物を整理した。
各人の着替え、本などなど。
鳳翔手製の浴衣に小袖もちゃんと持って来ていて、こども達用の桐箪笥も運び入れた。
残った荷物は空き部屋に押し込んだ。
整理が終わってダイニングルームにやってきた秦。
「ふぅー。 やっと終わったかな。 桐箪笥も運んでおいたし、っと。」
「あ、ありがとうございます。 重かったでしょ?」
「そうでもないさ。」
とにこやかに答える秦だった。
「こっちも終わったよ。」
「整理整頓、ばっちり。」
とみんなダイニングルームにやってきた。
「お疲れ様。 さあ、お茶にしましょ。 冷たいお茶ですよ。」
【はぁーーい】
椅子に座って、冷たいお茶の飲む。
ゴクっと。
「あー、おいしい。」
「お母さん、おかわり!」
「はいはい。 はい、どうぞ。」
「わーい。」
「鳳翔も休んでよ。」
はい、と言って秦の隣に座った。
「今日からここでの生活だな。」
「お台所も広いですし、良い食器ばかりですしね。 お料理のしがいがあります。 あ、お風呂も大きかったですよ?」
「え? そうなの?」
「じゃぁ、みんなで入るかい?」
と言うのは朝霜だった。
「もう、朝霜ちゃんってばぁ・・」
「なにさ。 あたいはしれーかんと一緒に入るならいいぜ。」
ゴン!
「イッテェ!」
「お前は、もっと慎みっちゅうのを身につけなさい!」
「そうだよ。 ちょっとは恥ずかしがりなよ?」
「いいじゃん! 減るもんじゃなし・・」
鳳翔の冷たい視線が・・朝霜を見つめていた。
「もう。 そんなことばっかりじゃない、あなたは・・。」
「あ、い、いや、そんなことは無いし。 お母さんとはちゃんと一緒に入るし!」
「それは、それです!」
「やぁーーい、怒られたー。」
と茶化す皐月だった。
「ぶー! みんな、酷いよ? 冗談じゃん!」
頬を膨らませる朝霜をみて、みんなで笑った。
ここ呉でも、相生と同じく、七人での生活が始まったのだった。